IS x アギト 目覚める魂 11: 貴公士と黒兎
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「ふう・・・・・」

 

午前六時近く。一夏はサンドバッグで蹴りの練習をしていた。

 

(やっぱ踵落としじゃ簡単に避けられちまうんだよな、普通・・・・やるとするなら回し蹴り、とか膝蹴りかな?あ、でも噛み付きとか、クロー、後フィーラーの攻撃で大抵どうにかなってるし。でもなあ、極力変身するなって言われてるし・・・・まあ・・・・俺、まんま化け物だからな・・・・)

 

部屋に戻ってシャワーを浴びると、引き出しに入れたネックレスをかけた。その重みがしっかりと伝わって来る。制服に着替えて待っていると、携帯が鳴る。知らない番号だ。

 

「はい・・・?」

 

『織斑一夏君?』

 

「・・・・誰ですか?」

 

『私は小沢澄子。警視庁のアンノウン対策組織のメンバーよ。門牙秋斗君も私達の仲間なの。全部知ってるのよ。超能力の事も、アギトの事も。安心して、私達G3ユニットは貴方の味方だから。』

 

「・・・・・小沢さん、で良いですか?門牙さんに専用機を渡したのって、小沢さんですよね?」

 

『そうよ。私も一応IS技術者としても修士号取ったから。』

 

「凄いですね。で、僕に何の用ですか?」

 

『貴方にも、渡しておく必要があるかな、と思って。G4-Mildを。』

 

G4と言う聞き慣れた単語を耳にして一夏はピクリと反応した。

 

「G4、Mild?それってぶっちゃけるとG4-X0のれっ、いや量産型ですか?」

 

劣化版、と言うと失礼なので慌てて訂正する。

 

『ええ。良く分かったわね。貴方がギルスだって言う事は門牙君から聞いてるわ。芦原君もそうだったし。でも、見た目が余りにも生々し過ぎるからアンノウンと間違えられるかもしれないでしょ?どうかと思うんだけど。』

 

「気持ちはありがたいですけど。それ、まずいんじゃないですか?」

 

『どう言う事?』

 

「どう言う事も何も・・・・警視庁の設立した組織に一般人、それも未成年者を介入させるのは((上層部|うえ))が納得しないと思いまして。どんな組織であれトップに立つ人間は融通が利かないオヤジと頭でっかちが多いですから。」

 

『確かにそうね。実は貴方の言う通り上層部にも掛け合ったんだけど、認めてもらえなかったわ。休みの間に、門牙君と一緒に来れるかしら?貴方の専用機、見てあげるわ。』

 

「分かりました。よろしくお願いします。」

 

電話が切れると、一夏は携帯をポケットに突っ込んだ。

 

「小沢澄子、ね。でもどうやって俺の番号を・・・?」

 

「勝手ながら俺が教えた。とりあえず計画通りに事が進んでいるから良かった。」

 

秋斗が悠々と扉を開けて入って来た。制服はまだ届いていないのか、相変わらず白いライダージャケットとお揃いのパンツ姿だ。

 

「門牙さん、刑事だったんですか?」

 

「まさか。柄じゃない。捜査とかの権限は無いけど、一応協力者として警視庁の出入りとかは許可されてる。資料室とか押収品保管室とかにも入れるし。まあ、何度か手伝って犯人を挙げたりもしたけど。」

 

「何か緊張するな・・・・・」

 

「そう身構えなくても良い。小沢さんは良い人だよ?MITを中学生の年齢で首席で卒業して博士号を取った天才だし、気前は良いし。焼き肉奢ってもらったし。」

 

「焼き肉!?マジですか?!」

 

「おう。今度行くか。」

 

「是非お願いします!」

 

流石は男、と言うべきか。肉料理は外せない様だ。特に、ギルスに変身してからはカロリーが高い主に肉料理を頻繁に摂取する様になった彼に取って焼き肉とは願っても無いごちそうなのだ。

 

「所で、芦原さんて名前が出たんですけど、誰ですか?」

 

「芦原涼。先代ギルスだ。」

 

「先代・・・・?」

 

「ああ。津上さんも、彼も、過去に海難事故に遭ってアギトの力を手に入れた。当然戸惑ってた。自分が、異質で歪な物に変わって行く恐怖と、拒絶される孤独。それに真っ向からぶつかって生きて来た。そんな人だ。何度も死線をさまよっても復活したダイハードな人だぞ?」

 

「へえー・・・・」

 

「そろそろ予鈴が鳴るな。」

 

 

 

 

 

 

出席を取った後、転校生が二人教室に入って来た。一人はブロンドの貴公士の三文字を体現した様な人物、もう一人は身長はかなり低いが、銀髪で眼帯を着けた刺す様な冷たい雰囲気を纏った堅物だ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。色々と不慣れで迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします。」

 

「え・・・・・お、男?」

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると言うのを聞いて」

 

((今だ!))

 

一夏と秋斗は耳を塞ぐ。その直後。

 

「「「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!」」」」」

 

「男子!三人目!」

 

「守ってあげたくなるタイプ!」

 

「黙れ、小娘共。まだ自己紹介は終わっていないぞ。」

 

千冬が女子の暴動一歩手前を鎮圧しても、シャルルの隣に立っていたラウラは口を横一文字に引き結んで何も言わない。

 

「挨拶をしろ、ラウラ。」

 

「はい、教官。」

 

居住まいを正して敬礼をする。馴れたその動作は明らかに軍人のソレだった。

 

「私はもう教官ではない、ここでは織斑先生と呼べ。」

 

「了解しました。・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

再び沈黙。それ以上言う事は無いと言うのだろうか。

 

「あの、以上ですか・・・・?」

 

「以上だ。・・・・・貴様が・・・!!」

 

飛んで来る平手に反応し、一瞬でその手を掴んで捻り上げ、急所を責める。

 

「く・・・・・?!」

 

「俺に喧嘩を売るのは構わないけど、どうなっても知らないぞ。」

 

「貴様・・・・・!」

 

「では、これより一般生徒のISの実動訓練を二組と合同で行う。織斑、門牙、同じ男子同士デュノアの面倒を見てやれ。」

 

「あ、織斑君、だよね?僕は」

 

「話は後だ。来い。ここで女共に囲まれたら遅刻じゃ済まない。」

 

「逃走ルートはもう確保してある。行くぞ。」

 

教室を飛び出し、近くにある窓に引っ掛けてある滑車付きのロープで降りて行った。

 

「な、何でここまでしなきゃ行けないのさぁ?!!?」

 

「お前で三人目のISを使える男と言うイレギュラーなんだ。当然だろう?」

 

「え?あ、うん、そうだね。」

 

逃走から僅か数分でどうにか更衣室に辿り着く事が出来た三人。

 

「さっさと着替えるぞ。」

 

「俺もう制服の下に来てますから。着心地が悪いとか言ってる場合じゃないですし。あれ?」

 

シャルルはいつの間にか着替えていた。

 

「それ、特注品?」

 

「うん、父の会社が作ったオリジナルだよ。」

 

「良いとこ育ちって感じがすると道理で思ってしまう訳だ。」

 

門牙がロッカーの扉を閉めてそう呟く。三人がグラウンドに出ると、既に皆が集合していた。

 

「遅いぞ。何をやっていた?」

 

「女子の妨害と言う名の被害にあっていました。逃走ルートは既に確保していたのですがね・・・・」

 

「ふむ・・・・まあ、良かろう。では、これより量産気を使った軌道訓練を行う。各自を気を引き締める様に。それぞれグループに分かれてISの軌道、装着、歩行をやって貰う。グループのリーダーは専用機持ちだ。」

 

「ラファールと打鉄は三機ずつありますから早い者勝ちですよー!」

 

「ラファールで行くか?」

 

「俺は打鉄取ります。」

 

希望通りの量産機を台車に乗せて押して行き、シャルルを含めた三人は瞬く間に女子に囲まれた。

 

「織斑君、よろしくね!」

 

「門牙さん、操縦とか他にも色々よろしくお願いします!」

 

「デュノア君の操縦見たいな?・・・」

 

「馬鹿者どもが・・・・!!出席番号順に並んで分かれろ!十秒以内に動かない奴はISを装着してPICを切ったままグラウンドを百周させるぞ!」

 

グラウンドは一周約二キロ近く。それを百週、詰まり二百キロメートルを走らされる事となる。それにPICを切った状態では、ISは只の錘にしかならない。十分の一も終わらない内に一歩も動けなくなっているだろう。僅か五秒で全員が行動を起こした。

 

「全く・・・・最初からそうすれば良い物を・・・・馬鹿め。」

 

一夏は首と肩を軽く回すと、息を強く吐き出した。

 

「よしと。はい、注目!じゃ、出席番号順に行こうか。まずは、えーと・・・・相川清香さん、ハンドボール部所属だっけ?」

 

「はいはーい!」

 

「んじゃ、早速。どうぞ。立つのが怖ければ、足を少しだけ肩幅より広めに開いてみて。」

 

恐る恐ると言った感じで彼女は立ち上がる。

 

「歩行の時は、脚を踏み出すのと同時に、息を軽く吐き出せばいい。それによって、リズムと言うか、テンポ良く出来るから。」

 

「おっとと、よ、ほっ・・・・」

 

「そうそう、ジョギングが趣味なら、地面での移動は馴れてる筈だから、筋は良いよ。あ、装着解除する時は次の人がコクピットに届く様に必ずしゃがむ様に。良いな?」

 

「「「「はーい!」」」」

 

「オッケー、次の人。」

 

一夏はほぼ上の空でこれを続けていた。的確なアドバイスは時偶提供しているので、ウケは悪く無い。シャルルの方も柔軟な指示で時には自らISを装着してそのまま生徒を手伝ったりと、乗り切っている。秋斗も同じくだ。だが、問題はラウラのグループだ。まるで葬式の様に静まり返っており、ラウラが専用機を纏って全員を睨み付けていた。

 

「おいおい、そんなに睨んでちゃ、訓練にならないだろう?」

 

「ふん、何故私がそんな事をしなければならない?コイツらが出来ないか疑問に思う位だ。」

 

「あー、やだやだ、だから俺は軍人は余り好きじゃないんだ。堅いんだよ、色々と。後でお咎めを喰らうのはお前だぞ?教官殿から、な。」

 

あからさまな舌打ちをして仕方なしと言った様子で始めるラウラを尻目に自分のグループに戻って行く。

 

「あの・・・・」

 

「あーあ、立ったままやっちゃったんだ。コクピットに届かないじゃん。」

 

「ごめんなさい・・・・・」

 

「次から気を付けてくれれば良いから。」

 

シュンとする生徒の肩を叩いて励ましてやる。

 

「じゃあ、面白い物見せてやるから『一、二、三』って数えて。」

 

「はあ・・・・一、二、三!」

 

「シュワッチ!」

 

一度足を曲げ、跳躍し、コクピットに着地すると、瞬時にそれを装着、しゃがませ、再び降りた。

 

「はい、次の人ー!」

 

 

 

 

 

 

 

実技が終わった後、一夏はテーブルの上にメモが載っているのを目にとめる。

 

『屋上で待ってる。』

 

としか書かれていないが、誰から来たのかは明白だった。紙切れをポケットに突っ込むと、上に登って行く。途中シャルルを連れたセシリア、鈴音、箒に掴まってしまった為、仕方なしに全員で行く事となってしまう。

 

「ったく・・・・何でこんな事に・・・・」

 

「一夏・・・・って、後ろの人・・・・誰・・・?」

 

「成り行きで来る事になった。俺に用事があるとかでさ。・・・・あー、ヤバい。朝練調子に乗ってやり過ぎたから朝飯食い損ねてめっちゃ腹減った。」

 

「そう言うだろうと思って、ちゃーんと作って来たよ♪」

 

取り出した包みに入っていたのは、重箱だった。

 

「いや、料亭の出前じゃあるまいし、気合い入れ過ぎじゃ・・・?」

 

「「「ウォッホン!」」」

 

シャルルを除いてわざとらしい咳払いをする三人。

 

「「「一夏(さん)、説明してもらうぞ(わよ/ますわ)。」」」

 

「断る。」

 

「なっ?!」

 

「ちょ、どう言うつもりよ一夏!?」

 

「そうですわ!」

 

「お前らだって、忘れたい過去の出来事が幾つかあるだろう?彼女はそれに関係している。言うなれば、門牙さんや門牙さんの友達以外で本当に俺を理解している数少ない人物の一人だ。だが、これだけは言っておく。俺の過去を知る為に彼女にちょっかいを出したり、強引に聞き出そうとしたと言う事が判明すれば、たとえ幼馴染みだろうと、俺は絶対に許さない。うしと、腹減ったし食べるか。今日の献立は?」

 

「見ての、お楽しみ・・・・」

 

包みを開いて現れたのは色取り取りの料理だった。肉じゃが、卵焼き(だし巻き)、新香、定番のおにぎり等々・・・・・

 

「わーお、すげえーーー!!」

 

一夏の顔が今まで以上に輝く様な笑顔を見せる。

 

「物凄い手が込んでるぞ。作るとしたら・・・・・・大体五時位に起きてたな?」

 

「うん、十年振りに・・・・会えた訳だし・・・・」

 

一口摘んで食べてみる。

 

「あー・・・・美味い・・・・昔から料理は上手かったからな。また食べられるなんて感激だぜ。」

 

「・・・・大袈裟過ぎ・・・・」

 

顔を背ける簪。だがその表情は柔らかくて嬉しそうな物だ。

 

「いやいや、本当だって。胃袋掴まれたな。美味い。」

 

結局一夏は簪が用意した弁当を完食してしまった。

 

「ご馳走様。空き腹が好物によって満たされて行くって言う感覚は久々だな。迷惑じゃなければ、また頼めるか?」

 

「うん。良いよ・・・・」

 

その直後、一夏の携帯に電話が入る。秋斗からだ。

 

「はい。」

 

『一応((見て|・・))いたんだが、少々マズい事になる。一つは、お前のルームメイトが変わる事。もう一つは、その新しいルームメイトは女だって事だ。』

 

「え?どういうこ・・・・成る程。やっぱりあの手の工作、ですか。」

 

『そう言う事だ。ま、俺の隣だから心配は無いと思うが、一応気をつけろよ?』

 

「分かりました。」

 

携帯をポケットの中に滑り込ませて顔を顰めると、腕時計をチラリと見る。

 

「そろそろ時間だ。用事があるなら手短にしてくれ。」

 

「ああ、いえ、その・・・・大した事では無いので、後日日を改めても遅くはありませんから・・・・あはははは・・・・」

 

「そ、そうよね、とりわけ大事な話って訳じゃ・・・・・ないし。」

 

「そうか。んじゃ、簪、また後でな。ご馳走様。」

 

納得した一夏はさっさとその場を立ち去ってしまい、簪も出て行ってしまった。その場の空気が重苦しい物に一瞬にして変わってしまう。

 

「どう言う事よ・・・・馬鹿・・・・・」

 

「でも、分からなくは無いな。人間完璧じゃないから、誰だって後ろめたい失敗か何かがあるでしょ?だったらマナーと言うか、デリカシーとしてそれには触れない方が良いと僕は思うな。」

 

「デュノア、そうは言うがな、あいつは、その・・・・何と言うか・・・」

 

ゴニョる箒の言葉を遮ってシャルルは続ける。

 

「要するに、一夏の事が好きなんだよね、三人とも。リアクションとか行動を見てたらそれ位僕でも分かるよ。」

 

だが、この時、四人は気付いていなかった。学園の遥か上空から自分達を見下ろす、もう一つの異形の影を・・・・・・

 

説明
遅れてすいません。親知らずの抜歯等でゴタゴタしていました。
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コメント
(゚∀゚)キター原作のアギトとギルス^^(yosiaki)
すいません、別の奴をアップしちゃいました。(i-pod男)
あれ?いつからシャル&ラウラいた?(デーモン赤ペン)
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