隻眼の誇り
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春蘭が片目を失い、早くも三日の時が過ぎていた。

「姉者!!いくら姉者が人より丈夫とは言え、まだ安静にしていなくては!」

「放せ!秋蘭、私は失った左目の分まで華琳様のお役に立たねばならんのだ!」

「戦はとうに終わった!今の姉者にできることは休む事だけだろう!」

「ならば熊でも虎でも狩って華琳様に献上する!」

邸内で大声を張り上げ、口論している様を見かけた一刀は巻き込まれないように身を隠した。

「・・・本郷、隠れるなら気配の消し方位は覚えた方がいいぞ」

すぐに見つかった。

「悪い、つい身に危険を感じちゃってな」

瞬間、一刀の左頬を春蘭の拳がかする。

「あぶなっ!あぶなぁぁあああ!」

「本郷・・・、貴様も私を笑いに来たのかーーーーー!!!!!!!」

こうなっては止まらない、一刀は歯の2、3本は覚悟して目を固く閉じた。

パンッ!

「え?」

春蘭は拳を振り上げたまま固まっている。

秋蘭が平手をお見舞いし、春蘭の動きを止めていた。

「姉者がここまで馬鹿だと思わなかったぞ!」

「っな!」

「自身の役割を忘れ、あまつさえ他者に手を上げるなど、それが誇りある魏国の将のすることか!」

ここまで激昂している秋蘭は見たことがない、一刀は口を開けたまま二人のやり取りを見守るしかなかった。

「くっ!」

春蘭は行き場をなくした拳を地面に叩きつけ、秋蘭を睨み付けた。

「このまま行けば、姉者は華琳様の命すら危険に晒すぞ」

「言わせておけばぁーーー!」

春蘭の拳が秋蘭の顔を捉える。

秋蘭は少しよろめくとキッと春蘭を見据える。

「武人としての誇りも捨てたか!」

「うっ、うわぁあぁぁあぁ!」

春蘭は声を張り上げ、その場から走り去った。

「お、おい春蘭!」

「追うな、本郷」

「でも、あのままじゃ」

「少し頭を冷やす時間をくれてやるさ」

そういう秋蘭の顔はひどく儚げで寂しそうに思えた。

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「で?春蘭は当面使い物にならないと?」

「あぁ、秋蘭との喧嘩もそうだが、華琳を傷つけるかもしれないってのが効いたみたいだった」

一刀は秋蘭の気持ちを汲み取って、今回の騒動の報告をしていた。

「愚かね」

「そういうなよ、春蘭だって華琳を思って・・・」

「馬鹿!あなたの事を言ってるのよ!」

「へ?」

予想外の反応に一刀は固まった。

「あなたは今まで何を見てきたの?春蘭は私の為に命を懸けて戦ってきてくれたのよ?主を守るのが将の務めなら、将を守るのは主の務めなの。あの子の為に傷つくのなんて怖くないわ。」

華琳はいつになく真剣な顔で語ってみせる、その表情に一刀は春蘭、いや、魏の武将達との強い結束を感じた。

「あまり、君主としてはよろしくない発言ですね」

華琳の横で押し黙っていた稟が口を挟んだ。

「あなたはこの国の君主です、一人の武将の為に国を捨てるおつもりですか?」

「あら、そんな事は言ってないわよ、私の覇道にはあなた達全員が必要不可欠なの、わかる?」

「しかし、あなたが傷つき倒れれば・・・」

「それが私の天命だった、それだけの事よ。それともあなたが私を傷つける?今宵の閨で・・・」

「なっ、話を挿げ替えないで頂きたい」

華琳は稟の腰に手を回す。

「は、放してください、わたしは・・・、そんな、ブハーーーーーーっ!」

盛大に鼻血を噴出し稟が倒れる。

「ま、そういうことだから、この件については問題ないわ。それと・・・」

「ん?」

「医者に連れて行きなさい」

足元に転がる稟を指差す。

(なんか俺、わらしべ長者みたいに仕事もらってない?)

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「あっ、兄様」

「兄ちゃ〜ん」

季衣と流々に呼び止められ、一刀は足を止めた。

「おう、どうした?飯にはまだ早いぞ」

「なんで兄ちゃんは僕を見るとご飯だって思うの〜?」

不満そうに季衣が頬を膨らます。

「日ごろの行いでしょ」

流々が溜息混じりに突っ込みを入れる。

「で?なんか用?」

「あぁ、はい」

「兄ちゃん、春蘭様に何かした?」

「会ったのか?」

「はい、先ほど都の入り口で、でも・・・」

「なんかあったのか?」

(春蘭に限って、季衣や流々を傷つけるようなことはしないと思うが・・・)

不安そうな顔で季衣が口を開いた。

「目が合ったとたんに逃げるように走って行っちゃったんだ、何か嫌われるような事したのかな〜?」

「あぁ、それはだな・・・」

一刀は2人に事の顛末を話した。

「で、今誰かに会ったら傷つけちゃうんじゃないかって不安になってるんだよ、きっと」

「なるほど、それなら大丈夫ですね」

流々が納得したように首を縦に振る。

「どういうこと?」

一刀はきょとんとした様子で聞き返す。

「兄様は今まで何を見てきたんですか?」

(一日に同じ台詞を2回も貰うとは・・・)

「春蘭様ならそんなのすぐに乗り越えて戻ってくるよ」

「秋蘭様もね」

2人はニコニコしながら顔を見合う。

「ねぇねぇ流々、春蘭様の為においしいご飯作って待ってよ〜」

「季衣が食べたいだけでしょ?でも、名案かも」

「やったーーー」

「それでは兄様、これから買い物に行きますが、ご一緒にどうですか?」

「いや、出来上がった料理を楽しみにする為に材料は見ないことにするよ」

「兄様ったら」

流々はクスクスと笑っている。

「流々〜、早く早く〜」

「それでは兄様、また後で」

一刀は2人を手を振って見送った。

「さて、どうするかな?」

再び歩き出した一刀の背中に強烈な視線が突き刺さった。

「!?」

曲がり角の影から春蘭がこちらを伺っている。

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「隠れるなら、気配位は消そうぜ」

ゆっくりと近づき話しかける。

「いや、そのだな・・・、すまなかった」

「それだけを言いに来たの?」

ちょっと意地悪に返した。

「そ、そうだ。感情に任せて貴様を殺してしまうとこだった」

(命かかってたのか、俺)

「気にしてないよ、こうしてピンピンしてるわけだし」

「そうか・・・」

春蘭は安堵の表情を浮かべる。

「でも、季衣達にはちゃんと謝れよ?嫌われたかもってへこんでたぞ」

「あぁ、後で顔を出すとしよう。秋蘭にも悪いことをした」

「そういえば、あれから秋蘭を見てないな」

「秋蘭様なら1刻前に出陣なされましたよ〜」

「おわ、びっくりした!」

突然会話に入ってきた風に驚いて一刀は飛び上がった。

「出陣・・・?どこへだ!」

「袁紹の軍勢が少数ではありますが〜、我が領内をうろついているようですので、追い払いにいかれました〜」

「いや、どう考えても罠だろ!攻め込む気もないような少数で領内をうろつくとか!」

「罠ですね〜」

「貴様!そんな危険な場所に秋蘭を行かせたのか!」

「ぐー」

「寝るな!!!」

「おぉ!でも〜、華琳様の指示なんですよね〜」

「くそ!」

春蘭は一目散にかけだした。

「こうなるってわかってて春蘭に喋ったろ?」

「さぁ〜、ご想像にお任せします」

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「夏候妙才!覚悟!」

「くっ」

顔良、文醜の猛攻に秋蘭は弓を引く動作を行えずにいた。

(ジリ貧だな、伏兵までは読んでいたが・・・)

「こんな手にかかるとはな、案外曹操も大したことないんじゃね?」

「油断しちゃだめだよ、文ちゃん」

「でもな〜、楽勝っぽいじゃん?」

「そうだけど・・・」

「伝令!敵後方より増援!」

「数は?」

「そ、それが一騎です」

「はぁ?」

顔良と文醜は目を点にして驚いた。

「ふっ、心強い味方が来たようだ」

秋蘭は武器を構え目を閉じた。

「へっ、諦めたか!止めだ!!」

文醜が大剣を振り下ろした

が、刃が秋蘭に届くことはなかった。

「なに!?夏候惇!?」

「その程度の斬撃では我ら姉妹を切ること、敵わぬぞ!」

「ちっくしょーーーー!」

文醜は大剣を振りかぶり春蘭に向かって駆け出す。

「危ない!文ちゃん!」

「へっ?」

足元に矢が突き刺さる。

「どうした?隙だらけだぞ」

「文ちゃん、逃げるよ!」

「撤退、撤退〜!」

2人はそうそうに引き上げていく袁紹の軍を見送った。

「秋蘭、その・・・、すまなかった!」

春蘭は、ばっと頭を下げる。

「私は力に溺れていたのかも知れない、華琳様の為と題目をつけて」

「姉者、そう自分を責めるな」

「だから、私はこの隻眼に誓う!華琳様へのより一層の忠節と武人としての誇りを!」

「なら、私も遅れをとらぬ様に精進しなければな」

2人の笑い声が広がる蒼天にどこまでも響いた。

説明
春蘭、秋蘭メイン
カッコよさを目指しました
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コメント
>ブックマンさん ちょっとベタすぎましたかねwww(瀬領・K・シャオフェイ)
さわやかな話ですね。姉妹愛を感じます。(ブックマン)
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