13:真実とタッグマッチ |
聞かれたくなかったその質問。いずれはバレると思っていたが、これは幾らなんでも早過ぎる。鋭い刃物の様に、そのたった一つの質問が心をシャルルの心臓がバクンと大きく跳ねた。
「ぼ、僕は男だよ?やだなあ、一夏は」
「そうかな?こう言っちゃ聞こえが悪いかもしれないが、お前からは男特有の匂いがしない。それに、中性的な顔立ちだからやり方次第ではどっちでも通れるだろう?門牙さんも言ってたが、幾ら隠し通そうとしても、男としての自覚が無いあの時点でアウトだ。狙いは、俺達とその機体のデータか。」
「・・・・・そうだよ。ばれちゃったら、もう仕方無いね。確かに、僕は男じゃない。」
観念した様にベッドの上に座り込む。
「知らないかもしれないけど、フランスは第三世代の開発に他国に比べると凄い遅れを取っているんだ。僕のISだって第二世代を改造した物だしね。でも、仕方無いんだ。こうでもしなきゃ、僕の父の会社は結果を出せないペナルティーとして開発許可を政府に剥奪される事になる。そしたら別の企業の傘下に入る事になる。」
「ほう。で、お前のその糞みたいな父親は娘であるお前を捨て石代わりにここに送り込んだと言う事か。で?お前はどうしたい?」
「どうしたいって・・・・どうしようも無いよ。もうバレちゃったし、帰ったら監獄送りかな。ははは・・・・」
空元気で笑うシャルルから相変わらず目を離さない。
「それで?お前はそれで納得するのか?本当に、それで良いと本気で思ってるか?だとしたら大した度胸だ。監獄おくりになって最悪極刑を喰らうかもしれないと言うのにそこまで落ち着いていられるなんて、肝の据わった奴だ。」
「今更・・・・今更どうしろって言うのさ?!」
「IS学園特記事項第二十一。本学園に置ける生徒はその在学中に置いてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許されない物とする。つまり、今から三年間、フランスだろうとロシアだろうと、おまえが嫌だと言う限り誰もお前に手を出す事は無い。ま、自首したいと言うのなら別に俺は構わないがな。決めるのはお前だ。」
「良く覚えてるね、特記事項って五十個以上あるのに。」
「正確には五十五個だ。俺の記憶力を嘗めるなよ?ま、兎も角そう言う事だ。お前がどうしようが、俺には関係無い。最終的に、お前が選ばなきゃならないからな。俺はもう寝るぜ。」
言いたいだけ言うとさっさと布団の中に潜り込み、目を閉じた。
「僕が選ばなきゃいけない、か・・・・・そうだよね・・・・一夏。これは只の独り言だと思って聞き流してくれて構わない。僕は、本妻の息子じゃないんだ。お母さんが死んだ時に引き取られて、偶々適正値が高かったからそのままテストパイロットになったんだ。その時、今のお父さんの奥さんに、殴られたり色々された。だから、僕は・・・ここにいる。ここにいたい。三年もあれば、何か考えが浮かぶ筈だもんね。」
「別にお前がどうしようが俺には関係無い。選ぶのはお前だ。」
学年別タッグトーナメントが近付く次の日、アリーナでは鈴音がISを展開しており、丁度そこにセシリアも鉢合わせた。
「あら、てっきり私が一番乗りかと思いましたのに。」
「あたしはトーナメントに向けて特訓するのよ。」
「奇遇ですわね。私もですわ。この際ですから、どちらが強いかはっきりさせた方がよろしいと思いますの。如何でしょう?」
ISを展開して鈴音と睨み合うセシリア。
「良いわよ。後で吠え面かくんじゃないわよ?」
そして向き合った所で、二人の間に何かが着弾、爆発が起こった。
「イギリスのブルーティアーズと、中国の甲龍、か・・・・データで見た方がまだ強そうだった。」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・!」
「何?やるの?」
「ふん、貴様ら如き種馬を奪い合うメス等、このシュヴァルツェア・レーゲンの前では等しくゴミだ。」
「はたして、そうかな?簡単に背後を取られてちゃ、そうはいえないんじゃないか?」
バスタークリムゾンを肩に担ぎ、もう片方の手にノコギリ状の刃を展開したハンドライフル型の武装、ソウブラスター・ネオを引っ下げて秋斗が現れる。
「な、いつの間に・・・!?」
「少し昼寝をしていたらどうも嫌な予感がしてな。虫の知らせって奴だ。そしたら案の定、三人の代表候補が喧嘩をおっ始めようとしているとはな。」
一夏も雪片を握り締めている。
「一夏、邪魔しないで!今回ばかりは私達が!」
「そうは行かない。ドイツ、イギリス、そして中国の三つ巴戦争なんて、戦争に加わっている国だけに留まらず、世界中が飛び火を喰らうだけだ。誰も損はしたくないだろうしな。だが、もしどうしてもやりたいと言うのなら、俺達二人が相手をする。」
「う・・・・」
二人は男子二人の実力は知っている。特にセシリアに取って秋斗の強さはトラウマ物だ。
「ふん、貴様如きに私を相手取れると思うのか?」
「試してみたいか?なんなら、そのまま永久に退役させてやるぞ。」
売り言葉に買い言葉である。一触即発のその空気で、正に戦いを始めようとした所で・・・・・
「そこまでだ。」
叫んだ訳ではないが、良く通り、響く声が耳に飛び込んで来た。その手にはIS用の近接ブレードが握られている。
「模擬戦をするのは構わんが、空気が余りにも物々しい。一般生徒の手本である代表候補がISを喧嘩の道具に使うようならば私も教師としても黙認しかねる。この決着は、学年別トーナメントでつけて貰おうか。」
「・・・・・教官がそうおっしゃるのであれば。」
ラウラはISを解除し、そのままピットへと去って行った。
「お前達も、良いな?鳳、オルコット。」
「・・・はい・・・・・・」
「分かりましたわ・・・・・」
「先程のお前達男子の発言は売り言葉に買い言葉としか形容出来ないが、どうにか止める事に成功した為、今回は免責とする。次は無い。では、トーナメントまで一切の私闘を禁ずる。解散!」
「何とかなりましたね。」
「ああ。」
「あのまま行けば勝てたのに・・・・」
「そうですわ!勝負に水を差すなんて。」
ブー垂れる鈴音とセシリアに冷めた視線を向ける男子二人。
「相手の機体の能力も分からない癖に何をのんきな事を言ってるんだ?軍人は人を殺し馴れている。デッドゾーンまで持って行かれたら、二人共間違い無く死んでるぞ。」
「それに、相手は代表候補とは言え現役軍人でもある。あの様子じゃ叩き上げのタイプだな。生身での戦闘経験はISでもかなり反映される。経験だけで言うなら向こうが圧倒的に上だろう。俺は軍人が嫌いだと言っていたが、戦闘能力は認めざるを得ない。はっきり言ってお前ら二人が束になって掛かって行っても大した事は出来ないと俺は断言出来る。」
「「う・・・・・」」
「まあ、理由はゆっくりとお茶でも飲みながら聞くとしよう。」
そう言ってさり気なく二人の頭に手を置く秋斗。しっかりと全てを『見聞き』した。
「あ、う、えと・・・・その・・・・あ、私まだ課題が残ってるんだった!アハハ!」
「わ、私も急に用事を思い出しましたの。」
逃げる様にして去る二人。
「どうやら喧嘩の原因はお前を馬鹿にされたかららしいぞ。ここの女は随分とお前にご執心だな。善くも悪くも。」
「迷惑でしかないです。」
一夏は忌々し気に舌打ちをする。
「 ま、それはさておき、ラウラ・ボーデヴィッヒに関しては何か嫌な予感がします。恐らく当たっていると言うのが一番の問題かと。」
「確かにな。まあ、どの国でも黒い噂は幾つかあるさ。俺達がどうにか出来る相手じゃない。テメーの身を守るだけで精一杯だ。生死に関わる事ならば、まず生き残らなきゃ他人の命を心配している余裕はねえ。」
「ですね。後はアンノウンがちょっかい出して来なきゃ良いんですけど。」
「だな。」
「俺、ちょっと外行って来ます。気分転換に。」
一夏は敷地を徘徊していると、偶然ラウラと千冬が話しているのを目にした。
「何故この様な所で教師等!」
「何度も言わせるな。私には私が果たすべき役目がある。お前と同じ様に。それがこれだ。それ以外答えようが無い。」
「しかし、こんな所では貴方の能力の半分も活かされません!危機感に疎く、ISをファッションか何かとしか思っていない様な連中を相手にしていては!」
「だったらどうした?危機感に疎いのならば、それを直すのが教師の役目だ。分からないのなら分からせる、それが私のここでやるべき事だ。お前はいつからそんなに偉くなったのだ、小娘?」
底冷えする声。扱かれたあの地獄以上としか形容出来ない様なあの日々。怒号と制裁の雨霰。それらが全て蘇り、まるで金縛りにでもあったかの様にラウラは体が震え始める。
「話は終わりだ。寮に戻れ。」
ラウラが走り去ると、一夏は彼女の方に歩いて行く。
「盗み聞きとは感心しないな。」
「俺をぶん殴ろうとする理由はそれなりにはあるだろうと思って。しかし、あそこまでご執心だと呆れてしまうな。」
「ほう?」
「神様でも何でも無い血肉の通って五臓六腑が詰まった人間をあそこまで美化出来るあの脳味噌に。所で、千冬姉。」
一夏の声のトーンが落ちた事により、これは重要な話だと悟った千冬は敢えて呼び直す様に要求はしなかった。
「最近変な事は無かった?」
「変な事?どう言う事だ。」
「いや、別に。ただ、その・・・まあ、何も無いなら良いよ。気にしないで。織斑先生。」
去り際に、一夏は千冬の手を軽くキュッと握ってやる。その背中を見ながら、千冬は拳を握りしめ、目から一粒涙が流れた。
(あの時・・・・・私が・・・・!!)
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