聖夜の日に・・・アフター |
【初音】
阿部さんに頼まれてケーキ作りを教えながら私は自分たちのも作っていた。
毎年みんなで賑やかに楽しんでいたんだけど、今年はちょっと違っていた。
「ただいま〜」
「おかえり、初音」
迎えてくれたのはこの家の家主であるお姉ちゃんではなく、
私の憧れだった耕一お兄ちゃんでもなくて。
その小柄には似合わないほど服を着重ねてぷくっとしているのが私のお姉ちゃんの
柏木楓。私と同じ高校生なんだけどやや幼い顔立ちである。私も人のことは言えないけど。
「ただいま、お姉ちゃん」
「ん、何それ」
「ちょっと友達のとこで作ってきたんだ。一緒に食べよう?」
「や、だから中身何」
「ケーキ」
ニヘって笑いながら玄関から上がって居間へと向かう。
さむさむ言いながら暖房をつけて、ちょっと遅めの食事の用意を始めた。
「随分遅かったね・・・」
「そっか、今日はみんな一度帰らないでそのまま直行?」
「うん・・・」
物静かなお姉ちゃんだけど、今日は特に静かに感じるのは。やっぱり寂しいからかな。
いつもならここにいるお姉ちゃん二人、耕一お兄ちゃんがいるんだけど。
次女の梓お姉ちゃんは、同じ学校のかおりさんと。
長女の千鶴お姉ちゃんは耕一お兄ちゃんと特別な日を過ごしていた。
それは前に話を聞いていて知っていたけど。同じようにお兄ちゃんのことを想っていた
楓お姉ちゃんは悲しかったろうなって、隣で自分のことのように私は悲しんでいた。
だから、今日はお姉ちゃんには楽しい気持ちにさせてあげたかったけど。
お姉ちゃんやお兄ちゃんたちみたいに楽しいことが言えないのが悩みだった。
「さみしい?」
聞いちゃいけないと思っていたけど、他に話せることがなかったから。
つい聞いてしまった。
だけど、私が気を使ったと思ったのか。お姉ちゃんは優しい笑みを浮かべてくれた。
「大丈夫、初音がいるから」
「あう・・・」
お姉ちゃんに気を遣わせてしまっただろうか。ちょっと反省・・・。
そう思っていたら、やや不機嫌そうにお姉ちゃんは呟いた。
「私、そういうことで気を遣ったりしないけど。今言ったのは本当のことよ」
前までは耕一お兄ちゃん一筋だったけど、今は私のことも同じくらい好きだって
言ってくれたのが、すごい嬉しくて胸の中がぽかぽか暖かくなるようだった。
「えへへ、ありがとう」
「さぁ、初音も食べよう」
「うん」
フォークでから揚げを刺して私に向けてくるお姉ちゃん。食べさせてくれるのかな。
そう思うと何だかくすぐったい気持ちになって自然に笑顔になってアーンって
口を開けた。
「初音、ありがとう」
「むぐ・・・?」
「何でもないよ・・・」
軽めの食事、手作りケーキをさっきと同じように食べさせあってから。
お姉ちゃんの部屋に寄って一緒に大きめのソファーに座った。
手を握りながら、私はふとあることを思い出した。前にお姉ちゃんが今日という
日に大好きなお笑い芸人の番組をやることを私に教えてくれてたことを。
「お姉ちゃん、好きな芸人さんの番組始まっちゃうよ。一緒に見ようか」
「うん、そうする」
騒がしくて楽しそうにはしゃいでる画面を見ながらしっとりとした空気の中。
それでも暗い気分なのではなく、お互いの温もりや匂いが感じられて穏やかな気持ちで
いられた。
「お姉ちゃん、大好きだよ」
ドキドキしながらお姉ちゃんの方を見ると静かな寝息を立てていて、
本気で告白していた自分が恥ずかしくなってしまった。
「・・・」
だけど、まるで返事のように手を握り返してくる。
それは寝ているとは思えない力の強さに感じる。
私は恐る恐るお姉ちゃんに声をかける。
「起きてた?」
「うん・・・」
「ご、ごめんね。変なこと言って・・・!」
もし伝わっていても自信のない私はついつい、言ったことをなかったことに
しようと慌てながら言っていたら楓お姉ちゃんが信じられないことを口に出した。
「私もだよ・・・」
「え・・・?」
「私も初音のこと・・・好きだよ」
それは姉妹とか家族っていう意味だろうと思ったが、次の瞬間。
チュッ
「・・・!?」
「これなら信じてくれる?」
そういえば二人は前世の記憶が覚醒してから、昔使ってたテレパシーじみた
能力があって私の思考を読んでるのかもしれない。
「お姉ちゃん・・・」
嬉しいけど、何だか複雑。だって、お姉ちゃんはその前に好きな人がいるから。
そして私も、他のお姉ちゃんも同じ人が好きだったし。姉妹だし。
素直に好きになっていいのかっていう思考がグルグル回りすぎて頭がおかしくなりそう
だった。
「初音・・・。私を信じて」
「楓お姉ちゃん・・・」
目を瞑っていたお姉ちゃんが目蓋を開いて私をギュッと抱きしめてくれた。
すごく、力強く。
お姉ちゃんの気持ちを読むこともできたけど、私は今までそれをするのを躊躇った。
その度にこのどうしようもない気持ちに締め付けられるかと思っていたから。
でも、それは違っていたようだ。
「ありがとう・・・」
そう言って、楓お姉ちゃんの顔を上げさせて私からお姉ちゃんの唇に自分のを
重ねて誘った。これ以上は引き下がれないけど、今の自分に嘘はつけない。
それは動物たちが戯れるような可愛らしいキスの時間であったけど、私達はその瞬間
気持ちが通じ合ったことがとても大きく感じられたのだ。
好きな人を取られたからっていう悲しい理由じゃなくて、胸を張って
この人が一番大事で大好きだと言える日が来ればいいと、前向きに思えた。
「初音、この後一緒にお風呂入ろうか」
「ふふ、そうだね。お姉ちゃん」
昔一緒に温泉に入って話をしてからご無沙汰だったから楽しいかもしれない。
あの時とはお互いの気持ちは随分変わってしまったけれど。
それでも、すごく幸せだと思えた。
お終い
説明 | ||
本編裏話の姉妹百合です。原作ではそういう設定はないですが、ファンディスクではすごい仲がよかったのでめっちゃ妄想広がってこうなりました。自分得でしかないと思いますが、少しでも楽しんでもらえたら幸いです。 | ||
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