ちゅるやさんをいじめてみる
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昼休み、弁当の包みを開けると見慣れない小さなビニールの包みがころりと転がってきた。

 

「ん、何だこれ?」

 

指先で摘み、中を見ると茶褐色の小さな円筒が入っていた……これはなんだろう?

よく見ると、昨日オヤジが食ってたスモークチーズじゃないか、ったく母さんも仕方ないな。

 

「ねえ、それなんだい?」

「ん?」

 

顔を上げると綺麗な緑色の髪をした小さな女の子がいた。

高校に小学生か? また珍しい事もあるもんだな。

 

「スモークチーズだよ、食うか?」

「いいのかい? どんな味かなあ?」

「食ったことないのか? ……まあ、食えば分かるさ」

「すごくおいしいよ! ねえ、なまえをおしえてくれないかな?」

「スモークチーズだ」

「ちがうよ、きみのなまえさ」

「……キョンでいい」

「ありがとう、いいひとだね」

「そうでもない」

 

それが俺とちゅるやさんの出会いだった――まさか、あんな事になるとは誰が想像できただろうか。

 

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五月が過ぎようとした頃、俺の前の席にいる年中不機嫌女“涼宮ハルヒ”にうっかり声を掛けてしまい、SOS 団という妙ちくりんなグループに入ることとなった。

別にそんな電波なグループを作るのは構わんが、俺を巻き込むのは止めて欲しいものである。

 

何度か部室に連れ去られること数回、まともと思っていた部員が、未来人やら宇宙人、超能力者と名乗りだしたのだ。

正直電波な奴は涼宮だけで十分だろ? 正直もう付き合っていられんな。

 

「おい、涼宮」

「何よ?」

「俺、もうあの活動に参加しないからな」

「駄目よ、あんたが居ないと部活動として成り立たないのよ!」

「他の奴を誘え」

「ま、待ちなさい!」

 

残念ながら俺は団員になった覚えはない。 じゃあな、涼宮。

 

その日の夜、知らない携帯番号が俺の携帯ディスプレイに映し出された。

誰だ、俺の携帯を教えたのは――谷口、国木田くらいか。 あいつら、誰かに教えやがったな。

 

「もしもし、誰だ」

「……ザ……ザザ……涼宮ハルヒを苛立たせないで欲しいものですね。 迷惑なんですよ」

「ふざけるな……お前、文芸部室にいた男、古泉だったか? 誰に携帯番号を聞いた」

「ザ……おっと、そろそろ……ザザ……いいですか、あなたには協力して貰う必要……ザザ」

「冗談も大概にしろ、あと電波の良い所で話せよ。」

「……ザ……あなたの家族の安全を保証したいでしょう?……プツ」

 

糞ガキが、俺に何をしろって言うんだ。

 

翌日、結局寝付けなかった俺は30分程早く学校へと着いた。

俺は教科書を机の引き出しに入れようとすると、奥に何かつかえて入りきらない。なんだ?筆箱でも入れ忘れたか?

中を漁ると、小さなDVカメラが入っていた。

 

「なんだ、誰か忘れやがったのか?」

 

よく見ると小さなメモ書きが貼ってある――再生して下さい ? 畳まれた液晶部分を起こし、映像を再生してみる。

暗くてよく見えない……おいおい、これ、俺の部屋じゃねーか!

体格の良い男がウロウロし、俺のベッドの下に入るとき何かが光る――おい、冗談だろ? 手に持ってるのはナイフじゃ……。

 

俺は背中にヒヤリとしたものを感じ、カメラを投げつけようとしたが目を離せない。

明かりが点いて、俺が部屋に入って……。

 

カメラを落とし、こみ上げてくる吐き気にうずくまる……体が震えて来た。

再生されたままのDVカメラからは古泉と俺のやりとりが聞こえる。 マジかよ、洒落にならねえ。

 

「ご理解頂けましたか? あなたに選択肢は無いのですよ」

「……」

 

糞野郎が、こいつをぶちのめして鑑別所にぶち込みたいところだが、実行犯は少なくともあと一人はいる。

警察に行っても取り合っちゃくれないだろう、報復も当然考えられる。

 

「……お前、何が目的なんだよ」

「説明したでしょう? あなたは涼宮ハルヒの言うことを聞き、大いに楽しませてください」

「ふざけるな、本当のことを言え」

「おっと、そろそろ涼宮さんが来ますね、よろしくお願いしますよ」

 

DVカメラを拾うと古泉はどこかへ行ってしまった。 俺は胃液に喉を焼かれ、むせていた。

 

「ちょっとキョン、大丈夫なの? 昨日からだったら、そう言いなさいよ、体調が悪いなら家に帰してあげるのに」

「……ああ、少し具合が悪い」

「保健室で休んでなさい、あと、放課後に来られるなら部室へ来なさい」

 

あまりの事態に俺は気が動転していた。 だめだ、逃げられない。

 

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放課後、少し気分が落ち着いたところで文芸部室へと向かった。 糞、どうすればいいんだ。

楽しませるって何だ、そんな理由であの古泉は人を殺すのか? 何故だなぜだ……。

俺は空の胃袋に牛乳を流し込み、ゴミ箱へ瓶を投げ入れた。

文芸部室の前まで来たが、とてつもなくドアノブが重たい。

 

「……よう」

「あら、まだ顔色悪いけど大丈夫?」

「……ああ、平気だ」

「まあいいわ、そこら辺の椅子に適当に座ってよ」

「……大丈夫ですか、無理は禁物ですよ」

 

古泉が人畜無害と見せかけるような笑みを浮かべた。

糞が、その仮面を今引っぺがしてやりたいよ。

 

「キョンは昨日居なかったから説明してあげるわ。 昨日良い暇つぶしを思いついたの。 いじめよ」

「……暇つぶし、か」

「そう、あの……なんつったけな? まあいいわ、そのうち有希とみくるちゃんが連れてくるから」

 

 何を連れてくるのか?宇宙人か? ああ、それなら“自称”が居たな。 宇宙怪獣が来ても驚かないぜ。

 

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「……ここ、入って」

「ここでおしえてくれるのかい?」

「はぁい、ここで良いですよ」

 

 ドアが開かれ、誰かが……小さい子? まさか、お前等小学生をいじめたいのか?

 

「あ、そうそう、その子よ、ちゅるやさん。 こう見えて先輩なの」

「あ、キョンくんだ! みくると長門っちのいった通りだったね!」

 

 俺は叫びたかった。 これから彼女にはどんな仕打ちが待っているのだろう。 なんとかしてやれないのか?

 

「今日からあなたはSOS 団の特別顧問よ! 手伝って貰っても良いかしら?」

 

 ちゅるやさんは口の辺りに手を当てて何か考えているようだった。 そして俺の方をチラリとみて笑った。

 

「わかったさー。 キョンくんを手伝うよ」

「あのな、ちゅるやさん。 これは強制じゃないからな、よく考えて」

 

古泉はハルヒ達の見えないところで俺の足を踏んだ。

 

「キョンくんのためさー」

「すみません」

「あら、二人は仲が良いのね、丁度良いじゃない」

 

ハルヒは俺の顔を見てニヤリと笑った。

 

「じゃあ、まずは部屋を綺麗にしないとね。 ……じゃんけんするわよ、負けた人はゴミ捨てね」

 

何度かあいこを繰り返すうち、ちゅるやさんはグーしか出さないことに気が付いた。

古泉はニヤニヤしながら俺を見ている。 ……やるしかないのかよ。

 

「じゃあもう一回行くわよ、じゃん、けん、ぽん」

 

結局、負けとなったちゅるやさんは、両手で抱えきれないほどのゴミを抱えて部室を出て行った。

 

「俺、ちょっと手伝ってくる」

「それじゃ罰ゲームにならないじゃない、駄目よ」

「そうですよ、負けは負けなんですから」

「キョン君もルールはきちんと守ってくださいね」

「……罰ゲームだから当然」

 

十分位経っただろうか、ちゅるやさんが部室へ戻ってきた。

額は少しすすけ、汗がにじんでいる。

 

「ちゅるやさん、汚れてますよ。 火傷はしてませんね?」

「大丈夫さー。 少し身長が足りなかっただけだよ」

「すみません」

「大丈夫さっ! 罰ゲームだからね!」

「ちっ……避難訓練するわよ。 ちゅるやさんは消火活動をよろしく」

「りょうかい!」

 

俺は仕方なく涼宮達と下り、靴を履いて中庭へと出た。

 

「ちゅるやさんは?」

「逃げ遅れました」

「じゃあ死亡ね。 それじゃ、皆帰るわよ」

 

荷物を渡され、その場で解散となった。 ふと部室を見上げると、ちゅるやさんが寂しそうにこちらを見ていた。

 

説明
確かこのタイトルだったはず
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涼宮ハルヒの憂鬱 ちゅるやさん いじめ 

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