いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した
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 第九十一話 大きな嘘と小さな嘘

 

 

 

 地球のとある海上でディアーチェの声が響いた。

 

 「U−D!!」

 

 ディアーチェがアサキムに斬られただろう彼女に向かって声を上げるが、アサキムの剣にはU−Dの髪は張り付いていた。そして、青い髪も一緒に。

 

 「救出完了っ!やっぱり、僕、最強!」

 

 「レヴィ!?どうして…?」

 

 ズドオオオオオオオンッッ!!

 

 すんでのところでレヴィがアサキムとU―Dの間に割って入り、彼女を抱えて離脱する。完全に躱したわけでは無いのだが目立ったダメージは無し。髪を切られた程度だ。

 U―Dとレヴィの髪の一房が切られてしまったが、レヴィはそれを気にすることなくアサキムから距離をとる。

 と、同時に砲撃と咆哮が鳴り響く。

 

 「レイストレイターレイト、シューット!」

 

 「オオオオオオオオオオッ!!」

 

 「…ちっ」

 

 リインフォースの持つガナリーカーバーから連続して吐き出される赤紫色の収束砲。その陰から、マグナモード状態のガンレオンがアサキムに向かって突貫していく。

 その攻撃のおかげでアサキムはU―Dから距離をとることになった。

 相変わらずの魔力の暴風の中だったが、高志とリインフォースの介入で他の全員も正気に戻った。

 

 「っ。王様、ここは一旦引きましょう!目的は果たしました!」

 

 「ええいっ、我に指図をするでない!」

 

 「王っ!ここは引くべきです!『傷だらけの獅子』と『悲しみの乙女』が彼を抑え込んでいる間にここは体制を立て直すべきです!」

 

 「シュテルまでっ…。だ、だが、このまま奴に馬鹿にされたまま退くなど…」

 

 「ディアーチェ!!」

 

 「ううっ。わ、わかった。分かったから怒鳴るでないリニス!…ゆくぞ!U−D!」

 

 「…でも」

 

 キリエやシュテル。そして、リニスに怒られながらU―Dの手を取りながらディアーチェも撤退する為に転移しようとした。が、

 

 

 

 ―…させないよ―

 

 

 

 ギィイイイインッッ!!

 

 

 

 「っ!?」

 (アサキムの魔力が、またが増大した!?)

 

 高志の援護射撃をしていたリインフォースは膨大な魔力をアサキムの方から感じ取った。そして、アサキムを捕まえた高志もまたその異常さを感じ取っていた。

 

 「邪魔を…するな!」

 

 アサキムは高志に組み敷かれながらも、彼の体全体に魔方陣を転写する。

 そして、

 

 (いけないっ!これは((短距離転送|ショートジャンプ))だよ!早く、解除しないと…)

 

 シュンッ。

 

 高志の中でアリシアはガンレオンに書き込まれた魔法を打ち消そうとしたが間に合わなかった。

 ((アサキム|狩人))がわざわざ((スフィアリアクター|獲物))遠い場所に転送するなどということはしない。その死角を突かれた。

 予め、それを予測していれば対処は出来ただろうが『傷だらけの獅子』はあっさりと転送されてしまった。

 スフィアの力もあるから今いるからそう遠い所ではない。今いる世界。地球のどこかに転送されたのだろう。

 

 「逃がしはしないっ、『偽りの黒羊』!君は既に覚醒間近だ。…今の君を殺せば十分にスフィアを手に入れることが出来る!」

 

 ガンレオンが転送されたのを見てアサキムは再びU―Dの所へと向かう。

 だが、再び青い閃光がアサキムに向かって突撃をする。

 

 「させないよ!王様も、シュテルんも、リニスも、U―Dも僕が守るんだ!」

 

 高速で飛来してくるアサキムに対して、レヴィは自分のバリアジャケットを一度解除する。

 そして、フェイトのソニックフォームにも似た状態のバリアジャケットを再展開しながらアサキムに斬りかかる。

 

 「スプライトフォームッ!」

 

 レヴィはアサキムにぶつかる手前でさらに加速する。が、

 

 「…邪魔だ!」

 

 レヴィとぶつかり合い魔力の竜巻を発生すると同時にお互いが持つ武器で叩きあう。

 一瞬の間の乱撃戦。

 そのぶつかり合いによって、辺り一帯には竜巻が巻き起こる程だった。

 

 ガガガガガガッガアアアアアアアアアァンッッッ!!

 

 竜巻の間から時にボロボロになったレヴィとアサキムの姿が見えた。

 

 アサキムがレヴィに向かって剣を持って襲い掛かろうとし時、レヴィが斬りかかる。

 その二人がぶつかりあった瞬間。再び竜巻が巻き上がり、球体のように彼等の周りを覆い隠そうとする。

 

 「でぇいっ、やあっ!このぉっ!」

 

 「ふっ。ぜぇい!甘いっ」

 

 魔力の繭の中で何が起きているか分からない。が、先に飛び出てきたのはレヴィだった。

 

 「やっぱり僕さいきょ―!『僕』は『力』のマテリアルだから当然だよね」

 

 未だに竜巻で出来た眉をしり目にレヴィは高らかに声を上げる。

 

 「終わったのならさっさと我等の所に来い一度撤退するぞ!」

 

 「はーい、王様。それもそうだね。僕のオリジナルのフェイトが来るかもしれないし…」

 

 と、王の手を取ろうとしたレヴィの手を弾くリニス。

 

 「…リニス?」

 

 「おいっ、何故レヴィの手を払うのだ!」

 

 と、レヴィとディアーチェの間に入るようにリニスが入ってくる。

 

 「ディアーチェ!彼女はレヴィじゃない!」

 

 (…ちっ)

 

 「なにを言って…。がはっ!」

 

 リニスの言動に対して追求しようとしたディアーチェの背中を貫く赤黒い剣を持ったレヴィ。

 

 「王!」

 

 シュテルが自分の王の背中に剣を突き刺しているレヴィに向かって収束砲を放つ。が、レヴィはそれをみると王の背中に刺さっていた剣を引き抜きながらその砲撃を受け止めた。

 

 [ソニックムーブ]

 

 「え?…消え、た」

 

 どんっ。

 

 「がはっ?!」

 

 「後方注意だね。模造人形」

 

 先程の王と同じようにシュテルの背中に突き刺された剣があった。

 

 「やれやれ。黒羊の周りには余計なものが多いね」

 

 そう言いながらレヴィの姿がアサキムに変化する。いや、もともとアサキムがレヴィとの打ち合いの途中で変化してレヴィを倒し、魔力の繭が解ける前にマテリアル達に近付いて、倒した。

 

 「お、おのれぇえええ。だが、我々は…」

 

 「消えなよ。木偶人形」

 

 ディアーチェが何か言っている途中でアサキムリニスにもたれかかっている彼女に刺さった剣を握り、力を込めようとする。

 同時に、魔力の繭が完全に解けたところに出てきた少女の姿。

 だらしなく浮遊しているレヴィ。どうにかしてアサキムに砲撃を与えようとしたシュテルも同様に力無くその場に浮いているだけだった。

 

 「…あ、あああ、やめてください!私のスフィアを上げるから!!もう、これ以上この子達を殺そうとしないで!」

 

 アサキムと目があったU―Dは三人のマテリアルの体を貫き、二度と再生できないように粉微塵に粉砕するつもりだった。

 

 「出来るものならやってみるといいよ」

 

 その表情を見てアサキムは笑みを浮かべようとした瞬間だった。

 

 「…ならば。やらせてもらいます!」

 

 ディアーチェとは似ても似つかない礼儀正しい声が彼女の口から吐き出される。

 

 「「「え?!」」」

 

 「…ちっ」

 

 その場を見ていた全員が驚く。

 それは剣で攻撃したアサキムも含めて。

 

 「…貴女が戦っている間。((U―Dの攻撃|大きな嘘))に隠れている((ディアーチェが魔法で私に変化し、私がディアーチェに変化した|小さな嘘))には気づかなかったようですね。『知りたがりの山羊』!」

 

 ガキィッ。

 

 アサキムの剣で貫かれていたディアーチェの体が一瞬ぶれる。

 そして、次の瞬間には背中を剣で貫かれたリニスがその手に持った杖の先をアサキムの鎧の隙間。関節部分に突き刺していた。

 その杖の先から((迸る|ほとばしる))黄土色の雷。

 

 「闇を切り裂く閃光の刃…。プラズマ、セイバァアアアアアア!!」

 

 「グゥアアアアアアアアアアアアア?!!」

 

 ズガッガガガガガアガガガガガッがガガガ!!!!

 

 杖の先から飛び出すように突き出した巨大な雷の剣がアサキムの鎧に突き刺さる。

 鎧の関節部。それは可動域を狭めないために装甲を無くす。もしくは必然的に削らなければならない部分。

 そこだけを貫くためにリニスは全力を投じた。

 ディアーチェに化けた自分を的にしてアサキムの鎧に一瞬でも亀裂を作る為に。

 

 そして、それを見ていたディアーチェもリニスの姿から元の姿に戻る。

 その先に十字の剣を象った王の錫杖。

 いつの間にか王の後ろには巨大かつ凶悪な気配を漂わす魔方陣が幾つも展開されていた。

 

 「でかしたぞっ、リニス!吼えろ!ジャガーノート!!」

 

 その魔方陣から幾つもの黒い球体が吐き出される。

 その小さな黒い球体はアサキムとリニスの周りを囲うように留まる。が、それも一瞬の出来事。

 それは爆発するかのように膨れ上がると辺りの空間を破壊の魔力で覆い尽くした。

 いくら頑強な鎧でも亀裂があればそこから染み入り、ダメージが入る。

 

 グゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!!

 

 「ちょ?!王様!リニスさんがいるのになんてことを!」

 

 はやては王様の攻撃に待ったをかけようとしたがそれはもう遅い。

 

 アサキムとリニスがいた空域は完全に破壊の魔力で満ち溢れている。

 アサキムは耐えているとはしても、リニスは助からない。

 あの((空間の中にいれば|・・・・・・・・))。

 

 「喚くな!小烏!我は臣下を死地に追いやろうとも殺したりはせぬ!それが我が道よ!」

 

 「よく言いますよぅ、王様ぁああ〜。一人ぐらい持ってくださいぃいい」(といっても、私はこの人達をあの黒い鎧に見つからないように高速で動き回ってマテリアルちゃん達を拾っていただけなんだけどね〜。本当にすごいわ。この猫耳さん。私がこの人の指示を無視したらどうしていたのかしらね…)

 

 「キリエ?!いつの間に!」

 

 自分の妹が数人の少女達を背負っている姿を見て驚きの声を上げるアミタ。

 それをよそにディアーチェは転移の魔法を発動させる。

 

 

 

 リニスは予めいくつかの案を王とキリエに伝えていた。

 そのうちの一つが時間稼ぎだ。

 アサキムとU―Dが戦っている間にレヴィを除く陣営に撤退の作戦を知らせた。

 まともに戦っても勝てないと野生の勘がそう感じ取ったのか、彼女の作戦に誰も文句は言わなかった。

 王かシュテルか((自分|リニス))。三人が足止め兼脱出の魔法を図りつつ脱出用の転移魔法を構築する。レヴィは細かいことが出来ないから足止めに奮起してもらう。キリエが負傷者とU―Dの回収。

 

 

 

 それが見事に成功した。

 ただし、シュテルとレヴィはしばらく戦闘不能。自分自身も大ダメージを負って動けそうにもない。

 

 はやての言葉にディアーチェは鼻息を荒げながらふんぞり返る。

 そして、彼女の後ろには、レヴィ、シュテル、リニスの三人を抱えながらも、U―Dもしっかりと連れてきたキリエがいた。

 

 「黙れ桃色頭!謀反の疑いがあるのに手伝わせているのだぞ!…まあ、我が臣下達を回収できたことは褒めてやる。U―D来いっ、撤退だ!」

 

 「ちょ、ディアーチェ!」

 

 「は〜い。それじゃあ、お姉ちゃん。…またね♪」

 

 シュン。

 

 と、ディアーチェ達が転移すると同時に彼女の生み出した破壊の魔法も霧散する。

 

 「……逃げられたか」

 

 霧散していく魔力の中で辺りを見渡すアサキムはぽつりと呟くとその真下からマグナモードのガンレオンが飛び出してくる。

 

 ドォンッ!

 

 「でぇいっ!アサキム!海溝近くに転移なんかするんじゃねえ!マジで引き潰されるかと思ったじゃねえか!」

 

 (怖かった!ものすっごく怖かったよう!マグナモード状態じゃなかったら水圧に潰されていたよう!)

 

 ガンレオンの重圧な装甲。そして、((超強化状態|マグナモード))。

 彼の言葉通りそれのどれか一つが欠けていたら高志は死んでいた。

 しかし、その言葉を聞いて謝るどころか不思議がるアサキム。

 

 「…高志。君は何をした?何故、スフィアの((力が弱まっている|・・・・・・・・))?」

 

 以前の高志ならアサキムの魔法でももっと近くに転移しているはずだった。

 それなのに高志が思っていた以上に転移していたのが気になった。

 スフィアの力があるのにどうしてそんな遠くに転移したのか不思議だった、

 

 「?何を言って…」

 

 「それに、何故((激痛|・・))に苛まれていないんだ」

 

 「っ。…別に痛くない訳じゃない。今でも体はギシギシと痛い。だけど、ガンレオンに『揺れる天秤』を封印してからこうなった」

 

 高志は正直に答える。

 とは言ってもアサキムに言われるまで気づかなかった。というよりも、あの事件から今までスフィアを使っていなかったからわかるはずもない。

 アサキムに下手に言い訳するよりは正直に答えた方がいい。勘ぐられて話さない以上に状況が悪化するだけだから。

 

 「…なるほどね。『揺れる天秤』を抑え込んでいる分、『傷だらけの獅子』の力が引き出せていない。その分、君は激痛を負わなくてすんでいるわけか」

 

 (おお、ラッキーだね。お兄ちゃん♪…でも、残念)

 

 (その分パワーダウンもしているけどな。て、残念?!)

 

 アリシアとしては、マグナモード後は絶好の悪戯タイムだからマグナモードの後遺症軽減は面白くなかった。

 

 「…そんな状態で僕に勝てるというのか?その手立てがあるのかな?」

 

 「…ぐっ」

 

 以前ならアサキムすらも圧倒する速さと力があったのに今の状態では追いつくのが精いっぱいだった。

 

 他の皆の力も合わせれば…。

 

 と、言いたいところだが正直な所、それは無理。

 アサキムにスフィア以外で対抗できるのは逆ユニゾンしたリインフォースのみ。よって現状ではアサキムを倒す戦力を有してはいないのだ。

 

 「………ここは退こう。『偽りの黒羊』を見逃すわけにはいかない。…高志、君が僕に勝ちたいというのならその封印を解くんだ。いいね?」

 

 そう言って、アサキムもまた転移していった。

 

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 それからしばらくして…。

 

 ガキンッ。

 

 「バインド?!」

 

 その場にいる中で一番最初に現状を把握したクロノはアミタにバインドをかける。

 

 「すまないが拘束させてもらう。こちらは時空管理局の者だ。アミティエ・フローリアン。只今、こちらの世界では厳戒態勢を敷いているところだ。悪いがこの事件が解決するまであなたの身柄をこちらで預からせてもらう」

 

 「…黙秘権はありますか?」

 

 自分以外はおそらく敵対勢力。

 逃げられないと悟ったのかアミタは素直に従いながらも質問する。

 

 「もちろんある。だが、貴女には今の現状も知ってほしい。そして、可能な限り情報提供をしてほしい。これも強制はしない。ただ、今ある状況を知って欲しいんだ」

 

 「…うう、出来ればすぐにでも解放してほしいのですが」

 

 「先程の黒い鎧の人物についてでもある。貴方にとっても有益になるはずだ」

 

 「…わかりました」

 

 アミタとしてもいきなり現れた強大な魔力の持ち主であるアサキムの情報が欲しい。

 妹のキリエを自分達の世界に連れ戻すためにも彼女はここで暴れるよりも協力する方がいいと考えた。

 

 こうして、アミタと高志達は一度、アースラに戻ることにした。

 

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 ―同時刻。海鳴市上空―

 

 「…ここにもいないか。『偽りの黒羊』。一体どこに」

 

 アサキムはシュロウガの鎧を解いて索敵魔法に全力を注いでいた。

 索敵しているのはもちろんU―D達の足跡。だが、どうやらまかれてしまったようだった。

 だが、彼女もスフィアリアクター。

 いずれは巡り合う。それが同じ世界いればなおのこと。

 気を取り直してもう一度めぼしい所に転移しようとした瞬間だった。

 

 「…ん?」

 

 「きゃあああああ!?く、クリスッ。空中制御っ。はうっ?!」

 

 ぼすっ。

 

 と、可愛らしい悲鳴と共に自分の頭の上に何かが落ちてきた。

 落ちてきた方も浮遊魔法を使ったタイミングのおかげで鳩尾にアサキムの頭が当たったが、触れるといった衝撃で済んだ。

 

 「…っ。君は?」(わずかだけれど、スフィアの気配が!…だが、あまりにも弱々しい?)

 

 アサキムは頭の上に落ちてきた紅と緑の瞳を持った少女に問いかけながら彼女に『知りたがりの山羊』の力で彼女の事を調べてみる。

 

 「ご、ごめんなさい。私は高町ヴィヴィオと言います」

 

 その日。

 アサキムはこの世界で忘れることのない少女の名を知った。

 

 

説明
第九十一話 大きな嘘と小さな嘘
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コメント
アサ×ヴィオ・・・・・・なんだ、この胸熱な響は・・・(孝(たか))
・・・ゆりかごが水瓶だったのか?(453145)
あれ?アサキムは『揺れない(使えない)天秤』クロウから『原作(知識/記憶)』を手に入れてたような?……まあ、二次元キャラと作品内現実世界の人間だと別物すぎて判らないのが普通か?(hikage961)
未来組はヴィヴィオだけかな?まあ、スフィアと関係ありそうなの聖王ぐらいか。(hikage961)
ま、まさかヴィヴィオxアサキムなんてことには・・・(りんどう)
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