Secret Diary:Introduction
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飛び散る汗が歌になり

流した涙が星になる

 

 

        私達は0048

 

 

                たとえどんなに遠くても

                ((星|なみだ))を超えて

                会いに行くよ

 

Secret Diary:Introduction

一次創作「AKB0048」

 

※作中、五代目大島優子が「七四期研究生」であると記述されていますが、これは執筆時の想定で有り正しくは「七二期研究生」になります。本作品は頒布版を正としますのであえて訂正しておりません。ご了承ください。

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○イントロダクション

 

((秋葉星|アキバスター))。芸能絶対防衛圏にあり、銀河の芸能の中心である。

各種施設は地下ドーム内に作られていた。ホログラフであるにもかかわらず、まるで自然のものであるような透き通る青空が、人々に安らぎを与えてくれる。管理された温暖な気候と相俟って、巨大リゾート都市としても機能する、エンタテイメント都市惑星だ。

 

かつて人類の母の星であった地球で、オーバーテクノロジを巡る人類史上最大の戦乱の中、芸能――歌やダンスやその他パフォーマンス――を守り続け、各国の移民船がもはや住めなくなったあの星を捨てる最期の一瞬まで、輝き続け、励まし続けていた伝説のパフォーマンスグループ、AKB48。

彼女たちの本拠地であった秋葉原にちなんで名付けられたこの星にAKB48の意志を継ぎ、彼女たちの名前をいただいて活動するグループ、AKB0048があった。

多くの星が((D.G.T.O.|深銀河貿易機構))の影響の元、芸能が禁止されているこの銀河で、彼女たちは現地政府や、D.G.T.O.の実行組織であるDES軍が実力を持って阻止しようとも、ゲリラライブを敢行する、芸能の伝承者でもあった。

 

AKB48がその活動の中心を劇場においていたのに習い、0048は、ゲリラライブを行わない平常時には、この秋葉星の専用劇場での公演を行っている。

従来は、厳しい戦闘訓練に耐え選び抜かれた精鋭である〈襲名メンバー〉――かつてのAKB48のメンバーの名をいただくそのメンバーのみがステージにたつことを許されてきた。しかし、蘭花星で00史上初めての研究生による公演が行われた。それを受けて、研究生の技術向上とモチベーションのきっかけとなることを目的として、毎月第二土曜日の((昼公演|マチネ))は、研究生による公演が専用劇場でも行われるようになっていた。

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○研究生劇場公演にて

 

00メンバーではあるにせよ、研究生の人気は襲名メンバーに比べてやはり落ちる。その日、研究生公演に集まった観客は、劇場の七割ぐらい。それでも研究生公演としては、かなり客が入っている方だ。

研究生公演は、襲名メンバーのスケジュールの緩和を目指してもうけられたものではあるけれど、次世代を担う研究生自身のライブ経験の蓄積をも狙っていたから、フロントメンバー、センター、メインMC等は持ち回りで行われる。今日のセンターは、目下研究生での人気第一位の七七期生園知恵理、メインMCは同じく七七期の神崎鈴子が予定されていた。

もちろんチケット販売時には出演メンバーが発表されているから、通常五割以下の入りである研究生公演で、七割のチケット販売数というのは、鈴子のMCか知恵理が目当てのお客様が多いからかもしれない。

 

二ベルが鳴って客電が落ちると、元気よくメンバーがステージにあがる。襲名メンバーによる正公演と違って、研究生の公演は前座がいない。舞台に上がった瞬間から自分たちで観客を暖めていかなければならない。

 

overtureが流れる中、両袖から元気に鰐淵恵、神崎鈴子、園智恵理、横溝真琴がかけ入ってくる。個々に手を振ってアピールしながら定位置につくと、すぐにイントロが流れ始めた。今日の一曲目は「RESET」研究生公演としては挑発的なセットリストだ。

 

続けて二曲目を歌い終わった時、一旦全員が三列に並ぶとMCが始まる段取りだった。だが、誰もしきり始めない。ちょっとした間の後、こらえきれずに七五期生であり、研究生のキャプテンでもある東雲彼方が、後列から声をかける。

「こら、今日のMC当番は誰だ?」

前列のメンバーが一斉に鈴子をみる。彼女は一瞬不思議そうな間を見せたがすぐに思い出したようだ。マイクを両手で持って答える。

「あ、私です」

「もう、なにやってんの鈴子ー」

中列から同期の一条友歌がつっこみを入れる。鈴子ははにかんだほほえみを見せて一瞬視線を中列に送った後、客席を見て、まるでなにもなかったようにMCを始めた。

「みなさん、こんにちは。AKB0048、研究生です。今日はよろしくお願いします」

それを合図に全員が深く礼をする。客席からの拍手を充分にまって、頭を上げた鈴子は、続けて挨拶をした。

「本日のMCは、七七期生、AKB愛なら誰にも負けません、神崎鈴子が勤めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」

と再び頭を下げた。

「今日のメンバー紹介です。それぞれが自己紹介をさせていただきます。順番は私が決めていいって言われているんですけれども……では、姫子さん」

00らしくガチで打ち合わせなしの様だ。鈴子の一期上、雪下姫子は、舞台用に高い位置で止めた髪をゆらしながらちょっと慌てて列の前にでた。

「いきなり後列なのか。こほん。ちょっと酸っぱいレモン味、でも私は甘いレモンミルク!七六期研究生、レモンちゃんこと雪下姫子でーす」

姫子がキャッチフレーズを言い終わるとすぐに、七六期生を中心に茶々入れる。

「偽れもんー」

「偽じゃなーーい、ちがうのー」

手をばたばたしながら否定する姫子。会場からくすくすと笑いがこぼれる。

彼女は自分の目標とする市川美織を常に意識していて、キャッチフレーズも三代目市川美織のものだ。だから、それを前提とした茶化しでもあるのだ。

「はい、先輩ありがとうございます。つぎはー、鰐渕先輩」

割と淡泊に進行する鈴子の指名に合わせて、姫子と入れ替わった鰐淵恵は、前座だけでなく、既にアンダーで何回も本公演に出ているだけあって、慣れた様子で合いの手のタイミングを取った。

「「メグたんは、魔法を使えるのー?」」

メンバーだけでなく、観客もすでに何人かは覚えていてくれて、きちんとあせてくれている。

「僕が使えるのはみんなを笑顔にする魔法だけー!七六期研究生、メグたんこと、鰐渕恵です。今日はよろしくお願いします!」

すでにある程度の知名度があるメンバーはやはりなんと言っても客席の反応が違う。そんなことを計算に入れているのか、鈴子はランダムに選んでいるように見せて公演経験の少ないメンバーを公演経験があるメンバーで適宜挟みながら、客席の反応が偏らないように紹介メンバーを呼んでいく。

 

「今日はこのメンバーで……」

一六人が自己紹介を終え、そこまで鈴子が言ったところで、前列上手、鈴子と反対側に並んでいる真琴がMCに割り込みを掛ける。

「まってまってまって!鈴子ぉ、まだ一六人しか紹介してないよぉ?ここには一七人いる気がするんだけど!」

この辺もすでに研究生公演ではお約束の展開だ。

前列の上手側のメンバーが、鈴子を残し、センターの知恵理の隣に場所を作りつつ、さっと座ると、後列端から勢いよく一人のメンバーがかけだしてきた。入れ替わりに真琴は中列に下がる。

「ハイハイハイハイ。いつもキラキラ、あなたの心を照らす光になりたい、七四期研究生……だった、君島光、こと、五代目大島優子です!よろしくおねがいします」

会場からひときわ大きな拍手と声援が。やはり襲名メンバーは格が違うと言うところか。ゲストの襲名メンバーは事前告知されないのだが、人気上位の大島優子の登場を予想したのか、彼女の名入りの特攻服を着たWOTAもちゃんと顔を出している。

「というわけで、本日のシークレットゲストは五代目大島優子さんです!どうぞよろしくお願いします」

鈴子が改めて紹介すると、研究生達は手をひらひらさせて大先輩の登場を盛り上げた後、ゆっくりと立ち上がった。

「はいはい、よろしくねー、いやー大きな舞台でキャッチフレーズ言うのって照れるね。みんなよくやってるなあ」

今は特にキャッチフレーズをつけていない大島優子はちょっとテレながらそう話題を振った。智恵理が話題を受け取る。

「ゆうこさん、今のキャッチフレーズ、研究生の頃の奴ですか?」

「そうだよ」

「あの頃、今のキャラと結構違いましたよね」

と、彼方。

「ええ、そうなんですか?」

七七期生は、優子が研究生時代を知らないから、みんな不思議そうな表情だ。

「昔は清純派だったの、あたしは」

「うわー想像つかないですねー」

後列から話題に入ってきたのは七七期生本宮凪沙。

「あたしらの頃はさー、研究生公演とかなかったじゃん。襲名前のキャッチフレーズとか、お披露目ビデオとかで数回しか言ったことなくてさ……考えてみるとちょっと安直だよね」

「そうですね」

「そこ肯定するか。で。話戻すとね、私もお披露目の時は清楚系だったわけ」

さらっと肯定する鈴子の発言を拾いつつ、話しを戻す優子。

「なかなか人気でなくてさ。で、もう、えいやってね。そうしたらありがたいことに大島優子さんを襲名させていただいて……」

「あの時は研究生のみんなも結構驚いていましたもの〜」

七五期生の岸田美森は合いの手を打つ。

「自分の可能性を否定しないで、いろいろやってみるのは大事だと思うんだよね」

「みんな聞いた?今すごくいい話してるよ、ゆうこさん」

と、七六期の高山晶が、研究生に呼びかける。

「ほらほら、研究生だけで話してるんじゃないんだから……あ、私が研究生だったころから押していてくださった方いらっしゃいます?」

視点が板の上だけで完結してしまっていると感じた優子は、客席に向かって呼びかけた。サイリュームが一斉に揺れる。

「あー、結構いる!やっぱりゆうこさん人気だったんすねー」

真琴が感心する。

「昔こんなに握手会にきてもらってなかったけどなぁ。じゃあ、清楚系だった頃、押しだったけど、今は押し変しちゃった人!」

さっきよりもかなり多い数の人がサイリュームを振った。

「うわ、結構いますよ!清楚系でもいけたんじゃないですか?」

もちろん客席は、流れを見て振っているんだけれども。

「おお、今から路線、再変更しようかな!」

「清楚系大島優子っていうのは新しいですね」

「あははは、そうだねー」

優子の視線の先で鈴子がMCらしく合いの手を入れる。優子は続けて会場に視線を戻した。

「私の話ばっかりでもなんだからー。じゃあ、今、研究生押しの人、挙手!」

「あ!結構いる!」

「うわー、ありがとうございます!」

口々にお礼を言ったりお辞儀をしている研究生に対して、ほほえましい視線を送りながらも、客席をざっと眺めた優子は、自分の特効服を来ているWOTAが緑のサイリウムを振っているのを見つけた。

「そこー、私の特効服着てるじゃんかよ!押し変?ちがう?代替わり待ちか!それはすごい待つぞ!」

そのWOTAは後ろの座席に座っていたけれども、巧みにサイリュームを操ってコミュニケーションをとってくる。智恵理は、お客さんもある意味プロなんだなと思いつつ、素直に感じたことを言った。

「ゆうこさんじゃない人がゆうこさんなの想像できませんものね」

そうだ、今すぐ隣でしゃべっている、あこがれの大先輩と違う人が大島優子を名乗っている姿は全く想像ができない。

「あ、でもそれ、襲名当初私も言われた」

それもまた想像ができない。

「えーーー、そうなんですか?」

「先々代のファンの方に『おまえはセンターノヴァがとれるんだろうな』って」

ちょっと思い出したのか、優子は渋い表情を作った。

「え!そんなに長いファンの方が!」

そうなのだ。AKB0048は襲名制。自分自身のファン以外にも、その名に引かれるファンもいるのだ。

「ほら、名代押しの方ってすっごく思い入れが強いじゃん、初代のイメージにさ。でもそれもちゃんと見て、応援してくれてるって事だからさ。心強いよね、そう言うの」

きちんとフォローも忘れない。

「そうですねー、近くで見てて思います」

アンダー常連のちえりはさりげなく〈近く〉という言葉を交えてアピールをしている。

「みんなもさ、自分自身のファン以外に、いずれは襲名した名代のファンの期待にも添わないといけないんだからさ。ホントがんばっていかないとね」

「はい」

初々しい研究生の返事を聞いて、優子はほほえみつつ、もうそろそろつっこみを入れないとまずい時間かなと感じた。

「で、向こうでスタッフさんが巻きのサイン、ずっと出してるけどいいの?鈴子?」

「あ、そうでした!じゃあ、お話盛り上がってますけれど、次の曲、いきますね!聞いてください」

さしてあわてる感じでもなく、マイペースに進行に戻った鈴子の、その言葉をタイミングにして、全員が声をそろえて次の曲のタイトルをコールした。

「「彼女になれますか?」」

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○鞄の本当の中身

 

公演の後。寮に戻って自由時間になっても研究生同士いくつかのグループに分かれて反省会をしていた。普段行動をともにすることの多い七五期生と七七期生はもともと仲がよかったのだけど、研究生劇場公演が始まってから七六期生と七七期生の間にあった、お互いに同期と仲がよすぎてうまく混じっていけない壁のようなものが徐々に崩れつつあった。これも公演の効果なのだろう。

 

通称「ボケチーム」のリーダー的存在で、今日は公演にはでていなかった山本瑞穂に呼び出されて、真琴は客観的なダメ出しをもらって帰ってきたところだった。ドアを開け自分たちの部屋に入りながら第一声のぼやきをあげる。

「もう、瑞穂さん厳しいっすよ。というか私ボケじゃないんだけど……あれ、友歌なにやってんの?」

視線をあげた真琴がみたものは、ルームメイトの友歌の姿だった。折りたたみテーブルの上にあふれんばかりにいろいろなアイテムを次々並べている。

「あ、真琴おかえり。鞄、重くなってきたから整理しようと思って」

こともなげに答える友歌に真琴は驚愕した。

「え?これ全部あの鞄に?」

「全部って言うか、まだ半分しか出してないんだけど?」

真琴はたじろいだ。が、なにかリアクションを取る間もなく、その後ろからやはり同室の東雲楚方がいつものように着ぐるみ系室内着をきて顔を出す。楚方は目下研究生最年少。研究生キャプテン彼方の実妹でもある。

「なになに?何の話ぃ」

その質問に友歌が答える暇を与えず、さっとテーブルに駆け寄った彼女は興味津々でテーブルの上を見ながら驚嘆した。

「おぉぅ、大量」

今日は休演だった楚方は元気一杯だ。いや、いつも元気が有り余っているから、たぶん今日出演だったとしても結局同じ調子だったのかも知れない。すでにテーブルの上のものにちょっかいを出し始めている、

「なにこれ?」

友歌がほかの荷物を整理している隙に、楚方はひょいっとハードカバーの立派な本を手に取った。

「あ、こら、日記帳!勝手にとらない!」

「うぉぅ、日記帳ぅ!……ってなに?」

大げさに驚いた後、聞く。

「その日の出来事とか思ったこととかを記録しておく、紙で出来たノートだよ」

藍田織音が読んでいた本の表示を消して横に置き、体を起こしてベッドの縁に腰掛け直しながら補足する。織音は友歌と同じ、藍花星の出身だ。

「なんだ、日記か」

楚方はがっくりした口調で答えた。

「日記ってコンピューターとか携帯でつけるんじゃないんすか?」

真琴が感じた素直な疑問には、織音が優しく答えた。

「藍花星では、本当に大事な出来事は、紙の日記に付ける習慣があるの」

「へー、そうなんすね、私、紙なんてはじめて見ました」

素直に感心する。普段デジタルデバイスにしかふれていない彼女たちにとって、「紙」という言葉には古代文明の秘宝のような響きがある。

「なんだか、魔術的っすね」

「そうかなー、私たちの星では教科書とかも紙だったから」

そんな二人のやりとりの間、楚方は日記の外見をぐる見回して観察し、どうやらここが開くのだと確信して、力を込めて開けようとした。

「んーーんーーぬーーーくぎゃーーっ」

いつものように不思議な叫びとともに力を掛けたが、いっこうに開く気配はない。さらに力を入れたところで、日記帳は手をすり抜け、宙を舞った。楚方は反動でしりもちをついている。

「開かないっすね?」

床に落ちた日記帳をしげしげと見る真琴を押しのけて、拾い上げた友歌は、

「あんた達バカなの?ここ見なさいよ、ここ。大事な内容なんだから鍵かけてあるに決まってるでしょ!」

と言って、表紙に掛かるベルトとそこについた小さな鍵穴を指さした。一見華奢に見えて装飾ではない実用的な役割をきちんと果たしているようだ。

「そっか、なるほどぉ」

素直に感心する楚方をにらみながら、友歌はそれを大事に鞄に戻した。

「おぅ?あけてくれないのぉ」

もうその場で友歌自身が鍵を開けてくれるものだと信じ切っていた楚方は不満そうに訴える。

「あのねぇ、何でわざわざ鍵をしているものを開けてさらさないといけないわけ?」

「ぶーー、ユーカのけっちんぼー」

「はいはい、けちで悪うございましたね。ちゃんと順番に入れないと全部入らないんだからね、これは」

さらりと当然のようにいう彼女の何気ない発言に、真琴と織音はつっこみを入れざるを得なかった。

「……ってことは、整理すれば鞄に入るんすね、この山のような荷物……」

「……そうみたい、だね。まあ、元々入ってたものだし……」

「……織音も驚いているってことは、藍花星の鞄が全部そうなってるわけじゃないんすね……」

「……と思うよ。多分……」

彼女の鞄がどういう構造なのかは、相変わらず謎であったが、机の上いっぱいにでていたものは、どんどん鞄に収納されていた。

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その日の消灯時間をしばらく過ぎた頃。

二段ベッドの一番上、ひょこっと起きあがった楚方は自分としては声を殺しながら、でも割とふつうに聞こえる声で言った。

「キシシ。ユーカにぃ怒られたぐらいで楚方があきらめるわけないのだー」

注意深く、と本人が思っているだけの軽快さではしごを下りる。一番下に寝ている友歌に顔を近づけて、さすがにささやくように確認する。

「ユーカ、ユーカちゃーん。聞こえますか?楚方は今隣で直接話しかけています。寝てますか?寝ていないと大変なことになりますよ?」

全く反応しない。友歌が吹き出さないのをじっくり確認して振り返った楚方は、テーブルの上、中身を整理し終わったけれどまだそこに置かれている鞄にそっと近づいた。

「キシシシ。楚方はみたいと思ったら、がまんできないの〜」

別に心情を声に出しす必要は全くないのだが、そう言うところに「自由人」気質が出てしまっているのかもしれない。彼女は自分のうさちゃんパーカーのポケットを探って鍵を取り出した。

「ジャーン、こんなころもあろうかと、さっき荷物から抜き取っておきましたぁ、楚方あったまいいー!というわけで早速」

友歌の鞄を漁る。いくつかの荷物を鞄からあふれ出させながら、目的の日記帳を見つけた楚方は、早速鍵穴に鍵を差し込もうとした。

「鍵穴ーぁ、鍵穴ちゃんー。むー、暗くて見えない……」

「これでどう?」

誰かの声とともに部屋の明かりがつく。

「あ、あかりついたー。よくやったぞ……げぇ、ユーカぁ!」

「まったくもー。鍵抜き取とられて私が気がつかないとでも思ったの?」

「ごもっとも」

「それに、あんたが抜き取った鍵、その日記の奴じゃないし」

衝撃の事実。まあふつうに考えれば鍵が錠前と同じ場所にしまってあるわけがないのだけれど、まだまだ幼い楚方は素直に考えたのだろう。半信半疑で鍵穴に差し込もうとして嘆く。

「なんですとぅ?ほんとだ、形合わない!」

「だから違う鍵だって言ってるのに。その日記の鍵はここにはないのー。そしてここにある鍵は別の場所にある日記の鍵なのー」

少しバカにしたようなニュアンスで友歌が宣言すると、楚方は何ともいえない顔をして悔しがった。

「あきらめがついたら寝る寝る。明日は楚方と私で公演の前座やるんだからね!」

腰に手を当てて楚方をのぞき込みながら宣言する友歌の声が少し大きかったのか、逆側のベッドの上から真琴の声が聞こえてきた。

「うみゅーん、なにごとですかぁ……」

「ほら、真琴が起きてきちゃったでしょ!」

慌てて声をひそめる。

「うーん……このたこ焼き、中に串揚げが入ってるっす……」

単なる寝言だったようだ。友歌は友達に迷惑がかからなかった事に安心しつつ、小声のまま思わずつっこみを入れた。

「なんだよその寝言……っていいからあんたは日記帳を返す!」

楚方の手から日記帳を奪い返すと、ひとまずあふれ出たものはそのままにして、大事に日記帳をしまい込んだ。

「ほら、電気消すよ?戻れ戻れっ」

「ちぇーーー」

楚方は不承不承ながら、梯子をあがって自分のベッドに戻る。友歌は日記帳を鞄にしっかりしまったのを再度確認しながら、心の中でつぶやいた。

『これは大切な日記帳なんだから……』

誰にも見せない、思い出の日記帳。ある意味彼女の心を支えてきたお守り。その淡い思いを友歌は思い出していた。

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夜中にふと目が覚めた織音は、部屋のテラスで誰かが外を見ているのに気がついた。起き上がって自分もテラスに出る。そこに居たのは友歌だった。

 

「友歌、眠れないの?」

声を掛けると、友歌が振り向いた。こっそりと涙をぬぐった事に織音は気がついたが、気がつかなかったことにして話しかけた。

「友歌が緊張して眠れないなんて、意外だな。明日の前座のこと?」

友歌はゆっくりと首を振った。友歌がごまかさずに弱気な表情をしている時は、誰かに慰めて欲しい時だ。だから、織音はきちんと聞いて良いのだと思った。

「友歌、さっきのあの日記、護君のでしょう?」

「……うん……」

「お互いに夢を叶えたとき、一緒に開封すると結ばれるんだよね」

藍花星の同じ年代の子だったら誰でも知っている恋のおまじない。

「早く夢叶えて、一緒に開けないとね」

それを願っているのなら、信じているのなら。友歌はきっとここで泣いたりはしていないだろう。わかっているからこそあえて優しく聞いた。きっと彼女が自分で話さなければ、気持ちをはき出さなければ、友歌のもやもやは晴れることはないだろうから。

「ね、どうしたの、友歌?」

抱きしめながら聞く。

「あの夢。もうかなわないんだ。もう絶対かなわない。だけど捨てられなくてさ、日記帳」

友歌は思いをはき出すと声を殺して泣いた。織音は彼女が泣き止むまで、ずっと頭を撫でていてあげたいと、それだけを思っていた。

 

【続きは頒布版にて】

 

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コミックマーケット83 1日目(29日) 東5ホール ハ13a 「マドカミ町奇譚」にて頒布します。

説明
AKB0048 77 期研究生一条友歌の、淡い初恋の物語。友達にさそわれてサッカー部の練習を見に行った一条友歌がグランドで見つけたのは、先日廊下ででぶつかった、ムカツク男子「護」だった。はじめは反発し合っていた二人の気持ちが近づいていった時、すでに運命の歯車は密かに回っていた。00の一次審査の合格通知を受け取り、自分の心を打ち明けるべく夜の公演に護を呼び出した友歌だったが、お互いの「夢」が壁となって二人を引き離す。
テレビシリーズ第一話の前日譚。
【コミックマーケット83 1日目にて頒布予定作品より先頭部分を公開します】本篇は頒布物での公開のみになります。ご了承ください。
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