IS x アギト 目覚める魂 15: 強さ |
シュヴァルツェア・レーゲンのパーツがドロドロに溶け始め、ラウラを覆い隠して行く。ISとは基本的に形はフォームシフト以外では形は変化しない。だが、この現象はそれを覆していた。そのスライムの様な物は人の形へと徐々に変わって行き、そして現れたのは・・・・織斑千冬だった。
「雪片・・・・・お前・・・・・いい加減にしろよ。そんな物が・・・・・お前の欲して止まない強さだってのか?」
耳の中で聞こえるのは、轟々と流れる血管の血、そして加速する心臓の鼓動。鳴り響くアラーム音は調子の悪いラジオの様に聞き取れない。
『状況をレベルDと断定、観客席にいる方達は速やかに避難して下さい!』
「ふざけるなああああああああああああああああああああああああーーーーー!!!!」
知らぬ間にリボルバーイグニッションブーストでガルムを乱射、零落白夜を全身に纏って攻撃を始める。だが、どれも全て避けられ、流されてしまう。反撃、追い打ちを食らい、遂にはISまでエネルギー切れで解除されてしまう。生身のまま飛びかかろうとしたがすんでの所で飛び出した秋斗がGA-04Z ジェミニで彼とシャルルを拘束し、ピット近くまで運んだ。
「頭を冷やせ、馬鹿。気持ちは分かるが、そんな状態で向かって行っても何にもならないぞ。まずは落ち着け。ISで挑んでも勝てはしない、相手は現役時代の世界最強、いや少なくともそのコピーだ。だから、お前はお前として、織斑一夏として奴を倒せ。」
「でも、エネルギーが・・・・」
「なら、僕のリヴァイブからエネルギーを渡してあげる。」
コードを白式に繋いでエネルギーの流出を承認すると、シャルルのISが解除された。
「大した量じゃないけど。」
「無いよりマシだ。白式を一極限定モードで展開。」
右腕と雪片のみが現れる。それ程までにエネルギー量は微々たる物だったのだ。そして更に、わざわざ持って来てくれたのか、フレイムセイバーも渡された。一夏はその馴れた重みを感じて両手の得物を手の中で一回転させると、歩き出した。
「行くぜ。」
「い、一夏?!何を・・・・?!」
「黙ってみてろ、箒。」
箒を睨み付けた目が一瞬だが赤く発効した。ラウラが飲み込まれた黒いソレに向かって一直線に走り出し、フレイムセイバーを上空に投げ上げた。
「一夏は一体何をする気なのだ・・・・?!」
「見てろ。お前はあいつが強い事を肌で感じ取った筈だ。ブレない刃先、各子たる信念を持つ心、そして相手を全身全霊の全力を出して倒しに行くと言う礼儀。今のお前では到底勝てない。専用機の有無は関係無く、な。」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
零落白夜を纏ったその刃は、雪の様に白く眩い剣閃を描きながら一太刀を入れる。更に上空に投げ上げたフレイムセイバーを使って首を切り落とした。切り口からラウラがズルリと落ちて来たのを受け止めてやる。
「全く、手間のかかる奴だな。お前は。」
そして、一夏の意識は何かに飲み込まれた。白い空間に一夏とラウラが立っている。
(お前は・・・・・何故そこまで強いのだ・・・・?何故私を助けた?)
(なりたくてなった訳じゃない。強く見えるのは、気のせいだ。後お前を助けたのは・・・・お前がそれを求めたからだ。口に出してはいないだろうが、お前の表情がそう言っていた。だからさ。自分の身位は自分で守れよ?)
(・・・・・あ、ああ・・・・・)
「一夏、大丈夫・・・?ぼーっとしちゃって・・・・」
「あ、ああ。大丈夫だ。っ?!」
心配そうにシャルルに声を掛けられた矢先、再びあの感覚が一夏と秋斗を襲う。
「マズい・・・・シャルル、ラウラを連れて行け。箒もアリーナから出ろ。説明している暇は無い、今直ぐにだ!行け!」
一夏の迫力に押されて一も二も無く走り始めた。そしてアリーナを突き破る何かが現れた。耳障りな羽音、そして手に持ったサーベル。アンノウンと言う人知を超えた脅威の存在、ビーロード、アビス・メリトゥスだ。
「アンノウン・・・・・」
「一夏、お前は変身するな、良いな?」
「でも!」
「良いから。週末に戻ったら、好きなだけやらせてやる。今は我慢してくれ。それに、ISでの援護も出来ないだろう?ま、いざとなったら頼む。俺も変身する気は無い。まだ、な。」
ネロを解除し、G4-X0を装着する。
(ISの状態でも奴を倒せるのは俺だけか・・・・コイツで行こう。)
ナイフと言うよりは最早小振りな鉈に見える武器ユニットのペガサスを引き抜き、更にアサルトライフル、『アラクニス』を構えた。弾幕を張りながら接近を始める。
「ちょ、門牙君、何をしているんですか?」
「これ俺の仕事の一部ですから。俺にしか出来ない事なので。口出ししないで下さい。あれは危険です。」
管制室から慌てふためく山田先生の声を聞いて事務的に淡々と言い返す。嘘はいっていない。警察組織の一人ではないとは言え協力者である為、ある意味義務づけられているのだ。
「BZZZZZZZZZZZZ!!!」
メリトゥスに接近してペガサスと蹴り技で地面に叩き付けようと躍起になるが、やはりスピードでは向こうが上の様だ。簡単には当たらない。
「チョロチョロしやがって・・・・あー、もう、面倒臭い!一斉射撃でバラバラに吹き飛ばしてやる!」
両肩にミサイルユニット『ギガント』、『タイタン』、右手にGX弾を装備したケルベロスII、左手にイフリートとと言う凶悪な大火力の装備を構える。
「死ねええええええええええーーーーーー!!!!」
銃撃。銃弾が続く限り放たれる銃弾、砲弾、そしてミサイルの集中豪雨。一つの弾倉が尽きると別の武器に変え、更にそれの残弾をも撃ち尽くす。そして手持ちの武器全ての銃弾が空になると、アンノウンの姿は跡形も無くなっていた。気配ももう感じなくなった秋斗は、アリーナに降り立った。
「危ねえ・・・・((また|・・))飲み込まれかけた・・・・・・糞!」
「う、ん・・・・・?」
ラウラが目覚めたのは保健室のベッドの上だった。眼帯も外されている。体中が鉛の様に重く、まともに動く事すらままならず苦痛を感じる。
「お、気が付いたか。」
視界に飛び込んで来たのは、一夏、千冬、そして秋斗の三人だ。
「お前・・・・」
「まあ、感謝するならシャルルにだな。あいつがお前を運んだんだ。」
一夏はヘッドホンを外すと、音楽を止める。
「そう、か・・・・」
「今回の件については箝口令を敷かせてもらった。あの様な物を使う輩がよもやいたとはな。VTSを・・・・」
「ヴァルキリー・トレース・システム・・・・」
「参考書で読んだ位だから詳しくは知らないけど、ぶっちゃけ違法だ。人体をISのパーツとして成り立たせて使う様な物だし。既存のISとは逆の理論を使うなら、確かに禁止されるのも頷ける。操縦者の負担を一切顧みない無茶な動きをするんだ。死んでもおかしくない。」
「人体をパーツに・・・確かに、ラウラをアレから切り離したら動かなくなったな。」
「成る程、言い得て妙だな。人体がパーツ、か・・・・・だが、流石に今回のお前の行動は無視出来ん。あの攻撃の所為でアリーナ半壊状態だぞ?バリアが破壊されなかったから良かった物の。」
「すんません。」
素直に謝罪する秋斗。
「んじゃ、俺は始末書書かなきゃ行けないのでこれで。」
秋斗はそのまま去って行く。
「まあ、これを機にお前も学ぶ事だ、ボーデヴィッヒ。お前は私にはなれない。それに、織斑は好きで私の弟になった訳ではないぞ?まあ、今はこうしてここにいるが。どう足掻こうがお前はお前にしかなれんのだ、小娘。良く覚えておくんだな。」
「はい・・・・」
千冬もまた出て行き、ラウラと一夏がその場に取り残された。
「まあ、そう言う事だ。しかし、お前も大変だな。軍人なんて堅苦しそうでさ。」
「なれればどうと言う事は無い。」
「そうか。ほらよ。」
ラウラの手に小さな石を握らせた。
「これは・・・?鉱石か?」
ラウラはその神秘的なビー玉サイズの灰色の石を見つめる。
「まあ、また今回みたいなことが起こったらヤバいしな。お守り代わり・・・・と言うか厄除けだ。兎に角、死なずに済んで良かったな。復帰したら軍人生活がどんな物か聞かせてくれ。俺も、少なからず興味がある。」
ラウラは一夏が去った後も手に握られたその青い石を手放さずにいた。その石の名は、ラピスラズリ。一夏が言った様に、内外両面の邪気を祓い、幸運をもたらすと言われている。
「厄除け、か・・・・確かに、私には必要かもな。」
自嘲気味な言葉を呟きながら、ラウラはもう一度目を閉じて静かに眠った。
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ちょっとアンノウンの登場の仕方が強引かもしれませんが、どうぞ。 | ||
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