真恋姫†夢想 弓史に一生 第六章 第五話 小さな防人 |
〜聖side〜
広陵城、玉座の間
ここには召集命令により、徳種軍の主要武将達が揃っていた。
「さて、広陵の町も大分落ち着きを取り戻したし、次にやる事と言えば…一刀、分かるか??」
「前に言ってた黄巾党の討伐のために、北に行くって所か??」
「正解だ、一刀。だが、まだここ広陵も空にするには危ない…。だから、兵を分けて待機軍と討伐軍を編成する。将も同様に、待機組と討伐組に分けるようにする。これに、異論は無いな?」
皆が無言で頷いたのを確認してから、続きを話す。
「じゃあ、討伐軍だが…俺、勇、一刀、音流、軍師に橙里、補佐に麗紗と蛍で行く。残りは皆待機な」
皆の顔を見ると、喜んでるものもいれば、落ち込んでるものもいる。
「なぁ、お頭!! 何であたいは待機なんだよ!? 討伐に行くなら武官が多いほうがいいだろ!!」
そんな中、奏が率先して俺に質問をしてくる。
「確かに。今回は大きな戦闘になるから武官の人数が多いにこしたことは無い…。でもな、今回の戦いはそれだけじゃないのさ。」
「と言うと??」
「今回の戦では、これから相手するだろう各諸侯に力を見せなきゃならん訳だ…。そこで…だ…。俺たちの全力を見せて良いと思うか??」
「見せたら悪いのかい??」
「悪いね。俺達は唯でさえ最近出来たばかりなんだ…。そんな諸侯が自分達の全力をそこで見せたら、それ以上の力を持つ奴に目を付けられ、直ぐにでも侵攻されかねない…。今大事なのは、各諸侯に自分達の底を見せずに、いかにして力を示すかなんだ。」
「あぁ〜…。難しい話はわかんねぇ…。結局なんであたいは駄目なんだい?」
「奏は俺の軍の一番槍なんだろ?? だったら、その実力者を隠しといたほうが後々有利じゃねぇか。」
「そ…そんな風に…思われてると…。照れるな…。( /// )」
「……俺の心配をしてくれるのは嬉しいよ。でも大丈夫、護衛に音流も連れて行くし、よほどの事が無ければやられやしないさ。」
「………そうだな。音流、お頭をしっかり守るんだぞ!!」
「当たり前ばい♪」
「しかし、聖様。一番槍を使わないと言うのは軍に影響を及ぼすのでは??」
奏との話が終わると、芽衣も文句を言ってきた。
「軍への影響は俺が出ていれば少ないだろうし、別に武官を一人も連れて行かないわけじゃねぇんだ。大丈夫だろ。」
「では、軍師はその三人で大丈夫でしょうか? 三人ともまだ年若く、大規模な戦闘を任せるには時期尚早かと…。」
ここまでくってかかるのは、軍師としての芽衣のプライドと行軍する者への嫉妬だろう…。なんだか、そう思うと可愛らしい。
「なに、三人とも既に軍師としては立派だよ。戦術、陽動、交渉。それぞれの得意分野を活かして戦えば、早々負けるはずは無いさ。それに、皆の意見を聞いて纏めるのは俺だ。三人だけじゃないさ。」
「はぁ…まぁ、そうですが…。」
「それにな。うちの一番優秀な軍師が鍛えた子たちだろ? もっと自信を持って薦めたらどうだ??」
そう。文官の彼女達は、芽衣を中心に鍛えられてきたのだ…。
「そう…ですね…。彼女達に任せましょうか〜。( ///)」
そう言われた芽衣の顔は、少し赤くなっていた。
「皆、他に異論は無いか??」
皆、静かに首を横に振る。それを目で確りと確認した後、言葉を紡ぐ。
「では、我等徳種軍はこれより、黄巾党首領、張角の目撃情報があった鉅鹿に向かう。引き連れる兵は二千。討伐組は直ぐに出発の準備を、待機組は兵站や装備の準備を手伝ってやってくれ。」
「「「「御意!!!!」」」」
こうして、歴史的に有名な黄巾の乱へと足を踏み入れる聖たちであった。
鉅鹿は冀州鉅鹿郡にあり、冀州における交通の要所である。
この地で張角の目撃情報があったと言うのだから、きっとここが本拠地なのであろう。そう考えてもおかしくないほどの立地条件の良さが、そこにはあるのだった。
まず、北と西を山に囲まれ、その山は断崖絶壁。とてもじゃないが攻め込むことは出来そうに無い。
そして、南と東には山間を通る道のみ…。
正に守るに易く、攻めるに難い土地である。
果たしてどのように攻略するか…。
そのことを考えながら、一向は予州を進んでいた。
その一方で、俺は別のことが気になっていた。
そう、首謀者の名前が張角だということだ…。
もしその噂が本当だと言うなら、天和たちが首謀者と言うことになって、俺達は彼女達と戦わないといけないことになる…。
その時、俺は彼女達と面と向かって戦えるのか………いやっ、無理だな……彼女達を知りすぎてる…。
歴史の再現性はどうやら思った以上にあるらしいな。果たして彼女達に何があったのか…。
戦わないで解決できるのであればどれだけ幸せか…。とにかく、今は情報をたくさん得ることが大事だな…。
俺は細作の人数を増やし、より密な情報を持ってこさせるようにしていた。
そんな行軍中、予州に入ってしばらくした時のことだった。
「お頭!! 村がありやすぜ!!」
勇が先頭から馬を駆けさせてやってきた。
「そりゃ村くらいあるだろうさ…。」
「そういう事を言ってんじゃないっすよ!!」
「先生。今日はもう日も暮れそうですし、村の近くで野営したら良いと思うのです!!」
「ちょっ!! 橙里の姉さん、それは俺っちが今言おうと……『そうだな。じゃあ、そうするか。』…お頭も……。」
がっくりと肩を落とす勇。
俺たちは進路をその村にして、そこで野営をすることにした。
移動中、未だ落ち込む勇にアドバイスがてら声をかける。
「お前が遠回しに言うからだよ。言いたいことははっきり言わないと、相手に伝わんないぞ?」
「そりゃそうかもしんねぇっすけど……お頭が休むって言ってない以上、俺っちがそのことに口出しは出来やしないでしょうよ…。」
「ほぉ……。中々の忠臣っぷりだな。 ……でもな、勇。前にも言ったが、俺たちは仲間だ…それは勿論勇も含まれる…。そんな仲間を相手に、遠慮なんてしないで欲しい…。思ったことがあれば素直に言ってくれ。それじゃなきゃ、この軍は纏まんねぇよ…。」
俺の言葉を聞いて、周りの皆はやれやれという表情を浮かべながらも、にこやかに笑っている。
俺自身も、今この場を借りて皆に俺の気持ちを伝えることが出来て嬉しい。
こうして、俺たちは一枚岩になっていければ…他には負けない強い集団になれるだろう…。
「っくぅぅぅううう〜〜〜〜〜〜!!!!!!!! 流石、お頭!! いやっ、流石すぎるぜお頭!!!!! 自分はこの軍の代表だってぇのに……そんな態度をおくびにも出さず、こんな俺っちにまで優しく……その男気にゃあ、惚れるしかねぇっすよ!!」
「……俺にそっちの趣味は無いからな…。」
目を輝かせてる勇から若干の距離をとり、話を続ける。
村まで一里位まで来たところで兵達はそこで休憩させ、俺と橙里、音流で村のお偉いさんに話をつけに行く。
村の入り口が肉眼で確認できる距離となったところに大きな岩があり、
「……村に何か用??」
急に、その大きな岩の上に座っていた少女に話しかけられた。
身長を遥かに超えるほどの巨岩に座る少女は、結んだピンクの髪を風で揺らし、その目に不信感と嫌悪感を浮かばせながら俺たちを見下ろす。
俺は極力丁寧な口調で喋るのを心掛ける。交渉事というのは、まず初めが肝心なのだ。
「君は村の子かい?」
「そうだよ。 兄ちゃん達は何?? 賊?? それとも朝廷の人??」
賊では決して無いから賊とは答えれないよな…。
朝廷直属ではないにしろ、漢王朝の役職に名前が入っている以上、俺たちは朝廷の兵士と言っておかないといけないかな??
そうすると、俺たちは朝廷の人か…。
「強いて言うなら朝廷の人かな…。」
俺がそう言った瞬間、少女は何処から取り出したのか大きな鉄球の付いたけん玉のような物を構え、
「はぁぁぁああああ!!!!!!!」
気合一発、俺たちに向けて投げつけてくる。
「っ!!! 避けろ!!!」
ドゴォォオオオン!!!
俺たちは何とかその一撃を避けることに成功する。
鉄球が当たった場所は、月のクレーター様に大きく抉れ、鉄球の一撃の重さをまじまじと見せ付ける。
どうやら、交渉は決裂したようだ……。
「……おいおい、いきなり攻撃ってのは無いんじゃないか??」
「うるさい!! 朝廷の役人はさっさと帰れ!!」
どうやら、この子は朝廷の役人が嫌いらしいな…。
まぁ、今の朝廷の役人と言ったら、自分の私腹を肥やすことだけにしか興味が無い馬鹿どもばかりだから、庇う気は無いが…。
しかし、今さら朝廷の役人ではないですよと言った所で、はいそうですかとはならないだろう…。
「帰れ……か…。 悪いけど、俺も用事があるんでね…。村にお邪魔させてもらうよ。 橙里、音流は少し下がってろ!! ここは俺がやる。」
「先生っ!!」
案の定と言うか予想通りと言うか…俺が戦うことを橙里は否定しようとするが、
「……橙里、あんちゃんならよかよかばい。」
音流はそんな橙里に諭すように話しかける。
「……分かりました…です…。」
橙里もしぶしぶではあるが頷き、安全であることが保障できる位置に二人を移動させる。
流石に、守りながら戦うのはしんどいからな…。
どうやら、音流はそこん所良く分かってくれているみたいだ。
「この村はボクが守るんだ!!」
少女は怒気の篭った表情で俺を睨みつける。
多分、この子はこの村の防人なのだろう……。
村の人が決めたのか、それともこの子がやると言ったのかは定かではないが……こんな小さな子に、この村の全責任を押し付ける形になってしまうとは……大人は何をやっているのだろうな……。
「はぁぁぁあああああ!!!!!!!!!」
少女は、その小さな体と同じくらいの大きさの鉄球を手元に引き寄せ、その勢いのまま遠心力を利用して俺に投げつけてくる。
その速さは、まるで鉄球から重さを感じないほど速く、しかし先ほどの威力を加味すれば重いことは十分に解り、この少女が体に似合わぬ怪力の持ち主であることを容易に示している。
こりゃ、直撃したらヤバイね……。かと言って、受け止めるわけにもいかないし……。
幸い、速いといっても避けられないほどの速さではない。
一撃を掻い潜り、懐に入り込みさえすればあの鉄球を無効化できる策は既に考えてある。
しかし、その為には不規則に飛んでくるこの鉄球の動きを予測しなければならず、高い集中力が求められる。
重い一撃を磁刀を使って何とか捌きながら、止まった思考を巡らし、集中し直して少女の観察をする。
少女の初動、癖、腕の振り、鉄球の場所、避けている間に考えられる全ての事項を解析し、鉄球の軌道予測線を作る。
初めの数合は予測がはずれ、磁刀で捌くことを余儀無くされたが、少しずつ体が鉄球の動きになれていく。
少女の鉄球を避けること数十回……。
鉄球の軌道予測線も大分精度が上がり、避けるもの大分楽になってきた。
少女の顔色を見れば、かなり焦っているようだ。
まぁ、それもそうだろう。
さっきまで刀を使って何とか避けていた人物に対して、今度は一撃も当たらなくなってきているのだから…。
人というのは、焦れば焦るほど単純になっていく。
その為、鉄球の軌道はより読み易くなり、避けるのは簡単になる。
この少女がいかに怪力であろうと、重い鉄球をこれだけ振り回していれば疲れてくるはず。
ならば、止めとばかりに渾身の一撃をそろそろ繰り出すだろう。
勝負はその時だな……。
「くっそぉぉ〜!!!!!!! それなら……これで……おしまいだ〜〜〜!!!!!!!!」
案の定、少女は渾身の一撃を繰り出すため、最後の力を振り絞る。
その動作が全て読まれているとも知らずに……。
「く〜〜ら〜〜え〜〜!!!!!!!!」
渾身の力を込めた鉄球の一撃が、俺の位置に今まで以上の速さで迫ってくる。
その姿を目で確認しながら、俺は磁刀を納刀し、ごく自然な様子で立つ。
「すぅぅ…………ふぅぅ…………。」
深い呼吸で体の余分な力を抜き、目を閉じて迫り来る鉄球の圧力を風の動きと気配で感じとる。
「えっ!!!!??」
タイミング良く一歩足を外に移動させ、流れるような動きの中で鉄球の側面を移動し、俺の体は鉄球と少女の間へと滑り込み。
「ここだ!!!!」
かっと目を見開き、高速抜刀する。
一瞬の静寂が流れた次の瞬間、
パキンッ!!! ジャラジャラ…。
鉄球と少女を繋ぐ鎖が音をたてて切れ、鉄球は少女の扱い知れぬ物となった。
俺は磁刀を仕舞うと、呆然として俯く少女に近寄る。
「これ以上やっても君に勝ち目は無いぞ…。素直に負けを認めてくれるか?」
少女は悔しそうに唇をかむと、こちらをきっとした目つきで睨みつけ、
「何で……?」
と儚げに呟いた。
「んっ?? どういう意味だ??」
少女の言う意図が掴めず聞き返すと、
「何で…? どうしてそれだけ強いのに、この村を守ってくれないんだよ!?」
と、一際大きな声を発し俺に詰め寄った。
いまいち自体が飲み込めない俺は、少女に質問する。
「……一つ聞いて良いか?」
「……何…?」
「大人はどうした? 普通、門番ってのは若い大人の男がやるもんじゃねぇか。」
「……この村にはお爺ちゃん、お婆ちゃんしかいないよ。子供もボク達だけ……。 皆、兵士として連れて行かれちゃった…。」
その言葉を聞いて事情が読み込めた…。
そうか……この事態は、宦官共の暴政の皺寄せか……。
後書きです。
ちょっと今話はページ区切りが難しいですね……。
だから、一ページ辺りが大分多くなっちゃいました……すいません…。
さて、村の防人をしていた少女。皆さんなら誰か分かりますよね?
ヒントとしたら、その武器ですかね??
まぁ、正体はまた次話ということで。
で、その次話なんですが……作者の都合により、年明けにさせてもらいます…。
なるべく、一月の一週目に上げたいと思っていますが、どうなるかは分かりません…。
それでは、また次話で会いましょう!!
皆さん、良いお年を!!!!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 拠点も終わり、物語がようやく進みます。 と言っても、進むのはほんの少しですが……。 今話で全67話かかってることを考えると、黄巾の乱が終わるのは果たして何話になることやら……そして、この小説完結するのか…?? まぁ、先のことはその時になってから決めますよ!! 勿論、完結させるつもりですから!! 今日確認したところ、第一話の『流星と共に…』の総閲覧数が3000を超えていました!! これほど多くの回数第一話が読まれたのだと思うと、感慨深いものです。 皆さん、どうかこれからもよろしくお願いします!! |
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