IS x アギト 目覚める魂 18: ヒーロー見参
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買い物を済ませたIS学園の生徒六名は帰路についていた。自分達に襲いかかる魔手がすぐそこに迫っている事も知らずに。上空から彼女達を見つめる四体の黒い異形の人型は、手の甲の上にもう一方の手で何かの印を描き、襲いかかって来た。彼女達はまだ気が付いていない。

 

「タアアアアアアアアーーーーー!!!」

 

だが、その強襲を押し止めたのは、スライダーモードのマシントルネイダーを全速力で飛ばし、ボディーを横に向けて叩き付けたアギトの体当たりだった。そのまま両腰のスイッチを叩き、右腕は赤、左腕は青に変色し、オルタリングの中からフレイムセイバーとストームハルバードを引き抜いた。

 

「ハアアアアア・・・・・」

 

「な、何?!」

 

「何なのコイツら?!」

 

「IS、ではないみたいですが・・・・」

 

「考えるのは後だ!このままでは巻き添えを食らう!一旦避難するぞ!」

 

だが、簪は一人腰を抜かしてへたり込んでいた。自分を引っ張る学友の切羽詰まった声も、聞こえない。あの時の記憶が鮮明に蘇る。叫び声、断末魔の悲鳴、無造作に転がされた死体を踏み越えて自分に向かって来る化け物。

 

(いやだ・・・・嫌だよ・・・・怖いよ・・・助けて・・・・助けて・・・・・・あの時みたいに助けて、一夏!!)

 

そして、エンジンの音と、サイレン。踞った簪を後ろから飛び越え、涼と一夏が変身したギルスがギルスレイダーで簪に向かって剣を振り上げたアンノウン、クロウロード コルウス・ルスクスに前輪を使って激突。他のクロウロード三体の足元まで吹き飛ばした。

 

「ここは危険です、早く逃げて下さい。」

 

ガードチェイサーから降りたG3-Xこと氷川薫は簪を引っ張り上げ、立たせた。彼女はヨロヨロと覚束ない弱々しい足取りで歩いて行き、箒とセシリアが肩を貸してやる。G3-Mildを装着した約十人は一般人の避難、そしてアンノウンの包囲を行った。

 

「各員に告ぐ、アギトを援護し、アンノウンを殲滅せよ!」

 

『了解!』

 

「ウォァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ギルス((R|涼))は再び叫び声を上げると、腰のベルト『メタファクター』が光り始め、一際眩しくなると、その姿が再び変わった。なんと、両腕両足から赤い鉤爪が生え始めたのだ。背中からは同じく赤い触手の様な物も現れる。胸にもワイズマンモノリスが確認出来た。ギルス((I|一夏))はそれを見て驚く。

 

(凄い・・・・俺も負けてられない!)

 

背中のギルススティンガー二本はまるで鎌首を擡げる蛇の如く伸長し、先程ギルスレイダーで吹き飛ばしたコルウス・ルスクスの首を締め上げ、体を貫いた。

 

『ヌグォウァ・・・!?』

 

そのまま引き寄せられ、エクシードギルスとギルスIは空中で前転しながらそれぞれエクシードヒールクロウとギルスヒールクロウを叩き付ける。断末魔の叫びを上げながら爆死するクロウロードを見て、旗色悪しと分かるや否や、残りの三体は上空に飛び上がって逃亡を図った。だが、G3-Mildの持つGG02サラマンダー、GM01スコーピオンにより妨害され、更にG3-Xの最大火力を持つ武器、GX05ケルベロスの弾雨を浴びる。しかし、やはり牽制用のスコーピオンや多少威力が上がった程度のサラマンダー等、人間が作った武器では余裕を持って倒せないのか逃げ果せてしまいそうになるが、コルウス・カノッススは逃げ切れなかった。何故なら、飛んで逃げようとした所をアナザーアギトがダークホッパーから飛び上がりながらの必殺の『アサルトキック』を背中に食らい、地面にそのまま激突してしまったのだから。頭上に青白い円盤らしき物が現れ、コルウス・カノッススは爆発した。

 

「後二体・・・・何としてでも仕留めるぞ!!」

 

少し苛つき始めたのか、氷川はガードチェイサーの収納スペースからGX弾を取り出し、スコーピオンを連結、GXランチャーの狙いを定めた。だが、弾頭は何か幕の様な物を通り抜けると、何故か明後日の方向に向かって飛び始めた。そして・・・一夏の背中に着弾した。アギトはその現象に見覚えがあった。そして、視界の端にチラリと移る。長い得物を持った、青と灰色の鯨の様な頭を持った闇の使徒。翔一の頭の中に、声が蘇った。

 

『人でない者は滅ばねばならない。』

 

(あの攻撃は・・・・・まさか・・・・あの時の!?)

 

朦朧とする意識の中、ギルスレイダーに跨がったのを覚えているが、そこから一夏の意識が遠のき始めた。そんな時に、懐かしい出来事を思い出した。初めて簪に会った頃だ。それはまだお互いが五、六歳位の頃。彼女が虐められているのをどうにも黙認出来なかったあの頃。相手は間違い無く自分より年上だったが、怯まずに挑んで行った。圧倒的に不利な状況だったにも拘らず、相手方は逃げる様に退散した。今思えば、幼少期から自分は攻撃的だったのかもしれない。

 

『おい。』

 

『ヒック、うぇえ・・・?』

 

『もう大丈夫だ。お前、大丈夫か?』

 

水道で擦り剥いたり痣になった部分を洗い、冷やし、泥や血を落として行く。やはりしみて涙がにじんだが、顔からる滴る水と汗がそれを誤摩化してくれた。

 

『でも、グスッ、怪我・・・・してる、よ・・・?』

 

涙を拭いてしゃくり上げながらも一夏の傷を見る。相手は三、四人に対し、一夏は一人だ。だが、怯まずに戦い続けた傷は何とも痛々しい。自分の楯になって矢面に立ってくれた相手だったのだから尚更だ。

 

『こん位、唾つけときゃ治る。大した事ねえよ。』

 

腕をぐるぐる回したり、その場でぴょんぴょん跳ねて問題は無いと言う事をアピールする一夏。大きく笑ったその笑顔は、先程の恐ろしさは欠片程も無い純真無垢な子供の物だ。

 

『そう・・・・』

 

『また虐められたら俺に言えよ?俺があいつらぶっ飛ばしてやる。いつっ・・・』

 

何でも無い様に振る舞い、パンチの仕草をしてみせる一夏。だが、左腕に走った痛みに動きを止め、必死に泣くまいと喉の奥でうめく。いじめっ子の一人の爪がかなり酷い裂傷を残していた。血が流れて全く止まる様子が無い。地べたに腰を下ろし、腕を曲げ伸ばししてみる。

 

『あ・・・・!』

 

簪は水道の水でポケットに入っていたハンカチを濡らし、それを左腕の傷に当ててやる。やはりしみるのか、一夏の目尻に涙が浮かぶが、必死に目を擦って泣かない様にする。

 

『君、名前は・・・?』

 

『俺は、織斑一夏。一夏で良いぜ。』

 

『何で、そんなに強いの・・・?』

 

『俺は、仮面ライダーになりたいから、弱い者いじめをしてる奴らを見るとここら辺が熱くなってムカムカすんだ。』

 

恥ずかし気も無くそう言い張り、自分の胸の中心を指し示して立ち上がると、最近放送されている『仮面ライダーBlack RX』の複雑な変身ポーズ、そして変身後の名乗りを上げる時の動きをも忠実に再現した。

 

『だから、俺の手で守りたい奴は、誰が相手だろうと絶対に守る。お前もな。』

 

歯の浮く様な恥ずかしい台詞をサラリとそう言って、手を差し伸べた。簪はその手を恐る恐る掴むと、引っ張り上げられる。

 

『ごめんな、もっと早くに助けられなくて。あ、そういやお前の名前聞いてなかった。』

 

『か、簪・・・・』

 

どもりながらも自己紹介をする。

 

『へえ。変わった名前だな。これ、ありがとうな。』

 

ハンカチを返してやると、不思議な事に血は止まっていた。帰ろうとすると、簪が再び彼を呼び止める。

 

『あ、待って!・・・・・わ、私の・・・・私のお友達になって下さい!』

 

『ああ。良いぜ。俺はこれからずっとお前と友達だ。どこにいようと、俺は絶対お前を忘れないからな!』

 

ぎこちなくも走り去って行く彼の姿は、簪の目には自分が憧れるヒーローに見えた。お互いの家がどこにあるのか、自分達が何者なのか、そんな事は一切知らずに過ごしていた。二人で近くの川で遊んだり、芝生でひなたぼっこや昼寝をしたり、兎に角毎日が充実して楽しみだった。また、簪が虐められては一夏がそれを未然に阻止、または虐めている所を助けると言う事も徐々に減って行き、半年があっという間に過ぎた。

 

『引っ越し?』

 

『うん・・・・』

 

そう。それは誰もが体験すること。引っ越してしまうと言う事は、即ち別れを意味していた。簪はそれを昼食中に食卓で聞いてしまうと、矢も盾もたまらなくなって家を飛び出し、一夏と初めて出会ったあの公園に走って行った。案の定、そこでは一夏が木登りをしていた。

 

『一夏!一夏!私、私・・・・!!』

 

息も絶え絶えになって気が動転している為に言葉が上手く出ない。目から涙があふれる。離れたくない。もっと一緒にいたい。二人でもっと遊んで、笑って・・・・そう思っていた自分は最早面影も無い。だが、半年とは言えずっと過ごして来た友達のただならぬ慌てぶりに一夏も慌てて木から降りて、簪の頭を撫でて涙を拭き、宥め始めた。

 

『どした?いきなり来たと思ったら泣きやがって・・・・お前、本当に泣き虫だな。』

 

『だ、だっでぇ・・・・』

 

そして途切れ途切れながらも経緯を語って行く。

 

『引っ越し、かあ・・・残念だなあ・・・・・』

 

一夏は頭を抱える。

 

『どうしよう・・・私もう一夏に会えないよ・・・!!どうしよう!!』

 

パニクりながら再び泣き始める簪をどうした物かと頭をひねる。そこで自棄糞になって簪の顔をパチンと両手で挟んだ。

 

『一つ約束しろ。その泣き虫を直せ。俺も強くなって、仮面ライダーみたいにまたお前を守ってやる。また絶対に会える。約束だ。』

 

そう言って小指を差し出す。簪もグシグシと涙を拭い、小指を差し出した。

 

『『ゆーびきーりげんまん、嘘付いたら針千本飲?ます、指切った!』』

 

『約束したからな。お前も仮面ライダーみたいに強くなって、あんな奴らに虐められない様に頑張れ。』

 

『うん!』

 

そして引っ越し当日。簪は涙を一心に堪えていた。

 

『あーあ。いよいよか。また会おうぜ、簪。』

 

『ウクッ・・・ウゥウ・・・・』

 

『今回だけ特別だ。好きなだけ泣け。』

 

それだけで、簪の涙腺と言う名のダムは決壊した。一夏に抱き付いたまま離れようとしない。一夏は何も言わずポンポンと頭を軽く叩いたりさすったりしてやり、泣き止むと、簪は思いがけない行動に出た。何と、軽くだが、一夏のファーストキスを奪ったのだ。

 

『ちょ、え・・・・?』

 

『じゃ、じゃああね、一夏。またどこかで会おうね!(あう?・・・・お母さんが本当に好きな人としかしちゃ行けないって言うからやったけど・・・やっぱり恥ずかしい・・・!!)』

 

簪は顔を真っ赤にしながら精一杯の笑顔でそう言うと、引っ越し業者のトラックとともに、どこかへ走り去った。姿が見えなくなるまで一夏は手を振り、また会おう、と何度も叫んだ。そして姿が見えなくなると、一夏の涙腺も緩み始め、一夏も泣き出してしまった。流石に一夏も強がる事に疲れたのか、今までの分も纏めて泣いた。その号泣によって発せられる声は簪の耳にも届いた。

 

(そっか・・・・一夏も、泣いてたんだな・・・・フフッ。)

 

車の中で簪は思わず笑ってしまう。そして誓った。いつかまた、絶対に会いに行こう、と。

説明
一夏と簪の過去編が少し入ります。そして水のエルが・・・・・・!!
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コメント
コンプレックスとまでは行かなくとも、苦手意識程度には改善しています。が、多少避けるのはあると思います。(i-pod男)
これがきっかけで楯無さんとの仲は改善されたのだろうか?気になりますね。次回も楽しみにしています(竜羽)
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仮面ライダー アギト IS 

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