恋姫無双 〜決別と誓い〜 第二十五話 |
桃香がきて三日ほど経ちいよいよ会談が始まった。
『北郷が上手くやってくれているはずです。今回の会談は期待できるでしょう』
と冥琳から聞いていたが果たして彼との出会いが吉と出るか凶と出るか・・・・?
それ以前に彼との確執を何とかしたいというのもあるあれが最後の会話だなんて、それはあんまりだ・・・・。
たくさんの従者を従わせて謁見の間へと向かうがやはり気分は晴れない。
彼の顔を見たいというのもあったし、見たくないという気持ちが見事にせめぎ合っていたからだ。
謁見の間には冥琳とその部下、桃香は外交を担当するものであろう男性が側に控えて向かい合う形で座っていた。
門の側には大本営の人間たちがいてその中に彼の姿があり目があったが彼は私の目をちゃんと見て敬礼をする。
以前のように私に姉の姿を重ねて困惑しているようには思えない。彼は見ない間に随分と成長したものだ。
私も彼にわかるように軽く頷くと沈んでいた気持ちが飛翔する鳥のように軽くなるのを感じながら、今日も王としての勤めを果たすべく席へと向かっていく。
「まず今回の会談での参加に深く御礼を申し上げます」
と冥琳が起立して桃香に礼をする。
「はい・・・。ありがとうございます」
とにこやかに微笑んで返してくる。度重なる政争で疲弊していると聞いているにしては随分と生気がある。
(これは冥琳の言うとおりかもしれない・・・・)
『北郷に桃香を働きかけるように言っておきました。もともと彼女は彼に興味を持ってましたので好都合かと・・・』
と信頼できる臣下の言葉に裏付けとなる根拠が出てきた。
「今回では曹操の動きがどうなるかが焦点となりますが・・・・」
と冥琳が話題をふっかけると男は待ってましたと言わんばかりに早口でまくし立ててくる。
「曹操の動き次第では我々の動きも変わってきましょう?」
「・・・・といいますと?」
「簡単なことです。魏は漢王朝の復興を目指している。我々の目指す覇業とも一致します」
「つまりそちらに寝返るかもしれないと・・・・?」
ギロリと目力を強くさせ男を睨みつける冥琳に担当の男は怯えの表情を見せはするが話を進める。
なるほどなかなかキモは据わってはいるようだ。
「そ、それも視野に入れているという仮説でしか現状ではありませんが・・・・」
と男が言うと冥琳はふぅと溜息をつくが男に対しての落胆ではないことは私は分かっている。
「・・・・・そうですか。貴女方がとるその方針は間違ってはいないと思います」
男はやれやれと安堵の息をはき主張を展開しようとする、
「では我々の・・・・・」
「しかしそれが大義名分に反すること、つまり世に逆らうことであるならどうでしょうか?」
が冥琳が遮りそう言うと男は驚きと困惑の面持ちでこちらを見てくる。
「なんですと・・・・!?」
冥琳を見ると目で私に、
(うまく乗ってくれそうです)
とでも言うように何処か得意げな表情を見せてくる。私はそれに相槌をうち任せる。
「我々の工作員がある情報を入手したのですが・・・・。黄巾党の首謀者を魏が匿い、それどころか国民にそれを説明せず世論の軟化に利用していると」
「・・・・・・・・!!」
「信じられませんか?ですが我々の工作員がどれほど広大な情報網を持っているかは先の戦役でご理解いただけたかと思ったのですが・・・・?」
先の戦役は呉の冥琳が率いる工作員と魯粛が指示をだし、軍部での諜報部の連携で裏切りを事前に察知していたことが勝因となっていたことは蜀の首脳陣も分かっている。
つまり信憑性が限りなく高いものであることは分かっているはず。
「つまりは私たちは魏には降れないとそう言いたいのですね?冥琳さん」
急に桃香が口を開き男もそして冥琳も若干驚いているようだが肯定する。
「ええ。端的に言えばその通りです」
とキッパリというと桃香はニッコリと笑顔を見せるがその笑顔がこの雰囲気に合っておらず、不気味な印象を与える。
「大丈夫ですよ。私たちは呉と共に戦います!曹操さんのところには行きませんので安心してください」
「「!!」」
これには驚いた。あの彼女がこうもキッパリとモノを申すようになったことに。
(これが冥琳が言っていたこと・・・・か)
「王様!!?何を言われますか!!!そのようなことを勝手になさるのは・・・・」
バンっ!!
「っ?!」
大きな音が響く。桃香が机を強く叩き、黙らせたで蜀陣営に緊張が走る。
自分の王の変貌っぷりについていけてないといったところか。
「・・・・誰に向かって意見を言ってるのかなぁ?私の意見に耳を貸さずに強引に推し進めたのは貴方方のはず?そしてその方針が現状とは逆の方向に向かうものなら私はそれを取り消す権限があるはずです」
「?!」
淡々と笑顔を絶やさずそう説明をする桃香に男も彼女がいつもの彼女ではないことに気づく。
ただその目はむしろ笑っておらずなんというか有無を言わさない雰囲気が彼女を包み込み男を威圧している。
そう、この雰囲気は姉様が漂わせていたあの感じに似ている・・・・。
「私の言っていることは間違っていますか?」
「・・・・いいえ。おっしゃる通りです」
苦汁を舐める男。まさか彼女が急に変わるだなんて思ってもいなかったのだろう。
いろんな意味で同情してしまう。
「うん。これでいいかな?冥琳さん」
「ええ。ご理解いただけて助かります。桃香殿」
蜀の王が動いた。自分で考え、自分で決断したことだ。
桃香はどうやら乗り越えてくれたらしい。これで王として一皮むけてくれたらいいのだが・・・・。
そんな不安は完全に払拭された形となり、彼女に劇的な変化をもたらしてくれた一刀に複雑な思いを抱いた。
彼の生き様は多くの人間に影響を与えた。
思春、冥琳、魯粛、桃香、そして私自身・・・。
彼がやっていることは決して褒められるものではない。だが何故ここまで人を焚きつけるのであろうか?
(彼の行い、思いは常に一貫していて揺ぎがない・・・。だから人は彼を信頼するのね)
・・・・私はどうなのだろうか?
彼のように揺るぎない信念を持ち臣下たちに方向性を与えてやれているのであろうか・・・?
それはわからない。
姉とは違う、姉ではないという反骨心からこれまで我武者羅に走り続けてきたが私はそのことに胸を張れるほど確信はない。
『当然です。評価や評判はあとからやってくるもの・・・。おいそれと決断は下せませんよ』
と冥琳が言っていたのを思い出す。
(難しく考えるのは私の悪い癖ね・・・)
と皆にわからないように小さく笑うと全てを託した臣下に続きを促すよう指示した。
蜀との会談が終わると黄蓋が
「蓮華様がお前とまた話したいそうじゃ。いってこい。お前ももう餓鬼ではないのじゃから、誠意ある対応をな」
と念を指すように言われた。以前のことを彼女も聞いているのだろう。
お前の気持ちもわからんでもないが、時間が経ってもそんな対応をしていたら策殿の顔に泥を塗るぞ。
と直には言わないが顔にそう書かれてあったのを俺は見逃さない。
「はっ!承知しております」
「頼んだぞ・・・」
と言い残し謁見の間から去っていく、暫くすると冥琳と孫権、そして俺だけとなった。
冥琳は孫権に何かを話している。
おそらく今回のことを簡潔にまとめているのだろう。
その話も終わると冥琳も去っていく。俺とは目を合わさない。
仕事モードの冥琳は私情を持ち込むことはなく、それは俺にも徹底されている。
「・・・・ひさしぶりね。一刀」
と開口一番孫権が言う。
「いえ。こちらもご無沙汰しております孫権様」
「あれからもう五年が経とうとしているとは・・・・、時間の経過はどうしてなかなか早いものね」
「ええ。自分もそれは思い知らされている身でありあます・・・」
それからは会話がなくただただ沈黙が流れてゆく。私もそうだが彼もどう切り出そうか考えあぐねているようだ。
「孫権様」
「なにかしら?」
「あの時は・・・・。申し訳ありませんでした」
「いいのよ。私もあなたに対しての配慮が足りなかったのがそもそもの原因なのだし・・・。あの頃はまだ浅はかだったわ。
悲しんでいる貴方に私がつけ込めたらという考えが何処かしらにあったのかもしれないわね・・・・」
「・・・・・・」
「冥琳のことは本人から聞いている。今貴方たちは恋仲になっていると」
「はい。仰るとおりでございます」
俺が肯定すると彼女は少し泣きそうな顔をして寂しく笑った。
「誰よりも王であろうと時には残忍な命令を下すことさえあった。それはあなたの存在がいたからなのよ?一刀。貴方を支えられるよう王として、そして女として自分を厳しく律した。
でも・・・・、私では貴方の心の溝を埋めることは無理だったみたいね・・・・」
彼女はその後小さく震えて下を向く。こんな時でも王であろうとするその姿に俺は胸を痛める。
「孫権様・・・・」
「でもいいの。貴方が無事でそして幸せでいられるなら・・・・、私は喜んで舞台から降りる覚悟でいたから・・・。一刀、どうか冥琳を大事にしてあげて。あの人は誰よりも厳しくて、誰よりも弱い人だから・・・」
涙を流すまいと目に涙を一杯に溜め込んでいるがそれでも笑顔で祝福してくれる彼女に、俺は純粋に感動をしていた。
常に現実に対して逃げずに真っ向から立ち向かう孫権の姿勢は民から、そして兵士にも慕われている一因となっている。
そしてそれに俺も加わろうとしている。
恋慕とかではなく、彼女のためなら命さえおしくないと思う愛国心が芽生えるのを自覚した。
「ありがとうございます孫権様。もちろんそのつもりです」
と彼女の目をしっかりと見て頷く。それが今俺に出来る精一杯の誠意だった。
「一刀、お前に頼みごとがある・・・。それが叶えば私はこれからも王としてやっていくことができると思うから・・・。迷惑だと思うが聞いてくれるかしら・・・・・・?」
「はい。なんなりと」
「私を抱きしめて欲しい・・・・の」
「はい?」
意外な台詞に思わずキョトンとしてしまい孫権は顔を赤くして抗議した。
「貴方に冥琳がいるのはわかってる。でも一度だけでいいから、・・・・お願い」
「・・・・分かりました。では」
俺は彼女の体を抱き寄せる。姉とそっくりな髪の色から甘い匂いが鼻をくすぐる。
彼女の体は思っていたよりも華奢で弱々しい。まるで不安定な彼女を表しているかのようだった。
「ありがとう一刀・・・・」
胸にしがみつき服を静かに濡らしていく孫権に俺はただ無言で抱きしめていく。
「あぁ・・・。う・・・・く。うううううう!!!」
とやがて嗚咽を堪えきれなくなり赤ん坊のように泣き出してしまった。
「一刀・・・、私は・・・私は王としてうまく演じてのだろうか・・・?」
泣きながらそう吐露する彼女を他人事かもしれないが不憫に思うしかなかった。
王の責務ではなく役割に彼女は押しつぶされそうになりながら、足掻き、もがき苦しんでいたことに。
俺なんかとは到底比べ物にならないプレッシャーの中で今迄王として毅然と振舞っていたのだろうが、彼女自身も限界まで引っ張り続けたゴムのように常に気を張っていなければならなかったのだ。
常に姉と比べられてしまう王の葛藤と姉に対するコンプレックスといった諸々の要素が涙となって流れ出てくれたらいいと強く願い、そして彼女自身も幸せになってくれることを祈るしかなかった。
そんなことしか出来ない自分に歯痒いし、中途半端な優しさは時に残酷な結果を招くこともある。
本来ならここで彼女の願いをきっぱり断るのが筋だろう。
だが自分と同じく孫伯符という大きな存在に縛られてしまった人間としてどうしても放っておくことはできなかったのだ。
俺も彼女も、そして冥琳も雪蓮の残像を追い掛け続けた似た者同士だった。
だから彼女も・・・これからは自分で決め、歩んでいってほしい。
そう俺は強く願った、
それから暫くし彼女は落ち着きを取り戻し顔に生気が戻りつつあることに内心安堵する。
「さぁ、一刀仕事に戻れ。何時までも祭を待たしてはおけないぞ?」
「はい。では失礼します」
と出ていこうとするとき彼女は、
「ありがとう・・・・、そしてさようなら私の想い人・・・・」
と孫権は小さな声で去っていく大きな背中にそう告げたのであった。
「・・・・以上が報告となります。政務報告とは違いますが・・・・、不審な動きが」
「構わないわ。続けなさい」
「実は許昌から離れていけばいくほど、徴兵が上手くいかない、または土地を捨てて逃亡を図るといった離反者が相次いでいます」
「それについては私の耳にも届いてはいるわ。逃亡を図る者には然るべき処分を下すことを徹底させるようにして頂戴」
「御意」
信頼する家臣の報告に眉一つ動かさない曹操に側近でもある荀ケが心配気に見つめてくるの彼女はあえて無視する。
(呉の方が一枚上手だとでも言うの?この曹孟徳が後手後手に回るなんて・・・・)
呉は孫策が命を落としてから劇的に発展を遂げている。
山越を含む他民族国家、そして蜀との同盟。
勢力は拡大はしないが力をつけてきているのは紛れもない事実であり、国力なら蜀を抜いていると彼女は予想していた。
水陸を使った高度な運送能力と確かな技術力をもち、独立心、愛国心が非常に強い国民。まさに
『眠れる獅子』
とでも言うべきか。寝ているあいだは大人しいが、目を覚ましたら手がつけられない。
(孫策を暗殺したあの輩。後悔はしないが末代まで呪いたい気分ね・・・・)
孫策が死んでから衰退をせずここまで強国となった呉に曹操は頭を悩ませていた。
実は彼女自身孫策の強力な統率力の下で動いていた呉は彼女が死に派閥間の争いで空中分解するのではと踏んでいた。
実際、旧孫策派に私が密かに支援を呼び掛け山越と戦争をさせ内部分裂からの弱体化を図ったが、それもあっさりと討伐されてしまう。
やること全てが裏目に出てしまう。
そして今回の呉への南征でさえまるで孫呉の手のひらで上手く転がされているような気さえする。
しかし天下統一までもう手の届くところまできたのだ。
それを目前にし、尻尾を巻いて逃げるなど誇り高い彼女からしてみては有り得ない行為だった。
「秋蘭の判断は間違ってはいない。そのまま進軍していたら包囲殲滅されていたかもしれないと考えたらここにいる軍師達は同じ判断を下したでしょうからね」
と辺にいる軍師たちを見ると皆一同にうんうんと頷いている。一人はそれに紛れて寝ているが彼女はあえて見てないふりをする。
「恐縮です。華琳様」
「どれほど強国であっても覇業を達成するには避けては通れない。予定通り次の段階に移行する」
「「御意」」
そうして去っていく一同を見送りながら曹操は密かに胸を躍らせる。
(ふふふ・・・・。立ち塞がるか、逃げるか貴方ならどちらを取るかしらね・・・・?)
踊るのか、それとも生のない人形の如く踊らされるのか。
その見え透いた駆け引きに背筋を震わせる。
恐怖からではない、もうすぐ生ずる戦いに胸を躍らせているのだ。
それこそまるで飢えた獣のように・・・・。
彼女自身は諸国に送る恭順を呼びかける、つまり投降を進める文の返答自体にある程度予想がついているのだから目も当てられない。
があえて試してみたいという気持ちが上がったのだ。
自分が手を下しても良い強敵であるかどうかを見定める儀式といったところか・・・・。
くだらない事かもしれないがそれが私の流儀だ。
逆らう者は完膚無きまでに叩きのめす。
それこそもう逆らう気力がなくなるまで徹底的にだ。
今までもそうであったし、これからも変わらないだろう。
そうして彼女は一人、辺りに気づかれないよう口端を釣り上げるのであった。
二回目の会談は後に山越や南蛮なども参加し政治、経済といった国策に関わる事柄全てにおいて綿密に話し合われることとなった。
各国の技術提供と産業保護、そして集団安全保障と広域に話しあった。
蜀は劉備が主導となり出来うる限り自国の不利にならないよう交渉を進めていくなか、冥琳が俺に話したことを反諾させていた。
『お前は劉備を此方側につくよう呼び掛けて欲しい。言い方は悪いが篭絡といったところかな?』
と苦笑する彼女に
『本気で言ってるのか・・・・・?!それ』
と底冷えするような低い声で唸るように声を発する俺に彼女もおかしいと気づいたのか心配そうにこちらを伺っている。
『どうゆう意味だ?』
頭が真っ赤になり血が沸点に達しそうだった。
そう俺は彼女に初めて腹を立てていたのだと何処か遠くで客観的に眺めているもう一人の自分がそう呟いた。
『もういい・・・。帰ってくれ。・・・・・・君とは話が合わない』
『お、おい!ちょっと・・・・』
と彼女の顔を見ることなく追い出したのはつい最近の出来事だった。
理不尽な行いだと思うし、申し訳ないとは思っている。
またあの時頼まれたことはわかってる。
所詮は裏工作。
《そういった》言動が演技なのも分かっているがやり切れない思いが俺の中をグルグルと不快に蠢く。
冥琳は俺に同盟の架け橋になって欲しいのだ。
この時代は一夫多妻制でも問題はない、むしろ奨励さえされている。
男性が多くの女性を焚きつけるのはそれほどまでに魅力的な男であるというバロメーターのような役割をしているからだ。
冥琳も俺を好いてくれるから、劉備にもそうゆうことをして欲しいのだろう。
だがそんなものに俺は全く興味はないし、ましてやハーレムなんぞ吐き気がする。
雪蓮も俺に側室を作ってくれと願っていたのは知っていたがそんな彼女の考えに最後まで首を縦には振らなかった。
一人の女性を満足に愛せなくて何がハーレムだというのか・・・・?
だから、そんな事情を全く知らない迷惑かも彼女からしたら迷惑なのかもしれないが冥琳だけには言って欲しくなかった。
それは俺にとって、
《お前は不必要だ》
と言っているのと等しい。
しかしだからといって彼女の頼みを俺の一存で無下には出来ない。結局は引き受けることとなったのだ。
極めて情けない話だが・・・。
と以前冥琳に頼まれやったことだが、依然として冥琳を色々な意味で裏切っている罪悪感が消えることがないし
本人がそう言っているのだからと割り切っているが後味が悪いし、まるで踊らされているピエロのように滑稽で情けなく俺は見えた。
(・・・・・・今の俺をみたら雪蓮はどう思うだろうな)
と自虐的に口端を歪めるしかなかった。
その会談も難なく終了し、あとは劉備たちが帰る前日を迎えることとなる。
雪蓮の妹である孫権と取り敢えずは矛を納め、俺も仕事は滞りなく進んでいたが、
「北郷殿、我が主がもう一度お前と話がしたいそうだ」
と趙雲が話しかけてきたのだ。
彼女は苦手だった。昔の自分に、そして今の自分にあまりにも似すぎていて・・・。
同族嫌悪、近親憎悪とでも言おうか。
理想に燃え滾るその炎が
『現実』
という冷たくて、非情で残酷な水を浴び消えかかっている。
『どうか勇気を持ってください。
その勇気は悪に立ち向かう、常に善であろうとする崇高な勇気ではなく、自分がどれだけ嫌われ者になるかという勇気を持ってください。
信念を曲げないというのは当然、その考えに反対する人々も出てくるでしょう。
ですが貴方の後ろにも支えてくれる人々が大勢いるということもまた紛れもない事実なのです』
と以前彼女に対してオブラートに包むよう細心の努力を心がけ自分の本音を話した。
理想だけでは人を救えない。
理想や願うではなく、実現に向かい動くことでその『現実』に立ち向かう力と勇気が手に入るのである。
それは俺が六年間で培ってきた『現実』だ。
ただ俺は理想を持つのをダメと言ってるわけではない。
問題なのはその理想が《本物のように擬態する影》か《本物そのものである光》であるかの違いであると思う。
理想を求めるプロセス、いわゆる《光》は実は燦々(さんさん)と大地を照らす太陽のように幾多もある。
その《光》を自分の築いた経験、価値観といったシャッターががほとんど無意識のうちに締め出してしまう。
そうして締め出され、残った一筋の光だけをまるで唯一無二の真実であるかのように錯覚してしまう。
それこそが偽りを映し出す《影》だと気づかぬまま・・・。
あの時の劉備はまさに《それ》だった。
彼女は本当は幾重もの《光》があるのにそれを締め出していた。
だから彼女とは相容れない、嫌悪してしまうのだと思う・・・・。
とは流石に本人に言うわけにはいかないし、そのつもりもない。
それも自分の任務であるなら忠実に実行するまでだ。
「分かりました。ではいつ其方に向かえば宜しいでしょうか?」
「ふむ、出立の日の空いた時間に付き合ってもらいたいと言っておられたが?」
「分かりました。では明日直ぐに其方へ出向きます」
心の中でピエロに成り下がった自分を嘲るがもう一人の自分が冷静になれと呼びかけているのも事実だ。
そうだ。理想ではダメなのだ。実現のために行動を起こさなくては・・・。
だが・・・・。
いけないことなのか?
一人の女性を愛するということが・・・・。
この人と人生を共にしたいと思うことさえ・・・・。
割り切ってると思いながらも、再びその疑問が頭を過ぎった。
「いいかげん・・・。大人になれ北郷一刀」
と叱るように呟き劉備のもとへと向かうが、まだ心のしこりは残ったままであった。
皆さんおはようございます、こんにちは、そしてこんばんわ。
コックです。
今回第二十五話見ていただきありがとうございます。
桃香さんは何故か性格が変わっちゃいましたがまぁ納得してくれるんじゃないかなぁと。
それと一刀くんが最後に桃香さんでなんか言ってましたが。
これはちょっと名前を忘れちゃったんですが、たぶんプラトンの
『真実のイデア』
という考えをモチーフにしてます。
気になる人は調べてみてはどうでしょうか?
昔の哲学者は今の政治に繋がるような考えを作った人たちですから、なかなか面白いですよ。
さて北郷くんは冥琳さんとちょっと喧嘩みたいなことをしてしまいました。
ゲームの設定では呉での一刀くんの立ち位置は大喬、小喬のポジションに位置するという隠れ設定みたいなのがあります。
無印でも冥琳さんは似たようなことを口にしているのがわかりますよね?(大喬、小喬はそれでレギュラー降格になりましたが・・・・)
でも一刀もタグであるようにキャラがおもっきし変わってますのでそれを受け入れられないというわけです。
ギスギスした関係にまたなっちゃいましたが、何とかします。
お楽しみに!!
できればあと2〜3話で終わらせられたらなと考えています。
最後の〆はもう頭に浮かんでいますので、あとはどうやってそれに持っていくかですね。
では再見!!!
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遅れました。すみませんm(__)m あともう少しで終わりにもっていけたらなと思います。 |
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コメント | ||
らめぇ〜。結論を言っちゃダメぇ〜。確かに悶々させる予定ですが何故冥琳さんがそのようなことを言ったのかを考えてみるのもまた一興かと。一刀視点では冥琳さんの考えていることは書いてませんからね (コック) 自分でけしかけといて嫉妬にもんもんとする冥琳が見れるわけですね楽しみです。(shirou) |
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