破壊魔女襲来
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 1945年6月。ヴェネチア解放に向け、後の「オペレーション・マルス」となる作戦の準備が進められていた。

 この作戦はヴェネチア・ロマーニャ解放を実現し、欧州解放への足がかりとなる重要な作戦となるため慎重に準備が進められている。

 もちろん欧州解放へ向け各統合戦闘航空団も奮戦しているが、うまくいっていないのが実情だった。

 

 ペテルブルグに置かれている第502統合戦闘航空団、通称『ブレイブウィッチーズ』も、なかなか芳しくない。

 芳しくないと言っても、戦闘において厳しいというわけではない。むしろ隊の撃墜数をハイペースで伸ばし続けていて、オラーシャ、カールスラントの両方面に睨みを効かせている。

 

 では何が厳しいのか? 問題はストライカーユニットの破損率なのだ。撃墜数が伸びるのは敢闘精神旺盛な隊員が三人程いるからなのであるが、出撃のたびにそのうち1機以上が破損もしくは全損という状態が多くある。

 カールスラント、オラーシャという激戦区を担当していることもあり他の部隊よりも502のストライカーユニットの損耗率は大目に見られている面があるが、それにしても壊し過ぎであることは間違いない。

 ユニットを壊す、ヴァルトルート・クルピンスキー中尉、管野直枝少尉、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長の三人は部隊名からブレイクウィッチーズと揶揄されている程だ。

 

 

 そして今日はクルピンスキーが502JFWの戦闘隊長 アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉からブリーフィングルームに呼び出されていた。

 

 502JFWにネウロイの報告が来たのは今日の朝。8人いるメンバーの内、夜間哨戒後だった下原定子と年齢的に無理が効かないエディータ・ロスマンを除く6人が出撃した。

 幸い、目標の速度は遅く、再生能力の高い敵でもなかったためブレイク三人組の猛攻撃を受け、直ぐに撃破することができた。

 しかし、今回も損害0で撃墜とはならなかった。クルピンスキーが被弾し、ストライカーユニットが破損してしまったのだ。

幸いクルピンスキー本人にケガは無く、予備が一つあるため戦闘にも支障はないが、修理に時間がかかる見込みだ。

 

 

「中尉! 聞いているんですか!」

 サーシャが窓を見ていたクルピンスキーを無理やり振り向かせる。

「聞いてるって」

 そうやってニコニコしながらサーシャを見るクルピンスキー。それを見てサーシャのこめかみに青筋が浮かぶ。

「中尉〜! あなたって人は〜〜〜〜!」

 さらに激昂したサーシャに「まぁまぁ落ち着いて、大尉」と手ぶりも加えて押さえようとする。

 

 

『―ガッー…ガガ…れか……いか…――』

 クルピンスキーがサーシャを押さえようとしているとブリーフィングルームにある無線機が何かを受信した。

 

『――ガー…ガガガッ……ンナ・ルー……佐…。誰か聞こえ……――』

 一度席を離れ、急いで無線を取るサーシャ。少し、受信域がずれているのか音が途切れ途切れだ。

 

「…こちら第502統合戦闘航空団、アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉です。聞こえますか?」

 周波数を調整しながらサーシャは呼びかける。クルピンスキーもサーシャの後に立ち耳を澄ます。周波数を変化させながら三回程繰り返し呼び掛けると、向こう側が反応した。

『通じたか…こちら、カールス…ト第2急……撃隊、ハンナ・ルー……佐だ』

 どうやら通信状況も悪いのか周波数を調整してもこれが限界のようだ。スピーカーから聞こえる声にクルピンスキーは聞き覚えがあった。

「どうしましたか?」

 緊急を要する空気を無線機から感じ取ったサーシャは険しい顔で質問する。

『被弾し…基地まで帰れ……にない……着陸許可を……』

 よく聞こえなかったが、着陸許可を求めていることは直ぐに分かった。

 

「分かりました。着陸を許可します」

『…感謝する』

 

 短く返答があって通信は切れた。サーシャは放送マイクを通ろうとする。

 背後からドアの閉まる音がしてサーシャは振り向くと、そこにクルピンスキーの姿は無かった。

 

 

 

 

 クルピンスキーは基地内を走り滑走路へと向かう。廊下を走ることは軍規違反であるがそんなのお構いなしに全力疾走する。

《緊急連絡です。ウィッチが緊急着陸します。滑走路にいる人は緊急着陸用のネットを展開して直ちに離れて下さい。繰り返します……》

 基地内にサーシャの声が響き、基地内が慌ただしくなる。クルピンスキーの予想が正しければ着陸するウィッチはかなりの曲者だ。

 クルピンスキーの左前方に滑走路が見えてきた。整備員が着陸用のネットを張っているのが見える。走ったまま滑走路の奥に目を向けると、薄っすらとではあるがストライカーらしきものが向かってきているのが見えた。

 

 クルピンスキーは再び建物に入った。建物内から滑走路に向かうのはここを通るのが一番早い。格納庫に入り整備中のストライカーユニットの横を通って滑走路に出た。

 

 滑走路に出たクルピンスキーの目に入ったのは煙だった。白い煙はネットの中心部から立ち上がっているらしくネットは端の部分しか見えてない。

 

 そして煙の中に人影が見え、こちらに向かってくる。数秒で煙も晴れてはっきりと姿が見えた。

 

 色素の薄い金髪を後で一つに結び、顔を横切る大きな一文字傷。そして胸に輝く黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字章。あんなウィッチは世界中探しても一人しかいない。

 

空飛ぶ破壊女王、ハンナ・U・ルーデルが502JFWに降り立った。

 

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 滑走路を一度見まわしてから、ルーデルはクルピンスキーに近づいてきた。

 

「すまないが、この部隊の……ん…? 貴様は確かJG52の……「ルーデル大佐!」」

 クルピンスキーの顔を見たルーデルは何か言おうとしたが、それは途中で遮られた。

 呼ばれた方向に視線を移すと502JFW隊長グンドュラ・ラルが目に入り、足先がクルピンスキーからラルの方向へと進む。

 

「出迎えが遅れて申し訳ありません、ルーデル大佐。第502統合戦闘航空団司令 グンドュラ・ラルです」

 ラルは駆け足でルーデルの前までやって来ると一度敬礼してから言った。

 

「気にするな。それよりも緊急着陸の許可、感謝するぞラル」

「とりあえず、司令室へと行きましょう大佐。ストライカーユニットはこちらで回収しますので」

 ラルの提案にルーデルもと頷き、ラルが指示を出すと整備班がネットに絡まったストライカーを回収し始めた。

二人が司令室に向かい、整備班も慌ただしく動き始めたので滑走路に取り残されていたクルピンスキーも建屋に戻った。

 

 

 

 指令室へ案内されたルーデルは、ラルに502に着陸した経緯を説明していた。

 

欧州の中でも東部戦線を転戦しているルーデルであるが、本日はカウハバの507基地を出撃しオラーシャ方面の地上ネウロイを攻撃していた。しかし地上ネウロイを攻撃中、空戦ネウロイと遭遇し奇襲を受けたのだ。

対地攻撃のウィッチであるルーデルの機体はJu-87 G-2スツーカ。本人の希望により37mm機関砲を2門搭載した特別機だ。爆撃機であるスツーカでは空戦ネウロイには歩が悪く被弾し、カウハバまでは戻れそうになくペテルブルグの502に着陸したのだった。

 

「それで、大佐を被弾させたネウロイは?」

 一通り話を聞いたラルが尋ねるとルーデルは表情厳しく答える。

「撃破したよ。まぁ、半ば相討ちだったがな」

 さらっとした言葉にラルは驚く。相討ちにはなったが急降下爆撃ウィッチが空戦ネウロイを撃破したなんて聞いたことがない。さらにルーデルは既に二十歳を越え「あがり」を迎えているのだ。

 

「空戦は難しいものだな。敵を追うだけで精一杯だ」

 ルーデルはネウロイから逃げるのではなく追うと言った。それは相手が陸だろうが空だろうが攻撃すると言っていることには変わりがないということだ。

 こんなウィッチが見方で良かったとラルは思う。ラルだって撃墜数世界第三位のスーパーエースだが、勝てるとは思えなかった。

 

 

「ところでラル、私のストライカーは修理出来そうか?」

「今日中は難しいですが、明日には。尚、大佐の部屋はこちらで用意しますのでご心配なく」

 まぁ、一般用の空き部屋ですがとラルは付け加える。ルーデルもまさかそこまでしてくれるとは思っていなかったようで表情を緩めた。

「何、雨風が凌げればそれで十分だ。それではラル、すまないが厄介になるぞ」

「全然そんなことは。もし、何かあっても幸い37mm弾も予備があるので武装面は心配いらないかと」

 

 ラルは冗談のつもりで言ったのあるが、ルーデルは一瞬で元の緊張感を含んだ真面目な表情に戻り、

「もし、そうなったらストライカーを借りるぞ」

と言われ、流石のラルも苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

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 一方そのころ、502の面々はブリーフィングルームに集まっていた。502のブリーフィングルームも501と同じように講堂のような形になっている。

 今日はここに、管野、ニパ、下原、ルマールの四人が集まっていた。

いつもは作戦伝達、エディータ・ロスマン曹長の講義などが行われているこの部屋であるが、今日はおしゃべりの間と化していた。もちろん話題はルーデルのことだ。

 

 四人はサーシャの放送を聞き、クルピンスキーより遅れて滑走路に向かった。下原に至ってはこの放送を聞いた管野に起こされ、引っ張られる形で滑走路にやってきた。

滑走路に到着したときには煙を吹くストライカーと着陸用ネット片づける整備員が忙しく働いているだけウィッチの姿は無かった。

 とりあえず、管野が近くにいた整備員を捕まえて話を聞いたところ、被弾したウィッチが不時着したとのことだった。それはサーシャの放送で知っていたし、一体どこのバカが不時着したのかと問い詰めたところ佐官クラスのウィッチだと聞いて四人は驚いたのだった。

 

 

再び場所はブリーフィングルームに戻る。

 

「んで、そのルーデルってやつはそんなに凄いのか?」

 管野の声には疑問の念が含まれている。佐官クラスの人間が被弾して不時着するなんて管野自身見たことが無かった。

 

確かに隊長であるラルも少佐であるし、被弾し入院したことくらいあると知っている。だが、少佐になった後は撃墜されることも無かったし、そもそも佐官はデスクワークや指揮することが多いはずなのだ。まぁ、502の隊長殿は指揮をした後に自分で敵を撃墜してしまうのだが。

 

「私も凄いウィッチだとは聞いたことはあるんですけど、それ以外はちょっと……」

 ルマールも名前くらいは聞いたことがあるようだが、詳しいことまでは知らないようだ。

もしかしたら知らないことは当然なのかもしれない。今ここにいる四人は空戦魔女であり地上攻撃魔女ではないのだ。

 

 4人はうーんと首を捻ってしまう。このままでは管野の言う通りあまり凄くない人のように思えてきてしまった。

 

 

「あら、みんなどうしたの? 今日は会議でもあったかしら?」

 後から声がして、四人が入口側に振り返るとそこにはロスマンとクルピンスキーがいた。

 

「いったい、みんなで何の話をしているんだい?」

「いや、ルーデル大佐のことなんですけど、曹長や中尉は何か知ってます?」

 僕たちはどんな人なのかあまり知らなくて、とニパは付け加えた。

「要はそのルーデルって奴はホントに凄い奴なのかって話」

「ちょっと、少尉!」

 管野が荒く言い放ったので横にいたニパが肘で小突いた。それに管野はムスッとした顔になる。

 

 二人を見て『はぁ…』ロスマンはとため息をついてから、語り始めた。

 

「ハンナ・U・ルーデル大佐、カールスラント第2急降下爆撃隊 司令。いままで二十回以上の被撃墜があるにも関わらず今だ前線で戦い続ける対地エースよ」

 それを聞いた四人は被撃墜数に驚く。そんなに撃墜されているなら飛べなくなったり、後方に移動したりするものだからだ。

 

四人が驚いている中、今度はクルピンスキーが口を開いた。

「地上ネウロイの撃破数は大小含めて、1000輌は越えているらしいよ」

「「せ、1000!?」」

 管野とニパがそろって驚きの声を上げた。幾ら対地攻撃をあまり経験したことのない四人でも異常な数字だとすぐに分かる。

 

 502のラルがつい先日、250機撃墜の勲章をもらったばかりだ。人類一位の空戦撃墜数をもつ501の『黒い悪魔』ことエーリカ・ハルトマン中尉だって300機を超えているが、この数字の前では霞んで見えてしまう。

 

「あ、でもこの数字はちょっとサバ読んでるみたいなんだよね」

 クルピンスキーがそう言うと四人は安堵した顔を見せた。管野は「なんだよ…驚かせやがって…」と汗を拭いている。

 

「…で、ですよねぇ。いくらなんでも一人で1000も撃墜できないですよね」

 下原も冷や汗を拭いながら、安心した顔でロスマンの方を見ると、ロスマンが首を振っている。

 

「逆よ、大佐は自分の撃墜スコアを過少報告しているみたいなの」

 ロスマンの一言により本日二度目の電撃が走り、四人は絶句した。

「何でも、あまりにも撃墜数が多すぎてと休暇を与えられるのを避けるためとも言われてるわ」

「ま、まさに職業軍人って感じですね……」

 ルマールが動揺を隠しきれずに呟いた。

 

「スコアを同僚に譲ってたり、無断出撃を繰り返しているから正確なスコアは分からないらしいよ」

 

 クルピンスキーがそこまで言ったところで四人が悪魔でも見たような顔でクルピンスキーの方を見ていることに気づいた。

「あれ、みんなどうしたの?」

 不思議に思いクルピンスキーが尋ねると、四人は口をパクパクさせながらクルピンスキーの後方を震える手で指差す。

 

 

「……何の話をしている、ヴァルトルート・クルピンスキー中尉」

 

 凍るような冷たい声がクルピンスキーの背後から聞こえた。

 

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 クルピンスキーの顔はみるみる内に青ざめ、冷や汗が額に噴きだす。そして油の切れた人形のような動きでゆっくりと背後を振りむいた。

 

 そこにはルーデルが眼光鋭く立っていた。

 

「ル、ルーデル大佐……お、おひさしぶりです……」

 青い顔のまま引き攣った笑顔を浮かべて挨拶したクルピンスキー。

 

「人の噂をするとは感心せんな」

 さらにルーデルの顔は険しくなる。いつもは飄々としているクルピンスキーも今の彼女の前では完全に蛇に睨まれた蛙も同然だった。固まるクルピンスキーのそばでは管野を始め四人も震えあがっており、頭の中ではどうにかしてこの空気から抜け出そうと策を練っている。

 

 

 しかし、策が出る前にこの空気は霧散することとなった。それが以外にも助け舟を出したのはルーデル本人からだった。

 厳しい表情から「ふぅ」とルーデルは一息ついてから

「冗談だ…」

 と呟き、ブリーフィングルームは緊張から解き放たれる。

 

「お久しぶりです、ルーデル大佐」

 ロスマンがルーデルに敬礼すると、ルーデルもやや柔らかい表情で返礼する。ウィッチの中でも小柄なロスマンが大柄なルーデルの前に立つといつもよりさらに小さく見える。

 

「こちらこそ、ロスマン曹長。変わりは無いか?」

「そうですね、強いて言えば先日二十歳になったことくらいですか」

 二十歳になる。それは魔女にとって『あがり』を迎えることを意味する。中には魔力減衰の少ない魔女もいるがそれはほんの一部に過ぎず、ロスマンもまたそうではなかった。

 

 そんなロスマンにルーデルは言う。

「何、私だって二十歳を超えてもこうやってやれている、それに貴様は教導官も続けるのだろう」

「…ええ、まだまだ教え足りないですから、頑張るつもりです」

 そう言ってロスマンが微笑むとルーデルも「期待しているぞ」と声をかけた。

 

 

「クルピンスキー中尉も久しぶりだな、貴様の噂は耳に入っているぞ」

 標的になったクルピンスキーは「いやぁ、それほどでも」と照れる素振りを見せる。しかし、本人は内心見た目ほど照れてはおらず、そのようなポーズをとっているといった感じだ。

 

「敵を堕とすついでにストライカーも壊していく…とな」

「もう、ひどいなぁ」

 とても上官に対してとは考えられない台詞でクルピンスキーが声を上げる。ルーデルは皮肉りながらニヒルな笑みを浮かべているので、おそらくそれを分かってのことだ。

 

 

「あのー」

 しばらく蚊帳の外だった下原が控えめに手を上げたので、カールスラント勢の三人が振り向いた。

 

「…クルピンスキー中尉もロスマン曹長も大佐とお知り合いなんですか?」

「知り合いと言えばそうかなぁ? あってるよね先生?」

「上官ですよ」

 ロスマンは間髪いれずにそう言うと、ぺしっと指示棒でクルピンスキーに一発。

 

「昔、JG52に立ち寄ったときに顔を見た程度だったが、あのときから目立っていたからな貴様らは」

 JG52。この部隊にはカールスラントの中でも屈指のエースがかつて在籍していた。502にはラル、クルピンスキー、ロスマンが。501にはミーナ、バルクホルン、ハルトマンが出身だ。アフリカの星ことマルセイユ大尉も一時期所属していたほどの部隊だ。

 

 

「ところで、大佐はどうしてこの部屋に? 隊長と司令室に向かったはずでは?」

 クルピンスキーは先程滑走路から司令室に向かう二人を見ている。てっきり話し込むだろうと思っていたためだ。

 

「ラルと話合った結果、私には空戦力が足りないということになってな」

 ルーデルがそこまで言った時、嫌な予感がした。

「貴様らと模擬戦をしてみようと思ってな」

 

 そのとき管野とニパの後からガタッと音がして、二人が振り返ると下原とルマールの姿は消えていた。

「あ、あいつ等逃げやがった!」

 管野が叫ぶ。この一言で一緒に残されたニパと共に完全に逃げ出すチャンスを失ったのだ。

 

「で、でも、た、大佐は急降下爆撃隊とお聴きしましたが…」

「爆撃ウィッチでも、空戦訓練は必要だ。そうは思わないかね、カタヤイネン曹長?」

 ニパが必死に逃げる糸口を探そうとするが、凄みを持たせた声と鋭い眼光のルーデルに見つめられ逆に動けなくなってしまった。

 

「貴様も逃げるなクルピンスキー」

 ニパが時間を稼いでいる間に逃げ出そうとしたクルピンスキーの襟元をルーデルの右手が捕まえる。

 

 捕まえられたクルピンスキーはロスマンに視線で助けてと送ってみるが、ロスマンからは「頑張りなさい」の一言で一蹴されてしまった。

「先生ぇ〜…」

 メッセージを受け取ったクルピンスキーが情けない声を上げる。

ルーデルは残った左手で管野とニパを捕まえるとブリーフィングルームから格納庫へと向かおうとする。

「じたばたするな、ラルには許可を貰っているんだ。おとなしくしろ」

 

 部屋のドアを出る前にルーデルは「ストライカーを借りるぞ曹長」とロスマンに声をかけ、三人を格納庫へと引張っていた。

 

 

 

 その後ブレイク三人組みは爆撃隊の大佐に模擬戦で揉まれたあげく何故か急降下爆撃まで仕込まれ、基地に戻ってきたのは暗くなってからだった。

 ボロボロになった三人と入れ替わりで夜間哨戒に出ようとしていた下原は目をそむけながら夜空へと飛び立っていったそうだ。

 

 

 

 余談ではあるがこれから三十年後、カールスラント連邦軍の空軍将官となっていたクルピンスキーから慣例行事に実業家となっていたルーデルは招待されることになる。

 その席でルーデルはこの模擬戦の話をして会場の爆笑のさらうことになるのだが、この時はそんなこと誰も予想しているはずもなかった。

 

                     (終)

 

説明
昨年のハンナ・ルーデル誕生日用に書いたものです。カッコ良すぎるよ、ルーデルさん。
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ストライクウィッチーズ ハンナ・ルーデル 502JFW ヴァルトルート・クルピンスキー 

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