恋姫夢想 〜至高の鍛冶師?の物語〜 第二十三話 |
黄巾賊が来ていた筈なのに、なぜか街に居たのは獅子。
さらに、一緒に居たのは黄巾賊の首領、張角の名を持つ女の子と、その妹達二人。
全く状況が掴めない中、今俺は何をしているかというと
「美味しいね〜」
「獅子が褒める訳ね」
「これなら納得」
「いや〜〜すまん、真也」
「……なんで俺が」
張三姉妹と獅子に飯を作ってたりする。
ついでに
「……おかわり」
「ねねもですぞ!」
なぜか恋と陳宮が同じテーブルにいたりする。
桃色のロングヘアーで、天然そうな雰囲気を持っているのが長女の張角。
青い髪をサイドに纏め、活発な女の子が次女の張宝。
紫の髪をショートカットにし、眼鏡をかけたクールな女の子が三女の張梁。
この張三姉妹と獅子、あと恋と陳宮になぜ俺が飯を作るような状況になっているのか。
それは少し前の事である。
兵士に呼ばれ、一緒に行くとそこに居たのは獅子と張三姉妹。
詠の話によると、出陣後すぐに賊らしき集団を発見。数も少なく、即座に撃退を
指示しようとしたら、その集団の中から白旗を持った獅子が単騎で向かってきたらしい。
獅子の事はこの街で知らない人間はおらず、それは軍も例外ではない。
なぜ獅子が、という疑問を持ち、詠は警戒態勢のまま獅子を受け入れた。
そして話を聞くと、この集団は賊では無く、張三姉妹を中心に作られた一座だったらしい。
元々は唯の追っ掛け数人だけだったらしいが、公演の準備等を手伝っている内にそのまま
共に行動するようになり、その数が増えていって今の様な集団になったそうだ。
で、こいつらが街に来た理由は…………なんて事は無い。ただ食糧を購入に
来ただけらしい。
他の街に寄ったりもしたが、この集団のイメージカラーなのか、全員が
黄巾賊の様に黄色の上着や鉢巻きをしている。その為に黄巾賊と間違えられて
追っ払われたらしい。
次は全員黄色い物は身に着けずに行ったのだが、黄巾賊が頻発している現在、大人数で
移動している集団という事で怪しまれ、これまた碌に話もさせてもらえなかったそうだ。
で、今度は少人数で買い出しをするようにしたが、運べる量に限りがあるので
消費の方が多くなり、どんどん貯めてある食糧が減っていく。
売れるほど蓄えがない町もあったので、出来る限り節制はしていたが、それだけでは
心許ない。
で、最後の頼みの綱として俺の居るこの街に来たらしい。獅子本人も董卓軍とは
付き合いがあったし、軍と繋がりもある俺がいるからと考えたらしい。
獅子本人は一方的に頼る形になってしまうから申し訳なさそうではあったが。
いくら獅子が居るとはいえ、そう簡単に信用する訳にもいかないので、周りを
軍で囲んで監視しながら街の外まで連れてきたのだが、その時に張角のお腹が
鳴って周りが沈黙。本人は笑って誤魔化していたが、その時に
「あ〜〜嬢ちゃん、とりあえず先に天和ちゃん達に飯食わせてやってくれねえか?」
「……正直、まだ街に入れたくないわ」
「信用できねえってんなら、俺達は街の外で待ってるからよ」
と、追っ掛けのリーダーらしき男が提案し、他の追っ掛けたちもそれに同意。
監視の人間と、それを指揮する人間として霞をそのまま残し、張三姉妹と獅子だけが
街に入ったとの事。
ここまではいいんだが、張三姉妹がなぜか飯屋じゃなく俺を指定。
なんでも、獅子が俺の事をよく言っていて是非食べてみたかったらしい。
その為に俺が呼ばれたそうだ。
だが、当然ながら食事を用意してる筈も無く、一から作るから時間掛かるぞ、と言ったら待つと言われた。
……腹減ってたんじゃないのか?
詠からも頼まれ、仕方なく人数分の飯を作る事にした。ちなみに食卓の場には
張三姉妹と獅子の他に、話を聞く為に詠も居て、その護衛と四人の監視の為に
恋(当然の如く陳宮も)と華雄が居る……筈だったのだが。
「…………(じ〜)」
「……何故居る」
いつの間にか恋が厨房に居て、一つの鍋を凝視していた。
調理中とはいえ、全く気付かなかった。
「……いい匂いがする」
「……出さんぞ」
というか、あの時厨房はいろんな匂いが充満してたのに、よく中身入りだって
分かったものだ。
流石と言っていいのかは分からんが。
「…………(じ〜)」
「…………こっち見詰めても駄目だ」
「…………(じ〜)」
「…………」
「…………(うるうる)」
「………………温めて持って行ってやるから戻ってろ」
「ん」
俺の言質を取ったからだろう。上機嫌で戻っていった。
あの涙目は反則だ。本人が意識的にやってないというのがまた恐ろしい。
仕方なく、鍋の中身も食卓に並べた。
折角作ったのに。豚の角煮……。
「………………(もぐもぐ)」
「本当にもう何なの? この可愛い生き物」
「ねえねえ、私の分も食べる?」
「私のも」
「ん」
そして、恋に魅了された人間が一気に三人も増えた。
確かに可愛いよ。一生懸命食べてるリスみたいで。
時々ザシュッって擬音が聞こえそうな感じで食べ物に箸突き刺してるが。
まあ、そんなのが気にならない位、ほわわ〜んとした空気が出来るんだけどな。
いつも食われてるのが俺の作った料理じゃなければ、俺もきっと恋の食事風景に
和んでいたんだろう。
というかお前等、豚の角煮まで出したんだから自分らで食わんかい。
「食後のお菓子、そろそろお願いね」
「初対面の人間相手に図々しいな、おい」
しかも催促までしやがった。それで出してやる俺も俺なんだが。
ちなみに出したお菓子は試作の揚げプリンである。
「美味しかった〜。お腹一杯」
「満足満足♪」
「「「ごちそうさまでした」」」
「今回も食えたですぞ、へっぽこ鍛冶師」
五人とも出された食事を食べ尽くし、満足したようだ。
陳宮は口に出さないが、今更なのでスルーする。
新作を出した上、華雄達にも見せた以上、月様達に作る事は
確定してしまった訳だが。
……今更だが、なんで監視する立場の恋が監視対象の張三姉妹と同じ食卓に
着いているのか。
それはともかく、食事が終わったので詠が張三姉妹に対する聴取を再開する。
「あなた達がこの街に来た理由はもう知ってる。華佗が一緒に行動して、恋まで
あなた達から目を離した。これでも十分、あなた達が悪い人間じゃないっていうのは
分かる。それでも一応聞くわ。
あなた達、民の扇動とかした?」
詠が念のためだろう。姉妹三人に確認を取っていた。
「え〜〜、私達そんな事してないよ。ねえ?」
それに対し、張角は否定。妹二人にも同意を求め
「なんでちぃ達がそんな事しなくちゃいけないのよ」
「そんな事したら歌を聴いてもらえなくなる」
その二人も否定し
「俺は勿論、三人とも扇動なんかしていない。それは胸を張って言える」
獅子も駄目押しをした。
「けどな、暴動を扇動してる首謀者の名前が張角らしいぞ。ちなみにこれ、手配書」
と、俺が出回ってる手配書を三人に見せたら
「あははははは! なにこれ〜〜〜!」
「て、天和姉さん……いつの間に…………こんなおじさんに」
張宝は爆笑。張梁は口に手を当てて肩を震わせている。が、単に笑いを
堪えているだけだろう。
「獅子〜〜〜、二人が酷いよ〜〜〜〜」
当の本人は涙目で獅子に抱きついていたが。
「ちょっと天和姉さん! なにどさくさ紛れに抱きついてるのよ!?」
「離れて」
「い〜〜〜や〜〜〜〜〜!!!」
それを見咎めた張宝・張梁が獅子から張角を引き剥そうとするが、張角は
獅子を離そうとはしなかった。
「ははは……」
獅子も力なく笑うしかないようだ。
元の世界なら「リア充は爆発しろ!」と言われてる光景だった。
ちなみに俺の口から出た台詞は
「人の店でいちゃつくな」
である。
「まあ肝心の人相書きがこんなのだから、おそらくどこも当てにしてないわ。
でも、あなたに断定される可能性は十分ある」
「え〜〜!? 全然似てないのに!」
張角が心外だとばかりに非難の声を上げる。確かに、ここまで違いすぎる人相書きから
自分に繋がったら、納得いかないだろうな。
「むしろあり得ない人相書きだから厄介なのよ。ここまで滅茶苦茶だとどんな情報も
意味を成さないわ。でもあなたは張角という名前を持っている。
黄巾賊の首領と目される人間と同じ名前をね」
「? それに何の意味があるのよ」
張宝が詠に対して質問する。張角も首を縦に振り、同じ考えだと示す。
逆に獅子と張梁は眉をひそめた。詠の言葉の意味が分かったからだろう。
「全く姿がわからない人間。でもその人間と同じ名前を持つ人間が居たら、ほとんどの
人間は同一人物かと疑うでしょうね」
「「ええええええ!!?」」
張角と張宝が声を上げて驚く。詠は触れないが、疑われるどころか首を
落とされる可能性も十分あるんだよな。手柄を狙う無能とかから。
『同じ名前だという事実だけで十分』とか言って。
本来なら『そんな馬鹿な』と言って笑う所だが、この騒動の大きさから考えると
ありえないって言えないんだよな……。それだけ現在の状況に不満を持ってる人間が
居るという事、同時にそこを治める人間に不満があるって可能性もあるんだから。
有能ならば、民の不満を和らげるために何らかの対策をしてる筈だし。
うちを出入りしてる商人の話だと、このご時世に税を増やした馬鹿もいるらしいからな。
必ずしも間違いじゃないが、ここのように豊かな場所でなければ反発くらうだけだろうに。
「…………真也、話がある」
「ん?」
そんな中、不意に獅子が俺に話し掛けてきた。
それも真剣な表情で。
「三人を、ここに置いてくれないか?」
「「「獅子!!?」」」
「今の話を聞く限り、このまま旅を続けるのは危険すぎる。せめてこの騒動が
収まるまでは」
「……俺が三人を売るかもしれないぞ?」
「お前がそんな人間か?」
確信した様な笑みを浮かべながら言うな、獅子。その通りだが。
「もう一度確認するぞ。本当にお前等扇動してないんだな?」
「「「してない(わよ)(です)!!!」」」
俺の質問に、三人とも声を大にして叫んだ。
……嘘は言ってない。本人達が自覚してないだけで関わってる可能性は十分あるが
「……お前等四人置いてもいいが、条件がある」
信じてみるとするか。
「四人? いや、置いてほしいのは三人……」
獅子が何か言ってるが、無視だ。
「労働はちゃんとしてもらう。獅子はともかく、お前達三人は俺と関わりないからな」
「「え〜〜〜」」
「……内容は?」
「それは任せる。飯屋で運び手をやるのもいいし、獅子の助手でも構わない」
「じゃあ、それで」
「あと外に居るのを説得してちょうだい。なんなら相談に乗ってあげるわ」
「…………」
詠が俺の出す条件を勝手に増やした。街が変に騒がしくなるのは俺も御免だから
何も言わないが。いきなり一つの街に留まるなんて言われても混乱するだろうし。
まあ、説得してもここに残る人間が多いだろうが。旅をしながら追っ掛けをする連中だし。
「いや真也、置いてほしいのはこの三人だけなんだが……」
「…………お前がいないと、こいつら残らないぞ」
獅子の物言いに、俺は呆れながら返した。
「そうだよ、獅子」
「ここまで一緒だったんだから、もう一蓮托生よ!」
「置いてくつもりでも付いていく」
「な?」
「…………よろしく頼む」
三姉妹の言葉に、獅子も折れた様だ。申し訳なさそうに頭を下げた。
「な、ならばわた『恋、後で肉まん買ってあげるから華雄どこかに連れてって』『ん』何!?
ちょっ、後生だ! 離してくれ呂布〜〜〜〜!!!」
「恋殿! ねねもご一緒するですぞ!」
何かを言おうとした華雄を詠が遮り、さらに恋が華雄を連れて店の外に出ていった。
そして当然の様に陳宮が後を付いていく。
護衛が誰も居なくなったが、いいのか?
「さて、じゃあ色々決めましょうか。真也、お茶」
「……お前も平然と茶を催促するな」
「分かってないわね。こういう時には美味しいお茶を飲みながらの方が
上手く話が進むのよ」
「そういうものか?」
「そういうものよ」
なら、お茶のおかわり用意するか。
少しでも良い方向に話が進んだ方がいいしな。
おまけ
鋼鷹で話が行われている時の霞
「でな、いいかげん一歩踏み出せっちゅう話な訳や」
「わかる、わかるぜ姐さん。天和ちゃん達もそうなんだよ」
「「はぁ……」」
「けどあんたら、あの三人が自分等以外とくっつくのはええの?」
「…………わかってねえぜ、姐さん」
「ん?」
「例え、例え自分でなくても、幸せを願うのが真の追っ掛けってもんなんじゃあああ!!!」
「「「「「あにきいいいいい!!!」」」」」
「いや、血の涙流しながら力説せんでええから……」
追っ掛け連中と通じるところがあったらしく意気投合。
後書き
獅子再び+張三姉妹居候。
詠も認める方向ですが、いざとなったら切り捨てられるように
華雄の居候は認めませんでした。
将軍が居ると「何かある」と言ってる様な物なので。
華雄の行動は察してあげてください。いきなり女性三人が想い人の所に
居候なんてなったら気が気じゃないでしょう。
他の人間に好意が向いていても間違いが起こらないとは
限りませんから。
それでは皆さん、良いお年を。
説明 | ||
龍々です。なんとか年内にもう一本できました。四か月以上掛かりましたけど……。 申し訳無い事に、今後もこれ位の時間が掛かる可能性 大です。 けど書く事はやめませんので、これからもお付き合いの程をよろしくお願いします。 では、二十三話どうぞ。 |
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コメント | ||
スターダストさん>あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 はい、時間は掛かっても完結目指して頑張ります。(龍々) ラーズグリーズ1さん>あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 すいません。なんとか早くなるよう努力します。(龍々) シグシグさん>あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 大変お待たせしました。(龍々) 陸奥守さん>あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 そしてなんだかんだ言いながら色々用意しちゃうんでしょうね、真也は。(龍々) アルヤさん>あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。 いやいや、流石に職務中に酒は飲まないと思います…………たぶん。(龍々) 明けましておめでとう御座います。 気長に待ちます、頑張って完結してください(スターダスト) 明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!いつまでも待ってますので、自分のペースで完結していただけるとありがたいです!(ラーズグリーズ1) お久しぶりです。投稿をお待ちしておりました!気長に待っているのでマイペースで完結目指して頑張ってください!!良いお年をノシ(シグシグ) お久しぶりです。待ってました。鍛冶屋である筈の真也の店に二次会をしにやってくる霞達の姿がありありと思い浮かべられるな。(陸奥守) そして追っかけ連中と酒盛りしてる霞が詠に見つかって怒られるということですねわかります。(アルヤ) |
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