インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#92
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文化祭が終わって、((燃え尽き症候群に罹る|真っ白に燃え尽きる))ヒマもなく、『キャノンボール・ファスト』の開催が迫っていた。

 

この『キャノンボール・ファスト』は本来ならば国際大会の一つな訳なんだけと、ここIS学園がある関係で日本は少々特殊な開き方をしている。

 

一つはモンド・グロッソに並ぶ国際大会である方の『キャノンボール・ファスト』。

こっちの方は各国持ち回りで開催されるもので参加選手も各国の代表クラスばかりという豪華なモノ。

そんなものだから『モンド・グロッソ 高速戦闘部門予選』なんて冗談めかして言う人もいるらしい。

 

 

もうひとつが、IS学園の建てられた((人工島|メガ・フロート))が住所上所属している市が学園と共同で開催している『キャノンボール・ファスト』。

こっちも一応国際大会なんだけど、参加は機体さえ持ちこめばほぼ自由。

 

実習の一つとして動員されるIS学園の学生の他に一般枠で各国の代表候補生とか、代表候補生候補生なんかが参加してくる。

 

―――そんなモノだから『IS界の東京マラソン』と私は影で呼んでいるのだけど。

 

 

で、そんな『((IS界の東京マラソン|キャノンボール・ファスト))』に参加すべく私達一年生は文化祭の少し前くらい――具体的には夏休み明けから高機動戦闘訓練が課せられていたりする。

 

まあ、文化祭の翌週に『キャノンボール・ファスト』という日程はどうかと思うけど。

 

 

で、そんなイベントを目前に私達は―――

 

「―――はぁ!?」

「どういう事ですか?」

 

「…委員会からの指示だ。」

 

織斑先生に無理難題を伝えられていた。

 

「だからなんで委員会が選手の待機場所として学園を使うなんて――」

 

お姉ちゃんが織斑先生に食ってかかる。

こう言う処だけ見てると物凄く有能な生徒会長なんだよね。

 

唯々諾々と教職員から投げられた事をやり続けるだけじゃないっていう意味では。

 

「――先日、学園への襲撃未遂事件があった。」

 

『やれやれ』と言った感じに少し溜め息をついてから織斑先生は唐突に切り出してきた。

 

「幸いな事に襲撃者は何者かに逆襲撃されて全滅したが、その襲撃者が使用していた機体は以前に学園を襲撃した機体と酷似している事が判明した。それに以前から各国のIS関連施設が襲撃を受ける事件も起こっている。―――故に学園と参加者の両方が狙われる可能性を考慮してこのような措置をとったそうだ。」

 

語られた理由に私達は全員が閉口する。

なんせ先生自身が『面倒事を押しつけられた』と言わんばかりな((表情|カオ))をしているから。

 

「…判りました。生徒会は案内と警備を?」

 

「その予定だ。施設に関しては整備科の連中が駆り出される予定になっているがそちらは担当教員がつく。―――場合によっては布仏姉妹を借りるかもしれんが…」

 

「まあ、警備なら私以下の専用機持ちが居ればなんとかなりますし。」

 

「助かる。一応、千凪先生が生徒会の方につく予定になっているから何かあったらそっちに言ってくれ。」

 

!!

 

「了解です。―――あの、一つ訊いていいですか?」

お姉ちゃんが了承して話を終わらせてから、やや躊躇い気味に尋ねた。

 

「ん?」

 

「なんで、機密情報を私達に話したんです?」

 

「そうでもないと納得しないだろう?―――それに、お前たちなら口外しないと信じている。」

 

「それは…そうですけど…」

 

「資料は出来次第、生徒会室に届けさせる。…明後日には選手の受け容れが始まる。急で済まないが準備を頼む。」

 

そう言い残して織斑先生は去って行った。

 

「はー。厄介な事になったものねぇ。」

 

その背中を見送り終わったところでお姉ちゃんはがっくりと肩を落とした。

 

「とりあえずは警備は文化祭の時のような感じで?」

 

箒が訊ねるとお姉ちゃんは少し思案してから軽く頷いた。

 

「多分ね。まあ守衛さんと外部の方で用意するであろう警備と相談の上で…って注釈付きだけどね。まあ、学生にあんまり無理はさせないでしょうから心配する必要はないと思うわ。どっちかって言うと『いざという時』の為の備えって感じかしらね。」

 

「どういう事です?」

 

織斑くんも首を傾げる。

 

…はぁ。

この二人、完全に自覚ないんだ。

 

「VTシステムに謎の襲撃者、軍用ISといろんなものに襲われたり絡まれたりしながらも撃退してる学園の戦力は((そう言う|・・・・))場面での対処能力を期待されているのよ。」

 

「まったく、迷惑な話ですね。」

 

「まあ、専用機持ちの悲しい宿命よ。―――さて、みんな機体の準備は整えておいてね。」

 

それから、お姉ちゃんはにっこりと笑った。

 

「―――襲撃なんてナメた真似してくれる大馬鹿にその行いを後悔させてやるわよ。」

 

その笑みは、なんだか織斑先生に似ているような感じがするのはきっと気のせいじゃない。

 

 

―――だって、その笑みに織斑くんや箒も顔をひきつらせてドン引きしてたから。

 

 * * *

[side:   ]

 

「そーいや、明々後日ね。」

 

学園の食堂で鈴は何気なく呟いた。

 

「明々後日……ああ、アレだね。」

 

その呟きを拾ったのは一緒に駄弁っていたシャルロット。

セシリアやラウラも頷く。

 

「一夏の誕生日。」「キャノンボール・ファスト。―――え?」

 

当然のように『((キャノンボール・ファスト|そっち))』だと思ったセシリア、ラウラ、シャルロットは思わず声を上げた。

 

「って、鈴!」

「何故、そのような重要な事を黙っていた!」

「酷いですわよ!」

 

あれ?と首を傾げる鈴に詰め寄る三人。

「あれ、一夏から聞いてないの?」

 

「聞いてない!」

三人の声はぴったりと重なっていた。

 

どうどう、と宥めながら鈴はさてどうしたものかと思案する。

 

変な誤解をされるのもアレだし、そもそもで鈴自身が誕生日だと気付いたのもついさっき、ふと思いだしただけなのだ。

 

「まぁ、一夏の事だから変に気を使わせないように黙ってたのかもしれないわね。」

 

忙しいから一夏自身が忘れている可能性も考えつつ当たり障りのない答えをしてみる。

当然ながら、これで誤魔化し切れるとは欠片も思っていない。

 

「まったく、一夏ったら…」

「水臭いですわよ…」

「こんな大切な事を黙っているなど、嫁としての自覚が足らんな…」

 

が、予想に反して三人は何故か納得していた。

…まあ、誕生パーティーの主賓なのにもてなす側に居る姿の方が想像し易いのが一夏らしいと言うべきか。

 

「一応、弾が中心になって中学の頃のメンツがパーティーやる予定らしいけど…出来るかどうか微妙みたいね。キャノンボール・ファストもあるし。」

 

はぁ、と溜め息をつく鈴。

 

「確か予定だとキャノンボール・ファストは午前中に二年と一年、午後に三年と一般参加者のレースがあって十五時くらいには終わるハズだが?」

 

「一夏の場合、生徒会の方でごたつくだろうし、今までイベントって言うと何かしらの騒ぎが有ったからね。――ほら、クラス対抗戦とか、臨海学校とか。」

 

「むっ…」

「そう言えば…」

「色々あったよね。」

 

緘口令が敷かれている為に言う事は出来ないがクラス対抗戦の時は無人機の襲撃を受け、学年別トーナメントではラウラのレーゲンがVTシステムによって暴走、臨海学校では『銀の福音』の暴走事故に出くわしている。

 

文化祭は無事に終了できた(と、一部以外は思っている)がそれでも『何か起こる』というのは既に予想されている事である。

 

「だから、最悪の場合は翌週以降に廻す事も想定してあるらしいわ。アンタらも来る?会場は五反田食堂か一夏の家になると思うけど。」

 

黙ってても紛れ込みそうだな、と思いながら鈴は提案する。

答えは聞くまでも無く予想出来ているが。

 

「鈴、それは愚問だよ。」

「嫁の誕生日だ。祝わない訳が無いだろう。」

「何事も起こらずに、迎えられるといいですわね。」

 

「それじゃ、弾に連絡入れとくわ。」

 

なんとなく、鈴は窓から外の様子を窺ってみる。

 

(―――なんか、怪しい雰囲気ね。)

 

その視線の先には青空に浮かぶ黒い雲があった。

説明
#92:Standby Ready

今年最後の更新です。
良いお年を―――
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コメント
感想ありがとうございます。なんとか年内に二発打てました。再始動、するらしいですね…とはいえ、今更展開を変える訳にも行かないので原作とはここらでお別れになりそうです。それでは、良いお年を(高郷 葱)
今年最後の更新、そして新章突入お疲れ様です。いろいろあった今年も終わり、来年にはIS再始動があるとの話もあり、なかなか賑やかになりそうな予感がしてきます。葱様も良いお年を。(組合長)
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