ミラーズウィザーズ第一章「私の鏡」11 |
しかしエディはトーラスの言葉が聞きたくなくて、耳を塞いでいるのではない。まるで拗ねて部屋の隅で丸まっている引き籠もりのようにも見えなくはないが、それはエディ独特の集中法だった。彼女なりに模擬戦の出番に向けて周りの雑音を無視して集中を高めていた。始めからトーラスが喜ばしいことを言うわけがないと完全無視を決め込んでいた。
「ちっ。いじり甲斐のない奴だな。まぁどうせ模擬戦はドタバタの喜劇を見せてくれるんだろうけどな」
「だから、あんまりエディにつっかかってあげないでよ」
「はん。お優しい友情ごっこで」
いつものようにあしらうトーラスに、マリーナもかちんと来た。
「何がごっこよ!」
比較的大人しい性格のマリーナだが、毎日のようにちょっかいをかけてくるトーラスに堪忍袋の緒が切れそうだった。腕っ節でも魔法戦でも勝てないが、それでもマリーナは本気でトーラスのけばけばしい色の胸ぐらを掴みかかろうとしていた。
それを止めたのはローズの腕だった。ローズがマリーナを手で制した。
普段大人しく、もめ事に割ってはいるなどしない少女に、頭に血の上ったことを知らしめられたようで、居心地の悪さにマリーナの怒りも戸惑いと共に冷えていく。
「……エディ。出番」
ローズが静かな声で言った。
トーラスの登場で気が付かなかったが、いつの間にか試合場では模擬戦が進み、エディの名が呼ばれていた。
顔を上げたエディに、マリーナは少し怖じ気づいた。エディの目にはすでにマリーナは映っていない。いや、マリーナがそこにいることはわかっているだろうが、その意識は既に模擬戦にだけ向いている。そこまで集中出来るルームメイトを、マリーナは不安に思う。羨ましく思う。そしてなによりも恐いと思う。
「ん。ありがと。行ってくる……」
少しナーバスな声色を残し、エディは足早に闘技場に向かった。
「……今日も負けるのね」
そうこぼすマリーナは、痛々しい顔をしていた。負けるとわかっているのに試合に臨むエディが、心中不憫でならなかった。それと同時にわずかな不安。
緊張していたはずなのにあそこまで試合にのめり込める集中力がありながら、必ず魔法を失敗するエディ。そして必ず負ける。
それがマリーナの感じる恐ろしさの正体そのものなのか。理由のわからないもの、不確かなものに人は不安や恐怖を覚える。マリーナはエディの努力を知っている。どれだけ勉強しているのかも知っている。それなのに必ず負けるというエディ。何かがおかしい。
「弱い者は負ける。それだけさ」
マリーナの心中など知らないトーラスはそんな言葉を口にする。それは世の真理そのものだった。
因縁を付けに来たはずのトーラスは、その場に腰を下す。そしてエディの試合を見る為に腕組みし、背筋を伸ばした。それはまるで、絶対見逃せないない序列上位者同士の模擬戦を見るかのように真剣な眼差しだった。
説明 | ||
魔法使いとなるべく魔法学園に通う少女エディの物語。 その第一章の11 |
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魔法 魔女 魔術 ラノベ ファンタジー | ||
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