キスの瞬間 |
僕の目の前で赤いしぶきが飛び散り、顔にかかった。わずかに香る金属臭が思考を一瞬だけ停止させる。何が起こったのかを理解するのに数秒ほどかかった。
「う、うわあああっ!?」
思い切り叫んだ。後にも先にもあれだけ大きな声を出したのはこの時だけだ。
「だ、大丈夫!? ねえ、血、血が!」
僕はそのしぶきを上げた彼に駆け寄った。彼は立っているのがやっとというほどによろけている。顔からは血の気がドンドン失われて青くなっていた。
「ちょっと、無理してしまったよ」
「ちょっとどころじゃないよ! このままじゃ、死んじゃ――」
「キス」
彼の口から唐突に発せられた単語に、僕の思考がまた一瞬停止する。
「えっ」
「キス、してくれないか……」
いきなり何を言ってるんだ。今にも死にそうな時に、そんな事。
「な、ななな何でさ!? それに、僕達は今男同士で――」
「愛する気持ちに、性別なんて些細な事、だ……それに、な」
彼が震える腕を伸ばして僕の体を抱き締めてくる。あふれ出てくる血が僕の服を赤く染める。
「お前のキスは……何よりも、俺の力になるんだ」
「っ……!」
今までに見た事もない弱々しい笑顔と、それに反した力強い眼差しが、僕の心臓を跳ねさせた。
「……うん、わかった」
その眼差しに僕は彼の意志を感じ、彼の顔を両手で優しく支え、顔を近づける。
「んっ」
唇と唇が触れた。それはほんの一瞬にも、永遠にも感じる瞬間。これはきっと一生忘れる事のない時となるだろう。僕は自分の身体の変化と、彼の身体に力が戻っているのを全身と五感で感じながら察した。
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即興小説で作成しようとして書き切る事が出来ませんでした(ここではこれで完成です)。お題「生かされた接吻」制限時間「15分」 | ||
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