リリカルなのは×デビルサバイバー GOD編
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 夜天の書、その防衛システムのバグとの戦いから数週間。もっと詳しく言えば、クリスマス・イヴからというべきだろうか。ともかくとして、あの戦いを知るものは、魔導のちからと関係があるものだけであり、海鳴市で起きた、集団体調不良事件に潜むその真実を普通の人々は知ることがなく、それぞれの日常へと戻り、人々の記憶から薄れていった。

 

 しかして、あの戦いで変わった喜ばしいことがあることも事実だ。たとえばそう、事件の中心人物である八神はやてとその周囲の者たちだ。

 彼女たちもまた事件の責任を問われたものの、フェイトと同じように管理局に与することで、本来受ける罰を軽くすることに成功した。

 そして高町なのはもまた、自身の家族にすべてを打ち明け、管理局に所属することを希望したのだった。

 

* * *

 

「べっつにー、なのはたちのやることを、否定するわけじゃないなけどさっ」

 

 図工の時間、紙粘土を力任せに込めながら、アリサ・バニングスは言う。

 

「それでもさ、あたしたちはまだ小学生なわけよわかる?」

「おっ、おう……」

「あはは……」

 

 彼女の勢いに押されて、天音カイトと月村すずかは若干引いていた。ちなみに件のなのはたちは管理局の仕事のために学校を休んでいた(はやてはまだ復学していない)。

 

「でも仕方ないよ、アリサちゃん。それがなのはちゃんたちのしたいことなら、私たちは応援すべきだと思うよ?」

「そうだけどさー、だけどさぁ」

 

 足をブラブラとさせながらアリサは言う。

 おそらく彼女もわかっているのだろう。今抱いている感情がただの我侭に過ぎないことに。でもそれを理性で押しとどめるすべを、彼女はまだ知らず、だがそれと同時にそれをぶつけることができる友人を持っていた。

 

 

「……んで? あんたはなにやってるのよ。あたしたちとは違って、戦う力を持ってるあんたなら、管理局に入ってやっていけるんじゃないの?」

「あー、そういうのは勘弁」

 

 飛び火しないように、できるだけ黙っていたカイトが言う。

 あのクリスマス以来、彼女がカイトに対して接する機会が増え、傍目から見れば、仲良くなったといっても良いぐらいだ。

 

「管理局っていうかさ、ミッドチルダかな? その世界の歴史の話は聞いた?」

「聞いてないわよ。それがどうしたの?」

「その歴史で名を残した……名前は残ってないか。とりあえず、存在を残した奴がいてさ。俺が持ってる力って、そいつ以来なんだってさ」

「へ〜、そんなに珍しいんだ」

「だからかねぇ。管理局に入ったらきっと、そのことをネタにパフォーマンスでもする気なんじゃないの? そう思ったらさ、萎えるじゃん」

 

 あ〜……と、ありさは納得したようだった。

 アリサ・バニングス。彼女もまた"見世物"にされた側の人物だ。とはいえ、誰がそうしたというわけでなく、彼女の出生と、人目を引くその髪の色が原因だと言えた。

 そしてそれを原因として、すずかとなのはを友だちとさせる事件が発生するのだが……それはまた別の話だ。とにかくだ、彼女も見世物になる人の気持ちというのがわかる人間だということだ。

 

「それは遠慮したいわねー」

「だろう?」

 

 二人同時にため息をつく。けれど、紙粘土を捏ねる手を休ませないところが、彼らの性格を表しているように思えた。

 

「でも悪魔ってあれですよね……」

 

 彼女もまた紙粘土をこねながら言う。

 ちなみに彼女の紙粘土はすでに形をなしており、何を作ろうとしているのか、傍目から見てもわかった。

 

「ん?」

「いえ、魔法以上に不思議だなって思ったんです」

「……まぁ、そうだね。俺もそう思うよ」

「なによその言い方。まるで自分の力を把握してないみたいじゃない」

「……間違ってないかもな、それ」

 

「(すべての悪魔の力を知っているわけじゃない。すべての悪魔という存在を知っているわけじゃない。そして、自分のこともまだ良くわからない。そういう意味で言えば、アリサの……バニングスさんの言葉は至極正しいものと言える)」

 

「ふーん……まっ、あんたの事情はよく知らないけどさ」

 

 アリサの紙粘土もまた、先程までとは違い形をなしていた。

 

「結局のところなるようにしかならないんじゃないの?」

「かもなぁ、でもなるようにしかならないって、便利な言葉だよな」

 

 まるでいまの自分を表している言葉だ。と、カイトは思う。

 

「でもほとんどの人がなるようになるって、生きてるんじゃない? というか、そうでもしないと怖いもの」

「怖い……?」

「だってそうじゃない。先のことを考えたって不安になるだけよ」

 

 まっ、あたしたち子供はそんなことないけどね! と、アリサは力強く言った。

 そんな彼女の姿勢に、本当に子供なのか? と、何度も抱いた疑問を再び抱きながら、カイトは作成した紙粘土の人形の最終調整に入った。

 

「……何を作ってるんです? 雪だるま?」

 

 一足先に完成させた、すずかがカイトの手元を覗きこむように言う。確かに彼の作っているものは、雪だるまと酷似しているが、それにしてはパーツが多い。

 

「ジャックフロスト。雪だるまの形をした悪魔の中の一体だよ」

「本当に色々と居るんですね……」

「うん、そうなんだ。っと、これで一先ず完成か」

 

 色を塗るのは紙粘土が乾くのを待ってからだ。そのため、今回はパーツを作るのが目的だった。

 

「月村さんは……ねこ?」

「うんっ、可愛いですよね猫!」

 

 相変わらず好きなものの話になると、テンションが上がる。それを再確認して、どこか安心したカイトは次に、アリサが作ったものを見た。

 

「んで、バニングスさんは犬か」

「いいなじゃない、可愛いでしょ? 犬」

「うん、まぁ……」

 

 性格といい見た目といい、あらゆる意味で正反対なアリサとすずか。彼女たちが喧嘩しているところを、カイトは見たことがないが……この猫と犬どっちが可愛いかと尋ねたら間違いなく、喧嘩する。なので、触らぬ神にたたりなしの精神で行こう、カイトはそう決めた。

 

 最終調整も終わり、後は日向に紙粘土を置いてさぁ終わりだ。といったところで、教室の扉が開かれた。

 

「あー、天音は居るか?」

 

 そう声を上げているのは、男性の教員だ。カイトの記憶通りであるなら、彼はこの学園の副教頭だ。

 

「呼んでますよ?」

「分かってる。はい、ここにいますけどー」

 

 手を上げてそう答えると、カイトの方を向きおっ、いたか。と言った。それからしばらくカイトのことをじっと見たあと、我に返ったようにハッとすると。

 

「天音くん、キミにお客様だ。一番奥の客室、と言ってわかるかい?」

「……なんとなくは」

「ならば向かってくれ。ただし……くれぐれも粗相のないようにな」

 

 そう言うと副教頭は、教室の扉を閉めて立ち去った。そんな男の態度に思うところがあるのか、アリサは頬を少し膨らませながら言う。

 

「なによあれ」

「さーてね、でも教師なんてあんなもんじゃない?」

 

 そう言うと、強烈な視線がカイトに襲いかかる。

 

「おい、わたしもか」

「いやー、どうでしょうねー」

 

 その視線の犯人である、自身の担任にそう答えるとカイトは席を立った。

 

「悪いけどさ……」

 

 アリサとすずかに視線を向ける。

 

「分かってるわよ。任せときなさいって」

「だから安心して行ってきてください」

「うん、よろしく」

 

 それから客室へと向かおうとするが、思い出したかのように自身の鞄を手に取ると、そこから誰にも見えないようにCOMPを取り出しポケットへ入れ、客室へと向かうために彼は教室の外へと出ていった。

 

 

* * *

 

 

 客室の前まで歩き、扉の前で泊まる。

 

「(殺気は……ないか)」

 

 あの針が指すようなチクチクとした感覚がないことを確認し、カイトは扉をノックする。

 高い、女性の声で「どうぞ」と聞こえた。一度だけ深呼吸をしたあと、カイトはドアノブに手をかけ、回した。

 

「失礼します」

 

 そこに居たのは二人の男女だった。

 一人は厳つい……けれど、どこか優しさをもった目をもつ男。

 もう一人は少し気の強そうな女性。長い紫色の髪を、水色の布でポニーテールにしている女。

 共通点のまるで見つからない両者だが、二人の服装を見て、カイトはそれが誰であるか悟る。

 

「……管理局の人間?」

 

 カイトのその言葉に、男は満足そうに頷いた。

 

 

* * *

 

 

「初めまして天音カイトくんよね。私はクイント・ナカジマ。彼は私の上司でゼスト・グランガイツ。よろしくね」

「……どうも」

「そう警戒しなくていい。別にキミに何かしようとか思って来ている訳ではない」

「そうかもしれないけど、俺少し人見知りするタイプなので」

 

 フレンドリーに接する二人に対して、少々警戒するようカイト。あるいみで対照的な二つのグループの姿がそこにはあった。

 

「……そんな話は聞いてないがな」

「他人に悟らせない様に強がるぐらい、ガキでもできます。そういうことですよ」

「……心配しなくていいわ。私たちはあなたには何もするきはないの。それどころか、こうしてあなたに会いにここに来たのは、私たちとしてもイレギュラーな出来事なのよ」

 

 どういうことですか? と、カイトは問いかけた。

 

「さてな。そもそもお前を迎えに来るのであれば、俺達ではなくこの世界に駐留している部隊に頼めばいいはなしだ」

 

 駐留している部隊。それは間違いなくリンディ・ハラオウン率いる部隊のことであるのは明白だった。

 

「だからこそか、なぜわざわざ俺たちを選んだのか。それがわからない」

「と言われても、俺にもわかりませんけどね」

「分かっている。だが俺たちは組織の人間だ、上の奴らの指示には従わなければならない」

 

 それはとてもめんどくさいことだと、カイトは思った。それと同時に、彼らが嘘をついてないともなんとなくではあるが悟った。

 

「その思惑がなんにせよ、俺たちはこうして任務を果たしに来たわけだ。……裏に何もないことはわかってもらえたか?」

「なんとなくは、ですが」

「それでどうかしら? ついてきてもらえるかしら?」

「その前に、俺を呼んでるって人は誰なんです? 管理局の人間なんですか? だとしたら俺は……」

 

 カイトのその言葉を、ゼストは首を横に振ることで否定した。

 

「たしかに命令は管理局の上層部から来た。しかし、その大本は管理局ではなく、聖王教会という組織からだ」

「聖王教会……」

「名前ぐらいは聞いたことがあるかしら?」

 

 クイントの問いかけに、カイトは頷いた。

 

「知っているのならば、話を続けよう。キミを呼んだ者の名をミネロ・グラシアという」

「ミネロ・グラシア……」

「聞いたことは?」

 

 カイトは首を横に振る。

 するとゼストは懐から一枚の紙を取り出し、カイトに手渡した。

 

「そこに写っている老婆が、ミネロ・グラシアだ」

「この人が……?」

 

 年齢は恐らく九十後半といったところだろうか? いや、ここまでよぼよぼの年寄りを見ると、正確な年齢を測ることは難しいのだが。

 

「ちなみにだけれど……ミネロ様の歳を写真を見ただけで、把握することなんて無理よ?」

「はい?」

「ミネロ・グラシア……彼女は聖王教会の創立者の一人だ」

「……はぁ!? 聖王教会って確か数百年前に出来たやつですよね? それ、おかしくないですか?」

 

 人外の存在じゃあるまいし。そう、カイトが言うと、少し笑みを浮かべてクイントが当然よ、と答えた。

 

「ミネロ様はある時期から、コールドスリープを繰り返してきたのよ。どうしてそんなことをしているのか、誰もわからないのだけどね」

「そんな技術まであるのか……大概だなホント」

 

 とは言うものの、次元の壁を超えることが出来るほどの科学力があるならば、コールドスリープぐらい……と思った所で、この考えを破棄した。

 何故ならその考えを肯定してしまったら、従兄弟であるナオヤが作れてしまうことになる。それはとても面倒なことになる気がした。

 ニヤッと笑ったナオヤの顔を思い浮かべたが、頭の中でその映像を蹴っ飛ばした。

 

「大丈夫か?」

「気にしないで。少し嫌なことを思い出しただけだから。それより話を先に進めて、お願いだから」

「まぁ、キミが良いのなら構わないが」

 

 目を細め、少し怪しんでいるのがカイトにもわかった。

 

「それでその、ミネロさん? は、俺に何の用があるってんです? 一応言っておきますけど、俺とその人は初対面ですよ?」

「……だが、キミが悪魔使いとなれば話は別だろう」

「……あ」

 

 聖王教会を創立したのなら、それはきっと聖王を関する者と知り合いだったからだ。基本、人は面倒なことはしたがらない。なのに、宗教の創立という面倒なことをするということは、きっと聖王のことを慕っていた者であるのは間違いない。

 そして、聖王を知っているということは、当時の悪魔使いを知る者でもあるということだ。

 

「そしてミネロ様はもう高齢の身。あとどれだけの時を生きれるか……」

「そこに、お前が現れた」

 

 全てを射抜くような鋭い目。それがカイトを見る。だが、カイトはその眼に怯むこと無く言葉を返す。

 

「けれど、俺はその悪魔使いじゃない」

 

 それは幾度も言った言葉で、拒絶の意味を持つ。

 

「そんなもの関係ないのだろう」

 

 それを分かった上で、ゼストは言う。

 

「キミが別の人間だと、あの方はきっと分かっている。だとしてもだ。気になるのだろう、同じ力を持つキミがどんな人間かを。悪魔使いの力を持つに値する者であるのかを……」

「値する者……か」

 

 そんな事を言われても、気持ちはわかるが理解ですることがきない。

 悪魔使いの力が、こちら側の世界で特別であったとしても、カイトの居る世界ではそうではなかったから。

 COMPで召喚される悪魔にうち勝ち、契約する。これだけで悪魔使いになれる。それだけのものでしかない。

 その証拠に、彼らの言う悪魔使いの美化とは別にただのヤクザがその力を振るっていたのことをカイトは知っている。

 そこにはきっと、善悪なんてものはなく。勿論資格なんてあるわけがない。

 

「まだ、迷うか?」

「迷うっていうか……なんていうか。ミッドチルダでしたっけ?  そっちに行ったら、勧誘とかすごいんだろうなぁって」

「それはあるでしょうね」

 

 勧誘に関してカイトが辟易しているのは、ここまでの会話で分かっているのだろう、少し困った表情で、顎に手をおいてクイントは少し考え込んでいる。

 

「つまりは……」

 

 その横でゼストが口を開いた。

 

「つまりは、キミがミッドチルダに居ることを分からなくすればいい。そういうことか?」

「ん、それならいいと思います。勧誘さえなければいいので」

「承知した。では……そうだな、午後十八時頃にまたキミに連絡をしよう。連絡方法を教えてもらえるか?」

「はい、いいですけど……」

 

 カイトは自身が所持している携帯電話の番号とメールアドレスを教えた。

 

「分かった。では、また会おう」

「えぇ、ではまた」

 

 先にゼストが。次にクイントが「またね」と言い部屋から出ていった。

 パタンと、扉が閉まったのを確認してから、カイトは取り付けられた時計を見る。短い針が少し傾いてはいるものの、真ん中の上を向いている。どうやらまだ昼食の時間ではないようだ。

 サボるという選択肢が浮かんだものの、その後起きるであろう、質問という名の詰問が起こる可能性を考え教室に戻ることを決めた。

 

「……寒いなぁ、まだ」

 

 季節はまだ一月、地球温暖化といわれている現在でも変わらぬ、冬の景色。白い雪が淡々と降っているその景色を見ながらカイトは言う。

 

 どの世界においてもきっと、雪が降る景色というのは変わらない。なんとなくではあるが、少年は一人、そう思った。

 

* * *

 

 学校の扉。それを開けるときの独特な効果音というのがある。おそらくは誰かが入って来たということがわかるように、わざとそんな音が出るのだと思う。

 そんな音が出れば、人は自然に扉の方を見る。少しざわついていた教室がけれど大勢の人の視線が苦手な人もいるとは思う。では、カイトがどちら側の人間かと言われれば……苦手な部類に入るのかもしれない。

 

「遅れました」

「ん、分かってる。それで"大丈夫だった"か?」

「はい、大丈夫です」

「ならいい、席につけ。今は教科書の四十七ページ目だ」

「了解です」

 

 担任との口数少ない会話。果たしてあの二人は自分たちのことをなんだと言って、この学校に来たのだろうか? 少なくとも、教師が心配する類の職業……警察、だろうか?

 そう考えつつ、カイトは自分の席に着席し、机の中から教科書やら授業に必須の道具を取り出す。その頃には、静まり返った教室に火が灯ったように、子供の会話をする声が再び聞こえ始めていた。

 

「お疲れ」

 

 小さい声でアリサが言った。

 

「それで? 何があったのよ」

「俺に会いたい人が居るんだってさ。ところで、この問題をやればいいの?」

「そういうこと。いつもどおりわからないことは周りで教え合いなさいって」

「了解」

 

 そう言ってカイトは問題にとりかかる。といっても小学三年生、算数の問題。計算ミスという可能性はあるものの、高校二年生だったカイトにとっては簡単すぎる問題だ。

 

「でも、誰が会いたいって言ってたんですか?」

 

 アリサの隣に寄り添うように立っているすずかが問いかけた。教え合うとは言っているものの、教える相手がいなければ、今の時間は休憩時間のようなものである。

 

「とある教会の一番偉い人。結構長生きしてて、俺の持ってるやつと同じ物を持ってる人と知り合いなんだってさ。それで、俺のことが気になってるらしい」

 

 アリサとすずかにしか聞こえないような小さい声で言う。

 悪魔は勿論のこと、教会という単語を使うことにも少し抵抗感があるための配慮だった。

 

「力ってあれよね? あのゲーム機の……」

 

 アリサもそれが分かっているのだろう、彼女もまた周りに聞こえないように言う。

 

「そう、それ。昔のやつが、どうやって召喚していたか知らないけど確かに実在したらしい」

「そこに行っても大丈夫なんですか?」

 

 心配そうに問いかけるすずかに、カイトは「多分大丈夫」と言った。

 

「……悪魔使いがあの世界での英雄なら、手荒な真似をすることはないんじゃないか? ってのが俺の予想。なのはたちの前で悪魔の力は見せてあるし、ある意味で力の危険度も把握してるんじゃないかな」

 

 カイトは今でも忘れてはいない。防衛システムを撃破したあとの、カイトを見る"眼"、そのへんかを……。

 

「だからむざむざ、敵に回すような真似をしないとは思う。少なくとも、俺を知ってる人は」

「ふーん……そう、気をつけなさいよ? 一応さ」

「うん、分かってる……っと、そういえば」

 

 辛気臭い話から一転、少し明るくカイトは声を出す。

 

「どうかしたんですか?」

「いや、俺が作ったやつどこかなって」

「"ジャックフロスト"? だっけ、それならあそこにおいてあるわよ」

 

 教室、その後方に置いてある長机。アリサはそれの右端の方を指さした。

 

「色付けは来週って先生が言ってました」

「……そか。乾かさないといけないもんな。ひびが入ってないといいけど」

「そればっかりはねー。出来次第じゃない?」

「まぁね」

 

 相変わらず雪は降っているものの、それでも少しだけ陽が差し込んできて子どもたちが紙粘土で作った作品を明るく照らしている。

 

「ホント、上手くいけばいいんだけどねー」

 

 誰かに聴かせるように、それでいて自分に言い聞かせるように、カイトは言った。

 

 

* * *

 

 

 授業後、カイトは一人教室で佇んでいた。

 雪はもう降り止んでおり、陽の光が積もった雪を溶かそうとしている。けれど、あと数時間もすれば日は沈み、雪が溶ける速度は落ちる。量は少なくなっていたとしても、明日もきっと、雪はそこにあり続けるのだろう。

 

「さてと、そろそろかな?」

 

 手に持った携帯を見ながらカイトは鞄を開いて、その中からCOMPを取り出し、ポケットに入れる。携帯には、クイントから送られてきたメールの内容が映しだされていた。

 

 メールには、午後四時頃に学校の正門に迎えに来る。と書かれていた。

 

 仕事が出来る人間は、時間をきちんと守る。それを表すかのように、彼女が正門で立っているのを、カイトは教室から見ていた。

 集合時間までは、あと十分。

 

 携帯を仕舞い、代わりにCOMPを取り出す。待機している悪魔のチェック、装着しているスキルの確認、そして頭の切り替え。それらを終えるまでにかかった時間は、五分ぐらいと言ったところだ。

 

「それじゃ行くとしますか!」

 

 カバンを持って少年は歩く。

 一人の女性のところへと、まだ見ぬ世界へと足を踏み入れるために。

 果たしてこの先、彼に訪れるであろう出来事は一体何なのであろうか?

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というわけでGOD編第一話です。

ところで誰か聖王教会の具体的な設定が載ってる所しらないですかね。調べても設定自体あんまないって結論に達してしまったため、教会に関してはかなりオリジナルが入ると思います。

まぁ、GOD編からかなりオリジナルが入ってきますから、今更かもしれませんが。

それではまた次回お会いできたらとおもいます。

 

追記

未来組が出る予定はありません。

Forceまでやるつもりはないので、出してもしょうがないような気もしますし。

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1st Day 異界への誘い
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