真・恋姫無双 黒天編“創始” プロローグ2 |
真・恋姫無双 黒天編“創始” 外史を終結させるために少女は弓を引く
プロローグ2
「ほんとニホンとは思えない光景だよな。いつも思うんだけど」
少し大きな旅行カバン片手に、リュックを背中に背負いながらいつも眺めることのない絶景を前に絶句する。
目の前を高速道路が走り、夜中になろうと明かりが消えることのない場所で生活する人たちには本当に別世界に感じるのだろうなと思いながら、改札に立っている駅員に切符を渡す。
「珍しいね。若い人がここで降りるなんて」
「ここに祖父の家があるんですよ」
「そうかい。まぁ、何もないところだけど、ゆっくりしていったらいいよ。都会にはないものがここにはあるから」
「ありがとうございます」
男は軽い会釈をすると、そのついでに駅員室にあった時計が目に入った。
(2時15分か・・・ちょっとおくれちゃったな)
そして、駅員の笑みに見送られながら視線を前に戻すと、再び目の前に広がる景色に絶句する。
自分が住んでいるところは都心から少し離れているため、夜中になっても消えない明かりなどあまり見たこともないが、それでもそう感じるほど目の前の景色には何もない。
本当に何もないのかと言われれば少し語弊があり、目の前には緑の木々、ぼろぼろの郵便ポスト、もう少し目線を先にやると永遠広がっているんじゃないかと思うくらい広大な田んぼがある。
そのあまり見慣れない光景をボーッと眺めていると、お尻のポケットに入れていた携帯電話が震えだした。
急いで取り出し、画面を見るとそこには妹の名前があった。
通話ボタンを押し、耳に当てるや否や
「やっと着いたのっ!?おっそーいっ!!」
と耳の鼓膜が破れるのではないかと思うほど、大きな声が聞こえてきた。
耳から少し携帯を離し、音量を少しだけ下げた後、再び耳元へと近づける。
「何で分かったんだ?オレ何も言ってないのに・・・今着いたとこだよ。タイミングばっちりだな」
「ふふっ〜ん、そんな時間だろうなって思ったの。もう私たちはおじいちゃん家に着いたからね」
「早いな。元気そうか?」
「それは直に会ったら分かると思うよ・・・」
妹は今までのテンションとは違い少しだけ呆れたような声で言った。
(いつもの洗礼を受けたんだな・・・)
「おばあちゃんは今、市場に買い物行ってるんだって・・・きっと今日の夕飯は豪華な魚にお肉がぎっちりだよ」
「それじゃあ、しっかり腹をすかせとかないとな」
「うんうん、楽しみにしとくといいよ」
「はいはい、んじゃ、オレはあと2時間くらいで着くと思うからさ。親父にもそう言っといてくれ」
「えっ?バスに乗ったら一時間弱じゃないの?2時間に一本しかないバスでも今ならちょうどいい時間だよ?あと十分で来るじゃない」
「なんでそんなこと知ってんだよ・・・」
「下調べはバッチリですっ!」
「あっそ・・・、オレは歩いて行くよ。景色を堪能したいし、豪華な食事のためにもしっかりと腹減らしとかないとな」
「でも荷物重いんじゃないの?」
「大丈夫だ。いつも怠けてるから、これくらいのハンデがないとな」
「そっか、気をつけてねっ!道に迷ったらすぐ電話するんだよっ!私、迎えに行くから」
「道に迷ったら自分のいる場所伝えられないだろ」
「大丈夫っ!私にはできるからっ!!」
「はいはい、じゃ〜ね」
「迷ったら動いちゃダメだか・・・(ブチッ)」
妹は一度心配すると止まらなくなるので、何か話しているなと思いながらも通話を終了した。
「本当にいつも変らんな・・・」
携帯を定位置にしまい、きれいな空気を肺いっぱいに吸い込んだ後、祖父の家までの2時間の道のりのスタートを切った。
男は絶望した。
歩けど歩けど景色は変わらない。
右を見ても田んぼ、少し先をみると山
左を見ても田んぼ、少し先をみると山・・・と小さな小屋が一軒
今まで歩いてきた道のりを見ても田んぼと広大な山々
今でちょうど一時間・・・半分と言ったところ
男は後悔した。
なぜ、バスに乗らなかったのかと
なぜ、重い荷物を手に持ち、背負いながら2時間の道のりを歩かねばならないのか
それに歩いて30分くらいでなぜだか空腹感が襲いかかってきた。
電車の中でしっかりと弁当を食らったはずなのに
「やばい・・・マジで苦しくなってきた。どっか休めるところ・・・」
しかし、目の前の道には永遠に続きそうな一本道
・・・の先に何やら暖簾がかかっているように見える一軒の家が見える。
「茶屋かっ!!助かったっ!!」
重いリュックを背負いなおし、左手に持ったカバンを右手へと持ち帰ると最後の力を振り絞りながら一歩ずつ確かな足取りで茶屋らしき家へと向かった。
そして、その場所まで来ると入口には暖簾が掛かっており、大きく“休憩処 田舎家 白蓮”の旗も立っていた。
「ほんとによかった。“しろはす”かな・・・ここでちょっと休も・・・」
一刀は扉に手をかけてガラガラと音を立てながら扉を開け、中へと入っていった。
「すいませ〜ん」
店内で声をかけてみたが、返事がない。
もう一度、今度は少し大きな声で言ってみたがそれでも返事がない。
「休みか・・・マジかよ」
とがっくり項垂れていたところ、自分が入ってきた扉ががらがらと開く音が聞こえた。
「はぁ〜〜、しんどいね〜」
中へ入ってきたのは高齢なおばあさんでエプロンをつけており、腰が曲がっていて見えにくかったもののそのエプロンには“白蓮”の文字が書いてあった。
「おや、あんさん。お客さんかい?」
「えっ、ええ・・・、少し休ませて頂けたらなと・・・」
「おんやまぁ〜〜、珍しい。ここに来るのなんて近所のジジ、ババだけなのにねぇ〜〜。ようこそいらっしゃいました」
おばあさんはすでに曲がっている腰をさらに曲げあいさつした後、店の奥へと入っていった。
「どんぞ〜、お好きなところへ座ってくださいな」
そう言われた男は一番近くにあった長椅子に腰を下ろした。
「でも、こんなところで若ぇもんが珍しいねぇ。“一人旅”っていうやつかい?」
おばあさんはお盆の上に乗った冷たい麦茶を男に手渡した。
「いえ、祖父の家に遊びに来たんですよ」
そう言って、男は受け取った麦茶を一気に飲み干した。
「そうかい、そうかい。遠かったろ?こんなど田舎、何もねぇしなぁ」
「いえいえ、駅員さんも言ってましたがここには都会にはないものがいっぱいあると思いますよ」
「確かにねぇ。でも、若い人たちにはちょっとさびしすぎると思うねぇ。ここに残ってる若ぇもんなんて・・・ワシの孫しかいねぇしな」
「お孫さんと一緒に暮らしているんですか?」
「そうなんだよ。娘夫婦と一緒にね。孫は実にイイ娘でね・・・そうだっ」
そう言うおばあさんの顔がニヤッと笑ったような気がした。
「あんさん、眼ぇつけとるオナゴはおるんかね?」
「ええっ!!急に何をっ!」
「いやいや、実はさっきも言うた通り、この街に若い者なんてほとんどいねぇからよ。ウチの孫が不憫で不憫でなぁ・・・いっちょ、もらってくれねぇか?」
「いやいや、まだ会ったこともないのに・・・そんなこと言われても・・・」
「いま、市場に買い物行かせてるから・・・ほら、帰ってきたよっ!!」
そう言うと外の扉の前に自転車が止まったのが分かった。
カゴから買い物袋を取り出すのに手間取っていたようだが、少しした後、がらがらと扉を開けて入ってきたのは、自分と同じ年くらいの女性だった。
「ただいま〜、おばあちゃん。ってあれ?お客様?」
その娘は一刀の顔を見た後、にっこりと笑顔を浮かべてくれた。
「いらっしゃいませ!どうぞごゆっくりしていってください」
どこにでもいそうな、いわゆる普通の人という感じであったが、この田舎という雰囲気とその娘から伝わる何でもそつなくこなせそうな感が実にマッチしていた。(あくまで個人的感想)
「紹介するよ。わしの孫の白蓮じゃ。変わった読み方をするじゃろ?イマドキじゃろ?」
男に向かっておばあさんはぐいぐい迫ってきた。
その勢いにただただ飲まれるしかなかった。
「字はな、この店と同じじゃ。なぁ、白蓮や。この男をどう思うかの?」
「えっ、うんと〜」
女性は男の顔をチラッと見て、直ぐに目線を外すと・・・
「カッコイイ方だと思う」
「気に入ったか?」
「えっ?」
「よしっ!あとはお主の気持ち次第じゃっ!!どうじゃ?かわいいじゃろ?ウチの孫はよぉ」
「いや、確かにかわいいとは思いますが・・・」
「よっしっ!!両想いじゃっ!」
「なっ・・・何いってんのっ!おばあちゃんっ!!急にっ!!」
「この男は眼も鼻もくっきりして、わしの死んだジッさまとよお似た顔つきをしておるっ!!この男はええ男になるっ!今のうちに唾つけとかんと直ぐに取られてしまうでっ!!」
「はいはい、今日のおばあちゃんちょっとおかしいね〜〜。奥で寝とこうか〜。きっと熱があるんだよ〜〜」
「いんやっ!若いもんの話聞いてたら逆に元気が・・・」
「今日はお外暑かったもんね〜〜。店番は私がやっとくからね〜〜」
白蓮という名の女性は無理やり座っているおばあさんを立たせ、背中を押しながら二人は店の奥へと消えていった。
「ええかっ!!“め〜るあどれ〜す”というやつを聞いとくんじゃぞっ!」
それがおばあさんの最後の言葉だった。
奥で何やらドスッ、ゴスッという音が少しの間続いたが、白蓮は何事もなかったかのように男の前に姿を現した。
「ごめんなさい。おばあちゃんがご迷惑をかけちゃって・・・」
「楽しいおばあちゃんですね」
「いつもはあんなんじゃないんだけど・・・今日は何でかな?」
白蓮は手に持っていた店のエプロンをササッと身につけ、髪をさらっとかきあげた。
「でもほんとにめずらしいな。私と同じくらいの年の子がこんなさびれた茶屋に来るなんてさ。あっ、おかわりいる?迷惑かけちゃったからお代はいいよ」
「えっ、それは悪い・・・」
「気にしない、気にしない」
「でも・・・」
男の言葉を無視しつつ白蓮は店の奥から新しい麦茶を2つ入れてきた。
「それじゃ・・・えっと・・・頂きます」
「うん、うん」
男はそのひとつを申し訳なさそうにうけとり、それを満足そうな笑みを白蓮は浮かべる。
「どこから来たの?」
「えっと、トウキョウの浅草からです」
「そうなんだ。トウキョウか〜」
白蓮は男の横へと腰かけ、もう一つの麦茶に口をつける。
「実は私、来年の春にトウキョウの学校に転校するんだ。なんかすごい名前のとこ。フランチェスカって言うんだけど知ってる?」
「フランチェスカですかっ!今僕が通っている学校ですよ!」
「えっ!本当っ!何年生?」
「今、1年なんで来年は2年生です」
「えっ!えっ!私も今こっちの高校で1年だから、来年2年!!」
白蓮は身を乗り出す感じで一刀にグイッと体を寄せる。
「同い年なんですかっ!歳は近いと思ってましたけど」
「その言い方・・・老けて見えるってこと?」
「いやいや、僕なんかよりもずっとお姉さんに見えたってことです」
「あははっ、うまいこと言うなぁ〜〜。んじゃあさ、同い年なんだし、もう敬語で話すのやめてよ」
「いいんですか?」
「私、あまり年の近い友達っていなかったんだ。こっちの高校では・・・っていっても高校生は私一人なんだけど・・・もっと小さい子と一緒に勉強してるんだ。だからさ、同年代の友達っぽいつきあいをやってみたいんだよ。東京に行っても困らないように」
「んじゃぁ、オレなんかでよければ喜んで。よろしくね。白蓮」
「ああ、よろしく・・・えっと、なっ・・・名前は・・・」
「あっ、名前ね・・・北郷一刀っていいます」
「北郷か・・・うん。北郷っ!よろしくっ!」
「でも、おばあさんとかは大丈夫なの?白蓮がいないとさ」
「それは母さんがいるから大丈夫。ばあちゃんも行ってきなって言ってくれてるし」
「ってことは、学生寮に住むのか?」
「そうなるかな〜。だから結構勇気いるんだぞ?周りには誰も知り合いがいないトウキョウ砂漠に一人で挑むのって」
一刀は白蓮のいうことがよく分かる境遇にある。
一刀も実家のある九州から一人でフランチェスカ学園に通うため、上京した。
入学当初は周りに知り合いもなく、未知の場所に一人で放り出されたようかプレッシャーに襲われたことは幾度もある。
しかし、この経験のおかげで心もメンタル面も鍛えられたと自身では思っている
今では、たとえ戦国時代に一人で放り込まれたとしても何かしら生きていく自信があるまでになった。
もちろんそうなるまではとても苦労し、何度もかかってくる妹からの電話には救われたものだった。
だが、よく考えてみると白蓮の方が状況的には悪いのではないだろうか。
一刀は学生寮で暮らしているが、入学当時には周りに同じような不安を持っている人たちが大勢いた。
そこから新しい友達づくりというのが行えた分、学校生活においての不安は少ししかなかった。
一方、白蓮は転校という形になる。
すでにできたグループの中に入っていく勇気は並大抵のものではないだろう。
新しい学校生活をうまく過ごせるか。新しい友達はできるか。
様々な不安が白蓮の中に渦巻いているのだろう。
そう考えた一刀は背筋をぐっと伸ばし、少し緊張した面持ちで話を切り出す。
「なら、オレがいろいろと案内しようか?」
「えっ・・・本当かっ!信用してもいいかっ!」
白蓮にとって思いもよらない一刀の言葉に一瞬だけポカンとしてしまったものの、すぐに満面の笑みを迎えた。
「おうっ!何かの縁だしな。オレでよければ喜んで!!」
威勢のいい一刀の声を聞いた後、急に白蓮は座りながら足を少し内股めにしてもじもじし始める。
「えっと・・・うんと・・・んっじゃあだな・・・め・・・メル・・・アド・・・」
「メルアドと番号だな。赤外線あるか?」
意を決して放った言葉にもかかわらず、相手があっさりとそれを了承しお尻側のポケットにある携帯を取り出した。
「えっ?ちょ・・・ちょっと待てよ・・・その機能たぶんあるから・・・」
それを見て少し放心してしまったが、すぐに我に返り、あまり操作し慣れていない携帯を操作するのであった。
「あ、れっ?赤外線?・・・えっと・・・」
白蓮が携帯を使うのは家族と連絡する程度なので久しく携帯の機能など電話をかける以外使っていない。
そのため、赤外線の機能を起動できずにいた。
「ご、ごめんっ、手間取っちゃって・・・もうちょっと待って」
「どれ?ちょっと貸してくれる?」
白蓮が一生懸命携帯と戦っていると、横から一刀の手が白蓮の手の上から添えられた。
(あっ・・・)
白蓮はそれにすこい驚き携帯を手放しそうになったが、自然と一刀の手に白蓮の携帯が渡ったので別段おかしくは見えなかった。
(手・・・触れた・・・)
白蓮は自分の手をジッと眺めていたが、一刀は気にした様子もなく白蓮の携帯をスムーズに操作していく。
「はい・・・登録完了っ!いつでも連絡くれよ。待ってるからさ」
「ああ・・・ありがと・・・へへっ・・・」
「長居しすぎたかな。もうそろそろ行くよ。ありがとう」
「そっ、そうか!!あっ、まだけっこう歩くのか?」
「う〜ん、あと一時間くらい・・・かな?」
「まだそんなにあるのか、駅からずっと歩いてきたんだろ?」
白蓮と一刀はふと店の時計を見やった。
すでに短い針が4の字を過ぎたあたりを指しており、長い針も時計の半分を過ぎていた。
「ああ・・・こりゃ着くときには真っ暗かも・・・」
「ならさ、母さんに頼んで車で送ってもらおうか?」
「えっ?いや、さすがにそれは悪い・・・」
「いいから、いいからっ!!待ってろよっ!すぐに車出してもらうからさっ!(まだ色々と話したいし・・・)」
白蓮は椅子から突然立ち上がり、勢いよく扉の方へとダッシュし壊れる勢いで開け放つとそのまま駆け抜けていった。
「携帯で連絡しても良かったんじゃ・・・」
白蓮が走り抜けていく様を頬笑みながら見送った一刀であった。
「これもいつも思うんだけど・・・でけぇな・・・」
一刀は目の前にある壮大な門を見上げていた。
門柱の上には玉を加えた竜の彫刻2体が一刀を見下げており、門のアーチ?みたいなところには朱雀っぽいやつが大きく翼を広げている彫刻がある。
いつも思う。趣味が悪いなって
しかし、その趣味の悪い門を築き上げた人物の表札が右側の門柱にあり、そこに刻まれている名は間違いなく一刀の祖父の名である「北郷鉄柳斎(てつりゅうさい)」だった。
「北郷って自己紹介された時から思ってたけど・・・北郷って鉄柳斎さんとこの人だったんだ」
「ああ・・・っと、ありがとうな。わざわざ送ってもらっちゃって」
「いいの、いいの。トウキョウでは私がお世話される気満々で行くし」
「おう、任せとけっ!暇なときはいつでもメールしてくれよ?」
「そうさせてもらおうかな。んじゃな、母さんが待ってるし」
白蓮は後ろ手に手を振りながら母親の待つ車へと戻っていった。
「オレも行くか・・・」
一刀は壮大な門をゆっくりと開け、お屋敷まで続く道をさらに進んでいくのであった。
まるで高級旅館の入口みたいな玄関に入ると、木製家屋特有のよい香りが鼻をくすぐった。
「じいちゃ〜ん、ばぁちゃ〜ん。来たよ〜」
一刀が玄関先でこう叫ぶと2階の方からドタバタと騒がしい物音が聞こえ、だんだんとそれが近付いてくる。
一刀は背負っていたリュックをドサッと起き、手に持っていた荷物からおもむろに竹刀を取りだした。
そして、軽く一回振ったのち、大上段にそれを構える。
それと同時に目の前の階段から人影が突然飛び出してきた。
「我が孫よ〜〜〜〜〜〜っ!会いたかったぞよ〜〜〜〜〜〜〜」
背の高さは一刀の半分もない頭がツルツルのわりにあごひげがもっさりとした爺さんが突然、一刀の胸に向かって飛んできたので、一刀は“せいっ”という気合とともに竹刀を縦一閃に振りぬいた。
その竹刀は爺さんの脳天をたたき割るかと思われたが、すんでの所で体勢をそらしてかわして見せた。
そしてそのまま、一刀の胸へと飛び込んだのであった。
「また、やられた・・・」
一刀の爺ちゃんこと北郷鉄柳斎は一刀の胸で顔をぐりぐりと押し付けていた。
「おお〜〜、孫よ〜〜〜〜。また逞しくなりよってからに〜〜〜」
「はいはい、じいちゃんも元気だな。もう90過ぎなのに・・・」
「じゃが、男の胸に飛び込んでものぉ〜〜。やっぱりサラちゃんの方が良かったわい」
鉄柳斎は一刀の胸からポーンと後ろに飛び降りて、乱れた服を整える。
「でも、もう少し贅沢言うなら、サラちゃんももうちょいボインのほうが・・・」
と言った瞬間、屋敷の長い廊下からヒューーンと言う甲高い音が聞こえきた。
その速度は尋常じゃなく、一回瞬きをした瞬間に鉄柳斎のこめかみを矢が打ち抜いた。
・・・かに思われたが、その矢は鉄柳斎を通り抜け玄関にあった木製の下駄箱に風穴を開けた。
「おじいちゃん。セクハラで訴えてやるんだからね」
廊下の先には弓道着姿の咲蘭が弓を構えていた。
「ほほっ、サラちゃんも弓の腕をあげちゃってさぁ〜〜。でも、その矢じゃワシのハ〜トは射とめられんわい」
鉄柳斎は天城に張り付いたまま、ニタニタした笑みを送っている。
『なら、私が射止めちゃおうかねぇ』
穏やかな声でそう言い終わるか言い終わらないかという間に、今まで天井に張り付いていた鉄柳斎が突然キリモミしながら墜落してきた。
そして鉄柳斎が床に激突した瞬間に“チュウン”という音が聞こえた。
「じいちゃ〜ん。コメカミに矢が刺さってっけど大丈夫?」
「心配ないよ。一刀。矢先はいつもの吸盤だから」
「おばあちゃん。やっぱりすごいよねぇ!!音の速度よりも矢の速度の方が速いんだもんっ!」
「ふふっ、90年近く修練つんどきゃ何とかなるもんよ」
咲蘭はおばあちゃんである“北郷フミ”に尊敬のまなざしを向け、一刀はいつも通りの光景に呆れた笑みを浮かべていた。
「よく来ましたね。さぁ、もうすぐ晩御飯できますからはやく二階にいらっしゃいよ」
フミは伸びきっている爺さんの首根っこをつかみ、ズルズルと引きずっていく。
「大丈夫か、じいちゃん?階段にガンガン後頭部ぶつけてっけど・・・」
「いつもどおりだし、問題ないんじゃない?それよりも・・・」
二人で爺ちゃんの行く末を見送っていると突然、隣にいた咲蘭が一刀の目の前へグイッと歩みを進めた。
「駅からここまでごくろうさま。遠かったでしょ?」
「自分の運動不足さに嘆くばかりであった」
「あははっ、やっぱりもう一回始めたら?剣術?」
「オレには向いてないよ」
「ううん。私は絶対お兄ちゃんなら強くなれると思うけどな・・・」
「無理だな。オレはお前みたいに運動神経よくねぇし」
「う〜〜ん、でもさ。何か運動はしとくべきだと思うよ?しっかり体力つけとかないからお茶屋さんでいっぱい休憩しないといけなくなるんだよ」
「ははっ、確かに・・・、それで茶屋で実は・・・んっ?」
「どうしたの?あっ、私、お母さんとおばあちゃんの手伝いしてくるね。ちゃんと手洗ってから二階に来るんだよ?」
咲蘭は右足を軸に美しく180度回転した後、軽い足取りで階段へと行き、2段飛ばしで勢いよく駆けあがっていった。
「・・・オレ話したっけ?まぁいいや。あぁ〜〜腹減った」
頭をポリポリ掻いた後、廊下の奥の洗面所へと向かった。
(お茶屋さん・・・か・・・調べとこ)
咲蘭は二階の廊下で携帯をいじりながら、一人、小さくそう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これが・・・ご主人様が暮らした世界」
「すごいわね・・・鉄の塊が走ったり、小さな機械から他の人の声が聞こえたり・・・どういう仕組みなのかしら・・・」
「これが21世紀初頭のニホン・・・貴方達のいる大陸から東に行ったところにある島国です」
そう言って、女性はスクリーンを操作し始める
「それは、一刀から聞いたことあるわ。でも・・・今見た景色は私たちが暮らす場所とあまり大差ないと思うんだけど・・・」
「それは、今映し出された場所がニホンのなかでもかなり辺境の地になるからですね。一刀さんが暮らすところと全然違いますよ」
「そうですか。あと・・・やっぱり“あの人”が言っていたことは本当だったのですね」
「“北郷咲蘭”ね。すこし映像では幼く見えたけど・・・」
「これは過去を映してますからね。一刀さんも少し幼かったでしょう?」
「ええ・・・あれはあれでありね」
「ふふっ、さてと・・・少し過去に戻りすぎましたね。問題の事件の始まりが起きるのはもう少し後なのです。少し先へと進みます」
「ご主人様にもあのような時代があったのですね」
「当然です。彼は貴方がたと同じ人間なのですから・・・」
スクリーンの操作が終わったらしく、女性は画面の右端を軽くタップした。
「次は今見てもらった映像からさらに一年経った映像を見てもらいます。ここから・・・全てが始まります。準備はいいですか?」
二人はコクリと一度うなずいた後、スクリーンへと眼を移す。
女性がもう一度タップすると、再び三人が立つ暗黒の世界に煌びやかな光が包み始めた。
END
あとがき
どうもです。
プロローグ2いかがだったでしょうか?
ほんとはもっと短かったんです。
ですが、勢い余って長くなっちゃいました。
ここではいつも残念な扱いをされてしまう白蓮さんが登場です。
でもここではどちらかと言えば残念な扱いを受ける前・・・
麗羽に滅ぼされる前の白蓮(偉かった時)をイメージしてやってみました。
なんか・・・たまにはいいじゃんって思いながらですね。
さて、次話から第2部の本編が始まります。
いつも通り、いつごろかは明言できないんですが・・・
お待ちいただけるなら幸いです。
では、これで失礼します。
説明 | ||
どうもです。プロローグ2になります。 プロローグ1とは比べ物にならない長さです。 なんでこうなったんだろう? |
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コメント | ||
タケダム様>咲蘭に関しては第2部でいろいろと分かってくると思いますので、どうぞ気にかけてやってください(salfa) yosi様>噛めば噛むほど味が出てくる。一緒にいれば、次第に離れられなくなる。そんな女性だと私は思います。(あくまでも個人的な感想です)(salfa) ロンリー浪人様>恋姫の中でだったら五本の指には絶対に入ると私は思います。(salfa) 妹がストーカーまがいの事してるけど何だか俺としてはヤンデレになりそうな予感が・・・・・・・。(タケダム) 白蓮さんはいい女だよね(yosi) 白蓮はいい嫁さんになると思うんだ。(ロンリー浪人) |
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