〜貴方の笑顔のために〜 Episode 19 命をかけてこの思いを
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一刀は孫策に自分の道を、その意志を伝えた。それは確かに孫策、周瑜の心に

しっかりと届いていた。

そんな中、王座の間に入ってきた女性がいた。

それは、一刀が死んだと思っていたはずの祭だった。

 

〜一刀視点〜

 

・・・?、ちょっとまて。理解ができていない。

いや、目の前にいるのは、確かにあの黄蓋さんだ。

赤壁の戦いで、胸に矢を射られそのまま散ったと思っていた黄蓋さんだ。

 

・・・え?えーっと・・・

 

あの、どういうことですか、この状況。

 

つまり、さっきの周瑜の言葉をとると、俺はずっと試されていたわけ?

いや、でもあの時孫策が俺に突きつけた刀から感じた殺気は本物だった・・

いや、孫策さん。こわいです、本当に・・・

 

「北郷、いや一刀でいいのかしら。私はこわくはないわよ。」

 

え・・。孫策さん。人の心まで読まないでください。本当にこわいです。

そして、周瑜さん。となりで笑いをこらえようとしているの、やめてください。

こっちは本気でした。

 

でも、それでも・・・俺にとってそれは安心からきていた感情だった。

本当に、うれしかった。心から、うれしかったんだ。

 

「黄蓋さん・・本当に、本当によかった。」

 

俺はもう一度、黄蓋さんとその隣で笑う二人の様子を見ていると自然と

涙が出てきてしまった。

だってそれは、俺がもう取り戻せないと思っていた、大切な光景だったから。

どんなに俺が努力しても、手に入れることはできないとおもっていたから。

 

 

〜雪蓮視点〜

 

正直、ここまでとはおもっていなかった。北郷一刀。彼が魏にいた天の御使いで、

三国同盟が組まれた後、何度も華琳から、彼のことを聞いていた。

あの、華琳だ・・・男をほめるなんて想像もつかなかったけど、

今、実際にみて、そして彼から話をきいて納得した。

華琳が唯一愛した男がここにいると。

 

最初、呂白の正体を知った時は驚いたけど、同時になぜか納得していた。

そして、彼が赤壁の戦いに深くかかわっていたことも前からしっていた。

だから私は、彼にあの戦いのことを問おうとした。

祭をうったことを、どう思っているのかを。

確かに、今、私たちは仲間だ。けれど、私の友を負かした彼の話を聞いてみたかった。

 

だけど、彼は、北郷はそれを自分から伝えるのみではなく、

彼の道を、彼の貫き通すその意志を私たちにつたえにきた。

普通は、できることではない。

事実、祭が本当にあの時死んでいたのなら、私は彼が話した時、

どうしていたかわからなかったのかもしれない。

でも、彼はいった。堂々と。偽ることなく。

 

そして私は納得した。いまだ彼が、魏で忘れられない存在であるということを。

 

そして、今、私たちが、彼を認め、嘘だと彼に告げても彼はそれに対して

不満をいわずに、ただ祭が生きててよかったと涙をしている。

 

そんな姿に、私もそして冥琳も、わらうことをやめ、

目の前の男をただみていたのだ。

 

〜祭視点〜

 

感無量。あっぱれ、わしは扉の後ろにかくれ、北郷の話をきいておった。

わしをうったその男の話をちゃんときいておきたかったのじゃ。

そして、わしは思った。この男にうたれたなら、と、そのように。

 

「北郷、と申したか。すまなかったな。

 しかし、おぬしの考え方、そして王の前でもひるまないその度胸と勇気、

 あっぱれじゃ」

 

目の前で涙するその男に、わしの涙腺も危うくなる。

 

わしは、ただ、うれしかった。この男にあうことがかなって。

 

〜雪蓮視点〜

 

すべてがうまくいっていた。そう思った。

明命が呂白をつれてきて、それが北郷とわかり私たちは、驚いたが、

話をきき、

彼のその道に、共感した。そして、祭本人もよかったと思っているだろう。

 

赤壁での心残りも消え、やっと心置きなく前へ進めるとおもった。

 

こんな時だから、私はすこし忘れていたのかもしれない。

いや、忘れたかったのかもしれない。

 

すべてがうまくいくことなんてないと、知っていたのに。

しっていた、はずだったのに・・・

 

“ドサッ”

 

そんな、なんともいえない、鈍い音が聞こえてきたのは

私たちが彼の話を聞き終わった後の静寂のなかでだった。

 

それからは、すべてのことがゆっくりと流れていった。

私の足は動かない。体が動かないのだ。

 

冥、琳・・・床に突然倒れた私の親友。

私は息が荒くなる・・・

声をだそうとするけれど、なぜか出ない。

動悸が激しくなる。

私は、冥琳の症状をみている華だからの言葉を思い出していた。

 

〜数か月前〜

 

それは、冥琳が二度目に倒れた時だった。私は彼女の様子を見てくれている

華だと話していた。

 

「華だ、やっぱり冥琳は・・・」

 

「ああ、危ないな、いや正直今まで普通にしていたのを驚くべきだ。

 何かが、彼女の精神を支えていたのだろう。」

 

「そう、」

 

きっと、冥琳のことだ。三国同盟と今後の呉をおもっていたのだろう。

 

「孫策・・・、知っているとは思うが・・」

 

「ええ、そう、ね」

 

 

「もう、彼女は、長くはない」

 

 

そう、告げられる一言。

わかっていた、わかっていたことなのに。

どうしてだろう、今まで現実感がなかった。

だから、彼からつげられるその一言はずっしりと私の心に重く響いた。

 

冥琳の死・・・私には考えられなかった。

 

「孫策、彼女にもう仕事はあまりさせないほうがいい。

 少しならばできるであろうが、周瑜のことだ。

 やりはじめたらいろいろ気にしてしまうだろう」

 

「そう・・ね。」

 

「大丈夫か、孫策」

 

放心している私に気づいたのであろう、そう華だが声をかけてくる。

 

「え、ええ」

 

実際、大丈夫ではなかった。私の手は震えていた。

でも、危ないのは冥琳なんだ、私がしっかりしなくては。

 

「華だ、あとどのくらい、あと、どのくらい冥琳はいきていられるの?」

 

「そうだな、正確にいつとかは言えないが、

 次に倒れたとき、彼女はおそらく・・」

 

「そう、わかったわ・・」

 

 

そんなような会話がゆっくりと私の頭に流れてくる。

私の名を呼ぶ声が聞こえる。それでも、私の意識はどこかにいってしまい、

体を動かすことができない・・・

 

 

 

冥琳・・

いや、いやっ!冥琳が、冥琳が死んじゃう・・

嘘、だよね?

 

きっとこれは夢・・?

そうよ、きっとこれは夢だわ。まだ冥琳が死ぬわけないじゃない。

 

 

 

“パチンっ!”

 

 

 

 

そんな音とともに私は現実世界に引き戻せられる。

 

「雪蓮!しっかりせんかい!」

 

いたみが徐々に私の頬にひびく。

 

 

 

「なに、するのよ、祭」

 

 

 

「しっかりせんかい!雪蓮!おぬしがしっかりせんでどうする!」

 

「・・・」

 

「雪蓮!」

 

「なに、よ・・・祭、どうせ祭になんか“パチンっ”」

 

そんな言葉を言おうとしたとき祭はもう一度私の頬を叩いた。

 

「今、わしにはおぬしの気持ちなどわからぬと、そういおうとしたのか?

 本気でそういおうとしたのか、雪蓮。

 甘ったれるでない!わかるに決まっておろう。

 きっまっておるではないか。」

 

祭の目からは涙があふれていた。

 

 

 

「わしらは家族、そうであろう?」

 

 

 

そういう祭は私のことをしっかりと抱きしめた。

 

「祭・・・」

 

「今、雪蓮がしっかりしなくてどうする!

 わしだって嘘だと思いたい!しかしじゃな、これが現実なんじゃ。」

 

「・・」

 

 

 

「わしらがしっかりしなくてどうする!雪蓮!

 冥琳は、あやつはまだ生きようと、

 戦っておるじゃろうが!」

 

 

 

その言葉に私は思い出す。冥琳はいつもそのつらい症状をかくしながら

戦っていた。

そして、今も彼女は倒れながらも必死にもがいている。

 

 

生きようと。

 

 

そう、

ただ生きようと。

その命を、わたしたちにしっかりと示そうと。

彼女は精一杯今を戦っていた。今を、生きていた。

 

「冥琳!」

 

わたしは彼女のもとに駆け付けた。

 

 

 

〜一刀視点〜

 

安心はつかのまだった。祭さんの無事をよろこんでいると、

鈍い音がきこえた。

 

いままでたっているのもつらかったのだろう。

そして、この件に一息ついて彼女のほうも安心したのだろう。

 

周瑜はその場力なく倒れた。

 

その音はまるで、黄泉の番人がその重い扉をあけたかのようだった。

 

俺は、すぐに周瑜のそばにかけ、脈拍などを確かめていた。

孫策はもといたところで、こちらをみながら放心している。

無理もない。いままでずっとにいた親友だ。

 

「黄蓋さん!孫策さんをよろしくたのむ!」

 

俺は隣で冥琳!と叫んでいる黄蓋さんにそう叫んだ。

 

 

周瑜・・・よくこんな状態で・・

俺は彼女の様子をみて驚いた。彼女のその精神力の強さに。

実際、触れてみて、この目でみてわかる。

はっきり言って、いつでも死んでもおかしくないといったところだっただろう。

脈拍は弱りきり、意識がほとんどない状態だ。

 

「周瑜、周瑜!しっかりするんだ!」

 

俺はそう、周瑜に叫び続けながら応急処置を施していく。

でも、わかっていた、こんなものただの気休めにしかならないことに。

 

どうする、どうする、俺、

なにかできることがあるはずだ!

 

手が震える。何かできることが・・くそっ!

何が!おれになにがっ!

あんな偉そうなこと言っといて何もできないのかよ!

くそっ!

 

そう俺があせっていると俺のその震える手に孫策が手を重ねる。

 

「ごめんなさい、私がしっかりしてはならないのに。」

 

その手は暖かくて・・・

 

「冥琳!冥琳!しっかりして!」

 

友を呼ぶ彼女たちの姿はなぜかとても暖かかくて・・・

 

「冥琳!しっかりするんじゃ!おぬしはここでくたばるようなやつではないじゃろ!」

 

 

 

 

俺は、そんな彼女たちのじっと様子を見ていた。

彼女たちが、必死で生きようとする友を必死で支えようとするその姿を

 

 

 

俺は目を閉じる。

そして、思い出す。彼女の言葉を・・・

 

「一刀、なんで私が王になろうとおもったか、わかる?」

 

城壁の上には金色の髪をもつ女の子が、堂々と立っている。

 

「それは、あれだろ。ほら、苦しむみんなを助けたかったからとか」

 

俺は、よくわからないがただ、そう答えた。

 

「違うわ。私は神じゃないんだし、みんななんて、

 そんな大それたことはできないわよ。

 それでもね、私はおもったわ、こんな私でも、目の前にいる人を

 助ける、そんな手伝いができるんじゃないかって。

 その目の前は、最初は小さいけれど、それが重なればだんだんと大きくなる。

 私はね、そう思うの。

 だから、私は絶対に、目の前にいる人たちを見捨てるわけにはいかないわ。

 私を王とおもって、ついてきてくれる人のためにも、

 そして私の愛するみんなのためにも。

 私は、王として、この道を私なりに貫きとおす」

 

そう言い放った彼女の姿は俺には手には絶対に届きそうにないくらい輝いていた。

それこそ、俺がこの世界で、初めて見た光だったのかもしれない。

 

 

 

華琳・・思い出したよ、なんで俺が君についていこうと、心から思ったのかを。

俺は、君のその道を少しでも支えたいと、そう思ったんだ。

その光にすこしでも手をのばしたかったからなんだ。

 

 

 

そう、だよな。

目の前にあることを全力でやんなくて何が魏の天の御使いだよ。

 

 

 

どうして、華琳を愛していると、そう、言うことができるんだよ・・・

 

 

 

孫策、そこをどいてくれ、今から

 周瑜を別の部屋に運び、治療を開始する」

 

俺は、そういった。

 

 

 

 

 

〜孫策視点〜

 

私は必死に友の名を呼びかけていた。

彼女、冥琳は必死に生きようとしていた。

 

「孫策、そこをどいてくれ、今から周瑜を別の部屋に運び

 治療を開始する。」

 

そんなとき、一刀がそういったのだ。

 

「でき、るの?冥琳は、助かるの?」

 

私は不安げにそう彼に尋ねる。

華だには無理と言われた、けれど、私は最後まで希望を捨てたくはなかった

 

「わからない、けれどこれだけは事実だ。

 ここで何もやらなければ、彼女は、周瑜は確実に死ぬ」

 

そう、よね。冥琳。もう、私、逃げないって、そう決めたんだから。

 

「わかったわ、一刀、冥琳を、私の親友をあなたに任せるわ。」

 

そういって、私と祭で、冥琳を背負う一刀を別の部屋へと案内した。

 

「ここでいい?一刀」

 

そこは寝台が一つ置いてある簡素できれいな部屋だった。

 

「大丈夫だ。」

 

そういう彼は冥琳を寝台に寝かせた。

 

「孫策、治療を始める前にお願いがあるんだ。」

 

そんなとき、彼がこっちをしっかり見てそう言った。

 

「なに?一刀、私にできることならなんでもやるわっ!」

 

私は親友のためならなんでもやろうとそう思っていた。だから、

彼が言った言葉に、当惑した。

 

「孫策、そして黄蓋さん、あなたたちはこの部屋からでていってほしい」

 

「・・っ?ちょっ、どういうことよ一刀。私たちが邪魔だってそういっているの?

 確かに私たちにはなにもできないかもし“孫策!”」

 

「だれも君が邪魔だとは思ってない。ただ、治療をするのに

 俺たちの体もこの部屋も、消毒しなくてはいけない。

 悪いが、今回、持ち合わせが俺の分しかないんだ。

 すまない。けれど、頼む、どうかわかってほしい。」

 

私の勘が変だと告げていた。でも、私は医療に関しては皆無だった。

だから私は頷くことしかできなかった。

 

「孫策、黄蓋さん」

 

私たちがしぶしぶと部屋を出て行こうとすると、そう一刀が呼び止める。

 

「なに?」

 

「俺に真名はない。けれどあえていうのなら一刀っていうのが真名になる。

 孫策さんたちがよんでいたことに別に怒りは覚えない。

 これは文化の違いだから。

 ただ、あいての真名を尋ねるときに、こちらの真名を名乗っておくのは

 礼儀と思っているから。

 あなたたちの真名を教えてくれるか?」

 

「そうだったの、ごめんなさい。

 それから、当然よ。私の真名は雪蓮。一刀、冥琳をたのんだわよ」

 

「わしは祭じゃ。よろしくたのむぞ」

 

そういって私たちは部屋の扉を閉めた。

それが、運命を決める扉だと知らずに・・

 

 

〜一刀視点〜

 

雪蓮、祭、まかせてくれ。俺は絶対に彼女を救ってみせる。

俺は閉まる扉の音とともにそう誓った。

 

 

 

「・・・ほん、ごう?」

 

 

 

俺が治療の準備をしていると、

意識がすこしもどったのか、その弱り切った声で俺の名を呼ぶ。

 

「周瑜、しっかりするんだ!」

 

俺はそう、よびかける。

 

「めい、りん、でいい。」

 

そう、弱り切った周瑜、いや冥琳はそう俺にいう。

 

「ああ、・・ありがとう、冥琳。

 俺の真名にあたるのは一刀だ。一刀と、そうよんでくれ」

 

〜冥琳視点〜

 

ここは・・どこだ?

体が、まだいうことをきかない・・視界もぼやけたままだ・・・

 

そうか、私はあの場で、倒れたのか・・

安心・・したのだな、たぶん。

雪蓮と祭には悪いことをした・・・

これからせっかく、北郷と祝えると思っていたとこだったろうに・・・

 

そう思いつつ、視界がだんだんとはっきりしてくると、

私の近くには北郷がいて、なにやら忙しそうに準備をしている・・・

 

「ほん、ごう?」

 

私はまだ、よくでないその声で彼の名を呼ぶ。

 

「周瑜、しっかりするんだ!」

 

私の意識が回復したことに驚きながら、そう彼は叫んでいる。

ああ、そうか、確か北郷は、医術もたしなんでいるのか・・・

だから、ここに・・

 

「めい、りんでいい」

 

それでも、私の命はもう長くない・・・あの華だの判断だ。

わかっていたことだ。

だから彼にはわたしが逝く前に真名を渡しておきたかった。

蜀を救った英雄、いや三国をまとめた心優しきその人間に。

 

一刀、彼の真名にあたるのは一刀なのか・・

 

「かずと、・・私は、もうながくはない・・・だから、」

 

もうしっているのだ、私の運命はここで尽きると。

 

「だから、なんだ、冥琳」

 

そう、だからわたしは・・

 

 

「あきらめるのか?」

 

 

あきらめる?そうじゃない・・・もう、選択肢がないんだ。

 

「ちがう、さいごにしぇれんとさいに・・」

 

「あって、どうする?」

 

そんなの一つしかないじゃない・・雪蓮と祭にあって、最期に・・

最期に別れの・・・

 

 

 

あれ・・・どうしてだろう?

もう、わかっていたはずなのに・・覚悟ができたはずなのに。

涙があふれて止まらない・・・

 

 

 

 

「冥琳、あきらめるな、雪蓮、そして祭はあきらめてないぞ。

 待っているよ、君のことを。

 信じているよ君ともう一度過ごす日々があるということを。

 願っているよ、そんな、日常を」

 

やめてくれ一刀、そんなことを言われてしまったら

私は・・私は

願ってしまうではないか、

望んでしまうではないか・・

 

「冥琳、こんなときこそ、祈っていいんじゃないかな。

 願っていいんじゃないかな、自分の希望を」

 

 

 

わたしは、ただ泣くことしかできなかった。

涙の一粒一粒が私の頬を伝わって流れていく・・・

 

 

 

 

「かずと、わたしは、わたしは、

 いきたいっ!」

 

 

 

 

私はそう力を振り絞って叫んだ。

 

「わかった、冥琳。君の気持ち、そして君の友の気持ち、俺が

 しっかり、受け取ったから・・

 ちゃんと受け取ったから。」

 

彼が私をみながら、微笑みながらそういう。

そして私の手を包み込むように力強く握った。

 

「だから、俺は・・・」

 

 

 

「うおぉぉぉぉおおおおお」

 

 

つないだその彼の手から、言い表せないような氣が私の体に流れ込んできた。

 

なに、をしているのだ、彼は・・

 

一つの疑問が私を襲う。

 

氣の事はわからない、だけど、氣を使う祭に聞いたことはある。

氣を使えない人間でも氣というものは体内に備わっている。

ただ放出のさせ方がわからないだけであると。

そして、彼女はこんなことも言っていた。

氣というものは体内に流れる生命の源。つまりそれが完全になくなれば・・

まさかっ!一刀は!

でも、祭はこうも言っていた。

理論上、そうなるが、氣というものは時間がたてば回復する。

それに、氣をすべて短時間で使い切るというものはあり得る話ではないと。

 

でも・・・

 

私の体にはまだ膨大なる氣が流れ続けている。

そして、

その氣を流している一刀の口からは血が流れていた。

彼は震える、いや、痙攣する右手を左手でしっかりと押さえつけ、

私に氣を流し続けていた。

 

 

一刀・・・

 

 

 

一刀、もう、やめるんだ・・・

 

私の勘は雪蓮のようにいつも当たるわけではない。

それでも、今回だけは、私にはわかってしまう。

 

一刀は、彼は、彼の命を引き換えに私を救うつもりなんだと。

 

 

 

「やめ、ろ、かずと」

 

 

 

私はそう、声をだす。

それでも一刀は氣を流すことをやめようとはしない。

 

「やめ、るんだ。かずと、たのむから」

 

時間をおうごとに彼の表情から苦しさがみてとれる。

 

 

 

「やめて!かずと!」

 

 

 

それでも、一刀は私に無理に微笑みながらやめようとしない。

 

 

 

「やめ、てよ、かずと!」

 

 

 

私はなんとかもう一つの手で彼の手をつかむ

 

 

 

「たのむ、かずと!」

 

 

 

私は一刀のかわりになど生きたくない。誰かを犠牲にしてなど生きたくない。

 

 

 

 

「かずとーーーーー!」

 

 

 

私はそう精一杯叫んだ。

 

 

 

「冥琳、」

 

彼は、つかんだ私の手を優しく包み込んだ。

 

「俺は、死なない。絶対だ、約束する。だから、

 今は、俺に任せてくれ。

 俺を信じてくれ。

 俺は、君の命をそして、君の道をここで終わらせたりはしないから」

 

「それ、でも・・・」

 

「これが、俺の歩く道だから、俺が決めた道だから、」

 

「だから、俺はもう、曲げたりはしない、自分の道を。」

 

 

そういって彼は、より膨大な氣を私に送り込んできた。

 

私はもう、やめてなんて言えなかった。

ただ私は泣いていたんだ。

涙がとまらなかったんだ・・・

 

「あり、がとう」

 

 

私はただ、その一言をかれに伝えたんだ。

 

 

 

〜一刀視点〜

 

ありがとう、そう冥琳は言ってくれた。

 

その感謝の言葉だけで俺はうれしかった。

その思いだけで俺はここまでこれたんだ。

きっと俺はここでやらなかったら後悔をする。

そんなの嫌だ。だから俺は今の自分に後悔なんてしていない。

 

今もそしてこれからも・・

 

だって今までは、目の前で苦しんでいる人がいるのに助けることができなかった。

ただ見てるだけだった。

悔しかった、悲しかった・・

ただ、泣くことしかできなかった。

俺にはただ見守ることしかできなかったから。

人の力を当てにすることしかできなかったから。

 

でも、貂蝉、それを君は変えてくれた。人を助けるすべを君は俺に教えてくれた・・

 

まだ救える命があるなら、俺なんかで救える命があるのならば、

この笑顔が守れるなら、俺はどんなことでもしてみせる

 

「うおおおぉぉおおお!」

 

 

そう思い、冥琳の手を力強く握った。

 

くるしい・・・

心臓が・・・もう・・

これほどまでに・・

 

時間が経つことに俺の心臓は痛みをあげ、そして床は、俺の地で真っ赤に染まり始めた。

 

「はぁ、はぁ・・・・かはっ」

 

つらい・・息が、できない・・・

でも、だめなんだ。こんなところで倒れては。

赤壁の戦いのとき、呉の人たちは祭が、目の前で矢で射抜かれるのを

なにもできずに見ていた・・・

何かしたかった、助けたかったはずなのに、己の無力さを感じることしか

できなかったはずだ・・・・

そのつらさは、きっと、いや絶対今俺が感じているものより

大きかったはずなのだから・・・・・

 

だから俺はこんなところで倒れてはいけないんだ

 

たのむ、もう少しでいいんだ。もう少しでいいからもってくれ、

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁあああ!!」

 

 

 

 

 

 

一刀の服、辺りの床、周りにあるもののほとんどが一刀の血で赤く染まっていた。

それでも一刀は氣を流しつづける。

 

血を吐こうが、身体が痙攣をおこそうが氣を流しつづける。

それでも、一刀はその苦しみをかくし、

涙をながす冥琳に微笑み続けていた。

 

説明
祭はいきていた、その現実に一刀はただうれしかった。しかし、そんな幸福な時間はいつまでも続くことはなかった。
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コメント
牛乳魔人様、いえいえ^^;ご指摘ありがとうございます。また、よろしくお願いします(白雷)
不知火 観珪 様、そうですねー、次回をお楽しみに(白雷)
「蜀を救った英雄」 これは張任の反乱の時の事だったんですね、失礼しました。(牛乳魔人)
一刀くん、カッコよす! 冥琳さんも一刀くんも生きて欲しいですねー(神余 雛)
牛乳魔人様、どうもでした^^; 華佗は変換した時に出てこなかったのでつい。  蜀を救ったというのは、今回、呂白としてでした。 祭の呼び方ですが、そうだったですね^^; ありがとうございます(白雷)
続きを心より御待ちしております〜。気になったのですがこれは誤字?「華だ」→「華佗」?「蜀を救った英雄」→魏?あとは祭が雪蓮を呼ぶ時は「策殿」だったような(牛乳魔人)
刃様。今回の一刀君は一味違います^^;(白雷)
一刀がメチャクチャカッコイイです!(本郷 刃)
nao様、いつもどうもです(^_^.)  やはり一刀君ですから。(白雷)
更新早い!うれしいです!一刀はやはりその行動にでますよね〜続き楽しみです〜^^(nao)
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