魏外伝〜虚空に射る弓 |
「私はな北郷」
「怖いだけなのかもしれないな」
「人を殺すという感触に触れるのが」
魏外伝〜虚空に射る弓
「・・・」
集中
陽射しが出たばかりの訓練場に一人、弓を構えて集中している姿があった
「・・・」
彼女が構えた矢は、的の真ん中より少し右気味に刺さる
人でいう・・・“心臓”の場所に
「・・・」
一矢、また一矢と正確にその場所に射ち込んでいく
その正確さは、味方でさえ怖くなるようなものだった
「ふぅ・・・」
一息つくと彼女は、訓練所から出て行った
「ふむ・・・流石に早すぎたか」
彼女の訓練は大抵早朝におこなっている
そうでもないと訓練所は兵士達が来るからだ
場所的には問題ないのだが、彼女の上手さにあるものは見惚れ、
あるものは自信を無くすと、悪影響が出てしまうからだ
そう主君・・・華琳に言われてから自粛し始めたのだ
「いつもならまだやっていたのだが・・・どうしたのだろうか?」
いつもなら夏候惇・・・もとい春蘭を起こす時間まで訓練するのが日課だったのだが
「なにやら落ち着かないというかなんというか・・・」
そうぼやきながら歩いていると
「・・・ふんっ!」
「・・・?」
風の切る音が近くでしていた
「・・・北郷か?」
「あっ、秋蘭?」
いつもの見慣れた・・・北郷がいた
「こんな早くにどうしたの秋蘭?」
一息ついたのか、休憩がてら会話をすることにした
「それはこちらの台詞と言いたいが・・・訓練が終わったところだ」
「そっか、前に華琳に言われてたんだっけ?」
「気にしていないから良いのだがな・・・
それより、お前こそどうしたのだ?こんな早朝に」
「秋蘭と似てるけど・・・逆の理由かな?」
「?」
「いや・・・皆が見てる前でやると、どうも“絡まれやすい”みたいで」
「ああ・・・なるほどな」
大方、姉者や霞あたりにあーだこーだ言われるから集中できないということだろう
「それで、腹いせも兼ねて剣を振っていたということか」
「まぁ腹いせかどうかは微妙だけど、そんなところだよ
そういえば秋蘭ってさ」
「む?」
「どうして弓を使っているの?」
「・・・」
そう聞かれて、私は固まってしまった
「弓じゃなくて剣とかだったら、もっと早く敵を減らせると思うんだけど
・・・聞いちゃいけない事だった?」
そんな私の様子に気づいたのか、北郷が心配そうに言った
「そう・・・だな、北郷になら話しても良いかもしれないな」
「どういうこと?」
「うむ・・・今夜、空いているか?」
「今夜?今のところは予定は無いけど・・・」
「なら、中庭に来てもらえるか?」
「中庭だね?オッケーだよ」
北郷は曖昧なままだが返事をした
「わかった
ではまた後でな」
そう言って私は自分の部屋に戻って行った
「本当か秋蘭!?」
「・・・あぁ」
夕刻時
私は姉者を自室に呼び、今日北郷に話す事を告白した
そして、かなり納得しなさそうに驚いた
「なんでまた・・・そんなことを?」
「そうだな・・・なんでかと聞かれても、私にも分からないんだ
でも・・・北郷には知っていてもらいたい
いや、“知っていてもらわないと困る”と思ったからだ」
「だからって・・・お前が言わなくとも私が言えば・・・」
「姉者に頼んだとしても、北郷は真相を聞きに来るよ
“そんな話”本人から聞かねば信用できんさ」
「・・・」
それ以上言うこともなくなったのか、姉者は黙ってしまった
「しかし・・・大丈夫なのか?
“あの話”は・・・お前の・・・」
「それを分かった上でのことだ
心配しなくても良いさ」
「そうか・・・ならもう何も言わん
行ってくるがいい」
「あぁ・・・ありがとな、姉者
行ってくるよ」
私が部屋を出ようとすると
「・・・秋蘭!」
「・・・む?」
「・・・悲しくなったら私の部屋に来るのだぞ?
今日はベッドの隣が空いているのでな」
「何を真面目な顔で言っているのだか・・・
だがありがとな、姉者」
「うむ!!」
と、腕を組みながらドヤ顔している姉者に呆れながらも
部屋を出て行った
「・・・」
風もそんなにない中庭で、私は北郷を待っていた
「そろそろだと思ったのだが・・・早すぎたか?」
「いや、そんなことはないんじゃないかな?」
後ろから声がした
「む、北郷か?」
「遅れちゃいけないなーと思って早めに来てみたんだ」
「それはすまない、待たせたか?」
「ううん、こっちも来たばかりだから大丈夫だよ」
「そうか、なら良かった」
待たせてしまったのではないと一安心する
「それで・・・話って?」
「そうだな・・・長くなるから、座りながらで良いか?」
「オッケーだよ」
そう言って座り込むと、私は話し始めた
「朝、私に聞いたよな?
どうして剣ではなく弓を持っているのかを」
「う、うん・・・」
北郷の緊張した顔を見ながら、私は語り始めた
「私は昔・・・弱かった
いや、私と姉者と言ったほうがいいか」
小さいときは戦うことなどろくに知らなかった私たちは、普通に両親と生活を
していたんだ
毎日が平穏でな、皆で笑い合ったり、時々親などに叱られるときもあったが、
とても楽しかった
そんなある日に・・・村に盗賊が押しかけてきたのだ
村にいた人たちはほとんど殺されて、私たちの両親も目の前で殺されたんだ
そこで私たちも死ぬんだと思ったのだが、姉者にこう言われたんだ
「秋蘭!!私たちは生きるんだ!!何をしてても!!」
そう言って姉者は・・・落ちてあった剣を拾って敵に突っ込んでいった
私も続いて剣を握り締めながら続いた
敵は油断していたのだろう・・・こんな年もいかない女の子が武器を持ってか
かってくるなんてな・・・
それで、そのまま二人で斬ったんだ
そこで何とか生き延びれてな・・・姉者はしばらく腰を抜かしていたんだが
私に至っては、号泣していたんだ
親を亡くしたから泣いていた・・・というのもあったのだが、それ以上に
「“人を斬り殺した感触の恐怖”にな」
「!?」
姉者は強かったから、そのまま剣を握ることが出来ていたのだが
私は泣きながら拒んだ
我侭なのも分かっていた
それでも、私は剣を握ることができなかった
しかし、武器を握れなければ生きていけないのも分かっていた
だから・・・
「それからだよ・・・生き抜くためには人を殺すこともままならない
でも、“その感触”だけはどうにも耐えられなかった」
「それで・・・弓を?」
「あぁ・・・同じ“人を殺す道具”なのに
“その感触”を感じなくてもいい
“殺す”という事に躊躇を感じなくなったんだ」
「・・・」
「“頭部”“腹部”“心臓”・・・何処かに刺されば相手は死ぬ
こんな簡単なこともないってね」
「・・・・・・」
「とまぁ、これが朝の回答だよ
気分の悪くなる話だったろう?」
と私は、苦笑いをしながら話し終えた
「ごめん、そんな理由があったなんて、それなのに俺って・・・」
「なに気にするな
今となっては、古い話だ」
「でも、どうして話してくれたの?」
北郷が疑問そうにそう聞いた
「そんな過去なんて、簡単に話したいなんて思わないのにさ」
「まぁ・・・最初は姉者にも反対されたんだがな
北郷には、知っておいてもらいたかったからな」
「俺には・・・?」
「そうでもしないと・・・“いざというとき”困るだろ?」
「・・・?」
北郷は首をかしげたまま固まってしまった・・・まぁ無理もないだろうな
こいつの鈍感さは“今更”だしな
「今、ものすごく失礼なこと考えてなかった?」
「いや?気のせいだろう」
そう笑いながらはぐらかした
「では、私は戻ることにするよ
明日も早いしな」
「うん、分かったよ」
そう言って私が立ち去ろうとした時に
「秋蘭!」
「ん?」
「・・・ありがとね、聞かせてくれて」
「・・・あぁ」
「・・・」
北郷に話終えた後、私は一人で月を見ていた
「何だろうな、すっきりしてそうでしていないこの感じは
自分の過去を話すというのは、楽なものではないのだな・・・」
とふけっていると
「あら?どうしたのかしら秋蘭?」
「あ、華琳様・・・」
「一人で月見・・・という顔ではないみたいね」
「はい・・・」
「まぁ、目が赤くなっているということを見る限り
深くは聞かないほうがいいみたいね」
「・・・!」
そう言われて私は目をこすってみた
「いつの間にか泣いていたのか・・・
お見苦しい姿を見せてしまいすみません」
「大丈夫、人間泣きたくなることなんていくらでもあるわ」
そう華琳が微笑みながら言っていると
「そういえば秋蘭、今夜は空いてる?」
「はっ、特にございませんが・・・」
「なら、今夜の閨のお供をしない?
思ったより仕事が早く終わったから、相手を探していたのよ」
「私で良ければ、いつでも」
「ふふっ、いい返事ね
では、行きましょうか?」
「御意」
そして私は華琳様と共に夜を過ごすのだった・・・
だが
「何かを忘れているような・・・?」
「秋蘭・・・早く帰ってこないかな来ないかなぁ・・・ムニャムニャ・・・」
あとがき
えーだいぶお久しぶりでございます 蒼華です
リアルでの精神値の減りが危なく、書く事すら忘れていた状態でありました
今も安定してるとは言えませんが、頑張ってこれからも時々書いていきたいと
思っております
なのでこれからもよろしくお願い致します!
ではではー
説明 | ||
皆様お久しぶりです 蒼華です 今回は秋蘭メインの作品を書いてみました それではどうぞ! |
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