指から“海”
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じわり。

右手の人差し指のひび割れが若干裂け、そこから透明な汁がにじみ出ていた。

膿でもにじみ出たか、とその部分を指でしぼると透明な液体はジュワッとあふれた。

特にやる事もなく暇だったので、しばらくその膿を出なくなるまでしぼり出そうと搾取行為を続けた。

 

 

予想に反して、膿は枯れる事を知らず、にじみ出続けた。

………いや、むしろ液体の流れる量は増え続け、ついには地面にぽつ、ぽつと雫が垂れるほどになっていた。

怖くなって慌ててしぼり出すのをやめたが、膿は溢れ出る一方だった。

 

「痛っ!!!」

その、問題の指先に激痛を感じた。

見てみると、煮干しほどの小魚が傷口から顔を出していた。ぴく、ぴくと動いている。どうやら、生きているらしい。

私は小魚のブヨリとした頭をつまみ、激痛に耐え、泣きながらそれを引っ張り出した。

ずるりと出てきた小魚のぶん、傷口は広がり、流れ出る膿の量は更に増えた。

落とした小魚は足元に溜まった私の“膿”で泳ぎ始めた。

 

手で抑えても膿は出続け、とうとう私のヒザくらいにまで溜まった。

その間、私の指先から小魚は5匹も出た。

 

膿がそれくらいたまるほどのその間に、何故私がこの場を動かなかったというと、それは私が今、排便中だからである。

ここはトイレである。

 

私はひどい便秘体質で、●週間くらい余裕で便意が来ない時もある。

そんな私の肛門括約筋が■週間ぶりに「出したいです……」と私に懇願してきたのだ。

今、この便意を逃せばまたしばらくは便意は来ないだろう。

………と、いうわけで私は体内にたまっている相当量の便を出すまで、この場所から離れるわけにはいかないのだ。

 

「ひっ、ぐぅぅう…………!?」

右手のひらから何か、三角状の硬いモノが皮膚を突き破って飛び出してきた。

小魚同様に、泣きながらそれを引っ張り出すと、それは“ヒトデ”だった。

ヒトデを引きずり出した裂傷から、もう「ドドドドド」という効果音がつけられるくらい大量の膿が流れ出た。

 

ヒトデが出てきたそこから、狙っていたかのように次々と小魚やエビも流れ出てきた。

口からはイソギンチャクが這い出てきた。

 

 

 

私の体から出てきた膿は、もう既に天井近くまで達していた。

その天井近くにわずかに残った空間の酸素で、私は一命を取り留めている。

全身が自らの膿まみれで、生ぬるくて、なんともいえない。

足を必死にバタつかせていると、たまにマグロほどの大きい魚に足が当たった。

 

トイレの窓を開けておけばよかった、と後悔した。

“用をたしている時の、トイレにこもったあのなんともいえない匂いが好き”とか言って換気を怠ったせいだ。

窓が開いていれば、私の膿がこうやったまる事もなかったのに。

 

ああ。

 

ああ。

 

 

ふと下を見ると、いつ自分が吐き出したのかわからないサンゴや、キレイな熱帯魚らが膿中を回遊していた。

 

 

 

 

和んだ。

 

 

説明
題名のとおりです。
指のひび割れから“海”が出てくるだけの話です。

※微グロ、食事中注意。
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