鴉姫とガラスの靴 二羽
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二羽 墨被り姫と王子様

 

 

 

 私立白花学園。名前の通り、お嬢様校として有名な女子校である。

 教職員も誰もが女性。正に男子禁制の白い花園、といったところだが、未確認情報によると通う生徒は誰もが典型的な「お嬢様」とされている。

 その真実を知るのは実際に通う生徒達と、性別を問わずに学園の中に入ることの出来る動物達だけだ。

『木樺、柵の上はどんな感じ?』

『有刺鉄線などはありません。安心して上がって来られますよ』

 鳥の姿で侵入を試みる深月達は、人間にはわからない鳴き声でコミュニケーションを取る。種類の違う鳥ではあるが、きちんと意思の疎通を取ることが出来る。動物の言語は人のものよりも単純で、それゆえに深みはないが伝達は難しくない。

 一羽の鴉が飛び上がり、グラウンドの近くの柵の上に降り立つ。すぐ傍には小さな黒っぽい色の雀もいて、何も知らない人間が見れば不思議な構図だろう。

『今は授業がないみたいですね』

『残念ね。教室の方まで行ってみようかしら』

『さすがに危険ですよ。私だけならまだしも』

『そうよね……今だけは雀が羨ましいわ』

 人からすれば、鴉の定位置はゴミ捨て場の生ゴミの袋の上であり、人家や学校のすぐ近くにまで飛んで来たら、それは十分に駆除の対象になってしまう。人を驚かすつもりで深月は来た訳ではないし、あまり目立ちたくはないところだ。

 大して他と代わり映えしない、花壇や中庭の草花でも観賞して時間を潰そうかと思っていると、急に暗雲が立ち込め、静かな雨が降り出した。それはすぐに激しさを増していく。

『本降りですね。風邪をひかれてはいけないので、もう帰りましょう』

『天気予報だと曇りだったはずなのに。やっぱりテレビは嘘つきね』

『そういうものですよ。軽く参考にする程度が一番です』

 ばっ、と翼を広げて二羽の鳥が飛び立つ。二羽の大きさは異なるが、小さい方の木樺が深月を先導するように前を飛んだ。

 雨はいよいよ強く体を打ち、羽を重くしていく。遠くで一瞬光が輝いたかと思うと、雷鳴まで轟き出す。

『ひぅっ!!』

 人が聞いても、ちょっと尋常ではないとわかる声で深月が鳴き、空中でたじろぐ。それを見た木樺は呆れつつも、励ますように深月の横にぴたりと付いた。

『姫様。大丈夫ですよ。我々が雷に打たれるようなことはありません』

『わ、わかってるわよ。でも、あんな音立てて……』

『私達が轟音に強く反応してしまうのは、先祖からの遺伝で仕方のないことですが、どうか気を強く持ってください。婿様に笑われてしまいますよ?』

『そ、それは困るけど……なんで雷なんか鳴るのよ、ばか…………』

 轟音は鴉避けの空砲を想起させ、もっと時代を下れば猟銃や弓の風斬り音にまで繋がっている。鳥類が皆同じように襲われるものだが、深月の怖がりようが普通ではないのも確かだ。

 強気に振る舞い、およそ怖いものなどないように見える彼女にも弱点はあり、いつもの気丈さはこの唯一の弱点を隠すためのものだとすら思えて来る。

『……雷も怖いけど、何か変な臭いがしない?』

 神経を尖らせていたためか、人より圧倒的に優れた鳥の嗅覚が探り出したのか、雨の独特の匂いにまぎれて、地上から漂って来る異臭にいち早く深月は気が付き、少しずつ高度を下げ始めた。

『鉄の臭い、でしょうね。血の臭いとも言い換えられましょうか。いずれにせよ、あまり穏やかな事態ではないかと』

『降りるわよ』

『危険なことに首を突っ込むのは、得策ではないと思うのですが』

『言って聞く相手とでも?』

『思っておりません。常にあなた様の傍でお守りするのが護衛の役目なれば、お付き合い致しましょう』

 空中で燕のような見事なターンを見せると、二羽の黒い影は真っ逆さまに地上へと落ちていく。地面に激突する寸前に体勢を立て直し、そのままその姿は人のそれへと変わった。街中を歩くのに鳥の姿は不便で、あまりに無力過ぎる。

 それに、本当に死傷者が出るような事件が起きているのなら、武器も持たずに歩く訳にはいかない。

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「十時にヤマトビルの前で刺殺事件、か……」

 昼休み、ふと気になって携帯電話でニュースをチェックしていると、見覚えのあるビルの名前があった。

 それもそのはず、この辺りに住む若者なら誰もが利用するショッピングモールビルが「ヤマトビル」だからだ。名前からして、大和さんが建てたビルなのか、関西の人が管理をしているのか……ともかく、深月達が昨日買い物をしたビルが正にそれだ。

 こう言うのは、間違いなく不謹慎だろうが、深月達でなくて良かった、と胸を撫で下ろしてしまう。

 事件の詳細を調べてみると、被害者は三十代の男性。犯人は既に逃亡。どうやら物盗りの犯行らしく、被害者のサイフの入ったバッグが盗まれ、ついでなのか、被害者のしていたプラチナのリングも盗まれていたという話だ。

 逃亡した犯人の服装はこの季節に黒いコート、黒いサングラス、ニット帽……一目見て、怪しい奴だとわかる容貌だ。通り魔的に金を持っていそうな相手を狙ったのか。

「物騒な世の中だな……」

 自分の生活圏内で起こった事件なのに、他人事のように呟いて昼食のきつねうどんを一気に吸い込む。都会に住む人間なんてものは結局のところ、こんなものなのかもしれない。殺されたのが自分じゃなくて良かったと安心し、事件のあった場所を別に倦厭することもなく、何もないように、と心の隅で祈りながら利用する。

 絶対に安全な場所なんてない、という諦観がさせる行動なのだろうか?それとも、自分は絶対安全だ、などという根拠のない神話が自分の中に存在しているのだろうか。

 わからない。家に帰ったら、深月達に訊いてみても面白いかもしれない。野生を生きて来た彼女達は、やっぱり自分の生の儚さと、大切さを自覚しているのだろうか。――そうだろうな。

 いつか、車に惹かれて死んでいるネコを見た。カラス――そう、カラスが、他の小さな鳥の死骸を突いているのを見た。日に日に弱っていく飼い犬を見た。

 動物の生は、人のそれよりずっと短く、脆い。それなのに、人に注目される彼等の死は、自分達のペットのものだけだ。

 深月達は、人の姿になり、人と共生することで飛躍的に長い寿命を得ることになったという。それは、人と同じように生の価値を見失い始めたということを意味するのかもしれない。

「……ごちそうさまでした」

 大して美味くも感じられない食事だった。そろそろ冷たいものを食べるべきかもしれない。

 再び黙想。

 深月達は今日も出かけるという話だったが、刀を持った木樺さんがいるなら、安全だろうな。あれが模造刀や、柄だけの飾りだとは思えない。普通の人間が簡単に手に入れられるそれとは全く異なる、真剣。戦国時代の侍達が、戦に使った人殺しの道具だ。

 おっとりしているようでも、常にぴん、と一本張り詰めた気雰囲気のある木樺さんが、それを満足に扱えない訳がないだろう。通り魔ぐらい一瞬でいなしてしまうだけの実力があって然るべきだ。

 刀といえば、初めて会った時には深月も持っていた。あれは結局、俺の家にも持って来たのだろうか。少し短めの寸詰まりの小太刀だったが、あれも大変な業物には違いない。深月は花鳥庵の姫として育てられる中で、剣術もまた教わったのだろう。

 二人ともアイドルか何かか、と思われるような美少女だが、考えれば考えるほど俺とは全く違う人生を送って来ているのだと再認識させられる。そもそも、人と鳥の差があるんだったな。

 もしものことがないか、心配だし、逃げた犯人というのも早く捕まって欲しいところだ。そんな奴が今も野放しになっている限り、今日と同じ不安はいつまでも付きまとうことになる。当面は深月達の心配だが、危険なのは俺も同じだ。まさか大学のような人だらけのところには来ないだろうが、昼間に街中で事件を起こすのだから、まともな思考は既に出来ていないかもしれない。

 しかし、相手はどこか冷静に金品を巻き上げている。金を奪うということは、それを使う目的があって、楽に金を稼ぐためにこんな物盗り事件を起こしたのだろうか。いずれにせよ異常だとは思うけど、身近で起きた事件の犯人がそんなやつだと思うと、少し興味が湧いて来る。……変なことに興味を持ったものだな、俺も。

 深月みたいなそれまでの俺の人生の中に存在し得なかった存在との出会いで、一気に俺の視野も拡大されたのかもしれない。別に危険な方向に拡がっていかなくても良いんだけどな。

「よう、悠ちゃん」

「殴られたいか、井上」

 食堂を後にして、適当に時間を潰そうと図書館に向かっていると、見知った顔がやって来た。そいつは相変わらず俺の名前を茶化すと、そのまますれ違って行く。

「……って、そのままスルーかよ!?」

「ちょっと今の俺はアンニュイなんだ。別にいつも構ってやらなくても良いだろ?」

「ヒュー、クールだねぇ」

「お前が暑苦しいとも言う」

 井上正親。歴史の教科書に載っていそうな名前のこいつは、俺の大学で出来た友人の一人だ。

 なんというか、チャラ男と呼ぶには一線を越えていなくて、かといって懐っこくて時々暑苦しくて、なんとも言葉にしがたい奴。

「もう飯食ったのか?」

「ああ、今から図書館。今ならまだ空いているし、お前もさっさと食っとけ」

「おうともさ」

 こいつは言葉選びのセンスがなんというか、独特だ。実は朝、深月に対してべらんめぇ口調になったのは、知らず知らずの相手に井上の影響を受けていたからな気もする。恐ろしいな、こいつの侵食力。

「じゃあな」

「ういういー」

 間違いなく馬鹿な奴だが、そうだな……あいつと少し話したら、気分が一気にすかっとした。こんなこと本人に言ったら間違いなく付け上がるから言わないけど、太陽みたいな奴なのかもしれないな。だから、暑苦しい時もある、と。

 オチまで付いたところで、図書館に入った俺は持参の文庫本を開いた。漫画に比べると、字の詰まった本はコストパフォーマンスが良いのが素晴らしい。すぐに読み終わらないし、ライトノベルなら漫画みたいに絵を楽しむことも出来る。

 ただ一つ問題があるとすれば、あまり人目があるところでは読めないことだな。俺は別に隠れオタクではないし、そもそもラノベは読んでいてもオタクではないつもりだが、やっぱりその、美少女が表紙の本を読んでいるところを人に見られたくはない。しかも俺は、見た目だけなら長身で、そこそこ筋肉質な体育会系の印象を受けるからな。そんな奴がいわゆるところの萌え絵の描かれた文庫本を読んでいるのは……。

 はぁ、本当はこういう細かいことなんて気にしたくないんだが、これも日本人の恥じらいの文化といったところか。中々どうして思い通りにならない世の中だ。

 ――思い通りにならないといえば、もう一つ。

 今日は一日中曇りの予報だったのに、こんなに降り出してくるなんてな。その事件の被害者の人も、冷たい雨にさらされて、寒かったことだろう。ああ、また少し、気分が暗くなって来る。

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「人では、ありませんね」

「ええ……何の動物かまではわからないけど、明らかに人とは違う臭いだわ」

 深月と木樺が、血の臭いのする場所で見つけたのは死体だった。といっても第一発見者ではなく、無数にいるヤジウマの一人になった程度。参考人として呼び出されるようなこともなく、代わりに現場に残された犯人の臭いを頼りにその追跡を始めたところだ。

 あまり印象はないかもしれないが、鳥の嗅覚は案外馬鹿に出来ず、警察犬ほどの精度はないが人の臭いを追うことは十分に可能だ。そもそも、深月が悠を花鳥庵の仲間にさらわせることが出来たのも、彼の臭いを記憶していたからに他ならない。

 雨の街を鴉と雀が全速力で飛び回る訳にはいかないので、二人は人の姿のまま走り続ける。雷はすぐに止み、近くのコンビニでビニールの雨合羽も買ったので、装備は万全だ。

「しかし、この時代、こんな都会で原始的なことしてるわよね。あたし達」

「ふふ、やっていることは、人が原人であった時代と同じですね。そして、奪い合うことを人や動物は未だにやめない」

「生物の本能が闘争を望んで、闘争の末に得られる物は餌か交尾の相手だもの。種が滅びるまで変わらないわ」

「その通り。まあ、人は享楽のための殺人なども企てるようですが」

 相手が香水をして歩き回っている訳ではないので、時間の経過と共に雨によってその臭いはかき消されていく。既に臭いは、鳥類の嗅覚では追えないほどまでに薄まって来ていた。後は直感と、新たに感じる動物の臭いを追って走るだけだ。

「……これは、知能犯の犯行ね」

「あるいは、我々に対する挑戦ですね」

 二人の追跡の足がぴたりと止まる。雨の中の疾走の結果、辿り着いたのは都会にあまり似つかわしくないボロ屋敷。深月が長として君臨するべき場所、花鳥庵だ。

 この場所には当然ながら鳥達の臭いが充満していて、追跡どころではない。相手は花鳥庵の存在を知っていて、それを利用して追跡を断とうとしたのだろう。深月のような鳥の化身が追って来ると予想していたかは不明だが、殺人を犯すような人間……もとい、動物の化身が花鳥庵のことを知っている、というのは驚異といえる。

「屋敷には姉さんがいるので、万が一はあり得ないと思いますが、どうも嫌な予感がしますね。一応、警告はしておきましょう」

「ええ、お願い。……まさか、あたしを狙っているんじゃないでしょうね」

「どうでしょう。ここまで特定出来ているのであれば、姫様が不在なのもわかっているはず。現在の住居に強襲をかけそうなものですが」

「まあ良いわ。もし向かって来るなら、歓迎してあげるだけよ」

 生物は闘争を望む、と言ったのは深月だが、彼女もまたその例外ではない。悠との幸せな生活が一番大切なのは言うまでもないが、心躍る闘いもまた、血に餓えた鴉の本能が望んでしまう。

 それはおよそ闘争とは縁のなさそうな小鳥である雀も同じで、むしろ木樺はその気が他の鳥よりも強いぐらいだ。――妖鳥として。

「じゃあ木樺、一度帰りましょう。いきなり走って疲れたわ」

「そうですね。我々は基本的に、体力というものには劣る生き物ですから」

 悠の住むアパートと花鳥庵とはそこまで離れているという訳ではないが、鳥の化身は自分の足で歩くということにそれほど慣れてはいない。再び二人は鳥の姿になり、雨で羽が濡れるのも気にせずに空へと舞い上がった。

 他の動物のように大地をしっかりと踏みしだくことの出来ない足。その代わりに鳥は、空を我が庭として飛ぶ力を手に入れた。地を走るよりずっと合理的なその移動法は、瞬く間に目的地へと自分自身を導いてくれる。アパートのすぐ近くに下り立ち、人がいないことを確認して、深月が姿を変える。木樺は雀のままだ。

「ただいま、っと。こんな時間からお風呂焚いても、別に怒られないわよね」

『問題はないでしょう』

 濡れたままの木樺は適当なタオルを見つけると、それに体を擦り付けて水分を取る。従来の野生の雀なら絶対に見られない光景だ。

「あー、あたしも髪濡れてるんだから、拭かせなさいよ。お風呂沸くまで時間かかるし、風邪ひいちゃうじゃない」

『申し訳ありません姫様。このタオルは一人用なんです。姫様はご自分でタオルをお出しください』

「ちょっとぐらい良いじゃない。あんた、体はちっちゃい癖に、微妙に強欲よね」

『姫様の長い髪を拭かれてしまっては、私が拭く部分がなくなってしまうからですよ。主君たるもの、時には従者に譲る精神を持ち合わせてください』

「なーんか、あんたの良いように使われてる気がするわね……。まあ良いわ。あたしが先に湯船に入らせてもらうから」

『それはもちろん。一番風呂は姫様に入られるべきですから』

 風呂が沸くまでの時間を、一人と一羽は何をするでもなく、小ざっぱりとした大学生の部屋でぼんやりと過ごす。静かな雨の音は心地よく、雷鳴は大嫌いな深月でも、これを楽しむことは出来た。

 合羽があったとはいえ、前も止めずに走っていたため服もかなり濡れてしまった。悠の好み通りに、白を基調とした服を今日も着ていた深月は、かなり下着が透けて見えていて、ここにもし悠がいれば、楽しいことになっていただろう。

「……そうだわ。写メを撮っておこうかしら。木樺、人になって」

『はぁ。相変わらず、何の得にもならない悪戯がお好きですね』

「得にはなるわよ。メールを受け取った悠が、きっと面白い反応をしてくれるもの」

 小言を垂れながらも、きちんと木樺は姿を変え、深月に頼まれるがままに写真に収め、それをメールに添付するところまで協力する。

「さて、どのような本文を書かれるのですか。怪しい内容だと、さすがに勘付かれると思いますが」

「そうね……ま、適当にフィーリングでやってみるわ。返信が楽しみね……」

 

 ――ここに一つ、誤算があったことを深月は知らなかった。

 深月は悪戯が好きだが、木樺もまた、主人を使って遊ぶことが大好きだということを失念していたのだ。

 それが、新たな喜悲劇を生み出す。

 

「ん、沸いたみたいね」

 ピー、ピー、という無機質なアラームが鳴り響く。最近は言葉で知らせてくれる物が多いが、それほど設備が新しくないこのアパートでは相変わらず、無遠慮な電子音が知らせてくれるようになっている。

「姫様。戸締まりはされていますね?」

「そんな初歩的なミスはしないわよ。あたしを誰だと思っているの」

「世間知らずな姫様、かと」

「こ、これ以上がないほど的確だけど、鍵ぐらい締めれるわよ」

「一応、確認しておきます。姫様はお先にどうぞ」

「……信用ないのね。あたし」

「ええ」

 さすがに木樺も容赦がない。毒舌は生まれつきのものだが、ここまでずばずばと言うのは二人が幼馴染だからだ。

 尤も、親しい間柄でなくては深月がこんなメイドを許しはしなかっただろう。

「うー、もうかなり乾いちゃったけど、ちょっと脱ぎにくい……って、ひぁぁぁぁ!?」

「……姫様、奇声を上げないでください。ここはアパートなんですから」

 主君が悲鳴を上げても、この冷静さだ。深月が滅多な目に遭うことはないとわかっているので、パニックに陥ることもまずない。

 実際、今回の事件も服にナメクジが付いていただけのことだ。

「かなり立派なナメクジ先生ですね。こんなのがいたのに気付かなかったとは、姫様は鈍感ですね」

「い、良いからどっかにやりなさいよ!面白がって塩をかけたりするのはやめなさいよ!キモいからっ」

「それはネタフリでしょうか?えーと、お塩は……」

「や、め、てーーーーっ!!」

 避難とばかりに、深月は風呂場に鍵をかけて立てこもる。これで風呂場にもナメクジなりカタツムリなりがいれば最高だったが、そこまで上手く出来てはいないらしい。

「姫様、我々はそもそも、虫を主に食べて生きていたのですから、ナメクジぐらいで半泣きになられていては、さすがに長たる者の威厳がないというものですよ?」

「でも、ナメクジなんか食べなかったじゃない!」

「……珍しく正論ですね。でも、そんなに気持ち悪いですか?私としては、こういう訳のわからない系より、ゴキブリなんかの方が苦手ですが」

「あーっ!!その名前を出すのは本気でやめなさいよ!」

 どっちにしても苦手なようだ。それもそのはず、いくら鳥の化身といっても、深月はずっと花鳥庵の中で暮らしていた。出される食事は人間のそれとほとんど同じだし、自分で虫を捕って食べたこともない。

 だからこそ、人の少女と同じように虫を怖がり、きゃーきゃー喚き散らすのだろう。近所迷惑だろうが、まだ昼間で良かったというものだ。

「はい、ナメクジにはご退出願いましたよ。私も入らせてもらって良いですか?」

「う、うん……」

 ここで実はナメクジをまだ持っていて、それを裸の深月にけしかけるほど木樺も性格が悪くない。今日はきちんと二人の着替えを用意して、風呂場に足を踏み入れた。

「今日は鳥の姿の方でもしっかりと体を洗わないと、かなり濡れちゃったわね」

「そうですね。私が洗って差し上げますので、姫様もお願いしますね」

「ええ。木樺はちっちゃいからすぐに洗えるから楽で良いわよね」

「……この、お互いが裸になっているタイミングでそれを言われるのは気になりますが」

 深月達の人への変身については、未だに本人達にすら謎なことばかりだが、深月と木樺の身長の違いから判断すると、元々の鳥の大きさが人の姿の時の身長にも影響するらしい。

 木樺はそれでも身長が高い方だが、スタイル……具体的には胸の大きさでは深月との差は歴然だ。

「別に胸の話はしてないわよ?」

「そんな脂肪の塊、必要ありませんから」

「胸が小さい子は、皆そう言うわよね」

「姫様。胸肉は食材として人気ですよ?」

 普段は仲の良い二人だが……唯一この時ばかりは、一触即発の雰囲気となる。むしろ殺伐としているのは木樺の方であり、深月は彼女の反応を見て楽しんでいるのだが、木樺には遊ばれているのだと気付く余裕すらないのだから、本心では胸のことをかなり気にしているのだろう。

「それにしても……やっぱり、殺人とかって普通にあるものなのね」

 少し落ち着いて、次に話題となるのはついさっきまで追っていた事件のことだった。

「人は、自殺をする数少ない動物であると聞きます。自分を殺すぐらいなのですから、他人を殺すことぐらい、平気にやってのける……今回は、どうやら人の仕業ではないようですが」

「人に馴染んだ動物の“狩り”とでも言うのかしら。身包み剥いで、自分のために使うんだから」

「ですが、人は自ら生産することが可能です。人の体を得た私達も同様に。にも関わらず、野性のままに人を襲う。それはやはり、許されることではないでしょう。出来るものなら、同じ境遇の者同士、人の警察ではなく我々が尻拭いをしたいところなのですが」

 一市民が出来ることに限界があるとは、箱入り娘の深月ですらわかっている。ふっ、と目の前に現れない限りは、精々自分達が襲われないように気をつけておくことが関の山だ。

 知っている情報は服装と臭いのみ。服装は着替えられてしまえばそれまでだし、臭いも既に記憶から消し去られようとしている。それよりもはっきりと記憶しているのは、独特の雨の臭いだ。たったこれだけの情報では、いくら深月が首を突っ込もうとしても限度がある。花鳥庵の住人で警察の関係者はいないし、伝がなければ警察の情報を手に入れることは不可能だろう。

「姫様。探偵に憧れるのも良いですが、アルバイトをするという話でしたね?」

「え?あ、ああ。そういえばそんな話もあったわね。色々とあって、すっかり忘れていたわ」

「ご自分から言い出したことなのですから、簡単に忘れてしまわないでください。今日は無理ですが、また街を歩いてアルバイトの募集がないか、探してみましょう。可能ならば二人雇ってもらえるところが良いですが、それが無理ならば私は鳥の姿でお守りしますので」

 何もなければ、ほんの数時間であれば護衛の必要もないか、と思っていた木樺だが、状況が変わった。そう何件も殺人事件が連続するとも限らないが、深月の命を危険にさらす訳にもいかない。

「そうね……やっぱり、あたしは楽しめる仕事が良いわ」

「仕事がなくなりましたね」

「きっぱり!?たとえば、あんたの仕事なんて楽しいでしょ?」

「護衛やメイドとしての仕事が、ですか?……確かに、姫様を泣かせたり怒らせたりして遊ぶのは楽しいですが、中々に辛い仕事ですよ。花鳥庵の家事を全てこなすのは大変ですし、わがままな姫様はいますし……」

「どさくさに紛れてあたしをディスるのはやめてもらおうかしら!」

「愛していますよ。姫様」

「……だ、騙されないんだからっ」

 頬を赤く染める辺り、すっかり騙されている。そもそも、本気で木樺が自分のことを嫌っているとは思わないし、楽しんで仕事をしているのは本当だろう。ただ、同じ仕事を自分もしたいかと言えば、そうではない。

「あたしはやっぱり、肉体労働はあり得ないと思うのよね」

「確かに。姫様がこき使われている姿は、私としても想像したくはないですね。こんなでも我々の姫様ですから」

「こんなのは余計として……やっぱり、接客業が一番だと思うの。ほら、あたしって良い声してるし、可愛いし、スタイル良いし」

「自惚れは良いとして……まあ、向いていると言えば向いているでしょうね。ファストフードのチェーン店も多いですから、大体そういう店はアルバイトを募集していることでしょう」

「一応、鶏肉系は避けても色々とあるものね。牛丼とか、アイスクリームとか……あっ、回転寿司も良いかも」

「確実にそれは、売れ残ったお寿司が食べたいからでしょう。まあ、私としても中々に魅力的なお話だということは否定しませんが」

 どちらも雑食性の鳥である二人だが、水鳥達の遺伝子もどこかに入っているのか、生魚は一番の好物であると言える。

 米の食害が問題になるほど米好きな雀である木樺としては、魚と酢飯が同時に食べられる寿司などは理想の食事だろう。私情を出来るだけ挟まないようにしている木樺も、気持ちが揺らいでしまう。

「前向きに検討するってことで良いわね?じゃあ、鳥の姿になるから洗って。この姿で悠と寝ることもあるかもしれないんだから、隅々まで奇麗にね」

「わかっておりますとも。私としても主君が雨臭いままというのは嫌ですから。……寝る、ですか。そう言えば、何か忘れているような」

「え?何かあったかしら。戸締りは確認してくれたんでしょう?」

「…………まあ、良いでしょうか」

 

 そうして深月が鴉へと姿を変えるのと、インターホンが鳴り響くのはほとんど同時だった。

 珍しく取り乱して木樺は必死に服をまとい、主君の布団を届けに来た配送業者を出迎える。明らかに風呂上りだとわかる姿だが、気にしてもいられない。

「こちらにサインを、お願いします」

 咄嗟に『鴉谷』と書きそうになるが、ここの家主が悠であったことを思い出し、彼の苗字を思い出そうとする。が、特徴的なその苗字が出て来ない。

「留守番の者なのですが、私の名前でもよろしいですか?」

「良いですよー」

「ありがとうございます……」

 とりあえず難は逃れたが、今までおおよそ完璧に仕事をこなして来たメイドにとって、唯一と言える敗北だった。

 その晩、人知れず木樺は五十公野という字を死ぬほど書いて覚えたという。

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「ただいま」

「お帰りなさーい」

「お帰りなさいませ」

 雨のせいもあり、真っ暗な道を歩いて帰り、やっと辿り着いた我が家。ただいまと言って、返って来る言葉があることが何よりも嬉しい。

「今日はちゃんと、魚メインでご飯作ったわよ。煮物の味付けは木樺に頼ったけど、大体はあたしの手作りなの」

「そうか……深月、本当に料理が得意なんだな」

「当たり前よ。努力も根拠もなしに偉ぶっているんじゃないもの」

 テーブルの上に並んでいるのは、ブリの照り焼き、イカと厚揚げの煮物、レタスやトマトの和風サラダという、どこかしらに手の込んだ和のご馳走達だ。一朝一夕で作れるとは思えず、改めて深月の料理の腕が確かなものだと認識させられる。

 カラスとして生まれたから長なのではなく、それ相応の努力をしているからこそ、姫と皆から認められているということか。本当に、立派なものだ。

「でも、深月」

「どうしたの?もしかして、イカとか駄目?」

「いや、そうじゃないんだけど。まあ、食事の後で良いか」

 こんな夕食を用意してくれていたんだ。お小言は無粋だな。料理の味を堪能して、ゆっくりしてからにしよう。

「じゃあ、早速いただきます」

『いただきます』

 深月と木樺さんの声はぴったりと揃っていて、時々喧嘩をするけど、幼馴染である二人はお互いを信頼していて、大好きなのだろう。俺にはそんなに深い仲の幼馴染はいないから羨ましい。高校までの友達も、下宿すると同時に離れてしまったしな。

 さて、ふっくらと焼き上げられた魚に箸を入れ、ご飯と一緒に口の中へと運ぶ。甘辛い味が広がり、一口食べただけでどんどんご飯が進む絶妙な味付けだ。煮物に手を付けると、木樺さんがしたという味付けは醤油と生姜の風味が鼻を突き抜けていき、やはりこれも相当美味い。サラダはさっぱりとした青じそドレッシングがかけられているが、市販のそれとは別に、刻んだ青じそが混ぜられている。それがまた良いアクセントになっていて、ただのサラダなのにメインに数えてもおかしくない完成度だ。

「どう。美味しい?」

「ああ……ああ。最高に美味い」

 この言葉を使うことに、ためらいはなかった。俺の母親の料理もまた十分に美味かったが、もっと簡略化されたものだった。それでも良かったけど、深月の料理はこれこそが「本物の料理」という感じがして、最高の味わいだ。

 毎日こんな料理が食べられるかと思うと、ポーズとしてではなく、本気で勉強にも身が入る。当初はどうなることかと思っていたが、それほど問題を起こす訳でもないし、美味しい料理を作ってくれるし、悪くない……いや、それどころか嬉しい。たとえその同居人が人でなくても、それはそんなに大きな問題ではないだろう。

「ふふっ。そうよね、そうよね。頑張って作ったんだから」

「おめでとうございます。姫様。しかし、あえて苦言を呈しますと……」

「そんなのいらないわよ!ちょっと醤油が多かったことぐらい、わかってるんだから」

「では良いですが。一応、料理を真剣にしている者として気になっただけなので」

「いや、でもこれぐらいの方が俺は好きだぞ?良いおかずになるし」

「男性……いえ、人間の基準では、そうなのかもしれませんね。我々はどちらかと言えば、薄味の方が好みですから」

「そうなのか。まあ、鳥だからな……」

 なんとなく、エビのスナックを食べているカモメを思い出した。あれも、人間が塩辛いと思うぐらいの味なんだから、実は鳥にとってはかなりの塩分なのかもしれない。そう思うと、動物への餌付けというのも、人間のエゴ丸出しの行為だと感じてしまうな。

「あたしは濃い目でもある程度は大丈夫だけど、木樺はうるさいわよね」

「それは単純に、好みの違いでしょう。我々はどちらも雑食性ですから、元の鳥の性質によって好みが分かれている訳ではありませんので」

「じゃあ、木樺さんも喜んで食べられるように、これからは薄味にしてもらった方が良いな。俺は別にどっちでも美味しいと思うし、魚とか野菜にそんな、濃い味は期待してないからな。肉の味を知らないから、そもそもこってりしている、って概念がわからないし」

 本当、改めて考えれば考えるほど、ヘルシーな食生活をしているな、俺。

 チャーハンと言えば高菜で、ステーキと言えばアワビ(まだ一回しか食べたことがない)、照り焼きと言えば魚なのだから。

 ちゃんと叉焼が入ったチャーハンとか、牛肉のステーキとかを食べてみたくない、と言えば嘘になるが、それほど興味がないのもまた正しい。俺は魚や野菜がそもそも好きだしな。それしか食えないとも言うが。

「うーん、それなら、あたし達の味覚に合わす方向でいかせてもらうわね。……実はそういうの苦手分野で、ほとんど木樺に手伝ってもらわないといけないと思うけど」

「姫様は、肉料理が大好きで、そればかり作っておられましたから。カウボーイのような肉の煮込み料理などは妙に得意なのですが、魚や野菜の煮物は苦手なのです」

「だから、木樺さんに手伝ってもらってたのか」

「そういうこと。でも、ちょっとずつ自分でも覚えていかないといけないわね。計量カップとか大さじ小さじを使えば良いんでしょうけど……」

「えっ、使ってないのか?そういう計量器具」

「もちろん。そんなの使うなんて、甘えでしょう?」

「甘えですね」

「いや、普通じゃないか……少なくとも、俺の知ってる料理の常識の中では」

 ここでまたしても、カルチャーショックが首をもたげて来た。まさかそれが調味料の計量だとは思わなかったが、どうやら深月達の中で計量器具を使う、それすなわち甘え、みっともない行動らしい。

 そうなると、テレビの料理番組の先生は何なんだ、ということになってしまうけど……ああいうのを見たら、木樺さんなんかは素人だと思ってしまうのかもしれないな。目分量でこんなに完璧な味が出せるなんて、正にプロの腕と言えるだろう。

「我々は人の模倣。しかも一般家庭のものを見て、自分達の生活文化というものを形成して行きましたから、たまたま参考にした家庭がそういった器具を使わなかったのでしょう。私も、姉も、味付けは自分の舌と、勘でするようにと教えられて来ましたから」

「世のお母さん方は確かに、その辺りフィーリングでやってること多いからな……よりにもよって、それを模倣しちゃったのか」

「わずらわしくなくて便利よね。もうすっかり、あたし達には目分量が出来るようになってるし」

「道具を使わなくて良いから、外出先とかでも問題なさそうだな。一応、俺の家にはそういうのがあるんだけど……」

「申し訳ありませんが、使用することはないかと」

「で、ですよね」

 二人とも可愛い外見をしていて、やっぱりたくましいことがよくわかった。これでも「野生の鳥」ということだな。

 本当に美味い料理というのは、気が付くと皿の上から消えてしまっているらしく、食事は十分もしない内に終わった。それなりの品数、量があったのにも関わらず、だ。

「ごちそうさま。本当に美味い飯だったよ」

「ありがとう。明日も期待してくれて良いわよ」

「ああ、毎日の楽しみにさせてもらおう」

 それほど娯楽のない日々に、美味い食事という、生きている上で至上とも言える喜びが舞い込んで来た。これを感謝しない奴は、きっとこの地上のどこにもいないだろう。

 何度も重ね重ね思うが、深月の存在は本当にありがたい……美少女の彼女が出来たというだけで人から妬まれる身分なのに、しかもその子が料理上手で、そのメイドもまたプロのような腕前を持つとは。この時点で一生分の幸せを享受してしまったかのように思える。

「それで、婿様。何かお話があるのでは?」

「あ?――あ、ああ。そうだな。美味い飯を食わせてもらっておいて、こういう文句を付けるのは正直アレなんだけどな……」

「良いわよ。これからの二人の生活に役立てたいから、良いことでも悪いことでも、なんでも言って?夫婦には隠しごとなんてなしじゃない」

「まだ夫婦じゃないんだが……えっと、その、なんだ。昼のメールのことだ」

「メール?あたし何か――あれのこと?」

「多分それのことだ」

「気に入ってもらえた?」

「気に入ってたら、こんな風に言いにくい感じに話題にしないだろ」

 そう、俺があのハレンチメールに気付いたのは、午後の一発目の授業の初めの時だ。

 どうも腕時計をするのが苦手な俺は、時間を知るために携帯電話を使っているのだが、するとメールの受信マークが出ていることに気付いた。見てみると、深月からのメール。何かトラブルがあったのかと、慌てて開いてみると。

 

『これ、勝手に食べて良い?』

 

 たったそれだけの本文のメール。添付写真があるので、冷蔵庫に入っている何かを写真に撮って、俺に食べて良いかどうかの許可を求めているのかと思い、そのデータを開いてみた。その時に、悲劇は起こった。

 まずは、俺の席の説明が必要だ。

 俺は身長が高いのであまり前の方の席で授業を受けるのは歓迎されないが、目はそこまで良くない。メガネやコンタクトはしていないが、正直そろそろ必要になりそうな時期だ。

 だから、前の方の一番端っこの席で、他の人の迷惑にならないようにしている。

 そして俺の隣には、知り合いではないが同学年の男子が座っている。俺の後ろには、七つは机があり、男女入り混じって結構な生徒がいる。そこで俺は、写真を開いた。

 その写真は――簡単に言えば、深月の写真だ。タオルを頭から被り、どこか物憂げに足を崩して座っている。濡れた髪などは妙な色気があり、スタイルの良さもあいまって本物のモデルのようだ。それだけなら、まだ良いのだが……濡れているのは髪だけではなく、服も同じ。白いブラウスは透けていて、その下にある黒い下着がはっきりと見えている。おまけに布地は肌に張り付き、豊満な胸や見事な腰のくびれがはっきりとわかる。どこをどうごまかしても、過激なグラビア写真。下手をすればR指定の付く代物に見えなくもない。

 こんな写真を、人前で堂々と広げてしまった訳だ。携帯の画面はそこまで大きくないので、せいぜい見えるのは後ろの三列目ぐらいまでだとしても、俺がいきなりそんなエログラビアまがいの写真を見ている。その事実が多くの生徒に知れ渡ってしまった。

 加えて、俺はそこまで友人が多い訳じゃなく、空いている時間は本を読んでいる陰気な奴という認識を持たれているに違いない。その結果、導き出される俺の悪評は――。

 

「むっつり、だ」

 木樺さんや深月の言っていたことが、こうして現実のものとなってしまった。

 どうせ大学なんて、そこまで生徒間の付き合いがあるコミュニティじゃない。高校までのようにいじめまがいのことにまで発展することはないが、それでも俺の見られ方が多少変わったのは確かだろう。身の破滅とまではいかなくても、中々にショッキングな事件だった。

「悠……ごめんなさい」

「いや、お前にそんな悲しい顔をして欲しくて言った訳じゃないんだ。ただ、出来ればああいうことは控えて欲しい。せめてメール本文を偽装するのはやめろ」

「ええ、わかったわ」

 しゅん、と目に見えて肩を落とした深月は、本当に申し訳なさそうに瞳を潤ませている。――寝起き以外でも、涙腺は緩い方なのだろう。口調は気丈さを失わなくても、落ち込んでいることは隠せていない。

「まあ、それだけだ。男からはむしろ漢……漢民族の方の漢、な。として認められるようになったし、女の子とは元からそんなに話せなかったし、大きな影響があった訳じゃない。気を落とさないでくれ」

「そうね……」

「余談ですが婿様」

「は、はい」

「それで、写真自体のことを婿様はどうお思いですか?」

「え、ええっ?」

 この人はまた、空気を読まずに何を仰られるか。いや、楽しげな空気に戻してくれるのは良いんだが、直球過ぎるというか。

「私がこの写真を撮った訳ですし、中々にベストなショットだと自負しております。果たしてこれが婿様の胸に響いたのか、これは大きな問題ですから」

「そ、そうか……。えっと、そうだな」

 必死に言葉をまとめる。さっきまで落ち込んでいた深月も、今は裁判の判決が出るのを待つように真剣な面持ちだし、このまま逃げる訳にはいかない。

「本職のモデルみたいだ、と思った。濡れた黒髪がすごく艶やかで、哀しそうな瞳も、すごく奇麗だったと思う。後は、まあ……他の多くの生徒が思ったように、すごく色っぽかったよ」

 果たしてこれが褒め言葉なのか、ちょっと自分でもよくわからない。いわゆる男が感じる「エロさ」と、女性の褒められて喜ぶところというのは、ずれている気がするからだ。でも、危うく裸を見せられそうになった時には、欲情するかどうかを判断基準にしていたし、肉体の色気を褒められるのは、深月の価値観的には合格なのかもしれない。

「――おおよそ狙い通り、ですね。良い仕事が出来ました」

「悠、あたしに欲情してくれたのね?すごく嬉しい……今日はもう布団が届いたけど、一緒に寝ましょう?」

「いやいやいや、そういうことにはならないからな?後、木樺さん。あなたの本職はカメラマンじゃないでしょう」

「一流のメイドたる者、ありとあらゆる職種を兼ね備えますので」

「そこにカメラマンが含まれるとは思いませんけどね……」

 今夜もまた、深月とは寝床の問題で議論が必要そうだ。それが嫌だという気がしていない俺もいるのだが。

「……すっかり、深月達のペースに巻き込まれてるよな」

 誰かに対して言うのではなく、自分自身に確認するように言って、風呂の支度を始めた。

「あたし達はもう入ったから、ゆっくり入って良いわよ」

「わかった。……って、沸かしておいてくれたのか」

「一度お湯は抜いているので、飲んでも姫様の味はしませんよ」

「木樺さん」

「はい?」

「俺、あなたの中でどのぐらい変態なんですか」

「人並みに、ですが。それ以上なのですか?」

「いや……もう良いです」

 やっぱり、俺はまだ彼女達との生活には完全に馴染むことは出来ない。特に木樺さん……深月以上の強敵な気しかしないのだが。

 今も、まるで悪気がなさそうにニコニコしている。逆に笑顔以外の表情をほとんど見たことのない彼女だが、その笑顔が何よりも恐ろしく思えてしまう。

-5ページ-

 翌朝。そう、無事に翌朝だ。

 深月はきちんと話せば、俺と一緒に寝るという提案を取り下げてくれて、俺のより遥かに上等な布団を広げて別々に寝てくれた。

 相変わらず木樺さんは鳥の姿で仮眠、ということになり、俺は実に安らかな眠りに包まれることが出来て、今朝は深月に布団の中へと侵入されることもなかった。平和過ぎるほど平和な朝。気持ちが良い朝。それでもまず、深月を起こすことから始まる。

「深月、もう朝だぞ」

 木樺さんの真似をして、頬を軽くつねってやろうとも思ったが、力の加減がわからないし、下手なことをして顔に傷でも付けてしまったら大変だ。今日もしばらく肩を揺すってみた後、木樺さんに頼むことにした。

「すみません、木樺さん――」

「おはようございます。婿様」

「あ、はい。おはようございます」

「すみませんが、一度姫様のことは捨て置いてもらって、こちらに来てもらえませんか」

「えっ?」

 相変わらずのメイドらしくない発言はおいておくにしても、木樺さんが俺にだけ話があるなんて、少し珍しい。

 彼女はあくまで深月の従者なのだし、俺をぞんざいに扱ったことはないにしても、常にどこか距離を置いていた。……その態度が軟化した、と思えば良いのだろうか。

「いえ、ちょっとした豆知識をお教えしておこうかと」

「豆知識?」

「はい。来週末、六月二十三日のことです」

「二十三日……何か予定が?俺、一応土曜も初め二時間だけ授業があるんですけど」

「何か用事があるという訳ではないのですが、その日は姫様のお誕生日になります。……従者の私ごときが差し出がましいようですが、ここは幼馴染の親友の一人として、そのことを知っておいていただきたい、と思いましたので」

「そうなんですか。やっぱり、誕生日は祝うような習慣が花鳥庵の人達にもあるんですか」

 花鳥庵の住人は鳥なのに、人という言い方をするとなんだかややこしいな。この際どうでも良い話だが。

「はい。特に婚約者や夫婦にとっての誕生日とは、大きな意味を持ちます。基本的には服やアクセサリー、靴のような身に着ける物をプレゼントするのが通例になっていますね。まだ十数年しか続いていない伝統ですが、きっと姫様も婿様にプレゼントをいただくことを楽しみにされているかと」

「なるほど……わかりました。何か、深月の好きなデザインの服とか靴とかはありますか?」

「姫様はきっと、婿様の選んだ物でしたら何でもお気に召しますよ。ですから、似合うと思う品をプレゼントしてもらえれば、それだけで十分です」

 そう言われるのが、俺にとっては一番の難題だ。女の子の服もアクセサリーも靴も、全てが俺にとっては雲の上のように遠い存在。ロクに種類すら言えないのだから。

 とりあえず、その手の店に行って、店員さんに訊いてみれば多少はわかるだろうか。

「次のお誕生日で姫様が十六歳になる、というのはご理解いただいていますね?つまり、このタイミングでのプレゼントはエンゲージリングにも等しい、ということをお忘れなく」

「なるほど……わかりまし――ええ?」

「姫様は十七歳の時を独身で迎える訳にはいかないのですから、この一年の内に結婚をしていただかなくてはなりません。でしたら……ねぇ?」

「ねぇ、って。じゃあ、アクセサリーっていうのは指輪のことなんですか?」

「いいえ。結婚指輪はきちんとした婚約の時に贈っていただくとして、今回のプレゼントはそうですね。誠意の証明、といったところでしょうか。それなりにお金や手間をかけたプレゼントで、必ず姫様を幸せにするのだ、という意志を示していただければそれ十分です」

「それ、相当難しい注文じゃないですか……」

「さあ?」

「……一応、了解しました」

 女の子の誕生日プレゼントというだけで大変なのに、更に難易度が鰻上りだ。そして、このプレゼントをすれば、それは俺が深月と結婚する意思を固めた、ということになるんだな。

 いや、そのことを拒んではいない。まだ実感はないけど、深月のことは憎からず想っているつもりだ。悪い子では決してないし、俺のことが本気で好きだというのは、俺のややこしい体に合わせて用意してくれた昨日の夕食からもわかる。――断る理由は、やっぱりないだろう。

「どうせですから、姫様をキスでおかし……起こしてみますか?」

「ばっ、木樺さん?」

「メイド流のジョークです」

「はぁ、いまいち笑えない虚言は、ジョークじゃないですよ。それに、いくら肩を揺すっても、声をかけても起きないのに、そんなのじゃ起きないでしょう」

「舌まで入れれば、あるいは」

「……だから、マジにも受け取れるジョークはやめてください」

「マジです」

「もっとやめてください…………」

 なんだろう、この寝起きから町内を一回りさせられたぐらいの疲れは。やっぱり、深月より木樺さんの方がまともに付き合うのは難しそうだぞ、これ。

 今も会話しながらずっと嫌な汗をかいているし、それにも関わらず木樺さんは無表情とも言える笑顔のままだし。

「姫様。今自発的に起きれば、婿様がキスしてくださるそうですよ。深い」

「やめてくださいって言いましたよね!?」

「ジョークです」

「実際に言ってるんだからジョークじゃないです!」

 こ、この人は……。唯一の救いは、そんな言葉くらいで深月が起きるほど、彼女の眠りが浅くはないことだ。今だけはその寝起きの悪さに感謝する。

 ――チュン。

 言葉の代わりに、そんなスズメの鳴き声がする。やっと仕事をする気になってくれたのか、スズメの姿になった木樺さんが深月の頬を一突きしたのだった。うっすらと赤い跡が残り、それもすぐに消えるが、そうしてやっと深月が寝ぼけ眼を開く。

「おはよう。深月」

「あっ、悠。おはよう」

「おはようございます。姫様」

 一瞬前まで小さなスズメだった木樺さんも、きちんと人になって挨拶する。こういうところは、まあ普通のメイドさんだな。

「今日は何曜日だったかしら」

「木曜日だな。何かあるのか?」

「ううん。訊いてみただけ」

 そして、安定の寝起きの悪さ、と。とろんとした瞳は相変わらず可愛らしいが、頭じゃなく口が勝手に動いて喋っているのに違いない。きっと俺が大学から帰って来てから朝の話をしても、深月は何一つ覚えていないだろう。

「ところで姫様。携帯電話を確認されては?」

「んっ……?何か昨日めーるしたっけ…………」

 呂律もロクに回っていない。くそ、不覚にも可愛いとは思うが、記憶は残らないんだからな……。

「ええ。エロ写真を散布したではありませんか」

「え、えろ?」

「はい。まさか、お気付きではなかったのですか?婿様へのメールは私が用意したではありませんか。まさか、送信相手が婿様だけだとでも?」

「えー?どういうこと?」

「送信履歴を確認してもらえれば、全てわかりますよ。……尤も、携帯を操作出来るほど姫様の目が覚めてから、このことを覚えていれば、ですが」

 ……悪女だ。悪女過ぎるぞ、このメイドさん。

 深月の寝起きの悪さを知り尽くした上で、彼女的に大事な用件を伝えるなんて。

 しかし、エロ写真というのは昨日の俺へのメールで間違いなさそうだが、まさかあれを他の深月の知り合いにも送ってしまったのか?そしてそれを仕組んだのは木樺さん、と。

「木樺さん」

「はい、何か?」

「あなた、実は深月のこと、恨んだりしているんじゃないですか?」

「まさか。ただ、私は姫様で遊ぶことが趣味なだけですよ」

「それも大問題だと思いますけど……」

「大丈夫です。問題は少ししかありませんから」

「……少しは自覚しているんですね」

 それは安心――も出来ないな。自覚している上でやっているなんて、余計にタチが悪いと思わざるを得ない。

 会話について行けていない様子の深月をよそに、完全に俺の中で木樺さんという人の人物像が形成されたのだった。

 “ドSの毒舌メイドさん。深月の幼馴染にして、彼女をいじめることを生きがいとする”

 間違いはどこにもないだろう……。

-6ページ-

 深月と木樺さんが俺の家に来て三日も経てば、すっかり俺の方でも深月の方でも馴染み、特に生活をする上での問題はなくなった。

 必要な生活用品は深月と木樺さんが選んで来てくれるし、深月のバイトも、のんびりとだがちゃんと本人達で探すみたいだ。となると、俺があれこれと手や口を出すのは逆に邪魔というもの。俺は俺の考えごとに集中出来る。

 それが何かと言えば、もちろん――。

「女の子へのプレゼント?」

「ああ、服か靴が良いんだ。良い店とか知らないか?」

 昼食の時に頼ったのは、お調子者の井上だ。俺の友人で、一番女の子と縁がありそうなのはこいつしかいないから、というチョイスだったのだが。

「お前なぁ、ちょっと考えてくれよ」

「自分で考えられないから頼ったんだ。初めてのことで全くわからん」

「……そうじゃなくて、俺がモテてるとでも思ったのか?」

「俺よりは可能性があると思った。うるさいけど、それだけ社交的だからな」

「はぁ。その考えがまず、浅はかってもんだぜ、悠ちゃんさんよぉ」

「その呼び方はやめろ」

 今日の井上の口調もまた、どこか江戸っ子っぽい。こんな風に面白い奴だから、女の子にも歓迎されそうだと思うのだけどな。

「俺は年齢イコール彼女いない歴、大将以下でさぁ」

「大将って……いや、俺もそうだぞ」

「馬鹿言いねぇ。俺ぁ知ってるんだ」

「……何をだ?」

 出来るだけ、出来るだけ表情には出さないように努める。俺の彼女と言えば、深月しかいない。そのことを知っているのか?

 別に、井上に知られてもそれほど大きな問題じゃない。口止めをすれば聞く相手だし、こんな話を振るぐらいだから、こいつには話しても良いと思っていた。けど、こいつが人伝に聞いていたりしたら、それはまた話が別だ。

「お前が結構モテてるってことをな!結構、お前のこと噂してる女子はいるんだぞ!」

「どうせ悪い噂だろ……」

「いやいや、エロ写メ事件のことはわかってる。だが、良い噂も本当にあるんだぞ。最近の女子はこう、お前みたいにストイックな奴の方が好みらしい」

「ストイック、か……」

 ストア派の人間のこと。俺はストア派じゃない。

 ……いや、意味はわかっている。禁欲的で自分に厳しい奴のこと、か。……俺が?

「そう見えているものなのか?」

「少なくとも、ちゃらちゃらしてないからねぇ」

「大学にまで来て、あんまりちゃらちゃらしてるのもどうかと思うぞ?」

「お、俺のことかっ」

「さあな」

 有力な情報が得られると思ったのだが、これ以上井上を困らせる……というか、心の傷を抉ってやるのも忍びない。適当に店を当たるとしよう。店員さんに「彼女へのプレゼントを……」とか訊くのはものすごく恥ずかしいけど、やるしかないな。

「悪かった。俺一人でやってみるよ」

「……お、お?ということはお前、もしかして」

「し、親戚の子だよ。前に話さなかったか?年下の女の子がいるんだ」

「なんだ、彼女じゃないのか」

「あ、ああ」

 井上の哀しい歴史がわかった以上、深月の話をして追い打ちをかけてやるのは、血も涙もない人間の所業だろう。なんとかごまかし、心の傷を最小限に留めておいてやる。……感謝はしなくて良いけど、お前も頑張れよ。俺は降って来たみたいなもんだが、普通は絶対にこうはいかないだろう。

「じゃあ井上、さっさと食うか」

「そうだなー。はぁ、せめて俺にも可愛い従妹がいれば……」

 哀しい男の嘆きは優しさを持って黙殺し、俺は淡々と食事を進めた。

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「そろそろ、あたしの誕生日よね……」

「はい。遂に十六歳ですね」

「あたしには悠がいるから良いけど、もしそういう人がいなかったら、勝手に結婚相手を決められるなんてね」

「まあ、花鳥庵の仲間なら、誰とでも顔見知りなので良いではありませんか。後押しをしてくれる決まりだと思えば」

「でもねぇ……もうちょっと自由を与えてあげても良いものじゃない?」

「我々は人に混じって生きようとしても、弱い立場であるのは変わりませんから。仕方がないですよ」

 悠の部屋。さすがに三日連続で深月が出かけることはなく、今日は布団を敷きっぱなしにしてずっとごろごろしている。

 そうして何をするかといえば、携帯ゲーム機でずっと木樺と協力プレイ。さすがにゲーム内でも息の合ったプレイを見せるが、少女とメイドが雑談をしながら、その場から動かずにゲームし続けているというのも寂寥感のある図だ。

「でも、閉じた社会をいつまでも維持しているだけ、というのも未来がないじゃない?やっぱりこう……現状維持に甘んじるんじゃなく、アクティブに行くべきと思うの」

「現状維持に甘んじない、ですか。ふふっ、姫様もやっと、我々の長らしく未来のプランを考えられて、私は嬉しいですよ」

「別に、あたしも今まで何も考えずに生きて来た訳じゃないわよ。お父様もお母様も、もういないんだし……」

「しかし、これから姫様が長であり続ける期間は長いですよ。寿命が伸びたことは、責任を背負い続ける時間が伸びたことも意味しますから」

「え、ええ。頑張るわ。色々と」

「色々と、ですか」

「まだ良いでしょう?細かいことは決めなくても」

「もちろんです。もうしばらく、モラトリアムを謳歌されてください」

 現在、花鳥庵には主が不在であり、後継者たる深月はまだ正式には親の跡を継いではいない。その状態にも関わらず、コミュニティの崩壊の危機を迎えることもなく存続しているのは、元来、花鳥庵に住む誰もが互いを愛し、決して争うことなく暮らして来ているからだ。それゆえに、今のままを保つことは難しいことではない。

 上に立つ者が折角出来上がっているものを壊してしまうことなく、最低限の指示だけをしていれば秩序は守られる。問題は、そのままでは将来性がない、ということだ。それには恐らく、その中で暮らす誰もが気付いている。

「姫様。姫様は急がれる必要はありませんが、どうか、野心ある長となってください。それがきっと、亡きご両親の願いでもありますから」

「……野心、ね」

「まあ、姫様は生まれついてのわがま……帝王気質ですから、問題はないと思いますが」

「ど、どういうことよ?あたしは、あんた達に甘やかされて育って来たのよ。仕方ないじゃない」

「そうですね。その責任を他に求める辺りも、暴君としては最高の素養でしょう」

「けなしてるわよね?」

「まさか。これ以上がないというほど、称賛していますよ」

「はぁ……」

 溜め息と共に、最後の一撃を放って今回の目標を討伐する。ちなみにゲーム内での役割は深月が前線で戦う剣士、木樺が後方援護を担当する弩弓使いとなっている。木樺はほとんど無傷であり、深月はサポートされているというより、身代わりにされているような形だった。

「あ、今回の報酬は当たりですよ」

「散々、あたしを利用して得た報酬ね……」

「良いではありませんか。協力プレイありきのゲームなのですから」

「あんた、前に出て戦うつもりはないの?」

「前線なんて、ダサいだけではありませんか。私は遠くからクールに決めるのです」

「リアルでは、刀で思いっきり近付いて戦うタイプだけどね」

「反動が出ているのですよ……。私も、こんな血生臭い女になるのは嫌でした」

 芝居がかった口調で木樺は嘆き、劇のようなやりとりが始まる……ことはなかった。深月が機械的に次の依頼を選択し、そのまますぐに戦闘が開始される。

「望んで剣を学んだくせに。今じゃ誰よりも腕が立つんだし、前に誇りだって言ってたでしょう」

「それは……姫様に死なれる訳にはいきませんから。他の誰かに任せるより、私自身の手でお守りしたかったのです」

「こんな時だけ、本気になるのね」

「えっ……」

 にやり、と口の端を吊り上げた深月に対し、虚をつかれたように木樺は微笑みを消し、真顔になる。

「頼りにしてるわよ。あんたはあたしだけの護衛なんだから」

「な、なんですか。そのしてやったり、とでも言いたげな顔はっ。姫様のくせに私を出し抜いたみたいな雰囲気になって、得意にならないでください!」

 ぼっ、と火が灯るように木樺の顔が赤くなり、めちゃくちゃなことを喚き始める。ゲームを投げ出し、リアルに殴りかかって来そうな勢いだ。

「もう、そんなことしてる間に死ぬわよ?」

「報酬を減らされることが怖くて狩りなんて出来ませんよ!」

「あたしの取り分も減る訳だけど……」

「むしろ、望むところです!」

 

 悠が本気でプレゼントを悩んでいる時、当の本人は従者と多いに白熱していた。ゲームの中で。

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「深月に似合う靴、か……」

 結局、それっぽい店に入って探し始めたのは靴だ。

 服は多分、本人が選んだ方が最適な物を買えるだろうし、アクセサリーなんかはもろに本人の趣味が出る代物だろう。ついでに言えば、俺はあまりアクセサリーをじゃらじゃら付けている女性は好きじゃない。かと言って、大人しめの髪飾りだけではあまりに安っぽいし、ともなれば自然と靴が一番手軽に思えてくる。

 今、深月がはいている靴はシンプルなローファーだ。女子高校生なら、大体が同じような物を持っている。

 それはそれでよく似合っているのは間違いないが、どうも高級感が足りていないというのも事実。深月は花鳥庵の長だし、姫様と呼ばれ、木樺さんにかしずかれる身分だ。もっとこう、カリスマ溢れる靴をはいていても良いだろう。

「となると、やっぱりブーツになるよな」

 黒や茶色の革のブーツは、どれもそれなりの高級感と、相応の値段を備えている。ブーツと一口に言っても色々あるらしく、紐のブーツ、ベルトで固定されたブーツ(エンジニアブーツと呼ぶらしい)、厚底のブーツ、ハイヒールのようなブーツと、本当に様々ある。

 足のすらりと長い深月なら、どれをはいても格好良くはきこなせそうだが、装飾等も視野に入れて最適な物を選びたい。

 色は、やはり髪の色と同じ黒が良いだろう。やっぱり深月には無彩色が似合うと思う。最大の問題が、その形であって……少なくとも、あいつの身長からして厚底は必要ないだろう。それぐらいしかわからない。

 消去法を実行しようにも、どれもこれも似合いそうで、この場に深月を連れて来て、片っ端から試着させたくなってしまう。いっそ「どれでも好きなのを買って良いぞ」なんていうベタな展開に持ち込もうとも考えるが、どうせならやっぱり、サプライズのプレゼントとして贈りたいと思い直す。

 どれだ……どれが似合う。可愛らしさを前面に出して、リボンの装飾のあるブーツ?それとも、クールにこの、エンジニアブーツか?いや、ここは大人っぽさでヒール系を選ぶのもありに思える。いや、何よりもシンプルな…………。

 悩めば悩むほど、正解は遠ざかって行く気がする。時間もどんどん経って、何も買わないまま数十分が過ぎ去ってしまった。

 これだけ時間をかけても決まらないということは、この店にはしっくり来るものがないのかもしれない。諦めてビルを出ようとすると、一人の女性が目に留まった。俺と同じ大学生だろうか。どうして目が行ったのかと言えば、深月と同じように長身で、足の長さが特徴的だからだ。

 その女性はブーツではなく、いわゆるパンプスをはいている。タイトスカートともあいまって、すごく大人っぽい、キャリアウーマンのような印象を受ける。深月に似合うかどうかは別だが、何もブーツに固執する必要はない気がして来た。

 とりあえず明日は、他の店を当たってみよう。どうせこの都会には無駄にファッション関係の店がいくつもいくつもある。どれも大差ないかもしれないが、俺はまず女性物の靴の勉強から始めるべきだろう。少しでも多く経験を積んでおきたい。

 帰路に就こうとした時、再び俺の足を止めるものがあった。声だ。小さいのによく通る、特徴的な声――。

 

『我は鷲。我は鷹。また、我は鴉。我は賢者などではない。我は堕ちた御使い。我は密猟者。我は誅殺者……』

 

 どこから聞こえたのかはわからない。ただ、無視することの出来ない女の声だ。

 こんな街中で意味のわからないことを唱える時点で普通じゃないのはわかるが、気になるのはその内容。鳥の名前を並べており、その中には深月と同じ鴉も含まれている。そしてそれに続くのは、どれもあまり穏やかとは思えない職業か、肩書きのようなものばかり。どうも不吉な予感がしてしまう。

 建物の中ではないらしいので、急いでビルを出ると、またもや声。遠ざかってはいないが、近付いている気もしない。

 その声に踊らされるようにあちこちを探し回り、少しでも近付こうとするが、一向に声の主は見つからない。そして、十分ほどさまよって気付いた。そもそも、人を探している時点で無駄なことをしていたのだということに。

『ほー、やっと気付いたか』

 声の主がいるのは、俺の真上。と言っても遥か上空なのだが、その特徴的な声は遠くからでもよく聞こえた。どういう訳なのか、その鳥は人の姿にならなくても、俺にわかる言葉で話しかけて来ている。

「ああ。俺に何の用だ?」

『場所を移そう。適当な公園にでも行ってくれ』

「わかった」

 人ごみの中に鳥が降りて来る訳にもいかないのだろう。怪しい奴には代わりないが、言う通りにしてやる。

 足が向いた先は俺のアパートの近くにある児童公園。いざとなれば、すぐに家まで逃げ帰ることも出来るような場所だ。

「もう良いだろ?」

『うむ、すぐに下りよう』

 老婆のような声で応えると、そのずんぐりむっくりとした、しかし鳥らしいしなやかさも併せ持つ鳥は優雅に降下して来た。

 こういう鳥は二種類いるが、こっちは確かフクロウだ。ミミズクなら耳のような羽が頭にあるからな。

「俺に何の用だ?」

『そう急くでない。今、人の姿になろう』

 鳥の姿が一転して、俺達と同じような人間になる。もう見慣れた光景だ。そうして姿を現したのは、賢者という言葉の相応しい老婆……ではなく、どちらかと言えば木樺さんや俺の年齢に近い、妙齢の女性だ。

「若っ……」

 思わず声が漏れる。フクロウという鳥のイメージ、そしてさっきまでの鳥の姿でのしがれた低音から、てっきり老齢だとばかり思っていた。

「そのように驚くことかの?主は今まで、いくらでも鳥の化身を見て来たはずじゃ」

「いや、カラスやスズメは、なんとなく若々しいイメージがあるからな。……って、声とか口調がさっきまでと変わってないか?」

「仕方のないことじゃ。さっきまでわしは、念話。つまり心の声で話しておった。心で思う言葉と、実際に口から出て来る言葉が違う、ただそれだけのことをそう気にすることもなかろう。……まあ、雰囲気を出すためにわざと声音と口調を変えていたのは事実じゃが」

「そ、そうだな……」

 しかし、若々しい女性にこの口調はあまりに似合わない。声もどちらかと言うと高めなのに、それが台無し……ではないが、違和感が半端なくある。

 更にその容姿は、フクロウのずんぐりむっくりとした体型をそのまま投影されているのか、全体的に肉付きの良い体だ。ただ、太っているという訳ではなく、肉が付いているのは胸や二の腕、太ももといった魅力を感じる部分であり、単純な胸の大きさを比べると深月以上だろう。ただ腰もやや太いのでスタイルの良さではどっこいどっこい、と言ったところか。

 髪の色は人間としては珍しい銀。白や銀の毛並みのフクロウはテレビで何回か見たことがあるので、鳥的にはそう珍しくもないのだろう。瞳は髪の色と対照的な金で、これもまたフクロウにはよくある色に思える。

「……わしの体を観察するのは良いが、何か失礼なことを考えなかったか?」

「な、何を」

「梟の体はしぼんだりもするものじゃからの。何か服に詰め物しているのでは、などと考えてはいまいな」

「いや、そんな訳ないだろ。と言うか、本題の前にいきなりそんな話なのか?」

「ほほっ、わし流の冗談じゃ。安心せい、わしの胸は生乳じゃからな」

「どう返せば良いのかわからないことを言わないでくれ」

 ――本当、木樺さんにしてもそうだけど、一定以上の年齢の鳥の化身というのは、会話を成り立たせるのが大変に思えて仕方ない。

 だけど、基本的に鳥というのは下ネタが好きなものなんだな?俺は勝手にそう定義付けるぞ。

「で、本題は」

「うむ。そうさのう、どこから話すべきか」

「多分、全部話してもらった方が良い。俺はまだ、あんた達のことを全く知らないと言っても過言じゃないからな」

「そうか……とりあえず、お主は今、花鳥庵の者と暮らしておる、というのは事実じゃな?」

「ああ。まだ数日だけどな」

 今の馴染み方を見ていると、何年も前から一緒にいるみたいだが、まず俺が一人暮らしを始めたのがこの春からなんだし、大学生になってから時間の流れがゆっくりと感じられるようになったのかもしれない。……俺も年を取った、のだろうか。

「では、花鳥庵以外の鳥や動物の化身についての話をすることになるのぅ」

「そういや、あんたは花鳥庵には来ないのか?」

「ほう、面白いことを言いおる」

「……そうか?」

 いまいちどこがおかしいかわからないんだが、今に始まったことでもないか。向こうは向こうで色々考えていることがあるのだろう。

「わしは梟、猛禽じゃぞ?わし等が何を食うか、知らぬ訳でもあるまい」

「そんなの……虫か魚じゃないのか?」

「半分は正しい。が、もう半分は鳥じゃ。雀や鶉……今の時代、わし等を飼おうとする人間も多いからの。その辺りのペットショップでも、それ等の小鳥は餌用として売られておる」

「スズメ、か……」

 それが花鳥庵にいられない理由と言われても、納得が出来てしまう。前に聞いた話だと、花鳥庵の住人の大半はスズメやツバメといった、小さな鳥ばかりだった。……いくら同じ鳥類でも、同族を主食とする相手を迎え入れる訳にはいかないか。

「まあ、それは良い。なんとなく気付いているかもしれんが、わしは正にペットとして輸入された梟の成れの果てじゃ。尤も、正規のルートではなく、密輸だったようだがの」

「逃げ出したのか?」

「いいや、一応は人に飼われておった。しかし、わし等は長生きする鳥じゃ。飽きたのか、世話に疲れたのか、逃がされた。……こんな都会に一羽だけで、の」

「……無責任だな」

「全くじゃ。しかし、この街にはわしと同じように逃がされたペットの動物がいくらでもおる。人が多ければ、そのペットもまた多いということじゃな。そのようなわし等は、花鳥庵とはまた別な共同体を作り、やはり二十年ほど暮らしおった。猛獣、珍獣ばかりのやや殺伐としたものだったがの。――その中に一人、変わり種がおってな。そやつは少し、人を憎み過ぎていた。どうやらそれが昨日、遂に凶行に及んだようでな」

 昨日――あの事件、か。

 都会ではそれほど異常な事件ではないかもしれない。でも、具体的にどの事件かを説明されなくても、彼女が何のことを言っているのかは予想が付いた。それほど、俺にはあの事件が衝撃的だったのかもしれない。

「それって、ビルの前の――」

「うむ。勘が良いことじゃ。わしが実際に確認した訳ではないが、全ての状況が語っておる。まさか、本当に殺人が起きてしまうとは、わし等も考えてなかったのじゃが……こうなると、何が何でも責任を取らねばなるまい」

「責任って、あんた達が捕まえてくれる、ってことか?」

「尽力するつもりじゃ。取り押さえるだけではなく、粛清も必要かもしれんが――それで、じゃ。お主に話しかけた理由はこれからだ」

「ああ、そうだったな」

 別に俺は、昨日の事件の詳細を聞くために彼女と話していたのではなかった。向こうの方で俺に用があって、声をかけて来たのだろう。聞ける話がどれも面白かったので、ついつい聞き入ってしまっていた。

「事件を起こしたのは、狼の化身。三芳四狼(しろう)という赤茶色の毛並みを持つ狼じゃ。種類としては、タテガミオオカミという、大型の狐のような狼で、やはり密輸されて来た。理由をわしは知らんが……人も憎んでいるが、他の動物もまた憎んでいる節がある。お主や、お主の同居人を襲わぬとも限らない。家に帰ったら、注意するようによく言って聞かせてくれ」

「深月……花鳥庵の住人を襲う理由があるのか?」

「今のあやつには、世界の全てが憎らしく見えておることじゃろう。理由など必要なく、ただそこに自分以外の生き物がいる、それだけで殺しの理由となりかねない。わしが直接話をしに行くのも難しいからの。花鳥庵の方にも連絡するようにしてくれ」

「わかった。もし、俺達がその、三芳四狼に会ったら、どうすれば良い?」

「危険と判断したら、逃げてわしを呼んでくれれば良い。もし大丈夫そうなら交戦し、その結果、命を奪うことになっても咎めはせん。あれは最早、狂狼に過ぎんからの。しかし、どの道わしに知らせてくれると助かる。あれの面倒は、やはりわし等が見るべきじゃからな」

 それが、かつての仲間だったことの責任、なのだろうか。狂気に走った同胞に対する、最後の仲間意識なのかもしれない。

「連絡するって言っても、そういやまだあんたの名前も聞いてなかったな。俺は五十公野悠だ」

「五十公野、変わった苗字じゃの。わしもまた稀有な字を書くが、自分で決めた名じゃ。梟奥(きょうおく)御園という。携帯電話の番号も教えておくから、同居人にも教えておいてもらいたい。四狼のこと以外でも、個人的に訊きたいことや、何か思うところがあったら、遠慮せずに電話なりメールなりしてもらって構わないからの」

「伝えておく。俺の方でも、疑問があったらすぐに連絡するようにしよう。えっと、梟奥と御園、どっちで呼べば?」

「御園、と名前を呼び捨てで良い。わしも悠、と呼ばせてもらおう」

「ああ、それで良い。じゃあ、御園。また今度」

「うむ。そちらの姫君は随分と気が強いと聞き及んでいるが、決して無理はしないよう、従者も、お主も、よく目を光らせておいてくれ」

「……あいつ、屋敷の人以外にも有名なのか。――わかった。死ぬほど気を付けておく」

 携帯のプロフィールを受け取ると、御園はフクロウへと姿を変え、そのまま夕暮れの空に消えて行った。その姿は、やはり丸い体には似合わないほど優雅で、雄々しい猛禽類の風格がある。

 落ちて来る銀色の羽を見つめながら、そんなことを思った。

-9ページ-

「やっぱり、人外の仕業だったのね」

 家に帰って食事を終えて、御園の言っていたことを全て伝え終えると、深月はうんうん頷いた。

「知っていたのか?」

「私達が雨に降られて家に帰る途中、あの事件現場に立ち寄ったのですよ。雨に臭いをかき消されそうでしたが、なんとか下手人が人ではない、動物の化身であろうということは突き止めていました」

「肝心の相手には撒かれたけどね。地面に這いつくばっている獣に一杯食わされるなんて、屈辱でしかないわ」

「しかし、中々に興味深い話です。密輸されて来た動物……つまり、土着ではない野生の動物のコミュニティがこの街に存在しているとは」

 考えてもみれば、ただ輸入されて来ただけでは野生化し、互が身を寄せ合って暮らすようなこともない。御園も言っていたことだが、この街にいる数十万という人間の中には、自分勝手な奴も、動物の命を何とも思わない奴も、いくらでもいるのだろう。だから、その「被害者」もまたいくらでも増えてしまう。

「その犯人は、加害者であって、被害者なんだろうな」

「どんな理由があっても、被害者であって加害者です。それを許さないのは、人の社会でも同じでしょう?」

「ま、まあ、そうですけども」

 さすがに木樺さんの顔から笑みは消えていて、その瞳は静かで、鋭い。

 実際に人が一人殺されているのだから、その反応は当然かもしれないが、俺には何か別な理由がある風に感じられた。動物の化身が犯す罪そのものを憎んでいるような――。全ては憶測だが。

「もちろん、私が処遇を決めるのではなく、姫様と婿様の決定に従いますが。姫様はどうお考えですか?」

「どうって……いくら人を殺していても、死を死で償うことが出来るとは思えないわ。生きて、償いをさせるべきよ。普通の人と同じように」

「一人殺したぐらいでは、数年すれば再び社会に出て来るでしょうが……それでも、ですか?」

「今度は、その、御園達が許さないでしょう?何にせよ、殺してそれで解決、なんて短絡的な解決はただの動物や鳥がすることよ。あたし達はもう、理性のある生き物なのだから」

「なるほど。……婿様も同意見ですか?」

「あ、ああ」

 驚く、なんて表現は深月にとって失礼だろう。でも、頭を揺さぶられるような衝撃と、水をぶっかけられるような、目を覚まさせられる感覚が同時に襲って来ていた。

 当事者ではないから、感情的な意見を出さずに済むのかもしれないが、散々、犯人は狂っている、世界そのものを憎んでいる。そんな風に聞かされていた相手に、ここまで理性的なことを言えるなんて。しかもそれが、死刑制度のある日本に長く住んでいる人間ではなく、つい最近になって人の社会に入って来た鳥の、世間知らずな姫の口にしたことだとは。

「では、私も可能な限り捕縛優先、ということを念頭に置いて行動させてもらいましょう。もちろん、姫様や婿様のお命をお守りすることが私の使命。それを達成するための唯一の方法が、相手の殺害であるならば、それをためらうことはありませんが」

「ええ。それはわかっているわ。もちろん、そいつで会わないのが一番なんだけど」

 どうもこんな話をしていると、このまま平穏無事でいられるような気もしない。考え過ぎなのかもしれないが、深月が花鳥庵の長だという話は、そこそこに有名な話なのだろう。狙われる危険性がない訳ではないようだ。

 深月の誕生日プレゼントもさっさと決めて、あまり外を出歩かないぐらいの対策はしておくに越したことはない。まあ、それに難航している訳で――もう少し、木樺さんに深月の好みを訊いてみても良いか。

「まあ、今の段階からあれこれ考えていても、仕方ないわね。実際に会ってみて、何かわかることもあるかもしれないし、とりあえず木樺、お風呂でも入りましょう」

「その行き当たりばったりな感じ……私は嫌いではありませんけどね。では婿様、お先に失礼します」

「あ、はい。それから木樺さん――」

「なんでしょうか?」

「ちょっと良いですか?あ、深月は先入ってて」

「え?ええ。着替えの準備お願いね」

 明らかに不自然だが、風呂から出てからだと、なんとなくタイミングを逃しそうな気がする。今の内に訊いておかないと。

「深月のプレゼントのことなんですけど」

「はい。もう決まりましたか?」

「いえ、とりあえず靴にしようかと思ったんですが、何かあいつが好きなデザインってありますか?編み上げが良いとか、リボンの付いてるのが良いとか」

「靴ですか……残念ながら姫様は、あまり足元にまで頓着される方ではありませんからね。そもそも、屋敷の中にばかりいたので、靴をはいた機会自体が少ないですし。そんな姫様ですから、人の作る靴は全てが珍しく、何でもお気に召すのでは?」

「う、うーん……もっとこう、明確な回答が欲しいんですけど。なんとなくのコンセプトというか、こういうのが好み、という傾向みたいな」

「まあ……そうですね。姫様は結局のところ、鴉の化身ですから。婿様達がご存知の通り、光り物は大好きです。ファッション関係で言えば、シルバーや宝石類ですね。靴にそれを求めるのは難しいかもしれませんが、人の世は広く、ここはその広い世界の物が集まる都会ですから、お目当ての品が見つかる可能性は、決して低くはないでしょう」

「な、なるほど。ありがとうございます」

「いえ。では、早く行かなければ姫様が心配されてしまいますので。失礼します」

 頭を下げると、すぐにスズメになってばっ、と行ってしまう。フクロウのそれよりはずっと素早く、あっちが優雅なら、こっちはすばしこい、という表現がしっくり来るだろうか。

 ――なんて考えるのは良いが、光り物か。今更金の話をするなんて、男として小さいと思わざるを得ないが、銀でも宝石でも、相応の値段は取られるはずだ。肝心の品を見つけても、資金不足という最悪の場合が想定される。

「緊急で仕送りを前借りする必要もあるかもな……」

 親への電話の口上を考えながら、今夜もまた深月の裸を見ないように風呂場に背を向ける俺だった。

-10ページ-

 

 

 

 まだ足りない。

 肉を穿つ感触。生温かい血の感触。生が死へと変わる感触。

 者が物への変貌を遂げる瞬間。

 一度は満たされた渇きが再び暴れ出す。

 これが野性。これが狂気。これが宿命。

 これは審判。これは粛清。これは聖戦。

 ゆえに次の獲物を探す。

 ゆえに次の犠牲を探す。

 肉を穿つ感触。生温かい血の感触。生が死へと変わる感触。

 渇望は切望。切望は絶望。絶望に与えられる希望。

 今日もまた歩く。

 色を失くした街。

-11ページ-

 

 

 

 今朝もまた、何か気になる夢を見た気がした。

 日付は一気に三日進み、いよいよ今週末が深月の誕生日。もう時間はあまりない。

 結局、プレゼント探しは依然として難航中だ。親にかけ合ったところ、なんとか金は工面出来そうだが、肝心の品物がない。

 ない物はいくら金があっても買えないので、狭い伝をつたい、ネットを巡回し、色々な店に電話をかけて……それでも、これという靴は見つからなかった。

 そろそろ疲れても来るし、あれから新たな事件は起きていないが、それが逆に怪しい。次に狙われるとしたら、俺か深月。これは自意識過剰の杞憂なのだろうか?出来ればそうであって欲しい。

「おはようございます、婿様。苦労なされているようですね」

「ああ……はい」

 布団から起き上がると、木樺さんが本気で心配そうな目を向けてくれた。

 この三日で、彼女の態度もかなり軟化して来た気がする。俺を深月が恋する男、ではなく、五十公野悠という一個人として見てくれているようだ。

「私ごときが出過ぎた真似をするようですが、一つ意見をさせていただきますと、既存の品で用意することが困難であるのならば、これから誰かに作っていただく、というのはどうでしょうか」

「作ってもらう、ですか?でも、誰に……」

「この街には芸術大学や、デザイナー学校がありましたよね?もしそういった学校に婿様のお知り合いがいらっしゃるならば、その方に一つ注文をされてみては?もちろん、今から靴を一組こしらえていては間違いなく誕生日は過ぎてしまいますが、姫様は多少の遅れには目を瞑ってくださるようなお方だと、私は存じ上げています」

「芸術大学か……そういえば」

 高校の時に二年間同じクラスだった、長濱という奴が丁度、そこに進学していたはずだ。あいつも俺と同じく、あんまり人付き合いをしない奴だったが、それだけに気が合ったのも確かだった。

 ただ、色々と気難しい奴だし、自分のするべき課題で忙しくしているだろう。タダでやれとは言わないつもりだが、たった二年友達だっただけの奴の依頼を受けてくれるかは微妙だ。

「心当たりがおありでしたか」

「まあ……一応、当たってみます。でも、遅れるなら遅れるで、とりあえず何か簡単なプレゼントは用意しておいた方が良いですよね」

「それは、もちろん。お菓子でも、何か面白い文庫本でも、祝福の言葉と共にお渡しして差し上げるべきでしょう。……ふふっ、婿様も徐々に、乙女心というものを理解されて来たようですね?」

「いや、まあ、そうですね」

 突然の同居生活の賜物、だろうか。人と大きく価値観が違うように思えた深月も、よく見ていればちゃんと「女の子」をしていて、ただちょっと誘い受けが過ぎるというか……変なところが積極的なだけだ。

 それがわかれば、俺も段々と彼女が喜ぶこと、悲しむこと、怒ることを見極め、一番彼女に嬉しいと思ってもらえることをしてあげることが出来るようになって来た。まだその、乙女心という奴の全貌を完全に把握することは出来ていないが。

「婿様がお優しい方だとは、姫様がいつも仰っていることですが、婿様と共に暮らしていると、それがよくわかります。普通、こんなにも早く私や姫様が男性と打ち解けるなんて、あり得ないことなのですよ?紳士とお呼びするには少し武骨ですが、その言葉が似合う好青年であると、少なくとも私は評価させていただいております」

「え、ええ?あの、木樺さん。いきなりそこまでデレられると、俺の方でも困惑してしまうんですが」

「誰もが当たり前に抱く印象ですよ。まず普通の男性が、彼女のために三日も足を棒にして誕生日プレゼントを探し回るでしょうか?」

 他のカップルのことなんて知らないから、推測することしか出来ないが、俺はそれが普通だと思う。でも、それがこの日本という国のスタンダードかと考えれば、微妙なところだ。少なくとも、電車の中なんかで見るブロンド頭の馬鹿笑いする男は、そうではない気がする。

 そうかと言って、それを若者代表にするのなら、この国に黒髪の男性はほとんど存在しないことになるだろう。やはり大多数は誠実なのが日本という国の特色なのかもしれない。なら、俺は普通の一般的な男だ。――その普通が、あるいは一番好ましい性質なのか?

-12ページ-

 大学の空き時間に、早速長濱にメールを送る。

 向こうも大学にいるのは間違いないが、また自分が暇な時にでも確認してくれるだろう。とりあえず文面は以下の通りだ。

 

『久し振り。お前、服のデザインとかの勉強をしてるって言ってたよな?それで一つ、頼みたいことがある。出来れば大学終わってからにでも会いたいから、またメールくれ』

 

 相変わらず、全くもって素っ気ないメールだ。もう少し絵文字とか、砕けた言い回しを入れても良いんだろうが、メールとリアルのギャップがあると笑われたくないので、話し言葉そのままだ。現在日本はおおよそ言文一致の文章を書いているのだから、これで良いだろう。

 一時間空きがあるので、涼しい図書館へ逃げ込もうとすると、意外にもすぐに返信があった。

 

『久し振り。確かに今、芸大のデザイナークラスにいるけど、はっきり言ってまだ見習いだぞ?それでも良いなら、喜んで受けるけど……。とりあえず、そういうことなら一度会おう。今日の授業はいつ終わる?ちなみにこっちは四時半だ』

 

 俺のメールを上からそのままなぞったような文体。本当に俺とよく似た奴で、多分これもわざわざ似せたのではなく、無意識で打ったらこうなってしまったのだろう。そうすると、俺と長濱が知り合ったのも必然な気がして来る。

 まあ、それは良いとして、話は聞いてくれるみたいで助かった。俺も同じぐらいの時間に終わるから、五時ぐらいに会うようにしようという旨を送り、今度こそ図書館に向かった。

 

 良くも悪くも、待ち合わせ時間通りに長濱は駅前の公園に姿を現した。容姿はと言えば……特徴はない。軽く茶色に染めた短い髪の、小柄な奴だ。アーティスティックな人間が変人ばかりかと言えば、実際はそこまでぶっ飛んだ奴はいない訳で、長濱もそうした地味なアーティストの一人だ。ただ一つ特異な点があるとすれば――。

「ごめん、待った?」

「ほんの少しな。別に気にするな」

「よかったー。わたし、大学で遅刻することが様式美、とか言われちゃってるの」

「高二、高三と見て来た身としては、弁護の余地はないけど、今回は遅れなかったから良いだろ?」

「そうだねー。いやー、本当によかった」

 長濱実(まこと)の性別は女だ。メールの文面は男っぽいと言うか、書き言葉は実に雄々しいのだが、喋り言葉は語尾を延ばす癖のある、おっとりとした女子そのもの。文章を書く時とのギャップの理由は、小学生の頃、喋り言葉をそのまま作文に書いたら、先生にちゃんとした文体で書くように教育されたから、らしい。今思えばその時点で芸術家気質が出ていたのだろうに、可哀想なことを教育されたものだ。

「それで悠君。どんなお話?」

「ああ。お前今、服飾をやってるんだよな」

「うんー。わたしの専門はどちらかと言うと服よりアクセサリー、特に宝飾寄りだね」

「そうか!……それなら話は早い。お前に一つ、作って欲しい物があるんだ」

「あ、でも本当、メールに書いたようにまだまだなんだよ?ガラス工芸の授業とかも受けさせてもらってるけど、中々思い通りの物が出来なくて……ううん、そうじゃない。わたしは多分、まだ自分の作りたい物のテーマが決まっていなくて、環境もまたわたしの思い通りにはなっていないの。わたしはきっと、既存の枠に縛られずに――」

 演劇の人間のような調子で、小説の人間のようなドラマチックな台詞を話し始める。普通に話していれば気の良い奴であるこいつが人との交流を断っていた理由は、これだ。あまりに芸術に熱い自分だけの考えを持っているせいで、一般人とは話がまるで合わない。付き合いきれたのは、どんな奴でも適当に受け流している俺くらいだ。そして、よく話を聞いていると面白い奴だというのがわかって来た。

 だから、なんとなく人付き合いを苦手としていた俺とは違い、周りの方がこいつを苦手としていたという、また別個のケースだ。だから、おっとりしているようでかなり気難しい。そして今回は、正にこいつの腕を振るってもらう話なのだから、難航することは覚悟しないと。

「それでも良い。お前のセンスが並大抵じゃないのはわかってるからな。上手い下手とかいうより、こういうのは気持ちの問題だろうし……」

「もしかして、大事なお話?」

「大事と言えば、大事だ。俺の大切な人に、お前の作品を贈りたい。いや、プロボーズとかじゃないんだが」

「なるほどー。それはまた、大きな話が舞い込んで……え、えぇー!?」

「物怖じする気持ちはわかる。でも、普通の品物はどれも違う気がするんだ。だから、お前の手を借りたい」

 誰にも訊かれていないのに、恥ずかしさからプロボーズとか口にしたから、余計に話がややこしくなってしまった気がしてならない。長濱の顔は真っ赤になったり、急に真っ青になったり、よくわからないことになっている。

「そそそそ、それってもしかして、わたしに……」

「いや、それはない。どうしてそうなった」

「な、なーんだ……。びっくりしたなぁ!」

「だから、一言もそういうことは言ってないだろ」

「そ、そうだよね。えーと、もしかして彼女さん?」

「………………」

 今度は俺が言葉を失ってしまう。いや、さっきの長濱はむしろうるさかったが。

 彼女。今の俺と深月の関係は、きっとそれが一番正しい。ついでに言えば、ほとんど婚約者みたいなものだが、これ以上話をややこしくする必要もないな。

 でも、それをいざ口に出すとなると、ものすごく恥ずかしいのは俺だけではないだろう。公開処刑にも近い、恥ずかしさと緊張が襲いかかって来る。

「一応、そうなる。まだ付き合い始めたところだから、初めての誕生日プレゼントなんだ」

 言って、しまった。

 後悔にも似たさざなみが胸の中に立つ。そしてこの気持ちはしじみの味噌汁のような……くっ、心が乱れに乱れて、訳のわからないモノローグしか出来ないぞ。

「誕生日プレゼントに、わたしの作品を?本当に、それで良いの?本当、お粗末なんだよ?」

「あんまり謙遜するなよ。……と言うか、さっきから全然話が進んでないし」

「う、うー……」

「頼みたいのは靴なんだ。観念して、受けるか受けないかだけでも決めてくれ」

「靴――わたしは専門外だけど、仲の良い先輩が実際に既にいくつか靴をデザインして、自作もしているから、その先輩と合作、ということなら十分出来る、かな。悠君がわたしで良いと言ってくれるなら、それを断るつもりはないよ。でも、一つだけお願いして良い?」

「……金は、それなりに用意しているぞ」

「ううん。お金じゃないよ。タダでいいもん。

 ここからはわたしの考えのお話なんだけど。わたし、アクセサリーにしても服にしても靴にしても、オーダーメイドとして作る以上は、身に着けてもらう人に一番似合う、一番気に入ってもらえる物を作りたいの。だから、女のわたし相手に嫌かもしれないけど、その彼女さんのこと、色々と教えてもらえないかな?見た目、性格、出来れば簡単な家族構成とか、趣味とか、好物も。もしまだ知らないのなら、それを訊いてもらう必要も出て来ると思うけど、絶対にここだけは譲りたくないの。――それが、わたしがお仕事をお受けする条件です」

 最後の一言を言う時、長濱は腰に手を当て、背伸びをして見せた。高校三年にしてやっと百四十センチを越した小さな体を、めいっぱい大きく見せて大人ぶっているようだ。

 その仕草はコミカルだが、自分の仕事への考えは全て本気のもので、こいつの内に秘めた熱さがにじみ出ている。俺は芸術家じゃないが、やっぱりこいつは信用出来る。今まで選択肢から除外していたのが馬鹿みたいに思えるほどの、最高のアーティストに違いない。

「わかった。お前のことは信用しているし、協力は惜しまない。……頼むな」

「う、うん。えへへ、なんかこういうの、恥ずかしいねー」

「お前が格好付けて言ったのにな。じゃあほら、写メが……」

「おー。悠君の彼女さん、本邦初公開だね。ちゃんと見たいから、わたしの携帯に送ってね」

 深月の写真は、確かに携帯の中に入っている。あの濡れ透け写真以降も、深月は頻繁に自分の写真を木樺さんに撮ってもらって、それを俺に送っているからだ。

 でも、どれもこれもこれでもか、と言うほど深月の色気やら、際どい格好やらを撮ったものばかりで、参考になるかと言えば微妙な線であり、そんなエロ写真を幼児体型の長濱に見せて良いものか、それも懸念すべき事柄だろう。深月のスタイルが良いのは仕方ないこととして、それを見せ付けるような写真を渡すのは、その気がなくても嫌みのように思われかねない。

「あー、ごめん。良いのがなかった」

「写りが良くなかったりしても、全然いいよー?むしろ自然体の方が参考になるんだし」

「いや、その自然体がないんだ。どれもこう、ポージングをしていると言うかな……」

「あはは、モデルさんみたいに決めてるんだ。そういう時に格好良く見えるかも重要だし、とりあえず送ってみて。……あ、べ、別にわたしが悠君の彼女さんに個人的に興味あるとかじゃないんだからねっ」

 なぜにツンデレ調なんだ。勝手に話す癖がある奴とはいえ、重症化している気がするのは、芸大の影響だろうか。恐るべし、芸術家の園。

「じゃあ、仕方ないな。これはあくまで、お前のデザインのための資料だからな?他意を持って見るなよ?」

「もちろんっ。悠君が知ってる通り、わたしってプロ意識高いもん」

「言ったな?俺に文句とか言うなよ。絶対だからな」

 予防線を張りまくった後に、メールを送信する。チョイスした写真は、比較的普通なエプロン姿の写真だ。実は裸エプロンの計画もあったが、さすがにはしたないと木樺さんが止めてくれたらしい。

 でも、きっとメールを受け取り、画像ファイルを開いた長濱は……。

「…………!?」

 声なき悲鳴を上げていた。

 パクパクパクパク、魚のように口を動かしている。呼吸困難になっているのか?

「おい、長濱」

「ゆ、悠君」

「どうした」

「画像、間違ってるよ……?」

「どういう意味だ」

「だ、だって……。悠君みたいな普通の男の子が、こんな可愛いグラマラスな彼女を作れる訳ないじゃない!いくら数ヶ月会ってないからってわたし、こんなミエミエの嘘には騙されないんだからっ」

「いや、本物だからな。なんなら電話出来るし、新しい写真も送ってもらえるからな」

「神は死んだっ」

 今の世になぜかニーチェの名言が蘇り、へなへなと脱力したように長濱はベンチに座り込む。

 悪夢にうなされるように頭を抱え、実に失礼なことだ。……まあ、俺の努力とかじゃなく、昔助けたカラスがやって来た訳だが、そんなことを話したらそれこそ頭がおかしいと思われるだろう。

「悠君……もしかしてもしかするんだけど、今、家にいないよね?この人」

「それは――」隠すようなことでもないだろう。「その通りだ」

「人間は考える葦であるっ」

「倫理の時間に習った言葉を悲鳴代わりに叫ぶな。偉い哲学者の先生が聞いたら泣くぞ」

「泣きたいのはわたしだよー。悠君は絶対にリア充にならないって信じてたのに……」

「さらっと酷いこと言うな。俺が泣くぞ」

「泣けっ、叫べっ、それが我が愉悦なりぃぃぃ」

「じゃあ泣かないでおくか」

「それが良いよー。泣くのって地味に疲れるしね」

「お、おお。そうだな」

 こいつと話している時の、この独特の空気感も久し振りだ。恐ろしく支離滅裂だけど、なんとなく癒し効果があるような気がする。

 

 その後、なんとか長濱が欲しがっている情報を全て教えて、誕生日は過ぎて良いから、クオリティを高めてくれと念を押しておいた。もちろん、深月がカラスの化身であることは伏せたが、メイドさんがいるようなお嬢様ということまで教えることになった。

 何かこう、きらきらしているのが良い、という大雑把な注文もしたし、豪華な感じの物が出来上がることだろう。やっぱりそうなれば、代金を払わないとな。それを断られたら、せめて飯をおごるぐらいはしよう。

説明
鳥が人に姿を変えた女の子、というのは自分のかなり初期の小説にもあった設定です。その頃はまだもう少し設定が甘かったのですが
今回、そんな自分の原点ともいえるネタを活かして書いた小説で一歩前に進むことが出来たのは、とても嬉しかったです
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鴉姫とガラスの靴

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