IS x アギト 目覚める魂 30: G4-Mild |
秋斗は着替えている途中ドアの下に紙切れが引っ掛かっているのに気付いた。
『一夏君と生徒会室へ来て下さい。大事な話があります。』
差出人の名前は無いが、心当たりは一人しかいない。
「呼びに行くか。」
隣の部屋のドアをノックしたが、誰も出ない。ノブも回る。どうやら一夏が鍵をかけ忘れてしまったらしい。
「入るぞ。」
そして、一夏が寝ているのを見つけた。だが、一人だけでは無い。一人だけなら毛布があそこまで膨らむ筈が無いのだ。それで理解した。幸い今日は土曜日だ。誰かが来る心配も無いだろう。静かにドアを閉めて窓を開けて空気を入れ替えるとベッドを軽く蹴った。
「一夏、起きろ。」
のっそりと起き上がった一夏は髪の毛が彼方此方に跳ねた鳥の巣状態になっていた。
「あ、門牙さん・・・・」
「うっす。生徒会長からのご指名だ。俺は先に行くぞ。」
「はい・・・・」
秋斗は外に出ると先に生徒会室に足を運んだ。
「簪、朝だぞ。」
シーツだけを体に巻き付けて眠りこけている簪を揺する。
「ん??・・・まだ眠ぃい・・・」
「起ーきーろーって。」
グズる簪をひょいと持ち上げて自分の方に凭れ掛からせる。
「ちょっと用事があるから出るけど、出来るだけ直ぐに戻る。」
「分かった・・・・もう少し寝てる・・・・」
言っても聞かないだろうと一夏は思い、そのままにして適当に服を引っ掛けると生徒会室に向かった。
「それで、話って何ですか?」
「率直に聞くわ。貴方、簪ちゃんを何があっても・・・・そう、死んでも守れると言う自信はあるかしら?」
「何故?」
「良いから答えて。」
一夏は唇を軽く噛んで思案していたが、やがて口を開いた。
「死んでも、と言うのは無理だ。俺が死ねば、彼女は何をするか分からない。俺も、もし簪が死んでしまったらと考えたら・・・・いや、考えたくもない。俺はそう簡単には死なない。だが、簪は絶対に俺が守る。絶対にだ。」
「出来なければ」
「その時は、俺を煮るなり焼くなり好きにしろ。言い逃れを出来る様な事じゃない。それに、ある意味俺は一度死んでる。もう一度起こると言うだけの話だ。殺したければ殺せ。俺の生き様なんて所詮はハリボテみたいなモンだしな。失う物は・・・・殆ど無い。簪がいれば、たとえ世界がどうなろうが、俺は気にしない。彼女は俺にとっては失うには大き過ぎる存在だ。」
「・・・・・良いわ。信じてあげる。あの子の事、よろしくね?」
「はい。っ!?来た・・・・!」
「え?」
「一夏。今回はアレ使えよ?」
「はい。」
部屋の窓を開け放つと、コルウス・カルウス、コルウス・クロッケオの二体が空を飛び回っているのを遠目で視認した。左拳を右掌に叩き付けると、G4-X0を一部オミットしてアンテナを短くしたG4-Mildに姿を変えた。
「俺が先に撃ち落とす。」
『Initiate』
G4-X0を装着した秋斗もケルベロスIIを構えて窓から飛び出し、引き金を引いた。二体のクロウロードは被弾し、近くの森に落ちて行った。
「追うぞ。」
「了解。」
二人は窓から飛び降りて森の中に姿を消した。地面に倒れた二体のクロウロードに容赦無く弾丸の雨を浴びせた。
「一気に片をつけるぞ。これ貸してやるから。元々それは((G4-X0|俺))と共同戦線を張る為に設計された物だ。」
一夏に展開したGS-07Z ガルベルストンを渡した。
「はい!」
フルオートショットガンの威力はまさしく嵐の様だった。秋斗の方もケルベロスにコブラ、ヴァイパーを連結させたGXランチャーのケルベロスバスターを発射した。弾が続く限り引き金を引き続けた。
『グゲ・・・・』
クロッケオは最早虫の息だ。カルウスは既に倒されたのか、クロッケオの近くにクレーターが確認出来た。
「お前がやれ。ここは譲ってやる。」
「じゃ、遠慮無く。」
腰背面に装着されたGM-01Z タウラスを引き抜いた。それをカルウスのこめかみに当て、引き金を引いた。その威力は凄まじく、一夏は爆発の影響で思わず後ろに吹き飛んだ。
「お前なあ・・・・そんな事したらそうなるのは当然だろうが。まあ、ある程度データは集まったからよしとしよう。それは自動で小沢さんに送信される。」
『グケケケケ!!!!』
だが、突如空から一本の黒い槍が降って来た。間一髪で二人はそれを回避する。
「うお!?」
「危な!」
タウラスを左手に、ペガサスを右手に構えるG4-Mild。
(バッテリー残量はまだ九十を少し下回った程度。行けるか・・・?)
現れたのは、先程倒したクロウロードと同族で格上らしきアンノウン、コルウス・イントンススだった。他のクロウロードとは違ってスリムな体型で地面に刺さった槍は恐らくこのアンノウンの物だろう。槍を構えると、二人に向かって行く。
「格闘スペックも試してみますかね。」
一夏はタウラスをしまうと、ガードアクセルを引き抜いて構える。もう一方の手には刃が伸びたナイフ、ペガサスが握られていた。リーチだけなら相手が上だが、一夏は幸い戦闘センスに恵まれている。突き出される槍の軌道を予知、それを重心移動、体捌きで回避し、ガードアクセルで殴り付けた。ナイフは殆どカウンター攻撃に流用されるが、リーチは発展前のユニコーンより長く、殺傷能力も高まっている。落ち着いた動作でアンノウンを追い詰め、左肩にナイフを突き刺すと、空いた手でタウラスを引き抜き、残りの弾を撃ち込んだ。これは実弾だけでなくバッテリー型カートリッジで高出力のレーザーを放つ事が出来るが、その分銃身の冷却に数分を要すると言うデメリットがある。タウラスから放たれる極太の赤いレーザーを食らい、クロウロードはバラバラに消し飛んだ。爆発の中、ナイフが飛んで来たが、それを空中で掴んで肩の収納スペースに入れた。
「こんな感じですかね?」
タウラスの薬莢が内蔵されたエジェクターによって弾き出された。未だに煙を上げているそれを踏み躙った。頭部ユニットを解除すると、銃口から立ち上る硝煙を吹き消してホルスターに突っ込んだ。
「ああ。まずまずと言った所だな。だが、弾はタダじゃないから無闇矢鱈に撃つなよ?撃つならしっかりと狙え。」
そう言って頭と胸を指差した。秋斗は既にG4-X0を解除してある。
『中々やるわね、新人君。』
無線で耳元に小沢澄子の声が流れ込んだ。
『予想通り、いいえそれ以上ね。G4-MildはG3-Mildよりスペックは上だけど、立ち場としては殆ど変わらないし、武装がオミットされてるにもかかわらずアンノウンを一人で倒すなんて、尾室君並に凄いわね。』
「そりゃどうも。所で、武器ってやっぱり門牙さんから貸してもらわなきゃ他の物は使えませんか?」
『残念ながらね。G4-Mildは一機だけ作られた理由は、G4-X0の装着者と共同戦線を張る為に設計された物なの。ペアでこそ、勝利は確定する。まあ、貴方達二人はアギトだから単機でも倒せるだろうけど。』
「大事に使います。」
『ええ。これからもよろしくね。』
「はい。」
装着を解除して通信を切った。
「あー・・・・朝飯食ってないから余計に腹が減った・・・・さっさと戻ろ・・・」
「まあ、幸い今日は休みだ、俺もゆっくりと飯を作るとしよう。」
部屋に戻ると、良い匂いが漂って来た。見ると、簡易キッチンで既に料理が出来上がっているのだ。簪は普段は一夏が使うエプロンを付けてそれを運んで行く。
「あ、一夏。お帰り。」
「おう。ごめんな、ちょっと遅くなって。先に食べてても良かったのに。」
「一夏と一緒が良い。」
その純粋な言葉に、一夏は思わず口元を緩ませる。やはり、彼女を好きになって良かった。一夏のこの気持ちは永劫変わる事は無いだろう。
「久し振りに簪の手料理フルコースを食べられるのか・・・・あー、俺幸せ。」
献立は和食の典型的なメニューだった。白飯、赤味噌を使った長ネギと油揚げの味噌汁、卵焼き(一夏は出汁巻き派)、きんぴらごぼう、肉じゃが等々・・・・簪は一夏の一日のカロリー摂取量が半端無いと言う事を理解しており、その分かなりの量が作られている。簪も一部は勿論食べるが、大半は一夏の胃袋の中に消えて行く。
「大袈裟・・・・」
そう言いながら簪は多少内股で歩き出す。
「ごめんな。俺、どうもああなると歯止めが利かなくてさ・・・・・でも、ありがと。」
その原因を作った一夏は彼女の肩を持って支えてやり、料理を運ぶのを手伝った。
「じゃ、頂きます。」
早速出来立ての料理に手をつける。
「美味い。」
しっかりと咀嚼して味を堪能する。
「でも、一夏の方が料理上手・・・・」
「俺は必要に迫られて出来る様になっただけなんだ。色々あったしな。」
「うん・・・・十年も会えなかったからね・・・」
そのまま黙々と食事を続けて行く。そして、半時間程して・・・・
「ふー・・・・美味かった・・・・・」
「一夏、食べ過ぎ・・・・」
「エネルギー消費が激しいんだよ、俺は。それに、簪の料理ならもっと食えるぞ。」
簪の頭を撫でてやる。
「後、簪はちゃんとあの時の約束を守ってくれた。簪は、あの時に比べると本当に強くなった。ここと、ここが。俺はそれが、何よりも嬉しい。」
一夏は自分の二の腕を軽く叩き、胸を指で指し示した。簪は一夏の肩に寄りかかり、体重を預け、一夏もまた彼女の肩を抱いた。
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g4-mild デビューです | ||
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