真・金姫†無双 #7 |
#7
という訳で、本日も開店しました『焼鳥・北郷』
「いらっしゃいませー!空いてるお席へどうぞー」
いつものように、亞莎の元気な声が店内に響く。
「あわわ、開いたばかりなのに、もう3卓も埋まっちゃいました……」
「よく見て流れを覚えろよ、雛里ん」
「はいっ」
新しい従業員となった雛里ではあるが、まずは亞莎の動きを見て仕事を覚えて貰おうと、カウンター席の端にちょこんと座っている。
「かしこかしこまりましたかしこー!」
「あの掛け声はどうにかならないんですか?」
「面白いだろ?」
「あぅ…」
もともと軍師として士官したがっていた雛里だ。頭もいい。メニューは一発で覚えた。後は動きを学ぶだけである。
「もう少ししたら、たぶん((卓|テーブル))は満席になる。カウンターも埋まってくるだろうし、そしたら雛里にも働いてもらうぞ」
「が、頑張りましゅっ」
ちなみに、俺達3人はそろって同じ格好をしている。黒い七分丈のズボンと同色の作務衣のような上着、それに黒い三角巾だ。俺と亞莎はもともとその恰好で働いていたし、雛里が最初に着ていた服は大きすぎるから、動き回るには適していない。
それはともかくとして。
「「いらっしゃいませー!」」
「い、いらっしゃいませー!」
まずは声出しの練習からだな。
俺の予想――というよりも慣例――通り、1時間も経たないうちにほぼすべての席が埋まる。カウンターは6つあるうちのあと2つほど空いているが、それもすぐに無くなるだろうという事で、雛里んも稼働開始だ。
「おっ、新しい嬢ちゃんも、これまた可愛いなぁ」
「あわわっ、ありがとうございます!」
「嬢ちゃん、煮込み煮卵入りで!」
「かかっ、かしこましましゅまろ!?」
孫策ちゃん達が初めて来た時の騒動もあったからか、ここの客はみな大人しく、それでいて人柄もいい。時々やって来る兵もそうなのだから、彼女達の指導力と慕われの度合いがわかるというものだ。
「ほら、雛里。3番卓にモモと皮、それとネギまだ」
「はぃっ」
ちっちゃい身体でちまちまと動き回る姿は小動物を連想させ、雛里もすぐに、店の看板娘として人気者となった。
「雛里ちゃん、4番さんお帰りだから、卓を拭いてね」
「はーい」
いまだ緊張は見られるが、それでもしっかりと働いてくれる。
「……」
2人共可愛いなぁ、もう。
第一の客足が落ち着いてきたので、亞莎と雛里に休憩を出す。
「今日のご飯は何ですか、ますたぁ?」
「つ、ちゅかれましたぁ…」
空いたカウンターに座り、瞳をキラキラとさせて食事を所望するのは亞莎。慣れない立ち仕事で突っ伏してしまうのは雛里ん。
「ほら、雛里ちゃん。ますたぁがご飯作ってくれるよ」
「うぅ…お腹ペコペコです……」
2人と俺のまかないは、当然ではあるが俺が作っている。
「お店では出さない料理だけど、とっても美味しいんだから」
「はぃ、楽しみです」
さて、今日は何にしようかなと考えていれば、慣れない雛里の注文ミスで余ったモモ串が数本。これにするか。
「今日は焼鳥丼だぞ」
「焼鳥…」
「…丼?」
若干固くなってはいるが、米と一緒に食べるならそれも歯応えとなって丁度いい。中華鍋を火にかけ、モモ肉を串から外し、刻んだネギと一緒に炒め、タレを絡める。丼に盛った米に乗せ、最後に細かく刻んだ唐辛子をちょちょいと振りかければ完成だ。
「へい、お待ち!」
「うわぁ、美味しそうです!ね、雛里ちゃん?」
「はいっ」
湯気を立ち昇らせる器は2人の空腹の胃袋を震わせ、そろって腹の虫が鳴いた。いいねぇ、その反応は。
「ほら、冷めないうちに食っちまいな」
「はいっ!」
「いただきまーす」
俺の料理の腕を知っている亞莎は、恥じらいもせずに丼を抱えて米を口いっぱいに頬張り、雛里はといえば、やはり小動物よろしくちまちまと口に箸を運んでいる。亞莎の食いっぷりも好きだが、雛里も似合っている。可愛いなぁ、もう。
2人に食事をとらせつつ、人数の減った客に料理を出していると、ガラッと音がして店の戸が開いた。新しい客だ。
「「いらっしゃいませー!」」
「ひ、ひはっはひはへー!」
こらこら、無理して言わなくてもいいぞ、雛里ん。
「邪魔するぞ!」
「いい匂いですぅ」
やって来たのは、銀髪のグラマラスな姉さんと、これまた果実がたわわに実ったつる無し眼鏡の姉ちゃん。どっちも美人だ。
「空いてるお席へどうぞー」
空いた卓の片づけをしながら、いつものように声をかければ、なんとその姉さん方はカウンターへとやって来た。
「おや、珍しいですね。卓の方じゃなくても?」
「なに、策殿からの紹介でな。店主の話がおもしろいと言うので、ここに座らせて貰いたいのだ」
「はい、冥琳様も気に入ってましたし、穏も是非にと」
『さくどの』に『めーりん』さんか。そんな客……って。
「あぁ、孫策ちゃんと周瑜ちゃんのご紹介ですか?だったら歓待しないといけないね」
「む?」
「えぇええ!?」
椅子を2つ引きながら案内すれば、銀ねーさんは『おや?』という顔をし、メガねーちゃんは驚きの声を上げる。
「どうされました?」
「いや、まさかこの街を治めているものを、よもや『ちゃん』付けで呼ぶとはな」
「それより冥琳様ですよ!『周瑜ちゃん』って……」
あぁ、そういう事ね。だって、2人からそう呼んで欲しいって言われたし。
「ふぇえっ、これはまた凄い事です……」
「くっくっく、そうだな。蓮華様や思春が聞けば、また怒りだしてしまいかねない」
「確かに一番偉い方々だけど、この店ではマスターと客だしな。なに、外では呼ぶなって言われてるから安心してくれ」
「ふっ、なんとも冥琳が言いそうなことである。が、確かに面白い店主だな。あとは酒の味だけだが……」
酒好きの雰囲気がするが、ちょいと待った。
「おっと姉さん、俺の事はマスターと呼びな」
「む?……意味はわからぬが、お主なりにこだわりがあるようじゃな。よかろう、ますたぁとやら。酒とオススメのツマミを頼む」
「毎度っ!」
「いきなり馴染み過ぎですよ、祭様ぁ……」
思っていた以上に、孫策ちゃん達には気に入られていたらしい。さて、この姉さん方も常連さんにしてやんよ。
「はい、熱燗と煮込み、お待ちぃ。煮卵はサービスだよ」
「さぁびす?」
「無料提供って事さ、陸遜ちゃん。孫策ちゃん達には内緒にしてくれよ?」
食事を終えた亞莎は別卓の給仕に向かい、雛里も器の中身を半分にまで減らしている。俺はその横に座った黄蓋ねーさんと陸遜ちゃんの相手を、調理の合間にしているところだ。
「で、こっちは鶏モモと皮の串だ。塩とタレ両方焼いたから、違いを味わってくれ」
「策殿の言った通り、初めての肴だな。だが、その前に」
「はい、祭様。かんぱぁい」
コツンと2人の手の猪口がぶつかり合い、小気味よい音を立てる。
「おっ、コイツは美味い。温めた事で、酒の風味が一層増しておる」
「こっちの煮込みも、柔らかくて味が滲みてて美味しいですぅ」
「気に入ってくれたかい?嬉しいね」
「ますたぁ、1番卓につくねとイモ串2つですー」
「かしこかしこまりましたかしこー」
調理場に置いてある石箱の蓋を開けて、ツクネとイモ串を2本ずつ取り出す。冷蔵庫のないこの時代だ。これが保存の為の精一杯なのさ。
「陸遜ちゃんは串を気に入ってくれたみたいだな」
「はぁい、とっても美味しいです!祭様、これって作れますか?」
「肉自体は容易いが、このタレがな。ますたぁ、このタレの作り方は教えてもらえぬか?」
おっと、そいつは企業秘密だぜ?
「ほれ、誰にも言わぬから、教えてみろ」
「じゃぁ、ねーさん達がこの店に融通を利かせてくれるなら、教えてもいいぜ?」
「えぇっ!?そんな事出来る訳ないですよぉ!」
「そういう事さ。こっちもそんな事出来る訳がない。此処でしか出せないなら、黄蓋ねーさんも陸遜ちゃんも、また来るしかないだろ?」
「かっかっか!一本とられたな、穏よ」
「……うぅ、してやられちゃいました」
酔っ払いの戯れ言だ。賄賂の話になんか持ってってたまるかよ。
「それより」
「ん、どしたぃ、黄蓋ねーさん?」
「その『ねーさん』というのやらはどうにかならんのか。策殿や公瑾、穏はみな『ちゃん』と付けておるではないか。確かに儂は年を食うておるがのぉ……」
「大人の女性を可愛らしく呼ぶのは、逆に失礼にあたるってね。そういう事だよ、ねーさん」
「あららぁ、口が上手いですねぇ、祭様?」
「……納得してしまった自分が悔しいぞ」
そう零して猪口を口に運ぶ黄蓋ねーさん。元出張ホストの話術舐めんな、ってか。
再び忙しくなってきた店内を、食事を終えた雛里も亞莎に加わって駆け回る。
「――さて、話は変わるが」
「おう、どうされました?」
先程までの楽しげな雰囲気が一転。ねーさんは、真面目で鋭い瞳に俺を映す。
「お主、いまから儂と勝負せぬか?」
「祭様っ!?」
陸遜ちゃんは驚いている。ふむ、これはねーさんの独断のようだな。
「あの呂蒙という嬢ちゃんが武に通じているというのは、策殿や公瑾から聞いた。そして、お主があやつを鍛えているという事もな」
「……ま、隠す程の事でもないからね」
「ついでに言えば、策殿がますたぁを誘って断られた事も聞いておる」
「じゃぁ、なんで?……雛里、4番さんに熱燗だぁ!」
「はーい」
トテトテとやって来た雛里のお盆に熱燗の徳利を置いて、ねーさん達に向き直る。
「じゃから、ただ単に、お主の実力を見たいだけの事よ。どうじゃ?」
片肘をカウンターに置き、頬杖をついて俺を見上げてくるねーさん。俺の視線はその双眸の少し下にある揺れた果実に……って、そうじゃないだろ。
「……条件、出してもいいかい?」
「言うてみろ」
「俺の実力を認めても、俺を軍に誘わない事だ」
「ほう?余程自信があるようじゃな」
「死なない程度にはね。それと、ちゃんと今日の分の料金を支払ってくれる事。どうだい?」
「儂が踏み倒すとでも思っているのか?」
「いやいや、何が黄蓋ねーさんの神経を逆撫でするかわかんないからね。保険だよ」
さて、どういう返事をしてくる事やら。
「面白い。受けようぞ」
「祭様っ!?」
「そうこなくっちゃ。陸遜ちゃんは証人ね」
「ますたぁ!?」
慌てふためく陸遜ちゃんの胸が、たゆんたゆんと揺れていましたとさ。
あとがき
はい、#7でした。
祭ねーさんはやっぱり好戦的です。
さて、1日1話とか言ってましたが、
ストックが#10までしかありません。
うへへ、約束は破る為にあるんだぜ?
まぁ、頑張ります。
ではまた次回。
バイバイ。
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#6に王冠がついてたよ! やったね、ひよりん! どぞ。 |
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コメント | ||
記録と約束は破るためにある!!リア充にはそれがわからんとですよ(ほいほい) あぁもう雛りんは可愛いなぁ(Alice.Magic) 約束?守りますよ?気分で。(D8) なんか、こんな一刀になってみたい俺がいる・・・w(リンドウ) >>jonman様 自業自得なんだよ!(一郎太) >>たこきむち様 アイマスは全然詳しくないんだよ!(一郎太) >>スターダスト様 出来る限り頑張っていくんだよ!(一郎太) >>不知火様 ねーさんだろふざけてんのかてめぇ!(一郎太) >>2828様 金が絡むものは破ったらいけないんだよ!(一郎太) >>gain217様 1年以上前ですからねー(一郎太) >>envrem様 上げましたぜ!(一郎太) >>ロッカー様 次回にご期待!してもらえれば(弱気(一郎太) >>一丸様 とりあえず、あと3つだけストックがあるんだよ!(一郎太) >>駆逐艦様 品切れですっ!(一郎太) >>神木ヒカリ様 そこはホラ、小動物的な可愛さですよ(一郎太) >>ロンリー浪人様 途中で消える事はしないので、ご安心をば(一郎太) >>ゆぎわ様 あ、うちはそういうお店じゃないんで(一郎太) >>アサシン様 女の子との約束は破らないんだぜ!(一郎太) >>summon様 どうやったらそんな噛み方になるのか甚だ疑問なんだよ!(一郎太) ・・・「一日一話の約束」・・・「約束は破るためにある」・・・・・・・っは、わかったぞ!「1日に2話」更新するんですね!(天魔) >>アルヤ様 おっと、ここにも駄目人間が(一郎太) >>デーモン赤ペン様 いや、それは人としてどうよ?(自分を棚に上げる(一郎太) >>叡渡様 楽しければいいんだと思うよ!(一郎太) >>ron.c.b様 いや、1日1話という……ね……(一郎太) >>本郷 刃様 可愛く描いてるからなんだよ!(一郎太) どっかの事務員はアイドルマスターのキャラです。芋は妹の略です(たこきむち@ちぇりおの伝道師) まぁ〜一日1話守れたらすげーわwww さて、一刀の実力は一体どれほどなのかな?ちなみに素手かな?それともやっぱり刀かな?いや・・・普通の剣か?(スターダスト) かわいいなぁ、もう。 誰とは言わない、察してくれ。 祭さんはもうねーさんって歳ではないだr……返事がない、ただの屍のようだ(神余 雛) 約束は破る為にある・・・・では契約は?(2828) 今回も大いにニヤニヤさせていただきました。ご馳走様です!!恋と共にAfterも心待ちにしてます! 〜小姫の「ぴよっ」ネタ完全に忘れてました・・・orz 〜(gain217) かしこましましゅまろだなんて・・・雛里はやっぱり可愛いなぁ/// 次回の祭ねーさんVSますたぁも楽しみに待ってます。(happy envrem) ますたぁの強さはいかに…(ロッカー) いや〜、約束は守るものでしょう〜じゃないと、次回の勝負の後に、祭さんが何を言い出すのやらww・・・・でも、まあ、毎日投稿は難しいので約束ではなく、出来ればがんばる程度だと思っておきますよww・・・ではでは続き楽しみに待ってます。(一丸) ・・・・・・・・・・・・二人ともください・・・(駆逐艦) ちまちま食べる雛里んに癒されるぅ。(神木ヒカリ) 亞莎も雛里も見ていて和むなぁ。続きは気になりますけどノンビリでいいですよ?。遅れるぐらいなら、途中で投げ出す人より全然マシですから。(ロンリー浪人) <HEYマスター!指名は雛里んで!一郎太さんの次の投稿まで一緒にゆっくりさせてもらいますよ〜(ゆぎわ) 鳳統のマシュマロ入りました〜♪ 一郎太さん、破る約束には気を付けて・・・・・(アサシン) かしこましましゅまろ…和むなぁ〜(summon) 約束は破るためにあるって結構人として駄目な発言でないですかい?・・・・・・・・・・・・全力で同意しますけどね。(アルヤ) 一郎太さァン!約束は破るためにある!? そのとおり・・・!(デーモン赤ペン) 約束を一体どう破るのか・・・次回きたいですねぇ、楽しみです(ron.c.b) 雛里ん可愛いな〜(ほのぼの)(本郷 刃) |
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