インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#93 |
[side:鈴]
週末、具体的にはキャノンボール・ファストを目前に控えた土曜日。
あたしたちは寮の食堂でだらだらとお茶をしていた。
「暇ね。」
目の前に表示させた空間投射ウィンドウをなんとなく眺める。
そこに表示されているのは高機動パッケージに換装した((甲龍|シェンロン))のステータス。
うん、イケる。
少なくとも、機能テストした時はちゃんとできていたし、問題も無かった。
………実はこの確認も何度めかわからないくらいに繰り返している。
「そーだねー。」
生返事を返してくるシャルロット。
向こうもティーカップを片手に、何度めになるか解らない『最終チェック』をしている。
「…仕方ないだろう。委員会からの命令だ。」
「キャノンボール・ファスト参加者の学園での受け入れ、施設の貸与と生徒の外出禁止。生徒としてはいい迷惑ですわね。」
「そもそも、我々一年生のキャノンボール・ファスト参加は夏休み終了間際に決まったらしいからな。」
「だから文化祭の準備と並行しての高機動実習なんて事を…まあ、本国に高機動パッケージがあったから良かったものの…」
ラウラとセシリアも空間投射ディスプレイを表示させてちょこちょこと弄ったり眺めたりを繰り返している。
「まあ、((専用機保有者|わたしら))はマシだけどね。」
「訓練機の方は、ねぇ。先生が高機動仕様に調整してくれてるらしいけど…」
ちらり、と周囲を見回す。
視界には私たち同様に『明日の為の準備がしたいのに出来ない』のでやることが無く、ただだらだらと過ごすしかできない同級生たちの姿がある。
…例外は一夏と箒、あとは簪くらいか。
あの三人は生徒会役員だから外で警備とか道案内とかしているらしいわね。
「…あ、紅椿。」
誰かの声。
見上げると窓の外には武装を展開せずに周囲を見回している箒の姿。
「風のうわさではあるが、((自衛隊|セルフ・ディフェンス・フォース))の駆逐艦――護衛艦だったか?アレも学園の沖で警備にあたっているらしいな。」
「へー。そういえば、学園の上を戦闘機が飛んで行ってたっけ。アレって((F-15|イーグル))と((F-16|ファルコン))?」
「F-15とF-2だな。航空自衛隊はF-16は導入していない。」
「そうだったんだ。」
「まあ、どちも大分古くなってきているしISが登場してからはどこも戦闘機開発はかなり下火になっているがな。――日本は珍しくそういう流れになっていないらしいが。」
「確かいろんな国が出した戦闘機のライセンスを買って、IS技術を応用した戦闘機の開発とかやってたね。」
「自衛隊の広報雑誌によればF-35AとF-15J、あとはF-2がベースだったか?槇篠技研のIS技術応用研究室や倉持技研あたりも協力していると書いてあった。F-3はその為に開発が先送りにされているらしいな。」
「あ、それならネットで見た事あるよ。『日本の魔改造戦闘機!』って記事。」
「魔改造…言い得て妙だな。まあ、ISについては日本が発祥の地だし、槇篠のような研究所があるから進みやすい分野でもあるな。」
ラウラが出した話題からシャルロットが乗り、そのまま二人で訳の分からない兵器談義に突入していく。
そこに何人か、その手の話題について行ける面々が加わって行き盛り上がっていくのだけど…
「あたしらには、別世界の話されてる感じだけどね。」
どちらかと言えば、
「むしろ、戦闘機飛ばす位に警戒してるって、どんだけ厳戒態勢敷いてるのよ。」
「まあ、日本政府も必死なんでしょう。――何かと学園は注目されていますから。」
「ま、そうかもね。」
セシリアの含みのある言い方にあたしはこれまでにあった『学園が当事者か、巻き込まれた事件・事故』を思い返す。
その全てで緘口令が敷かれて、今年だけで何枚の誓約書を書かされた事か。
特に福音の暴走事件の時とかはあたしら代表候補生+αの七人が全滅しかけたりもしていたからねぇ。
「何もなきゃ、いいわね。」
特に、一夏の誕生日を無事に祝う為にもね。
「そうですわね。」
セシリアも、『それはそうだ。』と言わんばかりに溜め息をつきながら同意の声をあげてくれた。
「ねぇ鈴!」
「――何?」
と、唐突にシャルロットの呼ぶ声。
「日本の戦闘機が変形してロボットになるのは何年くらい後になりそうだと思う?」
―――一体、どうやったらそんな話が出てくるのよ。
まったく…
「セシリアはどう思う?」
「そうですわね…戦闘機と同じくらいの大きさのロボットが出来上がってから…くらいでしょうか?」
あたしが振るとセシリアは少し考えてからそう答える。
「案外、もう出来ていたりしてね。」
あたしが何気なくそんな風に答えるとラウラやシャルロットはキョトンとした顔を見せる。
その直後に起こるのは、笑い。
「ぷっ、ははは、それはいい!」
笑いだすラウラ、
「うーん、確かに槇篠技研の地下にあっても逆に納得がいくというか…あぁ、お父さんが嬉々としてノってる姿が目に浮かんで…」
考えるシャルロット、
「まさか日本がF-14のライセンスを買ったのって―――」
中には『深読みしすぎじゃない?』なんて思いたくなるような声まであがる。
それからしばらく、『ロボットになる戦闘機』だったり『巨大ロボット』だったりという話題で妙に盛り上がる集団と、それ以外…なんて構図が繰り広げられていた。
…まあ、たまにはこういうアホらしい事に時間を費やすのも悪くはないわね。
「――キャノンボール・ファストの直前だってのは頂けないと思うんだけどねぇ…」
* * *
[side: ]
「どういう事だ、これは!」
バン、と音を立ててスコールに叩かれた机が手の形に陥没するが、当人はまるで気にしていない。
『私に当たらないでくれたまえ、スコール。――私も、知人のツテで知っただけなのだ。』
暗転したままのモニター。
そこから聞こえてくる初老くらいの男性の声はスコールの同僚である幹部のものだ。
「…すまない。―――で、この話の信憑性は?」
『九割九分九厘、本気だろう。』
「こんな穴だらけの作戦計画で………」
スコールは溜め息をつく。
彼女には自分たちならば、行き当たりばったりな襲撃・新型機奪取計画を建てたとしてももっとまともな作戦になる自信があった。
『だから、幹部会を通さずに…いや、まず反対するであろう我々の目を盗んで事を進めたのだろうな。』
「…で、今後の対応はどうするつもりで?」
『当然、次の幹部会で問い詰める。――((新参者|バカ))共は、どうもこの組織の意味を判っていないらしいからな。』
男の声に何かを覚悟したような影が入る。
「幹部の粛清…か。だがそれは――」
『ああ、向こうも考えているだろう。だからこうして秘匿回線で…む、―――――ぐぉッ!?』
不意に飛び込んできたのは乾いた破裂音だった。
それに続くのは何やら滴の飛び散る音。
「銃声!?」
『―――――――――』
沈黙し、ノイズだけを伝えてくる通信。
それが何を意味するのか、判らないスコールでは無い。
(やられたな…)
思わず頭を抱えたくなる。
ちょうどそこに、オータムが駆け込んできた。
「スコール、大変だ!」
「どうしたの、オータ―――ッ!」
咄嗟にオータムに飛びかかって押し倒し、ギュッと守るように抱え込む。
その直後、二人を爆炎が包みこんだ。
説明 | ||
#93:直前の休息、或いは湧いて出た停滞 あけましておめでとうございます。 新年一発目の更新です。 作中で戦闘機ネタが出てくるのはゲームの影響。 時代設定的には今現在よりちょっと先(2020くらい?)をイメージしてもらえると判り易いかも。 |
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