コトダマヒストリー前編 |
「先生〜」
魔法文明が失われてから20年。精霊や妖精たちが守り続けてきた自然は徐々に
人の手が入ったために失われていき、機械文明が繁栄していった。
その中でユールの子孫の3人が自分達の落ち着ける場所にひとつの大きな図書館を
建てた。
それは、今まで魔法以外のことを勉強できなく、やれることがなかったのもあるが。
根本的なところは、人に何かを教えられるような場所を作りたかったというのがある。
勉強だけでない、人との関わりがある場所が欲しかった。
図書館の付近には小さな道場や教会もある。最初のうちこそ、人知れず。
っていう存在だったが、今は口コミから広がって沢山の人が癒しの場所だと
喜んでくれるのが嬉しかった。
「ん、なんだ? また稽古つけて欲しいのか?」
やや乱暴な口調を近づいてくる子供に放つが、子供は臆面もせずに私に近づいてくる。
「ちがうよ! 今日は先生の昔話が聞きたいんだよ!」
「ふむ・・・。どこから話そうか」
記憶を辿ると、一番大変だった幼少期のことを思い出した。
やや血生臭くて子供に話すのはどうかと思えたが、子供だからこそこういうの好きだよな
って思ったので。木々に囲まれた図書館から少し外れた林の中で地面に座りながら
少しずつ話し始めた。
「私には小さい時、好きな人がいたんだよ」
「わぁ、いきなり恋バナ?」
「うん」
「あはは、先生かわいい」
女の子はさすがに小さいときからこういう話しには食いつくなと思った。
「実は私は小さいときには人が大嫌いでね、いつも妖精と遊んでた」
「妖精?」
「前は見えてたんだけどね・・・。ある事件があって、見えなくなってしまった。
そして、今の人たちはそのことを忘れてしまっている」
「そうなんだ・・・。それより私は先生が人嫌いってことの方が驚きだけど」
「言うねえ」
子供の発言に笑っていると、そっと撫でるように優しい風が吹いてきた。
今日は噂好きの妖精が見えないことをいいことに、こっそり話を聞きにきてるな。
別の笑みを浮かべて私はポツポツと話し始めた。
最初から最後まで細かく言うと長いから要所要所にね。
代々言霊の魔法を伝えていったマイスター家。その言霊専門の学園をつくった
創設者は先祖のユール・マイスターその人である。
先祖には呪われた話や、英雄談など。様々な憶測や噂が飛び交っていた。
それでも学園として機能しているのは、実績や信頼があるからだろう。
だが人とかかわりたくない私には関係のないことである。いくら、その祖先の
血が流れたとしても・・・だ。
そういう血が流れてるだけで、人々から噂のネタにされるし、からかわれることもある。
それはなぜか、実績を上げた祖先と比べられて私が特別劣等生だからである。
この学園では言霊の成績が全てで、それ以外ができたとしても意味がないとされる。
だから私はそんな規則が大嫌いで、よく授業を抜け出してサボッていた。
そこに唯一私のことを見ていた先生がいて。私はその先生のことがいつの間にか
好きになっていた。
途中から教室を抜け出す目的の一つに先生のことを意識してやったこともあった。
長髪のイケメンで優しい先生だった。
おちこぼれの私に優しく忍耐強く言霊の授業を教えてくれたから。
でも、その幸せな一時は長くは続かなかった。
ある日、先生に呼ばれて言霊の魔法の実験に付き合ってくれと言われて
先生の言うとおりにしたら、急に空気が歪み始めて目の前に大きな穴が開き、
私と先生はその中に吸い込まれてしまったのだ。
目を覚ますと私は見知らぬ小屋の中にいた。
そして、そこの住人と思われる綺麗な女性がなにやら実験しているのを目の当たりにした。
私がベッドから起き上がると女性は優しい笑みを浮かべながら私に近づいてきた。
知らない人間が近づくと私は反射的に拳を出してしまいがちだったが、その人には
私の体が反応することはなかった。
魔力を帯びたアクセサリーを身につけ、Vネックにノースリーブの涼しげな色合いの
服にレザーベルト、先の方が花のように広がるが動きやすいようにスリットが入っている
スカート。
だが、どれも材料は安めで魔力を付与しているのも、多分この人が自ら作っているのだ。
そう自分の中で感じていた。
「あなたは誰?」
「んー? 私は先生って人には言われてるかな」
「そうじゃなくて、名前」
続けようとしたが、見た目よりふんわり軽そうな人で真面目に聞くのが面倒になって
きた。
多分聞いたところで的外れな答えばかりが返ってくるに違いない。
「そうそう、お名前。貴女は何て言うのかしら」
自分のことは無視して私の方に聞いてきた女の人。とても甘い声だ。
まるで子供のまま体だけ育ったような、そんな違和感。
「シェスカよ。シェスカ・マイスター」
これで満足?って嫌そうに言うと、私の名前を蚊が鳴くような小さな声で
何度も呟いていた。それから、彼女が我に返ると私に話を持ちかけてきた。
先生と言われる彼女は各地の小さな村々を巡ってはトラブルを解決して回っている
らしい。正義の味方をきどっているのだろう、私には関係ないと突っぱねると。
「シェスカ、貴女は今どこに行くあてもないでしょう?
私についてきた方がお得だと思うんだけど、もう一度考え直してくれる?」
「うっ・・・」
先生の言う通りであった。このまま私は一人になった所でどうにかなるわけではない。
仕方ないと思って私は先生の言葉に乗って二人で旅へ出たのだった。
が、私が居た世界とは違う光景だったのは、蛮族や魔物が溢れ出てる世界があり。
そこはまるで地獄絵図の光景であった。自らを守る手段がない村人たちは毎日を
恐怖に怯えながら暮らしているらしい。
その説明は先生の口から聞いた。一つの村は強い魔物に支配され、生贄をよこし。
二つの村は殺されないために蛮族に支配され、他の村を襲っていた。
それらを一つ一つ解決して、最低限の食料だけを分けてもらい、先生は人々を
守るために回っていたようだ。尊敬はしない、ただのお人よしだと思ったが。
その行為を容易く行えるものでもないと、私は感じていた。
だが、彼女と私はタイプが違うから。私はその行為自体を良いものだとは
思えなかった。
たとえ一時凌ぎになったとしても、ちょっとしたきっかけでまた元に戻るだろう。
その時に私たちがその場にいるとは限らないから、そうなってしまったらまた
恐怖に染まる日々が始まるのだろう。
この人はそうなった時はどうするつもりなのだろうか。
そんなことを考えていると、はぐれてしまって行方が知れなかった先生が
私達の前に姿を現した。
私は無防備にも愛しの先生の姿を見て思わず走りだしていた。
しかしそんな私に対して先生は、感動の再会でも、励ましの言葉でもなく。
動いた口の動きは攻撃魔法を唱える形だったのだ。
それを瞬時に察した、私と一緒にいた人は私を抱えて跳ねて寸前の所で避けた。
それは業火の魔法で私もろとも女性を焼き尽くすつもりだったのかもしれない。
いや、むしろ。狙いは私の後ろにいた女性に対してだったのかもしれなかった。
何が起こったかわからない。私はショックでボーッとしながらも、女性の言葉で
我に返る。そして、目に涙を浮かばせるのだ。
信じきっていた人からの裏切り。それと、本当に裏切りだったのか、まだ私の中で
信じたい気持ちが残っていた。そのことを彼女に知られないようにそっと胸に秘めたのだ。
「さっきのは大切な人?」
「うん」
「それにしては随分と恨みが篭った目をしていたけれど」
この人と何かあったのだろうか、時代は違うが。もしかしたら歴史を遡ると
何かしら因縁があるのかもしれないと、私は感じていた。
考えても仕方ないので二人で旅の続きをしていて、最後の村を回ると、
一段落したから近くに大きな町を見つけた女性の先生は私の手を引いて
そこへ向かっていった。
私は人が苦手だったけれど、いつの間にかこの人には慣れてしまっていたようだ。
それだけ暖かい気持ちが私に伝わって、少しだけど心を許していた場面が時々あった。
道中で暗殺者や血の気の多いハンターを名乗る奴らと戦っていた際に感じ取って、
戦いに疲れた時は少しデレていたような気もする。それだけ暖かい人だった。
町中で歩いていると、私の名前を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。それは先生ではなく
あまり好まない二人の姉のものであった。
「シェスカ!」
私の名前を呼ぶと長女のリゥ姉さんが泣きながら抱きついてきた。年齢も離れてて
身長差もあったせいで、姉さんの大きい胸に私の顔が埋まる形になってしまう。
そして、それにも気づかず抱きついてくるから私は息ができなくなって
危うく姉さんの胸の中で窒息死するかと思ってしまった。
「ありがとうございます!妹を守っていただいて」
「いやいや、付き合ってみたら素直で可愛い妹さんでしたよ」
と、先生は長女の姉さんに笑いながら答えていた。だが、さっきから沈黙を破らずに
ジッと私を睨んでいる姉がもう一人。
黒魔術的な言霊術を好む、ポニーテールをしたロウラン姉さんがいたのだった。
とにかくこの人は私を目の敵にしてくるから非常に苦手である。
実際に何だかブツブツ言ってるし。
で、ブツブツ言っていたと思ったらいきなり私を大声で叫ぶように呼ぶ。
「シェスカ!」
「なんだよ・・・」
「姉さんに迷惑かけさせて謝罪も感謝もなしか、この駄妹が!」
せっかくの再開にこれだから困るよ。そう、考えているとまた何か言いたそうに
している所にリゥ姉さんから喝の意味を込めたチョップをロウラン姉さんに放つ。
ペシッという軽い音を立てながら。あれは、絶対に痛くないだろう。
「ロウランちゃん、メッよ。せっかくシェスカちゃんが無事にいてくれたんだから、
この方と、神様に感謝をしなくては。ロウランちゃんが心配してるのはわかってたから」
『はぁ!?』
この姉が心配なんてするものか、ロウラン姉も同じようにとったのか
二人はハモるように同時に叫んでいた。
「あはは、二人とも面白いね」
私と一緒にいた先生もお腹を抱えて笑っていた。
『面白くない!』
『ぐぬぬ・・・』
否定した言葉も、合ってしまって悔しい言葉も全てタイミングが合ってしまい。
二人同時にがっくりと肩を落としたのを、長女と先生は楽しそうに見ていた。
姉妹が揃った所で、先生は私たちがここにいる経緯を聞きだしてきた。
すると、長女が推測だが自分達は過去の世界に来ているのではないかと言い出した。
言われると確かに私たちが住んでいた場所には魔物等の姿はほとんど見なかったし
町の雰囲気や服装などから、かなり古いものだと思われる。
普通の人なら何を冗談言ってるんだ、くらいの反応しかくれないだろうに。
先生は思い当たりそうな表情を浮かべて少し考え事を始めた。
「うん、なら。あそこに行くといいかもしれない。私が昔に辿りついた場所」
人差し指を立てて話し始める。一度だけ、うろ覚えだけど先生が一度だけ
時空に関係する場所に行ったという、時の洞窟。
果たして今もあるのか、詳しい位置はおぼろげらしいのだが、簡単な地図を
描いてくれる。それはお世辞にも上手いとはいえない図だったが、
無いよりはマシかもしれない。
それから先生はしばらくその町で私達の様子や稽古をつけてくれる。
見た目の割りに回復、攻撃、言霊術に体術など苦手なものは無さそうなほど万能で
あった。
「うーん、なかなかいい筋してるわね」
「ありがとうございます」
息が上がってる私と次女の前に出て同じように疲れてる表情のリゥ姉さんが
お礼を言っていた。満足気に頷く先生は、私達を眺めると一言だけ告げた。
「貴女達はそれぞれ欠点を持ち合わせているけれど、3人が息を合わせていけば
怖いものはないかもしれないわね」
「あの、行ってしまわれるのですか?」
短い間とはいえ、一緒に楽しくいれた人だったから3人とも別れるのが
惜しかった。だけど、先生は先生でやらなければいけないこともあっただろうから。
私達は渋々見送りに出た。
その時、私は前に出て。前々から知りたかったことを去ろうとした先生に言葉を
投げかけた。
「先生の名前は・・・」
「あっと、忘れてた。私はユール。ユール・マイスターよ。またね、可愛い子孫たち」
そう言って、私達の驚きの言葉を聞く前に彼女は町を去っていったのだ。
「夢みたいな話でしょ?」
「うん、でもそれで終わりじゃないよね。これからどうなるの?」
「それはね〜・・・」
言いかけた時、教会側から誰かを呼ぶ声が聞こえた。
あのおっとりした言い方はリゥ姉さんの声だろう。
「お菓子できたので、食べたい方は集まってください〜」
「だってさ」
私の話を聞いていた子供は立ち上がると私に手を差し伸べてきた。
「よし、お菓子食べながら休憩したら。残りの話をしてあげよう」
「わぁい、楽しみだな〜」
無邪気な笑みを浮かべる子供に釣られる私。残り後半部分が私の中で
一生忘れることのない出来事を語ることとなった。
続く
説明 | ||
最終章です。前シリーズは私のホームページかpixivで確認できます。じっくり書きたかったファンタジー物ですが、やる気の維持が困難なため、完結編を前後編に分けて要所要所だけ書いてみました。メモ書きに近いものがあるので、自分得でしかないのですが・・・。後々絵の方も上げる予定でもあります。もしよかったら見てってくださいな。シリーズ物の伝説の言霊師を見ると少しはわかると思います。基本ファンタジーものは繋がってますのでw | ||
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