運・恋姫†無双 第三話 |
現在趙雲ら一行は街にいた。紗羅がこの世界に来てから数日は立っている。賊に襲われ、彼女らに着いていき、無事街に着くことが出来たということだ。
この世界への来訪者である紗羅は、その数日間も発見の連続だった。夜の暗闇、火の温もり、朝の静寂など自然の厳しさ、尊大さとでも言えばいいか。もちろんそれだけじゃない。野宿の仕方、食料の取り方、水の確保など、サバイバル知識もできる限り自身に取り込んだ。それは数日だけとあってまだ綻びはあるものの、それでも最低限外で生きられるくらいにはなった。なんせ本人の意欲が大きかった。こういう事に彼の好奇心は掻き立てられるらしい。
数日とは言うが、それを実際に体感していた紗羅にとってそれは大きいものであり、大いに充実した日々であった。その中で彼の妖術も使い方を少しずつだが扱えるようになっていった。彼に妖術を教えられる師はいないので、彼はその力を、元の世界のゲーム、小説などを元にして独創するしかなかったが、独力による未知の開拓は、彼にまた充実感を与えた。
発見と言えば、趙雲らもそうである。紗羅にとって趙雲はすでに友と言える関係になっていた。その繋がりを持ったおかげか、戯志才、程立とも打ち解けることが出来た。彼女らにも、妖術師だと打ち明けたが、それには別段驚かれはしなかった。どうやら彼女たちは、忌避感はあるにはあるが、妖力を使い火を熾したりすることで、力の有用性を解ってくれているようだ。合理的判断と言うやつだろうか。
「それではお兄さん。次はこれですが――」
彼女らの発見はまだある。まずこの『お兄さん』と呼んでくれる彼女、程立のことだが
「えっと、故に兵は拙速を聞くも、いまだ巧久しきを睹(み)ず、でいいんだよな?」
「よく出来ましたー。ではその意味を考えてみましょう」
今は宿で紗羅に文を教えている。やはり『程立』なだけあって、頭の回転は紗羅の何倍も速い。
「つまりこれは拙速を尊ぶ。ってことは――」
「ぐぅ……」
「こういうことだろう」
ピンッ
軽くおでこを弾く。
「おおっ」
程立はよく寝る。常に眠そうにしているが、実際に時場所問わずよく寝るのだ。会話の最中だったり、飯の時間でも構わずに、だ。
「稟ちゃんとはまた違った起こし方なのです」
「仲徳先生、授業中に寝るのはどうかと思います」
「寝る子は育つのですよ?」
そしてこれが程立の驚愕すべきところなのだが、
『どうせ寝ても変わるとこはねえんじゃねえか風よーう』
程立の頭に乗っている人形。喋るのである。
「これ、宝ャ」
彼(?)にはちゃんと名前までついている。
『宝ャ』
それがこの人形の名である。最初に喋ったときは呆けたものだ。腹話術か妖術かと思ったが、結局よくわからない。が、“そういうモノ”なのだ。
「続けましょう。これの意味は――」
そして彼女、戯志才。この名は偽名だと言っていたので、実際の名前はまだ聞いてない。程立曰く、彼女はちょっとした有名人らしいので、そのため偽名を使ってるとのことだ。評判だから、などで登用してほしくはなく、実力で認められたい、という戯志才の熱意である。程立が寝たときに起こすのも彼女の役目で、良識人で尊敬できる人物である。一つ欠点を挙げるなら
「――という事であり、極端に簡単に言ってしまえば、動きは速い方が良い、ということですね」
『腰の動きもな』
「!?」
「あーっと」
『へっへっへ、兄ちゃんわかるだろ?』
もうわかってるだろうから延ばしはしないが、鼻血である。何故か戯志才は様々な事にインスピレーションを感じてその逞しい妄想力をもって迸る熱いパトス的な何かが鼻血となって噴き出る。という仕組みになっている。
「くっ!」
戯志才は鼻を手できつく抑えなんとか堪えた。
「私とてそう何度も同じ手には乗りませんよ!」
「おお」
『全部知ってんだぜ?吐いちゃえよ楽になるぜ兄ちゃん』
だが宝ャはやめる気はないらしい。
「真実は一つとは限らないんですよ?」
「仲徳、お前もか……」
『星を抱いたらしいな?』
「ぶはっ!」
「あー……」
せっかく堪えたのに……。
「稟ちゃんはこうでないと稟ちゃんじゃないのです。とんとーん、とんとーん」
戯志才の介抱は程立の役目である。ギブ&テイクではないが、彼女たちの友人関係はこういうものだ。良い仲であるのだろう。聞けば趙雲と知り合う前から二人は共にいたそうだ。
『で、どうだった?』
「何がだ」
「これ、宝ャ。それを聞くのは無粋ですよ」
程立は一応形の上では宝ャを窘めるのだが、これは程立もその話に興味があるというサインである。
「……正確に言うなら、抱きしめた、だ。それ以上はなかったぞ」
今は絶対にそんなことはできない。勢いというものは恐いものだ。
「で、どうしてそれを知っている」
「星ちゃんから聞きましたー」
『まんざらでもなさそうだったぜ?』
理解した。趙雲なら意趣返しとでも言えばいいか、それくらい言ってそうで恐い。その時にも戯志才が倒れたのは考えるまでもないだろう。
「まあ、抱いた、というのは脚色ですが」
「……だろうと思った」
程立も趙雲に似通った一面がある。趙雲と程立がボケで戯志才がツッコミと言ったところだろう。鼻血で倒れてる彼女の気苦労が知れる。
「それでも部屋の中では遠慮してほしいな」
今は宿では二つ部屋を借りている。趙雲ら女性の部屋と紗羅の部屋だ。現在は紗羅が程立、戯志才に彼の部屋で文の読み方を教えてもらっている。のだが、先ほどの戯志才の鼻血で床が血に濡れてしまっていた。
「お兄さんの出番ですよー」
「はぁ……」
手を翳す。すると血がみるみると蒸発するように消えていった。
「妖術とは便利ですねー。風は大助かりなのです」
「これ結構ムズいんだぞ……」
例えば火を発生させる。それだけならさほど苦労はしなかったが、それを制御する、となると途端に難易度が高くなる。今やってのけたのは、操作、制御する方であるので、なかなか難しかったのだが、街に着くまでの練習で身に着けたのだ。
「ではそろそろお昼ご飯にしますかー」
「ん、賛成だ。戯志才は寝かせておくか?」
「そうしますかー。寝台を借りるのですよ」
「待て。今度は、殿方の閨で!?とかで倒れるぞ」
『だから面白いんじゃねえか』
「……」
戯志才は結局紗羅が彼女たちの部屋に運び、程立と二人で街に出た。趙雲は一人でどこかに行ってしまっている。程立はそれを、よくある事だと言っていた。確かにそう言われると趙雲らしいと思えた。
「ここにしましょう」
「ん」
入ったのはラーメン屋らしき店。入った途端に店員の声がかかる。今は昼飯時なので、客は満員に近い。
「少し待つようですかねー」
「あ、今ちょうど席が空いたのでそちらに案内しますね」
「良いタイミングだな」
「たいみんぐ?」
「俺の村独自の方言だ」
「思い出しましたか?」
「一部だけ」
そんな会話をしながら案内されたテーブル席に向かい合って座る。木製の椅子に木製のテーブル。いかにもな時代の味を感じる。程立が先に何にするか決めたので、紗羅も同じのを頼む。メニューは読めなくもないのだが、やはり時間がかかるからだ。
「子龍はどこにいるんだろうな」
『女の前で別の女の話しなんざ、いい度胸してるじゃねえか』
「それもそうだ。すまなかった」
「いえいえー。風は“大人”の女性ですから、そんなことでいちいち目くじらは立てないのですよー」
わざわざ“大人”を強調するとこが可愛らしい。程立はこれでも紗羅とそう年は変わらないと言うのだから、いわゆる幼児体型というものか。確かによく見ると、年相応に見えるから不思議なものだ。
「でもそうですね、少しぐらいは拗ねて見せた方が可愛いでしょうかー?」
自分でそれをわかっているからだろうか。策略なのかもしれないが、子供らしく振舞うのもまた錯覚させる。
「風の顔に何かついてますかー?」
『惚れたな』
「なんと!風は罪な女ですねー」
「そうだな。可愛いと思っていた」
『おおう』
「お兄さん、ツッコむところですよ」
「事実だ」
いや、実際にまだ子供なのだ。頬を僅かに赤らめているのを見ると改めてそう思う。年はそう変わらないと言っていたのだから、考えてみれば当たり前なのだろう。といってもおそらくこの時代では働く年齢なのだろうが。
「お待ちしましたー。ごゆっくりどうぞ」
「どうも」
注文が届き二人して麺を食べ始める。
『俺も!俺も!』
「宝ャはその飴で我慢するのですよ」
程立は大抵の時ペロキャンを咥えている。きっと頭の良い人は糖分がどうとかそういうやつだ。これもまた子供っぽいと言ってしまったら機嫌を損ねてしまうので思うだけにする。
「ん、美味い」
「ですねー」
店の忙しい喧騒がBGMだ。
「そうそう、お兄さんの記憶の事ですが」
「おう」
急な話題の振り。
「お兄さんは本当に記憶がないんですか?」
程立は会った時からの疑問を直接ぶつけた。街に着くまでの数日、行動を共にして、彼がそういう人物なのだ、とはわかったが、記憶がないにしては何気なさすぎるのでは、と思っている。先ほど言葉を教えていたが、紗羅の場合、文字がわからないではなく、文の読み方がわからない、と言う風に感じた。だがそれは当たり前である。日本では漢字は一番親しい文字の一つだ。なので紗羅がわからないというのは、もちろんわからない漢字もあるが、それそのものではなく、漢文の読み方がわからない、というのが正しい。だが紗羅としては、記憶がない、というのは作り話なので驚きはなく、ちゃんとその質問を予想していた。言い訳もいくつかちゃんと考えてある。
「ないな。金の単位やらとかも全くわからなかったしな。現にまだ真名も思い出せていない。我ながら変だと思うが、俺の記憶喪失はそういう常識的な事も含まれてるから、最初は全く別の世界に放り出されたように感じたよ」
「まあそうですよねー」
程立はあっさりと身を引く。そんなことは今更なのだ。ただ話しのタネになればいいとそれだけのことだった。
「だが程立よ」
「なんですかー?」
「俺は『天の御使い』かもしれん」
「頭湧いてますよねー」
「ぬぐ!?ひどい言われようだな……」
「星ちゃんから聞いたんですよー」
「俺もだ」
この街に入ってから知ったことだが、今この街ではひそかに噂が流行っている。その内容が『天の御使い』というものだ。
乱世を静めるため
天より遣わされし者
流星と共に現る。
といった内容だ。紗羅がもしただのこの世界の住人だったら、即座に馬鹿馬鹿しいと言ったかもしれない。だが紗羅はこの世界に飛ばされてきた身だ。即座にそう言うことは出来なかった。
『天の御使い』
趙雲からそれを聞かされてから、それが自分にとってこの世界に飛ばされてきた役割か、と十分に吟味した。そしてその上で決めた。
「馬鹿馬鹿しいよなぁ」
それが紗羅の選択である。『天の御使い』などと言ういかにもキラキラした大それた名を名乗る気には欠片もなれなかった。実際、現時点で『天の御使い』らしい能力と言ったら皆無。かろうじて妖術といったところだろうが、妖術は忌避されてる存在。今のところ大々的に使う気はない。
「乱世が来るって明言しちゃってますからねー。管輅って占い師さんもなかなかいい度胸してます」
管輅。その人物は、この大陸では有名な占い師である。それが、今の国には力はなく乱れ衰退し戦争が起こる、と触れ回る。つまり、国に喧嘩を売っている、ということだ。何故か民衆というものは、噂が大好物なのでそういうものは流行ってしまうのだ。この時代では娯楽が少ないというのもそれに拍車をかける要因となるのだろう。だがまだこの噂は広まってない。旅をしていた彼女らが、この噂はこの街で初めて聞いた、と言うのだ。携帯電話というものもないので、伝達手段は口達になる。よってこの噂が大陸中に広まるとしたらそれは数年先ではないだろうか。
「張本人がこの街にいるって聞いたぞ。後で会いに行ってみるか」
「いえいえ、もう居ませんよー」
「居ない?」
「はいー。聞こえませんか?」
確かに店の端々でそのようなことが話されている。会話している中、程立は周囲の話しも聞いていたのか、と思うと流石だと感嘆する。
「でもですねー」
「おう」
「お兄さんと出会う前に風たちは流星を見てるんですよー」
紗羅と会う少し前のあの時、程立らは昼間に流れ星を見ていた。そしてそれが落ちてきた。それを面白そうだと趙雲が言い、程立がそれに乗って戯志才が渋々、という風になっいてた。
「ふーん」
「……興味なさげですね」
「おう、ないぞ」
事実全くなかった。もうそのことに関しては考えた。今更考え直すとかは面倒くさくて紗羅の性分ではなかったのだ。
「ごちそうさま」
「お兄さんは食べるのが早いですねー」
「普通だろ」
こういった噂話は、ただ肴程度になればいいのだ。言及するなど面倒でしかない。
食事をとった後、街を巡り、日が落ちてから宿に帰ってきた。そして……
「……なんでお前らが俺の部屋にいる」
「稟ちゃんが鼻血で寝台一つ台無しにしちゃったんですよー」
聞けば、意識がない間に男性との肉体的接触があったことが問題だったらしい。彼女の妄想力には驚くばかりである。
「血塗れた布に包まれて寝るなど私は嫌だぞ」
「というわけでこっちの寝台を借りようとー」
寝台は二つあった。片方使えなくても、もう片方が使えるのだから趙雲と程立が二人して紗羅の部屋に来る必要はないはずだ。にもかかわらず、紗羅が借りている部屋に、二人は押しかけていた。
「つまり俺に抱かれたいと」
「お兄さんは気が早いですねー」
「まだ私を抱き足りんのか?」
「おお、そして今度は風まで毒牙にかけようと……」
「悪かった、悪かったから」
これが彼女らの目的ではない、というのはわかっているので軽く言うが、あの時の事はちゃんと反省してる。
「んで、どうしたんだ」
「はいー。この街に着いてから数日、そろそろお兄さんはどうするのかを聞いておきたくてですねー」
戯志才が言っていた身の振り方をどうするか、と言う話だろう。どうしたものかと真剣に考えたが、紗羅はこの街での数日間でやってみたいことが一つ出来た。
「とりあえずだが、やってみたいことがある。兵になろうと思う」
説明 | ||
まだ展開としては面白くならないですねー。 キャラを書く上で宝ャが以外にくせものでした。宝ャってャ?慧?作者は未だ真恋姫プレイしていないのでよくわからないのです。誰か教えて。 |
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コメント | ||
>コウロさん そうでしたか。ありがとうございます。(二郎刀) ャで合ってますよ(灰庭園) |
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