銀の槍、大地に立つ
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「う……ん?」

 

 暗い部屋の中で何者かが目を覚ます。

 声は少し高めの青年のもので、小豆色の胴着に紺の袴を履いている。

 髪は研ぎ澄まされた鋼のごとき銀色で眼は黒曜石の様な輝きを持つ黒、身長は百七十五センチ程度であった。

 やや童顔だが、年齢にして十代後半から二十代前半と言ったところであろう。

 

「……これは一体どういうことだ?」

 

 青年は自分の体を手で触っていく。

 青年は困惑しており、事態が飲み込めていない様であった。

 

 ……足りない。

 

 何故か唐突にそう思った青年は足元に転がっているものをおもむろに拾い上げた。

 

 そこにあったのは、一本の槍だった。

 

 槍の長さは三メートル位の笹葉型の刃の直槍で、全体が銀色に輝くその槍は青年の手に驚くほど馴染むと同時に彼の喪失感を埋めていく。

 そして彼はそれが自分の一部、いや、自分自身であることを何となく悟った。

 

 青年が周りを見渡すと、そこはどうやら倉庫の様だった。

 その倉庫はもう長いこと忘れ去られていたらしく、様々な物がほこりを被っていた。

 

「……」

 

 青年はおもむろに手にした槍を振るい始める。

 その槍は青年にとって見た目の割に軽く、彼はそれを手足の様に軽々と振りまわして見せる。

 それは辺りの物にぶつけることなく、一つの演舞の様な槍捌きだった。

 しばらく振りまわした後、青年はその場に座り込んだ。

 

「……槍を振りまわしている場合ではないな……」

 

 全く状況が分かっていない青年はそのまま考え事を始めた。

 まず、ここはどこなのか?

 この先どうすればいいのか?

 そして何より、自分は何故人の姿を手に入れられたのか?

 青年は腕を組み、必死で頭をひねる。

 

「……全く分からん……ん?」

 

 青年がそう呟いた瞬間、倉庫のドアが何やらカチャカチャと慌ただしい音をたてはじめた。

 その音に青年は咄嗟に槍を構える。

 青年は音のする方向を強く睨み、大きく息を吐きながら警戒する。

 しばらくするとガチャッと錠前が外れる音がしてドアが開く。

 すると開かれたドアから太陽の強い光が入り、青年はそれに目が眩み思わず目を覆った。

 

「力を感じて来てみれば……妙な存在がいたものね」

 

 古ぼけた倉庫の中に、凛とした女性の声が響く。

 そこには青と赤の二色で分けられた服を着た、銀色の髪の女性が立っていた。

 光に眼が慣れてきた青年は、即座に距離を取って槍を構えなおす。

 

「あら、私と戦うつもりかしら?」

 

 女性は余裕の笑みを浮かべて青年に問いかける。

 彼女は青年の槍など怖くないと言うような様子で、ゆっくり歩いて近づいていく。

 

「……それは貴様次第……ッ!?」

 

 そこまで言うと青年の頭の中に急速にもやがかかってきた。

 そしてそのもやの中に、どこか見覚えのある精悍な顔つきの男の顔が浮かんだ。

 

 ―――僕には女の子や子供に手を挙げる気は無いよ―――

 ―――女の子には優しくするのは当然だろう?―――

 

 その男の念がどんどん青年の心の中にしみ込んでくる。

 男の声はどこか懐かしく、とても暖かい声色であった。

 青年はそれを受けて、槍の線を殺した。

 

「……いや、女子供に向ける刃は無い。失礼した」

「そう……気配は妖怪だったから襲われるかと思ったけれど、意外と紳士的なのね、あなた」

 

 槍を下ろした青年の言葉を聞いて、女性は笑みを深くした。

 女性は青年の前に立ち、その眼を合わせる。

 女性の眼には強い興味の色が浮かんでおり、嬉々とした表情で青年に話しかけた。

 

「訊いても良いかしら? あなたは何者?」

「……分からない。気が付けばここにいたからな……分かることと言えば俺は多分この槍だったのだろうと言うことぐらいだ」

 

 女性の質問に青年は眼を閉じてゆっくりと首を横に振る。

 それを聞いて、女性は少し考えるような仕草をした。

 

「つまり、自分がその槍だったということしかわからないのかしら?」

「……ああ」

 

 青年がそう答えると、女性はしばらく考えてから青年の肩に手を置いた。

 

「それなら、私がわかる範囲で教えてあげるわ。あなたみたいな存在は始めてみるけど、大体のことなら想像は付くしね」

 

 女性はにこやかに笑いながらそう口にする。

 その言葉に嘘は無いようで、青年の眼をしっかりと見据えていた。

 それを聞いて、青年は軽く首をかしげた。

 

「……良いのか?」

「もちろん。私の名前は八意 永琳。あなたの名前は……って分からないわよね。困ったわ、なんて呼べばいいのかしら?」 

 

 困ったような表情を浮かべる永琳の質問に対して青年が考えようとした時、また頭の中にどこか懐かしい男の顔が浮かんできた。

 どうやら前にこの槍を扱っていた男の様だった。

 

 ―――この……槍が……たけ……まさし……―――

 

 途切れ途切れに聞こえてくる男の声。

 なんて言っているのかは分からないが、名乗るにはちょうど良さそうだと漠然と考える。

 

「……((槍ヶ岳|やりがたけ)) ((将志|まさし))。そう名乗ることにしよう」

 

 何となく、呟くように青年はそう名乗る。

 その言葉を聞いて永琳は満足そうに頷いた。

 

「どうしてそんな名前が出てきたかは知らないけれど、良い名前ね。槍ヶ岳 将志、ね。それなら将志と呼ばせてもらうわ」

「……ああ、宜しく頼む」

「それじゃあとりあえずここを出ましょう。ここは話をするには空気が悪すぎるわ」

「……了解した」

 

 永琳に連れられて将志は倉庫を出る。

 外は燦々と日光が降り注いでいて、青空が広がっている。

 将志は日の眩しさに目を細めながら永琳の後をついていく。

 遠くに見える建物はどれも背が高く、天を貫かんばかりの摩天楼群がそびえたっている。

 ここはそれらの建物から離れた場所らしい。

 そして永琳が自動ドアの建物の中に入っていったので後に続いて入ると、中は白い壁と床の研究室だった。

 研究室内はたくさんのロボットが働いており、時折ロボット同士で何やら会話をしているようだった。

 

「実験室が珍しいのかしら、将志?」

 

 将志が足を止めて研究室を窓の外から見学していると、永琳が将志に話しかけてきた。

 

「……初めて見るからな」

 

 それに対し、将志は研究室から眼を離さずに上の空で永琳に応えた。

 将志の興味は完全に研究室の様子に注がれており、動く気配が無い。

 そんな彼の様子に、永琳は苦笑いを浮かべた。

 

「後で幾らでも見れるわよ。今はとりあえず話をしましょう?」

「……ああ」

 

 将志をそう言うと再び永琳について歩き始めた。

 しばらく歩いて行くと、「八意 永琳」と書かれたネームプレートが付けられた一室に案内された。

 永琳は部屋に入ると緑茶を二人分淹れて出した。

 

「……?」

 

 将志は出されたお茶が何なのか分からず首をかしげる。

 湯呑みを手に持ち、それをじっと眺めては再び首をかしげる。

 その様子が滑稽で、永琳は笑いをこらえるので必死になる。

 

「大丈夫よ、別に薬とか入れているわけじゃないんだから飲んでも平気よ?」

 

 永琳はそう言いながら緑茶に口を付ける。

 それを見て将志はそれが飲み物だと判断し、永琳の真似をして湯呑みに口を付ける。

 

「……っっ!?」

「きゃっ!?」

 

 その瞬間、将志はビクッと一瞬大きく震えて慌てて湯呑みを置く。

 永琳もそれにつられて驚き、思わず湯呑みを落としそうになる。

 

「ど、どうかしたのかしら?」

「…………………」

 

 何があったのか訊ねる永琳に将志はジッと視線を送る。

 そして、たっぷりと間を開けた後。

 

「…………熱い」

 

 と真顔で言うのだった。

 

「…………(ふるふるふる)」

 

 真顔で当たり前のことを言う良い歳した男がツボに入ったのか、永琳は腹を抱えてうずくまった。

 将志は訳が分からず首をかしげる。

 

「……何事だ?」

「……〜〜〜っっっ、い、いえ、何でもないわ……それより、あなたのことについて分かることを話しましょう」

 

 永琳は眼の端に涙を浮かべながらそう言った。

 

 そして永琳の話が始まった。

 その内容を要約するとこのようなものだった。

 

 ・将志は長い年月を経た槍が妖怪化したものである。

 ・槍そのものは大昔にこの町の警備隊が扱っていたもので、理論的には壊れたりすることが絶対にない。

 ・将志自身は生まれたばかりの状態であり、人間で言うなれば赤ん坊と同じ状態である。

 ・妖怪と人間は相容れないものであり、本来であるならばすぐにでも抹殺されてしまう存在であること。

 

 将志は真剣にこれらの話を聞き、自分の中の知識として取り入れた。

 全てを話し終わると、永琳はお茶を飲んで一息ついた。

 

「それで、何か質問はあるかしら?」

「……何故俺は殺されない?」

 

 将志は聞いて当然の質問を永琳に投げかける。

 永琳はそれに笑みを浮かべて答えた。

 

「まず一番の理由があなたに敵意が感じられないからよ。これはあなたの生まれが関係しているのでしょうけれど、元々人間を守っていたものが変化したからだと考えられるわ。二つ目はあなたに利用価値があると考えられるから。後で体力テストをするけれど、それ如何によってはあなたがいることは私にとってプラスに働くわ。最後に私の単純な興味。人間に育てられた妖怪がどんなふうに育つかと言うことが純粋に気になるのよ。これが私があなたを殺さない理由。わかった?」

 

 永琳の言葉を聞いて再び将志の脳裏に自分の使い手だったと思われる男の顔が浮かんでくる。

 

 ―――誓おう、僕はあなただけは絶対に守る。この槍に誓って、この命に代えても―――

 ―――ぐ……う……ごめんよ……どうやら……先に逝くことになりそうだ……―――

 

 男は目の前の人物に槍を掲げ、誓いを立て、戦場の中で朽ちていった。

 その心情が将志の心に流れ込み、真っ白な心を少しずつ染めていく。

 真っ白な心を染め上げたのは忠誠と戦士としての誇り、そして志半ばで散った男の無念。

 その忠誠心の方向は命を拾った永琳へ。

 将志は気が付けば槍を掲げていた。 

 

「ま、将志?」 

「……誓おう。俺は主を今度こそ絶対に守る。俺の槍に誓って、命に代えてもな」

 

 突然の将志の宣言に永琳は唖然とする。

 いくら赤ん坊と同じくらい純粋だからと言って、まさかここまで言われるとは思っていなかったのだ。

 

「……将志? ((主|あるじ))ってどういうことかしら?」

「……本来俺は何も分からず殺されるはずだった。だが、主は俺を見つけて知識を与えてくれた。言ってみれば命の恩人とも呼べる。主と認めるには十分すぎる。頼む、俺の主になってくれ」

 

 射抜くような視線で永琳を見つめながら、厳かな声でそう話す将志。

 そんな将志の様子に、永琳は額に手を当ててため息をついた。

 この将志の状況を見てとある現象に思い至ったのだ。

 

 それは刷り込み。

 生まれたばかりの雛が、初めて見たものを親だと思い込んでついて来る現象である。

 そして将志はまさに生まれたばかりであり、永琳はそれを拾い上げたのだ。

 刷り込みが起こっても何の不思議もないのだった。

 

「……まあ、どの道あなたにはここに居てもらうつもりだったから良いけど」

 

 永琳は少々苦笑混じりに将志にそう話す。

 永琳にとっては観察対象が近くにいるほうが都合が良いので将志の申し出は都合が良いのだが、少々大げさすぎて少し戸惑っているようである。

 

「……ありがたい。それではこれから宜しく頼む、主」

 

 そんな永琳の様子に気づいているのかそうでないのか、将志は恭しく頭を下げた。

 永琳はそれを若干苦笑しながらそれを受ける。

 

「そんなに堅苦しくしなくて良いわよ。それよりも今からあなたのことをもっとよく知りたいから、少しテストをさせてもらいたいのだけれど良いかしら?」

「……構わない」

 

 そう言う訳で将志は永琳が出すテストに挑むことになった。

 

 

 まず、五十メートル走。

 

「…………」

「……どうかしたのか、主。遅かったのか?」

「……いえ、流石は妖怪ね……」

 

 永琳の手元のストップウォッチはゼロ秒。

 あまりに速すぎて、ボタンが押せなかったのだ。

 

 

 続いて槍投げ。

 

「はあああああああ!」

 

 将志は全身の筋肉をしなやかに動かし、体全体で競技用の槍を投げた。

 槍は唸りを上げて飛んで行き、あっという間に見えなくなった。

 二人して飛んでいった先を無言で見やる。

 

「……」

「……」

「…………」

「……取ってくる」

 

 

 記録、測定不能。

 

 

 

 お次は重量挙げ。

 

 将志の目の前に置かれているのは巨大な金属の塊。

 その塊はとても重く、運ぶのに相応のクレーンが使われる程であった。

 

「……ふんっ!!」

「はい、測定不能ね」

 

 しかしそれはあっさり持ち上げられ、記録は測定不能と相成るのであった。

 

 

 

 そして番外編の耐久力。

 

「あっ」

 

 後片付けをしている永琳の手から、湯飲みが滑り落ちる。

 その湯飲みは、わずか五センチメートル下にいた将志の頭を直撃した。

 その衝撃は、軽く頭を小突かれるのと同程度のものであった。

 

「……がっ」

 

 しかし、将志はその瞬間床に崩れ落ちてしまった。完全に気を失ってしまっており、ピクリとも動かない。

 確認してみると、瞳孔が開いていて気絶しているのが分かる。

 

「何でこれだけ人間以下なのよ……しかも高所からの着地とかは平気なのに……」

 

 そんな将志を見て、永琳は呆れ半分に首をかしげるのであった。

 耐久力、濡れたトイレットペーパー程度。

 

 

 

 テスト終了後。

 

「何か色々と矛盾する結果が出てるけれど、正直妖怪だとしても生まれたばかりとは思えないスペックね。……一体何があなたをこんなに強い妖怪に仕上げたのかしら?」

「……分からない」

 

 テスト結果を見て、永琳は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

 将志はその様子を見て何が問題なのだろうかと首をかしげる。

 とりあえず、豆腐を肩に投げつけられて脳震盪を起こす軟弱っぷリは問題であろう。

 

「……主、次は何をすればいい?」

「そうね……これほどの力を持っているなら能力を持っていてもおかしくは無いわね。今度はそれをチェックしてみましょう」

「……了解した。それで、どうすればそれが分かる?」

「そうね……眼をつぶって、自分の中を覗いて見る感覚でやってみなさい。こればっかりは感覚でしかないから、上手く行くかどうかは分からないけどね」

「……やってみよう」

 

 将志は眼を閉じ己が内に埋没していった。

 そうしているうちに心の中が段々と静まっていき、己の中身が見渡せるようになってきた。

 そんな中、段々と頭の中に浮かんでくるものがあった。

 

 

                『あらゆるものを貫く程度の能力』

 

 

 その言葉が見えた瞬間、将志は眼を開いた。

 

「どうだった?」

「……主。俺の能力は『あらゆるものを貫く程度の能力』らしい」

「能力まで完全に攻撃特化なのね……防御に使える能力なら良かったのだけど……」

 

 永琳はそう言いながら頬を掻いた。

 その様子を見て、将志はわずかながら眉尻を下げて肩を落とした。

 

「……期待に添えなかったか……」

「え、あ、ああ!! そう言う訳じゃないのよ!? 生まれてすぐなのに能力を持っていた時点で万々歳なんだからそこまで気にすることは無いわよ!?」

 

 肩を落とす将志に永琳は慌ててフォローを入れる。

 将志はそれを受けて少しだけ顔を上げ、何処と無く不安げな瞳で永琳の眼を見る。

 

「……そうなのか?」

「ええ、そうよ。ただでさえ能力持ちはそんなに多くないのに、生まれてすぐで能力を持っているのはもう滅多にいないわよ。だから気を落とさないでむしろ喜ぶべきよ?」

「……そうか」

 

 そう言うと将志はすこし嬉しそうに口角を吊り上げた。

 永琳はそれを見て思った。

 

(……なんだか将志って犬みたいね……)

 

 永琳は試しにそこらにおいてあった木の棒を拾ってきた。

 そして将志の前に立つと、

 

「将志、取ってきなさい!!」

 

 と言って木の棒を遠くに投げた。

 

「……御意!」

 

 すると将志は即座に猛スピードで木の棒に向かって走っていった。

 そして棒が地面に落ちる前にキャッチし、数秒もしないうちに戻ってきた。

 

「……取ってきたぞ主……どうかしたのか?」

「…………(ふるふるふるふる)」

 

 木の棒を取ってきどこか誇らしげな将志を見て、永琳は腹を抱えてその場に座り込んだ。

 笑いをこらえることに必死で、その肩は小刻みに震えている。

 もう永琳の眼には、将志に犬の耳と尻尾が付いているように見えてしょうがないのだった。

 

「……主?」

「い、いえ、何でもないわ……と、とにかくあなたの能力が分かったのだから、今度は実践してみましょう」

 

 永琳は息も絶え絶えにそう言うと、何とか立ちあがって移動を始めた。

 将志も槍を持って永琳の後ろについてゆく。

 すると目の前には巨大な金属の塊が置いてあった。

 

「……主、次は何を?」

「次はこの金属塊に穴を開けてみて欲しいのよ。まずは能力を使わずに槍で普通に突いてみて」

「……了解した。はああああああ!」

 

 将志は槍を水平に構え、何も考えずに自突きを放った。

 自然な構えから、無駄な動きの無い最速の突きであった。

 

「ぐっ!?」

 

 しかし、目の前にある金属塊は固く、絶対に壊れない槍を持ってしてもわずかに傷が付く程度だった。

 それを見て、永琳は軽く頷いた。

 

「やはり無理か。それじゃあ、今度は目の前にあるものを貫通できるように能力を使ってついて御覧なさい」

「……御意」

 

 永琳の言葉に将志は再び槍を構える。

 今度は意識を槍の先端と相手に集中させる。

 そして相手を貫くイメージが出来上がると同時に、自らの出せる最高の一撃を繰り出した。

 

「……はっ!」

 

 すると今度はほとんど手ごたえ無く、まるでプリンを楊枝で突き刺したかのような感覚であっさり槍は金属塊を貫通した。

 勢い余って、将志は金属塊に顔面から突っ込んだ。

 

「ぐおおおおおっ!?」

「……あら」

 

 ぴくぴくとその場に倒れて痙攣する将志を、永琳は呆然と見つめる。

 永琳はしばらくしてから懐に忍ばせておいた救急キットを取り出して将志の手当てをした。

 すると、すぐに将志は意識を取り戻した。

 

「大丈夫かしら、将志?」

「……ああ……手間取らせてすまない……」

 

 永琳の手を煩わせたことが気になるのか、将志は少々沈んだ声を出す。

 それを聞いて、永琳は微笑みながら将志に声をかけた。

 

「落ち込む必要は無いわよ。まさかあんなにあっさり貫通するとは思わなかったもの。さ、そんなことより次行きましょう。次は能力を使いながら指で軽く突いてみて」

「……了解」

 

 将志は今度は金属塊に軽く指を埋没させるイメージで金属塊を押した。

 すると、金属塊の中にずぶずぶと指が沈み込んで行く。

 

「……これでどうだ、主」

「ええ、上出来よ。とりあえず、これであなたの能力がどんなものなのかは大体わかったわ。まだ実験し足りない部分もあるけれど、今日はもう遅いから明日にしましょう」

「……了解した」

 

 褒められてうれしいのか、将志の顔にうっすらと笑みが浮かぶ。

 永琳はそれに笑い返すと、夜の帳が落ち始めた外に向かって歩き出した。 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 あとがき

 

 こちらでは皆さん初めまして、F1チェイサーです。

 

 あちこちで連載させてもらっていますが、もっと色々な意見が聞きたくてこちらでも掲載することにしました。

 皆様、ご意見ご感想を宜しくお願いします。

 

説明
この作品は東方projectの二次作品、『銀の槍のつらぬく道』の第一話です。これ以降は、タグ検索で話を追ってください。
なお、この話はオリキャラがかなり多く、途中から主人公が増えますので、苦手な方はご注意ください。

では、まずは一番最初。
一本の槍が、生涯貫く誓いを立てるお話。
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コメント
こちらこそよろしくおねがいします。(F1チェイサー)
…えぇと、改めましてお久し振りです。そう言えば、Arcadiaでは単に「クラスター」とだけ名乗ってた事を忘れてましたよ。Arcadia以外では、「クラスター・ジャドウ」と名乗ってる事が多いので、まぁ宜しく。(クラスター・ジャドウ)
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