IS x アギト 目覚める魂 36: キモチ |
一夏が目覚めるまで、皆はその場を動かなかった。一夏の目が覚めたのは空が白み始めた早朝だった。点滴の針を腕から引き抜き、心電図のモニターから自分に繋がっているケーブルを剥がした。軽く動いてみるが、何の症状も無い。
「体が慣れるまで掛かるか・・・・」
ベッドの両隣では、寝ずの番をしていたのか、六人がそのままベッドに突っ伏して眠っていた。簪は意識してかせずか、一夏の手を握って離さない。
「皆、心配かけちまったか。ごめんな・・・・」
「すげえ眺めだな。」
「秋斗、さん・・・・」
「ようやく名前で読んでくれたか。」
「俺、どうしたんですか?」
「不完全隊のアギトであるお前は、別の『光』を二つ取り込んで変身の度に掛かる負担を軽減しようとした。だが、その力はまだ完全にお前の体に馴染んでいないから、あの現象が起こった。俺も経験しているから、そこら辺は追々話す。気分はどうだ?」
「・・・・腹減りました。」
「だろうな。ほらよ。」
カーテンの一角を捲ると、弁当箱やバスケットがそこに堆く積まれていた。恐らくあの六人が作ったのだろう。他にも何人かがお見舞い品として果物やカードを置いている。それを全て折り畳めるテーブルの上に並べて食べ始めた。一夏は元々大食いなので、一日のカロリー摂取量は同年代の男子の約倍近くだ。そして一人、また一人と一夏の咀嚼音で目を覚ます。
「よう、お前ら。心配かけて悪いな。お前らの作った飯、ギガ美味いぜ。」
いつもの笑みを浮かべて食事を続ける。
「一夏・・・・!?」
「ほ、本当に、大丈夫ですの?」
箒とセシリアがまた機能の様な出来事が起こるのではないかと気が気では無い様だ。
「おう。見ての通りだ。あ、鈴、麻婆豆腐上手く出来てるな。辛味がしみるぜ。」
「良かったぁ・・・・一夏、僕達を守ってくれてありがとう。アギトが誰か分かったら、ちゃんと御礼が言いたくて・・・・」
シャルロットはへたりこんで深く息をつく。
「全く・・・・あの時あれ程までに苦しんでいたと言うのに、見る影も無いな。心配して損をした気がするのは私だけか?」
「一時的な物らしいから、大丈夫だ。流石は軍人、料理当番とかもあるからか美味いな。確か、シュニッツェルだったか?ボリュームたっぷりの肉だな。」
相変わらず食事をやめずに話し続ける。
(ギュッ)
突如、簪が抱きついて来た。そして抱きついたまま離す気配が無い。万力の様に力を籠めている。一夏には見えないが、必死に泣くまいと涙を堪えていた。
「簪。ごめんな。でも、俺はこう言う奴だからさ。心配も迷惑もかけちまうと思うけど。愛想つかさないでくれよ?お前の飯が食えなくなったら・・・うう、考えただけでも恐ろしい。」
「うぅ・・・くぅ・・・・!!!」
「一夏、彼女とは・・・・どう言う関係?」
鈴音がそう聞いた。そう、彼女を含め、箒とセシリアも一夏に片思い中なのだ。利かれるだろうと思っていたのか、一夏は箸を置いて食事の手を止めた。
「シャル、ラウラ、少し・・・・外してくれるか?」
二人は余計な詮索は無粋と判断して何も言わずに退室した。
「こんな格好で済まないが、真面目な話だ。実は、俺は彼女と・・・・更識簪と付き合ってる。箒達と知り合うずっと前から彼女を知っていた。十年前後も昔の話だ。過ごした時間は半年だけだが、俺は彼女のお陰で変わる事が出来た。俺が、新しい力を手に入れて皆を守る事が出来たのは彼女のお陰だ。長い間黙っていた事は謝る。本当にすまなかった。だけど、彼女を責めないで欲しい。そして、願わくば友好的な関係は保って、続けたい。」
座ったままだったが、一夏はその場で深々と頭を下げた。
「・・・・分かりましたわ。そこまで言われてしまっては、反論する気も起きませんもの。更識さん、と言いましたわね。一夏さんの様な男は早々おりませんわ。ですから、大事にしないと罰が当たりますわよ?」
「そうね。ウカウカしてたら即行で奪い返すからそのつもりで。」
「鈴に賛成だ。以下同文、覚悟しておけ。」
「皆・・・・待たせた挙句、こんな事しか言えなくて本当にごめん。」
三人は薄ら笑いを浮かべたまま出て行った。一夏は複雑な気持ちだった。
「・・・・嫌な気分だ。あー、もう・・・・・折角飯食って良い気分だったのに、余韻が台無しになった・・・・」
「一夏・・・・・ありがと。」
「ん?」
「助けられてばっかりだったから・・・・・・」
「女を守るのが男って生き物だ。俺は昔はヒーローになりたいと思っていたが・・・・今はそうでもない。」
「何か、分かる気がする。ヒーローなんて物は所詮御伽話の中にしか、いないんだよね。」
「完全無欠のヒーローってのは、負けない。でも、笑いもしなければ泣きもしない。だから、俺がなりたいのはもっと別の何かだ。言ってしまえば、剣と楯かな?誰かを守る事が出来る物になりたい。」
「なんか・・・・・一夏らしい、と言えばらしいのかな?」
二人の間に沈黙が訪れたが、不意に一夏が吹き出し、簪もそれにつられて笑ってしまった。
「簪。ありがとな。」
(チュッ)
簪は何も言わずに一夏の顔を両手で挟んでキスしてやると、保健室から出て行った。
「・・・・・・またデートに連れて行ってやらなきゃな。」
そう言いながら今日の分の栄養剤と睡眠薬を飲み、意識は闇の中へとゆっくりと溶ける様に落ちて行った。
説明 | ||
特に特筆する事はありません。三十六話です。どうぞ。 | ||
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インフィニット・ストラトス 仮面ライダー アギト | ||
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