超次元ゲイムネプテューヌmk2 OG Re:master 第十話
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キラは自らが身につけている衣服の襟元を掴んで変な顔をした。

いや、正しくは『身につけさせられた』衣服だが。

「あの、ホントにこれ着ないといけませんかね……?」

恐らくコーディネーターであろう男性にキラは問い掛ける。しかし、当然というか男性は小さく頷いて「ええ」と短く答えるのみだった。

もう何度目かも分からない溜息を吐いてキラはゆっくりと立ち上がる。

 

今、キラが身に纏っているのは燕尾服だ。

やはりパーティとは言ってもそれなりに格調高いモノなのだろうかとキラは思い直す。

自分のパーティのイメージとしては一ヶ月ごとにギルドの方で催される焼き肉大会のようなものしかないのでキラはだいぶ所帯染みているとも言える。そんなものだからどうにもこのようなパリッとした服は落ち着かない。

おかしいところはないかと確認しながらレッドカーペットの敷かれた廊下を歩く。

目の前を歩く女性に指示されてキラは一枚の扉の前に立つ。少しばかり年季の入ったこんな最新鋭の建物にしては珍しい構造の扉だが、とにもかくにもキラは扉を押し開けて入室した。

そこには恐らく数十人単位の人間がにこやかに、とは言えないがそれなりに楽しそうに談笑していた。それを横目に自分はどうしたらいいんだろうかと思いながらキラは端に避ける。

「ッ……」

そっと吐息。

なんだかんだ言ってあのままネプギアとは会えず終いだったとキラは壁に背を持たれてそう思う。

――心配だ。

あの後、彼女はどうなったのだろうかとか自分のようにイストワールと話をしているのだろうかとか色々と思うところはあったがせめて、せめて最後に彼女と話したかったのだ。きっとこれが最後になってしまうのだろうから。

そう思うとやはりどこか思うところがある、とキラは吐息する。色々とトラブルもあったが彼女と過ごした時間はキラにとって何よりも楽しいモノだった。だからこそ、彼女がいなくなってしまえばその時間も終わりになってしまうから。

「キラさん」

「っうわ!?」

突如として右手側から掛けられた声にキラはビクリと身を震わせる。視線を向けるとそこにはイストワールが立っていた。

「び、吃驚させないでくださいよ……」

「すいません」

動悸を鎮めるように胸に手を当てるキラにイストワールは申し訳なさそうに苦笑した。

それはそれとして、とイストワールは背後でもたついているらしい『少女』に言葉を投げかけた。

「もう、いつまでも恥ずかしがっていないでください」

「だ、だけど……」

もじもじと白い夜会服の腰部を握って少女はそう返答した。そして、その姿にキラは息を呑んだ。

今まで感じられなかった上品さ、大人っぽさが纏われている。衣服のみでこんなにも変わるモノなのかと言うほどに。

「ネプ、ギア……?」

「う、うん」

顔を赤らめてネプギアは答えた。

さっきとは別の意味で動悸が激しくなっていた。ごくりと唾を飲み込んでキラはネプギアの姿に釘付けになってしまう。いや、もう外界全てのことがどうでもよくなってしまうのだ。

「ど、どうかな?」

きっと似合っているかどうかを聞きたいんだろう。キラはその意図を認識するまでに数分を要した。

「き、綺麗だと思う……」

キラ自身も『可愛い』ではなく、『綺麗』が出たのは上出来だと上手く働かない頭でそう思った。

ネプギアはほっとした表情をして胸元を押さえる。

「よかった。キラも格好いいよ」

「そ、そうか。……まあ借り物だし、当たり前かな」

照れくさそうにキラは後頭部をポリポリと掻く。

初々しいやりとりだ、とイストワールは微笑ましくそんな二人を見つめていたがそろそろ頃合いかと時計に視線を移して二人に声を掛ける。

「では、主役も集まったことですしそろそろ挨拶をしましょうか」

「へ?」

キラは素っ頓狂な声を上げる。

「今日のパーティはネプギアさん帰還を祝して、それにキラさんへの御礼のためのものでもあるのでもちろん主役なんですよ?」

「しゅ、主役!? 俺はそんなの聞いてな――!」

駄々をこねるキラを数人の女性SP達が取り囲んで無理矢理に壇上に上がらせた。

 

 

「それでは皆さん、盛り上がってきたところで主役の登場ですよ!」

イストワールが壇上のマイクを使ってキラとネプギアを指した。

二人とも恥ずかしそうにてれてれと頬を朱に染めて微苦笑を振りまいていたが、どうにもそこら辺がメンバーに受けたらしく

『うぉぉおおおおおおッ! ネプギア様ぁ――ッ!!!』

『キャ――――ッ!! キラくーん!!!!』

などと男女入り交じった声が会場に響いていた。

それに対してもう笑うしかなくなった二人の人気が更に上がっていったのだがここでは割愛させて頂く。

とりあえずいつまでも壇上に上がっていてもなんだと言うことで二人はしずしずと階段から下りる。キラとしてはネプギアとゆっくり話したい思いもあったので彼女を連れてバルコニーに出た。

ふわっと夜の涼しい風がネプギアの髪を揺らす。

キラは手すりに肘を置いて星空を眺める。その横にネプギアもゆっくりと歩み寄ってそっと手すりに両手を添える。

暫しの沈黙。それを破ったのはキラだった。

「……どうだった? 教会に戻ってきて」

「え?」

風に揺れる髪を押さえながらネプギアはキラの言葉を確認するように問うた。

星空をバックにする彼の横顔はあまりに悲しそうでネプギアは、なんとなく彼の意図するところが分かったように視線を落とした。

「あんまり、変わらないかな……」

「そうか……」

頬杖をついてキラはそう返した。

「出迎えてくれる人もあんまりいなかったし……よく話す人だってお姉ちゃんやアイエフさんとかいーすんさんとかしかいなかったよ?」

「……いーすん?」

そんな人いたかなとキラは小首を捻るが、ネプギアの方は慌てたように修正した。

「えと、イストワールさんの……渾名、かな? お姉ちゃんがそう呼んでたから私も知らないうちにそう呼ぶようになってて」

「ふぅん……」

それはそれとして、寧ろキラの方が気になるのは先程のネプギアの発言だった。

(出迎えてくれる人もあんまりいなかった……か)

それは寂しいな、と思う。キラも、その思いは十分に理解できた。

孤独の辛さ、寂しさ――それら全て。

夜空に浮かぶ満月だけが、全てを照らしているように思えた。

「俺もだよ……」

「……そう、なんだ」

不意に発した答えにもネプギアは驚きつつ答えた。

満月の夜の密談はこうして終わりを告げていく――。

 

 *

 

同時刻――。

壇上に用意されたテーブルで暢気に料理を口に運んでいたイストワールに声が掛かる。

何事だろうとそちらに視線を向けると、そこにはアイエフが神妙な面持ちでいた。

「何かありましたか?」

イストワールはアイエフの属する諜報部の管理も行っているために、精々その報告か何かだろうとたかを括っていたが、しかしアイエフの方はできるだけ穏便に、けれど切羽詰まった様子でイストワールに耳打ちする。

「こんぱが帰ってきてないんです」

「……あれから、ですか?」

あれからというのは昼にコンパが備品の購入に赴いたときからだ。アイエフはこくりと頷く。

「おかしいですね。今日はパーティをするとメールを送っておいたのですが……」

顎に手をやって考え込むような仕草を取るイストワール。アイエフの方も携帯を出してコンパの番号に掛けてみるがコール音が響くのみで出る気配はなかった。

「もしかして、何かに巻き込まれたとか……?」

「昨日の今日ですし、可能性もなくはないですね」

「ッ――! 探してきます!!」

「あ、アイエフさん!」

イストワールの制止も横に流してアイエフは足音荒くパーティ会場を後にする。

「コンパさんは無事なのに……」

まるで確信を得ているかのように、イストワールはそう呟いたのだった。

 

 

夜の闇の中に駆ける影が一つ。

それは、あまりに頼りなくそして悲しげだった。

雨に打たれようとも、それを何とも思わずにただただ疾駆する。

アイエフはごくりと息を呑む。

「こんぱ……!」

ずり落ちるコートを引き上げて泣きそうに声を漏らす。

「アンタだけはいなくならないでよ……でないと私……わたし……!!」

アイエフは心の底からの願いを、ただただ――吐き出した。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

パーティを終えてキラは再びレッドカーペットが伸びる廊下を歩いていた。

今回はSPの女性ではなく、ネプギアと共にそこを進んでいる。

豪勢な料理の数々でそれなりに満ちた腹をさすりながらキラは傍らを歩むネプギアに視線を向けてから口を開いた。

「パーティ、楽しかったな」

「そうだね。まあ、色々と疲れたこともあったけど」

「ハハッ、それは同感」

あの後、バルコニーから戻った二人を待っていたのは会場の人々で、数十人単位の人間にもみくちゃにされて二人が料理にありつけたのはパーティ終了三十分前だった。

そんなわけだから腹満ちもそこそこにパーティは切り上げられていたのであった。

「そう言えば、結局最後までアイエフさんもコンパちゃんも来なかったな」

「……そうだね」

何故か不機嫌なオーラを放つネプギアにその横で妙な悪寒を感じるキラ。しかしながらそのことについてはネプギアとしても心配な様子で不安そうな表情で俯く。

「でも、確かに心配だよね。変なことに巻き込まれてないといいけど……」

『そんなことない』と、キラは否定しようとした。けどあの性格なら何らかのトラブルに巻き込まれてもおかしくないな……と思い直した。そう考えると次第に心配になってくるから不思議だ。

「む〜……そうだな。少し周辺を見てくるか?」

キラの問いにネプギアはこくりと頷く。

 

 

着替えて雨の刺す街中に二人は繰り出す。

教会の人に聞いてコンパが向かったという店に赴くが、そこには寄ってはいたという。

「てことは、帰り道で何かあったのかな?」

「まあ、普通に考えればそうだな」

帰り道でキラとネプギアはそんな会話を交わす。

二人の差す傘に雨粒が当たる音だけが響いているようにも思えた。それはまるで、不幸の前兆のように不穏な空気だけが流れているようにも思えてキラはぶるっと震えた。

――いや、きっと冷え込んでいる所為だ。

と、思いたかった。不幸の予言なんて御免だとキラはぷるぷると首を横に振った。

 

――パシャ……と地面に広がった水が爆ぜる。

 

「もしかして寄り道してるのかも……」

「それはそれでこんなに遅くなるのなら連絡の一つでも入れるだろ、普通は」

天然か、この娘……とキラが少しネプギアの性格を疑い始めた。

 

――パシャパシャと走るように、そして一方はゆっくりと一歩一歩を踏みしめるように。

 

「やっぱり事件とか妥当だろ? コンパちゃん可愛いし――ぐぇっ!」

キラの語尾が変なのはネプギアの掌底が脇腹にクリティカルヒットしたためである。

しばらく痛みに悶えて蹲るキラの横でネプギアは心配そうにキョロキョロと辺りを見回す。

「でも誘拐とかだったら心配だよね……。アイエフさんに連絡した方がいいのかなぁ……?」

どうにかダメージから回復したキラが力無く立ち上がったところでとん、と軽いモノではあったがキラの身体に衝撃が走る。

気になってそちらに視線を向けるとやや下方に見慣れた姿の少女が尻もちをついていた。

「ッ――!」

「アイエフさん? ――って、ずぶ濡れじゃないですか!?」

キラは慌てて自身のコートを脱いで彼女に羽織らせる。

彼女の肩がカタカタと小刻みに震えている。もしかして風邪でもひいてしまったんだろうかとキラは心配そうに眉を寄せる。

「アイエフさん、大丈夫ですか?」

「――、」

しかしアイエフはそれに答えることはなくヨロヨロと立ち上がる。

「何でもないから、アンタ達はさっさと帰ってなさい……」

「……もしかしてアイエフさんもコンパさんを探しに来たんですか?」

ネプギアがそう問うた時にアイエフはカッと両目を見開いていた。

「……そう、よ」

消え入りそうな声でアイエフは答えた。それに納得したような表情になってネプギアが声を掛ける。

「それなら一緒に探しましょうよ。みんなで探した方が早いですよ」

「いい……これは、私だけの問題だから……」

水滴のついた顔面を拭うことなく、アイエフは背を向けたまま答えた。それに対してネプギアは心底不思議そうな表情になる。当然、キラもだ。

「どうしてですか? 一人よりはきっと効率もいいですよ? だから……」

「ッ――! 私が見つけたいって言ってるの! 邪魔しないで!!」

アイエフはキラの言葉を遮って恫喝した。

キラだけでなく、ネプギアの方もビクッとアイエフの剣幕に身を引く。アイエフの方は少し戸惑ったように唇をきつく結んでからふいとまた視線を目の前に戻した。

「……私が見つけてあげないといけないのよ。あの子も、『アイツ』も……!」

アイエフが両拳を固める。

後悔の波が押し寄せるように、だからこそ背後からでもその表情は容易く分かった。何かに耐えるようにギリと歯を食いしばって、瞳の端に涙を溜めている。

キラが一瞬、動きを止める。それからアイエフに声を掛けようとしたときに携帯のコール音がその空間の中に木霊する。

「……わ、私の携帯じゃないみたい」

ネプギアはポケットから彼女の携帯を取り出して液晶画面を見つめてそう答えた。キラも自分の携帯を確認するが着信はない。

アイエフのモノだろう。彼女が懐からピンク色の携帯を取りだして耳に当てていた。

「……はい」

アイエフの表情は依然として浮かないモノだった。しかし、次の瞬間にアイエフの表情は驚愕に満ちたモノに変わっていた。

「こんぱ……?」

 

 *

 

「こんぱ!」

アイエフはいの一番に彼女の姿を見つけて飛びついていた。

身長差のせいか姉妹、悪くても母子に見えてしまう感じではあったがそこは口出しするところではないし、どうでもいい事柄なのでキラは黙した。

それはそれとして、彼女はそんな表情を見せるのかとキラは少し呆然としていた。

「心配、掛けて――ッ!」

「ご、ごめんなさいです……」

どうやらコンパはこの公園の休憩場のベンチで眠ってしまっていたらしい。幸い屋根のある大きめの場所だったので彼女の身体に雨は当たっていなかった。

コンパの胸の中で小さく嗚咽を漏らすアイエフの姿を、見てはいけない気がしてキラは視線を外しつつ、傍らのネプギアに小さく問い掛けた。

『アイエフさんってあんなキャラだったっけ……?』

『わ、私も初めて見たけど……』

ネプギアの方もだいぶ衝撃的だった様子で表情は崩さないモノの声は震えていた。

それはそうとして兎も角は一安心、と言う感じでキラはホッと胸をなで下ろす。実際のところ、キラは表面上では落ち着きつつも内心では結構に焦っていた。だからこそ、こうして彼女が無事でいたことに対する安堵が彼の胸を満たしていた。

「それはそうとコンパちゃんはいったいどうしてこんな場所に寝てたの? ここ、通り道じゃないよね?」

ひとしきりアイエフが落ち着いたところでキラは抱いていた疑問を口にした。

言われてみれば、とネプギアが声を漏らす。ここは中心部から少し離れた人気のない公園。タワーに向かうにはあまりにコースを外れ過ぎていた。

記憶を探るようにコンパはう〜む、と唸る。

「なんで、ですかね……? あんまり覚えがないんです……」

ぐりぐりとこめかみを押さえながら彼女にしては珍しい難しい顔でそう言っていた。

その言葉にキラは眉根を寄せる。簡単な記憶喪失だろうかとキラが奸計を巡らせる。

「気になるな……。一旦教会の方に戻って詳しい話w「ぶえくし!」……アイエフさん?」

おおよそ女性にしては随分と豪快な嚔をかましてずびーとアイエフが鼻をすすった。ネプギアは微苦笑を浮かべ、冷や汗を垂らす。

「流石に濡れたままっていうのはダメですよね。戻って着替えましょうか」

アイエフはその言葉にはずびーと鼻をすすって答えるのみだった。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

プラネタワー一室の前。

そっと壁に背を持たれてキラは真っ白な天井を仰いだ。所在なさげにぶら下げていた両手を頭の背後に回してふうと溜息を吐く。

一室とはアイエフの自室であり、現在キラの周りにいる女性達が着替えを済ませているために男性であるキラのみがこうして閉め出された次第だった。

ごく最近まで一人でいたというのにたった数日でもう一人が怖くなってしまったなとキラは自嘲気味の笑みを零し、そっと目を伏せる。今まで視覚に使っていた神経がその他の感覚を更に研ぎ澄まさせた。

そこは当然ながら若い少女であるからして黄色い声がキラの耳を突くのだが――。

 

「あ、コンパさんの服可愛いですね!」

「そ、そうですかぁ?」

「それ、この間雑誌に載ってたヤツよね。やっぱりコンパは流行『には』鋭いわね」

アイエフがやたらと『には』を強調していた。

「流行『には』って何ですかぁ……?」

それだけのことなのにコンパは軽く涙声だった。

「ごめんごめん。……って、ネプギア? 何見てるのよ」

ネプギアの熱い視線ががジーッと何かに向かって伸びていた。それを見てアイエフとコンパの二人は首を傾げる。次の瞬間にネプギアはがばっと背後からコンパの豊満な膨らみを鷲掴んでいた。

「きゃ……!? ぎ、ギアちゃん?」

「凄い……何を食べたらこんなになるんでしょうか……」

敗北感すらも感じないようで感嘆の声を上げるネプギア。

それに対して『何を今更……』というようにアイエフが吐息するが、やはり彼女も寺取りの少女と言うべきか気になるところではあるらしく。

「ま、確かにコンパは凄いわね。やっぱり看護士ってところも関係あるのかしら」

「もぉ、あいちゃんまで……」

ネプギアの魔の手から抜け出したコンパが恥ずかしそうに赤面して胸元を押さえた。しかしながら彼女の腕に収まりきるはずもなく、たゆんと揺れるそれを見てネプギアとアイエフの二人の額にビキリと青筋が走る。

「自慢か!」

「コンパさんは私達の気持ちなんて分からないんですね!」

ビシ、とコンパを鋭く指して二人はそう言った。

「ふぇえ!? 二人ともどうしちゃったんですかぁ……?」

しかしコンパの言葉など通るはずもなく二人は暴走を続ける。

 

それを何とも言えない心持ちでキラは聞き流していた。

どうでもいいが、せめて扉の向こうに男がいるという認識だけは最低限してほしいなぁ……という彼の儚い願いなど悩める少女達には届くはずもなくぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていた。

なんとなく居たたまれない気持ちになり、そっとキラはその場を離れる。

やはり勤務時間外だからだろうか。ふと周りを見回しても職員はおらず、ひっそりとした雰囲気だけが蔓延っていた。

そんなゆったりとした時間を流していたキラの背後から声が掛かった。

「キラさん?」

ビクとキラの身体が一瞬だけ浮く。動悸を押さえながらキラはゆっくりと振り向くとそこにはイストワールの姿があった。

「脅かさないでくださいよ……」

「す、すいません。一応、気をつけてはいたんですが」

イストワールが申し訳なさそうに頭を垂れる。なんとなく罪悪感を覚えて頭を上げるように言った。

「それより、帰っていたんですね」

「はあ……まあコンパちゃんも見つかりましたし」

チラと遠くに見える一室に視線を送る。それを追ってイストワールの方も視線を送ってから再びキラに向き直る。

と、そこでキラは思い出したように声を上げた。

「あの、イストワール様。聞きたいことがあるのですが……よろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

そう言えばすっかり当初の目的を忘れていたとキラは思い直す。ここに来た目的はゆったりとパーティを楽しむためではない。

幸い、彼女は教祖だ。女神ほどではないにせよ、きっとその道にも精通しているだろう。

キラは思い切って口を開く。

「実は、シェアの効率のよい上昇の仕方をご教授願えないかと思って今日は伺ったのですが……ご存じでしょうか?」

「効率のよいシェアの上昇の仕方……ですか?」

イストワールは顎に手をやって考え込む。それからスッと視線をキラに送ってからやけに重々しく口を開く。

「それは……女神救出のため、でしょうか?」

「……そう、ですが?」

何かいけないのだろうか、と思うほどにイストワールの表情は険しいモノだった。キラは不安を抱きながらゆっくりと口を開く。

「あの……それはいけないこと、でしょうか?」

「……いえ、そうではないですが」

イストワールは「ふむ……」と声を漏らしてからスッとキラを見据える。

「そのことについては、また明日にお話しましょう。今日はもう遅いですし、明日は時間の方はよろしいでしょうか?」

「え? ……まあ、俺の方は問題はありませんが」

キラの返答を聞き、イストワールは明日の日時などを伝えると同時に三人が着替えを終えて部屋から退室していた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「ッ」

がくん、とマジック・ザ・ハードの身体が揺らいだ。

それを横目に見ていたブレイブ・ザ・ハードが不思議そうな声音で尋ねる。

「どうした? らしくないが」

「……なに、少し考え事をしていてな」

額部を押さえながらマジックはそう答えた。しかしそうであったとしても彼女がそこまで気を取られる事柄があるのかとブレイブは疑問に思ったわけではあるのだが。

「気になること、か。お前がそう言うということは結構なことなのか」

「いや……現時点では驚異には成り得まい。しかし、放っておけばいずれ我々の動きを妨害する種にならない、とも言えん」

「ほう」

しかしながらブレイブの方はさして気にする風もなく、寧ろ感心したような声を上げる。

「お前がそこまで言うとは……、ジャッジのヤツが喜びそうだな」

「そうも言ってられん相手だ」

「む……?」

彼女の常に険しい表情がまた一段と険しくなったとブレイブは不思議そうな声で返す。

「ヤツが動くとき、決まって犯罪神様の力が弱まるのだ。まるでその者に力を奪われるように、な……」

「それは……どういうことだ?」

ブレイブの方も、流石に自分の対象となる人物に多大なる影響を与える者のことは気になるらしく、姿勢を変えてまた問い掛ける。

「犯罪神様に類似する者、あるいは犯罪神様『そのもの』たる存在か……」

「仮に後者が真実だとして、何故そんなことをする必要がある?」

「思想など、存在の数だけある。その数は無限だ……。だが、犯罪神様と同となる存在ならば、純粋に力を欲しているだけ、とも考えられるが……」

しかし、それは早計だ。何故ならその何とも知れぬ存在の活動はそれだけに留まっていないからだ。

「犯罪神様の復活を食い止めようとしている……か?」

「なるほど……それはつまり我々に仇為す存在、ということか」

「そういうことになる」

マジックはこくりと頷く。

「正体は分からんが、実に惜しいな。あの実力ならば、犯罪神様の力と成り得るというのにな」

「……だがもう仕方のないことだろう」

「そうだな……ヤツの始末は任せる」

「おいおい……正体も分かっていない者をどう探し出せと言うのだ?」

ブレイブの方は参ったように声を上げるが、マジックの方は鼻を鳴らして答える。

「簡単な話だ。……犯罪神様に刃向かう者は殺してしまえば、全て事は済む」

「む……だがな」

何故かブレイブは渋々と言った風でマジックの言葉を受ける。

「我々の存在意義を忘れたか。いつまでも駄々をこねているヒマはないのだぞ」

「……分かった」

ブレイブはその巨体を翻して大地の果てに消えていく。

それを見送ったマジックはボソリと呟く。

「さて、そろそろ計画の第2段階に移るとするか……」

マジックはふわりとその紅黒い髪を靡かせて颯爽とその場を立ち去っていった――。

 

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最近一週間がすっげー早いんですけど。
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ユウザ「………」チータ「2828」ユ「イストワールは何で無事を確信したんだろ……」チ「果たして、妹もたった一人におちるのか!?」ユ「3日かかるはずなのに……」チ「これは期待!」(ヒノ)
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