魔法少女リリカルなのはDuo 19〜20 |
・第十九 仲違い 仲直り(18禁?)
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身体の調子も随分戻ってきたカグヤだが、それでも身体を動かし始めると心配性のフェイトに止められてしまうので、オチオチ散歩もできないでいた。さすがにカグヤは文句を言うが、悲しそうなフェイトの顔に逆らいきれず、溜息交じりに従う。フェイトの過保護ぶりに、今度ばかりはザフィーラとは変に気が合ってしまい、すっかりカグヤの愚痴相手になってしまっていた。
それはそうと、彼らの中で、少しだけ困った事態も起こっていた。
っと言うのも、カグヤとリインフォースUの事だ。
カグヤの精神状態は随分落ち着き始めたが、一度傷つけられたリインはカグヤに対して微妙な態度を取っていた。っというか、極端に距離を置き、会わないようにしていた。
「こう言う微妙な状態が一番苦手だ………」
呟きながらカグヤは通路を歩いていた。
フェイト辺りに見つかれば涙目でしかられかねないのだが、正直トイレくらいは他人の力を借りずに行きたいと言うのが本音だ。そもそも必要以上に女に看病されるのは苦手だった。
(看病するのも、されるのも、初めてだったが………、)
妙な気分だと思った。感謝する気持ちと、恥ずかしい様な気持が混ざって、ともかく慣れないの一言に尽きる。
軽くトイレを済ませたカグヤは「さて、これからどうしよう?」などと考えていた。
(このまま戻ってもまたプチ監禁だし………、かと言って別にする事などないし………)
身体の調子を確かめてみる。存外悪い所が残っているようには思えない。あるとすれば右肩の違和感くらいだ。これならもう動き回ってもいいかもしれない。っと言うかいい加減動かないと逆に鈍る。肉体的にではなく、感覚的に鈍る。
とりあえず何か目的はないかと通路を見回し、ちょうど良い相手を見つけた。
「リィン」
通路の先に居たリインフォースUに声をかける。最近不仲気味だったので、改善させるのにも一度話し合った方が良いと考えたのだ。
しかし、声を掛けられたリインは、振り返り、カグヤを認識して―――
「!!?」
固まって―――、
「!!」
逃亡した。
「何故っ!?」
思わず追いかけるカグヤ。
「おい待てって! なんで逃げる!? ………いや、逃げて当然なのか? 俺は何故追いかけている!?」
「私に聞かないでくださ〜〜〜〜いっ!」
通路を飛び回るリインは小さいので、見逃さないように全力で走るカグヤだが、如何(いかん)せん持久力に乏しく、そうでなくとも不調の身………あっさり息が上がってきた。
「はあ、はあ、………ま、まて、コイツ………はあ、はあ………」
「な、何か不気味ですから、息を荒げながら追いかけてこないでくださいです〜〜っ!?」
「う、うるせぇ………、はあ、はあ………、そんな、気になるなら………はあ、はあ、もっとゆっくり飛べ………」
追いかけるカグヤも、「なんで俺、霊鳥使わないで普通に追いかけてるんだ?」っと、自分で疑問に思ったが、今は自分が追いかけないといけない気がしたので、とりあえず走って追いかける。
息は上がりまくって、汗は滝のように流れたが、何故か止まる気にも諦める気にもなれない。この場を逃しても次の機会が無くなるわけではないと言うのに、どうしても自分から諦める気にはなれなかった。
以外にしつこいカグヤに、リインは近くの格納庫へと飛び込み、中に隠れてしまう。
慌ててカグヤも後を追ったが、資材やコンテナが大量に設置されている格納庫では、身体の小さいリインを見つけのは困難を極めた。
(ヘタしたら、コンテナの隙間にでも隠れられそうだよな………)
さすがに探すのは無理だと確信してげんなりとしてしまう。
もういい、ここまで来て捕まえられないのなら諦めよう。そう思って肩をすくめるが、その後もカグヤは、何か居心地の悪い物を抱きながら立ち去れずにいた。
自分でも理由は解らなかったが、それならそれで、どうにかしないといけないと思い直す。そこで、ふと名案が思いついた。姿は見えなくとも、この狭い格納庫内なら声は十分に届く。むしろ反響して何処に居ても届くと言うモノだ。
っと言うわけでとりあえず叫ぶ事にした。
「実はリィンは今朝おねしょしたらしいぞ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
「とんでもないデマです〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「よしっ、とりあえず、まだいるな」
反応を確認してから、表情を切り替え、話し合いへと戻す。
「そのままでいい。声が聞こえるなら聞け」
「な、何です………?」
「なんで逃げるか?」
「そ、それは………だって………」
言葉を濁すリイン。カグヤはどうして彼女が逃げるのかを考えようとして―――すぐに諦めた。下手な予想は原因の悪化に繋がりそうだと判断したからだ。………っとは言え、何も聞かないのでは無責任なのと同じだ。とりあえずこちらから質問を投げかけて行く事にした。
「俺と一緒に居るのが嫌になったか?」
「そういうのでは………ないです………」
「体調不良だったとか?」
「そう言うのでもないです………」
「俺に惚れたのか!? っと、とりあえず有り得ない質問もしておく」
「無いです」
「何かニュアンス厳しくなかったか?」
「そんなことないです」
「それじゃあ………」
一瞬、次の質問をするのを躊躇う。その答えを肯定されるのは、少々恐ろしい。誰もこの事に触れていないのが余計に不安を煽る。だが、何れ聞こうとしていた問いでもある。むしろここは良い機会と考え直し、思い切って問いかける。
「俺の事が、恐くなったのか?」
「恐い? なんでそんな質問するです? また有り得ない質問ですか〜?」
本気で呆れているらしい返答を聞きながら、こっそり胸を撫で下ろす。その上でカグヤは踏み込んだ質問をする。
「あれ………見たんだろう?」
「………」
無言が返って来た。
それが逡巡(しゅんじゅん)から来るものなのか、戸惑いから来るものなのか、姿を見る事の出来なカグヤには想像するしかできない。
なのでカグヤは勝手に言葉を続ける事にした。
「まあ、アレは普通の人間が拝めるようなもんじゃない。俺もあそこまで堕ちたのは………正直初めてだ。戻ってこれた事自体が奇跡に近いな。………アレに敵や味方なんてない。ただ目的を果たす事に存在の全てを掛けている。………お前だって殺されたかもしれない」
「………」
カグヤの言葉には、やはり無言しか返ってこない。
なのでカグヤはやはり勝手に話し続けるしかない。
「無理に一緒に居る必要はない。………いや、それとも俺を放っておく事自体が危険と判断してるのか? そうだよな。お前が俺と一緒に来た理由の一つは、俺が本物の『悪人』になる事を阻止するんだったよな? っで、お前は俺を見限るかどうかを悩んでいる最中と?」
「ち、違います! 私、そんなつもりじゃ―――!」
「ならお前はアレをどう受け止めるつもりだ? 放置していいと判断するには、あまりにも不安定なものだぞ。アレは俺の感情次第で簡単に引き金が引かれる。撃鉄はとっくに持ち上がってんだ。俺は必要とあればまたアレを使うぞ。それでも放置すると言うのか?」
「それは………、そうかもしれませんけど………」
リインの声が弱くなる。その事がカグヤの胸に僅かな歪(ひず)みを作る。歯を食いしばり、視線を下に落としながら、言葉を続ける。
「………なら選べよ。お前が自分で言った事だ。お前は俺の敵か? それとも同行者か?」
「っ!?」
覚悟を迫る様に強く訪ねるカグヤに言葉に、耐え切れなくなったリインが物陰から飛び出し、カグヤの目の前に現れる。
「どうしてそんな話になるんですか!?」
リインはカグヤの鼻の頭を指差し、腰に手を当てながら叱る様にがなる。
「確かにアレは怖かったです! 放置しとくのは危険です! だからってどうしてリインがカグヤさんの敵にならないといけないんですぅっ!?」
いきなり現れて、いきなり怒りだすリインに面喰ったカグヤは、しばらくその姿を眺める事しかできなかった。
「そもそもさっきの選択肢もおかしくないですか!? なんで『敵』か『同行者』なんですっ!? 普通は『敵』か『味方』か? じゃないんですか!? そんなに私をハブにしたいんですか!?」
「いや、そんなつもりはないが………」
「そんなつもりが無いなら、もっと考えて発言してください! そもそもカグヤさんはリインにどうして欲しいんですか!?」
「………それを俺がお前に問いかけていたはずだったんだ?」
「言い訳はいいんですっ!!」
「ちょっと待てっ!? お前だんだんただの逆切れになってきてるぞ!?」
勢い任せの興奮を一度納めさせてから、カグヤは話の続きに戻る。
「まずはこっちの質問だ。大体なんでお前らは俺からアレの事を―――『伊弉弥』の事を聞いてこないんだよ?」
「聞く気はありましたよ。ただ、カグヤさんが自分から話してくれるのを待ってたんです。皆と話しあって、聞かれたくない事なら下手に聞かない方が良いからって?」
「俺の知らないところでそんな取り決め作ってたのかよ………。別に聞かれてまずい事は………あるが、訊かれれば答えられる範囲で答えたぞ?」
「で、でも、どんな話に流れるか解ったものじゃなかったですから………」
「まあ、それはいいや。でも怖いんだろ? じゃあ、なんで放置してんだよ?」
「そ、それは………」
途端に歯切れの悪くなったリインは、もじもじと手をこすり合わせる。
「私は………、私達は、カグヤさんが最後の最後では踏み止まってくれる方だって、信じていますから………」
『信じている』その言葉自体はとても重い責任だ。っと、カグヤは痛感する。信用されればされただけ、裏切る結果を持ってきた時の反発は大きい。信頼関係ではなく、信用関係では、どこで何がひっくり返るか解らない。それだけにカグヤは、その信用を『重い』と感じた。
「まあいい、その話はそれで納得しとく。………じゃあ、なんでお前は俺から逃げたりなんてしたんだよ?」
「そ、それはですね〜〜………」
途端に勢いを失くしたリインが、両手の指を合わせてもじもじしだす。
急な変わりように混乱しつつ、返答を待っている事しばらく、リインは申し訳なさそうに呟き始めた。
「そ、その………、私、カグヤさんが一番弱ってる時に、カグヤさんの心の傷を抉る様な事を聞いてしまって………」
「何の事を言っている?」
「だから、さの………、お姉さんの事を………」
「………。え? なんでお前がねえさんの事知ってんだよ?」
「え? だ、だって、カグヤさんがアレになってる時に呟いてましたし、起きてすぐの時も、私が質問しちゃって………?」
顎に手を当ててしばし考える。
もう少し考える。
真剣に考える。
もっと考える
………諦めた。
「すまん。忘れた………」
「うえ………? ええええええぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
あまりの信じられ無さにリインが絶叫し、カグヤはジト汗かきながら頭の後ろを掻く。
「すまん………、実を言うと俺、『知識』以外の記憶を『記憶』する事に弊害が出てな、時々忘れるんだよ。大した事ない時とか結構忘れてる」
「あんなに怒ってた事も『大した事ない』んですか!?」
「まあ、程度により、確率的に憶えるってだけだ。忘れる可能性は零にならん」
「じゃあ、私は一体、何に悩んでいたって言うんですか………」
本気で悲しそうな表情を作るリインを見て、不思議とカグヤの胸に、温かい何かが灯った気がした。
「リイン、お前大きくなれたよな?」
「はい? ………まあ、なれますよ? 子供サイズですけど」
「ちょっとなってくれるか?」
「? ………はい」
カグヤの頼みに訝しそうに小首を傾げつつ、言われた通り子供サイズになるリイン。
カグヤはコンテナの山に乗ると、付いてくるように手招きする。行動の意味が解らず、とりあえず素直に従ったリインは、適当に積まれたコンテナの影に連れてこられ、狭い空間に隠れるように入りこむ。
まるでコンテナで作った子供の秘密基地の様な場所に入り込むと、カグヤは壁際でまた手招きをする。
「カグヤさん? 一体ここで何を―――」
リインが問いかけるために近づいたところを、カグヤは彼女の手を取って隅に追いやると、そのままリインを抱きしめた。
突然の事に一体何か理解できないリインは、たっぷり一分間、ゆっくり考えて、―――やっと状況に頭が付いてきた。
「な、な、な、なっ!? 何してるんですかっ!?」
頭を沸騰させ、顔を真っ赤にさせながら叫ぶリインに、意外と冷静な声が返ってくる。
「ん? いや別に………、なんとなく、こうしたくなったんだ」
「なんとなくって………? これってセクハラ―――あ、あの? 体重掛けられると、倒れてぇ〜〜〜―――きゃあっ!?」
体格差の所為か、カグヤが上から抱き締める行為が体重を掛ける形になり、そのままリインを押し倒してしまう。隅に追いやられていたリインは、コンテナの壁に背を預ける形で尻持ちを付き、そこに上から覆い被さる様にリインを見降ろすカグヤの顔が、すぐ正面にあった。
「ち、ちかっ!? カグヤさん………!?」
「ん? 何だよ? 嫌なら突き飛ばしてくれて良いんだぞ?」
「い、い、い、嫌と言いますか………!? 状況が掴めないと言いますか〜〜〜………!?」
だんだん混乱が大きくなってきたリインを見て、カグヤは少し目を伏せながら真剣な声を漏らす。
「嬉しかったぞ………」
「へ?」
「俺はあんまり憶えてないが、それでも俺の事を気遣ってくれて、それで今まで俺から離れてたんだよな? それは俺にとってはあんまり嬉しくなかったが、お前の想いを聞いたら、やっぱり嬉しかった。………ありがとな」
「お、お礼なんて………っ!? 私こそ、カグヤさんにとって、大切な人の話を無神経に訪ねたりして、何だか合わせる顔が無くて………、なのに、結局それでカグヤさんを傷つけたりして………、なんだか、自分でも墓穴ばっかり掘ってて………」
「俺も不快で、リィンも傷ついてたって事か? それって………。ああ、なんだ。俺達喧嘩してたんだな?」
「ケンカ、です?」
「たぶんな。どっちも嫌な気分になって、不思議と互いに避けたり嫌味言ったり………、さっき俺、リィンに『信用できないなら出て行け!』みたいな事言ってたし、たぶん怒ってたんだ」
「だから、ケンカ………?」
「ん、っで、これで仲直りな?」
「………はぁっ!?」
カグヤは額をリインの額に当てる。ただでさえ近かった距離が更に近づく。
「か、カグヤさん………?」
「………、ん、なんかこうしてると、落ちつくと言うか、安心すると言うか………ともかく、気持良い感じだな」
「き、気持、良い………?」
「ああ、なんか、もっとくっ付いていた」
「ももも、もっと………っ!?」
カグヤはリインの腰を捕まえて自分に引き寄せつつ、自分も身体を押し倒していく。
身体の密着が多くなればなるほど、リインの心臓は、はち切れそうなほど強く高鳴って行く。互いの息が混ざり合う程、至近距離で視線を交わし、次第に、ぼう〜〜〜っ、と意識が逆上せた様になって行くのを感じる。
「カグヤさん………」
「リィン………」
殆ど体を密着させ合い、額をこすり合わせた状態で、二人の鼓動と体温を感じ合い、重なり合って行く感触を感じていた。
先に変化が起きたのはカグヤの方だった。
まずいっ、と思った時には自制が効かなくなっていた。
「リィン、やばい………」
「ほえ………?」
「なんか、俺………、このままだと、キスしそう………」
「き、キス………!? ////////」
「なんか、自分じゃ抑え、効かなくて………、だから………」
―――俺を拒絶してくれ。そう言う意味で言葉を投げかけるが、何故かリインは逆上せた表情のままカグヤを見返す。
「………です」
「え」
「いい、ですよ………。私、カグヤさんなら………」
リインの手が、自然な動作でカグヤの首に回される。
「カグヤさんになら………嫌じゃ、ないです………」
「リィン………」
胸の奥から何かが込み上げた。
カグヤは一度、リインの髪を梳く様に撫でて、その手で頬に触れると、そのまま唇を重ねた。
重ねるだけの長い口付けを、二人は目を閉じたまま、時間を忘れて口付け合う。
やがて、息が持たなくなった二人は、どちらからともなく唇を放し、荒い息をしながら互いを見つめる。
キスをした。その事実に気付いて、リインの顔が更に赤くなり、例え様のない込み上げた感情が顔をくしゃくしゃにしていく。どんな表情をすればい良いのか解らないのだ。
それと同じように頬を赤くしているカグヤは、更にまずい状態にあり、苦い表情をしていた。
「リイン、まずい………」
「?」
「なんか、箍(たが)が外れて、『凄い事』しそう………」
その言葉には、さすがのリインも身体をびくつかせた。
「も、もう、本当に限界だから………、だから………」
―――今度こそ拒絶して欲しい。そう告げられた言葉に、今度は涙目で首を振って否定される。
「そ、その………、して、ください………」
「結構すごい事言ってますよ御宅?」
「だ、だって………っ!? 仕方ないじゃないですか!?」
涙を湛えた瞳でカグヤを見上げ、すぐに視線を合わせるのが恥ずかしくなり横に逸らす。
「だって、私の方も………、このままにされたら、どうしていいのか解んなくなっちゃいます………」
刹那、カグヤの胸を、確かに何かが貫く感触を感じた。
自然に顔は熱くなり、自分でも良く解らない感情に、どんな表情をして良いのか解らず眉を寄せてしまう。
その顔を見たリインは、聖母の様に優しく笑いかけた。
「………カグヤさんが顔を赤くしてるところ、初めて見ました」
「はは………っ、っ!?」
我慢できなくなったカグヤはリインの太股に手を伸ばし、もう片方で服の下に手を入れながら胸に伸ばし、頭はそのまま降ろしてもう一度唇を重ねる。今度は深く、そしてもっと積極的に。
「ふあっ!? ………そ、そんなっ! 一度に………っ!? あふぅ………っ!? ふん………っ! ふあ………っ! だっ! ダメ………っ! 強すぎ………っ! ん………! んん………っ!? うむ………っ!? ああ………っ!!」
服の下に忍ばせた手は、最初は優しく、次第に荒々しく、その行為を積極的にしていき、更にはだんだんコツを掴んだかのように巧妙に変わっていく。
それに比例してリインの身体も高まって行き、頭の中が纏まらなくなっていき、我慢の出来ない域に到達した瞬間、頭の中が真っ白になった。
自分が出した声と言う事に驚いてしまう程の艶めかしい悲鳴を上げてカグヤに抱きつく。体中が勝手に跳ね上がり、びくびくと痙攣する。頭を白くした波が収まっても、それは変わらず、心地良過ぎて手に余す快感に酔いしれ、脱力してしまう。
それを間近で確認していたカグヤには、もはや耐えうるすべての物を持ち合わせておらず、そのまま勢いでリインのショーツを脱がす。さすがに抵抗を見せるリインに構わず、自分もズボンのベルトを緩める。
「!? ………意外と大きい、です………」
「誰と比べた」
両手で顔を覆い隠しつつ、指の隙間から覗くリインに、カグヤは聞き捨てならない様に訪ねる。その間も自分の分身は、リインの大切な場所に当てがわれている。
「比べてなんかいませんよぅ。見るの初めてですから………」
「そうなのか?」
「当然です。………だから、予想してたのより大きくて、ちょっとびっくりしてるって言うか………」
「まあ、今のお前の体形だと、やる事自体犯罪だよな」
「そ、それじゃあ………、止めるです?」
「―――、そんな悲しそうな顔で言われて止められるわけもない。そもそも、俺が止まれるか!」
リインを抱きしめ、耳元で囁く。
「優しくする余裕、ないからな」
「………はい」
リインは了承すると、カグヤの背中に手を回し、そのまま力の限り握りしめる。
やがてカグヤは、自制の効く限り優しくゆっくりと、しかしすぐに耐えきれなくなって―――リインの純潔を貫いた。
「―――ッッッ!!? ………〜〜〜〜〜〜〜〜ッ! ………ったいです………っ!」
しがみ付いたまま、二人は一度停止する。
リインは痛みに表情を歪め、カグヤは今にも本能に流されそうなのを必死に抑え、僅かなインターバルを作る。
やがて限界に耐えられなくなったカグヤは、最後にリインに訪ねる。
「もう、大丈夫か?」
「はい………、カグヤさんの好きにしてください………」
その後、カグヤに思い遣りや気使いなどと言った行為をする余裕はなかった。ただ思うがままに動き、貫き、抉った。彼にできる事と言えば、その本能の中で、リインを少しでも気持良くするためにコツを覚える事だけだった。痛がる彼女の声が、次第に湿りを帯び始め、ついに艶めかしい声に変わった時、二人の中で何かが弾けあった。
それは、二人の限界であり、二人の昂りが頂点に達した事で在り、何より………。
仲直りの、証でもあった………。
「はあ、はあ、はあ、………カグヤさん」
「はあ、はあ、はあ、………リィン、どうしよう?」
「ふへ?」
「全然収まらない」
「………////////」
「すまん。止まれそうにない」
「え? あ、そんな………!? 今私、真っ白になって―――あぁんっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
1
行為の後、すっかり裸になってしまった二人は、一度仮眠を取った後、気だるさから着替えるのも忘れて二人身体を寄り添っていた。カグヤはズボンと千早を、リインはワイシャツを肩に羽織っているだけの状態だ。
二人とも、身体を寄り添い合っていながら、その顔は未だに赤く、恥ずかしそうに表情を歪めていた。
「なんか………、後悔してるわけじゃないけど、『やっちまった』って気分だな?」
「〜〜〜〜////////」
言葉の事実にリインは何も返せず、更に羞恥心に苛まれ、照れ隠しにカグヤの胸に寄り添う。
「その………、どうしてこうなっちゃったんでしょう?」
「俺とは嫌だったか?」
「ヤじゃないです………ですけど、なんか、本当にどうしてこうなったのか、解んなくて………。たぶん戸惑ってます………」
「だよな。俺も似たようなもんだ。………正直こう言う行為は、好きにならないとできないものだとばかり思っていたから、この展開に戸惑ってる」
「私はカグヤさんの事嫌いじゃないですよ? ………でも、『好き』かと訊かれたら、何と答えればいいのか………」
「俺も同じだって。こうなった事に後悔なんて無いし、リィンとこうなるのは嬉しい。………でもやっぱり、それだけで、『好き』って言うのとは違うんだよな? たぶん」
「私達、何も解らずこんな事して、本当に良かったんでしょうか?」
リインの質問にしばし考えたカグヤは、天井を見上げてから軽く噴き出すように笑う。
「良いんじゃないか? こう言う言い方は変かも知れないが、後悔してなくて、互いに同意の上だって言うなら、そこに悪い物はないと思う」
「で、ですけど………、これって―――」
「まあ、『信用』とか『信頼』とかの域を超えてるのは認めるよ。でもそれで出来ちゃったんだから良いんじゃないか? 俺はリィンと仲直り出来て嬉しい。お前もそれを喜んでくれて、その行為が自然とこんな形になっただけだ。これからも続けるとは限らないし、これで良いんだと思う」
「そうで、しょうか………?」
これで終わりかもしれない。その事を考えると何故かリインの胸に小さな針が刺さった様な気がした。二人一緒になって、確かに感じた一体感。それがこの一回で終わる事が、なんだか寂しい様な気がしたのだ。
「そうだろ? もしまたこんな気持ちになったら、それは俺達の自然な行為なんだと思う。その時、またお互いの気持ちが同じだったら、またすればいいし、どっちかの一方通行なら我慢すればいい。もしも、それで責任取る必要できたら、それはその時だろ?」
「あ………」
まだ終わりじゃない。その事を知った途端、リイン中の針が消えてなくなった。それだけ自分はカグヤに惹かれているのだと自覚して、それでもなお、その気持ちを『好き』と言うのに結びつけるのには、心の中で何かが踏み止まっていた。
同時に思う。もしカグヤがまたそんな気分になって迫られたとしたら、きっと自分は逆らえないだろう。逆らわず、受け入れてしまうだろう。それが少し恥ずかしかった。
「―――って言いつつ、もしリィンの方から誘われたりしたら、俺は断れないんだろうけどな!」
「―――っ!?」
その台詞は、正に今、リインが考えていた事で、それを知ってしまった瞬間、リインはとてつもない喜びを胸に持て余す事になった。
それからしばらく二人は、互いに離れる事が名残惜しく、いつまでも寄り添い―――いい加減離れないとまずいと思った頃には、涙目でカンカンに怒ったフェイトが探しまわっているところだった。
後日、カグヤの部屋に二十四時間体制の見張りと、放尿瓶が設置された。
「フェイト? もう、俺本気で治ったんだけど?」
「ダメ」
「いや、完治したって?」
「ダメ」
「過保護にも少々―――」
「ダメェ!(涙」
「………はい」
・第二十 似た者同士の協奏曲(コンチェルト)
ティアナ・ランスターは頭を悩ませていた。っと言うか過労で倒れそうな気分だった。
っと言うのも現在、『時食み』と言う訳の解らないアンノーンの出現により、巷(ちまた)を騒がせていると言うのに、管理局の優良株が次々と消息を絶っている。ただでさえ忙しい中、ティアナの方に回される仕事も一段と多くなっていた。
(それでも、まだ私はマシな方かしら? チンクやギンガさんはあっちこっち現場を行ったり来たりしてるらしいし………)
今回のティアナの任務は、とある森に反応を確認されたロストロギアの確認及び回収。『時食み』の主犯と思われる人物が、管理局が移送中のロストロギアを掠めた事から、放っておく事が出来なくなったのだ。
(このジャングルでは、以前も管理局が調査に入ったけど、その時には何もなかった。ところが最近になって突然、ロストロギアと思われる魔力の反応を確認するようになった。『時食み』が現れたタイミングなどを検証するに、無関係とも思えない)
そのため、ロストロギアの回収に執務官であるティアナが派遣された。もしも、時食み側に襲われる事があっても、対処できる様に………。それともう一つ、管理局メンバーを捕縛していると思われる重要参考人、カグヤについてだ。
ティアナはジャングルを仲間と歩きながら、カグヤに関して調べたデータを呼び出す。『カグヤ』と言う人物本人が、特別な家柄でもない養子で、しかも住んでいた町に原因不明の破壊があり、情報があまりにも点々としていたため、時間がかかってしまった。
「『新歴60年頃、ミッド辺境アサルアにて、5歳児と思われる少年が森で倒れているのを発見される。原因不明の深手を負い、手の施しようが無く、当初は助からないだろうと判断されていたが、信じられない治癒力で一命を取りとめる。身元が解らないまま、第一発見者のネイデル家に引き取られ、カグヤ・ネイデルとして暮らす。身体には恵まれなかったが、学力に恵まれ、当初はSt(ザンクト).ヒルデ魔法学院に在学する。しかし魔法の才能に恵まれず、新歴68年、初等部卒業と同時に転校。普通科の学校へと移る。
その後、新歴71年4月29日、義父の誘いで臨海空港に家族で訪れるも、同時に起きた大規模火災に巻き込まれ、本人を残し全員が死亡。本人も重傷を負い、病院に搬送された。その後、消息を正しく認知されなかったが、何度も怪我をして病院に訪れるところを確認される。
新歴75年、過去最大の負傷をし、精神的にも塞ぎ込むも、完治後、何かを決意する様に病院を後にする』………この最後の報告は、丁度、ヴィヴィオが病院に運ばれて目を覚ました時期か………、同じ病院だし、何か係わりでもあるのかしら?」
一通り上がってきた情報を読み返したティアナは、『カグヤ』と言う人物に付いて考えを巡らせる。
一体、彼は何を目的として、どんな行動をしているのか? まだまだ不透明過ぎて答えが見つからない。
無限書庫管理責任者、ユーノ・スクライにも調査を依頼したが、どうした事か、『時食み』に関する情報は全く上ってこない。
(それなのに、彼は時食みやその事象等について明るい。これはどう言う事? ………疑問と言えばもう一人、こっちの彼も………)
ティアナは次に、『龍斗』と言う名の青年の情報を呼び出す。こちらは民間協力者として管理局に報告され、現在『八神はやて』の管理下の元、自由に動き回っている。
(この人も時食みについてある程度詳しい。程度の違いはあるけど、この二人も完全な他人として切って考えるのは間違いなのかも?)
そう考えるも、『龍斗』の方は実際に話した事もなく、はやて達に任せっきりである。一度、なのは経由で「会ってみない?」と言うメールは送られてきたが、忙しくて断っていた。
「会ってみるべきかしら?」
呟いたところで、部下から報告が上がる。どうやら目的のロストロギアを見つけた様だ。
現場に向かうと、そこには見た事の無い形の穴が開いた円盤の魔機が無造作に転がっていた。円盤の盤上に開けられた窪みは、何かをはめられるようになっているようだが、正直、まるで胎児の様な形をした窪みには、どんなものを嵌めるのか予想も出来ない。
「一体これは………?」
ティアナが数人の仲間と共に首を傾げていると、頭上から突然声が降ってきた。
「やっぱり、『盃(さかずき)』か! 気配がしたからもしかしてとは思ったが………!?」
声のした方に慌てて見上げる。
声を出した方は、木の枝に乗っていて、視界を妨げる枝の葉を手でどけるところだった。
互いの視界がクリーンになり、互いの顔が見える。
「「あ」」
同時に声が出て、同時に相手の名を叫ぶ。
「アナタは『カグヤ』!?」
「管理局の『ティアナ・ランスター』!?」
相手を確認すると同時に、包囲するするに部隊に命令を下すティアナ。
状況を逸早く理解したカグヤは、札を投げつけ、閃光による目暗ましを行う。
視界を奪われながら、木の枝を蹴る音を聞いたティアナは、光が止むと同時にカグヤが逃げたであろう方向を指さし部隊を指揮する。
「対象はあっちよ! 罠に注意して!」
追撃部隊を構成しつつ、少人数をロストロギアの護衛に付け、ティアナ自身、カグヤを追いかけ、その場を離れる。部隊の大半が離れてしばらくして、残っていた護衛部隊の頭上から突然雷が落ち、待機していた全員が昏倒した。数瞬後、木の影から現れたカグヤは「やれやれ」と溜息を吐いた。
「まさか管理局と鉢合わせとは………、ティアナ・ランスターにはいずれ会うつもりだったが、外出の御許し受けてすぐはさすがに避けようと考えてた矢先にこれか………。怪我して帰ったら、また当分出られなさそうだし、目的の物回収してさっさと消えるか?」
「まあ、そう言わずに、せっかく会えたのだからゆっくりしていったら?」
カグヤの背後から声が掛けられ、振り返るより先にバインドで縛られる。
「!?」
「悪いけど、アナタが裏をかくタイプなのは、調査済みよ。魔法学院在学中も何だかんだで、六年間、騙し騙しで成績を得ていたらしいじゃない」
木の影から現れたティアナ・ランスターと追撃に向かった筈の部隊。クロスミラージュの幻影術によって姿を隠していたのだ。
「人の過去を探るなんて、俺に興味でもあるのか?」
縛られたままのカグヤは、それでも余裕の表情で目を細める。
「そうね。アナタにはかなり興味があるわよ。『時食み』についてもそうだし、事件の全容についても詳しそう。大人しく同行してくれるなら、悪いようにはしない―――って言っても、聞いてくれないのよね?」
「お? 意外な反応………。さすがにパターンを統一し過ぎて飽きられたか?」
「管理局だって馬鹿じゃない。これだけ接触があれば、情報を取り入れるのはアナタだけじゃない。こちらにも情報は集まる」
「無限書庫とか管理局のサーバーとか、あれっ情報能力のリートだろ? 俺なんか目と耳だけで情報仕入れてんだぞ! あと足! 不公平やめろよ! 大人げない!」
「は、はあ!? 時空間の安定を守護する管理局が情報能力に長けている事に何の問題があるのよ! って言うか、大人げないとか関係ない!」
「なんだと!? 下着の色オレンジのクセに!?」
「な―――っ!?」
爆弾発言に一瞬で頭を沸騰させるティアナ。両手で身体を隠すように庇う。
「なんでアンタがそんな事知ってんのよ〜〜〜〜っ!?」
「え? マジで? イメージカラーそのまんま? おっしゃ! 聞いたかお前ら!? お前らの部隊長殿の下着はオレンジだ!!」
「報告するな〜〜〜っ!!」
話を聞いた局員は、一瞬ティアナに視線を向けてしまうが、彼女の叫びを聞いてすぐに視線を逸らした。
「なんだよ、良いじゃないか? 上司にオッパイ揉まれまくった事があるのバラしたわけじゃないんだし。ああ、ちなみにこれは実話である事は既に調べた」
局員達に戦慄走る!
「相手は六課時代の八神部隊長です!! 女同士です!」
「百合って知ってるか?」
再び局員に戦慄走る!
「誤解を招く様な事言わないで!! アレはあの人がオッパイ魔神なだけです!」
「そうなのか? 女でも『オッパイ魔神』なんて二つ名を得る事があるんだな〜〜〜」
(((((普通に感心してるぞコイツッ!?)))))
一瞬、局員達の心が重なる!
「だが、その年で男と一緒に御風呂に入った事があると言う情報もあるんだが?」
今、嘗(かつ)てない程の衝撃が局員達を襲う!!
「相手は子供! 異性としてなんか見てないわよ!」
「しかし、十歳超えた男子は既に男としての羞恥心や人並みの性欲を持っていて当然。そこのところどう思うお前ら?」
局員達の視線が遠くを見つめる。
「何この空気!? なんで私、敵を捕まえてるのに孤立し始めてるの!?」
「おいおい、お前ら仲良くしようぜ? いくら隊長が男に対して無防備な無自覚淫乱女でも、上司は敬わないと?」
「誰が淫乱よ!」
「え? 例え話ですが何か? 心当たりが御有りですか?」
「〜〜〜〜っ!! ああんっ! もうっ! イライラするっ!!」
さすがに怒りが臨界を迎えたティアナは、銃型のデバイスを向け、軽く昏倒させる威力に出力を落とし引き金を引く。放たれたバレットは真直ぐカグヤの頭を狙い―――そのままカグヤの頭を吹き飛ばした。
「!?」
「ら、ランスター執務官!? いくらなんでもこれはやり過ぎ―――」
「違う! これは幻影よ! 本物は―――」
「もう遅い」
パチンッ! っと言う指を鳴らす音と共に、局員の足元から雷が迸り、悉く昏倒させた。状況を逸早く勘付いたティアナを除いて。
「幻影(イリュージョン)を使えるのはお前だけじゃねえよ。術式はだいぶ違うが、俺も『幻鳥』って言う同じ効果を発揮する魔術がある」
「それはデータには無かったわね………、他にも隠し玉があるのかしら?」
「さあ、どうだろうな?」
ティアナはクロスミラージュを構え、カグヤは刀に手を掛ける。
二人の戦いは似たような所がった。
左右に広がる二人のティアナに対して、片方に向けて刃を振り降ろす。
それは幻影で、攻撃がヒットすると同時に消えてしまう。
その隙に、背後に周っていたもう一人のティアナが銃口を向け―――後ろに周っていたもう一人のカグヤに切り飛ばされ、消える。またも幻影だった。それを確認して互いに視線を交わす二人のカグヤの頭上から、オレンジに輝く二つのバレットが貫く。しかし、こちらのカグヤも両方とも幻鳥、光の粉となって消えた。
本物のティアナと木の幹の影から、カグヤは木の上の木の葉の影から、その様子を確認し、互いに同じ事を考えていた。
((さっきから互いに手を見せないで戦っている。幻術で相手の動きを誘うパターンが基本で、自分の行動パターンは一切見せない。どうやら考えている事は一緒ってこと?))
二人の考えている事は、相手をともかく動かして、その行動パターンを読みとろうとする戦い方だった。
今までのカグヤは、魔力の低さと、『幻鳥』がまだ使えなかった事もあり、この戦闘パターンが使えなかった。そのため、自分を囮にして罠を使って無理矢理相手を動かす事で成立させていた。無論、途中で罠にかかってくれるならそれに越した事はないとも考えていただろう。
しかし、幻鳥を使えるようになった所で、同じ幻術使いとの戦いになり、互いに幻術による騙し合いになり、決定打のない消耗戦に陥っていた。
(向こうの幻術には実体がある。その所為で幻術の攻撃でこっちの幻影が消される)
ティアナは悩む様に眉を寄せ、自分を探している複数のカグヤを確認する。
(おまけに視界も共有してるみたいね。あの幻影に見つかったらこっちも見つかったと考えて良い。おかげで下手に出る事が出来ないから、こっちも幻術で撹乱するしかない)
(―――なんて、考えているんだろうが………)
まるでティアナの思考を継ぐかのように、カグヤは頭を悩ませる。
(状況は俺有利ってわけじゃない。一度に出せる幻影の数は明らかに向こうが上。こっちは精々四、五体が限界。おまけに向こうの攻撃は空中に待機させてあるバレットによる狙撃で、自分の位置は教えてはいない。これは探すのに苦労させられる)
(―――っと、向こうも考えているのだろうから、当然、自分の姿は表わさない)
今度はカグヤの思考を継ぐようにティアナが苦笑を浮かべる。
(私の幻術には攻撃力を持たせる事は出来ないから、本体を見つければ、必ず自分で攻撃する必要が出てくる。だけど―――)
(元々実体のある霊鳥を俺の形に見せたのが『幻鳥』だ。それはつまり、実体は確かにあるが、その攻撃力にはまったくの期待が持てない。つまり、どうしてもトドメを刺す為には俺自身が出る必要が必ずある。だが―――)
((―――それは相手も同じ条件と言う事))
この二人の勝負は、どちらが先に本物を見つけ出し、自分の攻撃を当てられるか? それが鍵だった。
(よし………っ!)
策を思いついた片方が行動に移す。
ティアナは自分の幻影を大量に生産し、森の中を逃げるように走らせる。カグヤは霊鳥を大量に呼び出し全ての幻影を視認しながら攻撃させ、消していく。
その中で、一人のティアナだけが、霊鳥の攻撃を執拗に回避しているのが見えた。
幻影のカグヤ達がその一人を包囲していく。カグヤ自身も木から飛び降り、その一人の元に走る。
包囲されたティアナは、必死にカグヤ達の攻撃を躱し、空中に待機させておいたバレットを撃って牽制するが、ついに追いつめられてしまう。
「どうやらお前が本物の様だな」
一人のカグヤが余裕ったっぷりに歩み寄ってくる。
「く………っ!?」
木を背中にして、ティアナは歯噛みする。
カグヤは刀を振り上げ、追い詰められたティアナに向けて振り下ろす。
しかし、本物と思われたティアナの姿は消え去り、攻撃は空を切ってしまう。
「コイツも幻影!?」
「もらったーーーーっ!!」
刀を振り下ろしたカグヤのちょうど背後に当たる茂みの影から、ティアナが現れ、クロスミラージュを構える。引き金を引き、発射されたバレットは、カグヤの急所に着弾した。
しかし、直撃を受けたカグヤは光の粉となって消えさり、周囲に控えていたカグヤ達も消えてはいない。
「!? 本物でトドメを刺しに来てたんじゃなかったの!?」
驚愕するティアナの頭上、木の枝から飛び降りてきたカグヤがティアナに切りかかる。
それに寸前で気付いて躱すティアナに、斬りかかったカグヤは逸早く反応し、刃に炎を纏わせる。
「攻撃できたって事は、お前は幻影じゃないよな?」
「!?」
炎を帯びた斬激が放たれ、ティアナ諸共(もろとも)背後の茂みや木を吹き飛ばした。
それは、今までの幻鳥で作り出した偽物の威力とはケタ違いの爆発で、それを受けてはさすがに立ち上がる事は出来ないモノだった。―――そう、それが本物だったのなら。
「! 手応えが無い!? 幻影!?」
(掛った!)
茂みを押しのけ、ティアナは構える。狙うは明らかに攻撃力の違う炎剣を持つカグヤ。そして、その他視界に入る全てのカグヤだ。
「バリアブル・シューーーートッ!!」
空中に待機させておいた複数のバレットを同時に発射し、一人のカグヤも逃さず攻撃し、本命に対しては更に追撃とばかりに発砲する。
カグヤは、周囲の幻鳥達が消えて行くのを尻目に、刃を振るい、バレットを打ち落とす。しかし、それが叶ったのも二発まで………。三発目を受けた所で、刃に纏っていた炎が消えた。そこに―――、
「クロスファイア―! シューーーーット!!」
複数のバレットを集中した一撃が襲う。
攻撃を防ぎ、威力も他より大きい。それは間違いなく本物のカグヤ。そう断定したティアナは、動きが止まったところでキツイ一撃を叩き込む。
(これで、私の勝ちよ!)
「くっ!」
カグヤは刀を盾に攻撃を防ごうとする。だが、その一撃を刀で防ぎきる事などできるわけもなく―――激突した瞬間、刀を握っているカグヤの手が消し飛んだ。
「へ?」
その光景があまりにも有り得なくて、つい呆けてしまうティアナ。彼女の眼には、カグヤが光となって消し飛び、刀だけが砲撃に吹き飛ばされ、その辺の木に突き刺さるのが見えた。
「悪いな。刀は本物だったんだが」
刹那、ティアナの手を横合いから蹴り飛ばされ、手にしていたデバイスを落してしまう。正面には丸腰のカグヤが、徒手空拳の構えで接敵していた。
「さっきの幻影がバレットを撃った仕組みは、あらかじめ幻影の影にバレットを忍ばせていたんだろう? 幻影に手応えが無い時点で、その方法は考えていたよ。だから、俺も似たような物を使わせてもらった」
「あらかじめ武器に自分の攻撃力を纏わせ、それを幻影に渡し、攻撃力だけ本物の幻影を仕立て上げた………。やられたわね」
素手のまま構えるティアナには緊張感は増していたが、まだ余裕がある。それに対して薄く笑うカグヤにも、また同じ程度の余裕がある。
「ただ一つ欠点があるのは、この方法だと、俺は丸腰になるから決定打を失くす」
「つまり、ここからは第二ラウンドって事かしら?」
幻影勝負はカグヤに軍配が上がったが、まだ勝負は決していない。今度は素手同士の二人が向かい合い、格闘戦に入る。
先に出たのはカグヤ。単純な掌低を放ち、相手の出方を確認する。
ティアナは両手をクロスして受け止め、後ろに後退する。
その動きを追う様にして再びカグヤの掌低が放たれる。
今度はまともに受け止めずにいなし、その手を掴んで捻り上げようとするが、瞬時に腕を引っ込められ失敗する。しかし、その引き手に合わせ間合いを詰め、両腕を取って投げ飛ばそうとする。
背負い投げの様に投げ飛ばされそうになったカグヤは、先んじて自分から地を蹴り、飛び上がると、地面に叩きつけられる前に空中で体勢を立て直し、着地する。更に反撃の蹴りを放つ事で、密着しているティアナを遠ざける。
ティアナが着地した瞬間に合わせ、カグヤはクイック・ムーブで接近し、掌低と蹴りの猛攻を掛ける。ティアナは両腕を盾にして、障壁を張りながら攻撃を受け止める。
「なら………っ!」
カグヤは右足を引き、右腕を振り被ると、力を溜めた拳でブローを放つ。
「!?」
その動きは、先程までのカグヤの動きとは違い、まるで誰かの動きを御手本にした様な、ある種のぎこちなさがあった。しかし、技量としての型は完璧で、拳は深くティアナの懐に抉りこまれた。
吹き飛ばされた様に後ろに飛んだティアナは、痛みに表情を歪めながら、驚愕の瞳でカグヤを見つめる。
(どう言う事!?)
ティアナは疑問に思う。今の一撃、意外だったから躱せなかったわけではない。その動きがあまりにも見覚えがあったが故に動くのに遅れてしまったのだ。
なんせ今の動きは、自分が長らく共にしてきたとある人物と、まったく同じ動きだったのだ。動揺しない方が難しいと言えるだろう。
「アナタ、どうしてスバルの動きを?」
「ん? ………ああ、スバルの打ち込み方したから気になってるのか? まあなんだ………気にするな?」
「なんで疑問形………?」
答えると色々ばらさないといけないので、適当に言葉を濁したら、ティアナに突っ込まれてしまった。
「なんだよ良いだろう? スバルが嫌なら………こう言うのもある」
再びクイック・ムーブで飛び出したカグヤは、今度は拳を突き出すのではなく、防御しているティアナの手を掴んで、ガードを開かせると、開いた懐に向けて雷鳥を宿した、もう片方の拳を叩き込む。
直撃により土埃が巻き上がる。その煙が消える前に、飛び出したティアナは、多少ダメージを負っていたが、バリアジャケットを貫通するほどではなかった。
「今度はエリオの動き!? どうして!?」
「なんなら、ザフィーラやフェイトの動きも出きるぞ。ギンガのはちゃんと見られなかったが、ヴィータのは覚えている。キャロ・ル・ルシエは………アレは天性の物だ。マジで」
「なんでキャロだけ評価高いの? ………今まで見てきた相手の動きなら真似られるって事?」
「する意味が無かったからしなかったがな」
「する意味が無い?」
「他人のパターンを使ったところで、武器が違うんだから上手くいかないだろう? 素手で真似できる分だけは使えるから一部利用してるだけだ。今回みたいなのとかな」
なるほど、っとティアナは頷く。
殴られた時のダメージから計算して、カグヤがデータ通り貧弱なのは明白。だが、それを押して余りあるほどの技術吸収能力。スペックの弱さを技術(スキル)で賄っている。
この男に対して不利な条件で戦うのは自殺行為だと解った。
もし同じ条件なら、そこにルールがあればある程、有利になるのはスペックを持っている自分だろう。だが、実戦―――つまり、ルールの様な制限の無い状況に置いて、条件が等しい事には何のアドバンテージもない。むしろ制限がなくなれば無くなるほど、自分が不利になるの。
ならどうすればいいか? その答えは、可能な限り自分が有利な状況を作る事だ。
判断したティアナは直ぐさま行動に移す。
踵を返し、近くに落としてしまった愛機へと手を伸ばす。
「! させるか!」
瞬時に反応したカグヤがクイック・ムーブで先回りするが、その時ティアナは、瞬時に方向転換をしてカグヤの落した刀に飛び付く。
「武器はないよりある方が有利でしょう?」
「本気でそう思ってるか?」
無論、ティアナもカグヤも本気でそんな安直な事を考えている訳ではない。
ティアナのは考えとしては、彼の刀が魔法の媒介の役割をしていて、簡易デバイスとして使用されているのだと思っていた。インテリジェントデバイスで無いのなら、自分にも使用は可能なはず。馬鹿正直に自分のデバイスを取りに行っても妨害されるだけ、なら、その隙を作るための材料を手に入れればいい。その布石として拾ったのが、カグヤの刀。
当然、ティアナには剣の心得などまったくないが、丸腰のカグヤ相手に、リーチの差を作る事が出来たのは事実だ。
ティアナは駆け出し、刀を振り下ろす。
それを普通に下がって躱すカグヤは、次に跳ね返って切り上げてくる刃を躱すのに合わせ、足元に落ちているティアナのデバイスを取り上げる。
「そう来ると思った!」
ティアナは大きく剣を振り被ると、間合いの外に居るカグヤに向けて剣を投擲した。
横に回転しながら飛来する刃を見ながら、カグヤは疑問に思う。
いくら剣を使えないとは言え、この時点で得物を投げる意味があるのだろうか? 得物を投げて意表を突きに来たのだとしたら、愚策でしかない。そんな物に騙されるのは、ルール上の勝負しかしたことの無い人間だけだ。実戦を経験している者同士の戦いにおいて、唯一の武器を投げる事にいかほどの意味もない。
カグヤは刃から身を躱しながら、刀の柄に左手を伸ばす。投げられて刃を逆に受け取り、武器を回収しようとする。
「!」
寸前に気付き、カグヤはしゃがみ、刃を躱す。その後ろすぐに、まるで刀の影に隠れるように飛来したバレットが通り過ぎて行く。
デバイスが無くとも簡単な魔法なら使用出来て当然。刀を拾ったのは、自分の武器を拾わせ、片手を封じるためと、バレットを隠す囮となる武器を必要としたためだ。
バレットを躱したカグヤに飛びついたティアナは、腰にしがみつくようにして、背中に向けてバレットを連射しようとする。これに対してカグヤは、デバイスを放り投げると両手を使ってティアナの手を剥ぎ取る。
二人とも地面を転がる様にして揉み合い、瞬時に立ち上がって臨戦体勢に入るが、逸早くティアナが踵を返し、デバイスに飛び付く。
(取る前には追い付かないか………っ!)
カグヤは霊鳥を糸状に伸ばす魔術『荒縄』を使って、その辺に転がってしまった己の刀を拾わせつつ、ティアナに向かって走る。
ティアナがデバイスに飛び付き、地面を転がり、カグヤに向けて銃口を向ける。
荒縄で手繰り寄せた刀を受け止めたカグヤが、ティアナに向かって切りかかる。
((間に合え………っ!!))
二人の意思がシンクロし、互いの決め手に全力を尽くす。
刹那―――、
当然目の前に小動物が落ちてきて、決め手を放とうとしている二人の板挟みになった。
「なぁ―――っ!?」
「なんでぇ―――っ!?」
二人の表情が驚愕に歪み、慌てて攻撃を取り止めようとするが、止め切る事が出来ない。
ティアナは引き金を引き切れず、銃身を逸らす。
カグヤは刀を手放し、誤って刃を当てないようにしようとする。
撃ち出されたバレットはカグヤの頬を掠め、反射で視界を閉ざしてしまう。
おかげでバランスを崩したカグヤは、そのまま前に倒れ込む。
銃身を逸らしていたティアナは、自動的に手がバンザイ状態になり、二人とも手が使えず、そのまま物理法則に成すがまま重なる様に倒れ―――、二人は目を見開いた。
カグヤの目の前にはティアナの瞳があった。
ティアナの前にはカグヤの瞳があった。
顔同士が近づき過ぎて、互いの瞳の奥しか見えなくなっていた。
近づき過ぎた二人は、互いにその唇を重ねてしまっていてた。
だが、それを甘酸っぱい思い出として記憶する事は出来なかった。
ドガヅン………ッ!!
「「っづ、だぁ〜〜〜〜………っ!?」」
唇同士が重なったまま、地面にぶつかった二人は、思いっきり顔同士をぶつけあう事になり、その衝撃たるや、スタンガン付きのハンマーに等しかった。
しばらく、衝撃の痺れで痙攣してたあと、やっと痛みが引いたカグヤは上体をもたげ、周囲を確認してみる。
先程、突然落ちてきたリスの様な小動物は、何かに腰を抜かす様なよちよち歩きで何処かへと去っていく途中だった。
周囲を何度も見回してみるが、あの小動物が落ちてきた理由が何処からも見つからない。強いてあげるなら、ティアナが投げた刀が、木に突き刺さって、その衝撃で落ちてきたとしか思えない。
いや、それもこじつけじゃないか?
そんなツッコミを自分に入れながら、一つ全てに納得をいかせる現象に心当たりがあるのを思い出し、いつものように拳を手の平にぽんっ、と叩く。
「そうか、これがキャロ・ル・ルシエ(神域のドジ)か―――っ!?」
背景に雷でも落ちていそうな戦慄を覚えながら、すぐに溜息を吐いた。
「なんでこのタイミングで………」
溜息を吐いて諦めると、自分が下敷きにしてしまった相手を見る。
顔を真っ赤にして目をナルトにしている女の子がいた。
「………よし、襲うか」
無防備な姿に触発されたカグヤは、ごく自然な動作でティアナの服を脱がし始める。
「なぁにやってるですかっ!!」
リインのツッコミと言う名の魔弾が後頭部を直撃し、再び悶えるカグヤ。
恐ろしい事に、この時既にティアナは全裸にされていた。
「今の短時間でどうやって全裸にできるんですか………?」
「脱がし方はリィンで覚え―――」
バコーーーンッ! と、またもや魔弾が直撃する。
「痛いぞリィン………! 加減してもらってても魔力の浸透率高い俺には非殺傷設定の意味が無いんだから勘弁してくれ………!」
「し、知りません!/////// カグヤさんこそ! いつの間にか抜け出してると思ったら、また一人で仲間集めですか!? 体調が戻ったばかりなんですから、自重してくださいです!」
「いや、そいつとは偶然出会った。目的はこっち―――」
言いながら、地面に転がってしまっている円盤をとって見せる。
見た事もない物体に、首を傾げ、リインは当然の質問を投げかける。
「なんですかこれ?」
「まだ内緒。その内教えてやるよ」
「ええぇ〜〜〜〜! なんで今教えてくれないんですか〜〜〜〜っ!?」
「教えないのには教えないなりの理由があんだよ。それより、俺も予想外の戦闘で疲れた。そいつ連れて帰るとしよう?」
「はいです。………って、ティアナも連れて行くです?」
「ああ、まだ情報不足の相手だったが、実を言うと一番最初に目を付けてたんだ。出会いは偶然だったが、このチャンスは物にしたい。絶対こいつを口説き落とす!」
「………」
パコーーーンッ!
「あ痛った!? なんでまた魔弾!? ちょ………っ!? なんでまだ撃ってくんだよ!? あいたたたっ! お、おいっ! リィン! お前なんか怒ってないか!?」
「知りませんよ!! カグヤさんこそ! その紛らわしい言い方直してくださいです!!」
目を覚ましたティアナの混乱は大きかった。なんせ、捕縛されていると報告があったスバルやフェイト達が、全員揃っていて自由に行動しているのだ。疑問を疑問のまま問いかけると、皆苦笑いを浮かべながら、カグヤの仲間になっていると言う。それも、彼の思想に共感したのではなく、彼を助けるためだと言うのだから意味を理解するのに苦しんだ。
「っで、私はこうやってデバイスも没収されて縛られてるんだけど? どうしてこんなに扱いが違うのかしら?」
「そりゃあ………、当たり前だろ? お前まだ敵だし?」
「他の相手との差が激しいって言ってるのよっ」
怒りを堪えて震えた声を出すティアナ。それも仕方ない。今の彼女は、何故かワイシャツ一枚の姿で、両手に手錠を掛けられ高い位置に固定されている。バンザイ状態のまま、そんな薄着で無防備な姿を曝されては落ちつく事などできる筈もない。まして、その目の前で、ティアナの下半身を凝視しているカグヤがいてはなおさらだ。
「何処見てるのよ!」
「見てると言うより、覗こうか覗くまいか悩んでいる」
「覗くなっ!!」
「え〜〜〜………」
「あからさまに嫌そうにしても見せる気なんて無いわよ!」
「そりゃそうか………。これじゃあ安心して会話も出来ないし、覗くのは諦める」
「って言うか、なんでこんな恰好でベットの上に?」
「いや、最初は囚人服っぽいの探してたんだが、考えてみればそんな物用意してなくてな? それなら何処隠し場所の無い服だけ着せてしまおうと考えて………俺の部屋着のシャツを」
「どうしてそこでシャツになったのよ!?」
「ええとな………あれ? 忘れた?」
「なんで!?」
「すまん、マジで忘れた。たぶん大した理由じゃなかった」
「………これでアンタの趣味とか言ったら怒りも天辺超えそうね」
手の平に拳を打つカグヤ。
「お、おおっ! それだ!」
「アンタ、いっぺん死になさ〜〜〜いっ!」
「それ俺にとっては洒落にならんから止めてくれ………、これでも本気で何度も死に掛けた………」
「犯罪者なんかやってるからでしょ! 何か事情があるなら話してくれれば力なになるのに、そうしないでいる自分が悪いんじゃない!」
「そうだよ。カグヤはもう少し頼り方を変えた方が良いと思う」
ティアナの言葉に賛同する声に気付き、カグヤが振り返ると、困った表情のフェイトが現れていた。
「フェイト」
「カグヤは一体何をしようとしているのか知らないけど、話すだけ話して欲しいな? 私達が納得できない内容だとしても、もしかすると別のやり方だって見つかるかもしれないし?」
「自分のやってる事『悪行』で無いという自信はあるが、結果まで『悪』で無いとは言えません」
カグヤは突っぱねるつもりで顔を背ける。
「あ、そうなんだ? 過程は『悪い事』じゃなくて、結果だけが『悪くなる』んだね? また少しだけカグヤの事解ったね♪」
「………」
カグヤは薄眼を開き「あ、ミスった」と言う表情で空を見つめた。心の中では「この女、本当にヤベェ………、最初の宣言通り、少しずつ俺に近づいて来ている気がする………」ろ焦っていた。
その内、心まで読まれるのではないかと漠然とした不安を抱きながら改める。
「何しに来たのかと訪ねて良いか?」
「カグヤがティアナに悪さしないように見に来た」
「その笑顔が俺を違う意味で信じてくれてて泣けてくる………」
「それと後で御説教です。いくら体調が戻ったからってこんなに早く動き回って、また悪くしたらどうするつもりなの? また管理局と戦ったって言うし」
「待て待て! 説教はマジで後にしてくれ! あと、戦ったのはこっちとしても不可抗力だ!」
「不可抗力でも、心配になるものは心配になるよ?」
「わ、悪かったが………、ともかくこの話は後だ! 後でちゃんと謝るから、今は無しだ!」
ティアナは呆けてしまっていた。
管理局を裏切る様な事をしていても、やっぱりフェイトの本質は何も変わっていないように見える。いや、変わっていないからこそ、カグヤに対して何か思うところがあるのか、こんな『らしくない』行動をしているように見受けられた。だが、それを込みにしても、なんだかカグヤを叱っているフェイトの姿は、どこか違う人のようにも見える。
しばらく見つめたまま考えて、そして気付く。
「何だか二人とも、夫婦みたいですね………」
「はえ?」
「へ?」
思わず出たティアナの呟きに振り返る二人。
次第にフェイトの顔が赤く染まっていく。
「な、なに―――っ! 何言ってるのティアナ!? わ、私達……っ、別にそんなんじゃあ………っ!?」
頬を赤くしたまま困った表情で、意味もなく手をわたわた動かすフェイトの姿は、実に『可愛らしい』という印象を受けた。必死に言い訳する姿はまるで、友達以上恋人未満の関係の様で、何とも背中の辺りがむずむずする様な焦れったさまでティアナは感じていた。
それとは対象に、カグヤは何だか不思議そうな表情でフェイトの事をずっと見つめている。それに気付いたフェイトは、話題を逸らす様に問いかける。
「な、何カグヤ?」
「え? いや………、俺、親がいなかったから、『夫婦』って言われても実感湧かなくて………、ティアナに言われて、『夫婦』ってこんなモノなのかなぁ〜〜? って」
それは心底不思議がっている表情で、真実カグヤは『夫婦』と言うモノを知らないのだと誰の目にも理解出来た。
「親がいないって………? じゃあ、アナタ今まで何処で生活してたの?」
「俺はねえさ―――、俺の事は良い………っ」
語りかけたカグヤの瞳に暗がりが浮かぶ。何もかも拒絶する様な瞳は、話の内容に地雷があった事を如実に語っていた。
カグヤは暗くなった瞳のまま、ティアナの前に跪く。
「お前、俺の仲間にならないか?」
「いきなりね。でももちろん答えはノーよ。フェイトさん達がどう言う理由で一緒に居るかは解らないけど、私はアナタになんて従わない」
「なら従わおざろおえないようにするまでだ」
「どうやってそうするつもり?」
「簡単だぞ? 人一人を殺せばいい。お前の犯行に見せかけてな」
「「なっ!?」」
あまりの提案に表情を強張らせる二人。それを無視するカグヤの瞳は、何処までも黒く塗りつぶされている。
「犯行からしばらく日を置けば、証拠を隠すには充分な時間と判断される。お前は俺に従うしかない」
「そ、その程度で私が本当に従うと思ってるの!?」
「従うさ。それで従う気が起きないなら、俺はもう一人殺す。従っても怪しい行動一つしただけで殺す。裏切ればただのテロリストになって目に付く者全て殺す」
「な、何言って………!?」
次第にティアナの顔が青ざめて行く。カグヤの眼がまったく嘘を言っておらず、本気で他人を犠牲にしようと考えているのが伝わってくるのだ。それが自分の返答一つで実現しようとしている事実に慄きを隠せない。
「ちょっとカグヤ………」
「黙ってろ」
後ろからフェイトが会話に割り込むが、カグヤは全く取り合う気が無い様に言い張る。
「俺は本気だ。それでも従いたくないと言うなら、いつまでも我を通せ。その間に沢山の無関係な奴らが被害を被るだけだ」
「カグヤ!」
「黙っていろと言っただろう? 今俺はコイツと話している」
「でも………!」
「ティアナ・ランスター、考える時間が欲しいなら、それでもいいぞ? その間に俺は殺す人間を捕らえて、お前が考えている間、弄ぶだけだ。それでもいいんだろう?」
「ねえ!」
「だが、憶えておけ? お前の肯定以外の返答をすれば、誰にとっても良くない事が起きると言う事を―――」
「………っ!」
カグヤが顔面を床に叩きつけた。
後ろからフェイトが両手でカグヤの背中を突き飛ばしたのだ。
しばらく痙攣して、痛みを堪える様に顔に手を当てながら起き上ると、カグヤは事の犯人を見る。
「いきなり何するか?」
「ご、ごめん………。まさかあんなに綺麗に顔面打つとは思わなかった………」
「めちゃくちゃ痛くて、視界が開けん………」
顔を手で覆ったまま震えるカグヤに、フェイトはもう一度謝ってから表情を改める。
「カグヤ? 私、最初に言ったよね? 私が仲間になる代わり、誰も殺さないって? カグヤが本当に悪い事するなら、その時は止めるって? そのため私は一番近くにいられるここにいるんだよ?」
「………」
「あの時は管理局の執務官として、今度はカグヤの『仲間』として………、カグヤには誰も殺させないから」
しばし沈黙を御師と降りたカグヤは、やがて一つ溜息を吐くと顔から手を除けてフェイトに言う。
「少し出て行ってくれるか?」
「ここにいちゃダメ?」
「二人にしてくれよ」
弱々しい声で頼むカグヤの瞳には、もう先程の暗がりはなくなっていた。だからフェイトは頷くと、心配そうにしながら部屋を出て行った。
それを見届けてから深呼吸をしたカグヤは、まず、ティアナの手錠を外し、自分の着ている千早を肩に掛けさせる。
「………なに?」
先程の事で警戒しているティアナのに座ると、そんなぶっきらぼうな声が返ってくる。カグヤは真直ぐティアナを見つめる。
「今までのは全部無しで、とりあえず仲間になってくれ」
「嫌よ」
「仲間になってください」
「嫌」
「仲間になってくださいお願いします」
「イヤ」
「どうかこの通り仲間になってくれ候」←(土下座)
「なんで卑屈になって行くのよ!?」
「罪悪感に訴えてみた」
「むしろ嫌な気分がアップしてるわよ!」
「む〜〜〜………っ」
頭の後ろを掻いて悩むカグヤは渋面がになってしまう。
「どうしても嫌か?」
「当然でしょ。誰が犯罪者の味方になんか―――」
「なら、一時的に手を組まないか?」
「? どう言う事?」
「お前は管理局に戻っていい。でも、俺を追うのはしばらく無しにしてくれ。その変わり俺は、今起きている事件が一体何なのかを教えてやるし、その状況を作っている三人との戦いも手伝う。おまけにそちらの要求にも応えてやる。どうだ?」
「どうだ? って、そこまで妥協されても、あなたの目的が解らないのに頷けるわけないでしょう?」
「別に密約じゃないぞ? 正当な交渉だ。そもそも、俺は目的を果たしら、管理局に出頭するとフェイトと契約しているしな」
「そ、そうだったの!?」
「だから、お前がそんなに頑なになる必要なんて無いだろう? むしろ、俺が出頭するまでの間、余計なことしないように見張れるし、情報も手に入る。良い事ばかりだろ?」
「それで頷く人はいないわよ。私から言わせてもらうなら、他の皆がどうして一緒に行動しているのか、その方が気になるくらいだもの」
「フェイトはさっき言った通りだ。エリオはそれにくっ付いてきた感じ。スバルは根気よく説得してたらなんか頷いてくれた。そしたらそのままザフィーラがくっ付いてきた。リィンに対しては………ヤバイ女です」
「なんでリイン曹長だけ怖がってんの!?」
「あの女は小さいくせに侮りがたい………、『仲良くなれば色々教えてくれますよね?』って交渉条件で向こうから入ってきやがった。その上、何気にやつの思惑通り親密になってきているようで身の危険を今更感じる………。後に引けないだけにあの女はヤベェ!!」
「リイン曹長………、もしかしてこいつの天敵?」
余計な情報を与えてしまったと頭を振って仕切り直したカグヤは、もう一度誘い直す。
「ともかく俺の仲間になってくれ!」
「イヤよ!」
「さっき倒れた時に見えた股の間が綺麗だった事、誰にも言わないから!」
「何処見てんのよアンタはーーーーっ!!」
鉄拳が飛んできたので、慌ててそれを避ける。
「おおいっ! ツッコミなら本気パンチするな! 俺、それでもくちゃっ、って行っちゃうんだから!」
「やらせてんのはアンタでしょうが!?」
「な、なんだってーーーーーっ!!?」
「何よその新鮮な驚き!?」
殆ど痴話喧嘩に等しい言い争いは、扉越しに様子を窺っているフェイトの所まで届く程で、「何やってるんだろう?」と呆れ半分に苦笑を浮かべさせるほどであった。
諦める事なく仲間に誘うカグヤに対して、殆ど突っ込みで返しているティアナは、いい加減息も上がって疲れ気味になっていた。
「そもそも、なんでアンタはこんなにしつこく私を誘うのよ?」
話題の膠着を避けるための問いに、カグヤは少し押し黙ってから答えた。
「お前と戦った時、俺はお前しかないと思った」
「『私しか』? 私がいたら何かアンタの計画に役立つって言いたいの?」
「戦力と言う意味でなら、お前よりギンガみたいなフロントアタッカーが欲しいよ。俺達には火力が無いからな」
「じゃあ、なんで私なのよ?」
改めて問われ、またカグヤは黙る。少し思案気な顔で逡巡して、意を決したように答えようとするが、途端に口が止まり、何か難しい顔になって結局黙ってしまう。
「何一人で百面相してるのよ? もしかして理由ないわけ?」
「理由………、理由には違いないんだが………」
「何か急に歯切れ悪くなったわね?」
「あんまり納得できるような理由じゃないぞ?」
「別にいいわよ。言うだけ言いなさい。………どうせ断るから」
「ある意味安心して言えるな………。お前と一緒にいたいと思っただけだ」
「………は?」
「だからお前と一緒にいたいと思ったんだよ」
カグヤは髪を耳の後ろにどかしながら、語り始める。
「お前と戦った時、何とも言えない一体感の様な物を感じた。たぶん、お前とは根本的な部分で気があったんだと思う。だから、俺はお前と一緒にいたいと思った。何より、俺はこうしてお前と話していて、悪い気がしない。お前がどうこうだからじゃなくて、お前が―――ティアナ・ランスターが、俺にとってとても魅力的な存在に思えたから、だから俺はお前に一緒に来てほしい」
「な………っ、え………?」
「ん〜〜〜………、言葉にするとなんか難しいなぁ? 端的に言えば、俺はともかく、お前と一緒にいたいと思ってるし、お前と言う人物の全てが気にいってるし、ともかくお前の色々好きなんだと思う!」
「―――っ!? ////」
途端にティアナの顔が紅潮した事に、カグヤは不思議そうに首を傾げる。
その姿にティアナの頭の中で冷静な部分が、しっかり考える様に訴えかける。頬に両手を当てながら顔を背け、血の集まり過ぎた頭で必死に考える。
(コイツは思った事をただ口にしてるだけよ! だから、これは私が今考えている様な意味じゃない! 告白なんかじゃない! 勘違いしちゃダメ!)
「おい、どうした? もしかして俺の言ってる事疑ってるのか? 言っとくけど、これは本当に本心だからな?」
「うっさい! ちょっと黙っててよ!?」
考えをまとめる前に心を読んだ様な事を言われ、ティアナは焦ってしまう。
「なんだよ? なんでいきなり怒りだしてんだよ? さっきみたいに失礼な事言った覚えはないぞ?」
「会話には『間』って物がいるのよ! 空気読みなさい!」
「それは………ごめん」
「案外、素直に謝ったわね………」
「理由が納得できたので………。どうぞゆっくり考えてください」
言われて考えようとしたティアナだが、何だか出鼻を挫かれた様な気分で上手く考えが纏まらない。殆ど考えようとして考えていない時間が、ただ無為に過ぎて行くが、ティアナは何も言い出せずにいた。時間が過ぎてしまった上に、考えがまとまらないのだ。一体何を言えば良いのか逆に解らなくなってしまった。
いい加減痺れを切らしたらしいカグヤは単純にして明快な質問を寄越す。
「結局さ、お前は俺の敵になるのか? それとも手を組んでくれるのか?」
そう、それはティアナの待っていた二択。一言断るのに必要な単純な質問。
だが、その単純な質問にティアナは妙な事に気付いた。
カグヤは『敵』か『味方』か、とは訊ねなかった。『敵になる』のか『手を組む』のかと訪ねた。それはどっちを選んだとしてもティアナ・ランスターと言う人物と自分には超える事の出来ない溝があると言うかのようだ。
カグヤにはカグヤの事情があり行動している。それはたぶん、犯罪だが、きっと優しい何かのため。それくらいはティアナにもなんとなく理解出来た。そうでなければ、フェイト達が彼に力を貸すなどと言う事はありえないのだから。
思う。カグヤは自分達を遠ざけた場所にいる。仲間に引き込んでおきながら、彼は何処かでこちらを信用していない。だが、それにしてはフェイト達の待遇が無防備に過ぎる。
考える。カグヤは誰も信じていない。だが、信じたいと本人は思っているのかもしれない。だから、彼は信頼を形に出そうとして、彼らの行動を容認し、自分の計画は極力自分で行おうとする。
しかし、と、考え直す。ならば何故カグヤは仲間を求めるのだろうか? そんな難しい事を考え、結局一人で計画を進めてしまっては、仲間を集める意味が全くない。その疑問は一体何処に回答があるのだろう?
探す。その回答となる事例を、自分の知る限りの記憶と記録から引っ張り出し、検索を掛ける。だが、そこには答えが無い。彼に対する行動や思考は、あまりにも矛盾が多過ぎて理解に至れない。
だからティアナ・ランスターは視野を広げる。彼以外の事、関係の無い事、今まで自分が出会ってきた全ての経験を活かして巡らせる。そこに確かに答えの様な物はあった。それ一つを肯定するだけで、簡単にカグヤと言う人物を理解出来てしまう答えが、確かにあった。
それは、あまりにも幼く、あまりにも儚い感情。そして矛盾していた。理想と現実、その二つが綯い交ぜになって、どちらにも傾けずにいる迷子の様。
理解して、解る。彼と言う人物が、いかに『特別で無い』か………。
そう、そんな考え方をするのは、特別な舞台に立つ人間でもなく、英雄の様な人間でもなければ、今カグヤの『演じている』悪役でもない。
何処にでもいる、ちょっと辛い経験をしただけの一般人の考えだ。
特別な事など何もない。特異な事など何もない。どんな覚悟をしても、どんな決意をしても、その先にあるのは何処までも変わらない自分だけ。決して物語の主人公にはなれない、そんな人物。それが目の前にいるカグヤと言う存在。
それが解ってティアナは、彼を昔の自分と重ねてしまう。
自分には才能が無くて、ただの凡人で、周囲と比べれば圧倒的に劣っている。そんな思いを抱えながら、それでも無理に頑張って、結果的に周囲の人間を危険に巻き込み、危うく一生拭えない後悔をするところだった。
カグヤはその時のティアナが、誰にも忠告されず、一人で此処まで来てしまったかのような、そんな危うい姿に映った。それも、カグヤは要領が良さも原因の一つだ。今までは彼は負ける事しか知らなかったのだろう。だから、逆に負ける事に対する恐怖心が無い。それは彼にとって日常と変わらないのだから。つまり、それは勝利の対価を何も知らない、勝ちに対する執念が無いと言う事。勝つための戦いを彼はしていない。彼が求めているのは結局、最後の最後の結果だけなのだ。
誰に忠告される事もなく、誰にも正される事の無かった彼は、矛盾を矛盾のまま抱えて進む事しかできなくなっている。
(フェイトさん達が仲間になった理由が解った………)
ティアナは確信する。彼は止めただけでは救われない。彼は犯罪を犯してでも何かを果たそうとしている。それは犯罪、当然周囲は止める。力で押し止めるのはさほど難しい事ではないだろう。カグヤはそれほどの力など欠片も持ち合わせていないのだから。故に間違いは正されるだろう。だが、止められた一人は救われない。ただ世界の理不尽さに膝を抱えて泣き続ける。その結果は―――何もない。ただ正義が守られただけ。何も生まないし、何も起こらない。
それを皆、理解しているからこそ、彼の仲間になり、彼を知り、彼を救おうと考えている。
ティアナは笑う。不器用な同僚や上司を………。
ティアナは微笑む。不器用に前に進もうとしている青年に………。
彼女は選ぶ。彼を救える道を探す為に、その選択肢を選ぶ。
「解った。仲間になってあげる」
「………見返りは何でしょう?」
「いきなり警戒心Maxね………」
「最近、仲間になる奴は侮れない奴ばかりだからな」
「まあ、想像通りだけどね」
「フェイト、ヘルプ〜〜〜!!」
「フェイトさん、特に変わった事ありませんから無視してくださ〜〜い!」
部屋の外にいたフェイトは、二人の言葉に入るべきかどうか迷ったが、結局入らずに待つ事に決めた。その気配を扉越しに感じ取ったカグヤは割とショックを受けた。
ティアナは得意そうな顔で条件を提示する。
「まず、必ず行動する時は私に相談してから行動する事。今までみたいに単独行動は許しません。犯罪者との区別を付けるために、管理局から期間限定で見逃してあげるから、そのための組織として組み立てる事。これが最低条件よ!」
「これで最低!? お前まだ何か要求するつもりかよ!?」
「当然でしょう? 私は安い女だと思わないでよ?」
悪魔の様に笑うティアナの表情を見て、カグヤは頭を抱えながら絶叫を上げるしかなかった。
「この女ヤベェーーーーーーーッ!!」
・Aria
「でも、本当に驚きですよ? フェイトさん達が管理局のお仕事を放り出してまで、こんな所に居るなんて?」
カグヤの根城となる戦艦内、そのカフェテリア風に改装中の一角で、私、ティアナ・ランスターとスバル、フェイトさん、が揃っていた。
フェイトさんは私の質問に困った様な苦笑いを浮かべていた。
「最初はカグヤを説得するつもりだったんだけど、いつの間にかそれじゃダメな気がしてね? それに、カグヤは絶対に何も話してくれないと思う。だから、こっちから近づいて、私が事情を知ってあげるのが良いかも………って? たぶん、カグヤは本当に最後まで教えてくれない気がするから」
それは私も思った。何だかんだと理由は付けてるけど、アレは絶対に話すつもりが無いように思える。カグヤが一体何を考えているのか解らないけど、彼を犯罪者にしない為にも、私達がしっかりと傍に付いている方が良いのかもしれない。
相対するだけじゃ、一生カグヤの想いには気付いてあげられない。たぶん、アイツはそう言う奴だ。
「まったく面倒臭い奴」
「誰がだよ?」
声に振り返るとカグヤがいた。
「ティアナ、少し来てくれるか? さっきザフィーラに稽古付けてもらったんだが、お前の意見を聞きたい」
「良いわよ。ちなみに勝敗は?」
「一応勝った。けど終始押されっぱなし」
「これがその時の映像? 貸してみなさい。………これ、どうしてこの時攻撃しなかったの?」
「踏み込みが遅れたんだ。それで無理に攻撃しようとするより距離を取った方が良いと思ったんだが………?」
「それなら、この時に―――」
私達が意見交換を一通り終えると、カグヤは難しい顔になって自分の戦闘データを見直していた。
「サンキュー。色々勉強になった。休憩中悪かったな」
「別にいいわよ? 後でカフェでも奢ってもらうから」
「マジですか………?」
難しい顔に影まで差してげんなりするカグヤは、ふと思い出したように私に伝える。
「ティアナ、お前に聞いておきたい事があるんだが?」
「ティアでいいわよ? なんか呼びにくそうにしてるし? それで何?」
「ああ、お前の所に、時食みについて知ってる奴がいるっていう情報、俺以外に来てなかったか?」
「カグヤ意外に?」
思い返してみるが、そんな情報は来ていない。そもそもカグヤが時食みの天敵なんて話は、ここに来て初めて知った事だ。その上、カグヤ意外となると―――、
「あれ? ちょっと待って? 何かそんな噂聞いたかも?」
確か、管理局に民間協力者として、戦ってくれているらしい男性がいるとかいないとかって言う噂だったような………? 噂の域を出ないけど、とりあえず話してみる。
「そいつの名前解るか?」
「噂程度だし………、なのはさんなら知ってるかもだけど?」
「『なのは』?」
「高町なのは一等空尉。私達の先輩で〜〜………先生? みたいな感じの人よ」
「た、かまち………っ!?」
なのはさんの名前を聞いた瞬間、カグヤの表情が驚いた者へと変わった。
「なに? 知り合いなの?」
「いや、俺は知り合いでも何でも………、でも確か高町と言えば『御神』の―――いや、関係ないか………」
カグヤはすぐに「忘れてくれ」と首を振る。
良く解らないけど、詮索しても無駄そうなので流しておく。
「そうだ、この後、情報収集に出たいんだが、ついでに付き合ってくれないか?」
「いいわよ。どの辺り?」
「B9地区。ついでに食事してこようと思ってる」
「もしかして、『ワグナリア』? あそこ美味しいのよね〜〜」
「ああ、だからそこで食う」
「じゃあ、奢ってもらいましょうか?」
「そう言えば、ここにお前が寝ている間の写真のデータがまだ残ってたな?」
「なんてもの残してんのよ!?」
「いくらで買う?」
「………解ったわよ。そこは私が奢るわよ」
「下手に藪を突くと蛇が出る物だぞ」
「本当にね」
自慢げな表情で片目を瞑るカグヤに、私は呆れて嘆息する。
「フェイトさんフェイトさん?」
「なに? スバル?」
「今思ったんですけど、ティアとカグヤさんって、なんか似てる気がしません?」
「そうかも? 二人とも、どこか似てる気がするね?」
何か話していたらしいスバルとフェイトさんが、互いを見て笑い合う。私はそんな二人を不思議そうに眺めるが、二人とも「何でもないよ」と言って取り合ってくれなかった。
「どうした?」
「別に―――っ!? 顔近いってば!? 何覗きこんでんの!?」
「まてっ!? 肩越しに覗いただけだろ!? いきなり銃をこっちに―――ぎゃあああっ! 撃つな〜〜〜〜っ!?」
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