真・恋姫†無双〜絆創公〜 第一話 【嫉妬の嵐吹く】 |
第一話
場所は謁見の間。それも魏・呉・蜀、三国統一の証として建国された都に構えられた城。
城主を北郷一刀とする、その中にある部屋である。
そこには数名、三国の名だたる武将と知将が顔を揃えている。
全員がここにいる理由、それは今、巷を騒がしている怪しい存在の対策である。
本来ならば、このような案件は正式な会議室などで議論すべきなのだが、持ち寄られてくる報告は全て『姿を消した』の一点のみ。
それが度々続くと、規模の大きい会議を開くのも億劫になり、そのため、謁見の間のように小さな部屋(と言っても十分な広さなのだが)で、互いの成果を持ち寄る、といった形になったのだ。
本日も、代わり映えのしないであろう報告、しかしながら僅かな進展を期待して、待ち人来たるのを待っているのだ。
「一刀たち遅いわね〜………」
部屋の人物の一人、呉の孫策伯符は、座っている椅子の下で片足をブラブラと揺らしている。
「姉様、だらけ過ぎです!」
その妹であり、呉の現君主、孫権仲謀は自分の姉の態度に苦言を呈した。
「いいじゃないのー、どうせ報告は変わんないわよ」
「だとしても!」
「蓮華様、諦めた方が宜しいかと」
横入りしたのは、呉の軍師、『美周郎』周瑜公謹であった。
「冥琳!?」
「雪蓮のだらしなさは今に始まったことではありません。改めよといった所で無駄だと思いますが?」
「さっすが冥琳!よくわかってるじゃな〜い」
悪びれもせずにヘラヘラ笑う当事者を、深い溜め息で二人は見る。
「でも、雪蓮さんの言う通り、ご主人様も愛紗ちゃんたちも遅いな〜………」
蜀の君主、劉備玄徳は机に突っ伏した。
豊かな双丘が体と机との間で、その形が均等に崩れていた。
「確かに、皆さんが向かわれた場所から考えれば、もう姿を現しても良い頃合なんですが………」
三国一の知謀の将と称される、諸葛亮孔明は憂いの表情を浮かべる。
「もしかして、あの怪しい一派に…………!」
「一刀だけならともかく、愛紗とあの三人がいるのだから、滅多なことは起こらないわよ?」
諸葛亮と机を並べた鳳統士元が、いきなり物騒な事を口走ろうとしたが、魏の君主、曹操孟徳がそれを押し留めた。
彼女自身、一見すると毅然とした態度であるが、よくよく見れば机の下に隠れた片方の手が、落ちつきなく動いているのが分かる。
「あのお兄さんの事ですから、見目麗しい女性にでも付いていってるんじゃありませんかね〜……」
「…………………………………………」
魏の軍師、程c仲徳が少し大きめに呟いた一言に、その場に沈黙が走る。
彼女をよく知る人物なら、それが冗談であることがすぐ理解できるが、その時の全員の思考がそこまでに思い至らなかった。
それどころか、その冗談に対して『有り得る』とまで考える程だった。
天の御遣い、北郷一刀。しかし、世間の見聞に広まっているのはそちらではない。
『三国一の種馬』
『糸の切れた凧』
『万年発情男』
などなど、挙げていけばきりがない。
女性関係が激しく、しかもそれが、北郷一刀本人の意志に関係無く次々と籠絡していく。
誰が言ったか、『息をするように女性を口説く』
ある意味、得難い人物と才能であることは間違いない。
事実、女性陣は彼自身の人柄に惹かれているのだ。
だからこそ、恐ろしいのだ。
「ただいま〜……………」
思考停止していた全員の耳に、当の本人の声が響いた。
「ご主人様!! 随分遅かっ………た…………」
いち早く出迎えようとした少女は、その声を中断した。いや、せざるを得なかった。
目の前にいるのは確かに自分達の想い人、そしてその護衛の為に付き従った武将達であった。
しかし、その光景には余計なものであり、有り得ないものがくっついていた。
その言葉通り、くっついていたのだ。
長髪の女性が。青年の背中に負ぶさって。安らかな寝顔で。
「前もって言っておくけど、皆の想像と違うからな?」
幾度の女性経験からか、危機を察知して、そう話そうとしていたが、それは無理なことだった。
それよりも早く、女性陣の罵詈雑言のオンパレードが彼を襲ったのだ。
それでは発言者の名前を伏せて、幾つかその暴言を抜粋していこう。
「ご主人様! 見損なったよ!!」
「一刀がそこまで節操ないとは思わなかったわ!!」
「お兄さんらしいですが、流石にこれはいただけませんね〜」
「まさか北郷が、直に連れ込むとはな…………」
「これでまた競争率が激しくなるわね〜!!」
「一刀………覚悟は出来てるわね…………?」
以上、匿名性の全くない暴言紹介でした。
しばらくして、彼女達が少し落ち着いた頃、負ぶさっていた女性が目を覚ました。
どうやら今の騒ぎで起きたようだ。
「あ、ゴメン。起こしちゃった?」
青年の問い掛けに、女性は軽い呻きと身じろぎで応え、青年の背中から下りた。
彼は意識してないようだが、その優しい口調が、女性陣の神経を逆撫でしてしまったようだ。
しかし、その口から再び罵声が飛び交う前に、今度は青年の方が先手を打った。
「紹介するよ。天の国にいた、俺の妹だ」
「………………………ハ?」
唐突な言葉に、全員が固まる。
「は、はじめまして…………北郷佳乃、です」
衝撃が、部屋の中を支配した。
−続く−
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