真・恋姫†無双〜絆創公〜 第二話 【目の前の奇跡】
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第二話

 

 時は少し前、一刀たち五人が突然の遭遇に立ち会った頃に遡る。

「妹………ですか!?」

「本当に……隊長の………!?」

「前に聞いた、天の国にいたっちゅう、あの………?」

「隊長、間違いないのー?」

 四人とも、驚きを隠せないようだ。

「似てる…………凄く、でも…………そんな、こと………」

 だが、一番驚きを隠せないのは、発言をした本人であるようだ。

「い、何れにせよ、このままにしておくのは………」

 主の混乱を悟ってか、黒髪の少女が行動を促した。

「そ、そうだな……ひとまず華佗の所で診てもらおう!!」

 意識をこちら側に引き寄せた青年は、倒れていた少女を背負って歩き出した。

 ちなみに、背負われた少女に対して、多少なりとも羨望の眼差しを向けていた少女が四人いたことは、余談である。

 

 

「恐らく何か衝撃を受けて、一時的に気を失っているんだろう。命に別状はないよ」

 熱血医師、華佗元化はその表情を緩めた。

 それを見た付き添いの五人は、揃って胸をなで下ろした。

「しかし、お前たちが妙な血相してここに来たのには驚いたよ」

「悪いな、心配させたみたいで」

「気にするな、一刀。これが俺の仕事だからな」

 五人に笑顔を向けた医師の青年は、寝台で寝ている女性に向き直った。

「にしても、この子は珍しい服を着ているが……どこに住んでいるんだ?」

「ご主人様の…………妹、らしい…………」

「一刀の………?」

 意外な名前を聞いた青年は、目を見開いた。

「確か、天の国には一刀の家族がいると聞いていたが………お前の家族も一緒に来ていたのか?」

「………………分からない」

「分からない………?」

「俺の家族が、あの時に俺と一緒に、俺とは違う場所に来ていたのか……それとも、今日妹がやって来たのか………そもそも、この子が本当に俺の妹なのかも、まだ………分からないんだ」

 ポツリポツリと、呟くように喋る青年の姿は、やけに痛々しく見えた。

 しかし、全員その察しはついていた。

 

 

 一刀は、この世界にたった一人でやって来た。今でこそ彼を慕ってくれる仲間が大勢いるが、そこに至るまでに幾度となく寂しい思いをしたであろう。

 

 とりわけ、家族に対する思いは。

 

 逢いたいと思っていても、その相手は遙か時空の彼方にいる相手。死に別れたのであれば幾らか気持ちの整理はつくのであろうが。

 

 いや、彼は耐えきれないであろう。

 彼は優しい。優しいが故に、武将達と知将達の心の拠り所となり、彼を恋い慕う女性が多い。

 しかし、その優しさが故に自身を苦しめることがある。三国統一前の数多の戦が良い例だ。

 ごく普通の一般人である彼が、ある日突然、戦が日常的になっている世界に放り込まれ、しかし彼は、逃げ出さずに直視してきた。

 その度に、こみ上げてくる不快感とも、彼は戦ってきたのだ。

 

 そうやって己とも戦ってきた彼が、今目の前で、郷愁の思いと戦っている。

 その姿が、彼に声を掛けるのを躊躇わせる一端になっているのだ……

 

 しかし、このまま重苦しい空気を続けていくわけにもいかない。

「何なら、今確かめてみるか?」

「……えっ?」

 会話の突破口を開いたのは、医師の青年だった。

「今この子は、体内の氣力や活力がかなり減退している。一時的ではあるが、それを回復させるツボがあるから、それを刺激すればこの子は目を覚ますぞ?」

「………………」

 華佗から聞かされた言葉に対して、一刀は表情が曇った。

 目覚めた少女から聞かされる言葉。それがどうであれ、自身の身の振り方が嫌な方向にしか行かない。

 

 寂しさと同時に淡い期待を持つのか、肉親との繋がりをキッパリと絶ってしまうのか。

 

「………………………頼む」

「…………分かった。少し待ってくれ」

 決意の瞳を確認すると、華佗は鍼を数本取り出した。

「………………………」

 少女の手足の甲に、鍼が一本ずつ刺さっていくのを、ただじっと見つめている。

「ご主人様…………………」

 今まで口を閉ざしていた黒髪の少女が、いつの間にか一刀の隣にいた。

 見ると、片方の手がいつの間にか愛紗に握られていた。

 彼女の両の手で。包み込むように。

 愛紗は、心配そうに、でも目の前の青年を、慈しむように見つめていた。

 瞳も少し潤んでいるようで、それが少しだけ、一刀の心を和らげた。

「愛紗………………?」

「私は…………ご主人様の、お側におります…………ですから…………」

「愛紗………………」

 

 と、空いた手に、また別の感覚が走る。

 そちらを見ると、凪、沙和、真桜の三人が、同じように一刀の手を握っていた。

「隊長……我々も、ずっと一緒ですよ……」

「そうなのー、約束なのー!」

「ウチら隊長に命賭けるっちゅーたんやからな。絶対に離れへんからな〜!」

「凪……沙和、真桜…………皆、ありがとう………!」

 瞳から流れる一筋の雫を、拭いもせずに礼を告げた。

 

「………よし、目を覚ますぞ!」

 聞こえてきた声に、全員の視線が寝台の上に集中する。

「さあ、話しかけてみろ」

 鍼を抜いた華佗は、寝台から離れて一刀を促した。

 一刀はゆっくり近付いて、寝ている少女の顔を覗き込む。

「……………………ん」

 軽い呻き声と共に、少女の瞳がゆっくりと開かれた。

「大丈夫、かな…………?」

 なるべく怖がらせないように、声色を柔らかくして話しかける。

 

「…………かず、にい……ちゃん?」

 

 一刀は声を聞き、目を見開いた。

 

 自分を呼ぶその声とその呼称は、間違い無く、たった一人の血の繋がった妹のものだった。

 

 

 

−続く−

 

 

 

 

説明
プロローグのコメントして下さった方の御指摘により、台本形式を変更致しました。内容について御指摘がございましたら、是非教えて下さい。ちなみに、一刀の妹の名前の読み方は『よしの』。元ネタは吉野桜です。
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真・恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀 愛紗  沙和 真桜 華佗 

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