if 〜それぞれの道〜
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落ちる。

 

目の前には、あたしが嫌ってきたムカつく女がいる。

これがあたしが見る最後の光景かと思い落胆したが、案外そこまでムカつかなかった。

 

・・・・まったく、あたしは最後まで意地っ張りだったな。

 

 

 

レイアは困り果てていた。

ラ・シュガルの一角、裏道を更に進んだところにある不良の溜まり場。突如その場に現れたレイアは当然の如く不良たちから不審な視線を集めていた。

「・・・・あ、あはははは・・・・ど、どうも・・・・」

レイアは愛想笑いを浮かべ軽く挨拶してみるが、そんなところで不良たちの視線が外れるわけがない。

さっきまで一緒にいたはずのルドガーたちの姿はどこにもない。確かに分史世界に入るまでは一緒にいたのだ。

「うー・・・どうしよう・・・・・」

 

 

 

「ねえ、何か変な女いるんだけど」

あたしがそいつに気付いたのは、ライラの言葉だった。彼女が指差す方を見ると、不良に囲まれたいかにも一般人の女がおろおろしているのが見えた。

「・・・・・・・・」

女はここらでは珍しい洋服を着ていた。良い生地の可愛らしい服に、黒い帽子。ここらの人間ではとてもではないが着れるような服ではない。そんな女がここらの人間から注目されるのは当然のことだ。

「ちょっとやめときな! どうするのさ!」

ライラの制止の言葉を振り切って、あたしは不良たちをかきわけて女の方へ歩き出した。

女はおどおどしていたが、進み出るあたしを見て、驚いた顔をした。

「アグリア・・・・・・!?」

「・・・・・・はぁ?」

あたしが顔をしかめると

「ううん。なんでもない!」

女は頭を大きく横に振った。

「・・・まぁいいや。で、あんたこんなところで何してんの? ここはあんたみたいなお嬢様が簡単に足を踏み入れるようなとこじゃないよ。さっさと失せな」

「ごめんなさい。ちょっと道に迷っちゃって。中央通りに出るには、どうしたらいいのかな?」

「・・・・・・・・・・」

おどおどしているからてっきりどこぞの貴族のお嬢様かと思ったが、女ははっきりと聞いてきた。

正直面倒だったが、あたしは仕方なく女を中央通りに案内してやることにした。

案内してやると女はお礼を言うと去っていった。途中何度も顔をじろじろ見られあんまりいい気分はしなかったが。

「それにしても、意外だねぇ。あんたが人に親切だなんて」

突然後ろから声がかけられた。ライラだった。

「・・・・・別に。単なる気まぐれだよ」

「へ?。あんたが、しかもあんなお嬢様風情の子に親切ね・・・・・」

「うっせーな! あたしがどうしようとあたしの勝手だろ!」

「おーこわ・・・」

大して怖がってねーだろ。あたしはそんなことを思いながら呆れてライラを見つめた。

「あ・・・・とさ、なんか、今変な噂が流れてるみたいだけど。あんま気にしない方がいいよ。ほんとかどうかわかんないんだしさ」

「・・・・・・・はぁ?」

噂? 何のことだとライラを問い詰めると

「い、いや。聞いてないならいいよ。あんたってすぐに鵜呑みにしやすいからさ、根も葉もない噂に振り回されないように注意しなよ」

「大きなお世話だ!」

あたしが怒鳴るとライラはいつもの調子でへらへら笑いながら路地裏に消えていった。

「ったく、何だってんだよ・・・・・」

 

 

「・・・・・・ったく、つまんねぇ。つまんなすぎなんだよ、あんたら」

あたしは壁にへばりついている男の頭を蹴りつけて言った。男の仲間たちは地面に突っ伏しており時々情けない悲鳴を上げていた。

そして懐から布財負を取ると、後ろで泣いている子供の前に放り投げた。

「ほら。取り返してやったからもう泣くな。男だろ」

「・・・・・・・・・う、うん。ありがとう、おねえちゃん」

子供は何度もありがとうと言うと手を振りながら走っていった。

柄にもないことをしてしまったなと思いつつも、あたしは路地裏にある酒場へと向かった。この時間ならちょうどライラがウェイトレスをしているからだ。

「ナディアか。久しぶりだな」

酒場に入ると、最初に声をかけてきたのはマスターだった。

「相変わらずしけてるな・・・・ライラは?」

「お前、女の子なんだからちょっとは言葉遣いを何とかしろよ」

「うるせー!」

あたしは大きなお世話だと言って怒鳴ったが、マスターは面白そうに笑うだけだった。

「それで、注文は?」

「・・・・うーん。じゃあ、ムーンライトで」

「バカ。んなもん未成年に出せるかってんだ。どうせまた昼飯たかりに来たんだろ。何か適当に作ってやるよ」

じゃあ聞くなよと内心思いつつあたしはため息をついた。

ライラは買出しに行っている様で、あたしは黙って酒場の中を見渡した。時間帯もあり、店にはあたしを含め客は三人しかいなかった。

あたしとマスターが黙ると必然的に他の客の話声が聞こえてくる。

「なあ・・・・あの噂、本当なのかな?」

「噂って・・・例の六家のか?」

六家という単語にあたしは反射的に反応した。

「ああ、確か、トラヴィス家だっけ」

「・・・・・・・・・」

「むごい話だよな。俺、貴族に生まれなくてほんと良かったわ」

「でも噂なんだろ?」

「それが単なる噂じゃないって話なんだよ。なんたってトラヴィス家の本妻の長男が言いふらしてたらしいから」

「まじかよ・・・・・」

トラヴィス家の本妻の長男??それを聞いたとき、あたしは立ち上がっていた。

「・・・・・おい」

そして話をしている男二人組に声をかけた。

「ああ?」

話の腰を折られ不機嫌そうに男は振り向いたが、ナディアの顔を見てしまったという風に顔を青ざめた。

「教えろ。どんな噂だ」

あたしが尋ねると男二人は気まずそうに顔を見合わせて黙り込んだ。

「・・・・教えろ」

もう一度尋ねると、男はため息をついた。

「わかった。ただ、あくまでも噂だ。俺もこいつも他の人間から聞いただけだからな!」

「・・・・・・・・・・」

「トラヴィス家の本妻の子供たちが、父親の妾の女を殺したって」

 

 

「・・・・・・・・・・・」

気がつくと、あたしは酒場を出て、路地裏の開けた場所に突っ立っていた。

どれくらいの時間そうしていたのだろう。空は相変わらず暗いまま、まるで自分の心を映し出しているようだった。

そして思った。

何故、母がこんな仕打ちを受けなければならなかったのか。何故、自分がこんな生活を強いられているのか。何故、母が妾でなければならなかったのか。何故、階級というものが存在するのか。何故、何故、何故何故何故何故ナゼナゼナゼナゼ!?

父親も、正妻を気取るあの気に入らない女も、その血を引くムカつく腹違いの兄たちも。あいつらは階級が生み出す特権を振りかざせば何でもまかりとおると思ってやがる。

イル・ファンを我が物顔で往来する貴族の豚どもも、更にはその上に立つ王族すら。

「・・・・・・・・・・・っ!!」

あまりにも強く噛み締めた所為で口の端が切れ、血の味が口の中に広がった。

許せない。

母を殺した兄たちも。母を助けなかった父も、その正妻も。特権階級に甘んじている貴族たちも。その特権階級を生み出したこの国も。

そうだ。こんな国、滅びてしまえばいいんだ。いや、滅ぼしてやる。あたしが。絶対に。

「あは、あははは、あははははは・・・・・・・・」

なんて簡単なことだったんだろう。そうだ。なんでこんなに簡単なことを今まで思いつかなかったのだろう。もっと早く思いついていれば、母だって救えていたかもしれない。

あたしは口の端についた血をなめ取ると、ふらふらと歩き始めた。

 

 

 

「・・・・・・通り魔?」

何とかルドガーたちと合流すべく、イル・ファンをうろうろしていたレイアは宿屋でお昼ご飯を食べていた。

情報収集がてら宿のおかみさんに色々と尋ねていたのだが、おかみさんによると最近、貴族ばかりを狙った通り魔が多発しているという。

「だから、あんたも夜に出歩くのはやめた方がいいよ。今のところはお偉い貴族の連中ばかりだけどね。いつあたしら平民が犠牲になってもおかしくないんだから」

「・・・・・・裏路地、か」

「ちょっと、聞いてるのかい?」

「聞いてる聞いてる! わかった。ありがとうおかみさん」

私は食事を終えてお礼を言うと宿屋を出た。

この世界に飛ばされて数日ほど時間が経っていた。情報収集はしていたが時歪の因子に関する手がかりもルドガーたちの手がかりも掴めなかった。

「他の町に行ってみるべきかな・・・・でも、ヴェルはイル・ファンだって言ってたしなぁ・・・・・」

路地裏の通り魔・・・・もしかしたら、時歪の因子かもしれないし、なにか情報がつかめるかもしれない。それに・・・・

「アグリア・・・・・」

レイアは自分を助けてくれた少女のことが心配になってしまったのだ。通り魔は貴族ばかり狙っているとはいえ、やはり心配だ。

アグリアの実力はレイアも嫌というほどわかっていた。自分が心配しなくても、彼女は一人でも大丈夫なのかもしれない。でも、それでも心配だ。

「こういうところが、臭いって言われるのかもね」

レイアは苦笑して、路地裏の方へ歩き出した。

 

 

 

辺りは死臭に満ちていた。

護衛の兵士は皆、事切れており、太った貴族の中年男が腰を抜かしている。

必死で逃げようとあとずさるも、後ろは既に壁。目の前には少女が楽しそうな目で男を見下ろしている。ナディアだった。

「ひいっ・・・来るな・・・・・来るなあっ!!!」

男は情けない声を上げて必死で両腕を振り回している。

ナディアはそんな男の顔を面白そうに見ると

「ねえ、おっさん。死にたくない?」

と尋ねた。男は必死に何度も首を縦に振る。ナディアはすごく、すごく楽しそうに男に背を向ける。

「そっか?。死にたくないんだぁ・・・・・」

「か、かか、金が目的か!? 金ならいくらでも、いくらでも払うから命だけは・・・・!」

「・・・・・・・・・」

その言葉に、それまで楽しそうにしていたナディアがピクリと動きを止めた。そしてゆっくりと振り返るとナディアの顔を見た男が戦慄した。

「死んじゃえ!」

ナディアが杖をかざすと、火炎の球が男の全身を瞬時に焼き尽くした。男は悲鳴すら残せず灰へと形を変える。

その場には狂ったナディアの哄笑だけが残された。

「!!」

一瞬感じた殺気に、それまで笑っていたナディアは瞬時にその場を離れる。ナディアがいた場所を精霊術が襲った。

「誰だ!!」

ナディアが怒鳴るが、辺りに人影がなく次々と精霊術が彼女を襲った。

その騒ぎを聞きつけたのか、鎧の足音が増えてくる。おそらく、町の衛兵だろう。

「ちっ・・・・・」

ナディアは苦々しげに顔を歪めると、路地裏の奥へ向かって走り出した。ここは彼女にとっては自分の庭も同然である。衛兵から逃げられる自信は当然あった。

だが、何者かからの執拗な精霊術の攻撃に遭い、袋小路に追い込まれてしまった。後ろからは衛兵たちの足音がどんどん大きくなってくる。

これまでか・・・・。

ナディアは諦めて肩をおろした。

「アグリア!!」

その時、ナディアの頭上から声が聞こえた。見ると見覚えのある女が必死に手を伸ばしている。

「早くこっちに!」

数日前、路地裏に迷い込んだと言っていた女だった。ナディアは躊躇していたが、すぐ近くで聞こえた鎧の足音に気付き、女の手を取った。

女とナディアは建物の屋根の影に隠れて衛兵たちをやり過ごした。そして衛兵たちの気配が消えるのを見計らって

「・・・・・もう、大丈夫そうだね」

女が安堵のため息をもらした。

「・・・・なんで、あたしなんか助けたんだ?」

ナディアの言葉に、女はびっくりしたような表情を浮かべ、そして考え込んで言った。

「ほら、前に助けてもらったし。そのお礼。何か困ってるみたいだったからさ」

「・・・・・・それだけ?」

「うん。・・・・・何か、変かな?」

「・・・・・・・・・・・」

ナディアは絶句した。

以前助けた。それだけの理由でこんな路地裏の奥で困っていた自分をこの女は事情も知らずに助けたのだと言う。

能天気そうな顔で安堵の表情を浮かべているこの女に自分が通り魔であることを伝えようかと思ったが、やめた。理由は特にない。何となくだった。

「・・・・まあ、何でもいいや。お前のおかげで助かった。ありが??」

お礼を言おうとしたが、突然女の姿が掻き消えた。

「・・・・・・?」

ナディアは目をこすり、きょろきょろと辺りを見渡すが誰もいない。初めからそこに誰もいなかったかのように。

屋根から飛び降り、袋小路へ戻り辺りを見渡しても誰もいなかった。

ナディアは少し考えていたが、すぐに頭を振り払いその場から離れるように歩き出した。

そんなナディアの前に一人の女性が姿を現した。女性は眼鏡をかけており、手には分厚い本を持っていた。

 

 

 

レイアは何が起こったのかわからなかった。

突然目の前からアグリアが消えたと思ったら次の瞬間、イル・ファンではなくニ・アケリア霊山の山頂にいたからだ。

辺りを見渡すと、側にはルドガーたちがおり彼らもレイアの突然現れたことに驚いているようだった。

「なにむがっ・・・・・・!!」

レイアが声を上げると同時にレイアの口を後ろにいたアルヴィンが塞いだ。

「しー! しーっ!」

ジュードが人差し指を口に当てて静かに! を強調してくる。

アルヴィンが指差す方を見るとそこには、かつてのレイア達がいた。

「・・・・・・・?」

状況を飲み込めないレイアに、アルヴィンが小声で説明してくれた。

いつものように分史世界に侵入できたのは良かったが、ちょうどユリウスとクロノスが戦っており、運悪くレイアだけがクロノスの攻撃をもろに喰らい時空の狭間に飛ばされてしまったらしい。

ルドガーたちとユリウスで何とかクロノスにダメージを与えてクロノスを追い払ったのだが、レイアが戻ってこない為どうしようか悩んでいたところに今度はアグリアとプレザとアルヴィン、それからかつてのレイアたちがやってきたのである。

ユリウスはいつの間にか姿を消していた。

とりあえず動くわけにもいかず、成り行きを見守っているのが現状だということらしい。

「でも・・・・・・」

レイアは目を伏せた。これからどういうことが起こるのか考えると、過去の自分たちを直視することに躊躇したからだ。

そんなレイアを見て、アルヴィンも沈黙した。

 

 

 

「アグ・・・・・・リア!」

岩場が崩れ、体勢を崩したまま落ちていくあたしの手を掴んだのは、あたしがブスだと言って嫌ってきたあの女??レイアだった。

「今・・・・助ける!」

そう言ってレイアはあたしの手を必死に握り締める。その手の感触に、あたしは懐かしい感じを覚えた。前にも、こんなこと・・・・なかったっけ。

だがあたしはわかっていた。レイアがあたし一人の体重を支えきれるわけがないことに。

「おい、ブス!」

そんな彼女にあたしは言った。

「てめーがいくら頑張っても、どうにもならないことってのがあんだよ!」

これまで何度となく、彼女に言ってきたことだった。あたしはこの女が嫌いだった。あたしとは全く逆の立場で生きているこの女が。努力すれば報われると本気で信じているその甘い考えが。

あたしはレイアの手を振り払った。

「アハハハ!  アハハハハハ! 絶望しろ!」

落ちゆく中、あたしは中指を立てた。

どうしても譲れない部分があたしにはあった。落ちゆく中でレイアの悲しげな表情が見えた。

そうだ。絶望しろ。あたしの絶望を??努力ではどうにもならない現実を味わえ!!

そうでないと・・・・あたしの人生って、何だったんだろう。あたしは何の為に生まれてきて、何の為に死んでいくんだろう。

手にはレイアの手の感触がまだ残っていた。こんなあたしを救おうとしてくれた人間がいたことで、少し救われた気がした。

「・・・・・・・・・・・・」

もう一度、遠くなっていくレイアを見た。

 

あたしには辛い世界だったけど・・・・レイア、あんたは、そのままのあんたで生きなよ・・・・・。

 

 

 

「!!」

突然分史世界が壊れた感覚に陥った。

先ほどまで霊山の先にいた、分史世界のレイアたちの姿が消えていた。

「戻って・・・・・来れたの?」

ジュードが呟いた。

「正史世界に戻ってこれたみたいだな」

ルドガーの言葉に、一同は安堵のため息を漏らした。

「でも、どうして・・・・・」

「おそらくユリウスが時歪の因子を破壊したんだろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

そんな話をよそに、レイアはアグリアが落ちた絶壁の先を無言で見つめていた。

「レイア、どうした?」

「・・・ん。何かね、アグリアの声が聞こえた気がしたんだ」

アルヴィンが尋ねると、レイアは笑いながら答えた。

「そんなわけないのにね・・・・・・」

「・・・・何て、言ってたんだ?」

「う?ん・・・・・内緒!」

「なんだそれ・・・・・」

「もう! いいから! 仕事終わったんだから早くトリグラフに帰ろう!」

レイアはアルヴィンの背中をぐいぐいと押して霊山中腹へ向けて歩き出す。

「お、おい! 押すなって! 転ぶだろうが!」

「ほら! ジュードとルドガーも!」

ジュードとルドガーは顔を見合わせると、苦笑してアルヴィンの後ろに続いた。

「・・・・・・・・・・・」

レイアは再び振り返り佇んでいたが、すぐにアルヴィンたちの後を歩き出した。

 

 

誰もいなくなったニ・アケリアの霊山の山頂を、一羽のシルフモドキが飛んでいた。

どこまでも、気持ち良さそうに飛んでいた。

 

説明
テイルズオブエクシリア2のパロディです。別サイトに載せているものを転載します。アグリアのお話です。
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テイルズオブエクシリア2 アグリア レイア 

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