真・恋姫†無双〜絆創公〜 第七話 【浮つく気持ち】 |
第七話
街の中に轟音が響く。その中に時折、凛とした掛け声も聞こえる。
民がそちらに目を向けると、颯爽と白馬を操る少女が確認できた。
赤い髪のポニーテールを揺らしながら、熟練した手綱さばきを見せるこの人物こそ、『白馬長史』の二つ名を持つ、公孫賛伯珪その人である。
白馬で駆ける少女を見た民は口々に言う。
「…………誰だっけ?」
悲しいかな、その類の発言に耳ざとい少女は、全て聞き逃さない。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
一刻を争う事態が発生したのだ。
そのためにも、なるべく早く目的地へ着かなくてはならない。
少女は手綱を握る力を強めた。それに伴い、顔つきも真剣味を増す。
白馬にもそれが伝わったのか、速度が上昇する。
駆けた後には、土煙しか残っていない。
暫くして、北郷一刀が城主を務める城の前に、白馬に乗った人物が現れた。
馬を止めて素早く降りた後、そのまま走って場内へ向かう。
門番の兵士が敬礼をして迎えたのを構いもせずに、猛スピードで突っ走る。
向かう先は、大広間へと繋がる扉。
扉の前に来た人物は、勢いよく開いて、そのまま大声を上げる。
「御免っ!! 北郷の家族が……!!」
「おや、白蓮殿ではないか?」
「やってきた……と………聞いて………………」
叫びがどんどん小さくなっていく。
話しかけてきたのは、かつて自分に仕えてくれた事がある少女、趙雲子龍。
その後ろでは、自分の見知った数多の武将・知将が慌ただしく動いている。
詳細は分からないが、何かしらの宴の準備をしていることは見て取れた。
少女の想像していたものと、明らかに違う光景が目の前に広がる。
「せ、星。これは一体……………?」
「うむ、主の御家族が我らの元へやってきたとの事でしてな。その歓迎の準備を皆でやっている最中………って白蓮殿!?」
星と呼ばれた少女が問いに答える最中に、白蓮は膝から崩れ落ちた。
「如何なされたっ、白蓮殿!?」
「星…………皆というのは、“皆”か?」
「は?」
床に手を付き、俯いたまま問いを続ける白蓮に、些か戸惑う星。
「皆揃っているのか、と訊いているんだ………」
「………全員揃っておりますが?」
「そうか………………」
白蓮の身体が僅かに震え出す。
「ぱ、白蓮殿!?」
「それで…………全員、北郷の家族とは面識あるのか…………?」
「まあ、少し躊躇った者もいたが、全員が己の真名を預けました…………」
「やっぱりかーーーーーーーーーーー!!!」
突如響いた少女の叫びに、全員の視線が注目する…………事もなく、宴の為の作業を続けている。
彼女の叫びを聴いたのは、会話していた星と、とある事情でこの場にいない北郷一刀(さすが種馬)ぐらいである。
「ぱ、白蓮殿……………?」
普段飄々としている星も、流石に狼狽えた。
「いつも先を越されていくんだ…………最後は絶対私なんだ…………いつもそうなんだ………………」
「ハァ…………………」
「大体宴の準備だって、私は知らされてないんだぞ………………?」
「主がそちらに伝令の者を寄越しましたが?」
「だとしても遅すぎるだろ!! 私は民の噂を聞いてここへやってきたんだぞ!!」
「民の見聞が広まるのは早いですな」
「そういう事を言いたいんじゃない!!! ああ、もうイヤだよぉ…………………」
体勢はそのままに、白蓮はついに泣き出してしまった。
「あらあら、またお客様?」
「ふぇ?」
不意に聞こえてきた耳慣れない声に、泣き顔そのままで顔を上げる。
目に入ってきたのは、見慣れない服装と、柔らかい微笑みでこちらを見つめる女性だった。
「主の母君だ、白蓮殿」
「ッ!!?」
その言葉を聴いた瞬間、焦りの表情になり、すぐさま直立する。
「ははは初めましてっ!! ここここここ公孫賛伯珪っ!! ぱぱぱぱぱ白蓮と申しますっ!!!!」
ガチガチになりながら、女性に挨拶を贈る。
「まあまあ、あなたは公孫賛ちゃんで、真名は白蓮ちゃんなのね? こちらこそ初めまして、北郷一刀の母の北郷泉美と申します」
「ここここの度は遠い所からお越しいただき……………」
「あ、そうだ白蓮ちゃん! いきなりだけどあなた料理は出来るの?」
まだ固くなっている少女に、女性は質問をする。
「えっ? あ、ま、まあ、出来ますけど………」
「それは丁度良かったわ! 実は今、厨房の人手が足りなくて困ってたの。良かったら白蓮ちゃん私たちを手伝ってくれるかしら?」
「ハ、ハイッ!! 喜んで!!!」
「ありがとう! 今ね、私たちの国の料理の調理中なんだけど……………」
先程までの落ち込みようが嘘のように、女性と談話しながら厨房へと歩き出す少女。
「うむ、やはり主の母君といったところか。いとも簡単に白蓮殿を立ち直らせるとは…………」
「おや? 随分賑やかだな?」
いきなり聞こえてきた声に、星はそちらを見やる。
「おお、華佗殿まで。如何なされた?」
「いや、さっき一刀達が連れてきた女の子を診たんだが、心配になって様子を見に来たんだ」
「女の子、というのは、主の妹君の事か?」
「やはり、あの子は一刀の妹だったのか?」
「妹君だけでなく、御家族全員がこちらにおいで下さったそうでな、今はその歓迎の宴の準備中だ」
「そうか………それは良かった」
華佗は、心から嬉しそうな表情になった。
「ところで、一刀はどこにいる? 妹さんの容態を訊きたいのだが…………」
「主なら、見て分かるであろう? 奥の方で、疲れて休んでおられる」
少女の視線の先には、周りを囲んでいる少女達から風を送られている、汗だくの青年が寝そべっていた。
「………どうしたんだ、一体?」
「自分の目で確かめた方が、早いと思うのだが?」
「それもそうだな………行ってくるよ!」
医者の血が騒ぐのか、そのまま走って一刀の方へ向かう。
「…………………おや?」
少女は片手に持った酒瓶を揺すって、音のしないことを確かめる。
実は白蓮がここに乗り込んできた時から、星は酒を飲んでいたのだ。
「ふむ……………アキラ殿に頼み、また天の国の酒を飲むとするか」
全く準備を手伝う気のない少女は、そのまま未来の客人の方に歩き出した。
−続く−
説明 | ||
ちょっと変わった書き方になっています。と言っても、真新しい事がある訳じゃないですが…… | ||
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コメント | ||
いきなり白蓮が走ってきたから、白装束でも出たかと思ったら、相変らず残念な仕様でしたか!(きたさん) | ||
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