ベルカ式・恋姫†無双 |
†.1 はじまりはとつぜんになの
作られた外史――。
それは新しい物語の始まり。
終端を迎えた物語も、望まれれば再び突端が開かれて新生する。
物語は己の世界の中では無限大――。
そして、閉じられた外史の行き先は、ひとえに貴方の心次第――。
さあ。
外史の突端を開きましょう――。
風が髪を揺らす。
さわさわと揺れる前髪が少しくすぐったく感じる。けれども、そんなに不快な感じはしない。
太陽の光が閉じている目の隙間から差し込み、今が昼間であることを告げている。その日差しは穏やかで、暑くもなく寒くもなく、昼寝をするにはちょうどいいぬくもり。
しかし、いささか寝心地が悪い。
意識が戻ってから付近の気配を探ったところ、不審なものはなにもなかったためずっと寝転がっているのだが、背中は痛いし、ところどころにでこぼこがあるのか、体の節々に響いてくる。
寝づらいことこの上ない。
「さて、いい加減起きるか」
そう言って体を起こすのは一人の少年……いや、青年。歳のころは18といったところだろうか。
その青年は目を開け、周囲に視線を巡らし――
「どこだ、ここ?」
そう呟いた。
辺り一面の荒野。遠くには山の峰が連なっているのが見える。
この、明らかに((遅れた|・・・))風景に、今まで暮らしてきたミッドチルダや日本ではないことを感じさせる。
「マジ、ここどこだ? っと、そうだ、夢幻は……!?」
≪私はここです。マスター、一刀≫
自分のデバイスを探すが、それもすぐに見つかる。自分のすぐ横に落ちていた。飾りの付いた髪留め用のゴム2つと一緒に。
「なぁ、ここどこだかわかるか?」
≪魔力の反応がほとんどありませんが、幾人か膨大な魔力を保持している者もいるようです。機械文明の発達、ないしその他の文明の発達がまったく見られません。このことから、おそらく管理外世界であると思われます≫
「そっか……なんでこんなことになったか分かるか?」
≪ここに来る前は模擬戦を終え、自宅に戻り、休養をとろうとしたところ、あやまって鏡を割ってしまわれました。その後、その鏡が光ったことからみて、その鏡が原因とみていいでしょう≫
「鏡か。じいちゃんの形見がそんな効力を持っているとはな……そういえば、みんなに連絡は?」
≪通信が繋がりません。連絡どころか、次元転移魔法の類も無効化される管理外世界のようです。飛行魔法やその他各種の魔法に制限がかかることからみて、一種の((AMF|アンチ・マギ-リンク・フィールド))空間と思われます≫
「AMF? この世界全土がか?」
≪そのようです≫
――どうしようもないな。
そんな考えが一刀の脳裏をよぎる。
――しかし、現状もある程度は把握した。それならば、次にすることは……
「さて、ではどうしようか? 夢幻殿の意見を聞かせてもらおうか」
≪承知しました……付近にはいませんが、バイタル反応からみて、この世界には人間がいるようです。会話が通じるかどうかは分かりませんが、そこは私の通訳機能でなんとかなると思います≫
「そっか。じゃあ、とりあえずは人を探そう。なんにしても、どこの世界かのヒントくらい欲しいからな」
≪それでしたら、ここから東に行ったところに生体反応があります。おそらく交易の要所でしょう。そこに行かれるのが一番近いと思われます≫
「了解。んじゃ、とりあえず、行きますか」
そういって立ち上がり、東と思われる方向に向かって歩き出す。夢幻が何も言わないところをみると、方向は間違っていないらしい。
そして、もちろん髪留めも持っていく。
今持っているものはデバイスにヴィヴィオのものと思われる髪留め、そして現在着ているフランチェスカの制服だ。
「それにしても、フランチェスカの制服を着ててよかったよ。動きやすいし、破けにくい改造も施してあるし。見知らずの地で行動するのにこれほど適してる服はないよな。マリーさんには感謝しないと」
≪そうですね。それに、戦闘は騎士甲冑を装備すればできますから≫
「騎士甲冑な……どうみても甲冑じゃなくて、バリアジャケットの方が近いよな」
≪それははやて氏が作ったので、仕方がないのでは?≫
「まぁ、そうなんだけどさ」
まだ魔法に知り合って間もない時、はやてが作った騎士甲冑は一刀のぶんもあった。
なぜ作ったのかはいまだに分からないが、それでも、一刀のことを思って作ったのは分かるため、一刀もずっと愛用しているのであった。さらに言うと、自分でイメージしていたものよりもカッコよかったため、一刀はしぶしぶ使っている体で、嬉々として使っているわけである。さすがに、年齢や体格に合わせて微調整はしていたが、それでも原型は10年以上経つ今でも損なわれていない。
ひとえに、はやてのイメージ力の高さがうかがわれるモノであるわけだ。
それはともかくとして。
「気がついたか、夢幻?」
≪はい。その様子だと、マスターも気がついていたようですね≫
「あぁ。これでもなのはさんに教導された身だ。状況を冷静に判断する力はそれなりにあるはずさ。それに、こんな変化は素人でも気がつくでしょ」
≪そうですね。なんといっても――≫
「重力が地球やミッドよりも小さいみたいだからな」
≪地球やミッドの重力と比較すると、およそ半分ほどしかないようです≫
「半分しかないとはね……重力は小さいとは思っていたけど、どうりで体が軽く感じるわけだ」
次元世界によって重力が違うことはよくあること。しかし、ミッドの半分しか重力がない次元世界は数少ないだろう。
まぁ、単純な話、普段の二倍の速度で行動できるわけだ。実際はそんな単純ではないのだろうが、つまりはそういうわけだ。
「なぁ、夢幻」
≪どうされましたか、マスター?≫
「飛んじゃだめ?」
歩くことに疲れたわけではないが、長距離を移動するのに面倒になった一刀はそんな言葉を漏らす。たしかに、歩くよりは飛んだ方がはるかに早いのだ。
これでも、高速戦を売りにしている身である一刀。ウサイン・ボ○トや車、飛行機なんかより速いのは言うまでもない。
≪生体反応が付近に3つ、遠方にいくつか、うち2つは大きな魔力反応が見受けられます。すべて徐々に近づいてくるようです。せめて、この世界が"魔法の存在している次元世界"だということを確認してからでも遅くないのではありませんか?≫
「そいつはそうだな」
そして、歩くこと数分。
近づいてくる人影がどんな人物であるのか、分かるようになる。
「なぁ、夢幻?」
≪なんでしょうか、マスター≫
「あの格好、ダサくね?」
≪言わない方が身のためでは? ほら、先方にも聞こえたようですよ≫
そう言われてふと視線を前に向ける。
3つの人影は趣味の悪いボロボロの服を着た、おっさんどもだった。
「おい、てめえ! 今、俺たちのこと、バカにしやがったな? 俺の心は脆いんだぞ! 傷ついたらどうするつもりだ!」
捲し立てているのは細身だが締まった筋肉をした長身のおっさん1。
「そう、なんだな」
なんだかトロそうな見た目で同意をするのは、力しか取り柄がなさそうな太ったおっさん2。
「ひひひ。アニキを怒らせちまったようだな、ああん? ひき肉にしてやろうか、ああん?」
下卑た笑いとともに挑発をかます背のちっこいおっさん3。
「なぁ、おっさん。ここはどこだ? そして、今はいつだ?」
≪今はいつ、とは意味深な質問ですね≫
「うるせ!」
そんな問答を続ける一刀と夢幻。しかし、これがいけなかった。夢幻は常に念話をしているから問題はないのだが、一刀は声に出してしまっている。
先の質問にご丁寧にも答えてくれようとしていたおっさん1は……
「ぐはっ……うわ、俺傷ついた。今、傷つきました。親切に答えてあげようとしたのに、うるさいなんて言われて傷つきました。慰謝料を要求します。とりあえず、服を置いていってください」
「おいて、いくんだな」
「ひひひ。アニキを傷つけちまったな、ああん? 服全部脱いでもらおうか、ああん?」
傷ついてしまったらしい。
ここまでくれば、優秀なる読者諸兄はお気づきかとは思いますが、説明しましょう。
こいつらは……なんと、おいはぎだったのです。
「なんとも面白いおいはぎだな、おい」
≪だから、いくら相手が弱そうだからと言って、思ったことを口に出すのはよろしくないのでは≫
「うるせ!」
しかし、なおも続ける一刀と夢幻。
だが、夢幻の声が聞こえないおいはぎ(笑)たちには一刀の声しか聞こえない。
つまり、自分たちをバカにされたと思うのは必然である。
「あー、さらに傷ついた。俺、もう立ち直れないかもしれないよ、これ。どうすんの、これ? 終身保障なんて、今の世じゃお偉いさんにでもならない限りないんだからね! 立ち直れなかったらどうすんの、これ?」
「どう、するんだな?」
「ひひひ。立ち直れなかったら、アニキの面倒を見てくれんのか、ああん? いいからさっさと服を脱げや、ああん?」
そう言ってナイフを近づけてくるおっさん3。しかし、おっさん1が待ったをかける。
「まぁ、チビ。怖がらせたら、服を脱ぐに脱げないじゃないか。それに、服に傷がついたらどうする? とりあえずソレは下ろせよ」
「ひひひ。へい、アニキ」
まぁ、このように、漫才のようなやりとりをしているおいはぎ(笑)たちですが、今、ナイフを突き付けられそうになっているのは事実で、命の危険にさらされているのも事実。
さて、どうしたものか、と悩む一刀。しかし、時間はあまり多くない。
そこで、一刀は実力の差を見せつけて、逃がしてもらおうと思い立つ。
「しょうがないなぁ……夢幻、セットアップ」
≪((待机准?|スタンバイ・レディ))、(( 安装|セットアップ))≫
そして、夢幻を起動させる。おいはぎ(笑)たちなにが起きたのか理解もできず、一刀の手にいつのまにか握られている一振りの刀を、目を白黒させながらみつめるばかりである。
「さて、覚悟はいいかい? 時空管理局航空武装隊首都防衛隊所属、北郷一刀二等空尉だ。恫喝および銃刀法違反の現行犯で捕縛させていただく」
≪((閃存?驟|ソニック・ムーブ))≫
「フッ!」
いまだに呆然としているおいはぎ(笑)の後ろに瞬時に回り込み、チビの手にあるナイフを弾く。
「はあっ!」
逆袈裟で切り上げた腕の勢いを殺さず、そのまま回転しチビの体を切りつける。もちろん、非殺傷設定だ。
悲鳴をあげながら倒れ伏すチビ。そして、そのチビに一瞥をくれるとともに、のこりのおいはぎ(笑)たちに声をかける。
「これで、実力の差はわかったはずだ。おとなしく従えば、命は保証しよう。もし楯突くのであれば、容赦はしない」
≪もとより殺す気なんかないくせに何を言ってますか、マスターは≫
「(こういうときはどれだけ言うことを聞かせられるか、だろ?)」
その問いに答えない夢幻。ああは言ったものの、否定をしているわけではないのだろう。
だが、おいはぎ(笑)たちにとっては死活問題なのだろう。どうやら実力の差から勝ち目は薄いと判断したのか、おとなしくしている。
「さて、おとなしくしているようだな。んじゃ、捕縛しますよっと」
≪((?定|バインド))≫
「なっ!?」
倒れているチビや呆けている残りのふたりもバインド縛り、一所にまとめて座らせる。
「おい、そんなのありかよ!? 捕まえようと近づいたところをザクッといく予定だったのによ!」
「いく、予定だったんだな」
「こうもあっさり捕まっちまうとはよ……今までのおいはぎ人生ってなんだったんだろうな。俺、傷つくを通り越して呆れ果てたわ」
「呆れ、るんだな」
相変わらずの漫才っぷりだが、一刀から逃げることしか考えていない。
しかし、チビはいまだに目を覚まさず、気を失っている。さすがに一刀は放っておかない。しかしまったく微動だにもしないから、本当に死んでしまったのではないかと思いはじめる一刀。だが、何度も言おう。非殺傷設定だ。ものすごく痛かったと思うが、内臓器官を損傷したわけでも、血を流したわけでもない。あまりの痛みにショック死することも考えられるが、そこは時空管理局の技術部を信じよう。ギリギリ死なない程度の痛みに抑えられるようになっているはずだ。原理はよくわからないが。つまりだ。死んではいないはずなのに、動かないのである。
「なぜ、こいつはうごかないのか……謎だ」
「そりゃ、おめえが切りつけたんだろうが。死んじまったんだろうよ、チビ。あーあ、意味わかんねぇ剣で斬られるし、意味わかんねぇので縛られるし、挙句の果てには、服変わってるし。なんだ、おめえは? 五胡の妖術使いなのか?」
――まぁ、自分の未知の領域における技術を見せられて、妖術か? と疑うのは無理もないが、これは魔法だ! なんて言ったところで信用されるわけもないしな……少し脅して、この世界の事情を聞きだしましょうかね
「その五胡の妖術がどんなものかは知らんが、おまえたちの命は、今俺の手の中にある。命が惜しくば言うことを聞いてもらおうか?」
そう言っておいはぎ(笑)たちの前に座りこむ。
事情聴取は続く……
時はさかのぼり、ところ変わって、ここは荒野。さきほどの一刀とおいはぎたちとは、少しばかり離れたところ。夢幻の探知に引っかかったふたりの女性。
「ふむ……もう夏じゃというのに今日は過ごしやすいのぅ」
ひとりは大きな弓を携え、淡い色の髪をひとつにまとめた妙齢の女性……黄蓋。
「気候が狂っているのかもね。……世の中の動きに呼応して」
もうひとりは褐色の肌を鮮やかな赤い衣装に身を包み、桃色の髪を長く伸ばした麗しい女性……孫策。
「……確かに、最近の世の中の動きは、少々狂ってきておりますからな」
「官匪の圧政、盗賊の横行。飢饉の兆候も出始めているようだし。……世も末よ、ホント」
「うむ。しかも王朝では宦官が好き勝手やっておる。……盗賊にでもなって好きに生きたいと望む奴が出るのも、分からんでもないな」
「真面目に生きるのが嫌になる、か。……ま、でも大乱は望むところよ。乱に乗じれば私の野望も達成しやすくなるもの」
「全くじゃな」
会話の内容は決まって今の世を嘆く内容。
今の世を憂い、目の届く範囲の民を笑顔にしたいという夢を追いかける為政者である。
その前に、やらなくてはならないことがあるのだが……
「今は“袁術”の客将に甘んじてるけど。……乱世の兆しが見え始めた今、早く独立しないとね」
「堅殿が死んだ後、うまうまと我らを組み入れたつもりだろうが……いい加減、奴らの下で働くのも飽きてきたしの」
そうなのだ。
先代の孫堅が流れ矢に当たり戦死してしまった後、かつての孫呉にくみしていた諸侯はこれ見よがしに離反していき、江東の領土維持をしていくのが難しくなり始めたとき、“袁術”がやってきて、孫呉の地を併呑していったのだ。
いくら戦上手の孫策や大都督周瑜がいたとしても、数の暴力には勝てず、仕方なしに“袁術”の客将として仕えることにしたのだ。いつか、独立の機が訪れると信じて。
「そういうこと。……だけどまだまだ私たちの力は脆弱。……なにか切っ掛けがあればいいんだけど」
「切っ掛けか。……そういえば策殿。こんな噂があるのを知っておるか?」
「どんな噂よ?」
「黒天を切り裂いて、天より飛来する一筋の流星。その流星は天の御使いを乗せ、乱世を鎮静す。……管輅という占い師の占いじゃな」
「管輅って、あのエセ占い師として名高い? ……胡散臭いわね〜」
「そういう胡散臭い占いを信じてしまうぐらい、世の中が乱れとるということだろう」
最初こそは民たちの間でまことしやかにささやかれていた天の御使いの噂だが、先にあげたような民を民とも思わないような為政者へのあてつけのように噂は広まったのである。
「縋りたいって気持ち、分からなくも無いけどね。……でもあんまりよろしくないんじゃない? そういうのって」
「妖言風説の類じゃからな。じゃが、仕方無かろうて。明日がどうなるか。明後日がどうなるか。とんと見えん時代じゃからな」
「ホント、世も末だこと」
「うむ。……さて策殿。偵察も終了した。そろそろ帰ろう」
「そうね。さっさと帰らないと冥琳に――」
イイイィィィィン――
「……なに、この音?」
何かを切り裂くような音。そんな音が、ふたりの耳に届いた。
「策殿! 儂の後ろに!」
「大丈夫よ。それより祭、気を付けて……」
そんな黄蓋の制止もなんのその。気にもせずに前にでる孫策。
しかし、いくら百戦錬磨のふたりと言えど、敵の姿が見えないことには何もできない。
まだこの音が敵対しているかどうかもわからない状態。警戒するに越したことはない。
「盗賊か、妖か……何にせよ、来るなら来なさい。殺してあげるから……」
しかし、そのつぶやきに答えるモノは無く、音がどんどん大きくなるばかりである。
「なにこれ……視界が白く……っ!」
「策殿ぉ!」
突如襲ってきた、白い閃光。
しかし、孫策には見えていた。白き光の筋が彼方の大地へ墜ちたところを。
そして、視界が戻ってくる。
「ん……んん……戻っ……た?」
「策殿、お怪我は無いか!?」
「大丈夫よ、ありがと。……祭、あれ見えてた?」
「なんのことですかな? 儂にはなんにも……」
とりあえず、周辺の状況を確認する。祭を含め、偵察に来た部隊員は全員無事のようだ。
しかし、白き光の矢が地に落ちたところを黄蓋は見ていないらしい。
「とりあえず、あっちに行ってみましょう」
そう言って、馬を駆る孫策。
先の光におびえた様子を見せない馬も剛毅ながら、光に向かって馬を走らせる孫策も孫策。
「策殿、危険じゃ! ……ええい、全く。人の言うことを聞かんお人じゃ!」
全員続け! と号令をかけ、馬を走らせ、孫策を追いかける黄蓋および偵察隊。
その後も、黄蓋は『なにがあるかわからんというに』とつぶやきつつ、主の背を追いかけた。
「……男の子?」
そういう孫策の視線の先には、刃を突き付けられた少年と刃を突き付けている盗賊風の男3人。
「はぁ、はぁ、はぁ……主よ。あまり老いぼれをイジメんでくれ」
「あ、ごめん。……大丈夫?」
「久々に馬を走らせて、腰が壊れそうじゃ」
「運動不足じゃないの?」
「そうかもしれんのぅ」
そして、冗談はここまで、とばかりに顔つきも変わり、周囲の状況確認にうつる。
「……それにしても、あの孺子……ここいらの者ではないですな?」
「服がキラキラしてるし、どことなくこの世界の氣と違うのよね……さっきの光が墜ちたところにあの子がいたし。さっきの光に関連づけるのが妥当でしょうね」
「それで、こちらに走りだしたわけですな。して、光と共に現れた孺子、か。……管輅の占い通りということか?」
「占い通り、ねぇ。……ということは、あの子が天の御使いって奴かな?」
「占いを信じるならばな。……確かに、策殿の言うとおり、この世のものとは思えん服を着ておる。あながち外れとも言えんじゃろ」
「ふむ……本当なら面白いんだけどね」
そして、少年を見る。しかし、光があふれ、全てが静まりかえったときには、服装は変わり、手にはいつの間に装備したのか、一振りの剣が握られていた。そして、ふっと体がぶれたかと思うと、盗賊の背後に現れ、剣を振るい盗賊の持っていた剣を弾く。
「ねぇ、祭。今の……見えた?」
「策殿も見えんかったか……正直、なにも見えんかったわ」
しかも、斬りつけた盗賊からは血の一滴も流れておらず、見たこともない光の帯が盗賊たち巻きつき捕獲していた。
そして、なにごとか話しているようである。
「……どうする、策殿?」
「とりあえず、話を聞いてみましょう」
「ほっ。妖かもしれんが大丈夫か?」
「本当に天の御使いならひとまず同行してもらう。人に害を為すものなら、私が殺してあげる。……一石二鳥でしょ?」
「殺せるかどうかは分からんが、悪い奴ではなさそうじゃな。……うむ。策殿の案に賛成しよう」
「ありがと。それじゃ、あの子のもとに行くわよ」
「承った」
そして、一刀の方へ近づいていく。兵もひとまずは一緒に行動するものの、不安そうな顔の者もいる。
あと、少しで声の聞こえる範囲に届くというところで、孫策は声をかける。
友達に出会ったかのような、軽い調子で。
なぜか、問題がないような気がして。
――この人は、これから私たちにとって大きな存在となるわ。
そんな勘が働くほどに。
「ちょっといいかしら?」
「ふむふむ……この世界には真名と呼ばれるものがあるのか。迂闊に呼ばないように気をつけないとな」
いつの間にか意識が戻っていたチビとアニキと呼ばれるおっさん、そして、デクと呼ばれるおっさんに事情を聞いている。
この世界はどうやら後漢王朝の末期らしいこと。黄巾の乱はまだ起こってないらしいこと。ここは荊州と呼ばれ、かつては孫堅が治めていた土地で、今は袁術の統治下にあること。この世界に魔法という概念は存在しないこと。なぜか現代日本で有名な武将が女の子になっていること。そして、この世界には真名と呼ばれる神聖なモノが存在することなどを聞きだした。
「(これは、どんな次元世界って表現したらいいんだろうな)」
≪そうですね……管理外世界であることは確かでしょう。しかし、面妖な世界に迷い込んだものですね≫
「(そうだな。さて、なにやら大きな魔力持ちが近づいているようだし、そろそろおしゃべりはお終いといこうか)」
≪了解。いつでもいけます≫
「(おう)」
一刀と夢幻が現状をある程度把握したところで、立ち上がる。
そして、おいはぎ(笑)たちのバインドを解き、立ちがらせる。
「おい、どういうことだ、これ?」
「どういうこと、なんだな?」
「ひひひ。逃がしてくれるのか、ああん? 本当に逃げてもいいのか、ああん?」
「あぁ、いいぜ。情報料の代わりだ。気をつけて逃げな」
男たちはそろって逃げようとする。しかし、そこで待ったがかかった。
「ちょっといいかしら?」
「うん?」
一刀が振り返ると、そこには武装した兵を引き連れた、2人の女性。
状況を見るに、将軍職の人らしい。
「私は孫伯符。あなたの名前を聞かせてもらえるかしら?」
「いきなり孫策に出会うか。これは運がいい。俺の名前は――」
「ちょっと待ちなさい。私から名前を聞いといてなんだけど、どうしてあなたは私の名を知っているのかしら? 私は姓と字しか言ってないはずよ」
「まぁ、そのへんはおいおい説明しよう。まずは自己紹介をさせてくれ。俺は姓が北郷、名が一刀だ。字や真名はない」
名を知っている一刀に疑心が湧くものの、おおむね問題はなし。そう結論づける孫策。
自己紹介を終え、これからの展開を考えると孫策に着いて行く必要があるのだろうと予想する一刀。
そして、完全に空気と化し、逃げるに逃げられなくなったアニキ以下おいはぎ(笑)たち。
「そちらのお姉さんも自己紹介してもらえませんかね?」
そう、黄蓋の方を向き、話しかける一刀。
その声にはっとしたのか、自己紹介を始める黄蓋。
「儂は黄蓋じゃ。策殿の護衛をしておる」
「そっちは呉の宿将、黄公覆だったか。うん、よきかなよきかな」
そして、またも驚く孫策と黄蓋。
どうして知っているのか、と。
一刀も一刀で、三国志の英雄たちと出会えてテンションが上がっている。
だが、どうも荒野での会話というのは面白くない。そこで、一刀は自分から提案することにした。
「さて、こんなところで話すのもなんだし、君たちの街に連れて行ってくれないか?」
「連れていくのはいいけど、あなた、馬がないじゃない」
「そうじゃな、誰かと相乗りするわけにもいかんじゃろ」
確かに一刀は馬を持っていない。ふたりにとっては当然の疑問だろう。馬もいないのにどうやって街に着こうというのだろうか。
だが、一刀くんは魔導師である。そのことをふたりは知らなかった。
「あ、俺か? 大丈夫だ。飛ぶから」
「っ!?」
「なんと、天の国の人間は空を飛ぶことができるのか……」
「まぁ、誰でもってわけじゃないけど、飛べるやつはいるな。あなたたちも、それだけの魔力を持っているんだから、飛べるんじゃないの?」
ふたりにとって、衝撃の事実だった。空を飛ぶ人間がいる。そのことは五胡の妖術使いなんじゃないか、という疑問をすっ飛ばして、一刀は天の御使いだと確信させる。
そして一刀にとっても当然の疑問がある。いくら魔法が無いとはいえ、Aランク以上の魔力を持っている(と感知できる)孫策、黄蓋の両名が飛べないことだ。
なぜ飛ばないのか。しかし、謎はすぐに氷解する。
「こんなふうにさ」
そう言って飛び上がる一刀に一同は目を白黒させるばかり。しかし、黄蓋は気づく。
「北郷は氣で飛んでおる」
この世界の人間の常識から言って、氣で飛ぶことなど不可能だ。
たとえ、理論を知っていたとしても、体が拒否反応を起こすほどにありえない事象だ。
この先、一刀以外で空を飛ぶ人間はこの世界には存在しないだろう。
「氣って、こんなこともできるのね……」
「たとえ理解したところで、会得するのは無理じゃろうて」
少し飛んで、AMFの制限や魔力消費の折り合いなんかを確認してから地に降りたつ一刀。
「なるほど、君たちのところで魔力は氣と言うのか……そして、君たちの世界では飛ぶことは非常識であるわけか」
いろいろな次元世界を任務で訪れ、さまざまな文化や文明を目にしてきた一刀にとって、世界観の差など気にもならないのだが、孫策らはそうもいかない。自分たちの世界しか知らず、それ以上を知るはずもなかったのだから。
「まぁ、いいや。これで移動については大丈夫だろ。さあ、君たちの街へ案内してくれ」
「そ、そうね。それじゃあ着いてきて」
孫策は馬の向きを今の拠点、荊州は南陽に向ける。
「祭、そいつらは兵に任せて、先に帰るわよ」
「そうじゃな。おい、こやつらを連行し、牢にでも繋いでおけ。盗賊紛いのことをしていた奴らじゃ」
「はっ!」
そう言って、おいはぎ(笑)たちを指す。逃げられる、忘れられていると思っていたアニキらは残念なことに、罰せられるらしい。哀れ。
兵士たちも、少々想定外のことがあったものの、当初の任務となんら変わらないことを命ぜられて、不安などは吹き飛んだようである。
「じゃあ、行くわよ」
「おう」
「本当に飛ぶんじゃな……」
3人が目指すは南陽。
ここで、新たな生活が始まることだろう。
一刀の運命や、いかに。
to be continued
あとがき
みなみなさま、はじめまして
観珪(みけ)と申します
投稿がだいぶ遅れて申し訳ありません
受験勉強が忙しくて……センター試験が二重の意味で終わったので、小説を書いてみました
待っていた方がいてくれたらうれしいです
さて、今回、新たな書き方をしてみましたが、前回と比べてどうでしょうか?
前回の方がよかったというみなさま
申し訳ありません、ボクには無理そうです
今回の方がよかったという方、これからはこちらで頑張っていこうと思います
ボクの技量では、前回の書き方が継続できそうもなく、なくなくこちらに切り替えた次第であります
拠点フェイズではどうにか前回の形にもっていきますので、何卒ご容赦を……
次回はもう少し早くあげられるように努力したいと思います
また、次回会えましたら……
観珪
説明 | ||
行き当たりばったり小説、ここに極まれり '13 07/07 一部改稿 |
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コメント | ||
アサシンさん ルートに関しては今は何も……期待を裏切らないように頑張りたいです! 夢幻の特長等につきましては、次作の冒頭に挿入させていただきますので、今しばしお待ちください(神余 雛) おお!?呉ルートでしたか!夢幻の特徴などがありましたら是非書いてください(アサシン) |
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