殺人鬼の兄弟は異世界を旅する |
「着いたか?」
「……みたいだ。ところで此処は何処なんだ?」
俺と志貴は修行を終えて違う世界に飛ばされた。そこで先ず目に付いたのは周りを囲む木々だった。恐らく森か林だろう。
此処に来る前、俺達はオーディンからいくつかの餞別を貰った。それはまた後で紹介しよう。
「で、これからどうするんだい、兄さん?」
「さて、な。どうしようもこの世界の地理は知らないし、金も無い。どんな生き物がいるかも知らない」
「つまり、お手上げって事か……はぁ、先が思いやられる」
志貴は溜息を吐いて嘆いた。いきなり序盤で遭難とか洒落にならない。勘弁してくれ。
俺も溜息を吐こうしたら、何かの気配を感じた。恐らく人が二人程。
「……どうやらそうでも無いらしいな」
「……だね」
俺と志貴は七夜家の宝刀であるナイフを取り出して構えた。
「まったく……何故私がこんな面倒なことをせねばならん?」
「仕方ありませんマスター。学園長の命令です」
「ふんっ、あのクソじじぃ……いつか肉片にしてやろうか? …………で、貴様等が侵入者で間違い無いな?」
現れたのは金髪幼女と黄緑色の髪の少女?だった。
―――ドクンッ
俺は幼女を見た瞬間、退魔衝動が起きた。だが衝動は弱く、簡単に抑えられるほどの軽いものだった。
こいつ……人外なのか?
そして志貴が少女に向かって話した。
「うん? どうしたのかなお嬢ちゃん達? 子供はもう寝る時間だ。早く帰った方がいい。そうでないと怖い怪物に頭から食べられてしまうからね」
話すというか……明らかに挑発だ。
おいおい……挑発するなよ。ほら、あの幼女が激怒しているぜ?
「……貴様、この私に喧嘩を売っているのか?」
「いやいやとんでもない。親切心で言ってるだけさ、お嬢ちゃん?」
プチッという音が聞こえた気がする……金髪幼女の方から。
「いいだろう……この場で細切れにしてくれるわ小僧! 茶々丸っ!」
「はい、マスター」
金髪幼女が合図を出すと黄緑色の長い髪の少女が襲いかかってきた。
俺と志貴はバックステップで少女の攻撃を躱して志貴に聞いた。
「まったく……お前のせいで襲われたじゃないか」
「いや〜、俺としては本当に親切心で言っただけなんだが?」
「嘘吐け。お前もあの幼女から魔を感じた筈だぞ?」
「あ、バレた?」
こいつ、態と言ったな? ……まあいい、今は目の前に事に集中しよう。
というかこの少女、やっぱり人間じゃなかった。足の裏からジェット噴射で飛び、上空から奇襲してくるから驚いた。
「っ! 当たらない!?」
少女が俺達を攻撃するも全て回避する事に驚いた。
「やれやれ……志貴、あの幼女は任せた」
「ああ、わかったよ」
志貴が幼女に向かおうとすると少女が追い打ちを掛けようとしたが……
「っ!」
俺がナイフ、『七ツ夜』で一閃する。キンッと音がしたかと思えば少女が腕をこちらに飛ばしてきた。
……ロケットパンチ? どこのZだよ……。
「お前の相手は俺だよ」
「あなたは……一体何者ですか?」
「なに……ただの殺人鬼だよ」
「っ!」
俺は正面から斬り掛かった。
「小僧、覚悟は出来ているか? この私を侮辱した罪は重いぞ?」
「いやいや、侮辱したつもりはないんだけどねぇ」
兄さんに任されてこのお嬢ちゃんの相手をする訳になったが……俺はどうも彼女を怒らせたらしい。ま、分かっていて言ったんだけど。
「ほざけ! リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
ん? 呪文だと? コイツ、人外の癖に魔術……いや、魔法か。それを使うのか? しかも触媒みたいなのを使っているのを見ると、魔力は低いらしい。魔力が低いのによくもまああれだけ偉そうにしているな。
「((氷の精霊17頭|セプテンデキム・スピリトゥス・グラキアーレス))。((集い来たりて敵を切り裂け|コエウンテース・イニミクム・コンキダント))。『((魔法の射手・連弾・氷の17矢|サギタ・マギカ・セリエス・グラキアーリス))』」
「っ!」
お嬢ちゃんが呪文を完成させると先端の尖った氷が17個が現れ、全てが俺に襲いかかってくる。この氷、面倒なことに追尾してくるようだ。直線的な動きでは無く、曲線を描いてこちらに迫ってくる。ま、簡単に避けられるが。
「なにっ!?」
俺が全て回避するとお嬢ちゃんが驚いていた。
「そんなに驚くことかい? ただ避けただけなんだが?」
「調子に乗るな! リク・ラク・ラ・ラック・ライr―――「おっと、危ない危ない」なっ!?」
「おいたはダメだよ、お嬢ちゃん?」
俺は『閃走・水月』で幼女の後ろに駆け、母さんの形見『七ツ夜』を幼女の首筋に突きつけた。
この『七ツ夜』は二つあって、短刀二刀流の母さんが愛用していた七夜家の宝刀だ。俺も母さんの様に二刀流を真似してみたが無理だったね。
出来なくも無いが、母さんを超えるどころか追いつくことさえ出来なかった。
そう言えば、もう一つの『七ツ夜』は確か……『穿チ月』って名前だったかな? 随分前に母さんがそう漏らしていたのを聞いたことがある。多分、兄さんは知らないんじゃないかな?
「貴様……どんな魔法を使った? いや……瞬動術か?」
「魔法? 俺はそんなものを使っていないよ。さて、あちらさんも終わったみたいだね」
俺は兄さん達の方を見ると兄さんが少女を組み伏せているところだった。
「なっ! 茶々丸!」
「も、申し訳ありませんマスター……」
随分時間が掛かってたみたいだけど、多分兄さんは遊んでたんだろうな。
さて、色々と聞きたい事が山ほどあるけど……何から聞き出そうか?
「……殺せ」
俺達が少女と幼女を拘束すると幼女がいきなり呟いた。
「いやいや、それは大変魅力的な申し出なんだが……こちらも聞きたい事が山ほどあるんでね。そう簡単に死なれちゃ困るのさ」
「はんっ、口を割ろうとしても無駄だ」
殺人嗜好の俺達にとってはかなり魅力的である。だが、志貴の言う通り聞きたい事はたくさんある。先ずは―――
「そう噛みつくな。先ず、ここは何処だ?」
「……は? 何を言っているんだ貴様は?」
いや、ただ此処の場所を聞いただけでそんな不思議そうな顔をされても困るのだが?
「此処は何処だと聞いているんだ」
「お前達……此処が何処か知らないで侵入したのか!?」
「意図的に侵入したつもりは無いのだが……な。そもそもこの世界の住人では無いし、ここに来たのも事故みたいなものだ」
あのクソ神め……もうちょっと場所を考えて欲しい。
しばらく幼女と見つめ合ったら顔を俯かせて、そして笑い出した。
「く……くく、くははははは!! そうかそうか! なら私の早とちりだったという訳か! まあ、実際はおかしいとは思ったさ。結界の中に意図的に転移するなど不可能だからな。
何かしらの事故でここに転移したというならまだ話は分かる。それに、別世界の住人か……面白い」
「で、此処は何処だ?」
「ああ、ここは学園都市麻帆等学園だ」
学園都市? まほら? そんな地名は前の世界には無かった筈だ。なら本当に此処は別世界なんだな……。
「それで、貴様等は一体何者だ? 弱体化しているとはいえ、真祖の吸血鬼をこうも簡単にあしらう輩は久しぶりだぞ」
真祖……だと!? いや、弱体化しているといっていたな。なら、力を封印でもされているのだろうか?
「ここにも吸血鬼はいたのか……。で、俺達の事だったな……」
俺は志貴と目配せをして言うかどうか聞いてみた。どうやら志貴はどっちでも良いらしい。
「俺の名は七夜桜鬼。こいつは弟の志貴だ。退魔一族である七夜家の者だ」
「七夜家……? 聞いたことは無いな。退魔一族なら神鳴流の奴等がいたが……。いや、そもそも別世界の住人だったな、なら知らないのも当然か」
「そういうことだ。それで、俺達は無一文で身寄りも無い……すまないが、何処か一泊できる場所を紹介して貰えないか?」
流石に野宿は嫌だ。何にも準備してないからな。
「ふむ……とりあえず私と一緒に来い。会わせなければならん人物がいるのでな。宿泊に関してはそいつと交渉しろ」
仕方ない。彼女の言う通りにするか……。
「分かった。志貴もそれでいいだろ?」
「兄さんがいいなら俺も構わないよ」
「なら決まりだ。……おっとそうだった。まだ名乗っていなかったな。私の名はエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルだ。長いから好きに呼べ。こっちは私のパートナーの絡繰茶々丸だ」
「茶々丸です。マスター共々よろしくお願いします」
パートナーが何かは知らないが、
「ならエヴァンジェリン、世話になるぞ」
「ああ、それでは私に付いてくるがいい」
そう言ってエヴァンジェリンが茶々丸に抱かれて飛んでいく。
なんとも不思議な光景だった。
「っていうかこの世界はかなり科学技術が優れているな」
「ああ……確か遠野家の琥珀というメイドが作っていたロボも面白かったな」
「さて、それでは俺達も行くとしようか、志貴」
「そうだな」
そして俺達はエヴァンジェリンを追って森を駆け抜けた。
「ここだ」
俺達が案内された場所は学校の学園長室という場所だった。
もしかして学園長というやつがここら一帯の支配者なのだろうか?
「入るぞ、じじぃ」
「うむ」
俺達が中に入ると……人外がいた。
「志貴、この世界は妖怪が学園を支配しているらしい」
「みたいだね。まさかここでぬらりひょんを見るとは思わなかったよ」
だがおかしい……。退魔衝動が起きないのは何故だ?
「これこれ、わしはちゃんとした人間じゃぞ?」
何処からどう見ても妖怪にしか見えないのだが……。
「わしは麻帆等学園の学園長、近衛近衛門じゃ。関東魔法協会の理事長も務めておる」
魔法協会……願わくば俺達の世界の魔法協会のような存在で無いことを祈る。
「はじめまして。七夜桜鬼と言います」
「同じく弟の志貴と申します」
俺は普通に、志貴は少し大袈裟な身振りで言う。
「ほう、若いのに随分礼儀正しいのう。して、単刀直入に聞くが、お主達は何の目的で学園に侵入したのじゃ?」
俺は事の顛末を誤解無いように言った。
「なんと! その歳でエヴァンジェリンを打ち倒したというのか!?」
「ああ、こやつ等……私を簡単にあしらいおったわ」
そんなに驚く事か?
「桜鬼君、君は魔法使いなのか?」
「いや、魔法使いじゃない」
そんな大層なもんじゃ無い。使える魔法も身体強化やちょっとしたモノばかりだ。
「俺と兄さんは……退魔師という卑しい影の者ですよ、学園長」
「退魔師……かの? 君たちのような若者が?」
「ええ、俺達の世界ではそれが当たり前です。ま、あまり詮索しないでください。気分の良いものではありませんから」
あまり深く聞かれると要らぬ警戒をされてしまいかねないので話を変えた。
「それで、学園長に頼みがあるのです」
「なんじゃ?」
「俺達が働ける場所と住まいの提供をして欲しいのです。勿論タダでとは言いません。暗殺や退魔の依頼を引き受けましょう」
裏稼業なら報酬も高いので釣り合うと思う。
「いやいや、暗殺をするほど物騒なことはありゃせんわい。だがそうじゃな……エヴァンジェリンを倒したお主等なら実力は信頼できるじゃろう。裏の……お主等の言う退魔関係の仕事を少し手伝ってもらえれば住まいと職を提供しよう。どうじゃ?」
暗殺は無しで退魔か……。随分と好待遇じゃないか。
「ええ、それで構いません」
「なら決まりじゃ。明日の夜9時に世界樹広場まで来てくれるかの? これが地図と住まいになる家の鍵と仕事の前金じゃ。必要な者があれば買いなさい。職は追って知らせるとしよう」
地図に世界樹広場の場所が書かれているので問題はない。それにしても前金に二十万円を出すとは……随分気前がいいな。
「承知した。明日の午後9時に世界樹広場ですね? それではまた明日に」
「それでは失礼します、学園長殿」
俺と志貴は新しい住まいへ足を向けた。
「ふむ……これで少しは人員不足が解消されるじゃろう」
奴等が出て行った後、じじぃが少し満足げに頷いている。
「要らぬ問題が起きなければいいがな?」
「大丈夫じゃろ? 中々の好青年じゃったしのう」
「だといいがな」
じじぃはある程度信頼しているみたいだ。だが、じじぃは奴等の本質を理解していない。私には解る。奴等は私と同じ闇の住人だ。彼等のあの瞳…………間違い無く異常者の眼だった。
奴等がどのような環境で育ったか少し興味がある。それに、あやつ等が魔法の修行をすれば……くくく、面白くなりそうだな。
この私を超える程の才能を奴等は持っている。私の勘がそう言っている。時が来れば魔法を教えるのもいいかもしれない……。
「ふむ……ここはもしかしなくとも……」
「女子寮だね、兄さん。しかも管理人室だし」
俺達が与えられた住まいは女子寮の管理人室だった。これは倫理的に問題は無いのだろうか? 要らぬ誤解を招きかねないと思うが……。
「ま、俺としては見目麗しい淑女に出会うのは嬉しいことだけどね」
「…………まあ考えても仕方ない。挨拶は……面倒だからいいや。早く寝て明日に備えよう」
「ああ、賛成だ」
明日が少し楽しみだ。
説明 | ||
第一話 異世界 | ||
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