魔装機神インフィニット・ストラトス |
第十話「女達の休日」
雅樹と一夏が弾の家でゲームをしている頃、雅樹の母夏樹に呼び出された唯依はというと・・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
「〜♪」
クリスカとイーニァと共に龍見宅に向かっているのだが、何やら空気が非常に重い。
原因はもちろん、唯依とクリスカの二人である。
だが、イーニァだけはそんな空気など知らずに鼻歌交じりに歩いていた。
久々に夏樹に会えることがよほどうれしい様だ。
「イーニァ、あまりはしゃぎ過ぎると転ぶわよ?」
「えへへ、うん!」
口ではそういうもののイーニァは一向にはしゃいだままだ。
クリスカはそんなイーニァを咎めるわけでなくただ微笑ましそうに見つめていた。
「・・・・・・」
そんな二人を見ながら唯依はなんとも言えない居心地の悪さを感じながら横目で見て、ハァと内心でため息をついた。
昨日の夜、雅樹から彼の母である夏樹が家に招待してきたので来てくれないかと誘われたのだが、とうの雅樹は中学時代の友人と遊ぶ約束をしているので夕方ぐらいに帰りに家によるらしい。
仕方ないので自分一人で雅樹の内に向かおうと思った唯依だが、流石にそれじゃあ母親に何を言われるか分からないので、雅樹はクリスカとイーニァの二人を一緒に行かせる事にした。
この理由としてはイーニァは兎も角、クリスカは学校で唯依に対して警戒心むき出しでその事に雅樹はなんとかしたいと思っていたので今回のことで二人の仲(特にクリスカ)を深められればと考えたわけなのだが・・・結果は言うまでもなくだ。
唯依自身クリスカに歩み寄ろうとしているのだが、如何せんクリスカ本人がいまだに壁を作っているので、どうしようもない。
(小母様の家に着くまでツライな・・・・)
唯依はそんな事を考えながら雅樹の家に向かった。
「・・・変わって無いな。ここも」
雅樹の家に着くと唯依は誰にともなくそう呟いた。
(本当にあの頃のままだ。懐かしいな)
「さっ入りましょイーニァ。・・・篁も入ってくれ」
「うん!なつき、ただいまー!」
「ただいま帰りました。義母上(ははうえ)」
「あ、ああ。お、お邪魔します」
そう言いながら家の中に入っていく二人に唯依は若干の気恥しさを覚えながら家の中に入っていった。
すると・・・・
「え?」
「むっ」
「え?」
玄関の前に見知らぬ二人の女性と龍見夏樹が立っていた。
「あら?」
「ほう・・・」
「あら!イーニァちゃんクリスカちゃんおかえりなさい。それに唯依ちゃんもいらっしゃい♪」
その二人は唯依達を興味深そうに見つめていると二人の後ろから夏樹が嬉しそうに笑いながら出迎えてきた。
「あの義母上(ははうえ)この人達は・・・?」
「だれ?」
イーニァを後ろに庇いながらクリスカは不審そうに二人の女性を睨み、イーニァはクリスカの後ろから不思議そうに見た。
「ああ、この二人はゼオルートさんの知り合いで私の元教え子なの」
「義父上(ちちうえ)の?」
夏樹の話に疑問を覚えながらクリスカは警戒心を隠さず二人を睨んだ。
「初めまして、ウェンディ・イクナートといいます。こちらは姉のテューディ・イクナートです」
「よろしく」
長いウェーブのかかった蒼髪の女性、ウェンディは柔和な笑みでテューディは不敵な笑みで自己紹介をした。
「ウェンディちゃん、テューディちゃん。この子達がクリスカちゃんとイーニァちゃん。それであっちの黒髪の子が唯依ちゃんよ」
「あの、先生?もう子供じゃないのでちゃん付けは恥しいのですけど・・」
「あら、いいじゃない♪それに、そんなことで恥ずかしがってちゃまだまだ子供よ?」
「うぅ・・・」
「ウェンディそろそろ行くぞ」
「あっまって姉さん。それじゃあ、先生お邪魔しました」
「また、会おう」
またの部分を強調しながらテューディはウェンディを伴って龍見家を後にした。
「さてさてクリスカちゃん、イーニァちゃんおかえりなさい。それと唯依ちゃん久しぶり、しばらく見ない間に随分と綺麗になったわね?」
「ただいま、なつき!」
「ただ今戻りました、義母上」
「い、いえ・・・小母さまこそ以前とお変わりなくお綺麗で・・・」
夏樹の綺麗になったの一言に唯依は若干頬を染めながら恥しそうに顔を俯いた。
「あらあら、こんな小母さんを煽て立って何も出ないわよ?」
「い、いえ!お世辞などではなく本当のことです!」
(というか、全然子供の頃と変わっていない!?唯一変わったと言ったら髪が長くなった程度・・・一体どうなっているんだ!?)
「さてと、立ち話もなんですし家に上がりなさいな。美味しいケーキを用意してあげるから」
「ケーキ!?ほうとう、なつき?」
美味しいケーキと聴いてイーニァは顔を綻ばせ目をキラキラさせながら夏樹に抱きついた。
「ええ。今から用意するから手を洗ってらっしゃい」
「はーい!」
いうや否やイーニァは洗面所の方に駆けていった。
「あの、小母さま」
「?何かしら唯依ちゃん?」
夏樹は洗面所の方に駆けていったイーニァを見ながらニコニコと笑っていると不意に唯依が声をかけてきた。
「ゼオルート小父様にご挨拶をしたいのですが・・・」
「・・・そう、わかったわ。クリスカちゃん案内してあげて」
「・・・分かりました義母上。こっちだ、篁」
「・・・ありがとうね、唯依ちゃん」
唯依とクリスカがゼオルートのいる部屋に向かう途中、夏樹は小さくそう呟いた。
「ここだ」
クリスカに案内されたのは龍見家の和室の一室、そこに仏壇があり、線香が二本添えられていた。
一本は夏樹だとしてもう一本は・・・?
「どうやらイーニァは先に済ませた様だな」
唯依が疑問に思っていると隣からクリスカがその疑問に答えてくれた。クリスカは苦笑しながら仏壇の前に正座すると線香に火をともし香炉に立て鈴を鳴らした。
「・・・・」
顔の前で手を合わせクリスカは黙祷を捧げしばらくした後、唯依の元まで戻ってきて、
「リビングはこの部屋を出てすぐ右にある扉だ。先に行っているぞ」
「あ、ああ」
そう言ってクリスカは部屋を後にした。
「・・・」
部屋に残された唯依は無言で仏壇の前に行くと線香に火をともし香炉にさし黙祷を捧げた。
(小父様挨拶が遅れてしまい申し訳ありません・・・小父さまから教わった流派と心構えは今でも私の中に生きています)
そして、唯依は今までのことを今は亡きゼオルートに報告していった。
「どうしてこうなった・・・」
あの後、唯依はゼオルートへの報告を済ませリビングで夏樹特製のケーキを美味しく頂きながら、昔話に花を咲かせた所までは良かったのだが・・・・
「篁、諦めろ」
「ゆい、にあってるよ?」
「・・・勘弁してくれ」
現在の唯依の服装は胸の谷間や足のスリットによって白い美脚が眩しい赤のチャイナドレス。隣のクリスカは若干サイズの合ってないミニスカポリス。イーニァは黒のゴスロリ(っというか水銀○?)だ。
「いいわ〜!すごくいい!!唯依ちゃんもクリスカちゃんもイーニァちゃんも最高よ!!」
そういって若干悦に入りながらシャッターを切る夏樹。
龍見夏樹、趣味若い子の洋服選び(という名の着せ替え)。
昔、唯依は夏樹の趣味に付き合わされて酷い目にあったがこれは昔の比ではなかった。
(というか、サイズがぴったりなのだがどうやって測ったんだ・・・?)
唯依達は今着ている服以外にもナース服、OL服、エレベーターガール、女教師、バニーガール、レースクイーン、ミニスカサンタ、トナカイビキニetc.etc.・・・数多くの服(というかコスプレ服?)を試着させられていた。
最初は抵抗していた唯依達であったがこうなった夏樹は誰にも止められないため早々に折れてしまった。
「う〜ん。幼い頃の唯依ちゃんも可愛かったけど、今の唯依ちゃんも可愛くて綺麗になったわね〜」
「か、かわっ!?ってからかわないでください!!」
夏樹の可愛い発言に唯依は顔を真っ赤に染めながら夏樹に怒鳴りつける。
「あら、どうして?」
「どうしてもなにも私みたいな武骨者が可愛いなどと・・・」
段々と最初の勢いが無くなり萎んでいく唯依に夏樹はフッと微笑し、
「何言ってるの。あの子のことを一途に思ってここまでいい女になったんだから、もう少し自信を持ちなさい」
「うえっ!?な、ななななななにをっ!?」
「あら、隠さなくてもいいじゃない。これでも貴方達より女としての年季は上よ?」
「あ、あう・・・・」
陸に上がった魚の様に口をパクパクとしながら唯依は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
そんな唯依を夏樹はニコニコしながら見ていたが、不意にパンッ!と両手を合わせて、
「さあ、着替えを再開しましょうか!!」
「え゛あ、あのもう終わりなんじゃあ・・・・?」
突然の夏樹の再開宣言に唯依はピシリと固まり引きつった顔で夏樹に問いかけた。
出来れば嘘であってほしいという願いと共に。
「何言ってるの!まだまだ着せたいのが山積みなんだから!」
そう言って夏樹が取り出したのは今まで何所にあったのか問いただしたい位の衣装の山だった。
「雅樹が来るまでまだまだ時間があるし、千冬ちゃんが来れないから貴方達三人で埋め合わせしてもらわないとね?・・・・あら、クリスカちゃん?イーニァちゃんを抱えて何処に行くのかしら?」
「ぐっ!は、早い!?」
コソコソと物陰に隠れて逃げようとしたクリスカだったが一瞬で夏樹に捕まってしまった。
「なつき、それきたらまさきよろこんでくれる?」
「ええ!寧ろイーニァちゃんの可愛さにメロメロになっちゃうわ!」
「ほんとう?」
「もち!」
「えへへ〜」
「い、イーニァ!」
あっさりと懐柔されたイーニァ、それを見てクリスカは愕然とした。彼女にイーニァを見捨てることなどできないのだから・・・。
「さあ、まだまだ時間はたっぷりあるわ!楽しみましょう、ね?」
「「も、もういやぁ〜〜〜〜!!!」」
この日、唯依とクリスカの叫びと思いが初めて一致した瞬間であった。
この日を境に唯依とクリスカの蟠りが完全に消えた。
奇しくも同じ被害者同士、共感を覚えたのかもしれない・・・・。
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