真恋姫†夢想 弓史に一生 第六章 第九話 義勇軍
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〜聖side〜

 

 

 

「それで? あんたの事だから、あの娘の治療のためだけに来たわけじゃないんでしょ?」

 

 

 

玉座の間にて再び謁見している俺たち。

 

流石董卓軍筆頭軍師、賈文和。

 

俺の目的を先読みしているか…。

 

 

 

「あぁ。実は黄巾賊の情報が欲しくてな…。」

 

「そんな所だと思って、準備は出来てるわ。」

 

「……随分と手際がいいな。」

 

「当然よ。どの諸侯も、今は情報を欲しがってるもの。」

 

「ん?? そこまで諸侯は黄巾賊討伐に積極的じゃなかったはずだが…。」

 

「……。 あんた、まさか知らないの……?」

 

「……何だよ…。」

 

「昨日、漢王朝から各諸侯に、正式に黄巾賊の討伐命令が出たのよ。」

 

「へぇ……。とうとう重い腰を上げたか…。」

 

 

 

と言っても、遅すぎるんだけどな…。

 

 

 

 

正史通りだと言うなら、既に黄巾賊は大規模な勢力になり、官軍が手を焼くレベルまで成長していたはず…。

 

正史と同じになっているとは言わないが、この外史でもそうなるのは分かりきった事だろう…。

 

 

 

貧困を嘆き、戦場を生きてきた黄巾賊とぬくぬくと平和な生活を送り、碌に鍛錬していない官軍…。

 

 

どちらが勝つか……そんなことは言わなくても分かる。

 

 

装備を整え一流の武器を持った官軍とは言え、牙の折れた獣は武器を持たない(持ちなれていない)平民に劣る…。

 

無能な中枢を曝け出すのに、今回の出来事はまたとない機会になったわけだ……。

 

 

そしてこれを機に、劉備や曹操、孫堅などの有力諸侯がその頭角を現し、群雄割拠の時代が始まる。

 

 

……まぁ、あくまで正史どおりならな…。

 

 

 

「そんなことも知らないなんて……。じゃあ、あんたは何でここに来たのよ?」

 

「だから、情報を得るためだよ。」

 

「じゃあ…あんたは報を聞く前から討伐に動いていたってわけ?」

 

「そういうことだな。」

 

「何でまた、こんなの官軍に任せとけばいいのに……。」

 

「………どうしても、確認しないといけないことがあってな…。」

 

 

 

そう…首謀者、張角、張宝、張梁のことを…。

 

 

 

「………訳アリって顔してるわね…。」

 

「まぁ……ね……。」

 

「ふ〜ん。まぁ、ボク達には関係ないことね。」

 

「……助かるよ。」

 

 

 

こういうところを深く詮索してこないのは、彼女の優しさなのだろう…。

 

ツンケンしながらも、気遣いを忘れない詠の心が嬉しかった。

 

 

 

「ただ……残念だけど、ボク達が得ている情報もこれだけよ。」

 

 

 

そう言って、竹簡を一つ投げてくる詠。

 

 

それをキャッチして開いてみるが、書いてある情報は鉅鹿のこと、首謀者の名前が張角であるということ、張角は顔が三つあって、腕が六本生えた化け物であると言うことだった。

 

 

「………ここで、この量か…。」

 

「これでも、あらゆる方面から情報は手に入れてるのですぞ。」

 

「でも、集まるのは同じような情報ばかりで……お力になれなくて、ごめんなさい…。」

 

「いやっ、それだけ向こうの情報隠蔽が上手いんだろうな…。だから、ねねや月が謝ることじゃないよ。」

 

「先生、それではこれからどうなさるのです?」

 

「情報が入らなかった以上、やることは一つだな…。」

 

 

 

皆の視線が俺に集まる。

 

 

 

「不確かなことは自分の目で確かめる。これしかないだろ!!」

 

 

 

満面の笑みを浮かべてそう言うと、皆はやれやれといった顔持ちながら、微笑を浮かべて俺にうなずき返してくれる。

 

 

 

「よしっ!! そうと決まれば、明日の朝出発。目指すは鉅鹿だな!!」

 

「おいっ、聖!! 音流はどうするんだよ。」

 

「華佗の話だと、明日には回復するそうだ。だから明日の朝にしてるだろ?」

 

「………あっそ…。」

 

「他に質問のある奴はいるか?」

 

 

 

誰も質問のある人は居ないみたいだな……。

 

 

 

「じゃあ、解散!! 明日の朝まで、皆体を休めとけ!!」

 

 

 

俺の合図でそれぞれに散っていく我が軍のメンバー。

 

 

 

「……あんたね…。ここ一応ボク達の城だけど!?」

 

「あっ!! 悪い!!」

 

「……はぁ。前代未聞よ、あんた。」

 

「どうも洛陽の雰囲気に慣れすぎたみたいで……。勝手に話し進めて悪かったな。」

 

「聖さんはこの町に馴染んでましたから……それに、私達も先ほどのことに違和感を覚えませんでしたし…。」

 

「月は甘いのよ!!」

 

「へぅ〜〜……。」

 

 

 

月と詠の掛け合いは何時見ても癒される…。この二人は、本当に仲がいいんだな…。

 

 

 

「詠。聖たちに地図を見せたらどうですか?」

 

「……ボク達の得は??」

 

「活きの良い、質の高い情報が手に入るのです。」

 

 

 

………詠の顔が見る見る曇る。

 

 

 

「……こいつを信用するの…??」

 

「ねねは………こいつを信用してるのです…。」

 

「私も……聖さんは信用してもいいと思うよ、詠ちゃん。」

 

 

 

月に言われると弱い詠。これは月たちの勝ちだな…。

 

 

 

「……あぁ〜〜〜〜!!!!!分かったわよ!!!!  良い!? 情報を手に入れたらボク達に直ぐに流しなさい!! それが条件よ!!」

 

「…………?????」

 

「後でまたここに来なさい!! 良いわね!?」

 

「あ………あぁ……。」

 

 

 

何だかよく分からないが、地図を見せてもらえることになった。

 

と言っても、地図くらい持ってるんだけどな……。

 

 

 

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それから数刻後、部屋でゴロゴロしてると、月の侍女達が俺を迎えにやってきた。

 

侍女達に連れられて玉座の間にやってきた俺は、そこにあるものを見て驚いた。

 

 

 

「まさか……。大陸全土の細かい地形の地図とはな……。」

 

「良い!! くれぐれも情報提供を忘れないこと!! それが条件だからね!!」

 

「分かってるよ、詠。こんな大事なもの見せてくれてありがとな。」

 

 

 

詠に笑顔を向けながらお礼を言った後、再び地図に視線を落とす。

 

 

鉅鹿への道は山を越える必要がある。もし、この辺りで黄巾賊が待ち伏せしていたら厄介なことになりそうだ…。

 

それ以外は……特に気になるところは無いかな……。

 

 

 

「ん??」

 

「……どうかした?」

 

「あぁ、ここなんだが……。」

 

「……衢地ね…。」

 

「衢地??」

 

「交通の要衝で、物資の輸送に便利な場所ね…。ここに目をつけたのは流石と言ったとこかしら。」

 

「多分ここに敵の物資の補給路があるだろうな。まずはここを押さえるか…。」

 

 

 

敵も補給路が絶たれれば、最前線で戦う部隊は退かざる負えなくなるだろう。

 

 

 

「でも、ここは数多くの敵が居るわよ。あんたんとこの兵数じゃ厳しいんじゃない?」

 

「敵が多ければ、それだけ情報が入るしな…。虎穴に入らずんば虎児を得ず…ってな。それに、うちの兵達はそん所そこ等の賊には負けないように訓練してる。」

 

「それでも、被害は免れないわよ…。」

 

「俺には優秀な軍師が三人も居るし、それに俺が居る。」

 

「……言うわね。」

 

「それほどでも。 それに、他の有力諸侯もここを狙うだろう。」

 

「と言うと…?」

 

「陳留刺史の曹操、揚州刺史の孫堅……または、それ以外の諸侯の何名かはこの地の重要さを知ってるだろうさ…。」

 

「つまり、自分達以外にも人が来るから、兵が少なくても大丈夫だと言いたいの?」

 

「そういうこと。いざとなったら他に託して逃げ帰るさ。」

 

「……託された方はいい迷惑ね…。」

 

「とりあえず地形は分かった。この情報を使って有利に戦ってくるよ。」

 

「……分かってる…??」

 

「分かってるよ。ちゃんと情報は伝えるから。」

 

「それは当然でしょ!! そうじゃなくて…。」

 

「………??」

 

「……死なずに……無事でいなさいよ…。( ///)」

 

「………馬鹿な…。」

 

「………何よ…。」

 

「詠が俺のことを心配した……だと……。」

 

「……かぁ〜〜。( ///) ごっ……誤解してんじゃないわよ!! 誰があんたのこと心配なんてするのよ!! 馬鹿じゃないの!!」

 

「詠、顔が赤いぞ?」

 

「さ……さっさと寝なさい!! もう用事は終わったんだし、明日は早いんでしょ!? なら、天幕に戻りなさい!! この話はもう終わり!!」

 

「へいへい……。」

 

 

これ以上ここにいると、詠に何を言われるか分からないので退散することにする。

 

 

それにしても、良い物を見せてもらえた。

 

戦において、地形を知っているのは大きなアドバンテージとなる。

 

確か、あの衢地の近くに川が干上がって出来た谷があったはず。

 

そこに敵を誘うことが出来れば……。

 

 

 

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その日はそのまま天幕へと帰り、寝台に倒れこむと気付けば朝になっていた。

 

未だ霞がかかる頭を何とか起こし、準備を整える。

 

 

「お兄ちゃん……おはようございます…。」

 

 

麗紗がぺこりと礼をしながら、天幕の中へと入ってきた。

 

 

「おはよう麗紗。準備は良いかい?」

 

「はい…。」

 

「じゃあ、行こう。俺たちの戦場へ…。」

 

 

天幕を出ると、まだ低い太陽の光が目に入り、瞬間的に瞼を閉じる。

 

次に目を開けると、眼前に並ぶは我が軍の兵士たち。

 

そして、その前に並ぶ我が仲間…。

 

 

「お兄ちゃん……号令を……。」

 

 

麗紗の顔を見、無言で頷いた後に目線を皆に向ける。

 

 

「全軍!! 出陣!!!!!!」

 

「「「「「応ーーっ!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 

逞しい兵士の掛け声と共に、全軍は行軍を始めた。

 

 

 

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目標地点までは一日足らずで着くはずである。

 

急げば今日中にでも着けるが、戦前に疲れていてはどうしようもないだろう。

 

兵士たちの体力や音流の病み上がりのことも考えて、今日はゆっくりと行軍することにする。

 

 

行軍すること一日。

 

行軍速度を調整しつつ、途中野営を挟んで体力万全の状態で行軍を続けた俺たちは、目的地の近くまで来ていた。

 

初めは危惧していた山間の伏兵だが、警戒しながら進んだのが馬鹿かと思えるほどあっけなく山道を行軍できた。

 

もし、この心労を狙って山間に伏兵を置かなかったというなら、相手には中々の策士が居る所だが……それが狙いだというなら、今現在までに一度くらい奇襲をかけなければ効果が無い…。

 

つまりは、相手にそんな頭の切れる軍師はいないわけで、やっぱり相手はただの賊なのだ。

 

 

 

「報告します!! この先5里程北に行ったところに敵が陣をしいてます。」

 

「分かった。各隊展開!! 陣形を変更後合図があるまで待機!!!!」

 

「「「「「応っ!!!!!!」」」」」

 

 

隊列を乱さぬよう、正確にしかし、素早く陣形を変更していく。

 

一糸乱れぬこの動きは、武官達の日頃の調練の成果だろう。

 

本当に、あいつらは凄い奴らだ…。

 

自分で自分の育てた兵達を賞賛していると、向こうから細作の一人が戻ってきた。

 

 

「ご報告申し上げます!!」

 

「どうした?」

 

「はっ。ここより北西、8里ほど先に、別の一団を発見しました。」

 

「何っ!? 賊の別働隊か!?」

 

「いえ。どうやら義勇軍のようです。」

 

「義勇軍……。旗はあったか?」

 

「旗は、中央に劉、その左右に関と張の旗があります。」

 

 

劉の旗、義勇軍……。きっと劉備が率いている隊だな…。

 

左右の旗は、関羽に張飛だろう。義兄弟の契りを結んだ、劉兄弟のお出ましというわけだ…。

 

それにしても、流石は王と言うことか……。この地点に目をつけ、攻撃に来るとは…。

 

さて、どう出るか……。

 

 

 

「……分かった。 橙里、麗紗、蛍!!! 三人とも来てくれ!!」

 

 

 

俺の呼びかけで三人が駆けてくる。

 

 

「どうしましたか、先生?」

 

「俺たち以外に別の部隊があの地点を狙っているらしい。接敵は向こうの方が早い。どうすればいいと思う?」

 

「まずは……様子を見るのが良いと……思います。」

 

「……麗紗に同感。」

 

「……橙里、お前は?」

 

「う〜ん。私も見の方が良いかと思うです。」

 

「三人とも同じ意見なんだな?」

 

「「「(コクン)」」」

 

 

皆一斉に頭を縦に振る。

 

 

「分かった。では、見の後どうすれば良い?」

 

「もし負けそうなら手助けをして、相手に恩を売りつつ、且つ自分達の名を売るのが良いと思うのです。」

 

「それが良さそうだな。もし勝ちそうならどうする?」

 

「………義勇軍だと……苦戦は必至……必ず助けがいる……。」

 

「私も……蛍ちゃんと同意見です。」

 

「成程……。流石は頼れる軍師様三人……。助かったよ。」

 

 

俺がそう言うと、嬉しそうな表情を浮かべて、皆は笑顔を俺に向けた。

 

その姿に、衝動的に全員の頭を撫でてあげる。

 

 

「……はふぅ〜……。」

 

「……あうぁぅ……。」

 

「……ふみゅ〜……。」

 

 

各々面白い声をあげながら、気持ち良さそうに頭を撫でられ続ける面々。

 

 

「あ〜〜〜っ!!!!! あんちゃん!!!!! ウチも〜〜!!!!!!!!」

 

 

俺たちの姿を見つけた音流が、この輪に加わる。

 

 

「はいはい。音流も元気になったみたいだな。」

 

「……ふにゃぁ〜〜〜……。気持ちよか〜……。」

 

 

音流の緊張感の無い声で、戦前でありながらいつも通りの緩い空気が軍全体を包む。

 

これぐらい解れていれば、賊相手に簡単にやられることは無いだろう。

 

 

「よしっ!!! 全軍に通達!!! 敵と別の軍が戦っている所をまずは見に回る!!! その後、俺の指示で敵にぶつかる!! そこで敵を殲滅するぞ!!」

 

「「「「「応っ!!!!!!!!」」」」」

 

 

兵士の顔に適度な緊張感が戻り、俺たちの軍の戦支度は終わったのだった。

 

 

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後書きです。

 

 

とうとう黄巾の乱も本格化してきました。

 

そして、原作でもあった衢地を襲撃します。

 

 

 

賊を挟んだ反対側に居る劉備軍。

 

彼女たちとの関わり方は今後を期待してください。

 

 

 

 

 

洛陽の玉座の間はいつの間にか聖たちの軍議の場へ……。

 

月たちの空気感が凄いです……。

 

相変わらず、あの一件以来聖に甘いねね……地図見せても良いんですかね…??

 

そして……今話にして詠が聖の心配をし始めました……。

 

ついに彼女も落ちるのか……??

 

 

 

 

次話なんですが、日曜日にあげようと思います。

 

それでは、お楽しみに……。

説明
どうも、作者のkikkomanです。


ようやく忙しい時期も終わり、これからは少しずつ書き溜めを作れるようになりました。


今後次第ですが、更新が早くなるかもしれません。その時はまたこういうときに報告させていただきます。
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