咲-Saki-《風神録》日常編南四局 |
夏が近づいてきていた。強く太陽が照らすこの季節が、麻雀部員が必死になって栄光を求めるインターハイが、近づいてきていた。
ちなみにこれまでの間に結構色々な出来事があった。いい加減パソコンを持っていたほうがいいんじゃないかと街に買いに行ったり(パソコンのことなんて全く分からなかったため、たまたま家電量販店で知り合ったメガネのお姉さんにアドバイスを貰った)、買ったばかりのパソコンでネット麻雀に挑んでみたり(天使の格好をした女の子にボコボコにのされた)。財布はだいぶ軽くなったが、まぁ有意義な買い物だったと思う(モモとビデオ電話ができるようになったし)。
話を戻そう。この間も少し話したと思うが、俺は男子であるため女子の団体戦に参加する事ができない。加えて、男子部員は俺しかいないため男子の団体戦に出場する事も不可能。しかし団体戦は無理でも個人戦なら出れるため、俺もより一層練習に励み、夏のインターハイへ向けて部活を頑張って行こー! と、意気込んでいきたいところなのだが。
「……そういえばゆみ姉」
ふと気付いたことがあり、シャーペンを動かしていた手を止めて対局中のゆみ姉に尋ねる。……俺だけ対局に参加してないのは、物理の成績が悪すぎて補習を喰らったことがバレたからである。明後日の小テストで合格点を取らなければしばらく部活参加禁止となってしまうのだ。とりあえず、対局が終わったらモモやゆみ姉に少しばっかり指導をしてもらうことにしよう。
閑話休題。
「ん? どうした?」
自らの手牌と他の河に視線を向けたまま、ゆみ姉はとりあえず返事を返してくる。
「ちょっとばっかし気になったことがあるんだけど……」
「なんだ? 物事はハッキリと言ったほうがいいぞ」
ならば、そうさせていただこう。
「五人目の部員はどうしたの?」
「五人目?」
「何言ってるんだー?」
「五人目……?」
「?」
対局していた四人全員が疑問符を浮かべて俺に視線を向けてくる。
「いや、だから五人目だって」
「いやいや、だからこの場に五人いるだろう」
なんか全員して俺のことを「何こいつ人数も数えられないの」みたいな目で見てくる。
どうやらまだまだ気付いていないようなので、ハッキリと言わせてもらうことにしよう。
「女子部員の五人目だって。麻雀部の部員が五人になっても、女子が五人集まらないとインターハイ出れないんだろ?」
「「「「……あ」」」」
どうやら本当に誰も気付いていなかったようだ。
咲-Saki-《風神録》
日常編・南四局 『Are you ready?』
「と、いうわけで連れてきたぞー!」
「え、えっと……ど、どういう状況なのでしょうか?」
翌日、やや遅れて部活にやって来たの部長が連れてきたのは、金色の髪のメガネをかけた少女だった。突然、そして部長に無理矢理連れてこられたらしく、涙目になりながら辺りをキョロキョロとしている。まるで小動物のようだ。
「この娘が、以前部長が言っていた幼馴染ですか?」
「うむ、さあ佳織、みんなに自己紹介をするのだー」
「きゃ」
部長に背中を押され、たたらを踏みながら一歩前に出てくる少女。
その時、俺は見てしまった。前につんのめったことによりプルンと揺れた彼女のたわわに実ったむ――。
「……(ぞくり)!?」
な、何だ!? いきなり凄まじい寒気が! なんか前にもこんなことあったような気がする!
「……と、東横さん、か、顔怖いよ?」
「……別に、何でもないっすよ、津山先輩」
「そ、そうか……」
まあそんな悪寒はとりあえず置いておこう。
部長に無理矢理連れてこられた少女は、観念したように自己紹介を始めた。
「え、えっと、始めまして、智美ちゃんの幼馴染の、二年の妹尾(せのお)佳織(かおり)です」
礼儀正しくお辞儀をしながら彼女は自己紹介をする。……思わず部長の幼馴染にしては随分と礼儀正しいなぁという感想を抱いてしまった。
そんなことを考えながらも、俺たちも各自自己紹介をする。
「そ、それで、私はどうしてここに連れてこられたんですか?」
「……部長さん、もしかして事情説明一切せずに連れてきたんすか?」
「今からするところさ」
モモのジト目を軽く受け流し、部長は妹尾先輩に事情説明を始めるのだった。
†
結局、部長の説得と俺たちのお願いを、妹尾先輩は受け入れてくれた。(部長が)拉致も同然に連れてきたというのに、快く承諾してくれた妹尾先輩マジいい人。しかし、どうにも妹尾先輩は麻雀経験が全く無かったらしく、ルールも全く知らないとのこと。だったらどうしてもっと早めに誘っておかなかったのだという部長に対する愚痴は置いておいて、まずは妹尾先輩には麻雀のルールを覚えてもらわなければならない。というわけで、
その一時間後。現在俺はというと。
「ん、次の駅で降りるぞ」
「了解」
ゆみ姉と共に電車に揺られていた。
はてさてどうしてこんなことになっているのかというと、理由は簡単。本日がインターハイ予選参加申し込みのためだ。本来ならば部長が行くべきなのだろうが、妹尾先輩がまだ麻雀部になれていないことを考慮し、妹尾先輩に麻雀を教える役を受け持ってもらった。そんなわけで、部長代理としてゆみ姉に白羽の矢が立ったというわけだ。ちなみにモモと津山先輩は部長のお手伝い。
んで、どうして俺がゆみ姉のお供をしているのかというと、予選参加の申し込みは男子と女子で別々に行わなければならないらしいのだ。
「俺って男子部長だったんだ……」
「まぁ、こんなときでもない限り区別なんてしないからな」
とまあ、どうやらそういうことらしい。ということで、俺は部長代理のゆみ姉と共に電車に揺られ、県予選参加申請に赴いているのである。
「……おー」
軽い感嘆の声と共に首を持ち上げる。そこは学校の体育館なんぞとは全く比べ物にならない巨大な建物。見た目は近代的な文化ホール。なれどその実態は麻雀を行うためだけの建物である。
(じいちゃんは、昔はこんな建物が建つなんて考えられなかった、とか言ってたな)
麻雀が広く一般的になったのはほんの十数年前らしく、じいちゃんが子供の頃の麻雀は大人の男がやるものというイメージが強かったそうだ。それが今となっては高校生たちがしのぎを削って全国を目指すメジャーなものとなってしまっている。不思議なものである。
「ほら御人、いつまでも呆けてないで、さっさと登録しに行くぞ」
「はーい」
いつの間にか前方を歩いていたゆみ姉の背中を追いかけるように、俺は小走りになった。
「……ん?」
「ん? どったのゆみ姉」
前を歩く背中に追いついたと思ったら、何故かゆみ姉は受付に足を向けずに立ち止まっていた。前に回りこんで顔を覗きこんでみる。その表情はやけに困惑しているような、そんな感じだった。
「………………」
無言のまま前方を指差すゆみ姉。
ゆみ姉がハッキリ物事を言わないなんて珍しいなと思いながら、その指が指し示すものに視線を向ける。
「……はぁ!?」
†
―――今年から団体戦は男女混合!?
「……そうらしい」
受話器に向こうからのそんな部長の声が、離れたところに立つ俺の耳にも届いてきた。
どうやら、そうらしいのだ。今まで男女別で行われていた全国高校生麻雀大会が、今年から男女混合で行われるとのこと。正しく寝耳に水である。
んで、どうしてゆみ姉が部長に電話しているのかというと、単純に参加メンバーの変更の相談である。本来ならば俺は団体戦に参加することができず、ゆみ姉、部長、モモ、津山先輩、妹尾先輩の五人で女子団体戦に参加する予定であった。しかし、男子の俺も団体戦に参加できることになったため、参加メンバーを変更しようと相成ったわけだ。
「……うん……あぁ、そうだな。その辺が妥当だろう。分かった」
どうやら相談が終わったらしく、ゆみ姉は通話を終了して携帯電話を閉じた。
「決まったの?」
「ああ。団体戦にはお前も参加してもらう」
(……よし)
ゆみ姉のその言葉に、俺は心の中でガッツポーズを取る。
これで、俺もインターハイに参加できる。
いや、個人戦には元々参加できたのだが、みんなと共に、麻雀を打つことが出来る。
(……全く、俺はいつからこんな麻雀脳になっちまったことやら……)
だがしかし、きっとあのメイドさん二人も出てくることであろう。以前出会った部長さんも、そしてまだ見ぬ強敵たちが……。
きっと、今のままの俺では彼女たちには敵わない。
(インターハイまでに、俺が出来ること……)
そんなことを考えながら、俺はゆみ姉の後を追った。
考えが纏まり、一つの案が俺の頭に浮かんだのはその日の晩のことだった。
《北一局に続く》
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いつもここに前書き書いてたけど、今更ながらこれって作品説明なんだよね。初回以外全く説明してないけど。 | ||
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