いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第百話 『放浪者』と『スティグマ』
管理外世界地球。
そこに張られた頑強な結界内。アースラの武装局員総出で作り上げたその結界は何発大砲の弾を撃ち込まれてもびくともしない物だ。だが!
ズドオオオオオオオオオオオオッッ!!
結界内の爆音と衝撃波。
その二つでその結界はビリビリと悲鳴を上げ、今にも砕け散りそうになっていた。
「う、あっ。…うああああああああああああ!!」
「くはっ、くははは。まだだ。もっと、もっと自分の心を解放しろ『偽りの黒羊』!」
その発生源。それは二人のスフィアリアクターだった。
『知りたがる山羊』と『偽りの黒羊』。
「……く、…ユーリ」
(…冗談じゃないよ。あの黒いの。シュテるんや王様だけじゃない。にゃのはやクロハネとはにゃての砲撃も足止めにもならないなんて…)
(…魔力防御が並じゃありません。…物理攻撃を含めた守護騎士のアームドデバイスじゃないと効果が見込めないです)
シュテルとレヴィと融合したディアーチェは既にボロボロだった。
キリエから『傷だらけの獅子』が戦闘不能ということを聞いたディアーチェ達。
当初の目的を変えて『悲しみの乙女』であるリインフォースに協力を仰ぎ、同じスフィアリアクター同士で共鳴させてユーリの持つ暴走したシステムU―D『エグザミア』。もしくは『偽りの黒羊』を抑えようとしていた。
「…王様。無理しないで」
だが、アースラ側と合流をしようとしたディアーチェ達だったが、そこにアサキムが現れ、戦闘になった。
なのはとはやて。ユーノとアルフ、クロノ。リインフォースも含めた守護騎士達でアースラメンバーにアミタとキリエ。
「…く、この魔力弾の嵐。…あの中をかいくぐりぬけるなんて」
ボロボロになったディアーチェを支えるキリエとそれを守ろうと二人の前に立つアミタもまた疲労とダメージが目立っていた。
「U―D!じゃ、ないっ、ユーリちゃん!」
「駄目だよ!なのは!今あの二人の間に入ったら間違いなく消し飛ぶ!」
「そうだよっ!それに一発一発がなのはのディバインバスター並の威力を持った魔力弾!それを連射しながらあのスピード!悔しいけどフェイトぐらい速くないと足手まといだよ!」
二人のスフィアリアクターの高速機動戦。そして弾幕、乱射戦に誰もがそれに巻き込まれないように遠巻きに、そして流れ弾をはじく、回避することだけで精一杯だった。
「…それにあれは非殺傷設定なんかじゃない。二人共殺傷能力付きだ」
「…一撃一撃が必殺の攻撃か。くぅっ!」
クロノは前線司令として全員に指示を出しながらも反撃の糸口を模索し、シグナムはU―Dの放った拳大の赤い水晶の流れ弾を弾く。
「それにこれだけの魔力戦。この結界もいつまで持つか…」
「だからと言ってこの結界を砕かれれば主達の街にも被害が出るぞ!」
「じゃあ、どうしろってんだよ!あたしやザフィーラでもあの魔力弾の嵐に飲み込まれたら二秒も持たないぞ!」
シャマルは自分達を包んでいる結界に目を配らせ、弱音を吐く。
ザフィーラはそんな彼女を叱咤するが、その解決策が見えない現状にヴィータも毒づく。
「っ。やはり…」
現状を打破するには同じようにスフィアを使わなければならない。
そう思ったリインフォースは棺桶サイズの角張った砲身、ガナリーカーバーに力を込めてスフィアの力を使った『グローリーモード』を使おうとする。が、はやてに止められる。
「駄目や!リインフォース!リインフォースは最後の切り札や!それに、今自分が駄目になったら誰がユーリを助けるんや!」
「ですが、このままでは!」
リインフォースが見つめるその先。
そこには…。
『知りたがる山羊』の攻撃を徐々に受けながら、涙を流しながら、自分が発する言葉とは真逆の事を行うユーリの姿。
「あああ、ああっ、うあああああああああああああああああ!!?!来ないで、来ないでええええええええええ?!!私を生かす為にその目を潰せ!貴方のスフィアが私に捧ぐ!ディアーチェ達を殺して、私を狂わせろ!!」
「まだだ、まだ足りないよ『偽りの黒羊』!今という現象!現実から!真実から逃げたいと!認めないと強く求めろ!君が望む『嘘』を!」
『偽りの黒羊』の反作用。
自分の本当に伝えたいことを伝えきれなくなるという事。
今のユーリはそれによってあべこべなことを言っているに過ぎない。
「私は望む破壊の風!そこに眠った平和の民!その目に映った希望は何処!?!」
涙を流しながら笑い、怨嗟の言葉を嬉しそうに言うユーリ。
「…ユーリ!」
「駄目ですってば王様!今のユーリちゃんは援護したなのはちゃんにもあの水晶を放った。…もう、『偽りの黒羊』で狂っちゃたんです。落ち着くまで近づいちゃ駄目です!」
「黙れ!桃色!今、行かなければユーリが…、ユーリが!」
そんな苦しみもがいているユーリに手を伸ばすディアーチェだったがキリエに抑え込まれる。ボロボロでなければ彼女を振り切ってでもユーリを助けに行く彼女にはそれだけの力が残されていなかった。
そう叫んだ瞬間だった。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
突然鳴り響いた。まるで腹の底から響いた獅子の咆哮。
辺りに荒れ狂うように魔力の渦がすぐ後ろから感じ取ったディアーチェやキリエだけではなくその場にいた、なのはやはやて。
「…どうし、て?」
「っ」
「…この感じ。そうか、タカシ。君も」
リインフォースだけじゃない。
激闘を繰り広げているアサキム。U―Dですらも『傷だらけの獅子』の登場に驚いていた。
「タカシ!お前!」
「どうしてここにいるんですか?!危篤状態だったはずですよ!?」
「少し寝たら治った」
「あれだけの大怪我だぞ!いくらその鎧が重厚とはいえあれだけのダメージを受けてそれで済むか!」
「無茶をして戦場に出てこられても邪魔になるだけだ!」
「大丈夫だって。それに…、援軍も連れてきた」
ヴォルケンリッター達からも忠告を受けながらも、軽く受け流す高志。そして、彼の後ろから三人の人影が見えた。
「…アインハルト・ストラトス。これより義によって参戦します」
「…アサキムさん。これ以上皆を傷つけるというのなら」
「俺達が相手になります!」
(エンゲージリアクトッ。最大出力!)
未来からやって来た彼等はそれぞれなのはやクロノ達の傍に立つ。
圧倒的な数の差。
さすがのアサキムもこれなら参ったと言わざるを得ない。そう思っていた。だが…。
「ふ、ふはっ、ふははははははははははは!あははははははははは!!」
アサキムは笑っていた。決して諦めからくるものではない。
それは明らかに歓喜の声だった。
「そうか、そうか!君も落ちるというのかタカシ!!歓迎するよ!同じ呪われた放浪者としてね!!」
「…放浪者?」
リインフォースはその言葉を聞いて何か思うことがあるのか顔をしかめる逆にユーリの方はというと、悲しそうな瞳で声高らかに高志に向かって吠える。
逆に高志はマグナモードのガンレオンの鎧の中で舌打ちをしていた。
いつもなら襲い掛かってくる激痛もそんなに感じない。自分の中にあるスフィアと共生すること出来た証でもある。
だけど、それはアサキムと同じ『放浪者』になったという事だ。
『放浪者』はスフィアの力によって『スティグマ』を刻まれたスフィアリアクターやその傍にいた親しい仲間。家族や恋人といった人間たちだ。
『スティグマ』は魂に刻まれる。高志の場合だと高志本人がそうなるまであと一年。いや、マグナモードを使っている間を考えているとさらに短くなる。
そして、彼に親しい人間はアリシアとプレシア。この二人は『傷だらけの獅子』が覚醒すれば、確実に刻まれる。
『スティグマ』を刻まれた者の宿命。それは終わらない戦いの参加者になる。
アサキムのように異世界に転移しては争いを起こしたり、巻き込まれてたりする運命になってしまう。
だから、高志はそうなる前に。『スティグマ』を刻む前にアリシアの前から消えることを選んだ。
「『傷だらけの獅子』!貴方の休まる所は私の中です!貴方を恨みながら私は貴方を受け入れる!」
「っ。これは…」
『偽りの黒羊』。『第二次スーパーロボット大戦Z』という原作では、今ある地位を失いたくない者が嘘をついてその場にい続けようと嘘をつき続けた結果。本当の自分に戻れなくなった。
それなら、今のユーリは…。
「『傷だらけの獅子』と『偽りの黒羊』!そこにあるのは現実に立ち向かおうとする『本能』とそこから逃避しようとする『本能』!方向性は違えど原点にあるのは無慈悲で残酷な『現実』!」
「…アサキム!お前何処まで俺達のスフィアを知っていやがる!」
「ははははっ!感謝するよ!タカシ!君が来てくれたおかげで『偽りの黒羊』は完全に目覚める!」
高志も知らないスフィアの高説するアサキムは笑いながら全員から距離をとる。
そして、二人の光は更に強くなっていく。
「紫天の空に浮かぶ赤い月そこから流れた黒の涙は白の大地を作り出す!」
「ユーリ!?しっかりしろユーリ!」
―相棒!まずいぞ、これは…―
『傷だらけの獅子』が高志に忠告をしようとしたが、それは遅かった。
着実に『偽りの黒羊』によって浸食されていくユーリの体から、スフィアの輝きと一緒に赤い水晶の塊。
ユーリの体から一人の子どもがまるでユーリの体を内側から出ようとするかのように赤い水晶は幾つも生み出される。
そして、
「「「「「う、うぐぅあああああああああああああああああああああああ!??!!?!」」」」
その水晶は((幾人|・・))もののユーリ・エーデルバインになった。
「な?!分身した!?」
「幻術!?ううん、違うこれは…」
クロノは驚きシャマルは慌ててそれを解析した。が、それはとても信じられないものだった。
その分身したユーリはすべてがユーリ本人であり、本人ではない。
分身した『本物』ですらも本体が分からないほどの『偽物』。
「アサキムさん!あなたは一体彼女に何をしたんですか!?」
「答えによっては…」
ヴィヴィオとアインハルトは魔力を高め、今にも殴りかかろうとしていた。
が、アサキムの言葉を聞いて二人の動きが固まる。
「気にすることはないよ。この世界の『聖王』と『覇王』」
「な…」
「…なんで、知っているんですか?」
「それが僕の力だからね。それに、いいのかな僕にばかり気をかけていると…」
「「「「「うぐっ、うあ、うあああああああああああああああああああああ!!?!?」」」」」
「彼女達の手によって死んでしまうよ」
まるで悲鳴を上げるかのように雄叫びを上げたユーリ達は一斉になのは達に襲い掛かる。
一方、アサキムはそれが分かっていたのか、その場から離脱するようにユーリや高志達から高速で距離をとる。
「アサキム!てめぇっ!そこまでのうのうと喋っていたのに逃げんのかよ!」
「そうだ。この場は一度退くよ。そして、弱り切ったところで改めて『傷だらけの獅子』『偽りの黒羊』のスフィアを狩る」
ヴィータの罵声をそのまま受け止めたアサキムは淡々と返す。
「何故なら、タカシ。君は優しすぎるからね。あの『偽りの黒羊』を見捨てるなんてことはしないだろう?」
「なっ?!アサキム兄ちゃん!それは!」
「卑しいと思うかいはやて?だけどね。それが僕なんだよ!」
そう言ってアサキムはその場から瞬間移動転移していった。
封鎖されている結界のはずなのに転移できるアサキムの魔力は相変わらず化物じみていた。
そして、その結界に残されたのは数人のユーリと戦う高志達だった。
「「「「「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!??!!?」」」」」
「やめろ!ユーリ!今我々が争ってもっ、ぐぅ!?」
「王様!?きゃあっ!」
「キリエ!さっきよりも速い?!皆さん気をつけてください!」
無差別に襲い掛かるユーリを止めようとするディアーチェ。彼女を守ろうとするフローリアン姉妹も同じように弾き飛ばされる。
「や、めろ。…止めるの、だ。ユー、リ」
暴走したユーリはもう誰の声にも耳を傾けようとはしない。
だから…。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
ズガァアアアンッッ!
「ガァッ?!」
ディアーチェ達に襲い掛かるユーリを殴り飛ばす『傷だらけの獅子』がいた。
事はそれだけでは済まない。
殴り飛ばされた衝撃で結界の壁に激突したユーリを大きく開いたライアット・ジャレンチの矛先で押さえつけるかのように掴む。そして、巨大なジャレンチに内蔵された極太の鋼鉄の杭が吐き出される。
「ノット・バニッシャー!!シュゥウウウットォ!!」
ズドォオオオンッッ!!!
結界内に鳴り響く轟音。そして、轟音が収まると同時に打ちつけられていたユーリは赤い水晶の欠片になって砕け散った。
「くそっ!はずれか!」
「はずれではないわ!この阿呆!」
『偽りの黒羊』の力で『偽物』のユーリを粉砕した高志が毒づくのを見てディアーチェが怒り狂った。
「一応、非殺傷設定だから大丈夫」
「…なるほど。それなら偽物にでも全力攻撃をしても大丈夫ですね」
「一応とはなんだ!一応とは!それに赤毛!本物だったらどうするつもりだ!この戯け!」
「そうよ!非殺傷とは言ってもダメージなのは変わらないんだから!」
アサキムが優しすぎると言ってはいたが本当にそうなのかと疑いたくなるような光景を目にしたディアーチェ達。
「なら、黙ってやられるか?違うだろ?」
「…う、それは。そうだが」
(王。ここは彼の言う通りにしましょう。今のユーリに構いすぎて、それでやられたら元も子もありません)
(…うん。僕もシュテるんに賛成。非殺傷なら僕達も躊躇わず攻撃できる!それにあの黒いのまた来るとか言っていたし…)
高志に言われて、言いよどむディアーチェ。
そして、そんな彼女に融合している二人の臣下も意見を述べる。
「…ぐぬぬ、なにやら我の意見はことごとく否定されているような気がするな」
「「王様!」」(王!)(おうさま〜!)
「ええい、わかった!わかった!ステレオで怒鳴るでない!」
姉妹による外からの声。ユニゾンしている二人の臣下からの声でディアーチェは頭を振りながら答えた。
「おい!小烏と塵芥共!よーく聞け!これより貴様等は我の指示に従って攻撃してもらう!」
ディアーチェは自分が持つ『紫天の書』を胸に抱きながらその手に持った魔杖を高々と上げて声を張り上げる。
「これより我等は非殺傷機能を用いた全力攻撃を行う!赤毛に桃色!あと、レヴィのオリジナルは我が絶えず念話にて指示を出す!小烏とシュテルのオリジナル。あと執務官と融合騎に『傷だらけの獅子』は我の傍に来い!残りの者は全力でサポートにまわれ!」
「フェイトだよ!」
「なのは!」
オリジナルと呼ばれた二人は揃ってディアーチェに文句を言うが彼女の指示に従い行動に移す。
「何か策があるのか!?」
ディアーチェの傍に寄って来たクロノ達は彼女にそう尋ねるとディアーチェはふんぞり返りながら答える。
「ふんっ。当然よ。今までユーリに気をかけすぎていて手加減していたがあれはもう『偽りの黒羊』だ。手加減などせん!それにパワーは上がっても理性がない。すぐに倒せなくても、その場に集めることぐらい造作もないわ!」
「それで王様、どんな作戦なん?」
「あのユーリ達を一ヵ所にまとめて我等が持つ全魔力での収束砲撃。以上だ」
「それで大丈夫なの?!そんな簡単な作戦で!」
はやての質問の答えになのは更に疑問を問いかける。
「簡単ではないわ!まったく本当にシュテルのオリジナルか貴様は…。我の持つ『紫天の書』。それから抽出したワクチンプログラムを乗せて放つ。執務官の足止めにもそのワクチンプログラムを使う。砲撃は我と小烏とお前だ、なのは」
「ワクチンを乗せて撃つ?そんなの私に出来るかな?」
「その方は我が魔力でやる。お主ら二人は我に合わせて砲撃をかませばいいだけだ」
確かにディアーチェの傍にいるメンバーの半数は砲撃メンバー。
そして、クロノはデュランダルでユーリの足止め兼ディアーチェの指示の補佐。ユーリの断れが一番よく知っているから行動もわかるから、だと。
「では、我々は?」
「お主等にはスフィアの力を用いて『偽りの黒羊』を抑え込んでほしい。偽物に紛れている本物も攻撃を受ければ動きは止まるだろう。そうすれば後はエグザミアだけだ」
「それだけでもかなり大変だよ?」
なのはの質問も最もだがディアーチェが答える前に高志が答える。
「…それは俺がどうにかする。エグザミアは疑似スフィアみたいなものなんだろう?だったら俺が、『傷だらけの獅子』で何とかする」
(…出来るか?)
覚醒間際のスフィアなら出来ると思いながらも高志はこっそりと『傷だらけの獅子』に聞いてみる。
―任せろ。『悲しみの乙女』の良い実験台にもなる―
(ちょ?!)
―安心しろ。アサキムが言っていたように何故か、俺と『黒羊』は相性がいい。ピリオド・ブレイカ―をあいつにぶち込め。あとは俺がどうにかする―
(なんで回復魔法?)
―あれは魔力じゃない。八割がた((俺|スフィア))自身だ。それにそれで眠っていた『揺れる天秤』を引っこ抜いた。…偶然だったけどな。今の俺達なら意識すればもぎ取れるさ―
(今のあの子にやっても大丈夫か?)
―…たぶんだがな。それに今のうちに取らなければあいつ自身にもスティグマが刻まれる。早くした方がいい―
(…スフィアは覚醒しているのに刻まれていないのか?)
―…俺達みたいに望んで力に目覚めた奴と、望まないのにあの融合騎のように目覚めた奴の差だな―
(…そっか)
高志は好き好んでリアクターに目覚めたわけではない。アサキムがこの世界に来たから、そして、リインフォースやはやてを救いたいがためにスフィアを用いた。だからと言って力を望まなかったか、と言えば嘘になる。
そんなに彼に迷っている暇はない。
そうこうしている間にも苦戦を強いられながらもサポート役の皆が偽物(おそらく本物もいるだろう)のユーリ達を一ヵ所に固める。
「っ。今だ、やれ!執務官!」
「僕はクロノだ!デュランダル!」
[エターナルコフィン・グレイプニル!]
前に見たクロノの魔法とは違い、ディアーチェから借り受けたプログラムの影響か、以前見た巨大な氷の蛇ではなく、幾万本もの水晶の糸で織り込まれたかのような巨大な氷の綱がユーリ達を絡め取る。
その綱は切れても切れた瞬間に糸同士結びつく。剛ではなく柔で抑え込んでいる氷結魔法のようだ。
そして、なのは・はやて・ディアーチェ。三人の収束砲のチャージが始まる。
「「「「あ?!あああああああああああああああああ!!?!」」」」
それを見たユーリ達は更に暴れだす。
だが、俺達の方が一手早い。
「もう『嘘』をつかなくてもいい!ユーリ!我がお前から『偽りの黒羊』から引きはがす!」
彼女の後ろに巨大な四つの黒い魔方陣が展開されると、それを覆う形ではやての白い魔力の光が灯る。
「受け取ってユーリちゃん!夜天の祝福を!」
「絶対に助けるから…。受け止めて!私達の全力全開!」
「「「ラグナロクブレイカー・ファランクスシフト…」」」
白黒と明滅している四つの魔方陣からそれぞれ桜色の光が生まれる。
目の前で苦しんでいる少女を救う為に収束されていく((星の光|スターライト))。
それは今までこの場で戦ってきた魔力の残滓をかき集める。
「あ、あああ、うあああああああああああああああああああああああ?!!??!」
その悲鳴は『偽りの黒羊』のものだったかは分からない。だが、
「「「フル、シュゥウウトォッ!!」」」
ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
彼女を救いたいが為に放たれた四筋の光が『偽りの黒羊』を呑みこんでいった。
そして…。
―相棒!―
「リインフォース!」
「ああ、任せろ!」
高志とリインフォースは魔力の爆心地にいたボロボロのユーリに向かって一気に距離を詰める。
アサキムが今来たら確実に彼女は殺される。
もう、この場で動けるのは自分達のみ。
なのは達の魔力もガス欠。高志と一緒に来たフェイトや未来組も疲労困憊。ここで決めなければ全滅する。
「…っ」
ガァンッ!
「させん!獅子の道は私が守る!」
二人が接近していることに気が付いたのか、ユーリは最後のあがきとして魔力弾を放つ。が、ダメージがあまりにも大きいのか先行していたリインフォースが持つガナリーカーバーに弾かれる。
「出ろ!終末を破壊する鉄槌!」
高志はユーリに向かって急降下しながら、手に持っていたライアット・ジャレンチを投げ捨て強く念じる。いや、祈った。
目の前にいるリインフォースを、そして今も泣きながら助けを求める少女達の『悲しみ』を打ち砕く鉄槌を。
「ピリオド・ブレイカァアアアアアアアアアアアアア!!!」
右手から現れたライトグリーンの光を放つ小さなレンチは、その叫びに応えるかのように巨大化。
一メートルは優に超える巨大なレンチは少女の胸に突き刺さった。
「…あ、ああ」
その瞬間、ユーリは薄れていく意識の中で確かに見た。
『傷だらけの獅子』の許容範囲を超え、マグナモードとピリオド・ブレイカ―の反作用の激痛に苛まれながらも抱きしめてくれた意地っ張りな少年の笑顔。
自分の中にあった『偽りの黒羊』のスフィアが彼の右手に納まっているところを。
そして、黒い影が彼のすぐ後ろに迫っているところを。
彼女、ユーリ・エーベルヴァインは確かに見たのだった。
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第百話 『放浪者』と『スティグマ』 | ||
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コメント | ||
誤字修正しました。ありがとうございます(たかB) ユーリの身体から「偽りの黒羊」のスフィアを抜き取った高志の背後に迫るアサキムに高志が如何対処するのか楽しみですね。後、ユーリの苗字は「エーベルヴァイン」ですよ?(俊) うわ〜続きが超気になる〜!!完全に高志君ヤバいじゃないですか!早く次を読みた〜い!(神薙) |
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