真・恋姫†無双〜絆創公〜 第十六話 【慈愛に満ちて】
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第十六話

 

「い、いきなりそんなこと言われても…………」

 あまりに驚いて立ち上がったものの、どうすればいいか迷っている。

「ホラ、こういうのは思い切って言った方が良いんですよ。別に気の利いた事を言わなくても、想いが伝われば良いんですよ!!」

 自分から振っておきながら、少し無責任なサポートをしている。

「え、ええ、えっと…………」

 かなりの無茶振りと、集まる一同の視線に、キョロキョロ辺りを見回す。

 しかし、誰も救いの手を差し伸べようとはせずに、少し内気な少女の言葉を待っている。

「こ、これから…………よ、宜しくお願いします…………」

 出てきたのは、無難な言葉。

 当たり障りのない言葉。

 だが、顔を真っ赤にして、自分の言葉を必死に伝えようとする少女を、誰も声を上げて笑ったりせずに、しっかりと見つめていた。

「うん、ありがとうございました。想いはちゃんと伝わりましたよ! では、続きまして、その隣に座っています北郷耕作さん、お願いします!!」

 

「ウム…………」

 少しばかり、少女がもたついて座るのを確認して、老人がゆっくりと立ち上がる。

「えー、改めて、祖父の北郷耕作です。手短に……ウチのバカ孫をもっと鍛えてやって下さい」

 その言葉に、数人が幾らか嬉しそうな顔になる。

「あやつがしばらく、この世界にいると聞いて、さぞかし精悍になったかと思いきや、あの体たらく。母親は逞しくなったと言いましたが、まだまだ精進が足りん。どんどん痛めつけてやって下さい!」

 一礼をして挨拶を終えた老人に、心得たと言わんばかりに、あちこちから歓声が上がる。

 様々な思惑の込められた“鍛錬”が、一刀に今後降りかかるであろう…………

「ハハハハハッ! やはり北郷一刀さんは前途多難といった所でしょうか? それでは次、北郷燎一さん、どうぞ!」

 

 老人の次に立ち上がった男性は、少し引きつった笑いをしながら老人が座るのを確認する。

「……お手柔らかにお願いしますよ、お義父さん? えー、父の北郷燎一です。先程はいきなり変な話をして、申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げた男性に、事情を知る人間は、その生真面目さに苦笑する。

「皆さんがこれから対峙する相手は、どのように襲撃してくるか、今は全く判りません。もし、私達が何か力になれるのであれば、持てる知識を総動員して全力を注ぎたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします!!」

 生真面目な彼らしく、真剣な眼差しで話す言葉は、それが十分に伝わってきた。

「はい、ありがとうございました。もちろん、我々も全力を尽くして挑みますよー!! それでは最後に北郷泉美さん、お願いいたします!!」

 

 

 一番最後になる女性はゆっくりと立ち上がり、両手を体の前で軽く重ねて、息子の想い人達の顔を見渡す。

「…………皆さんに一つ、どうしても言いたいことがありました。でも、息子がいる前では、なかなか話せないことでした。ですが、今この場をお借りして、言わせて下さい…………」

 その言葉に、少女達の顔が一瞬強ばった。

 女性の顔つきが、いくらか真剣な表情に変わったからだ。

 もしや、ここにきて何か嫌みを言われるのではないだろうか…………

 しかし、それは杞憂に終わる。

 

 

「息子を……心から愛してくれて…………ありがとうございます…………」

 

 

 予想していなかった感謝の言葉に、全員が少しばかり拍子抜けした。

 そんな彼女達の様子に気付かないまま、泉美は話を続ける。

「息子から聞いているかもしれませんが、私達のいた国は、かなり平和な世界で、命の危険を感じる事なんてほとんどありません…………」

 女性はなおも、真剣な顔つきで話す。

「そんな中、皆さんの世界に息子がやって来ていると、ヤナギさんとアキラさんに聞いた時…………私は最初、誰かに捕まっていて、酷い目に遭わされているんじゃないかって…………お二人はそんな事はありません、と仰ってくれましたが…………私は、そう……思いました」

 そう語る真剣な顔つきが、次には幾らか苦しそうなものに変わり、少し俯いた。

「そして、息子は多くの人に愛されて、元気に暮らしていると聞かされた時も、あまり信じられませんでした…………勝手な話ですが、私達が認識する、皆さんのいるこの世界は、そんな印象を受ける世界なんです…………」

 そこまで話した女性は、伏せていた顔を上げた。

 その顔は、とても穏やかな表情になっていた。

「でも……ここに来て、カズ君の顔を見て、皆さんにお会いして……そして皆さんの、カズ君に対する想いを知って、はっきりと分かりました…………カズ君がどれだけ皆さんを愛しているのか、皆さんがどれだけカズ君を愛してくれているのか…………」

 柔らかく微笑むその瞳から、雫が光りながら一筋の軌跡を描いていた。

「知らなかったとは言え、皆さんを疑ってしまい、申し訳ございませんでした……そして、改めて…………息子を、宜しくお願いいたします…………」

 

 震えた声で、深々と頭を下げた女性に、一同は惜しみない拍手を贈った。

 同じように涙を流しながら、柔らかく微笑みながら、ほんの少しふてくされながらと、様々な顔を見せて…………

「…………いつの時代でも、母の愛は本当に素晴らしいですね…………えー、それでは、まだ北郷一刀さんはお見えになりませんが、これから食事の方に…………」

 

 

 

 

 

 

 

「ちょーーーーーーーっと待ったーーーーーーー!!!!」

 唐突に聞こえてきた、二人分の野太い声に、知る者は顔を引きつらせて、知らない者は狼狽えた。

 

 

 

 

 

−続く−

 

 

 

 

 

説明
今回の話は妙な雰囲気になっていますが、おそらくハートカクテルを見ながらこれを書いたせいだと思われます。我々二人ともタバコは吸えませんし、世代が違いますけどね(苦笑)
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コメント
え?誰だ?(スターダスト)
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