恋姫†無双的 〜ドキッ☆幼女だらけの三国志演義〜 後編
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??「…………。」

 

??「………………。」

 

―――カチャコン!

 

??「……2時…か…。」

 

手探りで探しだした携帯電話を開き、バックライトの眩しさに目を細めながら時間を確認する。

時刻は午前2時12分。起きるには早過ぎる時間だ。

 

??「変な時間に目が覚めちゃったな…。」

 

普段なら夜中に目が覚めることは滅多に無いんだけど、うーん…。

目が覚めてしまったのは仕方ない。

 

??「とりあえずトイレに行って……寝直すか。」

 

そう呟いて携帯電話を元の場所に戻す。

 

―――チリン。

 

携帯に着けているストラップの鈴が鳴った。

 

??「さあ、トイレトイレっと。」

 

……………。

…………………。

 

??「ふぅ。」

 

スッキリした。

おっと、しっかり流さないとな。

 

―――ジャー!ゴポポポ!

 

小気味いい音と共に水が流れていく。

トイレの灯りを消し、布団に戻る。

瞼を閉じると直ぐに意識はまどろみ、俺は眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

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青空だ。

雲。雲はいいよなー。

俺も何も考えずに宙を漂いたいなー。

 

一刀「って、あれ?」

 

いつの間にか寝転んでいた体勢から身体を起こし、周りを見回す。

そこには何処かで見たような荒野が広がっていた。

 

一刀「……なんという既視感。」

 

どうやらまたこの場所に戻ってきてしまったらしい。

となると、またあの性悪姉妹に遭遇する可能性があるな。

 

一刀「愛紗達とはぐれたままだし、とりあえず街を探すか。」

 

流石に二回目ともなると慣れたものである。

 

―――ゲシッ!

 

一刀「あだっ!?」

 

立ち上がろうとすると突然背中に激痛が走った。

 

??「あはは〜!捕まえてごらんなさ〜い!」

 

桃色をした髪の少女が俺を踏んづけ、そのまま走り去っていった。

 

一刀「いたた…。なんだあの娘…は゛!?」

 

―――ゲシッ!

 

再び何かに踏まれた。

 

??「ま〜て〜しぇれ〜ん〜〜!!」

 

雪蓮「うふふ、こっちよ〜!めいりーん!」

 

一刀「………。」

 

俺は無言で立ち上がり、思いっきり踏まれた背中をさする。

先程の桃色の髪の娘を黒髪の娘が追いかけている。

追いかけられている方は無邪気な笑顔を浮かべているけど、

追いかけている方はどう見てもマジギレしている様な…?

 

??「ふふ、相変わらず雪蓮姉さまと冥琳は楽しそうね。」

 

??「…蓮華さま。周瑜殿が追いかけているのは孫策様が周瑜殿の眼鏡に悪戯をしたからですが。」

 

いつの間にか俺の隣に二人の女の子が立っていた。

会話の内容から、どうやら追いかけっこをしている二人と知り合いの様だけど…。

 

蓮華「アレは書物とにらめっこばかりしている冥琳の身体を心配した雪蓮姉さまなりの優しさなのよ。思春。」

 

思春「そうなのですか?私にはそうは思えませんが…。」

 

冥琳「待て〜雪蓮〜ッ!!今日という今日はお前の性根を叩き直してやる〜!!」

 

雪蓮「やだ冥琳ってば、怒った顔も可愛いんだから〜♪」

 

冥琳「なっ!?…そんなこと言ったって許してやら〜ん!!」

 

 

一刀「………。」

 

……雲になりたい。

確かにそんなことを思っていたのだが、ここまで空気扱いだとちょっと泣きそうです。

 

思春「………。(ジロリ)」

 

一刀「………。」

 

そうでもなかった。

思春と呼ばれている女の子に物凄く睨まれていた。

 

蓮華「あの…。」

 

一刀「え?」

 

蓮華「ごめんなさい。雪蓮姉さまと冥琳が迷惑をかけてしまって…。」

 

唐突に話しかけられて驚いてしまった。

この子も追いかけられている子と同様に桃色の綺麗な髪をしている。

姉さまと呼んでいるし、たぶん姉妹かな?

 

一刀「ああ、大丈夫。いきなりだったんで少し驚いただけだから。」

 

蓮華「そう言ってもらえると助かるわ。それで貴方はこんな所で何を?」

 

一刀「えーと…、なんというか…。気づいたら此処に居たというか…?」

 

蓮華「…???」

 

ああ、意味が解らないって顔をしている。

俺だってなんでこんな所にいるのか解らないんだからしょうがない。

とりあえず、なんとか頑張って説明してみた。

 

一刀「…と、言う訳なんだけど。」

 

蓮華「はぁ…。では北郷さんは天から来たのですね。」

 

一刀「あー、結局そうなるのか。」

 

思春「む?」

 

一刀「いや、気にしないでくれ。」

 

どうも此方の人達は理解できないことを天に結びつける傾向にあるようだ。

天から来た訳じゃないけど、とりあえずそういうことにしておいた方が面倒にならずにいいかもな。

 

一刀「それで、(かくかくしかじか)な街が何処にあるか教えて欲しいんだけど…。」

 

蓮華「話から察するに孫呉の街では無い様だから、あちらの方の街へ向かうと良いと思うわ。」

 

蓮華という子はそういうと遠くに山が見える方向を指差した。

 

一刀「ありがとう。んじゃあっちの方に進んでみるよ。」

 

二人の少女に礼を行って、俺は早速山を目指して歩き出した。

 

蓮華「ちょっと待って。」

 

一刀「ん?」

 

蓮華「確かにあちらの方に街があるのだけど、大きな街道に出るまでの道が複雑だから私が案内してあげる。」

 

思春「なっ!?」

 

一刀「そうなの? んじゃ折角だから道案内を頼もうかな?」

 

思春「なりません!蓮華さま!孫呉の姫君である蓮華さまが道案内などと!」

 

蓮華「そうは言っても街へ続く街道へ出るまで一里ほどあるし、分かれ道も多いから案内無しでは迷ってしまうわ。」

 

思春「ダメです!案内なら私が致します故、蓮華さまは孫策さま達と一緒に此処に居てください!」

 

蓮華「思春…。解ったわ。では私の代わりに道案内よろしくね。」

 

思春「はっ!」

 

一刀「………。」

 

えーと、孫呉の姫君?

よく解らないけど、もしかしてこの桃色髪の子ってブルジョワな感じ?

言葉遣いも歳の割にしっかりしてるし、服装とかもやけにゴージャスだもんな。

 

思春「甘寧だ。よろしく頼む。」

 

一刀「あ、ああ…。」

 

呆気にとられながらも思春の言葉に頷く。

さしづめこの子は桃色髪の子の友人兼付き人って感じなのかな?

 

思春「では参りましょうか。北郷殿。」

 

蓮華「二人とも気をつけてね。」

 

手を振って見送ってくれている桃色髪の子。

その後ろで未だに追いかけっこをしている二人を目の端に捉えながら、俺は街道を目指し歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

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一刀「………。」

 

思春「………。」

 

一刀「………。」

 

思春「………。」

 

………き、気まずい!

なにこの重い空気?この子、終始無言だよ。

とりあえず何か話題を…。

 

一刀「やあ、今日は良い天気だね?」

 

思春「………。」

 

一刀「小鳥が囀っているなー?」

 

思春「………。」

 

一刀「あ!あの雲は美味しそうな形をしているなー。」

 

思春「………。」

 

くっ!て、手強い…!!

しかし、ここで諦めたら男が廃る。

いいだろう。俺の本気を見せてやる。

ぶっ放すぜ、乙女心を揺さぶるスカした言葉を!!

 

一刀「心地良い風が吹いてるね。まるで僕達の旅路を祝福しているかの様じゃないか。」

 

思春「………。」

 

一刀「この広い世界で出会えたこと、それは奇跡。ほら、小鳥達もこの出会いを祝福(うた)っているよ。」

 

思春「………。」

 

一刀「………。」

 

どちくしょおおおおおおおおおおお!!!!!!!

聖フランチェスカが誇るポエマーな俺の全力を以てしても通用しないとは!!

おそるべし、ふんどしガール!!

 

思春「……ふん。」

 

一人で苦悩している俺を無視して思春はずんずんと進んでいく。

あんなに急いで歩いて転んだりしないだろうか?

 

―――ガッ!

 

思春「!?」

 

一刀「あっ。」

 

こけた。

いわんこっちゃない。

俺は転んだ思春の元へ駆けより、起き上がらせる。

 

一刀「大丈夫か?」

 

思春「………。」

 

こんな時でも無言か。

歳の割りには我慢強い子なんだな。

 

一刀「どれ、怪我してないか? …あー、膝を擦りむいちゃってるな。」

 

思春「………。」

 

一刀「怪我しても泣かないなんて偉いなー…って、ちょ!?」

 

下向いてるから気付かなかったけど、めっちゃ涙堪えてる!!

よく見たらプルプル震えてるし、これ泣き出す一歩手前じゃねーか!!

ちょ!え?どっどっどっどうする!?

 

一刀「えーと!えーと!!ちょ、ちょっと待ってろよ!」

 

急いで周囲を見回す。

お?あっちに小川があるな。

 

一刀「あっちに小川があるから、傷口を洗いに行こう?ね?」

 

思春「……(コクッ)」

 

思春の手を引いて小川に移動する。

やっぱり女の子なんだな。小さくて可愛い手をしている。

 

一刀「ちょっと沁みるけど我慢してなー。」

 

土で汚れた傷口に水をかけて洗ってやる。

痛そうに顔をしかめる思春。

 

一刀「痛いかー?痛かったら泣いてもいいんだからなー?」

 

思春「………。」

 

ん?上から水が。

…下を向いたままボロボロ泣いてる。

やれやれ、やっぱりまだ子供だな。

 

 

一刀「痛いの我慢して偉いなー。」

 

そう言いながら頭を撫でてやる。

どうもこっちの子は強くあろうとする傾向があるようだ。

まあ、世が世らしいから仕方ないのかな。

 

一刀「これをこーしてと……これでよし。」

 

傷口を洗い、布を巻いただけだけど、とりあえず応急処置としてはこれで十分だろう。

あとは…

 

一刀「し…甘寧、大丈夫か?」

 

思春「…へーき。」

 

うん。とりあえず泣き止んでいるみたいだから大丈夫かな?

一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなったみたいだな。

 

思春「あの…。」

 

一刀「うん?」

 

思春「その……このことは蓮華さまには内緒に…その……。」

 

蓮華さまに内緒?

ああ、そうか。この子は孫呉の姫君に仕えてるんだっけ。

なるほど、今までの態度は忠臣であろうとした結果か。

まったく愛紗といい、この子といい、子供が無理するんじゃないっての。

 

一刀「ああ、もちろん内緒にしておくよ。し‥甘寧と俺の二人だけの秘密な?」

 

思春「…恩に着る。………あと、私のことは思春でいい。」

 

一刀「え?いいの?真名なんだろ?」

 

思春「いい。」

 

…ふむ。

どうやら少しは打ち解けることができた様で良かった。

少し休憩した後、元の道に戻り街道へと進むことにした。

道中、初めの頃からは想像できない程に思春との会話は弾んだ。

孫呉や思春と蓮華の関係、走ってた2人のこと、色々な話をした。

そしてようやく街へ続く大きな街道へと辿り着いた。

 

思春「あとはこの街道を真っ直ぐ進めば大きな街へと辿り着きます。」

 

一刀「ああ、わかった。ここまで案内してくれてありがとうな。」

 

思春「街への道のりはまだまだ長いですが、お気をつけて。」

 

一刀「うん。思春も帰り道大丈夫かい?」

 

思春「…へーき。」

 

うーん、どう見てもちょっと不安そうなんだけど…。

やっぱり蓮華を危険な目に合わせたくなくて無理して案内役を買って出たんだろうな。

さてと、どうしたもんか?

とりあえず何か無いか手探りで探す。

 

―――チリン。

 

一刀「ん?」

 

俺はポケットをまさぐると、何故か入っていた携帯電話を取り出した。

ああ、そうだこれを…。

 

一刀「はい、これあげる。」

 

俺は携帯電話に付いていたストラップを取り外し、思春に手渡した。

 

思春「これ…。」

 

一刀「お守りだよ。ここまで道案内してくれたお礼に思春にあげる。」

 

及川と初詣に行った時に売店で間違って買った交通安全のお守りだけど、

まあ、お守りはお守りだしな。

思春の気休めにでもなればいいんだけど。

 

―――チリン。

 

思春「綺麗な音…。」

 

どうやらお守りに付いている鈴を気に入ったみたいだ。

嬉しそうにニコニコしている。

 

一刀「帰ったらレン…」

 

思春「(ギロリ)」

 

一刀「…孫権ちゃん達にも「ありがとう」と伝えておいてくれ。」

 

思春「解った。」

 

怖ぇ…。孫権ちゃんの真名を呼ぶのはダメなのね…。

触らぬ神に祟りなしだ。

 

思春「じゃあ、私はこれで失礼する。」

 

凛々しい声でそう言い残し、来た道を一人戻る思春。

俺は鈴を耳元で鳴らしながら嬉しそうに歩く思春の後ろ姿を、見えなくなるまで見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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思春と別れてからもうどれ程の時間が経っただろう?

街道をずっと歩いているが、まだ街は見えてこない。

 

一刀「あとどれくらいあるんだ?」

 

歩き疲れてきたせいか、自然と独り言が増える。

やはり見知らぬ場所に1人で居るのは心細いものがあるな。

 

??「きゃああああ!!!!」

 

林に挟まれた街道を進んでいると、突如少女の悲鳴が聞こえてきた。

俺は急いで悲鳴の下へと走った。

 

一刀「どうした!?大丈夫か!?」

 

するとそこには小さな犬にじゃれ付かれている金髪の少女が居た。

 

??「嫌ですわ〜!わたくしを食べても美味しくないですわよ!勘弁してくださいませ〜!」

 

子犬「わんわんッ♪くぅーん♪」

 

一刀「………。」

 

うーん、どう見ても子犬がじゃれてるだけなのだが、女の子は必死で嫌がっている様だ。

見た感じ育ちが良さそうなお嬢様って所だし…、犬が苦手なのかな?

 

一刀「とりあえず…よっと。」

 

子犬「わふ?」

 

女の子から子犬を引き離す。

つぶらな瞳の子犬と目が合った。可愛いなこいつ。

 

一刀「大丈夫だった?怪我としかしてない?って、こらやめろ。顔を舐めるな、くすぐったいって。」

 

子犬「わんわんッ♪」

 

俺の顔をペロペロ舐め回す子犬を胸に抱きかかえる

暫く地面に付していた女の子だったが、よろよろと立ち上がるとお礼を言ってきた。

 

??「何処のどなたか存じませんが、危ない所を助けて頂きありがとうございました。」

 

一刀「ああ、俺は北郷一刀っていうんだけど、えーと…大丈夫だった?」

 

??「はい。わたくしは袁本初、真名は麗羽と申します。一刀さんは命の恩人。わたくしのことは麗羽とお呼びください。」

 

命の恩人って大袈裟な…。

まあ、呼んでいいっていうのだから遠慮無く呼ばせてもらおうか。

 

一刀「それじゃあ麗羽ちゃん?キミはこんな所に一人で何をしていたの?」

 

麗羽「ええ、実はわたくし……」

 

―――ガササッ!

 

麗羽ちゃんが喋り出した瞬間、後ろから物音が聞こえた。

 

一刀「誰だ!?」

 

麗羽「きゃっ!?」

 

俺は咄嗟に後ろを振り返った。

…………。

すると、そこにはまたもや女の子が立っていた。

 

??「…セキト。」

 

セキト?

林の中から現れた女の子は俺の方を見てそう呟いた。

 

一刀「セキト?」

 

??「…(コクッ)」

 

無言で頷く少女。

視線は…俺ではなくその少し下。

先程からずっと抱えている子犬の方を見ていた。

 

一刀「もしかして…この犬、キミの?」

 

??「…(コクッ)」

 

どうやらこの子犬の飼い主らしい。

 

??「……ともだち。」

 

一刀「ん?コイツが?」

 

??「…(コクッ)」

 

なるほど。

この子にとってこの子犬はペットでは無く友達ということか。

ちょっと変わってるけど、良い子みたいだな。

 

??「…???」

 

女の子は俺と麗羽ちゃんを見て首を傾げている。

 

一刀「ああ、実はコイツがこの子にじゃれついて怖がらせちゃったみたいなんだ。

   で、たまたま居合わせた俺が引き離したって訳。」

 

??「………………………。」

 

女の子は俺と麗羽ちゃんと子犬を見比べ、

長い沈黙の後、子犬を俺の腕から取り上げ

 

??「……めっ。」

 

と言った。

子犬は怒られたのがわかったのか、悲しそうに「クゥーン…。」と鳴いた。

そして女の子はそのまま出てきた林の方へ向かい、

 

??「恋、お腹空いた。」

 

一刀「は?」

 

恋 「帰る。」

 

 

それだけ言い残し、女の子は林の中へと消えていった。

 

一刀「一体なんだったんだ…?」

 

実に不思議な少女だった。

悪い子ではないんだろうけど、なんか獣みたいな子だったな。

それはさておき

 

一刀「えーと、麗羽ちゃん?」

 

麗羽「…へ?あ、はい!」

 

一刀「とりあえず一人じゃ危ないだろうから家まで送るよ。」

 

麗羽「いえ、そこまでしてもらう訳には…痛ッ!」

 

一刀「どうした!?大丈夫!?」

 

麗羽「い、いえ、大丈夫ですわ。驚いた時に少し足を挫いただけですから…。」

 

驚いた時…?

ああ、恋?とかいう子が林から出てきた時か。

 

一刀「それなら尚更だよ。家はどっちの方向?」

 

麗羽「あちらですわ…。」

 

一刀「ああ、それなら俺と行く方向は一緒だ。さあ、背中に乗って。」

 

麗羽「え?でも…。」

 

初めは恥ずかしそうに遠慮をしていた麗羽ちゃんだったが、その内諦めたのか、背中に静々とおぶさってきた。

 

麗羽「すみません…。」

 

麗羽ちゃんはそう言うと申し訳なさそうに顔を伏せる。

うーん、小さいのに随分と謙虚な子だなぁ…。

麗羽を背中に背負い、街道を進む。

 

一刀「それで同じ質問になっちゃうけど、麗羽ちゃんはこんな所で何を?」

 

麗羽「それが…わたくしには袁家の当主になる為の風格が足りないとお父様に言われて…。」

 

一刀「袁家?なんか聞いた感じ、凄く偉い家系だったりする?」

 

麗羽「はい。三公を輩出した由緒正しき家柄ですわ。」

 

一刀「へ、へぇ…。」

 

なんかよく解らないけど、スーパーお嬢様ってことらしい。

その割には付き人みたいなのが居ないけど…。

 

麗羽「それで一人で外に出れば何か身につくかと思いまして…。」

 

一刀「ああ、その道中でさっきの子犬に襲われたと。」

 

麗羽「…はい。」

 

なるほどね。早い話が度胸試しって訳か。

子犬にじゃれ付かれて悲鳴をあげるくらい臆病だから、麗羽ちゃんとしては相当な決心だったんだろうな。

 

麗羽「一刀さん、やっぱりわたくしには当主なんて無理なんでしょうか…?」

 

一刀「え?いや、そんなことないと思うよ。」

 

麗羽「そうでしょうか…。」

 

俺の背中でシュンっとうな垂れる麗羽ちゃん。

うーん、凹んでるなー。

まあ、無理もないか。ここは俺がひと肌脱いであげよう!

 

一刀「よし!んじゃ俺が麗羽ちゃんを一人前のお嬢様にしてあげよう!」

 

麗羽「一人前に…。本当ですの?」

 

一刀「ああ、もちろん。」

 

麗羽「ありがとうございますですわ!」

 

うんうん、どうやら少し元気になったみたいだな。

とは言ったものの、さて、どうしたものか…。

俺も高貴な家柄の作法なんて知らないしなぁ…。

 

麗羽「それでまずは何をすればいいんですの?」

 

一刀「ま、まずはね〜…。そ、そう!麗羽ちゃんは大人し過ぎる!

   やはり人の上に立つ者としてはもう少し傲慢な感じじゃないとね。」

 

麗羽「はぁ…。傲慢ですの…?具体的にはどうすればよろしいの?」」

 

一刀「え、えーと…。」

 

お嬢様…お嬢様だろ…?

やっぱり我侭で自己中心的で…。

あとは、こう腰に手を当てて「おーっほっほっほ!」とか言ってるイメージしかないな。

……………。

 

一刀「う、うむ。ではまずは「おーっほっほっほ!」と言ってみようか。」

 

麗羽「「おーっほっほっほ!」…ですの?」

 

 

一刀「うん。やってみよう。」

 

麗羽「は、はい!おーっほっほっほ…?」

 

一刀「照れがある!もう一回!」

 

麗羽「おーっほっほっほっほ!!」

 

一刀「お?良い感じだ!もっと高らかに!!」

 

麗羽「おーっほっほっほっほっほ!!!! …一刀さん!わたくし少し楽しくなってきましたわ!」

 

一刀「そうだ!もっと我侭に傲慢に!自分を中心に世界が回っていると思って!!」

 

麗羽「おーっほっほっほっほっほっほ!!!!!!!!!」

 

一刀「それだぁぁあああああ!!!!その感じを忘れるな、麗羽ちゃん!」

 

麗羽「こ、この感じですの…?これが…風格ですのね……ッ!!!!」

 

一刀「うむ。あとはそのまま我侭に自分勝手に振舞っていけば良い。」

 

なんか大幅に間違っている様な気がしないでもないけど、本人も喜んでいるみたいだし。

少なくとも消極的よりは良いだろう。うん。

 

麗羽「一刀さん…!命ばかりか当主の風格まで教えて頂けるなんて…!!」

 

一刀「うん。……あれ?」

 

当主の…風格…?

あれ?お嬢様のノウハウじゃなかったっけ…?

なんだろう?なにか取り返しのつかないことをしてしまった気が…。

 

一刀「あの、麗羽ちゃん…?」

 

麗羽「あ!一刀さん、あそこがわたくしの屋敷ですわ!」

 

どうやら風格あるお嬢様の訓練をしている内に麗羽ちゃんの屋敷に着いたらしい。

…まあ、人間そんな簡単に変われるほど単純じゃないし、大丈夫だろう。

それにしても本当にでかい屋敷だなぁ…。流石なんとかの袁家。

 

一刀「そっか。んじゃ、俺は此処で失礼するよ。」

 

麗羽「そんな…。まだお礼もしていませんのに…。」

 

一刀「いや、大したことはしていないしね。それに早く街へ行かなくちゃいけないんだ。」

 

麗羽「そういえば聞いていませんでしたけれど、街へは何をしに?」

 

一刀「前に一緒に旅をしていた子が居たんだけど、街ではぐれちゃってね。

   とりあえず、その子を探してるんだ。」

 

麗羽「そうなんですの…。きっと大切な方なんですのね。」

 

一刀「ああ。」

 

麗羽「解りました。一刀さんとその方が無事に会える様に願っておりますわ。」

 

名残惜しそうにする麗羽ちゃんと別れ、俺は一人街の方へと歩き出した。

麗羽ちゃんが言うには、ここから街までは近いようなので運が良ければ直ぐにあの子達と合流できるだろう。

急に居なくなってしまったからな。心配して泣いてなきゃいいんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

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麗羽を無事に家に送り届けた俺はその足で街へと向かった。

街は思った以上に大きく、そして賑わっていた。

 

一刀「賑やかなのはいいんだけど…。」

 

俺は辺りを見回し、ため息をついた。

まったく見覚えがない上に広い、広すぎる。

 

一刀「愛紗達とはぐれた街とはどうも違うっぽいな。」

 

そう、どう考えても以前に見た街よりも大きい。

俺は同じ荒野に投げ出されたのかと思っていたけど、別の場所だったみたいだな。

それとも道を途中で間違えてしまったのだろうか?

第一あれからどれくらいの時間が経ったかすら解らない。

 

一刀「うーん…。」

 

さて、困ったぞ。

特に行く宛ても無いし、ついでに言えば金も無い。

 

一刀「考えてても仕方ない。とりあえず手当たり次第聞いてみて回るか。」

 

よし、そうと決まれば早速行動だ。

……………。

……………………。

…………………………………。

 

一刀「やれやれ…。」

 

ダメ元で手当たり次第に愛紗達を見かけなかったか訪ねてみたが、

誰もそれっぽい子を見ていないらしい。

 

一刀「収穫はこれだけか…。(パクッ、むぐむぐ…。)」

 

気前の良い店のおばちゃんがくれた桃まんにかぶり付く。

流石に一つじゃ足りないけど、ずっと歩き通しで何も食べていなかったから有難かった。

 

一刀「さて、これからどうするかなぁ…?」

 

何度目かになるため息をついた時、目の前の建物から沢山の子供たちが出てくるのが目に入った。

どうやら私塾?という場所らしい。まあ、学校みたいなものかな?

 

少年「あー、腹減った。おい屋台で何か食ってこーぜ。」

 

少女「おいおい、さっきお菓子食べてなかったか?お前。」

 

少年「いいじゃんかよ。なぁ行こうぜー。」

 

仲の良さそうな子供たちである。

暫く眺めていると突然子供たちが左右に別れ始めた。

 

一刀「なんだ?」

 

??「ちょっとアナタ達、邪魔よ。そこをどきなしゃい。」

 

 

なんか偉いちっこいのが出てきた。

口にはまだおしゃぶりみたいなのを咥えている。

他の子と比べると随分と幼く見えるけど…。

 

??「そこのぶちゃいくなおじさん。なに勝手に見ているのかちら?」

 

一刀「へ?お、俺!?」

 

??「そうよ。ぶちゃいくが貴方以外に居て?」

 

拝啓、お父さんお母さん。

僕はいま見知らぬ街でおしゃぶりを咥えた幼女にブサイク呼ばわりされています。

しかもまだ高校生だと言うのにおじさんとまで言われております。

空は青く、青く、青く、どこまでも青く。

正に今の僕の心情を表しているかの様な青さです。そして…

 

??「…ちょっと聞いているのかちら?」

 

一刀「え?ああ、ごめん。ぼーっとしてた。」

 

??「…このそーもーとくを無視するとは良い度胸ね。」

 

なんかよく解らないけど、この幼女はご立腹の様だ。

どうしたもんかと思っていると先程の子供が後ろから耳打ちしてきた。

 

少女「そいつは曹操って言って、宦官の孫なんだよ。」

 

一刀「曹操?」

 

少女「相手にすると厄介だから、とりあえず謝って逃げた方がいいぞ。」

 

一刀「謝る…?」

 

マジで?この幼女に?

確かになんか物凄く偉そうなオーラが出てるから関わらない方がいいのは解るんだけど…。

だからってこんな子供に頭を下げるのは男としてプライドってもんがだね。

 

少女「下手すると首刎ねられるぞ?」

 

一刀「お嬢さん、すみませんでした。」

 

謝った。

 

曹操「あら?自らの愚行を理解ちたようね?」

 

一刀「はぁ…。」

 

曹操「いいわ。許ちてあげる。今度から道を歩く時はぶちゃいくな顔を見せぬよう、隅を歩くのね。」

 

フン!っと鼻を鳴らしながら幼女は去っていった。

歩く後ろ姿もなんかとても偉そうである。

ガキンチョの頃からあんなだと大人になった時とかどうなるんだろうな…。

うぅ…ブルブル!

 

一刀「余計なことを考えるのはよそう。」

 

過ぎたことは気にしないでおこう。

そんなことよりも

 

一刀「助言してくれてありがとうな。」

 

後ろから助けてくれた女の子に礼を言う。

 

少女「ああ、気にしないでくれ。アイツも悪い奴じゃないんだけどな。」

 

一刀「にしてもひねくれ過ぎだろう。」

 

少女「アハハ、確かに。アイツが気を許しているのは麗羽くらいのもんだからな。」

 

麗羽ちゃん?ああ、そうか。

麗羽ちゃんの家はこの街の近くだしな。

あの子も此処で勉強していても不思議じゃないか。

 

少年「おーい、もう行こうぜ―。」

 

少女「わかってるよ!…じゃ、私はこれで。」

 

一刀「ああ、色々ありがとうな。」

 

屋台へ向かう子供達を見送って、ふと気づいた。

 

一刀「そういえば本屋とかもあるんだろうか?」

 

子供達が勉強する場所があるんだ。

本屋的なものがあったとしても不思議じゃない。

もしかしたら地図みたいなものもあるかもしれないな。

 

一刀「とりあえず探してみるか。」

 

心機一転。

俺は本屋を探すことにした。

 

一刀「よっしゃ。片っ端からいくか…!」

 

…………。

 

一刀「って、目の前にあるじゃん!?」

 

本屋は目の前にあった。

私塾の建物の向かい側。

つまりさっき俺が桃まんパクついてた場所だ。

 

一刀「灯台下暗しってやつか…。」

 

まあ、なんにせよ早く見つかるのは良い事だ。

歩き回って無駄に体力使うのもなんだしな

別に出鼻をくじかれたなんて思ってないぞ?ホントだぞ?。

 

一刀「ごめんくださーい。ちょっと見せてもらっていいですかー?」

 

店主「あいよー。自由に見てってくんな。」

 

なかなか気さくそうなオッサンだ。

俺は遠慮無く店内を見させてもらった。

……………。

暫く店内を見て回って、重要なことに気づいた。

 

一刀「なんて書いてあるのか、さっぱりわからん…。」

 

そう。文字が読めなかったのだ。

なんだろ?この漢字の様なそうじゃない様な文字は…。

 

一刀「どうすりゃいいんだ…?」

 

??「お兄さん、どうしたんですか〜?」

 

一刀「へ?」

 

声の方へ振り返ると、女の子が俺を見上げていた。

眼鏡を掛けてのほほんとした感じの子だが…。

だが!その幼い顔からは想像できない程の巨乳だった!

その姿はロリ巨乳と呼ぶに相応しい!おそるべし…!!おそるべし…ッ!!

 

??「お兄さん?」

 

一刀「え?ああ。実は地図を探してたんだけど、文字が読めなくってね…。」

 

??「あらま〜…。文字が読めないのでは本屋に来ても意味が無いと思いますけど〜。」

 

一刀「うぐっ。ま、まあ、そうなんだけどね…。」

 

痛い所を付く子だな。

しかも喋り方が独特でなんか変な雰囲気に飲み込まれる。

 

??「それに地図は貴重ですので〜、こういう場所では詳細な地図は無いと思いますよ〜?」

 

一刀「そうなの?」

 

??「はい〜。」

 

なんてこった…。

今日日コンビニでも地図くらいおいてあるというのに…。

 

一刀「まいったな…。これじゃあの街の場所がわからない…。」

 

??「街?もしかしてお探しの街への行き方が解ればいいんですか〜?」

 

一刀「え?ああ、そうだけど…。」

 

??「それだったら大丈夫ですよ〜。私が代わりに行き方を調べて差し上げます〜。」

 

一刀「いいの?助かるよ! あ、俺は北郷一刀っていうんだけど。」

 

??「私は陸遜と言います〜。」

 

一刀「陸遜ちゃんね。悪いけど、街への行き方を調べるの、お願いできるかな?」

 

陸遜「は〜い。」

 

ふぅ…。一時はどうなることかと思ったけど、

陸遜ちゃんのおかげでなんとかなりそうだな。

 

陸遜「それで〜、なんていう街へ行きたいんですか〜?」

 

一刀「え?えーと…。」

 

なんていう街だっけ?

しまった…。街の名前がわからない。

 

一刀「ごめん、名前わからないや…。」

 

陸遜「えー?街の名前が解らないと調べようがありませんよ〜。」

 

一刀「だよね…。」

 

街の名前はおろか、行く道も、行く方角も解らない。

これではどうにもならない。

残念だけど、万事休すか…?

 

陸遜「何か手掛かりの様なものは…?例えば街の名物とか領主の名前とか。」

 

一刀「うーん、そこの領主の名前は解らないんだけど、領主の家の子どもが馬超と名乗っていたかな…。」

 

陸遜「馬超さんですか〜。う〜ん、馬、馬、馬〜……。」

 

陸遜ちゃんはぶつぶつ呟きながら本を手に取る。

やっぱりそれだけじゃ解らないよなぁ…。

 

 

陸遜「他には〜何かありませんか〜?ん…っ、例えば近くに川があるとか〜?」

 

川か…。そういえば愛紗と会った場所は川だったな。

その後に紫苑と出会って…。

 

一刀「そういや途中で水鏡さんって人に出会って、川沿いの道を歩いて街まで行ったんだっけ。」

 

陸遜「水鏡…もしかしてっうんっ…司馬徽っていう人っ…ですかぁ〜…?ふ…っんっ。」

 

一刀「綺麗なご婦人だったけど、もしかして有名な人なの?」

 

陸遜「人物鑑定家としてですけど〜…んっ、そこそこ有名ですね〜っあはぁ…!」

 

一刀「そうなんだ。」

 

って、なんかさっきから陸遜ちゃんの様子がおかしいんですけど…。

顔が赤いし、妙に艶があるし、足を擦り合わせてるし。

 

一刀「もしかして具合悪かったり…する?」

 

陸遜「あ〜お気になさらず〜。あんっ♪本の素晴らしい魅力に少々興奮してるだけですから〜♪」

 

一刀「そ、そう…。」

 

本の魅力に興奮って、どんな性癖だよ?

絶対になんかおかしいよ、この子!!

 

陸遜「それでお兄さん〜。この本にですね〜あはぁ♪おそらくお兄さんの求めている街への情報が…あんっ!」

 

一刀「え!?マジで!?」

 

相変わらずくねくねしている陸遜から本を取ろうとしたら、

もの凄い勢いで腕にしがみつかれた。

 

陸遜「だ、だめぇ!!(本に)触らないで〜!!」

 

一刀「うわっ!ちょっと!!」

 

おい!なんていう声を出すんだ!?

誰かに見られたら誤解されるだろうが!!

 

一刀「わ、わかった!本には触らないから!だから静かにしてくれよ!」

 

陸遜「あぁん解りましたぁ〜。約束ですよ〜。」

 

ふぅ…。誰にも見られなかっただろうな…?

とりあえず周りを見回して…っと。

うん、大丈夫そうだな。

 

一刀「それで街の場所は解ったの?」

 

陸遜「はい〜。司馬徽さんはこの辺りに住んでいるそうなので、そこから川沿いに進んで馬という名前の領主を探せば…。」

 

一刀「ふむふむ?」

 

陸遜「おそらく此処ですね〜。」

 

トントンっと本に描かれた簡略な地図を指差す。

なるほど、確かにこれは地図というよりは落書きみたいなもんだな。

 

一刀「この街からだと、どう進めばいいのかな?」

 

陸遜「えっと、この本屋の前の道をアチラにずっと進んだ所にある門を抜けて、街道沿いに進めば恐らく辿り着くと思いますよ〜。」

 

一刀「門を出て、街道沿いに行けばいいのか。」

 

陸遜「はい〜。正確な地図は持ってないから断言はできませんが、方角は合っていますから大丈夫ですよ〜。」

 

この地図には細かい道とか描かれてないもんな。

だけど、進む方角だけでも解ればなんとかなるか。

 

一刀「そっか、ありがとうな。陸遜ちゃん。」

 

陸遜「いえいえ〜。私も素晴らしい本との語らいは楽しかったですので〜♪」

 

一刀「そ、そうか…。」

 

語らいってアレのことだよな。たぶん…。

またエロス時空に巻き込まれる前にさっさと出発した方がいいな。

誰かに見られでもしたら下手すりゃ逮捕されちまうかもしれない。

 

一刀「んじゃ、何もお礼できなくて申し訳ないけど、俺は行くよ。」

 

陸遜「気をつけてくださいね〜。」

 

一刀「ありがとう。」

 

こうして俺は本屋を後にした。

本屋から出る時に店主のオッサンに変な目で見られたけど仕方ない。

えーと、まずはこの道を進んで門を抜けるんだったな。

 

一刀「よーし、出発だー!」

 

無事に行き先が決まった俺は軽い足取りで旅を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

…………………。

そんな一刀と陸遜のやりとりを本棚の陰からずっと見ている幼女が居た。

 

??「あんなちっちゃな女の子を働かせたあげく、手をだすなんて…ッ!!

   男って、なんてずるくてばっちぃのかしら!!死ねばいいのに!!

   決めた。わたしは一生男なんて愛さないんだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

-6ページ-

一刀「う〜ん。随分歩いたなぁ…。」

 

街を出発してから一日が過ぎた。

途中で野宿をし、近くの川で顔を洗い、木になっていたビワを食べて飢えを凌ぐ。

 

一刀「紫苑の様に魚が捕れりゃなぁ…。」

 

思わず愚痴を漏らしつつもビワをパクつきながら歩く。

すると、後ろから追い越してきた陽気な少女に声をかけられた。

 

??「兄さん、美味そうなもの食っとんなー。」

 

一刀「ん?ビワのこと?」

 

??「せやせや♪ウチずっと走ってきたから腹減ってんねん。」

 

どうやら俺の手にあるビワが目当ての様だ。

この先、いつ食料を入手できるか解らないので多目に採ってきているし、少し分けてあげよう。

 

一刀「食べる?」

 

??「ええの!?ありがとぉー。」

 

少女はビワを受け取ると凄い勢いで食べだした。

本当にお腹が空いていたんだな。

 

??「はーっ、食った食った。兄ちゃんあんがとな。」

 

一刀「どういたしまして。」

 

そんな風に満足そうな顔でお礼を言われると、分けてあげて正解だったと思えるな。

よく見りゃとっても可愛い子だし。

 

一刀「それで、君はこんな所で何をしているの?お使いの帰りかなにか?」

 

張遼「あん?ウチは君やないで。張遼や。」

 

一刀「ああ、ごめん。張遼ちゃんね。」

 

張遼「せや。別にお使いしてた訳やないで。武者修行しててん。」

 

一刀「え?張遼ちゃんも?」

 

なんだここは?子供が武者修行するのが流行ってるのか?

俺が子供の頃は毎日の様に遊びに行ってたけどなぁ…。

 

張遼「ウチも…ってことは他にも誰か武者修行してんの?」

 

一刀「あ〜、え〜っと……」

 

俺は張遼に愛紗達のことを説明した。

 

一刀「…という訳なんだよ。」

 

張遼「ほっほー。なるほどなぁ〜。兄さんはその関羽っていう武人を探してるって訳やな?」

 

一刀「うん。まあ、そうなんだけど…武人?」

 

張遼「その関羽ってのも武者修行しとるんやろ?」

 

一刀「そう言ってたね。」

 

張遼「ならウチと同じ武人を目指してるっちゅう訳や。」

 

一刀「そう…なのかな…?」

 

確かに修行してるとは言ってたけど、武人かぁ…。

あの愛紗が武人になってる姿を想像できない。

それどころか、今頃寂しくなって泣いてやしないだろうか。

ああ、不安になってきた…!

 

張遼「うーし、ほんならこうしよ。」

 

一刀「ん?」

 

張遼「ウチと勝負して兄さんが勝ったら関羽を探すの手伝ったるわ!」

 

一刀「えぇ!?勝負!?」

 

なんでいきなり勝負!?

っていうか、俺が勝ったら愛紗を探すの手伝うって、この子俺について来る気か?

 

張遼「せや!食後の運動にいっちょやろうやないか!」

 

一刀「ちょ、ちょっと待ってくれ。」

 

勝負ったって、こんな女の子相手に本気なんか出せる訳ないだろう。

でもなんかやる気になっちゃってるからなぁ…。

うまい具合に話の流れを変えないとまずいな。

 

張遼「なんや?」

 

一刀「勝負は分かったけど、張遼ちゃんは武人。俺は普通の人。普通に戦っても勝負にならないと思うな〜。」

 

張遼「そんなんやってみないと解からへん。」

 

一刀「だから、勝負方法に提案があります!」

 

張遼「おお?なんや?」

 

一刀「ジャンケンで決めないか?」

 

張遼「じゃんけん?」

 

ああ、ジャンケン知らないのか。

俺は張遼ちゃんにジャンケンのルールを説明した。

 

張遼「それやと運の要素が大きいやん。」

 

一刀「んじゃ、あっち向いてホイとかは?」

 

張遼「なにそれ?」

 

今度はあっち向いてホイの説明をする。

 

一刀「…という訳で、駆け引きと瞬発力と判断力が試される高度な勝負なんだ。」

 

張遼「なるほど。それやったらええで。」

 

どうやら納得してくれた様だ。

これで後は俺が負けるだけだな。

 

一刀「それじゃいくぞ?じゃんけんポン!」

 

張遼「あっち向いてホイ!」

 

一刀「うぐっ!」

 

しまった!つい避けてしまった!

上手く負けるつもりだったのに。

 

張遼「やるやん兄さん。んじゃもういっちょ行くで!」

 

一刀「じゃん!」

 

張遼「けん!」

 

一刀「ポン!」

 

張遼「あっち向いて…ホイ!!」

 

一刀「だぁ!」

 

くそぉ!しまった!!

また避けてしまった!!

 

張遼「くぅ〜!やるな兄さん!!ウチも燃えてきたでぇ!!」

 

一刀「ははは、まあね!」

 

張遼「ほないくで?じゃーんけんポン!」

 

一刀「あっち向いてホイ!!」

 

張遼「あ゛!!」

 

一刀「あ…。」

 

勝っちゃった…。

なんてこったい。

 

張遼「ぬぁ〜〜!!しもたぁ〜〜!!つい釣られてもうた!!」

 

一刀「えーと…、今の無しでもう一回やる?」

 

張遼「何言うてんねん!一度やった勝負を無かったことになんか出来るかい!…ウチの負けや。」

 

一刀「そう…。」

 

意外と潔い子だなぁ…。

流石は武人を目指すだけはある。

けど、ついて来られるのはそれはそれで困るんだけど…。

 

張遼「っちゅう訳でウチも一緒に行ったるわ。」

 

一刀「ああ、やっぱり…。」

 

張遼「そういう約束やしな。それに関羽ってヤツとも戦ってみたいし。」

 

一刀「戦う?愛紗と?」

 

張遼「おう!武人として決闘を申し込むねん。」

 

一刀「えぇ!?」

 

決闘って、決闘だよな…?

俺に付いて来たがっているのはそれが目的か。

この子と愛紗が決闘…。

まあ、愛紗が泣いたら止めればいいか。

 

一刀「分かった。んじゃ一緒に行こうか。」

 

張遼「なら決まりやな。ウチの真名は霞。霞って呼んでええよ。」

 

一刀「よろしく、霞。」

 

こうしてまた変な子供が旅の仲間に加わった。

 

 

 

 

 

 

 

-7ページ-

霞と共に街を目指し、山道を歩く。

1人で武者修行をするくらいだから色々と頼りになるかと思ったらそうでもなかった。

 

一刀「魚の捕り方が解らないって、今まで霞は食料どうしてたんだ?」

 

霞 「んー、道行く人にちょっとなー。」

 

一刀「道行く人?」

 

霞 「お腹空いててん。なんかちょーだい♪ってな感じで。」

 

一刀「…それはたかりと言うんじゃないかな?」

 

なるほど。俺に声をかけてきた時の様に手当たり次第に声をかけて食料を頂いてたのか。

一歩間違えたら山賊と変わらないなぁ…。

 

霞 「だって魚を捕ると矛が臭なりそうやん?」

 

一刀「臭くなるのが嫌ってだけかよ!」

 

霞 「なに?関羽は魚捕るのが上手かったん?」

 

一刀「いや、魚を捕ってたのは主に紫苑っていう子だったな。俺と愛紗は焚き木とか木の実を集めてた。」

 

そういえば紫苑はどうしたんだろうか?

他の2人と一緒に居てくれるといいんだけど…。

いや、やっぱりそうでもないか?

紫苑自体があまり教育によろしくなかったからなぁ…。

 

霞 「なんや、関羽も別に魚捕れた訳やないやん。ならウチも捕れなくてええわ。」

 

一刀「ああ、そう…。」

 

どうやら霞は愛紗に対抗意識を燃やしているようだ。

まあ、歳も近いし、自分と同じような境遇だからなんだろうけど。

そんなことを考えていたら、霞が突然走りだした。

 

一刀「霞?どうしたんだ?」

 

霞 「前になんや2人連れの女がおんねん。ちょっと食料分けてもろてくるわー!」

 

一刀「ちょ!霞それはダメだって!!」

 

慌てて霞を追いかける。

くっ!流石は鍛えているだけはあって足が速い。

 

霞 「なー、ウチ腹減ってん。なんか分けてくれへん?」

 

??「な、なによアンタ!?盗賊!?」

 

??「へぅぅ…。詠ちゃん、それは失礼だよぅ…。」

 

詠 「だって月、いきなりたかりに来てるのよ?これが盗賊でなくてなんなのよ?」

 

月 「へぅぅ…。お腹が空いてるだけ…かも…。。」

 

くっ、早速あらぬ誤解を受けている。

話がこじれる前になんとかしなくちゃ!

 

霞 「ケチケチせんとちょっとくらいええやん。いっぱい持っとんのやろ?」

 

一刀「ストォーップ!!」

 

霞 「あん?」

 

詠 「すとおぷ?」

 

月 「…?」

 

ああ、そうか。

英語は伝わらないんだっけか。

 

一刀「ちょっと待った。霞、突然そんなこと言ったらこの子達が困っちゃうだろ?」

 

霞 「ウチは別になんも悪うことしてないやん。」

 

詠 「してるじゃないの。立派な盗賊行為よ。」

 

月 「詠ちゃん…。」

 

一刀「えーと、2人共この子が迷惑かけてごめんね。実は俺たち旅の途中で食料が無くなっちゃってさ。

   それで困ってたっていうか…。無理やり奪うとかそういうつもりじゃないから安心して。」

 

俺は霞が絡んでしまった2人に謝罪をして、訳を話した。

眼鏡の子は最初不服そうにしていたが、白くて可愛らしい方の子がたしなめると渋々ではあるが納得してくれた様だ。

 

月 「やっぱり…お腹が空いてただけ…なんですね。」

 

一刀「うん。驚かせてしまって本当にごめんね。」

 

月 「(ふるふるふる)」

 

俺が謝ると首をふるふると振る女の子。

なんか小動物みたいで可愛いな。

 

月 「へぅぅ…。大丈夫です。それで食べ物なんですが…」

 

詠 「ちょっと月!分けてあげられる程、ボク達も余裕なんてないからね?」

 

月 「へぅぅ…。で、でも、詠ちゃん。」

 

詠 「ダメったらダメ!道中何が出るか解らないんだから安全な道を行く為には食料を無駄になんて出来ないわよ。」

 

どうやら危険な道を避け、遠回りをして安全な道を進むつもりらしい。

旅に確実はないから、食料がどれくらい必要になるか解らないもんな。

なるべく無駄にしないのにこしたことはない。眼鏡の子の言い分も尤もだ。

 

霞 「ほんならウチが用心棒になったろか?」

 

月 「へぅ?」

 

詠 「用心棒〜?アンタが?」

 

突然、用心棒になると言い出した霞を怪訝そうに見る2人。

そんな2人をよそに霞は自信満々に笑っている。

 

霞 「せや。自慢やないけど、熊1頭くらいならなんとかなるで。」

 

そうそう。熊くらいならなんとでも…って

 

一刀「熊ぁ!?」

 

詠 「わぁ!ビックリした!」

 

熊って、熊だよな?

え?熊倒せるのこの子?

 

月 「すごい、熊を倒せるの…?」

 

霞 「おう。前に一度倒したことがあってん。」

 

詠 「ホントに〜?嘘じゃないでしょうね?」

 

霞 「嘘やない。まあ何頭もおったら危ないけど、一頭くらいなら倒せるで。」

 

詠 「ふ〜ん。」

 

あ、めちゃめちゃ怪しんでる。

まあ、それもそうだよな。熊を倒せるなんてちょっと信じられないもんな。

 

詠 「まあ、いいわ。それで手を打とうじゃないの。」

 

月 「え?詠ちゃんいいの…?」

 

詠 「仕方ないじゃない。予定より帰る日が遅くなっちゃってるんだし。

   あまり遅くなると皆が心配するからね。」

 

月 「へぅぅ…。詠ちゃん、ごめんね。私が…忘れ物したせいで…。」

 

詠 「ううん。いいのよ月。月は悪くないんだから。」

 

霞 「ほんなら決まりやな。ウチと兄さんで2人の護衛をしたる。」

 

一刀「え?俺も!?」

 

ちょっと待て。俺は熊なんか倒せないぞ!

 

霞 「当たり前やん。ウチに勝った男なんやし、熊くらいこうドーンとやな。」

 

一刀「それあっちむいてホイの話じゃん…。」

 

熊とあっち向いてホイをしろとでも言うのか?

最初のジャンケンの段階で有無を言わさずパーで負けるわ!

 

月 「へぅぅ…。あの、お兄さん。月と言います。よろしく…お願いします…。」

 

ペコリと頭を下げてお辞儀する女の子。

可愛いなー。やっぱり女の子はおしとやかな方がいいな。

 

―――ズンッ!

 

一刀「あぎゃ!?」

 

突然足に激痛が走る。

よく見たら眼鏡の子が思いっきり俺の足を踏んでいた。

 

詠 「ボクは賈駆よ。それと月のことは董卓と呼びなさい。真名で呼んだら殺すからね。」

 

一刀「いだだだだ!わかったってば!」

 

うぅ、足がジンジンする…。

なんかよく解らないけど、俺はこの子に嫌われているみたいだな。

 

霞 「月と詠か。ウチは霞、ほんでこっちの兄さんは…一刀やったっけ?まあ、よろしゅう頼むわ。」

 

詠 「ちょっとアンタ!」

 

月 「詠ちゃん、いいの。霞ちゃんには…真名を預けてもらってるから…。」

 

詠 「うぐ…。ま、まあアンタ…霞は許すわ。」

 

どうやら俺は許してもらえないらしい。

別にいいけどね。

…く、悔しくなんてないんだからね!

 

月 「へぅ…。それじゃご飯…食べたら、出発しようね。」

 

霞 「さんせー♪」

 

詠 「アンタはもうちょっと遠慮しなさいよ。」

 

やれやれ。どうやらまた道連れが増えたらしい。

流石に子供が3人になると賑やかになるな。

ギャーギャーと言い争う霞と詠を横目に見つつ、俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

-8ページ-

一刀「へぇ、んじゃ董卓ちゃん達もあの街からの帰りだったのか。」

 

あれから1時間ほど経った頃、董卓ちゃん達と普通に話せる程度には打ち解けていた。

まあ、俺と董卓ちゃんの間には賈駆ちゃんがガッチリ割り込んでいるけど。

 

月 「へぅ…。元々私の用事だったんですけど…、詠ちゃんが付いて来てくれて…。」

 

詠 「月を1人でなんて行かせられないわよ。誰に何をされるか解ったもんじゃないんだから。」

 

そう言いながら俺の方をジロリと睨む賈駆ちゃん。

信用無いなぁ…。

まあ、確かに董卓ちゃんは如何にも引っ込み思案のお嬢様って感じだからな。

過保護になる気持ちはわからんでもない。

 

霞 「せやかて、そんなん詠が居ても一緒なんちゃう?」

 

霞が口を挟む。

いくらシッカリしていると言っても賈駆ちゃんも女の子だしな。

盗賊なんかに襲われでもしたらひとたまりも無いだろう。

 

詠 「だから危なくない様に安全な道を選んでたのよ。」

 

月 「詠ちゃんは…物知りなんです。」

 

まるで自分のことの様に嬉しそうに話す董卓ちゃん。

本当に仲が良いんだなぁ…。

 

霞 「そーか。ほんなら次はどっちに進めばいいんや?」

 

一刀「このまま川沿いに森を通る道と、森を迂回する道だな。」

 

月 「へぅぅ…。お兄さん達はどっちに…行くつもりだったの…?」

 

一刀「俺?とりあえず川沿いに進むつもりでいたけど…。」

 

詠 「本来ボク達が進もうとしていたのは森を迂回する道だけど、

   アンタ達が護衛をしてくれるっていうし、森を進む道を行くわ。」

 

一刀「迂回するつもりだったってことは、森は危険なのか?」

 

詠 「森には野生動物が出るからね。万が一を考えて迂回するつもりだったのよ。」

 

一刀「なるほど。万が一の時は俺が君達を護ればいいんだな?」

 

詠 「そういうこと。頼りにしてるわよ。」

 

霞 「任せときぃ!」

 

月 「で、でも…危なくなったら…逃げてください…。」

 

一刀「ありがとう董卓ちゃん。」

 

うぅ…、本当に良い子だなぁ…。

まあ、熊は大きな音を出せば近づいて来ないって聞くし、大丈夫だよな?

あれ?でもここ中国っぽいし、虎とかも出たりするのか?

…………。

よ、よし!深く考えないようにしよう!

俺は熊や虎が出てこないことを祈りつつ、森の中へと足を踏み入れた。

 

一刀「随分と進んだなー。董卓ちゃん足は大丈夫かい?」

 

月 「へぅ…。だいじょぶです…。」

 

詠 「なに月の足に見とれてるのよ。」

 

一刀「なっ!?足場が悪いから痛めてないか心配しただけだって!」

 

詠 「はいはい。そういうことにしておいてあげるわよ。」

 

本当に心配しただけなのに…。

ああ、でも董卓ちゃん白くて綺麗な足をしているな。

これは大人になったらさぞかし美人になるだろう。

 

詠 「なにニヤニヤしてんのよ。気持ち悪い。」

 

どうやら顔に出ていたらしい。

いかんいかん。気をつけねば。

 

霞 「それにしても何も出んなぁ?」

 

月 「沢山居るから…熊さんも…出てこないのかな…?」

 

一刀「何も出ないならその方がいいだろ。」

 

??「フゴッ!フゴッ!」

 

耳に息を吹きかけられる。

また董卓ちゃんと話しているのが気に入らないのか。

 

一刀「…なに?賈駆ちゃん。」

 

詠 「はぁ?ボク別に何も言ってないわよ?」

 

??「フゴッ!フゴッ!」

 

一刀「んじゃ、さっきから耳元で唸っているのは…?」

 

嫌な予感を感じつつも後ろを振り向く。

 

猪 「フゴッ!」

 

そこにはいつぞやの猪が居た。

 

月 「〜〜〜ッ!!?」

 

詠 「近ッ!っていうかデカッ!?」

 

驚き過ぎて悲鳴を上げることも出来ない董卓ちゃん。

賈駆ちゃんも驚いた様だが、冷静に董卓ちゃんの手を取って走り出す。

 

霞 「ええで詠!そのまま月を連れて逃げえ!」

 

臨戦態勢を取る霞。

しかし、猪は俺の方を見ている。

 

一刀「なんか見たことあるような景色だと思ったら、まさかまたお前に出くわすとは!!」

 

前回、俺に逃げられたのが悔しかったのだろうか?

猪は俺を目掛けて突進してきた。

 

猪 「フゴォーッ!!」

 

一刀「だああああ!!やっぱりこうなるのかよーー!!!」

 

全速力で駆け出す。

なるべく董卓ちゃん達から離さないとな!

 

猪 「フゴゴッ!」

 

一刀「くっ!」

 

木を上手く使いながらジグザクに走る。

猪はその巨体が邪魔をして思ったように走れないみたいだ。

 

一刀「よし、このままなら撒ける!」

 

そう思った矢先、前方に董卓ちゃんと賈駆ちゃんの姿が見えた。

 

一刀「なっ!?」

 

月 「ふぇ?」

 

詠 「ちょ、ちょっとなんでこっちに来てるのよ!?」

 

しまった!

ジグザグに走っている内に董卓ちゃん達が逃げている先へとぶつかってしまったらしい。

 

猪 「フゴッ!?」

 

猪が2人に狙いを変えて走り出す。

慌てて猪を惹きつけようとするが間に合わない!

 

一刀「くそっ!こっちだ!こっちに来い!!」

 

俺の叫び声も虚しく、猪は2人を目掛けて突進する。

 

月 「へぅぅ!?え、詠ちゃん!!」

 

詠 「くっ、月はボクが護るから!!」

 

―――ザシュ!

 

猪 「グォオオッ!?」

 

猪が2人に襲いかかる寸前に霞が猪の額を斬りつけた。

突然の痛みに猪は激しく暴れる。

やがて少し落ち着いた猪は標的を霞へと変え、足元の土を蹴って威嚇する。

 

霞「へっ!上等やないか!猪鍋にして食うたるわ!!」

 

猪に啖呵を切る霞。

俺はすかさず落ちていた石や木の枝を猪に投げつけて注意を引く。

 

猪 「フゴッ!?グゴォ!?」

 

一刀「霞!まともに対峙しちゃダメだ!」

 

霞 「せやけど、このままじゃどうにもならんやん!」

 

一刀「俺に考えがある。付いて来てくれ!」

 

そのまま戦おうとする霞を止め、俺は猪を惹きつけて走りだす。

ここがあの時の森なら確かこっちの方に…

 

霞 「そんでどないするん!?」

 

一刀「確かこの先に崖があるんだ!そこまで行けばアイツも迂闊に手を出せなくなる!」

 

霞 「崖ぇ!?そんなんウチ等も身動き取れへんやんけ!」

 

一刀「董卓ちゃん達を安全な場所に逃がす間だけ足止め出来ればいい!」

 

霞 「その後はどうするん!?」

 

一刀「俺がなんとかするから霞も上手く逃げてくれ!」

 

そう、まずは董卓ちゃん達の安全が最優先だ。

貴重な食料を分けてくれた恩は返さなくちゃな。

それに霞にも怪我をさせる訳にはいかない。

最悪、身体を張ってでも護らなくちゃな。

 

猪 「フゴォオオオオ!!フゴォオオオオ!!」

 

霞 「はっ!なんやめっちゃ怒っとるやん!」

 

一刀「そうみたいだな!」

 

霞に額を斬られて傷を負ったせいか、猪は前回とは比べ物にならないほど猛っていた。

もうすぐ崖だが、一向にスピードを緩める気配が無い。

 

霞 「ちょお!このまま行くとまずいんやないか!?」

 

くっ!確かにその通りだ。

このままスピードを緩めずに走り続ければ止まれずに崖から落ちてしまう。

かと言って、スピードを緩めたら猪の餌食になるだろう。

 

一刀「やばい!崖が見えてきた!!」

 

霞 「なんやて!?このボケ猪止まらんつもりか!?」

 

猪 「フゴォオオオ!!ブフッ!!ブモォオオオオ!!!!」

 

霞 「あかん!落ちる!?」

 

―――ドンッ!

 

崖が目の前に迫ってきた瞬間、俺は霞を横に突き飛ばした。

 

霞 「なっ!?」

 

勢いを殺し切れず、横に転がる霞。

多少擦り剥くかもしれないけど、霞なら大丈夫だろう。

 

一刀「後は俺が横に飛び退くだけ…だッ!!」

 

目の前に迫る崖のギリギリで横に飛び退いて猪を交わす。

しかし、上着の端が猪の牙に引っかかっていた。

 

猪 「ブモォオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

―――グイッ!

 

一刀「そんな馬鹿なぁああああああああああぁぁぁぁ………!!!!!?」

 

牙に引っかかった上着に引っ張られ、猪と共に崖の下に落下する。

やはりこうなることは運命なのか?

かろうじて3人の女の子だけは護れたから良しとするべきか?

俺は宙に放り出されながらそんなことを思い、意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

霞 「兄さーーん!?」

 

全身に擦り傷をこさえた霞が崖下に向かって叫ぶ。

しかし、返事はない。

 

詠 「霞、アイツは…?」

 

霞 「あかん。崖下は水しぶきのせいで霧が掛かっててよう見えん。返事も無いからおそらくは…。」

 

月 「そんな…ッ。」

 

霞の言葉に涙を流す月。

流石の詠も顔を伏せていた。

 

霞 「この高さや。下が運良く川やったとしても無事じゃないやろな。」

 

詠 「そうね。ここからこの崖を降りる訳にもいかないし…。」

 

月 「へぅぅ…。ぐすっ、へぅぅ…お兄さん…。」

 

詠 「月、泣かないで…。」

 

霞 「そうやで。兄さんは自分等を護る為に身体を張ったんや。

   2人が無事に家に帰り着くことが兄さんへの手向けってもんや。」

 

詠 「ほら月。いつまでもここに居たんじゃ危ないわ。また他の猪が出ないとも限らないし…。」

 

月 「へぅぅ…。でも詠ちゃん…。」

 

詠 「アイツの為にも月は無事に家に帰らないと。」

 

霞 「せやせや。兄さんの変わりにウチが責任を持って2人を家まで送り届けたる。」

 

月 「…ありがとぅ。詠ちゃん、霞ちゃん…。」

 

霞 「ほな行こか。」

 

残された3人は一刀を失った悲しみを堪えながら家路への旅を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

-9ページ-

??「一刀よ。起きるのだ、一刀よ。」

 

一刀「うぅ…?」

 

??「もぉー本当にお寝坊さんなんだから☆」

 

一刀「う〜ん…?ん?」

 

??「はやく起きないと悪戯するぞなもし。」

 

一刀「…誰?」

 

??「今日の朝ごはんは漢女の脇の下で握ったおにぎりよん♪」

 

一刀「そんなもん食えるかぁあああ!!!!」

 

―――ガバッ!

 

一刀「はぁ…ッ!はぁ…ッ!はぁ…ッ!」

 

勢い良く飛び起きる。

うぐっ、どうやら全身が痺れているようだ。

あれ?ここは何処だ?

 

一刀「ここは…崖の下か。」

 

デジャヴだ。

どうやらまた助かったらしい。

辺りを見回すと、自分の居た位置より少し上流に猪の巨体があった。

 

一刀「もしかしたらコイツが上手い具合にクッションになったのかもな。」

 

猪は崖から落ちたショックで気絶し、そのまま川に沈んで溺死でもしたんだろう。

大きな巨体は動かなくなっていた。

 

一刀「成り行きとは言え、コイツには悪いことをしたな。」

 

まあ、こちらも命がけの末だからな。

猪に手を合わせ拝んでから立ち上がり、さてどうしたもんかと思案していたら声が聞こえてきた。

 

??「お〜!あったあった!って、斗詩。なんかアタイの猪を横取りしようとしてる奴が居るんだけど。」

 

斗詩「文ちゃん、どう考えてもあの人の猪だと思うんだけど…。」

 

文 「何言ってんだよ。アタイが見つけた時にはあんな奴居なかったんだぞ?だからアタイのもんだ。」

 

斗詩「それ、たまたまお兄さんが目に入らなかっただけだと思う。」

 

でかい剣と大きな金槌を持った女の子が現れ、2人で言い争いを始めた。

どうやら後ろの猪が目当てらしい。

まあ、確かにこれだけでかい猪だ。当分は食うものに困らないだろうな。

 

一刀「えーと…。」

 

文 「あん?なんだよ?」

 

斗詩「ちょっと文ちゃん。」

 

一刀「君たちは?」

 

とりあえず、何者なのかを尋ねてみる。

 

文醜「アタイ?アタイは文醜!なんか暇なのでプラプラしてる!!で、こっちは斗詩。」

 

顔良「顔良って言います。よろしくお願いしますね。」

 

一刀「そっか。俺は北g…」

 

文醜「という訳でその猪を頂くぜ!!」

 

―――ブンッ!!

 

一刀「んなッ!?」

 

自己紹介を終える前にいきなり大剣で斬りつけられる。

すんでの所で交わし、距離を取る。

 

顔良「ちょっと文ちゃん!?」

 

一刀「何をするだー!?」

 

文醜「うるせー!アタイの獲物を横取りしようとする奴はぶっ飛ばす!」

 

一刀「獲物!?猪が欲しいならあげるよ!!」

 

文醜「それはダメ。」

 

一刀「へ?」

 

文醜「こう…戦って勝ち取るってのがいいんじゃん。」

 

ああ、駄目だこりゃ。

絶対にアホの子だ、この子。

 

文醜「という訳で、ぶっ飛ばす!」

 

顔良「文ちゃん!人の物を力ずくで奪ったらダメだよぉ!!」

 

文醜「でぇええええい!!!!」

 

一刀「うわぁ!?」

 

―――ガキィン!!

 

??「ご無事ですか!?ご主人様!?」

 

もうダメかと思った瞬間。

突如現れた少女が文醜と呼ばれた女の子の大剣を受け止めていた。

 

一刀「愛紗!?」

 

文醜「うぎぎ!なんだお前は!?」

 

愛紗「うるさい下郎め!私のご主人様をなんと心得る…か!!」

 

―――ギィン!

 

愛紗が文醜を弾き飛ばす。

若干言葉遣いがおかしかったのはこの際気にしないでおこう。

 

顔良「文ちゃん!?」

 

文醜「こいつ強いな…。斗詩も加勢しろよ!」

 

顔良「へ?あ、うん!」

 

愛紗「二対一とは……えーと?…ずるい!!」

 

ああ、うん。ずるいな。

確かにずるい。

分が悪い勝負になり、追い詰められる愛紗。

その時、頭上から声が響いた。

 

??「待てぇい!!1人相手に2人掛かりとは卑怯千万!!この華y…って!聞けぇ〜い!!」

 

なんか岸壁の上に誰か居る様だけど、何言ってるのかよく聞こえない。

他の3人に至っては気づいてすらいない。

 

顔良「はぁああ!!」

 

文醜「そりゃあ!!」

 

愛紗「くっ!まだまだ!」

 

 

戦いは白熱している。

俺も愛紗の助太刀をしたいんだけど、流石に素手であの大剣と大金槌を受け止めるのは無理だ。

 

顔良「えぇ〜いッ!!」

 

―――ズガーン!!

 

俺が武器になるような物がないかと探していたら、顔良の大金槌が岩を砕いた。

そしてその破片が飛び散り、俺の頭に直撃した。

 

一刀「あがっ!?」

 

文醜「あ。」

 

愛紗「ちょ!?」

 

ズシャッ!という音と共に崩れ落ちる俺。

その様子を見ていた愛紗が戦いを中断して駆け寄ってくる。

 

愛紗「ご主人様!?ご主人さま!?大丈夫ですか!?」

 

文醜「あ〜あ、殺っちまったな斗詩。」

 

顔良「えー!?わ、わざとじゃないよーぅ!?」

 

??「こらー!お前達ぃ!!私の話を聞けーッ!!」

 

愛紗「しっかりして下さい!ご主人様ー!!」

 

文醜「アタイ知〜らないっと。」

 

顔良「ふえーん!!」

 

愛紗「起きてください!ご主人様ー!!」

 

俺を揺さぶりながら大声を出す愛紗。

目の前が暗くなり、身体の感覚が無くなっていく

耳元で騒がしく聞こえていた声も段々と遠ざかっていった。

 

一刀「(ああ、ようやく会えたのに…。)」

 

俺は最後にそう思いながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

-10ページ-

??「……ーい。」

 

??「起きてくださーい!」

 

??「ご主人様ー!起きてくださーい!!」

 

一刀「…………。」

 

??「もうお寝坊さんなんだから。起きて下さい。朝ですよ。ご主人様♪」

 

一刀「…………。」

 

??「ごしゅj」

 

―――ピッ!

 

携帯電話を開き、目覚ましアラームを止める。

寝ぼけた頭で携帯電話の画面を覗きこんだ。

 

一刀「…なんだこれ?ご主人様だーい好き。目覚ましボイス2?」

 

暫く思案。

 

一刀「…及川の奴か。人の携帯の目覚まし音を勝手に変えやがったのは。」

 

こういうくだらないことをやるのはアイツしか居ない。

携帯のストラップが無くなってるのも及川の奴か?

よし、後で会った時にどついておこう。

 

一刀「ふぁ〜あ…。それにしてもなんか変な夢を見ていた気がするなぁ…?」

 

なにかとても大切なことだった様な気もするけど…。

ああ、ダメだ。思い出せない。

 

一刀「あ、いけね!今日は剣道部の朝練がある日だった!!」

 

俺は布団を撥ね退け、大急ぎで服を着替える。

飯を食ってる時間は無さそうだ。

朝練の後に購買に行って、パンでも買ってこよう。

俺は慌ただしく準備をすると、学園へ向かって走るのだった。

 

一刀「行ってきまーす!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が世界から消えた後、少女は1人修行の日々を送っていた。

そしてゆっくりと蒼天を見上げ、静かに誓うのだった。

 

??「いつかまたお会いする時は今度こそ貴方を護る矛となります。ご主人様…!」

 

 

 

 

 

 

 

-11ページ-

あとがき

 

……という訳で、すいませんでした。

別に忘れていた訳じゃないんですよ。

ちょっと部分的に記憶喪失になっていただけで、忘れてはいないんです。

本当の所を言うと、もう別に後編書かなくてもいいかな?とか思ってたんですけど、

中途半端は良くないと脳内の斉藤さんが仰るものですから…。

 

えー、それで後編ですが、ボケ役(黄忠さん)が居ないと恐ろしく張り合いが無いですね。

自分でもまさかここまでギャグの無い内容になるとは思いませんでした。

正直つまんね。そんなものを投稿していいのか?って話ですが、書いてしまったもんは仕方ない。

その分、挿絵の方を割りと真面目に描いたのでいいかな!と。

 

それと、たぶん後編が描き終わった後に色々と補足情報を書き記すつもりで居たんでしょうが、

過去の私が考えていたことは現在の私にはちょっと分かりかねるので、割愛します。

おそらく恋姫に影響を与えたのが実は一刀くんでした的な感じだった筈。きっと。

 

うわ、今見てみたら文字数24000字弱だって。

こんな無駄に長い文章読ませちゃってすいません。

もっと簡潔に書けば良かったですね。

 

異世界で、幼女と出会い、目が覚めた。

 

こうしていれば簡潔で読みやすくて楽だったのに。楽だったのに!

もういっそのことIYMとかでも良かったかもしれない。

 

では、この辺で失礼します。

律儀に最後まで読んでしまった方、お疲れ様でした〜。

 

 

 

 

 

説明
あれからどのくらいの月日が流れただろうか?
いつまで経っても彼は帰ってこない。
途方に暮れる私の耳に扉を叩く音が聞こえた。

AC711「こんな夜更けに一体誰だろう?」

そう思いながらも久しぶりの来客に胸を踊らせる。
ギィ…と鈍い音をたてながらゆっくりと開く扉。
その先に居たのは…

AC711「やる気!?」

やる気「へへ…、待たせたな。ようやく帰ってきたぜ。」

ついに…ついに彼は帰って来たのだ。
身体には数多の傷を負い、満身創痍だ。
しかし、それでも彼は最後の力を振り絞り、私の元へと帰って来てくれた。

私は彼を優しく迎え入れると、執筆活動に執りかかるのだった。
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コメント
コメントありがとうございます。ガッツが足りないのはただの嫌がらせです。 ◆スランプというより、めんどくさかっただけですね☆ ◆挿絵があるだけいいじゃない! ◆教育における環境の大切さが伺えますね。 ◆作中に登場しただけ運が良い…。 ◆太陽→太陽拳→クリリン!っていう思考回路です。天さんごめんね。 ◆文字だけでも存在感に定評のある荀ケたん。(AC711)
白蓮、華雄、詠。確かに酷い扱いです。しかし!良く読み返してください!名前が一文字もなく絵もない娘が一人いるんですっ!なのに、誰だかわかる!存在感もある!見よ、これが鬼ツン幼女の底力っ!!!(←何があったんだ自分…)(ひさやすた)
ハイパーな図に吹いたwwww しかも太陽じゃなくて、『クリリン』 そこがまた吹きました。(Fols)
・・・・・せめて名前か顔だけでも・・・・・(アサシン)
とりあえず、桂花たんも麗羽もお前が原因か、一刀くんww ハイパーな図にまたしても吹いた(神余 雛)
白蓮さん、名前で呼ばれないだけでなく、遂に挿絵でもモブと同じ扱いにw(summon)
白蓮「少女って、もう「普通」とか「ハム」ですら呼ばれないのかよwwwwwwwwwwwwww!?(´;ω;`)」  華雄「何で私はこんな扱いなんだwwwwwwwwwww!?(T ^ T)」  詠「何で僕だけモザイクな上に、『ガッツが足りなぁーい!!』ってどいうことよwwwwwwwww!?(# ゚Д゚)」(劉邦柾棟)
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