IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第五十八話 〜クロウ、感嘆する〜 |
最終的にクロウはセシリアの招待に預かることとなった。空港で勢いのあまり噛んでしまったセシリアは恥ずかしさのあまりフリーズを起こし、いくらクロウが声をかけても再起動する事は無かった。結局、見かねたチェルシーが物陰から出てきてセシリアの言葉を代弁、クロウも目の前のセシリアの状態を見て“流石にこれは放置できねぇ……”と思った結果チェルシーの申し出を快諾、チケットの行き先をイギリスに急遽変更してセシリア達と同じ飛行機に乗る事となった。因みにセシリアが正気を取り戻したのはイギリスに降り立ってから、更に言うと自宅のすぐ近くまで移動してからである。その時セシリアはクロウが一緒にいることに再度驚いて再び正気を失う所だったが、今度はしっかりと耐え切った。
(……)
さて、空港から車で移動する事数十分、チェルシーに促されるままくぐった門の先で、クロウは絶句していた。
「クロウさん?どうかしましたか?」
セシリアが疑問の声を上げるが、今のクロウの耳には届かなかった。何故なら今のクロウはかつてない衝撃に襲われているからである。
(……こんなの、前の世界でも見た事ねえぞ?)
前の世界において、それなりの経験をした身であっても、目の前の光景がまだ信じられなかった。それほど今立っている場所はクロウの度肝を抜いたのである。
「クロウさん、どうかしましたか?」
「……ああいや、悪い。今行く」
しかしそこは歴戦の勇士、いつまでも呆気にとられている訳にもいかず、セシリアの後をついて歩き始めた。
(しっかし、こりゃあハンパじゃねえな……)
クロウの周りには庭園とも言える風景が広がっていた。30uはあろうかという庭の中心には大きな噴水まである。周囲は綺麗に手入れされているであろう木々が立ち並び、綺麗な芝生が庭の地面を覆っている。しかもクロウの正面には、巨大な屋敷が荘厳とそびえ立っていた。
「さあクロウさん、どうぞ中へ」
「失礼します……」
場違いな空気を感じつつも、チェルシーに進められるがままにクロウはセシリアと共に大仰な玄関をくぐり抜ける。そしてクロウの目に飛び込んで来たのは、またも信じられないような光景だった。
「「「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」」」
目にしたのは広間の壁際にズラリと並ぶメイドや執事の数々。天井にはシャンデリアが吊り下げられ、壁には豪奢な装飾が施されている。全員がセシリアに向かって頭を下げており、セシリアは全く動揺する事無く優雅に歩いて行く。そんな中、人の列の中から一人の壮年の女性がセシリアの方に進み出てきた。
「只今帰りましたわ、ブリジット」
「お帰りなさいませ、お嬢様。日本はどうでしたか?」
「ええ、それはもう楽しい思い出をたくさん作ってきましたわ。これからも作る予定ですけど」
「お嬢様、一つよろしいですか?」
「ええ。何ですの?」
「チェルシーからお客様がいらっしゃるとの連絡を受けたのですが、そのお客様はどこにいるのですか?」
「それは勿論、こちらの……」
セシリアが後ろを指し示しながら振り向くと、誰もいなかった。慌ててセシリアは荷物を放り出して玄関を開け放つと門の所で争っているクロウとチェルシーが見えた。争っているといっても、何故か帰ろうとしているクロウをチェルシーが必死に引き止めている図なのだが、セシリアは急いで階段を駆け下りてクロウ達の下に駆け寄った。
「クロウさん、どうかなされましたか!?」
「いや、その……お邪魔しました」
「邪魔も何も、まだ何もなさっていませんが」
「いやいやいや。なんだここ?どっかの大富豪が住む様な邸宅を持っている奴なんて、俺の知り合いにいるわけがない」
「一応、ここは私の家なのですが……」
「ほら、ここまで来て見苦しいですよ。殿方なら潔くしてください」
「潔くなんて単語、俺の辞書には載ってないんだが……」
反論をしつつもチェルシーにズルズルと引きずられて行くクロウ。その細腕のどこにそんな力があるのか、と問正しくなるような光景がセシリアの目の前で展開されていたが、セシリアは突っ込むこともせずに二人の後をついていく。今度こそクロウを屋敷に連れ込んだチェルシーはクロウをセシリアに預けると、扉をきっちりと閉めた上に音を立てながら鍵をしっかりとかけた。
「ここは私の家です。遠慮する必要なんてありません」
「そうは言ってもな……」
「……ご迷惑でしたか?こちらに無理矢理連れてきて……」
セシリアが目を潤ませながら上目遣いでクロウの瞳を覗き込む。対してクロウは一つ大きなため息をつくと、僅かな笑みを浮かべて両手を腰に当てた。
「……迷惑じゃねえさ。まあ、ここまで来た事だ。楽しむとするか」
「はい!楽しんでいってください!!」
「お嬢様、そろそろお客様のご紹介をしてもらってもよろしいですか?」
口を挟まずに直立していた婦人が二人に声をかける。セシリアはコホンと咳払いをしてからクロウを掌で指し示した。
「ええ、こちらはクロウ・ブルーストさん。IS学園での私の友人ですわ」
「どうも。クロウ・ブルーストです」
「ようこそいらっしゃいました、クロウ・ブルースト様。私はこの屋敷でメイド長を努めております。ブリジットとお呼びください」
これはこれはご丁寧に、とブリジットに挨拶するクロウを眺めているセシリアの横に、チェルシーが音も無く立つ。
「お二人のお荷物を先に部屋の方へ持っていきます。お嬢様、ご健闘を」
セシリアが反論する暇も無いまま、チェルシーは不穏な言葉を残してさっさと行ってしまった。言われた言葉の意味を考えているセシリアの耳に、ブリジットから厳しいお言葉が飛ぶ。
「お嬢様。自分の世界に浸っている所申し訳ありませんが、クロウ様を客間の方へお通ししてよろしいですか?」
「はえっ!?え、ええ。お願いします」
「それではブルースト様、こちらへ」
「じゃあな、セシリア」
セシリアに片手を上げて別れを告げると、ブリジットに導かれるまま広間を歩いていく。敷かれている上質なカーペットは足音を一つ立てる事を許さず、廊下にはブリジットとクロウが会話する声だけが響いていた。
「ブルースト様はイギリスにいらっしゃるのは初めてですか?」
「まあ、そうです」
「そうですか。この屋敷の周りには緑も多く、都会の喧騒もありません。どうぞ、日頃の疲れを癒していってください」
話しながらブリジットはとあるドアを開けてクロウを中へと促す。気後れしながらクロウは部屋に入っていくと、三度信じられない光景が目の前に広がっていた。
「あの……ここって客間ですか?」
「はい。その通りです」
確かに、客にある程度見栄を張るために客間を豪華にする様な家は存在しているだろう。クロウ自身も屋敷の豪華さからある程度覚悟はしていたのだが、そんな覚悟などは儚くも崩れ去ってしまった。主に部屋の装飾と調度類のおかげで。
「お荷物は既にベッドの脇へ運んであります。あと一時間ほどで夕食が出来上がりますので、その時にはお呼びいたします。何かご要望はございますか?」
「ありません……」
「そうですか。それでは、ごゆっくりとお寛ぎください」
パタンと音を立てながらクロウの背後でドアが閉まる。クロウは魂が抜けたようにおぼつかない足取りでベッドの脇まで行くと、そっと生地を撫でる。
(……流石にここまでとは思ってなかったぜ)
クロウは嘆息しながら部屋をぐるりと見回す。部屋のあちこちに飾られた調度類は素人目に見ても高価だという事が分かる程、圧倒的な雰囲気を振りまいていた。白いバルコニーに出てみると、綺麗に整えられた庭園が望める。正直言って自分には似つかわしくない場所だが、ここまで来て“帰ります”なんて言える訳が無い。半ば投げやりな気持ちになりながらクロウはベッドに横になる。
(まあ、宣言した事だし休暇だと思って楽しむか)
何しろ昨日まで軍隊で訓練を行っていたのだ。そこまで殺伐とした空気では無かったにせよ、疲労は着実に体に溜まっている。帰ってもやることがないのは分かりきっているし、のんびりとするのはクロウも嫌いではなかった。
(……あれ?そういやあいつの家族はどこいった?)
クロウの頭にふとした疑問が浮かんだ。既に太陽は傾きかけており、父親は仕事に出ているとしても母親の方は家にいてもおかしく無い時間だ。一瞬“共働きか?”という考えが頭を過ぎったが、ゆっくりと頭を振ってその疑問を却下した。いくら共働きと言っても、娘が帰ってきたというのに家族が迎えに来ないと言うのもおかしな話だからである。クロウはその身の上から健全な親子関係というものにピンと来ないが、経験上親というものは子を愛する物だと言うのは理解している。思いがけない事に、考えていた頭の中に父親の姿が浮かび上がった。
(……やめておくか。考えてもロクな事にならねえ)
考えていたのはセシリアの事であって自分の事ではない。そもそも自分の父親は既に死んでいる上、この世界にはいないのだ。父親の幻想を頭の中で振り払い、目を瞑る。長旅で疲れていたのだろう。クロウの意識はすぐさま薄れていき、程なくして夢の中に落ちていった。
「クロウさん、クロウさん」
「ん?」
ゆさゆさと体を揺らされる感覚を味わいながら、クロウはゆっくりと目を覚ました。両目を開けて横を見てみれば、髪の毛をストレートに下ろしたセシリアが自分の体を両手で揺らしている。
「おいセシリア、どうした?」
「夕食の準備が出来たので伝えに来たのですわ。すみません、お休みの所を……」
「いや、いいさ。しかし悪いな、セシリア。お嬢様直々に起こさせちまって」
「い、いえ!構いませんわ。そ、それに……役得という物が……」
セシリアは急に頬を赤らませてモジモジとしながらうつむいてしまった。そんなセシリアを横目で見ながらクロウはベッドから降りる。
「じゃあ、案内頼む」
「はい。こちらですわ」
長い廊下を二人揃って歩いていく。IS学園の授業の事、寮生活の事、友人の事、他愛の無い事を話しながら歩く。ふと窓から外の光景を見れば綺麗な夕焼けが庭園を照らし、温かな光をクロウに優しく届けてくれる。
(この世界はそうなんだな……)
「クロウさん、何か良いことでもありましたか?」
「いや、別に。何でだ?」
「少し笑っていらっしゃったので」
「そうか……俺は笑ってたのか」
「ええ、何かありましたの?」
「……改めて思っただけさ」
「?」
(やっぱり、この世界は……)
壊すよりも意地する方が途轍もなく難しく、誰もが望み、誰もが欲し、手に入れる方法を必死に模索し、儚い命を犠牲にしては決して成り立たない──
(“平和”だな)
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後書き
どうも今日は、作者のGranteedです。
やったねセシリア!出番が増えるよ!!
……いやマジで今までないがしろにしててスンマセンでした。できる限りこの夏休み編でカバーするんで許してください。
ラウラのあとはセシリアとなりました。さて、千冬の出番はもう確定しているが、シャルロットどうしようかなぁ……まあちゃんと出す気はあります。
今回は最後がぶつ切りになってすみません。この辺で切っといた方が次回に繋げやすくなるかな〜と思ってこうしました。
とうとう春休みに突入!さあ、ガリガリ書くぞ〜!……と思っていたらとある事が起こってテンションガタ落ち。
皆さんも知っているかもしれませんが、先日から小説投稿サイト”アットノベルス”様が運営を停止しております。私もそこで作品を投稿しているので、バッチリ影響を受けました。
そこで相談なのですが、ここで二つの作品を投稿しても問題ないですかね?
TINAMI様は作品ごとのソート機能が無いので、皆さんが読みたい作品が少し探しにくくなってしまうかもしれないので、皆さんの意見を感想欄にてお願いします。
最後に一言
作者「世界が平和になっても、あなたの人生は平和とは一生無縁ですよ。クロウさん」
クロウ「何だと!?じゃああの、のんびりサラリーマン生活は一生出来ないってのか!?」
作者「ご愁傷様です」
クロウ「くっそおおおおおっ!!」
説明 | ||
さあ始まりました、クロウのイギリス旅行記! 旅のパートナーはこれまでクロウ争奪戦で一歩出遅れているセシリア・オルコット選手! 夏休みの間に彼女は他の二人に差をつける事が出来るのか? こうご期待下さい!!(ナレーション:太田真一郎) |
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コメント | ||
フジさん。あのリュウミン(00に出てきた人ね)は屋敷持ちだったような……。大富豪だったし。あ、でもクロウは一度も行ってないし関係ないか!(マシュマロコーヒー) 更新乙です。アットノベルズは復旧したようですよ?やったねセシリア!出番が続くよ!そういえば第二次Z組の部隊には豪邸持ちは居なかったからクロウさんは訪れたことないなw無印世界なら砂男やらロジャーが屋敷持ちだったんだがw続きを楽しみにしてます(フジ) |
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