袁紹・袁術伝 袁家の血筋は争えない 前編 |
ぱたぱたと走る足音に、七乃は書き物を中断して顔を上げた。
「七乃〜!」
扉を開けて飛び込んできた少女こそ彼女、張勲が仕える主だ。
姓は袁、名は術、字は公路、そして真名は美羽 。
三公を輩した名門の袁家に連なる者である。
「何です、お嬢様?」
「ハチミツ水のおかわりじゃ!」
「え〜。もう飲んじゃったんですか? ハチミツはすっごく高いんだから、いっぺんに飲んじゃダメって言ったじゃないですかー」
「すっごく高いかもしれんが、それよりもっともっとすーっごく飲みたかったのじゃ!」
理由になっていない理由を堂々宣言して胸を張る美羽。主にはとことん甘い七乃は苦笑いして立ち上がった。
「はいはい。それじゃ、もう一杯だけですからね?」
「うむ! だから七乃は大好きなのじゃ!」
満面の笑みでハチミツ水を受け取ると、美羽は「ありがとうなのじゃ!」と礼を一つ、再びぱたぱたと部屋を出て行く。
「転んでこぼしたりしちゃダメですよー?」
「案ずるな! 妾は子供ではないぞ!」
ぱたぱた駆けて行った美羽の方を見やり、七乃はまるで母親のような微笑を浮かべて小さくため息。
「もう……どこが『子供ではない』なんですか?」
それから、再び筆を取って帳面に目を移す。
「は〜〜〜〜」
今度のため息は深くて長い。
帳面に記されているのは、ここ最近の美羽と七乃の収支表───つまり家計簿だ。
「う〜ん───これは……どうにもならないなぁ……」
家計は完全に赤字も赤字、大赤字。
基本的に七乃が稼ぎ、美羽が消費するのだが、その美羽の浪費っぷりが半端ではない。
「お嬢様、小さい寝台だと眠れないってベソかくし、料理は残すくせにいっぱいないと駄々をこねるし、服は街に行く度に買い換えちゃうし……それに何より一番大きいのが……」
手にとった小振りの壷に入っているのは七乃の大好物、ハチミツだ。王侯貴族か豪商でもないと口にするどころか目にする事も稀な高級品である。
「お嬢様ったら、油断したらこれくらいの量は一日でぺろっといっちゃうからなー」
握り拳くらいの壷に入ったハチミツは、これだけで一般の市民なら一ヶ月は楽に暮らしていける。
そんな高価なものを大量消費していては、家計が燃え上がるのも当たり前だ。
「劉備さんも曹操さんも孫策さんもいつの間にか仲良くなっちゃって、最近は戦いらしい戦いもないんだよなー……」
三国が対等の関係で同盟を結んでしまった為、大陸は平和になった。
それは喜ばしい事だとは思うが、傭兵として路銀を稼いでいた七乃には非常に問題だ。
「収入は大激減。これじゃ、二人して干上がっちゃうよ〜……」
このままの生活を続けていては、路銀が切れてのたれ死ぬのは目に見えている。
かといって、美羽に倹約を強いる事なんて七乃の考えには欠片も無い。わがまま放題し放題であってこその美羽なのだ。
「とは言え、このままじゃ八方塞がり……」
筆の柄で頭を掻きつつ、本日何度目かのため息。それから、筆を置いて空を仰ぐ。
「となると───やっぱ、アレしかないかなぁ……」
そう呟いた七乃の目は子煩悩な母親の目ではなく、知略に長けた武将の目だった───
「まったく、どうしてこのわたくしがこんな辺境に来なければならないんですの……」
馬上でぐったりとボヤいているのは、世が世なら馬の上ではなく玉座の上にいたであろう人間だった。
姓は袁、名は紹、字は本初、そして真名は麗羽 。
三公を輩した名門の袁家に連なる者である。
「麗羽様ったら、まだ言ってるんですかー?」
「もう、これで何度目になるか分かりませんよ?」
口々に言う猪々子と斗詩をキッと睨みつける。
「何度目だろうと言わせていただきますわ! 辺境の情勢調査なんて、兵を率いるしか能の無い方がやればいいでしょう!? 伯珪さんにでもさせておけばいいんですわ!」
「そう言うなよ、みんな忙しいんだからさ」
同行していた一刀はどうにか麗羽を宥めようとするが、一度火がついた彼女は止まらない。
「忙しいからって、このわたくしが忙しくないとでも仰りたいのですの!?」
「全っ然忙しくないよなー」
「うん。ちっとも忙しくないよね」
「あなた達は黙らっしゃい!!」
二人を一喝してから、麗羽はまるで悲劇の主人公のように芝居がかった仕草で空を仰いだ。
「まったく、どうしてわたくしがこんな扱いを受けなければならないんですの!? 蜀の皆様はこのわたくしを誰だと思っているのです!?」
本人的には虐げられる健気なヒロインといった自己演出なのかもしれないが、部下の目にはそう映ってないらしい。
「うーん、無駄飯食らいの居候ってのが関の山じゃないっすかー?」
「ちょっと、文ちゃん!」
あまりにストレートな物言いに、麗羽のこめかみにびきっと血管が浮く。
「文ちゃん、やめてよぉ〜。後で痛い目見るの、結局わたしになるんだからぁ!」
「え〜、これでもかなり表現を抑えたんだけどな〜。星辺りだったらメンマ食いながらもっとボロクソに───」
「ええい! もういいですわ! あなた達に聞いたわたくしが馬鹿でした!」
「って言うか、俺は猪々子と斗詩に頼んだんであって、別に麗羽は───」
「何か仰って!?」
「……いえ、何でもないです」
あっちに吠え、こっちに吠え、本日の麗羽様はご機嫌ナナメのご様子。
「ご主人様、ごめんなさい……」
「斗詩が謝る事じゃないよ」
「でも、ご主人様と調査に行くって報告したの、わたしですし……」
「そりゃ仕方ないさ。一応みんなは俺の部下ってかたちだけど、斗詩と猪々子は麗羽に仕えてるんだから」
大陸に平和が戻り国同士の大規模な戦いが無くなった事を機会に、蜀では軍の再編成が行われた。
その中で問題になったのが、麗羽達三人の処遇だった。
今までは客将扱いであったものの、これ以上その待遇を続ける訳にはいかなかった。
天下三分の一つである蜀とは言え、何もしない人間を養っている余裕は無い。
とは言え、扱い方が難しい麗羽。誰もが自分の配下にする事を嫌がり、かと言って単独の部隊とするには心配すぎる。猪々子や斗詩に任せれば大丈夫だろうが、この二人の配下に麗羽をつける事は出来ない。
そんなこんなで、一刀は半ば押し付けられる形でこの三人を配下にしたのであった。
「にしても一体全体、こんな辺境で何を調査するんですの?」
「え〜? 麗羽様、知らないで来ちゃったんですかー? 情勢調査ですよ、情勢調査」
「人を馬鹿にすると許しませんわよ!? 情勢調査は分かってます。何の情勢を調査するのかと言ってるのです! なら猪々子、あなたがお答えなさい」
「それはもちろんアレですよ。ほら、アレ」
「アレ? アレって何ですの?」
「アレはアレですよ。その───斗詩、何だっけ?」
「おいおい……」
そもそもの任務を知らない麗羽と、教えたはずなのに忘れている猪々子。一刀はこの任務の先行きが思いやられて深くため息をつく。
「斗詩、お願い……」
「あはははは……」
うながれた一刀に話を振られ、斗詩は乾いた笑い。
「……こほん。えーっと、わたし達の任務はあるおかしなウワサのある村の状況調査です」
「ウワサ〜?」
「うん。ある商人さんがその村を夜訪れたらしんだけど、人が誰もいなかったんだって」
「夜なのだから、家にいたのではなくて?」
「いえ、その商人さんもそう思って窓から家を覗き込んだそうなんですけど、やっぱりどの家も誰もいないんです。しかも、お茶や食べ物は、まるでついさっきまで人がいたみたいに湯気が立ってたそうです」
「へー、もったいない」
「文ちゃん、そういう事じゃないでしょ?」
「猪々子、あなたはちょっと黙ってなさい。話が進みませんわ」
「アニキー、二人がいじめるー」
「あー、分かった分かった」
ぐしぐしと頭を撫でてやると、猪々子は目を細めてご満悦。そんな相棒を斗詩は恨みがましい目で見ていたが、どうにか話を元に戻した。
「えー……で、それからなんですけど、そんな変なウワサがあったから、一応という事で桃香様も調査に何人か兵士さんを送ったそうなんですが───」
「なーんだ、それならもう調査は済んでるんじゃん」
「とんだ無駄骨でしたわね」
「いいえ、違うんです」
斗詩はそこで声をひそめた。
「───帰ってこなかったんです。誰一人として」
「誰も!? 誰も帰ってこなかったの!?」
「そ。と言う訳で、今度は俺達が調査に出向く事になったんだよ。何人かでも兵士を連れてこられたら良かったんだけど、そういう余裕はなくてさ」
言いながら猪々子を見る。恐がってるかと思ったが、猪々子は頬を紅潮させて興奮していた。
「ふへ〜面白そう! 謎の村に潜入して秘密を暴く美少女戦士猪々子と斗詩! く〜! 燃えてきたー!!」
「『く〜! 燃えてきたー!!』じゃありませんわっ! そんな怪しいところに、このわたくしを連れていこうと言うんですの!? と言うか、どうして美少女戦士にわたくしが入っていませんのっ!?」
「勝手についてきたの麗羽様じゃないですか〜。美少女戦士枠はあたいと斗詩で埋まってまーす」
「美少女戦士はともかく……麗羽様もここまで来ちゃったんですから覚悟を決めて下さいよ〜」
「冗談じゃない! わたくしはここで失礼致しますわ! 調査はあなた達でちゃっちゃとやって下さいな!」
馬の手綱を引いて元来た道を戻ろうとする麗羽を、慌てて押さえる猪々子と斗詩。
「ちょっ、姫、今更ダメですってばー!」
「お仕事ですよ、お仕事!」
「お仕事ならあなた達がやればいいでしょう!? どうして、わたくしがこんな事を───」
「そうも言ってられないぞ」
一刀は微かに緊張した声で言った。
「ほら、あそこに見える村がそうだよ」
「これが……謎の村?」
一刀は呆然とつぶやくく。
そこにあったのは───
「普通の村ですわ」
「普通の村っすねー」
「普通の村ですよね」
三人が同時に言ったように、そこにあったのはまったく普通の村だった。
普通に人が歩き、普通の商いを行い、そして普通に笑っている。
どこからどう見ても普通の村だ。
「確かに普通だよなー。白蓮の生まれ故郷と言われても納得しちゃうくらい普通だ」
「うわっ、アニキひどー」
「でも、確かにそれくらい普通ですよねー。特に怪しいところもなさそうですね」
「そのウワサを流した商人さんとやらの勘違いか作り話なのではないのですの?」
「んー。でも兵士さんが相次いで行方不明になってる事は確かですし……」
「斗詩の言う通りだ。もうちょっと調べてみよう」
「ういーっす」
「はい」
「まったく、どうしてこのわたくしが……」
「麗羽様ー、ブツブツ言ってると置いてっちゃいますよー?」
「あ、お待ちなさい!」
こうして調査を開始した一刀達であったが、どこをどう調べてみても変わった所のない村だ。あえて言えば、普通すぎるといったくらいか。
「うーん、もしかしたら調べる村を間違ったんじゃ───っと!」
辺りを見回しながら歩いていた一刀は、近くの商店から出てきた老人とぶつかってしまった。
「す、すいません!」
慌てて助け起こすと、老人は軽く笑って許してくれた。
恐縮している一刀に、猪々子が後ろからこそっとつぶやく。
「アニキ、ウワサの事聞いてみようよ」
確かに、目で見て異常が無い以上、直接村人に聞いてみるしかない。
「おじいさん、ちょっとお伺いしたいんですが」
「はて、いかがいたしましたでしょう?」
「隣の村で聞いたのですが」
わざわざこんな辺境の地に都から来たと言えば、変に勘繰られるかもしれない。
一刀は嘘の前置きをした上で質問した。
「この村が夜になったら誰もいなくなるなんておかしなウワサがありまして、そんな不思議な村なら一度行ってみようと思って来た次第なんですが───何かお心当たりはありますか?」
「ほっほっほ。そんなウワサでこんな辺ぴなところまでいらっしゃるとはご酔狂な。夜にどこかにいなくなったワシらが、朝になると村に帰ってくるとでも」
「まぁ、それは確かに……」
「ワシらはずっと村におりますよ。まぁ、都のように娯楽があるわけでもなし。夜は早々に寝てしまいますがな」
笑いながら立ち去っていく老人の背中に、麗羽は肩をすくめた。
「やっぱり、無駄足だったようですね。常識的に考えて、そんな怪談じみた事があるわけありませんわ」
「確かに……でも、麗羽様。兵士さんが行方不明になった事は事実ですし……」
「斗詩さん、そんな事も分かりませんの? それでも、あなたは我が袁家に仕える武将ですの?」
「じゃあ、麗羽はどう考えてるんだ?」
「そんなの簡単ですわ。兵隊務めがイヤになって逃げたんですわ」
「えー? 何でですかー?」
「猪々子、考えてもみなさい。兵士の方々のほとんどは農民の出。しかも蜀軍には蜀の生まれじゃない兵士もたくさんいますわ。こんな普通な、それこそ白蓮さんの故郷と言ってもおかしくない村に来れば、里心が芽生えたっておかしくないでしょう? きっと郷里を懐かしんで逃げ帰ったに決まってますわ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ちょっと、何で黙ってますの? と言うか、その驚きの目は何なんです?」
「いや、何て言うか……なぁ?」
「ええ、意外って言うか……」
「麗羽様もたまには人を納得させる事考えたりするんですねー」
「あなた達とは一度ゆっくり話し合った方が良さそうですわね……」
怒りのオーラで縦ロールがざわざわとわなないている麗羽に一刀は苦笑い。
「まぁ、麗羽の言う通りかもな。見たところ、おかしな事があるような場所でもなさそうだし」
「そうですね。では、そのように報告しましょうか」
うなずく斗詩。と、その脇の下から腕がにゅっと伸び、斗詩の胸を鷲掴みにした。
「きゃあっ!? ぶ、文ちゃん!?」
「ねー、そんな事よりあたい腹減ったよー。どこかでご飯食べようよー」
「お、お腹がすいたからって、わたしの胸を揉まないでよぉ。大体、ご飯と胸とは何にも関係無いじゃない!」
「んー? そうだけど?」
「そんな『だから何?』って顔しないでよぉ……」
「まぁ、猪々子の言う事ももっともですわ。こんな所に連れてこられて、わたくしも疲れました。今日はもう動きたくありませんわ」
結局、麗羽と猪々子の意見を採用し、一行はこの村に一泊する事にした。
まぁ、村で一軒しかない宿が狭いだの汚いだの一部屋に四人なんてどういう事だと麗羽が騒いだのはお約束である。
空きが一部屋しかないから仕方無いじゃないか。
そう思いながら泣く泣く一刀が床に寝るのを了承したのもお約束。
そして、その夜───
「ん?」
何となく窓から外を眺めていた一刀が何かに気付いた。
「おい、皆」
「なーにー? 今更何言っても場所は譲らないよー?」
小さめの寝台に身を寄せ合うようにして寝ていた三人。猪々子はニヤリと笑う。
「そりゃ麗羽様と斗詩のおっぱいに挟まれて寝たいっていうアニキの気持ちは分かるけど、その役はあたいのものー」
「やぁん! 狭いんだから抱きつかないでよ、文ちゃん!」
「ちょっと二人とも重いわよ! どうせなら、わたくしが上になります!」
「きゃー、アニキ助けてー。麗羽様に犯されるー」
「お前ら……いいから、窓の外を見てみろっての!」
「んもぅ。一体、何ですの?」
「せっかく斗詩のおっぱい枕で寝るところだったのに……」
「だから胸から離れてよぉ……」
ぶつぶつ言いながら、窓の外を窺う三人。
見ると、村人達が手にたいまつを持って、一列になってどこかに歩いている。
「なーに? 何かあるのかな?」
「お祭りでもあるんではなくて? まぁ、どうせ、この村の規模に見合ったしょっぼい貧相なお祭りなんでしょうけど」
きょとんとしている二人とは違い、斗詩はこの状況に気付いたようだ。
「ご主人様、これは……」
「ああ。ウワサも全部が全部間違いじゃないらしいって事だ」
「ウワサ? じゃあ、これが───」
言いかけた猪々子の言葉が止まる。バタンと扉が閉まる音がしたのだ。隣の部屋だろうか。
猪々子は扉のところに行き、そっとドアを開けて隙間から廊下の様子を窺う。一人の男が目の前を通り過ぎた。
「!?」
「猪々子? どうした?」
音を立ててないように扉を閉めると、猪々子は緊張した面持ちで告げる。
「今のやつ、蜀の兵士だったよ」
「えっ!?」
「本当なの!?」
「間違いないよ。蜀の装備を着てたもん」
「と言う事は、そいつが失踪した兵士って可能性が高いな……」
どうやら、この村で何かが起こっている事自体は間違いないようである。
となると、次に行うべきは───
「……行ってみるか」
村人の行列を見下ろしながら一刀。
何があるにせよ、この状況が何であるかを確かめる必要がある。
三国が同盟を締結したとは言え、それは力と力が拮抗し合う三すくみだからこそ保たれている平和だ。
それが分かっているからこそ、三国の王達は互いに交流を図り力以外の部分でも平和を保とうとしているが、その平和をこころよく思っていない勢力が潜んでいてもおかしくない。
「まさかとは思うけど、反乱の準備でもされていたら大変だからな。早い内に潰さないと」
「火がつくのには時間がかかりますけど、一度燃え出したらあっと言う間に広がってしまいますからね」
「つまり……」
麗羽はほっそりとした指を顎に当てて首を傾げた。
「この夜中に、今からあの村人さん達の後を追いかけようという事ですの?」
「ああ」
「そんなのイヤですわ。夜ふかしはお肌に大敵ですのよ? 一刀さんだけ行ってくればいいでしょう」
「あのな麗羽……一応、俺はお前の上官になるんだぞ?」
「そんなもの、このわたくしに流れる袁家の血統の重さに比べたら大したものではありませんわ。一刀さん、この袁本初が命じます。さっさと行って調べてきなさいな」
「はぁ……」
「すいません、ご主人様……」
恐縮して小さくなってる斗詩に、一刀は仕方ないよと首を振った。麗羽のこの性格は死ぬまで治らないだろう。
「もー、どっちでもいいからさっさと行こうよー。早くしないと見失っちまうよー」
焦れた猪々子が口を尖らせる。
「そうだな。じゃあ、行くか」
「麗羽様、お留守番お願いしますね」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! 斗詩と猪々子も一緒に行くんですの?」
「そりゃそーでしょ。だってアニキ弱いもん」
「ご主人様に何かあったら、皆さん大激怒ですよ? わたし達、蜀から追い出されちゃいます」
「追い出されるならまだしも、愛紗辺りに首をちょーんとやられちゃうかも」
一刀の知る正史では顔良、文醜とも関羽の手によって討たれている。それを知ってるだけに、今の冗談は笑えない。
「あなた達、こんな所にわたくしを一人にするんですの!? 袁家の武将の忠義はどこにいったんですの!?」
「忠義って言ってもなぁ……」
「わたし達、今は蜀に仕えているしね……」
ジト目で主人を見る二人。麗羽は「キーッ!」と奇声を上げて枕を殴りつけた。
「分かりましたわ! わたくしも行けばいいのでしょう!?」
「さっすが麗羽様。それでこそ忠義の尽くし甲斐があるってもんですよー」
「うんうん。それでこそ麗羽様だよね」
二人はしてやったりの笑顔。
「まったく、このわたくしを何だと思っているのかしら。召し抱える相手を間違いましたわ……」
ブツブツ言いながら寝台から立ち上がる麗羽に、一刀は苦笑い。
「よし、行こうか」
こうして四人は夜の村へと出て行った───
<後編に続く>
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投下三弾目にして、またもメインヒロインを外すチャレンジャーとととです。 だって好きなんだもの。 今回、ちょっと長くなりそうなので前後編に分けてみました。後編は祭り期間に間に合えば投稿しますですハイ。 <追記> 猪々子の一人称を間違ってました。恥ずかしい! 修正いたしましたですー。 |
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