マギステルディケイド 二時間目「クラスメイトはメダルの怪人!?」 |
二時間目「クラスメイトはメダルの怪人!?」
エヴァの襲撃があった次の日、士は朝の朝食を済ませ麻帆良学園に向かっていた。ちなみにあの後士は泣きじゃくるネギを後から追ってきた明日菜に預け、襲われた夏海を背負ったユウスケを背負って光写真館に帰った。襲われた夏海はというと次の日にはケロッとした表情で普通に起きていた。ただ首筋には何かに噛まれたような歯型があり、エヴァに何かされたのかという懸念はあった。
(エヴァに直接会って聞いてみるか……まあ登校しているかどうかは解らないけどな)
「士せんせー! おはよー!」
その時、後ろから3−Aの生徒である早乙女ハルナと綾瀬夕映、そして昨晩夏海同様襲われていた宮崎のどかがやって来た。
「よう、メガネにオデコ……それに本屋ちゃんだっけか?」
士は名前を覚えるのが面倒になったのか、生徒達に雰囲気と見た目で付けた仇名で呼んだ。
「何それ仇名? ちょっと安直じゃない?」
「オデコちゃん……」
オデコちゃんと名付けられた綾瀬夕映は、自分の広めのオデコをさする。ちなみに手元には「シュルトケスナー藻ジュース」と書かれたパックジュースが握られていた。
その時、のどかがぺこりと頭を下げてきた。
「あの……昨晩はありがとうございました」
「そうそう、昨日のどかが吸血鬼に襲われた時に駆け付けてくれたんだって? 明日菜と木乃香から聞いたよー」
「私達からもお礼を言わせていただくです」
のどかはあの後夏海と共にユウスケ達に保護され、そのまま木乃香と一緒に寮に帰って行った。事件の事はすぐに気絶していたのであまり詳しい事は知らない。
「結局あの吸血鬼さんは何者だったのでしょう? 私の名前を知っていたみたいですけど……」
「さあな、意外と近くにいるんじゃねえの?」
「あ! 士先生おはよー!」
その時、今度は明日菜とその背後を歩く木乃香がやって来た。ちなみに明日菜の肩には何故か半泣きのネギが担がれている。
「明日菜さん……ネギ先生は一体どうしたのですか?」
「い、いやーちょっと諸事情で学校に行きたくないって言ってぐずっちゃってね……無理やり連れてきたの!」
「だ、だって〜……」
そんなネギの姿を見て、士ははあっと溜息をついた。多分昨日のエヴァ襲撃が大分堪えたのだろうと大体の事情を察した。
「やれやれ、そんな調子でこれからやって行けるのか?」
「まあこいつもまだまだおこちゃまだしね、こんな事にもなるわよ」
そう言ってアスナはネギを担いで先に行ってしまった。そんな彼女の後姿を見て、士は自然と口から笑みを零していた。
「成程、粗暴な奴かと思ったら意外と面倒見のいい奴なんだな」
「お、解っているじゃん先生―」
「私達も急ぐですよ、もうすぐHRが始まってしまうです」
そしてアスナの後を追うように、士達も校舎へ向かう歩みを速めた……。
☆ ☆ ☆
麻帆良学園中等部3年A組の生徒、春日美空はとても疲れていた。実は彼女自身、普段は教会でシスター見習いをしながら立派な魔法使いになる為の修業に明け暮れている魔法生徒である。
なぜ彼女が疲れているのかというと、原因は目の前の教壇で歴史の授業を教えている教師……門矢士にあった。
数日前、学園に士の赴任通知が届いたのだが、裏を調べてみると様々な事が解った。いや……解らない事が解ったと言った方が正しいのか。
まず門矢士の経歴、彼の出身校である東大の関係者やクラスメイトに問い合わせてみると、誰も彼の事を知らず、「門矢士」という卒業生がいるという記録のみが残っていた。
次に門矢士の住所、彼は現在桜通りに新しく出来た光写真館という所に住んでいるらしいが、その光写真館のあった場所は以前喫茶店だったという情報が多数寄せられており、ある日突然建物の外装ごと入れ替わっていたのだという。転入届も住民登録もいつの間にか市役所の資料室に保管されており、市役所の職員達はただただ首を傾げていたそうだ。
魔法を知る者達は門矢士とそれを取り巻く者達に疑いの目を向けた。現在この国には関東魔法協会と関西呪術協会という外来の魔法と国内の呪術の勢力と冷戦状態であり、関東魔法協会に属する麻帆良の魔法使い達は門矢士を関西呪術協会の回し者ではないのかと疑っていた。
そこで門矢士の情報を集めるべく、近くで監視させる者を置こうという話になり、まずは彼と同じクラスを受け持つネギ・スプリングフィールドにやらせようという案が上がった。のだが……。
「そんな重要な役を任せていいんですかね? ただでさえネギ君は修業の身の上、10歳で女子中学校の先生をやれなんていう無茶振り喰らっているのに……」
という、とあるベテラン魔法先生の意見によりその案は却下された。
ちなみにそのベテラン教師、以前他の学校でも教鞭を振るったことがあり、そこでいじめや学級崩壊などの現在教育機関が抱える問題を直に体感し、教師というものがいかに難しいか理解していた。それ故にこの麻帆良学園の生徒達が(人間性の面で)温厚とはいえ、十歳の少年に教師をやらせるのはまだ早いし生徒達にも悪影響を及ぼすと、ネギの赴任に反対して彼の出身校でありその修業を課したウェールズの魔法学園に抗議したことがあった。
その先生の言う事ももっともだと少数ながらも反対意見が出始め、ではネギ君にはこの事は伏せておくとしてじゃあどうするんだとなった時、麻帆良の教会に勤めるシスターシャークティが挙手をする。
「じゃあネギ君の生徒でもある美空にやらせましょう」
という師匠兼保護者の一言により、春日美空は門矢士、並びにそれを取り巻く光写真館の面々の監視を命じられたのだった。
(メンドクサイなあ……私はあまり面倒事に首を突っ込みたくないんだけど、つかこの人色々おかしいでしょ、スペック的に)
美空は士がチョークを走らせる黒板を見る。そこには士が大化の改新で中大兄皇子と中臣鎌足らが蘇我入鹿を討つ様子が漫画風にコマ割りで描かれていた。
「このように、朝廷を牛耳っていた蘇我一族を滅ぼした二人は公地公民、国郡制度、班田収授の法、租庸調の税制度を作り上げた。テストに出るのはこれぐらいだな」
「すげー! わかりやすいー!」
「速筆ってレベルじゃねー!」
解りやすく要点だけ教え、さらに楽しさを感じる士の授業は、秀才、天才が多いのに足を引っ張ってクラスの平均点を下位まで引き下げている層に概ね好評だった。
(さっきの体育の授業でも、体育の教師が休みと聞くや否や俺が受け持つとか言い出し、うちのクラスのスポーツバカ達と超人テニス対決してベストバウトを繰り広げたし……どうやったらテニスボールが勝手に燃えたりコートにめり込んだり、観客席を破壊したりできるんだよ、まあ忍術やら中国拳法やらスナイプやらで対抗するうちのクラスの奴等も大概だが、東大の前はテニスのプリンス様が集う高校にでも通っていたのか?)
あまりにもツッコミ所が多くて疲れはじめる美空、それでも脳裏におっかない自分の師匠の顔が浮かび、黒目全開ではぁーっと溜息をつく。
(はあ……でも何かしら報告しなきゃいけないよな、しゃあない探りを入れてみるか)
☆ ☆ ☆
その日の昼休み、四時間目のチャイムが鳴り終えると共に美空は士の元に向かった。
「士センセー! よかったら昼食一緒に食べません!?」
「春日美空か……いいぜ」
その様子を見たクラスメイトの一人、柿崎美沙は悔しそうに歯噛みしていた。
「あーん! 美空に先越された! 私も誘おうと思ったのに!」
「美沙、アンタ彼氏いるでしょ」
そんな彼女に友人の釘宮円はすかさずツッコミを入れる。そんな彼女達を尻目に、士は美空と共に教室を出た。
「そういや先生、お弁当持ってきたの?」
「いや、どこかで適当に買おうかと思って……」
「おーい士―」
するとそこに、布に包まれた弁当箱を持ったユウスケが、廊下を歩いて士達の元にやって来た。
「ユウスケ? どうしてここに……女子高だぞ?」
「お前の知り合いだーって言ったら入れてくれた。それよりほら、栄次郎さんがお前の昼食にーって」
そう言ってユウスケは士に弁当箱を差し出す。どうやら栄次郎が気を利かせてユウスケに届けさせたらしい。
「お、サンキュー。爺さんも気が利くな」
「士先生? この人誰?」
美空の疑問に対し、ユウスケが代わりに答える。
「ま、こいつの仲間兼友達って所かな?」
「何言ってんだ、写真館に居着く居候だろうが」
「おおい! つかそれはお前もだろ!?」
じゃれるように言い争う士とユウスケ、その様子を美空は思案を巡らせながら黙って見ていた。
(居候……? やっぱ同居する友達って所なのか?)
そして士はユウスケから受け取った弁当を包む布をほどいて行く。
「どれ、爺さんはどんなのを作ったのか……」
布を取り、弁当箱のふたを開ける士、その中には……。
「大変おいしゅうございました〜。ゲェェェェェプ」
口元にご飯粒を大量に付けたモツが、汚らしいゲップを吐きながら弁当箱に敷き詰められていた。
「……おいカエル、俺の弁当の中身は?」
「いやー、味見していたらいつの間にか全部食べてしまいました。いい意味で〜」
次の瞬間、士はモツをムンズと鷲掴みし、近くの窓を開けてモツを外に放り投げた。
「あ〜れ〜」
モツはそのままキランと空の彼方に消えていった……。
「……購買行こうか、先生」
心情を察した美空が、士の肩に手をポンと置く。すると士はユウスケの肩に手をポンと置いた。
「お前の奢りな」
「えええええええええ!!!? なんで!!!?」
「当たり前だコラ!! ぬか喜びさせやがって!!」
☆ ☆ ☆
数分後、士達はおいしいパンが売っているという購買に向かう為、池がある学園の中庭にやってくる。するとそこで沢山の肉まんが入った箱を抱えた3―Aの生徒である四葉五月と遭遇した。
「あ、先生こんにちは」
「四葉五月か、どうした?」
「実は今度麻帆良祭で出店をする為、新作肉まんを開発したのですが作りすぎちゃって……よかったら皆さんでどうぞ」
そう言って五月は沢山の出来立てホカホカな肉まんが入った箱を差し出す。
「五月……今度通信簿オール5にしてやる」
「おいおい、贔屓は辞めろよ……」
と言いながら、ちゃっかり士と一緒に肉まんを手に取るユウスケ。それを見ていた美空は首を傾げる。
(う〜ん、ちょっと変わった所もあるけど、別に私達に危害を加えるような人達じゃないと思うんだけど……先生達の心配のし過ぎじゃないのか?)
美空はこの時点で、士は学園に害を成すような人物には見えないと判断していた。そして自分も五月の肉まんを貰おうとした時……ネギがこちらに近付いて来ている事に気付いた。
「あ、士先生……」
「ようネギ先生、お前も食べるか?」
そう言って士は肉まんを差し出そうとするが、ネギは少し不安そうに首を横に振った。
「い、いえ、ちょっと士先生と昨晩のことでお話があって……皆さんがいると話しづらいというか……」
(昨晩? そう言えば昨日、エヴァンジェリンが何かやらかしたと先生達が話していたっけ、ネギ君の様子がおかしいのも、エヴァと茶々丸と亜子が欠席したのも何か関係しているのかな?)
ネギの様子を見て色々思案を巡らせる美空。
その時、少し離れた場所から生徒らしき者達の悲鳴が複数聞こえてきた。
「!? なんだ!?」
その場にいた一同がその方角に視線を向ける。するとそこには……。
「グオオオオオオ!!!」
「うわあああ!? 怪人だああああ!?」
ワニを思わせるようなオレンジ色の怪人が、逃げ惑う生徒達を尻目に校舎の壁や辺りにあった電灯やベンチを手当たり次第に破壊していた。
「か、怪人出てきたあああああああ!!!?」
さっきまで普通の日常を送っていたのに(魔法云々に関してはとりあえず横に置き)突然それを吹き飛ばす怪人の出現に、美空は思わず大声を上げていた。
「……なんだアレ? この辺に生息してんのか?」
「いえ、私は知りません」
士の質問に、五月は周囲がびっくりする位冷静に答える。肝が据わっているにも限度があるよ! という周囲のツッコミが無いのが不思議である。それどころではないということなのだろうか。
「グオオオオ!!」
「ひえええええ! 助けて〜!」
「あ! アレはまき絵さん!?」
その時、ネギ達はワニ怪人のすぐそばに3−Aの生徒の一人である佐々木まき絵が腰を抜かして尻もちをついている事に気付く。恐らく逃げ遅れたのだろう。
「やべっ!」
「テル……!」
美空は咄嗟に懐に忍ばせていたカードを、ネギはいつも持ち歩いている身丈以上の長さがある杖を手に掛けるが、すぐに動きを止めてしまう。
(駄目だ! 一般人の前で魔法を使ったら……!)
二人は周囲にまだ一般生徒がいる事に気付き、怪人を攻撃することを躊躇ってしまう。その時……。
「これ持ってろ!」
「俺のも!」
「ふえ!? あちちちっ!?」
突然士とユウスケはネギに自分達が持っていた肉まんをパスすると、一直線にワニ怪人の方に向かって行った。
そしてユウスケはワニ怪人に体当たりし、そのまま押さえつける。一方士は腰を抜かしているまき絵を立たせた。
「後は俺に任せてさっさと逃げろ」
「え? あ、はい!」
そう言ってまき絵は一目散にネギ達の元へ逃げて行った。それと入れ替わるように、ユウスケが振り払われて士の元に転がって行った。
「痛っ! つつつ……! 何なんだこのワニ!?」
「俺が知るか! ろくでもない奴なのは確かだが……!」
士は舌打ちしながらバックルを腹部に当てて腰に巻き付かせると、懐からディケイドのライダーカードを取り出す。一方ユウスケはすぐさま立ち上がり両手を腹部周辺に添える。すると彼の腰に赤い宝石らしきものが填まっている銀色のベルト……アークルが巻かれた。
「変身!」
[カメンライド]
士はディケイドのカードをバックルに装填し、そのまま両手で横から挟むように押し込む。
[ディケイド!]
9つの幻影が重なると共に仮面ライダーディケイドに変身した。
「変身!」
一方ユウスケは右手を二本指を立てながら頭の高さで左から右に振った後、その右手を左腰のスイッチに乗せていた左手に押し込むように乗せる。するとアークルの中心の赤い宝石が強い光を放ち、キュインキュインと機械的な何かが回転する音が発せられる。そしてユウスケは黒いボディスーツの上に赤い装甲を装着し、顔には金色のクワガタを連想させるような角、紅の複眼をもつ戦士……仮面ライダークウガに変身した。
「変身したああああああああ!!!?」
何の躊躇いもなく、人前で、魔法らしきものを使わず、見たことのない異形の……否、朝の特撮番組とかでみたようなヒーローに変身した士とユウスケを見て、美空は本日二度目の絶叫を響かせる。そして周囲にいた逃げ遅れた生徒達やまき絵、そしてネギも目の前の光景にただただ呆気にとられていた。
「ちょうどいい、ハンドバックにしてやるぜ」
「お! いいなそ……れっ!」
そんな周囲の反応はお構いなしに、ディケイドとクウガはほぼ同時にワニ怪人にミドルキックを喰らわせる。
「グルアアアア!!?」
ライダー二人の同時攻撃にワニ怪人は吹き飛ばされ近くのテーブルに激突する。そしてその際銀色のメダルを何枚か落とした。
「なんだコイツ? メダル出したぞ?」
「一体どういう生き物なんだ?」
ディケイドは疑問を口にしながら、腰に掛けていたライドブッカーを手に取りそれをソードモードに変形させ、そのままワニ怪人に突っ込んで行った。
「へぁ! はあ!」
起き上がろうとするワニ怪人を何度も斬り付けるディケイド、しかしライドブッカーを横に振ろうとした時、ワニ怪人はその腕にガブリと噛み付いた。
「ぐあああああ!?」
「士!」
腕が千切れそうな痛みが腕に走り、ディケイドは思わず声を上げる。それを見たクウガはすぐさま飛び上がり、ワニ怪人にとび蹴りを見舞ってディケイドを救出する。
「ゴガアアアア!!!」
「ぐううううう!!!」
吹き飛ばされて地面に転がり、それに怒って今度はクウガに襲い掛かるワニ怪人、クウガは暴れるワニ怪人を必死に抑え込んでいた。
「野郎、やりやがったな……!」
危うく腕を食いちぎられそうになりちょっと起こったディケイドは、地面に落ちたライドブッカーを拾い上げ、その中から一枚のカードを取り出す。
「目には目を、歯には歯を……!」
バックルを再び装填モードに変形させ、取り出したカードを挿入するディケイド。
「牙にはキバを……ってね!」
[カメンライド]
バックルを挟むように押し込む。
[キバ!]
すると笛の音と共にディケイドの体に突然鎖が巻き付いて行き、それがガラスのように弾けると、ディケイドは赤いボディに左足には蝙蝠の羽が閉じたようなデザイン銀色のブーツ、そして顔には翼を広げた蝙蝠のような形をした黄色の複眼……ディケイドキバに変身した。
「姿が変わった……!!?」
さっきのとはまったく趣向の異なる戦士に変身したディケイドを見て、美空は慣れたのかさっきより声のボリューム少な目で驚きの声を上げる。
「ユウスケ!」
ディケイドキバはクウガに掴みかかるワニ怪人をパンチで吹き飛ばす、そしてまたカードを取り出した。
[フォームライド]
[キバ・バッシャー!]
変身した時と同じ手順でカードをバックルに装填する。するとディケイドキバの右肩が半魚人を思わせる緑色の鱗と鰭を纏った物に変化し、複眼も緑色に変化したキバ・バッシャーフォームにフォームチェンジした。そして手には魚人のようなデザインが施された銃……バッシャーマグナムが握られていた。
「アイツの噛み付きは厄介だ。距離を取って攻撃するぞ」
「どうやって!? ……ああ成程」
ディケイドキバの意図を理解したクウガは、彼からバッシャーマグナムを受け取るとアークルにある緑色のスイッチを押した。
「超変身!」
するとクウガは体と複眼を緑に、バッシャーマグナムをボウガン型の武器……ペガサスボウガンに変質させる。クウガペガサスフォームにフォームチェンジしたのだ。
「一斉射撃だ」
「OK!」
ディケイドキバはガンモードに変形させたライドブッカーの、クウガはペガサスボウガンの標準をワニ怪人に向け、そのまま引き金を引く。
「ゴガアアアア!!!」
弾数はそんなに多くないが威力のあるエネルギー弾と空気弾の一斉射撃を受け、ワニ怪人はメダルをばら撒きながらよろめいた。
「これでもっと削り取ってやる」
[フォームライド]
[キバ・ドッカ!]
次にディケイドはキバ・ドッカフォームにチェンジし、複眼と右肩を紫色に変色させ、右手に巨大な紫色のハンマーを手に取った。
「よし俺は……これだ!」
一方クウガはアークルにあった青いスイッチを押しボディを青色に変色させ、落ちていたビニール傘を拾い上げてそれを棒状の武器……ドラゴンロッドに変化させる。スピード重視の形態、クウガ・ドラゴンフォームにチェンジしたのだ。
「はああああああ!!」
クウガは一気にワニ怪人との距離を詰め、ドラゴンロッドの連撃を次々と叩きこんでいく。
「グゴッ!」
ワニ怪人はメダルをジャラジャラと落としながらクウガの攻撃を受けながらも反撃しようと腕や尻尾を振り回す。だが……。
「そらそらそら!!」
「グゴゴ!」
クウガより一拍置いて距離を詰めてきたディケイドキバのドッカハンマーによる重い攻撃を受けて、ワニ怪人はさらにメダルを散らかしていく。
「グググ……!」
分が悪いと感じたのか、ワニ怪人はディケイド達から一歩下がると、そのまま後ろにあった池にドボンと飛び込んだ。
「あ! こら待て!」
ディケイドらは慌てて池を覗き込むが、そこにはもうワニ怪人の姿は無かった。
「逃げられたか……」
「ま、次来た時に確実に仕留めればいいだけだ」
そう言って二人はベルトを外し元の人間の姿に戻る。そして怪人が散らかしたメダルを一枚拾い上げた。
「あのワニが落としたこのメダル……なんだと思う?」
「さあ……?」
「何らかのマジックアイテムかな……?」
ふと、士とユウスケは自分達のすぐ横で、美空がメダルを拾い上げて難しい顔をしている事に気付く。
「それが何だかわかるのか?」
「うーん、魔力みたいなのは感じるけど…………!!?」
その時美空は自分の迂闊さに気付き、慌ててメダルを投げ捨てて乾いた笑いを浮かべながら弁明する。
「あ、あははー、昔見たアニメにこんなアイテム出てきててねー!」
「ふーん……まあいいか」
士は取り敢えずネギの元に戻って行き、彼に預けた肉まんを受け取る。
「預かってくれてありがとうな」
「あ、あの士先生……」
ネギは何か言いたげだったが、すぐに口を噤んで俯いてしまった。士はそんな彼に声を掛けようとしたが……。
「先生すごーい!!」
「ごふっ!!?」
自分が助けた生徒……佐々木まき絵に横からタックルされて怯んでしまった。
「ねえねえねえ! さっきの変身ってどうやったの!? あの怪人何!?」
「あああうるせえ! 一気に答えられるか!」
「いや、先生には色々答えて貰わないとねえ……」
その時、士達の横から赤いパイナップルヘアーの女子生徒が現れた。
「あ、和美ちゃんもいたの?」
「もちろん! ばっちり撮らせてもらったよー! 先生とそこのユウスケって人がヒーローっぽい何かに変身するところを!」
そう言ってパイナップルヘアーの女子生徒……3−Aの朝倉和美は自分愛用のカメラをプラプラと士達に見せびらかす。
「なんだ? それで俺達をゆすろうってのか?」
「そんな事しないよー、“学園に現れた謎の怪人、それに立ち向かう謎のヒーロー!”ってものすごい特ダネじゃない!? 幸い他の生徒達はさっさと避難して殆ど先生が変身した所を見ていないみたいだし……このネタは私が独占しようと思う訳!」
和美は鼻息荒げに熱弁し、レコーダー付きマイクを士に向ける。
「という訳で……私に独占インタビューさせてください!」
「インタビューか……別にいいがその前に……」
その時、学園に昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「まずは午後の授業を受けてからだ。インタビューは放課後にな」
「ちぇー、解りましたー」
「いやー、すごい物見ちゃったよー、じゃあネギ君一緒にいこー」
和美は不満げに口を尖らせながら、五月と未だ興奮冷めやらないまき絵と先程から無口なネギと共に教室に戻って行った。
一方、その一部始終を見ていた美空はというと……。
(突然現れたワニの怪人に、ヒーローっぽい何かに変身した先生と知り合いの人……報告しても信じて貰えないだろうな……)
美空は自分の上司に士が変身した事などをありのまま報告しても、もしかしたら信じて貰えずに怒られる可能性を危惧していた。さらに彼女は面倒事を嫌う性格なので、これ以上士達に関わるととんでもない事に巻き込まれるだろうと直感し、ある結論に達する。
(……よし、今のは見なかったことにしよう、シスターには怪人が出てきたとだけ伝えとこ!)
そして美空はウンウンと頷き、すぐさまスキップ交じりでその場を離れようとする……が。
「美空、ちょっと待て」
士にガシッと肩を掴まれてしまう。
「な、何すか? 私も授業に出ないと……」
「お前も放課後写真館に来い。このメダルについてもっとよく調べてもらうからな……魔法使いさん?」
(な、何で知ってるのおおおおおお!!?)
美空は士が自分が魔法使いである事を見抜いたことに驚愕し、これからとてつもなく面倒な事に巻き込まれることを予感する。
奇しくもその予感は的中することになるのだった……。
☆ ☆ ☆
朝倉和美は士達が変身した所を目撃した者は自分達以外にはいないと言ったが、それは大きな誤りだった。近くの草むらで、小さな二つの瞳が一部始終を目撃していたのだ。
(すげー! なんだあのパワー! あの人にパクティオーしてもらえりゃきっと……ぐふふふふ!)
そして小さな影はそのまま大入浴場の方角に向かって行った……。
☆ ☆ ☆
3−Aの生徒の一人、長谷川千雨は昼休み終了のチャイムを聞いて、食堂から教室に戻る最中だった。
(なんか外で騒ぎがあったみたいだけど何なんだ? まあ私には関係ないか)
千雨は愛用のノートパソコンを抱えながら教室に戻ろうとする。その時ふと……誰も居ない筈の空き教室を横切った時、中から聞き覚えのある声がするのに気付いた。
「ん……?」
千雨は気になって教室の中をこっそり覗き込む、するとそこには女子生徒が一人、誰かを待つように机の上に座っていた。
(和泉……? 今日休みの筈じゃ……?)
その少女が今日欠席した和泉亜子だという事に気付いた千雨は、なぜ彼女がここにいるのか不思議に思って行った。
その時……突然窓からワニの怪人がよじ登って来た。ワニの怪人はそのまま亜子の元に近付いて行く。
☆ ☆ ☆
「ご苦労様、首尾はどう?」
亜子の質問に対し、ワニ怪人は違う机の上に手を添える。すると手からジャラジャラと銀色のメダルが蛇口をひねった水のように出てきた。
「うーん、予想より少ないなあ……やっぱり途中で邪魔が入ったからか……」
そう言って亜子は机の上のメダルに対しお尻を向ける。すると学生服のスカートの中からオレンジ色の尻尾が出てきて、メダルをまるでゴクゴクと飲み込むように取り込んでいた。
「うん、でもこの調子なら僕も体を取りもどせ……いいかげんにしいや……!」
その時、亜子は自分の尻尾を引き抜かんとするぐらい鷲掴みにする。よく見ると彼女の瞳は右がオレンジ、左目が彼女が本来持つ紫色の輝きを放っていた。
「あ、やばい。目を覚ましちゃった? 覚ましちゃったやあらへん! よくもうちの体を使って変な事を……! まき絵を襲わせたな!」
そう言って亜子は自分のお尻から生えるオレンジ色の尻尾を思い切り引っ張る。
「ちょちょちょ!? や、やめてって!! 今抜けたら体が維持できないんだから! うるさい! 早くうちの体から出てけ!」
何も事情を知らない者(千雨含む)から見れば亜子の愉快な一人芝居にしか見えない。ワニ怪人もどうしていいか解らずオロオロしていた。
そしてしばらくすると、亜子は両目をオレンジ色に輝かせながら椅子に座りこんだ。
「危ない危ない……まさかこの体が早めに自我を取り戻すなんて……こりゃ急いだ方がいいかな」
そう言って亜子は取り込まなかった銀色のメダルを一枚拾い上げ、それを二つに割った。すると……。
「オオオウ……」
「ウウウウ……」
割れたメダルはそれぞれミイラを思わせるような包帯を巻いた灰色の怪人になった。亜子はさらにメダルを割り、合計で十二体のミイラ怪人を
「次は彼等を使ってメダルを集めるように、まだあいつらがウロウロしているだろうから人間がいない夜を待って行動するようにね」
「グガッ!」
ワニ怪人は答えるように鳴くと、そのままミイラ怪人達と共に窓の外へ飛び出して行った。
☆ ☆ ☆
「……」
一部始終を目撃した千雨は静かに扉を閉め、とりあえず色々思案を巡らせる。そして……一つの結論に達した。
「……うん、パソコンのし過ぎで幻覚が見えるようになってしまったか。今日は早退しよう」
無理やり自分を納得させた千雨は、そのまま寮の方に歩いて行った……。
☆ ☆ ☆
ワニ怪人が居なくなった教室で、亜子は一人机に腰かけて窓の外の風景を眺める。すると……脳内でこの体の持ち主である本物の亜子が語り掛けてきた。
(なあ、ホンマにアンタ何者なん? うち一生このままやの……?)
「……安心しなよ、セルメダルが集まってグリードとしての体を取り戻せれば、君の体は返してあげる。自分の体で動く……それが僕の欲望だから」
(欲望?)
亜子はそのまま窓辺まで足を運び、空を眺めながら自分が生み出された時の事を語り始めた。
「僕は人の欲望から作られるメダルで出来たグリード。僕を作った王様は……アンクやウヴァ、カザリやガメルやメズールには体と名前を与えたのに、僕には何もくれなかった。その人も反乱を起こしたアンク達の戦いの中でオーズの力に飲み込まれて消えちゃって、僕達はずっと長い間暗い棺の中で眠っていた。その間に僕の中のコアメダルは何故か6枚減っていた。多分誰かが盗んじゃったんだろうね」
(コアメダル?)
「僕達グリードの核になっているメダルの事さ、全部で10枚あるけど……残りの3枚も僕を起こした人達に持ってかれちゃった。僕を起こした人達は僕に体をくれたけど、その代り縛り上げて色んな実験の土台にさせられた……これじゃメダルだけだった時と変わらないと思って逃げ出したんだけど、その際大きなダメージを負ってね……尻尾だけになってどうしようと思ったとき、精神が死にかけていた君を見つけて体を借りさせてもらったって訳」
(そうだったんか……)
「ねえ、君はどうして死にかけていたの? 怪我も病気もしていなかったみたいだけど……」
すると本物の亜子はしばらく黙り込んだ後、少し気恥ずかしそう答えた。
(あ、あのな……うち失恋したんよ、サッカー部の先輩に告ったけど、実は彼女いる言われて……)
「シツレン? シツレンって何?」
亜子は本物の亜子が放った“失恋”という生まれて初めて聞いた言葉に興味を示した。
(うーん……好きな人がいて……その人に好きって伝えたけど、相手は別に好きな人がいて自分の子とは好きじゃないってわかった時……かな?)
「それって……欲望が満たされないって事?」
亜子はすごく恐ろしそうに自分の体を抱きしめた。
「怖いなあ……欲望が永遠に満たされないって、僕だったら消えちゃいそうだよ、だから君は消えそうだったんだね」
(う、うーん……まあそういう事になるんやろうか?)
本物の亜子は自分の体を乗っ取っているこの尻尾の怪人が、なんだか単純に“自分の体を好き放題使って友人達を襲った悪者”と見るのは早計のような気がしていた。
(この子……赤ちゃんみたいなものなのやろうか? 何がいいのか悪いのか解らなくて、取り敢えず暴れているみたいな……)
「とにかく、僕が自分の体を得るまでもうちょっと待っていてね?」
(人を傷つけるのは無しやで、ええっと……)
本物の亜子は自分の体を乗っ取っている尻尾の怪人をどう呼べばいいか悩み、そしてぽつりと漏らす。
(名無しの尻尾怪人君か……)
「“ナナシ”? 何それ?」
(うん? 名前が無いって意味やけど……)
すると亜子の体を乗っ取っている怪人はハッと顔を上げ、教室の中をくるくると回り始めた。表情は何故か晴れやかな笑顔になっていた。
「そうだ! 名前が無いなら僕が決めよう! 僕の名前は“ナナシ”だ! 君が付けてくれた名前だ!」
(え、ええええ!? それでええの!?)
「うん! 僕自身が気に入ったからいいんだ! やった……! やっと名前を手に入れたぞ!」
まるで前から欲しかったものがある日突然プレゼントされた子供のように喜ぶ怪人。亜子はそんな彼に驚きながらも、彼の笑顔を見て(といっても自分の顔だが)少し自分も喜んでいる事に気付いた。
(ホンマ……見てて飽きないわぁ……)
その日、爬虫類系グリード……ナナシは、“自分の名前が欲しい”という欲望を満たした。……。
☆ ☆ ☆
その日の夜、光写真館には5人の来客があった。
一人は朝倉和美、目的は昼間に仮面ライダーに変身した士とユウスケにインタビューするため。
二人目、三人目、四人目は大河内アキラ、明石祐奈、佐々木まき絵。目的は前者二人は現在行方不明の友人の事について士に相談しにやって来て、まき絵はその件と一緒に昼間の怪人事件で命を救ってもらったお礼にとお菓子を持参して来ていた。
「ふーん……つまり士先生は、仮面ライダーディケイドとして世界を救う為にいくつもの次元世界を旅していると……」
「ま、簡単に言えばそうなるな」
まき絵が持ってきたお徳用チョコを一つ放り込みながら、士は和美のインタビューにどんどん答えていった。
その脇で、夏海はコーヒーを啜っているユウスケに話し掛けた。
(いいんですか? 学生とはいえマスコミに私達の素性ベラベラ喋って……)
(あいつ絶対いい気になって受けているな……まあ大丈夫だとは思うけど)
そして一通りインタビューを終え、和美はメモ帳をぱたんと閉める。それを見た士は前のめりに座りながら彼女に話し掛けた。
「で? いい記事は書けそうか?」
「うーん……話は面白いけど難しいかな? まず信じて貰えなさそう」
「だよなあ」
そう言って士は背を凭れ掛けさせる。
「ふつー違う世界から来たなんて話誰も信じねえよな。俺だって最近は普通の写真家だったってのに」
「普……通?」
「写真……家?」
士の一言に、ものすごく何か言いたげに首を傾げる夏海とユウスケ。
「まあ証拠写真はいくつか撮ったけど、ぶっちゃけこれだけじゃ特撮番組の撮影にしか見えないしねえ、かといって嘘は絶対書きたくないし」
「すごくカッコよかったのにー、二人の戦いぶり」
「いいなー、私も見たかったなー」
士達の戦いぶりを見て目をキラキラさせるまき絵とそれを羨む祐奈、そんな中二人の隣にいたアキラは少し不安そうな目で士に話し掛けてくる。
「あ、あの……もしかして亜子もその怪人っていうのに襲われたんでしょうか? 今日学校に来なかったのも……」
脳裏に一瞬、想定しうる最悪の光景がよぎり涙目になるアキラ、それをみた祐奈とまき絵は慌てて取り繕う。
「だ、大丈夫だよアキラ! 亜子はきっと帰ってくるって! ていうかまき絵! 一緒の部屋なのに何も知らないの!?」
「だ、だって今朝も居なかったけどてっきり部活か何かかなーっと思って!」
行方不明の友人の安否が解らず不安がる三人。すると士はすくっと立ち上がりアキラの手に肩を置く。
「ま、今慌てても仕方ない、今できることをするだけさ、なあ朝倉?」
「え? 私?」
突然自分の名前を呼ばれて戸惑う和美。そんな彼女を見て士はにやりと笑った。
「取材させてやったんだ、こうなったら少し協力してもらうぞ」
☆ ☆ ☆
数十分後、写真館を出たアキラ達はまっすぐ寮への帰宅の路に着いていた。
「いやはや、まさか私にあの怪人の事について情報を集めてこいだなんて……厄介な事に巻き込まれたなあ」
「でも和美っていつも色んな人にインタビューしているし、そういうツテを使った情報収集とかできるんじゃない?」
「士先生、それを見抜いて朝倉に自分達の事を話したのかも……」
アキラは士の人の特性を見抜く力に感心していた。そして和美もまた、自分が頼られている事にちょっとした嬉しさを感じてにやついていた
「ま、インタビューさせてもらっちゃったしね! 亜子の行方も知らないし頑張るとしますか!」
「ん? あそこにいるのは……おーいネギくーん!」
その時、まき絵は寮の方からネギと明日菜が歩いて来ることに気付いた。
「あ……皆さん、どうしたんですかこんな時間に?」
「今光写真館に遊びに行っていた所だったんだよー、ネギ君も士先生の所に行くの?」
「は、はい、ちょっと大事なお話があって……」
そう言ってぺこぺこお辞儀しながらその場を去ろうとするネギ、その後ろに明日菜は付いて行った。
「それじゃーね四人共! また明日―! さっさと帰った方がいいわよー!」
そしてネギと明日菜はそのまま光写真館のほうに歩いて行った……。
「……ネギ君のあの態度、怪しい……」
「え? そうなの?」
「ネギ君だけじゃない、明日菜も昨日から何か隠している」
和美とアキラはネギ達のそわそわした態度を見て、これは何かあると確信した。だがその一方で祐奈は能天気に笑っていた。
「えー? 何かの勘違いじゃない? 確かに今日のネギ君元気なかったけどさ」
「昨晩の桜通りの件も、話はぐらかされて逃げられちゃったんだ……でも明日菜、きっと何かを隠している」
「よーっし! ちょっとついていってみよう!」
まき絵は率先して今来た道をUターンして歩き出し、他の三人もその後ろを付いて行った……。
☆ ☆ ☆
数分後、光写真館に今日三度目の来客があった。客はネギと明日菜である。
「ようネギ先生……なんか心なしかツヤツヤしていないか?」
「あはは……ちょっと大浴場でクラスの皆さんに全身を洗われてしまったというか……」
(成程……だから朝倉達、予定より少し遅れて来たのか……)
士は全身綺麗になっているネギを見て、3−Aのクラスは中々飛び抜けたクラスだなと思い苦笑する。
一方明日菜は近くにあった椅子に座らされる。そんな彼女の元に……大きな皿に乗せた特大プリンを持った栄次郎が現れる。
「はい、さっき作りすぎちゃってねえ、よかったら二人でお食べ」
「わあー! ありがとうございます!」
明日菜は嬉しそうにプリンをスプーンで自分の口の中に入れていく。それを尻目に士はネギに話し掛けた。
「で? 俺に用ってなんだ?」
「あの……昨晩と今日の昼に見せたあの姿、アレは一体なんですか?」
「言わなかったか? 仮面ライダーだって」
士はコーヒーを啜りながら嘘偽りの無い事実を述べる。それを見たネギは自分のズボンをギュッと握った。
「あの……もしかして貴方は魔法使いなんですか?」
「俺が魔法使い? 俺は動物になったり手から火を出したりなんてできないぞ」
「まあライダーを知らない人から見れば、あれも魔法みたいなもんだけどな」
横で話を聞いていたユウスケは自分達は世界を巡る旅をしてきた事と、仮面ライダーについて簡単に説明する。
「違う世界から来た……!? 本当なんですかソレ!?」
「ちょっと信じにくいけど……魔法なんてものが現存しているしねえ」
ネギと明日菜は先程のアキラ達と同じようなリアクションを取る。それを見た士は面白そうに笑っていた。
「俺は生身で杖に跨りながら飛ぶお前の方が凄いと思うけどな」
「あ、あの! その事は皆さんに言わないでください! じゃないと僕……魔法協会にオコジョにされてしまうんです!」
「マジでか? 本当に魔法使いっぽいな……」
士は空になったコーヒーカップを置くと、改めてネギの方を向いた。
「で? 話はそれだけなのか?」
「いえ、その……実は士先生にお願いしたい事がありまして……」
「こっから先は俺が説明するぜ! 兄貴!」
その時、ネギの肩からにゅっと白いふわふわの体毛に包まれたオコジョが顔を出してきた。
「おー、今度は喋るオコジョですか」
「なんだアンタら? リアクション薄いな」
「いやだって、アレがいるし……」
そう言ってユウスケと夏海は視線をの方に向ける。そこには……。
「はーいしちみちゃん、私特製猫まんまだよ〜」
「いただきますみゃ〜」
「あーん栄次郎ちゃん! しちみばかり構って……まさか浮気!!?」
白いウネウネした猫(?)と妙に堅そうな白い蝙蝠と戯れる栄次郎の姿があった。
「今時喋る小動物ぐらいじゃ驚かねえよ。憑ついて体のコントロール奪うぐらいはしねえと」
「俺それでひどい目にあったしなあ……ビルから落ちたり尻に剣が突き刺さったり……」
「波乱万丈すぎでしょアンタ達……」
士達の達観振りに明日菜は疲れた顔でツッコミを入れる。多分彼女もネギに付き添っている所を見る限り、色々と常識はずれな光景を目の当たりにしてきたのだろう。
「話が逸れたな、俺にお願いしたい事ってなんだ?」
「おう、旦那達ってカメンライダーになれるんだろ? さっきの戦いぶり見させてもらったぜ! おっと自己紹介が遅れたな! 俺っちの名前はアルベール・カモミール! ネギの兄貴は命を救ってくれた恩人でよ、兄貴の姉さんに頼まれてイギリスから遥々こっちに来たオコジョ妖精さ!」
「妖精ですか! ふわふわして可愛い〜!」
夏海は思わずアルベール・カモミール……通称カモを抱き上げて、彼の頭を優しく撫でる。今まで出会った人間以外の生き物が特殊すぎたせいか、夏海の眼にはカモが常人の何割増しに可愛く見えていた。
そんな彼女を明日菜はジト目で諌める。
「気を付けてください、そいつ風呂場に潜り込んだり私達の下着盗む変態ですから」
「えーそうなんですか? こんなに可愛いのに……」
「ふっふっふ……この姐さんは俺っちの魅力が解っているようだな……ってまた話が逸れたな」
カモは夏海の腕から降りてテーブルの上に立つと、突然士とユウスケの前で頭を下げた。
「お願いですお二人共! ネギの兄貴の“パートナー”になってくれませんかね!!?」
「「パートナー???」」
突然訳の分からないお願いをされて首を傾げる士とユウスケ、するとネギが補足を加えてくる。
「僕達魔法使いは立派な魔法使いになる為に、大人になる前にパートナーになる人と“仮契約”をしなきゃならないんです」
「兄さん達の実力なら文句なしだ! アンタ達が力を貸してくれればあのエヴァンジェリンにも対抗できるぜ!」
「エヴァンジェリン……昨日夏みかんを襲ったあいつか、そういや今日学校に来ていなかったな」
士は昨日ちょっと戦ったエヴァンジェリンの事を思い出し、彼女に襲われた夏海の方を向く。その夏海はというと、近寄って来たしちみの体を呑気に撫でてほっこりしていた。
「あの女は吸血鬼の真祖で裏の世界では名が知れ渡っている札付きの悪党なんでさ! パートナーの茶々丸もいるし……アイツらに勝つにはパートナーを得てパワーアップした兄貴の力が必要なんでさ!」
「吸血鬼ねえ……普通じゃないとは思っていたが……」
「まあ力を貸すぐらいならしてあげるけど……その仮契約ってどうやってするんだ?」
ユウスケの質問に、カモはとてもいい笑顔で親指を立てながら答えた。
「ズバリ! 兄貴とキスしてもらうんでさ! 唇同士合わせてブチュッと!」
「か、カモ君ストレートすぎるよ!」
「キ……ス……?」
とんでも無い事を言い出すカモに呆気にとられるユウスケ、するとプリンを食べていた明日菜が補足を加える。
「どうもそのパートナー選びってさ……話を聞くところによると結婚相手を探す手段でもあるっぽいのよね」
「成程、じゃあユウスケには一生無理だな」
「なんだとこの野郎!?」
いつものようなやり取りをする士とユウスケ、そんな彼らにネギは立ち上がって頭を下げた。
「あの……僕からもお願いします! 仮契約なら一生僕と付き合うって事にもなりませんし! 僕がなんとしてでもエヴァさんやあの怪人を止めないといけないし、亜子さんの事も気になるし……!」
「「……」」
必死に懇願するネギを見て、士は黙って残っていたコーヒーを飲みほし、カップをテーブルの上に置いた。
「成程、確かに俺達のメリットは多いな」
「ええ!? それじゃあ!」
「が、断る」
はっきりと断りの意志を告げる士、ネギはそれを見て絶望に染まった顔をしていた。
「男同士でキスなんかできるか、そんなことしたら俺に惚れている全世界のファンたちに申し訳が立たない」
「まあそうだよな……俺っちが兄さん達の立場だったら1秒で拒否するわ」
「てめえこの野郎!」
あまりにも自己中心的でマイペースなカモに、ユウスケはついに怒って彼を摘み上げる。
「んぎゃ〜! 小動物虐待反対〜!」
「ったく……だから無理だって言ったのよ、男同士でキスなんてさせてもらえる訳ないでしょ?」
「で、ですよねー……」
明日菜に指摘されネギはがくんと肩を落とす。本人もダメ元でと考えていたのか、その表情に諦めが入り混じっていた。
「とにかく……だ、怪人の方は俺が何とかしてやる。だからお前らはエヴァンジェリンの方を何とかしろ。お前が魔法使いって事がバレると大変だってなら黙っておいてやるから」
「……わかりました、行きましょうカモ君、明日菜さん」
「ちぇー仕方ねえ、次のプランを考えるか……」
カモは少し不満げにしながらネギの肩に乗り、プリンを食べ終えた明日菜と共に正面玄関に向かって行った。
「プリンご馳走様でしたー」
「いつでも遊びに来ていいよー、今度はお友達を連れてね」
「じゃあ士先生……また明日」
ネギはぺこりと頭を下げると、重い足取りで光写真館から出て行った……。
そしてネギ達が居なくなったのを見計らって、夏海は士とユウスケに話し掛けた。
「二人とも……どうしてあんな突き放すような事を言ったんですか? 協力ぐらいならしてあげればいいのに……」
「……なんか気に食わないから」
士は機嫌が悪そうにぶすっと口を尖らせ、椅子に背を凭れ掛けさせた。
「気に食わない? それってどういう……」
「なんていうかアイツ。色んな物をしょい込みすぎなんだよな」
「それってどういう意味ですか?」
質問する夏海に対し、士は彼女の額を軽く指で小突いて答えた。
「そんな事も解らないようじゃお前もまだまだ夏みかんだな」
「何ですかそれ!!?」
起こった夏海は右手親指をしゃきっと伸ばし、それを見た士は何故か首筋を反射的に庇う動作をする。
「アイツはもっとクラスの女子達の事を見習った方がいいってことさ、まあ俺が言わなくても……神楽坂明日菜が全部伝えているだろうけどな」
「……?」
士のいう事が解らず首を傾げる夏海、そして士は写真館の奥の方に声を掛けた。
「おい、出てきていいぞ美空」
「へ、へ〜い……」
すると奥の方からすごく嫌そうな顔をした美空が現れた。彼女は一番最初に光写真館にやって来ており、アキラ達やネギ達の話を隠れて聞いていたのだ。
「話は聞いていたな? 俺達はあの怪人の事について調べるぞ、お前にも色々と協力してもらうからな」
「あの……私も魔法使いだってことがバレたらヤバいんですけど……」
「かといって、あんな状態のネギを頼るわけにもいかないだろ、でだ……あのメダルは何なんだ?」
士の質問に、美空は自分が回収したメダルを見せて説明を始める。
「まずこのメダル……これ一枚一枚が魔力の塊みたいなんだ。あの怪人は恐らくこのメダルが複数集まってできた生き物だろうね。こんな高度な技術……少なくとも私にゃ真似できないよ」
「メダルで出来た怪人か……初めて遭遇したタイプだな」
「見た感じだと闇雲に暴れていた感じだったけど、知能とかはどれぐらいあるんだろ?」
頭を捻り色々と考察する士達、しかしあまりにも情報が少なく、これだという結論を出すことが出来なかった。
「和美達の情報待ちだな……美空、今日はもう帰っていいぞ」
「そ、そうさせてもらうわー、シスター達も心配していると思うし……まあ何かあったら呼んでくださいよ。私も亜子がどうなったのか気になるし……」
そう言って美空はそそくさと光写真館を出て行った。それを見届けた夏海とユウスケは士に話し掛ける。
「大丈夫なんですか士君? 生徒さん達を巻き込んだりして……」
「もし本当に危ない事になったらどうするんだよ」
対して士は拝啓ロールの方を向きながら答えた。
「確かに俺はあいつらに協力を頼んだ。そしてあいつらは断る事だって出来たのにそうしなかった。友達思いだからなんだと思うぜ……なら俺はあいつらの力になってやるだけだ」
アキラ達はもちろん、嫌々ながらも友達の事が気になるからと言って士達に協力する美空を見て、士は3−Aの生徒達の絆の深さに感心していた。
(いいクラスだよな……3−Aは)
☆ ☆ ☆
光写真館の外、朝倉和美達はネギが帰った後もずっと窓の外から写真館の中の様子を拝んでおり、和美が持っていた聴診器代わりの紙コップで士達の会話も聞き取っていた。
「ねえねえ、士先生何を話していたの?」
「なんか美空も居たけど……ていうかネギ君の肩にいたオコジョ、喋ってなかった?」
「うーん……なんか魔法がどうたらとか、キスすればパワーアップするとか、そんな話してた」
和美達はそのまま写真館から離れ、今後の事について話し合っていた。
「明日菜やネギ君も何か隠しているみたいだったね。昨日の事件も何か知っているみたいだったのにはぐらかされちゃったし……」
「秘密にしなきゃいけない理由でもあるのかな? オコジョにされるとかどうとか言っていたし」
「まあ無理に聞き出すのも悪いし、私達は士先生に言われた事をやろう!」
祐奈の一言に頷く一同、そして彼女達は改めて寮へ戻って行くのだった……。
長くなったので今回はここまで。予想以上に長くなった……。
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