本編補足
[全12ページ]
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マルケルディア建国(後編)

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C11 橋頭堡

C12 戦勝祝い

C13 お留守番

C14 救難信号

C15 無意味な脱出

C16 奸臣

C17 あっけない交渉

C18 集う者達

C19 迫るもの

C20 陽の光

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C11 橋頭堡

 

トライデント三等貨物室。雑魚寝する自由戦士隊員達。

 

自由戦士隊員G『まったくよ。ベットが欲しいぜ。ベットが。』

自由戦士隊員F『同じ戦いにいたのによぉ、これはひどすぎるんじゃねえのか。』

 

シュラヴュラは腕に巻いたミサンガを見つめている。チンは窓を見つめる。

 

チン『お、美味そうな魚じゃねえか。捕まえれれば捌けるのによ。』

 

クトゥルゾフはチンの傍らに寄る。刀を肩にかけ座り込むヒデツグが窓の方を向き、下唇に人差し指を当てる。

 

クトゥルゾフ『流石、チンさんだな。ご馳走されたいもんだぜ。マメのスープはイマイチだからよ。』

 

チンは窓の方を向いて溜息をつく。

 

チン『大手チェーン店ができる前は、まっとうに暮らしていけたのに…。今では放浪の身か。』

 

チンは両手を広げ、掌を見つめる。自由戦士隊員Hが立ち上がる。

 

自由戦士隊員H『お、おい!上がっているぞ!!』

 

自由戦士隊員達は一斉に窓に詰め寄る。波飛沫が起こり、窓に水滴が付く。

 

自由戦士隊員A『浮上したのか?』

自由戦士隊員B『何処だ?この洞窟は…。』

 

窓に寄るデモス。

 

デモス『しかし、でかい洞窟であることは間違いないな。』

 

窓に映る洞窟の壁が進んでいく。

 

クトゥルゾフ『ここは何処なんだ?』

 

自由戦士隊員Hが自由戦士隊員達を手招きする。

 

自由戦士隊員H『おい、おい!』

 

窓による自由戦士隊員達。トライデントから階段が降ろされる。地下ドックに赤絨毯が敷かれ、二つの玉座が用意されている。玉座の横に立つナイトメア帝国インペルガの側近ナエルとナイトメア帝国シルヴィニア城太守で赤衣を羽織った蚊人のガーミラ。玉座の右には筋肉質の女鬼族で、ユグドラシル大陸王国の属領メアの長アポカリョプスが腕を組んで座っている。

 

左の玉座の上にはモニターがある。階段に近づくガーミラとナエル。ガーミラは腰に手を当てて、八重歯を出す口を動かした後、ナエルが口を動かす。階段から現れるアレクサンを先頭にマルケルディア都市国家軍高級武官達。

 

モニターにはナイトメア帝国のインペルガが映り、口を動かす。アレクサンが一礼し、跪くマルケルディア都市国家軍高級武官達。自由戦士隊員Aがアポカリョプスを指差す。

 

自由戦士隊員A『でけぇぞ!あの女。』

自由戦士隊員D『むちゃくちゃマッチョじゃねえか。』

自由戦士隊員E『あの額の角でつっつくのか?』

 

自由戦士隊員Gは眉を顰める。

 

自由戦士隊員G『おい、あいつら何て言ってんだ?』

 

クトゥルゾフが自由戦士隊員達を掻き分けて前に出る。

 

クトゥルゾフ『ほぅ、どれどれ…。』

自由戦士隊員G『お、吟遊詩人殿は読唇術が使えるんで。』

 

クトゥルゾフは頷く。

 

クトゥルゾフ『まあ、な。』

 

モニターの方を向き、口を動かすアポカリョプス。

 

クトゥルゾフ『フンッ、夢魔よ。相変わらず痩せ細った体をしておるのぉ、と。』

 

モニターに映るインペルガは眉を顰める。コップに注がれた飲み物を飲み干し、笑みを浮かべモニターを見つめる、再び口を動かすアポカリョプス。

 

クトゥルゾフ『貴様らは魔力に頼りすぎだ、いざと言うときに役に立たんぞ、と。』

 

アポカリョプスは立ち上がり、衣服の胸元を開き、口を動かす。

 

クトゥルゾフ『見よ。この体を。屈強な精神にあふれているだろう、我は力強いものに協力しよう、と。』

自由戦士隊員I『な、なんで棒読みなんだ。』

自由戦士隊員G『すごい!こんなにぜんっぜんうれしくない露出は今まで見たことがねえ。』

自由戦士隊員J『お、俺はいけるぜ。』

クトゥルゾフ『ユグドラシル大陸競技武術大会で私を失格にした奴らは許せんからな、と。』

 

アポカリョプスは胸元を閉じ、腕を組んで玉座に座り、カプセル状を飲み込む。

 

自由戦士隊員K『おいおい、奴がさっきから飲んでいる、飲み物といい、カプセルと言い何なんだありゃ。』

ラナイカ『飲んでいたのはプロテイン、カプセルは筋肉増強剤よ。』

 

暫し、唖然とする自由戦士隊員達。自由戦士隊員達は笑い転げる。

 

自由戦士隊員H『ゲ、ゲラゲラ、あ、あの鬼族の女、ひ、人に魔力に頼りすぎとか言って、自分は薬に頼りすぎじゃねえか!』

自由戦士隊員G『じ、自業自得だろ!そりゃドーピングってもんだ。』

 

マルケルディア都市国家軍高級武官の一人が振り向き、自由戦士隊員達の方を向くと、護衛のマルケルディア都市国家軍兵士を睨み付ける。トライデントに駆けていくマルケルディア都市国家軍兵士。アレクサンがたちあがり、手を広げる。

 

クトゥルゾフ『こちらを向いてないから分からんな…。』

 

モニターのインペルガが口を動かす。

 

クトゥルゾフ『確かにユグドラシル大陸王国の軍勢を破ったが率いていたのはパプピポパプンピピプ将軍とコザツクの族長。小手先の勝利にしか過ぎんな、と。』

自由戦士隊員A『おいおい、敵の将軍ってあんな立派な機動城塞にのれるのか?』

自由戦士隊員G『傍らにいい女、侍らせてたぜ。』

 

クトゥルゾフ『まあ、待て。』

 

パルメダヲが立ちあがり、横を向く。

 

クトゥルゾフ『お、これならできるぜ。』

 

口を激しく動かすパルメダヲ。

 

クトゥルゾフ『馬鹿なことをおっしゃいますな。我々はブゼン王の壮行会を襲撃し、その移動も全て軍用機のパイロットが目撃しております。ブゼンは妾のキッス・チャーミーを侍らせ、移動などしておりません。ゴウガメ岬で我々に敗れたのです、と。』

 

自由戦士隊員Iがクトゥルゾフの顔を覗き込む。

 

自由戦士隊員I『どういうこった?』

デモス『ユグドラシル大陸王国の正式な発表によるもの。大方、情報統制でも敷いたんだろ。』

 

クトゥルゾフはデモスの方を向いた後、窓の方を向く。

 

クトゥルゾフ『…国はナイトメア帝国として復帰したが、こんな勝利で本当にグリーンアイス連邦全都市国家の参戦などできるのか、と。』

 

デモスは腕組みをして2、3回頷く。

 

デモス『なるほどな。それで…。』

 

窓が水面下に潜っていく。

 

自由戦士隊員J『お、おいおい、何だ何だ?』

 

貨物室の壁を叩く自由戦士隊員達。

 

クトゥルゾフ『どうやらお開き、みたいだな。』

 

自由戦士隊員達は舌打ちして散開する。

 

シュラヴュラ『ちぇっ、いい暇つぶしだったのに。』

 

自由戦士隊員達は再び寝転がる。

 

C11 橋頭堡 END

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C12 戦勝祝い

 

ナイトメア帝国シルヴィニア城地下ドック玉座の間。笑い声。酒杯を飲み干すマルケルディア都市国家軍兵士達。玉座の方にはナエルとガーミラ、アレクサン及びマルケルディア都市国家軍上級兵士達がいる。

 

自由戦士隊員F『ひゃほほ〜い!久々の酒だぜ!』

 

自由戦士隊員Fはグラスの酒を飲み干し、口元を腕でぬぐう。玉座の方を向くクトゥルゾフ。顔を赤くしたカットラスがグラスを勢い良くテーブルに置く。

 

カットラス『せっかくの大勝というのに酒を飲み、食うだけだとはな。誰ぞ一曲、戦勝祝いの曲を!』

 

マルケルディア都市国家軍兵士達は顔を見合わせる。

 

カットラス『何だ、誰もおらんのか?楽隊でも構わんのだが…。』

 

マルケルディア都市国家軍上級兵士Aがカットラスに近寄り、耳打ちする。

 

カットラスは笑みを浮かべる。

 

カットラス『ほっほう。自由戦士隊員の中に吟遊詩人がいるのか。』

 

カットラスの方を向くクトゥルゾフ。マルケルディア都市国家軍上級兵士Aはクトゥルゾフを指差し、マルケルディア都市国家軍兵士達を向き、顎をあげる。クトゥルゾフに近づくマルケルディア都市国家軍兵士A。

 

マルケルディア都市国家軍兵士A『ご指名だ!』

 

クトゥルゾフは立ち上がり、マルケルディア都市国家軍上級兵士達を仏頂面で見つめ、ハープの弦を弾く。

 

クトゥルゾフ『

 

嘆きの一時 空しいだけの歓喜 

 

ただそこにあるものは ズタボロの終わりだけ

 

失くした時代と その犠牲に乾杯

 

まだ 見ぬ 未来に 平和を希望した

 

あゝ 長い時の間 人は つかの間の 安らぎを 渡り

 

そして その思いは 時とともに消え去っていく

 

 

 

眼を見開くマルケルディア都市国家軍兵士達、クトゥルゾフを見つめる自由戦士隊員達。唖然とするアレクサン。カットラスは顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

カットラス『貴様!この戦勝祝いにおいて!嘆きとは何だ!嘆きとは!!』

 

カットラスはグラスに入った酒をクトゥルゾフに浴びせかける。クトゥルゾフはハープをおろし、髪と衣服から酒を滴らせながら俯く。

 

カットラス『貴様のせいで座がしらけてしまったではないか!』

 

アレクサンがカットラスの腕を掴む。

 

アレクサン『止めないか!カットラス。』

 

カットラスは舌打ちして、座り込む。クトゥルゾフに近寄るアレクサン。

 

アレクサン『すまなかった。』

 

クトゥルゾフは掌を開き見つめる。

 

クトゥルゾフ『申し訳ありませんねぇ。レパートリーが無いのか…この場にあわない歌しか歌えなくて…。ヘボ詩人なんですよ僕は…売れないね、はは。』

 

アレクサンに一礼してクトゥルゾフは自由戦士隊員達の方へ戻っていく、カットラスを見、クトゥルゾフを見た後、席に戻るアレクサン。クトゥルゾフは溜息をついて座り込む。

 

クトゥルゾフ『…はぁ、いったい俺は何をやってんだか。』

 

ラナイカがクトゥルゾフの髪を拭く。ラナイカの方を向くクトゥルゾフ。

 

ラナイカ『クトゥルゾフちゃん、格好良かったよ。』

 

デモスがクトゥルゾフの前に酒の入った大きなグラスを置く。

 

デモス『まあ、飲めや。』

 

クトゥルゾフはなみなみと注がれた酒を見る。

 

C12 戦勝祝い

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C13 お留守番

 

シルヴィニア城地下ドック奥の間。ラナイカが呪文を唱え、波をつくってCx2-88級人型機構用のサーフボードで地下ドックにて波乗りするシュラヴュラ達。デモスの隣に寄り、苦笑いを浮かべるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『留守番の俺達がこんなことをしていちゃいかんでしょう。』

 

デモスは腕を組み、海面をサーフボードで移動するCx2-88級人型機構を見つめる。

 

デモス『これは訓練だ。まあ、アイディアはシュラヴュラの奴だがな。』

 

クトゥルゾフは座り込む。

 

クトゥルゾフ『訓練〜。』

 

クトゥルゾフは額に手をかざす。

 

クトゥルゾフ『遊んでるようにしかみえませんけどね。』

 

頬杖をつくクトゥルゾフを見るデモス。

 

デモス『それよりもお前に話がある。』

 

デモスを見上げるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『話?』

デモス『実は、お前とポピャとヒデツグでサポートチームを結成して欲しい。』

 

クトゥルゾフは眉を顰める。

 

クトゥルゾフ『へぇっ!じょ、冗談じゃねえよ!ヒデツグなんて何であんな怖い奴と…。』

 

デモスに詰め寄るクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『だ、たいたい何でそんな訳の分からん話がでるんだ!』

 

デモスは地下ドックの右端を見つめ、頭部にレドーム上の構造を持つCx2-88級人型機構を改造したものを見て顎を上げる。唖然とするクトゥルゾフ。

 

デモス『それがな。ボードを作る際の廃品であれをポポロゾフが作ってな。レドームスタといったか。いい性能だからよ。ポピャに1人だけでは無理だろう。』

 

溜息をつくクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『それで…。あの、俺おりさせ…。』

デモス『そうか。残念だな。俺の懐からの特別報酬が出て、ヒデツグは操縦担当、お前は伝達担当にしようと思っ…。』

 

クトゥルゾフは顎に手を当てて目玉を上に向けた後、笑みを浮かべる。

 

クトゥルゾフ『いえ、やりましょう。やってみせますぜ。』

デモス『そうか。そいつは良かった。じゃ、ポピャとヒデツグには伝えておく。』

 

サクリュオスが駆け足で現れる。振り向くデモスとクトゥルゾフ。

 

サクリュオス『自由戦士隊の玉座での騒ぎを何とかして頂きたいのですが!』

 

デモスは腕を組んでサクリュオスを見つめる。

 

デモス『騒ぎ?ああ、しかし、あの酒宴は元々この城の太守が言い出したこと。』

サクリュオス『ですが、隊の士気にかかわります。』

クトゥルゾフ『だったら、あんたが止めさせればいいんじゃねえか。』

 

サクリュオスは眉を顰める。

 

サクリュオス『わ、私では全然話にならないのでこちらに…。』

 

デモスは溜息をついてクトゥルゾフを見つめる。

 

デモス『行ってこい。』

 

クトゥルゾフの背を叩くデモス。

 

クトゥルゾフ『はへぇ!な、何で俺が!お、おかしいだろ!』

デモス『吟遊詩人としてのお前の舌を見込んでだな。』

 

クトゥルゾフはデモスを見つめる。デモスが懐から1000ピカ札を10枚取り出し、上下にふる。眼を見開くクトゥルゾフ。喉を鳴らし札束に手を伸ばすクトゥルゾフ。デモスは札束をクトゥルゾフから遠ざける。

 

デモス『これは成功した時の報酬だ。』

 

クトゥルゾフはそっぽを向く。

 

クトゥルゾフ『わかりましたよ。やる!やりますよ!』

 

デモスに背を向けて歩いていくクトゥルゾフ。唖然とするサクリュオス。サーフボードを抱えてドックから上がるCx2-88級人型機構のハッチが開き、シュラヴュラが現れる。

 

シュラヴュラ『ふぅ、できりゃ自然の力でやりてえな。外で…。ゴウガメ岬とかでな。』

自由戦士隊員G『しかし、いいのか。俺達はこんな所で遊んでいて。』

自由戦士隊員F『いいんじゃねえのか。何しろ俺達はこの城の守備兵ってことだからよ。』

自由戦士隊員H『しっかし、ユグドラシル大陸王国軍をどんどん破っているって聞いたぜ。レジスタンスたちからよ。何しろ消える艦隊と呼ばれて恐れられているそうだぜ。』

自由戦士隊員A『本国に帰ったら豪遊できそうだぜ。おっとその前にシュラヴュラのお祝いをしないとな。』

シュラヴュラ『そ、そうだな。』

 

クトゥルゾフはシュラヴュラの方を向いた後、下を向いて首を左右に振り、地下ドック玉座の前と入っていく。騒ぎ声。酒を飲み、踊る自由戦士隊員達、寝ている者達も多数。ガーミラは触角を左右に時折動かしながら玉座の間に寝そべり、頬杖をつきながら右手で持った酒杯をすする。

 

ガーミラの右触角がクトゥルゾフの方に向けられる。酒杯から口を放し、目を細めクトゥルゾフを見つめるガーミラ。

 

ガーミラ『ああ、あの吟遊詩人か。』

 

クトゥルゾフはガーミラに向けて一礼する。

 

クトゥルゾフ『太守殿。酒宴も程々に致しませんとお体にさわりますよ。』

 

ガーミラは体を起こすと玉座の背もたれにもたれかかり、眼を閉じて溜息を付く。

 

ガーミラ『ほぅ、詩人である君の舌は召使もいない寂れ城に残された一人身の朽ちていくだけの寂れ太守を楽しくしてくれないのか?』

 

眉を顰め、ガーミラの傍らに寄るクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『そんなことは無いですよ。貴方様の様な美しい方を殿方達が放って置く筈が有りません。』

ガーミラ『なるほどな。』

 

ガーミラは衣服をずらして胸元をはだけさし、クトゥルゾフを見上げる。

 

ガーミラ『最も君のその舌は違う事でも上手だと良いのだがな。』

 

ガーミラはクトゥルゾフの顎に軽く手を当てて顔を近づけ、軽く口を開ける。騒ぎが止み、玉座の方を向く自由戦士隊達。彼らはにやけ面になる。

 

自由戦士隊隊員B『いいぞ!やっちまえ!!クトゥルゾフの旦那!!』

自由戦士隊隊員C『ひゅーひゅー!』

 

自由戦士隊員の大多数が手で音頭をとりだす。

 

自由戦士隊隊員達大多数『キス!キス!キス!!』

 

扉の開く音。ざわめきが止み、一斉に扉の方を向く自由戦士隊。サクリュオスが引きつった顔で彼らを見つめている。サクリュオスは眼を閉じて、喉を鳴らすと眼を開けて彼らの前に歩み出す。

 

サクリュオス『あなた方は!外では本軍が命がけで戦っていると言うのに!』

 

眉を顰める自由戦士隊員達。ガーミラは顔を真っ赤にして眉を吊り上げサクリュオスの方を向く。

 

ガーミラ『おのれ!この場において私の邪魔をするか!ならば誅してやる!!』

サクリュオス『えっ!』

 

ガーミラはサクリュオスの手前まで一気に間合いを詰め、体を引くサクリュオスの背後に回り込むと彼女の胸を揉んで首筋にキスをする。

 

サクリュオス『やっ!』

ガーミラ『チュー。』

 

ガーミラはサクリュオスの首筋に歯を立てる。顔を赤らめるサクリュオス。ガーミラはサクリュオスの右胸を強く掴む。

 

サクリュオス『あ、あんっ!』

 

ガーミラは顔を上げ、口元を腕で拭う。

 

ガーミラ『うむ、良い味だ。これは処女!この味はたまらんのう。』

 

ふらつくサクリュオス。近寄るクトゥルゾフ。首筋を掻きだすサクリュオス。胸を撫で下ろすクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『危ねえ危ねえ。』

 

サクリュオスは地下ドック玉座の間を見回す。

 

サクリュオス『と、とにかく本軍が戻ってくる前にこの汚い有様をどうにかしてください。』

 

サクリュオスに詰め寄るガーミラ。

 

ガーミラ『き、汚い!私の城が汚いと抜かすか。』

 

ガーミラは地下ドック玉座の間を見回す。

 

ガーミラ『…確かに…。』

 

クトゥルゾフを見つめるガーミラ。

 

ガーミラ『…悪いんだけど、後始末お願い。』

 

頷くクトゥルゾフ及び自由戦士隊員達。ガーミラの指示のもと、掃除道具を持ってくる自由戦士隊員達。地下ドック玉座の間に集まる自由戦士隊員達。自由戦士隊員達は掃除道具を各自持っていく。クツトゥルゾフは仕切り壁に飛び乗り、ハープを奏で始める。掃除をしだす自由戦士隊員達。

 

クトゥルゾフ『

 

俺達自由戦士隊 俺達自由戦士隊

 

光を求めてやってきて 自由の御旗に集うもの

 

戦士の進む行先は 輝く金貨が照らす未来

 

金は貯めても 命つき

 

名は朽ちても 隊は残る

 

金が無くなりゃ 入隊し

 

戦が無けりゃ 干からびる

 

おべっか 水増し 当たり前

 

雑用 何でもこなします

 

俺達自由戦士隊 俺達自由戦士隊

 

 

自由戦士隊員Bが眉を顰めて、バケツをクトゥルゾフに投げつける。

 

自由戦士隊員B『詩人!歌ってないで掃除しろ!』

 

バケツを避けるクトゥルゾフ。掃除道具をクトゥルゾフに投げつける自由戦士隊員達。

 

クトゥルゾフ『ぎ!』

 

投げつけられた掃除道具のいくつかをよけるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『に!』

 

クトゥルゾフの胴体に大量の掃除道具があたり、後ろ向きに倒れる。

 

クトゥルゾフ『にゃ!!』

 

眼を回すクトゥルゾフ。響く自由戦士隊員達の笑い声。

 

C13 お留守番

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C14 救難信号

 

シルヴィニア城地下ドック玉座の間。クトゥルゾフは起き上がり、出て行く。地下ドックを見つめ、煙草に火をつけるクトゥルゾフ。足音が鳴り響き、ナエルとナエルの部下が現れる。

 

ナエルの部下の声『パプピポパプンピピプ将軍の一族郎等を処刑させました。しかし、あんなバカ女にベタ惚れのブゼンはバカとしか言いようがありません。我らを震撼せしめたクセルクセスの血縁者とはとうてい思えません。』

ナエル『そうか。こちらの術中にはまったのだ。で、具合はどうだ。』

ナエルの部下『良くありません!正直あの女、遊びすぎです!!飽きました!!!』

ナエル『そっちの具合ではない!』

ナエルの部下『は、あ…も、申し訳ありません。宮廷では不満が広がっています。その内、アホの三男、次女、三女が動くかと。』

ナエルの声『そうか。よくやった。引き続き、バカ女の世話を続けてくれ。今回の処遇でコザツクの不満が大爆発しておる。そろそろ諸勢力も動き出すだろう。』

ナエルの部下『御意。』

 

闇に消えていくナエルの部下。ナエルは暫し、地下ドックを見つめた後、クトゥルゾフの方を向く。一礼するクトゥルゾフ。クトゥルゾフに近づくナエル。クトゥルゾフは身を引く。

 

クトゥルゾフ『な、何か?』

 

ナエルはクトゥルゾフを見つめる。

 

ナエル『うむ。肝の据わった男だと思ったが何を怯えている?』

クトゥルゾフ『お、怯えてなんて、とんでも。ただ、俺、あんたらの話を聞いちまったんで…。』

 

笑い出すナエル。

 

ナエル『ははは、そんなことか。何、重要な事ならこの様な所では話さんさ。どうせこの事はマルケルディアにも伝えることだ。気にすることは無い。』

 

胸を撫で下ろすクトゥルゾフ。ナエルの顔から笑みが消え、クトゥルゾフの肩を叩く。煙草が床に落ち、転がって火が消える。

 

ナエル『また曲を頼む。』

クトゥルゾフ『え、ああ…いえ、はい。』

 

笑いながら去っていくナエル。クトゥルゾフは地下ドック玉座の間に戻る。

 

自由戦士隊員Aがクトゥルゾフの方を向く。

 

自由戦士隊員A『へへ、マルケルディアのやつら、ユグドラシル艦隊を次々と破ってるらしいな。俺達も戦果がありゃ、報酬の増額やよければ市民にだってなれる。』

クトゥルゾフ『はぁ、そうですかい。火中の栗は栗拾いに任せればいいんだよ。殺されない安全圏に居て報酬が貰えりゃそれでラッキー。』

 

自由戦士隊員Aは眉を顰める。欠伸をして眼を閉ざすクトゥルゾフ。軍靴の音。自由戦士隊員Cは欠伸をしながら扉を開ける。起き上がるデモスとラナイカ。駆けていくマルケルディア都市国家軍兵士達。クトゥルゾフが自由戦士隊員Cの傍らに立つ。

 

クトゥルゾフ『何だこりゃ。』

 

自由戦士隊員Cが一歩前に進む。

 

自由戦士隊員C『あの〜すみませんが、何かあったんですか?』

 

駆け抜けていくマルケルディア都市国家軍兵士達。自由戦士隊員Cは両手を広げてクトゥルゾフを見る。

 

自由戦士隊員C『何だこりゃ。』

 

クトゥルゾフは首をすくめ左右に振る。起きあがり、扉に近寄る自由戦士隊員達。マルケルディア都市国家軍兵士達が去り、水飛沫をあげてパブロフ・ドック級潜水空母が潜行していく。扉を閉じる自由戦士隊員C。

 

自由戦士隊員D『おいおい、何かあったのか?』

自由戦士隊員F『いつもと同じだろ。ユグドラシル艦隊をやりにいくのさ。ザシュっとな。』

クトゥルゾフ『こんな時間にご苦労なこってだぜ。さあ、寝た寝た。』

 

クトゥルゾフが手を広げ、後頭部に組むと寝転がる。寝転がる自由戦士隊員達。デモスとラナイカは扉から出て行く。天井を見上げるクトゥルゾフは暫くして眼を閉じる。自由戦士隊員達の鼾の音。クトゥルゾフは眉を顰めて耳に人差し指を耳に入れる。上体を起きあがらせる。

 

クトゥルゾフ『うるせえ。寝れねえ。』

 

軍靴の音が鳴り響く。起きあがる自由戦士隊員達。

 

チン『な、何だ?何だ??』

 

激しく続く軍靴の音。扉による自由戦士隊員P。扉が激しく開き、扉の角が自由戦士隊員Pの額にぶつかる。倒れる自由戦士隊員P。現れるデモスとラナイカ。

 

デモス『出陣だ!!自由戦士隊も続け!!』

 

自由戦士隊員達は眼を擦りながら舌打ちする。

 

ラナイカ『急いで!!』

 

自由戦士隊員達はバックパックを背負うとデモスに続く。デモスの隣に行くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『随分と物騒なことで。いったい何かあったんで?』

 

デモスはクトゥルゾフを見た後、正面を向く。

 

デモス『救難信号だ。』

クトゥルゾフ『救難信号でこんなに総動員するんですかい。』

 

軍靴の音。駆けるマルケルディア都市国家軍兵士達及び自由戦士隊員達。

 

デモス『先鋒隊はほぼ壊滅状態。グリーンアイス連邦からの援軍が攻撃を受けている。』

クトゥルゾフ『ゲス氷なんぞの為に。』

 

デモスとラナイカはクトゥルゾフの方を見つめた後、正面を向く。トライデントへ駆けこんでいく彼ら。

 

C14 救難信号 END

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C15 無意味な脱出

 

トライデント三等貨物室トライデント第46格納庫。シンジャイアン級巨大潜水艦格納庫。Cx2-88級人型機構を組み立てる自由戦士隊員達。

 

自由戦士隊員E『先鋒部隊が全滅って何かヘマやらかしたんじゃねえのか?』

自由戦士隊員F『いつも楽に撃破してやがるからな。』

自由戦士隊員D『けっけ、それにしても本国からの増援だ。いい働きすりゃ、市民か高級議員の私兵に取り上げられて後は高級な俸禄と優雅な生活が待ってるかもな。』

 

大量に並べられた人型機構用サーフボードを撫でるシュラヴュラ。扉が開きデモスとラナイカが現れる。

 

デモス『行くぞ!』

 

頷くにやけ面の自由戦士隊員達。

 

自由戦士隊員達『おう!』

デモス『外に出ればすぐに出撃だ!とっとと準備をしろ!!』

 

Cx2-88級人型機構に乗り込む自由戦士隊員達。レドームスタ級人型機構に乗り込む、ヒデツグ、クトゥルゾフにポピャ。操縦冠を被るヒデツグ。クトゥルゾフは後部座席に座り、機器のスイッチを押す。

 

ヒデツグ『下らん!何で俺がお前らのお守りなど…。』

クトゥルゾフ『俺も同意だぜ。急とはいえ、ならしもなしに…。』

 

ヒデツグは後部座席のクトゥルゾフとポピャを睨みつける。

 

ヒデツグ『そんなことはどうでもいい。俺が満ちるのを邪魔するなよ!』

 

ヒデツグは刀を鞘から出し、反りを舌で舐める。クトゥルゾフの傍らによるポピャ。

 

クトゥルゾフ『はいはい。そうですか。』

 

クトゥルゾフは寄り添うポピャの方を見た後、ヒデツグを睨む。

 

クトゥルゾフ『まったく怯えさせやがってどうするの!俺達はチームなんだぜ。』

ヒデツグ『だからどうというのだ。俺には関係ない。貴様らの身は貴様らで守るんだな。斬って満ち、喪失してはまた斬るのみだ。己の命が斬られるまで永劫に…。』

 

クトゥルゾフは首を左右に振る。

 

クトゥルゾフ『これだから。はぁ、いいか。お前は、自由戦士隊員をサポートする俺達に必要な存在なんだよ。分かるか。お前は腕が立ち、俺達を守る。俺達はサポートに専念できる。分かる?このギブアンドテイク。』

 

ヒデツグは眼を見開いてクトゥルゾフを見つめる。

 

ヒデツグ『必要…。』

 

ヒデツグは咳払いして前を向く。首をかしげるクトゥルゾフ。シンジャイアン級巨大潜水艦が潜航していく。鋼鉄の壁が続き、暫くして深海へと繰り出す。シンジャイアン級巨大潜水艦の窓に水飛沫がかかり、現れる海面とユグドラシル大陸王国軍の大艦隊。斜め右方向のユグドラシル艦隊は爆雷を投下している。砲撃を繰り返し、空を染める対空砲火。

 

クトゥルゾフ『何だ…いや、こりゃ。』

 

モニターが開き、デモスが映る。

 

デモス『ぼけっとするな。何のためのお前らか、分かっているな!』

 

頷き、ヘッドフォンを被り、レーダーを見るクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『あ、ああ。前方にユグドラシルの駆逐艦隊がいるぜ。』

デモス『ちょうどいい。行くぞ!!』

 

サイレンが響き、シンジャイアン級人型機構の後部ハッチが開く。Cx2-87級人型機構が海原へと発進していく。Cx2-88級人型機構群はCx2-87級人型機構を先頭に前方に展開する大艦隊へと波をぬって突撃していく。

 

ユグドラシル大陸王国ガビュラ級駆逐艦の主砲、及び魚雷が発射されるが波に乗って擦りぬけていく人型機構専用サーフボードに乗ったCx2-88級人型機構群。

 

クトゥルゾフ『こいつはすげえぜ。当たらないんだ!』

 

Cx2-88級人型機構は多数のガビュラ級駆逐艦を銃剣で大破させていく。ガッツポーズをする何機かのCx2-88級人型機構。左右へ移動するガビュラ級駆逐艦群。前方から現れる2隻のガルトトマト級バルカン駆逐艦を指差すポピャ。

 

ポピャ『あれ、違う。』

 

クトゥルゾフはヘッドフォンについているマイクに向けて口を動かす。

 

クトゥルゾフ『前方の奴は、新手だ!迂闊に手を出すんじゃねえ!!』

 

Cx2-88級人型機構の数機がガルトトマト級バルカン駆逐艦へ突撃していく。

 

クトゥルゾフ『馬鹿野朗!もうちっと様子を…。』

 

ガルトトマト級バルカン駆逐艦のバルカン砲が火を噴く。蜂の巣にされ、波飛沫をあげて海へ落下していくCx2-88級人型機構。煙を吹きながら、ガルトトマト級バルカン駆逐艦から離れる1機のCx2-88級人型機構。モニターに映るシュラヴュラの顔。

 

シュラヴュラ『たっ、助けてくれ!』

クトゥルゾフ『だから言わんこと…。』

 

ガルトトマト級バルカン駆逐艦はバルカン砲を連射しながら最大速度で駆けて来る。

 

シュラヴュラ『ひっ、あー、キャ、キャサリィイイイイン!』

 

ポピャの眼を覆うクトゥルゾフ。モニターに映るシュラヴュラ機のコクピットに大量の穴が開き、シュラヴュラの顔面が割れ、脳漿がモニターに飛び散り目玉が張り付いて血が四散する。ノイズと共に消える画像。シュラヴュラ機は蜂の巣にされ、海面へと落ちていく。クトゥルゾフは顔を引きつらせ、ポピャの眼を覆う手を離す。

 

クトゥルゾフ『あ、あんなにスピードがでるのかよ!』

 

向かってくるガルトトマト級バルカン駆逐艦。

 

クトゥルゾフ『くそ、こっち来んな!』

 

モニターに映るデモス。

 

デモス『怯えるんじゃねえ!俺とラナイカで奴らの動きを止める。ヒデツグ、後は斬れ。』

 

モニターを向き、薄ら笑いを浮かべて頷くヒデツグ。

 

Cx2-87級人型機構が2隻のガルトトマト級バルカン駆逐艦に向かって人型機構用手榴弾を投げる。波柱が立ち、動きが鈍るガルトトマト級バルカン駆逐艦。左に百合、右に薔薇のエムブレムをを施したCx2-88級人型機構のコックピットが開き、ラナイカが呪文を唱え、指先から雷を2隻のガルトトマト級駆逐艦に向けて放つ。電撃がガルトトマト級バルカン駆逐艦を駆け抜け、動きが止まる。

 

ヒデツグがコックピットを開ける。ヒデツグは鞘から刀を抜き、刀身に手を当てる。青白く光り輝くヒデツグの刀。ヒデツグがガルトトマト級駆逐艦に向けて刀を振り下ろす。青白い光が波を切り裂き、2隻のガルトトマト級駆逐艦を破壊する。拍手するポピャ。

 

クトゥルゾフ『すげえ…。』

 

拳を上に上げるCx2-88級人型機構多数。

 

デモス『ぼけっとするな!』

 

クトゥルゾフは耳に手をあて、片目をつむる。

 

クトゥルゾフ『はいはい。分かりましたよ。』

 

レーダーには左右へ移動する赤い丸と前方から来る赤い丸が映る。

 

クトゥルゾフ『前方から新手がくるぞ!』

 

ポピャが口元に人差し指を当てる。

 

ポピャ『あれ50、中くらいの10、大きいの1…。』

 

眼を見開くクトゥルゾフ。バルカン砲の連謝音が鳴り響く。数機のCx2-88級人型機構が蜂の巣にされ、海へと落ちていく。前方に現れるガルトティアマット級バルカン戦艦1隻、及びガルトポテト級巡洋艦10隻にガルトトマト級バルカン駆逐艦50隻。

 

クトゥルゾフ『お、おいおい。冗談じゃねえぞ!』

 

青ざめるクトゥルゾフ。左右のガビュラ級駆逐艦隊が自由戦士隊との距離を狭める。敵艦隊に背を向け始める自由戦士隊。巨大な波が押し寄せる。デモス機のコックピットが開き、デモスが剣を振り上げる。

 

デモス『動揺するんじゃねえ!俺について来い!!』

 

息を切らし、汗を垂らすクトゥルゾフ。デモス機を先頭に左のガビュラ級駆逐艦隊に突撃する自由戦士隊は全速力で魚雷と砲撃をかいくぐり、安全地帯へと抜けていく。

 

敵艦隊が見えない開けた海、遠くには飛行板がズタズタに引き裂かれ、火を吹き所々が爆発炎上する超巨大潜水機動城塞1番艦のマルケルディア。マルケルディアのハッチが開き、大量の船舶が海面に出て行く。眼を見開き、青ざめるクトゥルゾフ。右往左往しだす自由戦士隊。

 

クトゥルゾフ『そんな…あのトライデントが沈んで…。』

 

マルケルディアの傾斜が酷くなり、砲塔が回転して折れ波飛沫を上げて落ちていく。

 

ヒデツグ『…沈んだな。』

クトゥルゾフ『み、見りゃ分かる!何落ち着いてやがんだ!ぼけ!あほ!!』

 

ヒデツグはクトゥルゾフの眼を細めて方を見た後、前を向く。マルケルディアは直角に傾くと巨大な波柱を立てて沈んでいく。巨大なうねりが波間の自由戦士隊員達を揺らす。

 

クトゥルゾフ『ど、どうすりゃいいんだよ!』

 

クトゥルゾフの肩を叩くポピャ

 

ポピャ『あれ、トライデント違う。』

 

ポピャを見つめるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『トライデントじゃないのか。』

 

頷くポピャの方を見るヒデツグ。クトゥルゾフは機器のボタンを押す。モニターに映るデモス。

 

デモス『何だ!?』

クトゥルゾフ『デモスの旦那!あいつはトライデントじゃねえ。』

 

デモスは暫し、沈黙してクトゥルゾフを見る。

 

デモス『そうか。だが、隊の士気はガタ落ちだ。これよりマルケルディア艦隊の方へ向かう。』

 

頷くクトゥルゾフ。デモスを先頭に進む自由戦士隊員達。マルケルディアのハッチから出た船舶とすれ違う。クトゥルゾフの眼に映る船舶の窓から見える大量の女、子供、老人達。

 

クトゥルゾフ『どうなってんだ…これは。』

 

クトゥルゾフの眼に映える船舶群には全てマルケルディア都市国家のマークがついている。

 

クトゥルゾフ『グリーンアイスからの…。』

デモスの声『全機に告ぐ。全機に告ぐ。これより自由戦士隊は超巨大潜水機動城塞1番艦のマルケルディアからの脱出船の護衛につく。超巨大潜水機動城塞2番艦のトライデントまでの誘導だ。』

 

眼を見開くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『ほ、ほんとにあんなものが二隻もあったのか…。』

 

自由戦士隊のCx2-88級人型機構を両脇に波間を進むマルケルディア都市国家の船舶。クトゥルゾフは眉を顰め、口を曲げながら周りを見回し、レーダーを見る。波飛沫の音。

 

機械音が鳴り響き、レーダーに赤い丸い印が61個現れる。

 

クトゥルゾフ『敵が来たぞ!数61!!』

 

立ち止まる自由戦士隊の乗るCx2-88級人型機構。進むマルケルディア都市国家軍の船舶。遠くに見える艦影。ポピャが双眼鏡を持って、前方を指差す。

 

ポピャ『さっきの!さっきの!!』

クトゥルゾフ『さっきの?さっきのって…。』

 

ポピャは両手を広げ、左右に振る。首をかしげるクトゥルゾフ。同じ動作を繰り返すポピャ。眼を見開くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『おい、まさか…さっきのって、あのバルカン艦隊か?』

 

頷くポピャ。青ざめ、ポピャから双眼鏡を取り、覗くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『…さ、さっきのバルカン軍団が来たっ、来たぞーーー!!』

 

デモス機が銃剣の剣の部分を勢いよく海面に当て、波飛沫が背を向けるCx2-88級人型機構の足元に弧を描く。立ち止まるCx2-88級人型機構。クトゥルゾフはデモス機の方を向く。

 

デモスの声『怯えるんじゃねえ!』

 

デモス機の頭部がマルケルディア都市国家の船舶を見た後、自由戦士隊員達の方を向く。

 

デモスの声『護衛の俺達が怯えてどうする!』

自由戦士隊員Bの声『で、でもよ!あいつらとは相性が悪すぎだぜ!』

 

マルケルディア都市国家軍の船舶の甲板に出ているマルケルディア都市国家の市民達、自由戦士隊員達を睨みつける。

 

マルケルディア都市国家市民A『お前らが先に逃げるなんてどういう了見だ!』

マルケルディア都市国家市民B『そうだ!税金泥棒!市民から金を巻き上げて、身が危うくなればトンズラか!!』

 

デモス機の頭部がマルケルディア都市国家軍の船舶の方を向いた後、ラナイカ機の方を向く。

 

デモスの声『俺に…俺達に考えがある。』

 

頷くラナイカ機。拳を振り上げ、罵詈雑言を浴びせかける市民達の方を向く、デモス機とラナイカ機。両機のコックピットが開き、現れるデモスとラナイカ。

 

デモス『落ち着け!この場は我々に任せておけ!』

 

ざわめきが巻き起こる。

 

マルケルディア都市国家市民C『任せろだと!正規軍でもない、ましてや市民の誇りすら持たない。無駄縁ぐらいのお前らに!』

 

デモスとラナイカはマルケルディア都市国家市民Cを睨みつける。

 

デモス『俺は元スパルタン都市国家軍の大尉だ。』

ラナイカ『私は元アーヴェ神聖隊の騎士よ。』

 

顔を見合すマルケルディア都市国家市民達。

 

マルケルディア都市国家市民D『スパルタン市にアーヴェ市だ?もう無いだろ!』

マルケルディア都市国家市民C『精強を謳われながらデモイの戦闘で敗北した弱小都市と背徳と汚職で都市国家代表の自決ですら許されなかった都市だ。何ができると言うんだ?何もできやしないさ。あの戦いや欠乏した倫理観では体たらくな戦しかできんさ。』

 

デモスとラナイカはマルケルディア都市国家軍兵士Cを血走った眼で睨みつける。

 

デモス『お前らに何が分かる!あの場に居ず、我々には口先だけの支援を送り、ありとあらゆる理由を付けて貴様らは自都市国家に引きこもっていただけではないか。貴様らは、いざ安全圏に立ちいった途端に死に物狂いで祖国の為に連邦、ひいては仲間の為に戦ったものを、犠牲を下げずみ、嘲笑し、ついには権利すらも奪ったではないか!』

ラナイカ『崇高な者達に被せられた偽りのヴェールの表面だけを見つめ、真実の言を一つも信じようとせずに我々の親しき仲間を次々と処刑台へ送り、悲痛な苦しみと叫びを見てみぬふりをした。連邦の為に死に物狂いで戦った我々を!』

 

マルケルディア都市国家市民達は俯く。デモスは配下の者達の方を向く。

 

デモス『我々は脆弱ではない!見かけ倒しでもない!!』

ラナイカ『見せてくれる!我らが精強な騎士であると!』

デモス『真の勇士であると!!見せつけろ我らスパルタン都市国家の魂を!!』

ラナイカ『アーヴェの騎士道を!』

デモス『そして歴史に刻もう!!!生臭い血も弾薬の臭さもしらず好き勝手言う糞史家どもに見せつけろ!我々の輝きを!!!』

ラナイカ『奴らにつけられた汚名、風評が間違いであったということを分からせるのよ!』

デモス『行くぞ!』

ラナイカ『ええ!』

デモス『各自由戦士隊員!マルケルディア都市国家軍の船舶と共に至急、合流ポイントへ急げ!』

ラナイカ『私達もすぐに追いつくわ。』

 

頷く自由戦士隊員達の搭乗するCx2-88級人型機構。跳躍してガルトティアマット級戦艦の艦橋へ飛んでいくデモス機とラナイカ機。

クトゥルゾフは暫く眺めた後、眼をこする。振り向くヒデツグ。

 

ヒデツグ『どうした?』

 

クトゥルゾフは首を横に振る。

 

クトゥルゾフ『…なんか、かすんで見えてな。気のせいか…。』

 

デモス機がガルトティアマット級戦艦の艦橋を押しつぶし、ラナイカ機からの電撃が覆う。ガルトティアマット級がバルカン砲を連射しながらユグドラシル艦隊をハチの巣にしていく。千切れた手足の散乱する甲板の上でハンドガンと突撃銃で銃撃を繰り返し、潰れた艦橋に居座るデモス機、ラナイカ機へ登っていくユグドラシル大陸王国軍兵士達。レーダーを見回すクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『航空機なんぞ来たら厄介だぜ。』

 

クトゥルゾフは顔をあげ、前方の海を見る。ユグドラシル大陸王国のバルカン艦隊の残骸。鉄屑になったガルトティアマット級バルカン戦艦の上にたたずむデモス機とラナイカ機。クトゥルゾフは笑みを浮かべる。

 

クトゥルゾフ『す、凄えぜ!』

 

デモス機とラナイカ機に繋ぐクトゥルゾフ。モニターに現れるユグドラシル大陸王国兵士の顔。

 

クトゥルゾフ『デ、デモスの旦那!大丈夫か!?』

 

ユグドラシル大陸王国の兵士がデモス機の外へ投げ捨てられる。

 

クトゥルゾフ『び、びびるじゃねえか!』

デモス『はは、すまんすまん。ふぅ、無事だ。このぐらいでスパルタン魂はくたばらん!』

ラナイカ『こちらも大丈夫よ。はぁ…はぁ…。』

 

拍手喝采するマルケルディア都市国家市民達。遠くに見えるマルケルディア都市国家軍の艦隊。巨大な黒い影が現れ、波飛沫が巻き起こり、現れるトライデント。トライデントの全ハッチが開き、中へ入っていくマルケルディア都市国家軍艦隊及び自由戦士隊、そしてマルケルディア都市国家軍艦隊。

 

クトゥルゾフ『本軍も…帰還するのか?』

デモス『げふ、ごふ、当たり前だ。今、マルケルディアの潜水部隊が必死に足止めしてるんだ!航空機も、船舶も!!』

クトゥルゾフ『無事ならよ、とっとときてくれよ。一跳び…。』

 

砲撃音。デモスは眼を細める。

 

デモス『どうやら…戦線が抜かれたようだな。ごっほ。』

 

眼を見開くクトゥルゾフ。

 

自由戦士隊員Aの声『だったら、だったらなおさら、早く来いよ!早く!!』

 

ラナイカが笑みを浮かべる。

 

ラナイカ『だめねぇ。駆逐艦…巡洋艦…、ふふっ、あう。くっ、見たところ対潜装備が大量に積まれてるわね。』

デモス『でかいドンガメ漁には最適だな、あいつらは。お前らは早くトライデントに入って逃げろ!』

クトゥルゾフ『で、でもよ!』

ラナイカ『安心しなさい。私達も適当なところで切り上げて、潜水部隊に拾われるから。ネッ!』

 

眉を顰めるクトゥルゾフ。

 

デモス『もう一働きだ!』

ラナイカ『ふふ、いきましょう!』

 

跳躍して消えていくデモス機とラナイカ機。ハッチへ入っていく自由戦士隊。格納庫に辿り着き、各機から降りる自由戦士隊員達は床に座り込み、溜息をつき、俯く。マルケルディア都市国家軍の船舶から駆け下り、自由戦士隊員達の方へ駆けていくカーデラ。カーデラはクトゥルゾフの傍による。顔を上げ、首をかしげるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『んっ?何か?いや、あんた…どこかで…。』

 

クトゥルゾフを見つめるカーデラ。

 

カーデラ『私、カーデラ=ミッチェルと言います。夫が、いえ、まだ婚約者なんですが、あの方は?あの…シュラヴュラ様は?』

 

クトゥルゾフは眼を見開いて、肩眉を吊り上げる。首をかしげるカーデラ。クトゥルゾフは元の表情に戻り、俯く。暫し沈黙。

 

クトゥルゾフ『死んだ。』

カーデラ『えっ?』

クトゥルゾフ『勇敢に戦って…それで死…死んだ。』

 

眼を見開くカーデラ。カーデラはその場に崩れ落ちる。カーデラの肩を叩き、レドームスタ級人型機構に乗り込み、機器のスイッチを入れ、煙草に火をつけるクトゥルゾフ。

 

グランドセイヤの声『私は流星艦隊司令グランドセイヤ。無駄な抵抗を止め投降したまえ。』

 

煙草を落とすクトゥルゾフ、レドームスタに集まってくる自由戦士隊。

 

自由戦士隊A『グランドセイヤ!!グランドセイヤっていや名だたるユグドラシルの…。』

グランドセイヤの声『正直、君達の健闘には我々も敬意を払う。味方が撤退し、一隻も居なくなっても戦い続けるその勇姿に!』

自由戦士隊員D『グ、グランドセイヤだと…ひ、ひぃいいいいい。』

自由戦士隊員E『も、もう駄目だ!おーしーまーいーだー!!』

自由戦士隊員F『た、助けてくり〜りょ!』

 

泡を吹いて倒れる自由戦士隊員F。

 

デモスの声『ほう。』

ラナイカの声『ふふっ。』

グランドセイヤの声『私は君らを私の私兵として招き入れてもいいとさえ思っている。地位と金、暖かいベットに食料。なんなら女、男娼でさえ用意しよう。それにグリーンアイスの情報を提供すればさらに厚遇を約束しよう。私には力が欲しいのだ。君らのようなな。』

デモスの声『馬鹿も休み休み言え!スパルタン市の軍人はそんな甘言に屈しない!』

ラナイカの声『そんな甘言で誘われるアーヴェ神聖隊ではないわ!』

デモスの声『それに…バトゥと並ぶ名将と言われた男相手にとっては不足は無い!』

グランドセイヤの声『ほぅ、スパルタン市の軍人にアーヴェの神聖隊の面子だったか。通りで強いわけだ。だが、奮戦は賞賛するが多勢に無勢。手足をもがれた君らの戦闘力は皆無。たかが匹夫の勇で命を粗末にするとはもったいない。実にもったいない!』

 

唾を飲み込む自由戦士隊員達。

 

ラナイカの声『我らアーヴェ神聖隊!血と肉となろうとも役目は果たしますわ!騎士の名に懸けて!』

デモス『スパルタン都市国家軍永遠なれ!』

 

舌打ちの音。

 

グランドセイヤ『全軍撤退!全速力で撤退せよ!』

 

爆発音。ノイズの音。

 

外に駆け、窓を見るクトゥルゾフ。続く自由戦士隊員達。七色の二本の柱が海面に見える。去っていくユグドラシル大陸王国艦隊の船腹。青ざめる自由戦士隊員達。

 

アレクサンの声『な、何だと!』

 

振り返る自由戦士隊員達。

 

アレクサンの声『わ、私は都市国家連邦の未来を、未来を思って…。』

アンクルパパロフの声『マルケルディア都市国家は解体され、領民には国賊アレクサンに加担した罪として追放令が!』

アレクサンの声『わ、私が国賊!なぜ!なぜだ!!』

 

自由戦士隊員達は顔を見合わせて駆けていく。

 

アンクルパパロフの声『英雄…独裁者の出現を押さえるためです!』

 

アレクサンは頭に手を当てる。

 

アレクサン『なんて馬鹿なこと…。』

アンクルパパロフ『異を唱えたニールレイグ殿も自殺!!マルケルディアで脱出を試みたもののこの有様です。申し訳ございません!』

 

アレクサンは眼を見開く。

 

アレクサン『ニールレイグ!ニールレイグが死んだのか!そんな、あの子が…あの心根の優しいあの子が…。』

 

アレクサンはその場に崩れ落ちる。目を見開き、体を震わせ、ハープを落とすクトゥルゾフ。青ざめる自由戦士隊員達。クトゥルゾフは懐に手を当てる。

 

自由戦士隊員Fが泣き出す。

 

自由戦士隊員F『そ、そんな俺達これからどうすんだよ!』

 

自由戦士隊員Aが前に出る。

 

自由戦士隊員A『

 

俺達自由戦士隊 俺達自由戦士隊

 

光を求めてやってきて 自由の御旗に集うもの

 

戦士の進む行先は 闇に閉ざされた未来

 

金は貯めても 価値は無し

 

名を上げても 国は消え

 

入隊しても 金は無し

 

食事も干からび 戦だけ

 

隊長 無くして 道も無く

 

孤立 取り残された敵陣

 

俺達自由戦士隊…

 

 

クトゥルゾフは顔を真っ赤にして自由戦士隊員Aを睨みつけ、胸倉を掴む。

 

クトゥルゾフ『俺の歌を勝手に使うんじゃねえ!』

自由戦士隊員A『で、でもよ!』

 

自由戦士隊員Bが前に出る。

 

自由戦士隊員B『

 

俺達自由戦士隊 俺達自由戦士隊

 

光を求めてやってきて 自由の御旗に集うもの

 

戦士の進む行先は…

 

 

自由戦士隊員Bを殴るクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『止めろ!止めるんだ!!』

 

無線機の音『…我が国家に…ブゼン王…令の下マルケルディ…の兵士達を今まさに…銃殺…。』

 

銃声。

 

青ざめる一同。クトゥルゾフは周りを見回した後、歯を食いしばって懐に手を当てる。

 

クトゥルゾフ『安心しろ…。俺が、俺が何とかする。こんな所で終われるかよ!こんな所で…こんな所で、俺はいったい何のために!』

 

クトゥルゾフは懐を握り締める。

 

C15 無意味な脱出 END

-8ページ-

C16 奸臣

 

トライデント格納庫。アレクサンを取り囲み、眼に涙を浮かべるマルケルディア都市国家市民達。アレクサンが剣を抜き、地面に置く。横にパルメダヲ。

 

パルメダヲ『都市国家代表殿。致し方ありませぬ。』

 

アレクサンは地面に正座し、俯く。

 

アレクサン『分かっているよ。この私の首で皆が許されるなら。どれだけでも差し上げよう。あの世でニールレイグも待っていることだ。君達に罪は無い。私の責任だ。』

 

涙をハンカチーフで吹くサクリュオス。

 

サクリュオス『アレクサン様…。私も…後から参ります。』

 

パルメダヲが剣を鞘から抜く。

 

パルメダヲ『では…。』

 

ハープの音。顔を上げるアレクサン。人ごみを掻き分けて現れるクトゥルゾフの方を見る一同。カットラスがクトゥルゾフの傍による。カットラスに掌を向けるアレクサン。

 

アレクサン『いい音色だ。死での旅路に向かう私には。』

 

アレクサンの傍によるクトゥルゾフを見つめるパルメダヲ。クトゥルゾフは弦を乱暴に叩く。眼を見開き、クトゥルゾフを見つめる一同。クトゥルゾフを見上げるアレクサン。

 

クトゥルゾフ『こいつの首だけで到底俺達が助かるとは思わねえ!』

マルケルディア都市国家市民D『な、何を!捕虜は全員銃殺!マルケルディアは解体され、我々には追放令が出されているんだぞ!』

マルケルディア都市国家市民A『そ、そうだ!我々が生き残る為には、都市国家代表の首を連邦に差出して許してもらうしかないんだ!』

 

クトゥルゾフは階段に座り込み、頬杖をついて溜息をつく。

 

クトゥルゾフ『あんたら、随分とゲス氷の肩を持つじゃねえか。あんたらを守って死んだ俺達の隊長と副隊長はよ。元スパルタン市とアーヴェ市の市民なんだぜ。スパルタン市は敗戦責任を取らされて解体、アーヴェ市は汚職事件を起こしてどうなったんだっけ?』

 

唾を飲み込み、顔を見合わせる

 

クトゥルゾフ『とても都市国家代表一人の首じゃまかなえるものではないぜ。』

 

クトゥルゾフはハープの弦を弾く。こめかみに血管を浮き出させるカットラス。

 

カットラス『ふざけているのか!?』

 

首を横に振るクトゥルゾフは立ち上がる。

 

クトゥルゾフ『本国に帰っても、きっとあんたらは以前の様な市民の生活は送れない。』

 

クトゥルゾフは自由戦士隊員達の方を指差す。

 

クトゥルゾフ『…俺達、自由戦士隊はな。大半が元市民でなりたってるのよ。あそこにあるのは未来のあんたらの姿だぜ。』

 

眉を顰め、顔を見合すマルケルディア都市国家市民達。

 

クトゥルゾフ『税金泥棒、無駄縁喰らい、文句を言われる俺達の様な組織はいい方さ。だがよ。あんたらは、まあ、俺達も含め、もっと悲惨な生活を送る羽目になるかもな。ははは。』

 

青ざめるマルケルディア都市国家市民達。

 

クトゥルゾフ『それにな、この辺は駆逐艦がうようよしてるだろうし、捕虜が情報をはいたかもしれねえ。このドンガメでグリーンアイスにつくまでにボカチンかも。ははは。』

 

アレクサンは周りを見て立ち上がる。

 

アレクサン『君は!市民達を怯えさせておいて!君は何がしたいんだ!こんなこと…。』

 

クトゥルゾフはアレクサンの傍らに寄る。

 

クトゥルゾフ『何がしたいんだ?何かをやらせてくれるんですかい?』

 

アレクサンはクトゥルゾフの顔を覗き込んだ後、右下を向く。

 

アレクサン『…ああ。市民が助かる…なら。』

 

クトゥルゾフは満面の笑みを浮かべる。

 

クトゥルゾフ『では、私の案をお聞きください。』

 

クトゥルゾフの方を見つめる一同。

 

クトゥルゾフ『マルケルディア都市国家はグリーンアイス連邦から独立し、このユグドラシルの地に新国家を樹立することです。』

 

ざわめき。自由戦士隊員達も輪に混じる。

 

クトゥルゾフ『私達は敗れ、グリーンアイスの庇護を失った。しかし、ナイトメア帝国やレジスタンスは私達の力を必要としている。そこで、ナイトメア帝国に我が国の承認をさせるのです!』

マルケルディア都市国家市民E『そ、そんなことをしてもユグドラシル大陸王国は強大!ナイトメア帝国が怖気づいて、我々を売り渡すかも…。』

クトゥルゾフ『パプピポパプンピピプ将軍の一族郎等を処刑したこと、コザツク族への処遇のミスでブゼンは信頼を失いつつある。ブゼンに取って代わろうとする血族の内乱の兆しも見える。』

 

眼を見開くマルケルディア都市国家軍兵士達。

 

クトゥルゾフ『そうでしょう。軍の皆さん。』

カットラス『貴様!どこでそれを!』

クトゥルゾフ『ナエルさんに直接教えて頂きました。今こそ好機なのです!それともこのままゲス氷の下、ドン底の人生を歩みたいのですか?』

 

首を横に振るマルケルディア都市国家市民達。

 

クトゥルゾフ『では、例え茨の道であろうとも栄光あるマルケルディア国を建国しようではないですか!!』

 

頷くマルケルディア都市国家市民達。

 

マルケルディア都市国家市民F『そうだ!やってみなくては分からん!』

マルケルディア都市国家市民D『どうせドン底の人生をやるなら試してみるのも悪く無い!』

 

大歓声が格納庫に響く。アレクサンはクトゥルゾフを見つめる。

 

アレクサン『…君と言う奴は。』

 

アレクサンは剣を拾い上げ天に掲げる。

 

アレクサン『今、この地においてマルケルディア国を建国する!』

 

拍手と大歓声。クトゥルゾフはアレクサンの前に跪き、両手を握り締めて見上げる。

 

クトゥルゾフ『それでは、つきましては私めに宰相の地位を!』

 

歓声が止む。

 

マルケルディア都市国家市民A『さ、宰相だって!』

マルケルディア都市国家市民B『わ、笑わせるな!お前みたいな市民でもない輩が宰相になれるか!ぼけ!』

 

クトゥルゾフは立ち上がり、周りを見回す。

 

クトゥルゾフ『おいおい、それはないんじゃないか。俺はな。あんたらが殺そうとした都市国家代表を救い出し、この場においてマルケルディア国の前身を建国させたんだぜ。この功績は一国の宰相に匹敵するものだろう!』

 

口を噤むマルケルディア都市国家市民達。クトゥルゾフを睨みつけ、剣の鞘に手をかけるカットラス。白髪の名誉市民プトレマイオスが腰に手を当てて出てくる。アンクルパパロフがカットラスの手を押さえる。

 

プトレマイオス『ほっほ。お前さん、たいした度胸じゃのう。』

 

プトレマイオスはクトゥルゾフの周りを回る。クトゥルゾフは懐を握り締める。

 

クトゥルゾフ『何だ爺さん。』

プトレマイオス『わしはお前さんに賛成じゃの。』

カットラス『プトレマイオス殿!何を言う!気でも違われましたか!』

 

プトレマイオスは笑みを浮かべてカットラスを見つめる。

 

プトレマイオス『いやいや、我々は先の戦闘で兵の大半を失った。人がおらんのじゃよ。そこにじゃ。この何処の馬の骨とも分からん男が…。』

 

クトゥルゾフは拳を顔まであげ、震わせてプトレマイオスを睨みつける。

 

プトレマイオス『自分の実力で宰相になったと知れば人が集まると思ってな。』

 

パルメダヲが一歩前に出る。

 

パルメダヲ『しかし、この男には宰相の力量があるとは思えません!口先三寸の詐欺師山師ですぞ!それに集まってくるのも自由戦士隊の様なゴロツキや野盗どもばかりになるのでは?』

プトレマイオス『口先三寸も実力の内。ゴロツキも腕っ節は強い。盗賊も技術は持っておるぞい。』

パルメダヲ『欠点には眼をつむれということですか。』

 

頷くプトレマイオス。眼を見開く自由戦士隊員達。

 

プトレマイオス『それにこの男、余程自信があるらしい。やらせてみようじゃないか。』

 

頷くマルケルディア都市国家市民達。クトゥルゾフはアレクサンの前に跪く。周りを見るアレクサン。頷くプトレマイオス。アレクサンは剣をクトゥルゾフの肩に当てる。

 

アレクサン『君の名は?』

クトゥルゾフ『クトゥルゾフ=サンジェルマン。』

 

アレクサンは咳払いをする。

 

アレクサン『この場においてクトゥルゾフ=サンジェルマンをマルケルディア国の宰相に任命する!』

 

呆然と立ち尽くすマルケルディア都市国家市民達。自由戦士隊員達が雪崩れ込み、クトゥルゾフを胴上げしだす。

 

クトゥルゾフ『お、おい!お前ら、何をしやがる!』

 

自由戦士隊員Aが泣きながらクトゥルゾフを担ぐ。

 

自由戦士隊員A『万歳!宰相万歳!クトゥルゾフ!クトゥルゾフ万歳!!』

 

自由戦士隊員達の歓声が鳴り響く。溜息をつくマルケルディア都市国家市民達。

 

C16 奸臣 END

-9ページ-

C17 あっけない交渉

 

トライデント、クトゥルゾフの部屋。ヒデツグがドアを開け、現れるプトレマイオスの孫娘で可愛い顔をしたプトレリュティス。

 

ヒデツグ『宰相、客だ。』

 

クトゥルゾフはエロ本から扉のほうを覗き込む。唖然とするクトゥルゾフ。眉を顰めるヒデツグ。

 

ヒデツグ『変態め…。』

クトゥルゾフ『おめぇに言われたかねぇよ!リフレッシュ中なんだよ!』

 

クトゥルゾフはエロ本を背後に隠す。近づくプトレリュティス。青ざめるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『いや、これはあの…おじちゃん。美術の勉強をしてたんだよ。そう、俺ってさ。こう見えて吟遊詩人…。』

 

プトレリュティスはクトゥルゾフに一礼し、顔を上げて微笑む。

 

プトレリュティス『お爺ちゃまから宰相様の世話をするように仰せつかったプトレリュティスと申します。以後よろしくお願いいたします。』

クトゥルゾフ『お爺ちゃま?』

 

プトレリュティスはクトゥルゾフの顔を覗き込む。

 

プトレリュティス『あれ、分かりませんか?あの私、プトレマイオスの孫娘ですの。』

 

青ざめるクトゥルゾフ。首をかしげるプトレリュティス。クトゥルゾフは特別室から駆け出していく。

クトゥルゾフの方へ手をかざすプトレリュティス。

 

プトレリュティス『あ、あの!宰相様!?』

ヒデツグ『宰相!ちっ。』

 

プトレマイオスの船室の扉が勢い良く開き、現れるクトゥルゾフ。紅茶を入れるプトレマイオスのメイド。クトゥルゾフは机を叩く。

 

クトゥルゾフ『おい!爺!貴様何を企んでいる!』

 

プトレマイオスは紅茶をすする。

 

クトゥルゾフ『俺を持ち上げてくれたと思ったが、よもやあんなロリを送り込んでくるとは!』

 

プトレマイオスは首をかしげる。

 

クトゥルゾフ『さてはカットラスの差し金か?』

プトレマイオス『私の孫娘がご不満ですかな。』

クトゥルゾフ『そ、そんな事は無いさ。た、確かに可愛いけどさ。歳が…。なぁ、分かるだろ。あんなに可愛いとつい…その…何て、ああ、もう。俺達はゴロツキなんだぜ!女っけの無い。そんな危険なところに。』

 

クトゥルゾフは首を横に振る。

 

プトレマイオス『ほっほぅ。どうやら気に入って頂けたようで。』

クトゥルゾフ『違う!』

 

扉が開き、胸に手を当てるプトレリュティスの眼からは涙が毀れる。

 

プトレリュティス『わ、私…うっ、私…宰相様に嫌われちゃった!うわ〜ん!!』

 

プトレリュティスの方を見るクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『あ、違う!違うんだ。』

 

プトレリュティスの方に近寄るクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『君の事が嫌いじゃない。その、言葉のあやというか…。』

 

プトレリュティスはクトゥルゾフの顔を覗き込む。

 

プトレリュティス『ほんと?』

クトゥルゾフ『え、ああ。も、もちろん!』

 

プトレリュティスは笑ってクトゥルゾフに抱きつく。

 

プトレリュティス『わ〜い!やった!宰相様だ〜い好き!』

 

クトゥルゾフは溜息をついてプトレマイオスのほうを見つめる。紅茶をすすり、微笑むプトレマイオス。立ち上がるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『ああ、しょうがないな。』

 

足音が鳴り、ヒデツグが現れる。

 

ヒデツグ『宰相。客だ。』

 

クトゥルゾフは頷き、プトレマイオスの部屋から出て行く。二人についていくプトレリュティス。クトゥルゾフが部屋の扉を開ける。アレクサン、パルメダヲ、アンクルパパロフにカットラスが座る。プトレリュティスは炊事場へと歩いていく。扉の方へ佇むヒデツグ。

 

アンクルパパロフ『もうすぐシルヴィニア城に着きます。』

カットラス『今はまだ、僭称国家に過ぎない。』

 

カットラスはクトゥルゾフを見つめる。コーヒーを沸かすプトレリュティス。

 

パルメダヲ『貴様の舌であの夢魔から国家承認を勝ち取れるか?』

 

喉を鳴らすクトゥルゾフ。

 

アレクサン『我々、そして君の読みが外れていた場合、私達にはあの城の城主と戦い斬る覚悟はある。背徳と言われようと致し方ない。』

 

コーヒーを配るプトレリュティス。

 

パルメダヲ『覚悟はあるのだな。降りるなら…。』

 

クトゥルゾフは懐を強く握り締める。眼を閉じて一呼吸した後、一同を見つめる。

 

クトゥルゾフ『降りない!俺はやる!駄目で元々だからな。あんたらも分かってるんだろ。失敗したらずらかればいいさ。』

 

一同は顔を見合わせる。ヒデツグにコーヒーを渡すプトレリュティス。ヒデツグはコーヒーを受け取り、すする。時計を見るアンクルパパロフ。

 

アンクルパパロフ『そろそろ時間です。』

 

立ち上がる一同。

 

パルメダヲ『…行くぞ。』

 

パルメダヲが扉を開け、続くカットラス、アンクルパパロフにアレクサンとクトゥルゾフ。クトゥルゾフの横にヒデツグがつく。カットラスがヒデツグを見る。

 

カットラス『そいつも行くのか?』

ヒデツグ『俺は宰相の護衛官だ。つき合わさせてもらう。』

クトゥルゾフ『斬りあいになりゃこいつは強えぜ。俺は剣と魔法は専門外だからね。』

 

カットラスは頷いて前を向く。

 

クトゥルゾフ『ちぇ、否定はしねえのかよ。』

 

駆けてくるプトレリュティス。クトゥルゾフはプトレリュティスの方を向く。

 

クトゥルゾフ『いくら世話係といえ、この先は危険だ!来ちゃいけねえ。嬢ちゃんになんかありゃあの爺さんに合わす顔がなくなっちまう。』

 

クトゥルゾフを見つめ、頷くプトレリュティス。

 

プトレリュティス『宰相様。これを。』

 

プトレリュティスはクトゥルゾフにお守りを差し出す。眼を見開くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『これを、おじちゃんに…。』

 

頷くプトレリュティス。クトゥルゾフはプトレリュティスの頭を撫でて抱きしめる。

 

クトゥルゾフ『ありがとう。はあ。』

 

見つめる一同。

 

パルメダヲ『さ、行くぞ。』

 

クトゥルゾフは立ち上がり、プトレリュティスに手を振って去っていく。トライデントの階段が降ろされる。アレクサン、パルメダヲ、アンクルパパロフ、カットラス、そしてクトゥルゾフとヒデツグが登場する。シルヴィニア城地下ドックには赤絨毯がしかれ、玉座に座るドー帝の横に立つインペルガ、隣にはナエルにガーミラ。顔を見合わせるマルケルディア国の一同。汗をかくクトゥルゾフ。

 

インペルガ『待ちくたびれたぞ!グランドセイヤに大敗したそうではないか。』

 

拳を握り締め、降りていく一同。

 

インペルガ『それに、都市国家も解体。グリーンアイスの参戦は無しか。』

 

ドー帝の前に跪き、汗をたらす一同。

 

インペルガ『ははは。これではユグドラシル大陸王国の要求を突っぱねたかいがあまりないな。』

 

クトゥルゾフがインペルガを見上げる。

 

クトゥルゾフ『な、何をおっしゃいます!解体はされても、新たに建国されました!マルケルディアは不滅です!!』

 

インペルガはドーを抱き、クトゥルゾフを見つめる。汗を吹き出すクトゥルゾフ。

 

インペルガ『ホホホ、建国と。何処に建国したのだ?』

クトゥルゾフ『我々がトライデントの中で建国したのです!我々の心に!』

インペルガ『国家?それは国家と言うのか?土地が無いのに…ははは。』

 

クトゥルゾフの拳が震える。

 

クトゥルゾフ『いえ、トライデントが…まず、我々の国家です。我々の力は重々承知の筈、我々と共にユグドラシル大陸王国と戦おうではないですか!国家としての承認を得れば我々は更に強く戦えます!』

 

眉を顰めるパルメダヲ。息を荒げるクトゥルゾフ。鼻で笑うインペルガはナエルの方を向き、手招きする。ナエルがインペルガに耳打ちし、インペルガは2度程頷く。

 

インペルガ『はは、トライデント。確かに大きいが土地が無ければ不便であろう。』

 

顔を上げる一同。

 

インペルガ『ふっ、良かろう。このシルヴィニア城と廃城、4城とその領地を与え、マルケルディアを国としてナイトメア帝国が認めようではないか。』

クトゥルゾフ『えっ、あ、よ、よろしいのですか?』

インペルガ『何だその顔は?ふん。独立したのにもかかわらずユグドラシル大陸王国のあのような内政干渉まがいの要求など呑めるはずがあるものか!従属時代よりも随分と酷い。』

 

顔を見合す一同。ガーミラがインペルガに駆け寄る。

 

ガーミラ『イ、インペルガ様!そんな待ってください!この私から居城を奪い上げると言うのですか!?』

 

インペルガはそっぽを向く。

 

インペルガ『城主は夢将に取り上げ、首都勤務とする!』

 

ガーミラは眼を見開く。

 

ガーミラ『夢将!!こ、この私が夢将!!し、しかも、あは、しゅ、首都勤務!都会…や、やったぁ!』

 

飛び上がるガーミラ。クトゥルゾフはトライデントの方を向く。三等船室で拍手をする自由戦士隊員達と窓から歓声を上げるマルケルディア都市国家市民達。

 

C17 あっけない交渉 END

-10ページ-

C18 集う者達

 

シルヴィニア城玉座の間。玉座を見つめるガーミラ。ハープの音が鳴り響く。ガーミラは顔を上げ、後ろを振り向く。彼女の眼に映るクトゥルゾフとプトレリュティス。

 

ガーミラ『…音楽を止めてくれ。』

 

ガーミラは玉座の腰当を左手で掴む。

 

ガーミラ『寂れ城といっても長年…いや、生まれてから苦楽を共にしてきたこの城だ。せっかくの私の出世なのに、思い出が染み入ってしまう。』

 

ガーミラはクトゥルゾフの傍に寄り、顔を見上げる。

 

ガーミラ『よくよく見ると…いい男だな。』

クトゥルゾフ『今頃気づくとか、酷くねえ。』

 

笑い声を上げるガーミラ。

 

ガーミラ『キスをしそびれてから大出世したものだ。』

 

ガーミラはクトゥルゾフの胸板に顔を当てる。顔を赤らめるプトレリュティス。ガーミラを見つめるクトゥルゾフ。クトゥルゾフはガーミラの背中に手を回して抱く。口に手を当てるプトレリュティス。暫し沈黙。顔を上げるガーミラ。

 

ガーミラ『お別れに…血吸わせろ。』

 

ガーミラを突き放し、後ろに下がるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『やなこった!あんたに血を吸われるとかゆくなるんだよ!』

ガーミラ『そうか。残念だ。別れの記念に…。チューって。チュー。ねっ。ねっ。』

クトゥルゾフ『いらん!』

 

地下ドック玉座の間が開き、現れるナエル。

 

ナエル『こんなところに居ましたか。もう時間ですよ。』

 

頷くガーミラ。

 

ナエル『マルケルディア国宰相も何を遊んでいるのです。』

 

頭を下げるクトゥルゾフ。歩いてシルヴィニア城へ出る一同。二頭の馬が用意され、一頭に乗るナエル。ガーミラはシリヴィニア城を振り返った後、馬に乗る。

 

パルメダヲ『夢将殿をお見送りしろ!』

 

マルケルディア国軍のラッパの音が響く。門が開き、出て行くナエルとガーミラ。城壁に上るクトゥルゾフと付いていくプトレリュティス。クトゥルゾフは城壁からガーミラとナエルを見つめ、ハープの弦を弾く。

 

クトゥルゾフ『

 

夢 遥かなる 

 

高みから 差し込む

 

木漏れ日に 手をかざし

 

運命に立ち込める 暗雲を断ち切る 強さよ

 

希望を掴む掌 永久に継がれる様に

 

 

クトゥルゾフはハープの演奏を続ける。ガーミラは手綱を引き、振り返る。クトゥルゾフを見て微笑むガーミラ。ガーミラの方を見るナエル。

ガーミラは口を開く。

 

ガーミラ『

 

強く強く 抱きしめあって 

 

 

クトゥルゾフは眼を見開き、ハープを地面に落とす。

 

ガーミラ『

 

温もり 伝えあう

 

 

クトゥルゾフは素早くハープを拾うとガーミラの歌に合わせて演奏をする。

 

ガーミラ『

 

胸の奥の 失われた時 補い合う為に

 

そんな風な 優しさ 求めていたのだろう

 

 

ガーミラはクトゥルゾフを見つめる。

 

ガーミラ『さらばだ!』

 

ガーミラとナエルは馬に乗って森林へ消えていく。見つめていたマルケルディア国民一同はばらばらとその場を去っていく。シルヴィニア城の城門が閉まる。城壁の上に上がるアレクサン、パルメダヲ。

 

マルケルディア国兵士A『機動城塞!人型機構多数!!』

 

見張りのマルケルディア国兵士Aが駆けてくる。騒音。砂煙が巻き起こる。マルケルディア国兵士Aの方を向く一同。

 

パルメダヲ『敵か!』

マルケルディア国兵士A『いえ…わ、分かりません!ユグドラシルの旗印ではありません!』

 

顎に手を当てて下を向くアレクサン。クトゥルゾフがマルケルディア国兵士Aの前に手を出す。首をかしげるマルケルディア国兵士A。

 

クトゥルゾフ『双眼鏡を。』

 

マルケルディア国兵士Aは双眼鏡を取り出しクトゥルゾフに渡す。クトゥルゾフは双眼鏡で砂煙の方を見つめる。笑い出すクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『ありゃ、ゴロツキ、もしくは野盗の類だ。』

 

顔を上げる一同。クトゥルゾフはアレクサンに双眼鏡を渡す。双眼鏡を覗き込むアレクサン。

 

クトゥルゾフ『正規軍はあんな派手な格好はしねえよ。機動城塞、人型機構もてんでバラバラ。』

 

パルメダヲはマルケルディア国兵士Aの方を向く。

 

パルメダヲ『迎撃体勢をとれ!』

 

クトゥルゾフは眼を細める。

 

クトゥルゾフ『おっと、手はまだ出さないで欲しい。』

 

パルメダヲは首をかしげる。クトゥルゾフは砂煙から現れる機動城塞群と人型機構群を見つめる。

 

クトゥルゾフ『説得してみる。俺にやらせてくれ。失敗したら攻撃してくれ。』

 

頷くパルメダヲ。城壁と少し距離をとって止まる機動城塞群と人型機構群。ド派手な人型機構のコックピットが開き、現れる野盗達。

 

野盗A『へっへっへ!ここがマルケルディア国か。』

野盗B『できたてほやほやだって!なら、がき殺すくらい簡単だ。』

野盗C『こいつりゃぶっ殺しゃ、大量の報奨金だぜ。』

野盗D『おい、緑氷の野郎!イチゴシロップかけたかき氷にしてくれるぜ!きゃっはー!』

 

眉を吊り上げるパルメダヲ。クトゥルゾフはパルメダヲの前に手を出し、一歩前に出る。

 

野盗A『何だ?てめえ?』

クトゥルゾフ『俺はこのマルケルディア国の宰相クトゥルゾフだ!』

野盗C『ププフ!おいおい、あんなみすぼらしい奴が宰相だとよ!』

野盗D『こりゃ楽勝じゃねえか。』

 

クトゥルゾフは城壁の手すりを握り締める。

 

クトゥルゾフ『俺達を攻めても、お前らが壊滅するだけだ!悪いことは言わん!』

 

野盗E『よちよち歩きの赤子国家、へへふ、が何言ってんの?はは、俺達にが怖いんでちゅね〜。そうでちゅね〜。』

クトゥルゾフ『それよりも俺達と共にユグドラシル大陸王国と戦おうじゃないか!禄は低いが、お前らの働き次第で倍増だ!俺を見てみろ!国家を建国した功績で今や宰相の地位!!ユグドラシル大陸王国の切り取り次第では城主や将軍も夢ではない!君らを無条件で正規軍として雇い入れてもいい。その準備もある!』

 

眼を見開くアレクサンとパルメダヲ。野盗Aは笑みを浮かべる。

 

野盗A『確かに魅力的な話だがよ。あんたの言葉はイマイチ地に足がついてねぇんだよ!!』

 

野盗Aの人型機構の銃が火を噴く。眼を見開くクトゥルゾフ。呪文を唱えるパルメダヲ。ヒデツグが弧を描いて跳び、刀で砲弾をみじん切りにする。唖然とする野盗達。

 

クトゥルゾフ『殺すなよ!』

 

ヒデツグは舌打ちし、その瞳はクトゥルゾフを捉えた後、前の方を向き、青白く光る刀を振る。青白い光が地面を切り裂き、野盗達の人型機構20機の足部を切断する。砂煙が巻き起こり、倒れる野盗達の20機の人型機構の方を向く野盗達。野盗Aは尻餅をつく。

 

野盗A『つ、強ええ!』

 

城壁に立ち、刀の反りを舐めるヒデツグ。顔を見合わせる野盗達。

 

野盗B『お、おい。こ、これなら正規軍の奴らに勝てるかもしれねえ。』

野盗C『ひょっとすると…ひょっとするかもな…。おい、あの男の話。』

野盗A『報奨金といってもせいぜい金貨1万枚くらいだろ。どうせ、大陸王国の野郎は血縁を重視する奴らなんだ。どんな働きをしても、あの男みたいに宰相にはなれんぜ。それによ、無条件で正規軍に取り入れる馬鹿野郎はここだけだぜ。まったくよ。いい夢をみさしてくれるぜ。』

 

野盗Aは城壁の上のクトゥルゾフを見つめる。

 

野盗A『へっへ、高えよな。あの壁は。へっ。』

 

パルメダヲの号令。城壁から野盗達に向けて大砲が出される。立ち上がる野盗D。

 

野盗D『お、おいおい。ま、待ってくれ!参った!降参だ!!』

野盗C『お、お前らの話に乗ってやろうじゃないか。』

 

砲撃音。野盗Cは頭を押さえて土下座する。

 

野盗C『い、いえ、の、乗らせてください!』

 

クトゥルゾフがパルメダヲに掌を向ける。

 

クトゥルゾフ『いいだろう!無条件で正規軍に取り入れる代わりに軍規は厳しいぞ!!』

 

頷く野盗達。眉を顰めるパルメダヲにアレクサン。

 

クトゥルゾフ『よし!城門を開けろ!!』

 

シルヴィニア城の城門が開き、入っていく野盗達。

 

昼間。シルヴィニア城城門。特設されたテントの下に座るクトゥルゾフとアンクルパパロフにマルケルディア国兵士多数。前方には野盗やゴロツキどもが列を作り並ぶ。人だかりのシルヴィニア城内。最前列のノターリンが写真を撮られる。

 

マルケルディア国兵士B『ノターリン!よし、入っていいぞ!』

 

ノターリンは一礼して場内へ入っていく。

 

クトゥルゾフ『へへ、ほれ見ろ。結構な人数が集まってきやがったじゃねえか。』

 

眉を顰め、城内の方を向くアンクルパパロフ。

 

アンクルパパロフ『ガラの悪い連中が増えましたな…。』

クトゥルゾフ『はっは、気にすんな。仕方ねえことだ。』

 

溜息をつくアンクルパパロフ。

 

アンクルパパロフ『何事も起こらなければいいのですが。』

クトゥルゾフ『気にすることはねえ。何かありゃ軍規でキュッと締めりゃいい。』

 

クリスティーンがテントの前に立つ。マルケルディア国兵士Bが大男のクリスティーンを見つめる。

 

マルケルディア国兵士B『名前と略歴を。』

 

クリスティーンはクトゥルゾフとアンクルパパロフの方を見る。

 

クリスティーン『クリスティーン・パプピポパプンピピプ。』

 

クリスティーンの方を見る一同。

 

クトゥルゾフ『パポピ?』

 

クトゥルゾフはアンクルパパロフの顔を見る。

 

クトゥルゾフ『どっかで聞いたことあるような。』

 

アンクルパパロフが眉を顰める。顔を見合わせるマルケルディア国兵士達。

 

クリスティーン『パプピポパプンピピプだ。いつも思うがどうして皆これがサラっと言えぬのだ。』

 

頭をかくクトゥルゾフ。

 

クリスティーン『まあいい。俺はユグドラシル大陸王国の元将軍だ。』

 

唖然とする一同。ざわめきが巻き起こる。クトゥルゾフは眼を見開いて笑いながらクリスティーンに近寄る。

 

クトゥルゾフ『はは、あ、あんた間違ってない。ここはマルケルディア国の徴兵場。あんたはユグドラシル大陸王国の将軍だろ。』

 

クリスティーンは眼を細める。

 

クリスティーン『元だ。』

クトゥルゾフ『元って、何で将軍やめちったの。こんな辺鄙な所なんて将軍の優雅な暮らしと名声に比…。』

 

立ち上がるアンクルパパロフ。

 

アンクルパパロフ『あ、あなたはもしや我々との戦の責任をとらされ処刑されたユグドラシル大陸王国の将軍!』

 

クトゥルゾフはアンクルパパロフの方を向いて眼を見開く。

 

クトゥルゾフ『なっ!』

 

クトゥルゾフはクリスティーンの方を向き、人差し指で腕を突き、クリスティーンの顔を見上げる。

 

クトゥルゾフ『ゆ、幽霊じゃねえ…よな。感触はあるし…。』

クリスティーン『賑やかな男だな。』

 

クリスティーンは一歩前に出る。

 

クリスティーン『俺はクロスティーン・パプピポパプンピピプの長子クリスティーン・パプピポパプンピピプだ。』

アンクルパパロフ『パ、パ…パプピポパプンピピプ将軍の長子!?し、しかし、パ、パ…パプピポパプンピピプ家は一族郎等が皆殺しにされてしまった筈。』

 

クリスティーンは拳を震わして血の涙を流す。後ずさるクトゥルゾフと一同。

 

クリスティーン『敗戦の責任をとらされたわけではない!ブゼンが見栄を張るために処刑したのだ!我が父はブゼンを諌め、実際の戦争にも参加していないのにも関わらずな!一族郎等の仇であるブゼンを討つため、恥を晒してまで逃亡したのだ!!』

 

顔を見合すクトゥルゾフとアンクルパパロフ。

 

アンクルパパロフ『…ど、どうします?宰相?』

 

クトゥルゾフは眉を顰め、頭をかく。

 

クトゥルゾフ『ど、どうするって…。』

 

クリスティーンはクトゥルゾフを見下ろす。

 

クリスティーン『宰相?お前が…。』

 

クトゥルゾフはクリスティーンの腹をどつく。

 

クトゥルゾフ『うるせえよ!俺が宰相で悪かったな!見えねえだろ、みすぼらしいだろ!色男なんだけどなぁ、けっ。』

 

クトゥルゾフはアンクルパパロフの方を見つめる。

 

クトゥルゾフ『そりゃ、代表に会わせるしかないよ。』

 

クトゥルゾフとアンクルパパロフは立ち上がり、手で指示をマルケルディア国兵士達にしてクリスティーンを連れて城内へと入っていく。騒ぎ声。顔を見合わせるクトゥルゾフとアンクルパパロフ。大きくなるざわめき。

 

アンクルパパロフ『何かあったのでしょうか。』

クトゥルゾフ『さあ…。』

 

野外に設置された酒場、椅子が散乱し、机が倒れて酒が床に毀れ、トランプのカードが散乱している。倒れている野盗Fを見下ろし、息を切らす自由戦士隊員F。自由戦士隊員Aが青ざめた表情で野盗Fの首筋に手を当てている。群集を掻き分けて現れるクトゥルゾフとアンクルパパロフにクリスティーン。首を横に振る自由戦士隊員Aと見下ろしている野盗D。

 

自由戦士隊員F『お、俺は悪く無い。』

 

自由戦士隊員Fは野盗Fの方を指差す。

 

自由戦士隊員F『こ、こいつが悪いんだ。イ、イカサマなんてしかけやがって…こ、こいつがよ。』

 

顔を上げ、唖然とするクトゥルゾフの方を見上げる自由戦士隊員A。

 

自由戦士隊員A『あ、宰相。こ、こいつは事故だぜ。こいつとあいつが揉み合って…打ち所が悪…。』

 

野盗Dは頷く。

 

野盗D『そ、そうだぜ。こいつは、事故だ!だ、だいたいこいつがイカサマをしやがるのが悪いんだ!』

 

クトゥルゾフは自由戦士隊員Fを睨みつける。

 

クトゥルゾフ『軍規は!アンクルパパロフ!軍規ではこの場合どうなっている!!』

アンクルパパロフ『賭博を発端とする乱闘により相手を死に至らしめた場合、軍規では…死罪です。』

 

青ざめる自由戦士隊員F。

 

自由戦士隊員A『お、おい冗談だろ!』

 

自由戦士隊員Fは笑い出す。

 

自由戦士隊員F『お、おい。クトゥルゾフ、お前…宰相になったからつってしないよな。そ、そんなこと。』

クトゥルゾフ『銃を!』

 

アンクルパパロフがハンドガンをクトゥルゾフに渡す。

 

自由戦士隊員F『や、止めりょ!お、俺達昔なじみの仲間だろ!なぁ!!』

 

クトゥルゾフはハンドガンの安全装置を外し、自由戦士隊員に銃口を向ける。

 

自由戦士隊員F『よ、よせ!』

 

銃声が響く。倒れる自由戦士隊員F。ハンドガンからの硝煙がクトゥルゾフの顔を覆う。動く自由戦士隊員F。

 

自由戦士隊員F『ひっ、ひぃいいいい!いてぇ!いてぇよ!!…お、お慈悲を!ごふっ。』

 

自由戦士隊員Fは腹を押さえ、眼から涙を零しながらクトゥルゾフを見つめる。

 

自由戦士隊員F『げふっ、も、もう、賭博も、わ、悪いこともし、しないから。助けて…助けてくりぃ…。ゆ、ううっ、許してくりぃ…。』

 

クトゥルゾフは自由戦士隊員Fを見下ろし、ハンドガンの引き金を引く。銃声二回。自由戦士隊員の屍からの血が床を染める。俯き、ハンドガンをアンクルパパロフに渡して肩を落とすクトゥルゾフ。マルケルディア国兵士Bとマルケルディア国兵士Cが現れ、自由戦士隊員Fと野盗Fの傍らに寄る。

 

クトゥルゾフ『片付けろ。』

 

後ろを振り向き、歩みだすクトゥルゾフ。続くアンクルパパロフにクリスティーン。暫し沈黙。背を向け、人ごみを去るクトゥルゾフ、アンクルパパロフにクリスティーン。ざわめきが巻き起こる。人ごみが消え、第二の門を通り過ぎる三人。

 

クリスティーン『見かけによらず、やるときはやる男だな。銃の扱いは下手糞だが。』

 

クトゥルゾフは俯いたまま歩む。

 

クトゥルゾフ『…将軍ってそんなんなのか?兵をそんなに簡単にあっさりと殺せるのか。だってよ。あいつは俺が宰相になったとき胴上げしてくれた奴なんだぜ。同じ隊にいた時に。酒も一緒に飲んだしよ。』

 

クリスティーンは眉を顰める。クトゥルゾフの横につくアンクルパパロフ。

 

アンクルパパロフ『秩序を守るためです。致仕方ありませんよ。あそこで彼を許していたら、元々ガラの悪い連中なだけに我々を舐めてかかり、取り返しのつかないことになったでしょう。』

 

クトゥルゾフは両手を前に出し、掌を見つめる。

 

クトゥルゾフ『確かにそうだ。だから殺さなきゃならなかった。だけどよ。俺は人間としての奴を知っている。奴は俺と共に自由戦士隊に居たんだぜ。殺したんだよ俺はそんな奴を。でも、どうしようも、もうどうしようもなかったんだ!自分の手でやるしかなかったんだよ!!この国の為には!』

 

クトゥルゾフは眼から涙を大量に零す。

 

クトゥルゾフ『いい歳してこんな大人が、へっ、この国の宰相が何で泣ける…止まらねえんだ…。』

 

アンクルパパロフとクリスティーンは顔を見合わせる。アンクルパパロフがクトゥルゾフの肩を叩く。

 

アンクルパパロフ『我々は先に行っております。』

 

クトゥルゾフは涙を袖でぬぐいながら頷く。肩を落とすクトゥルゾフ。城門が開き、中に入っていく二人。

 

C18 集う者達 END

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C19 迫るもの

 

シルヴィニア城外。遠くに聳えるゴラトリゥス山を見るクトゥルゾフ。森林に囲まれた洞窟から出てくるポポロゾフと自由戦士隊員A。クトゥルゾフが笑みを浮かべ、手を振る。

 

ポポロゾフ『まったく、あの山まで穴を掘らせやがって。ブルベド以来、おりゃこんな仕事やりたくねえんだよ。妙なモン掘り当てちまったらどうする!金塊ならいいがよ。』

クトゥルゾフ『まあいいだろ。今はそれどころじゃねえ。今はナイトメア帝国とユグドラシル大陸王国が交戦し始めたんだ。』

自由戦士隊員A『なっ、何だって!だったらなおさらこんなところに穴を掘ってる場合じゃねえじゃねえか。』

 

野盗Aが顔を出す。

 

野盗A『おいおい、だったらこんな無意味なこと止めてよ。やつらと一緒に戦った方がいいじゃねえか。』

 

クトゥルゾフは腕を組む。

 

クトゥルゾフ『無意味じゃねえ。パルメダヲが言うには見晴らしのいいあの山は敵の陣を張るには最適な場所だそうだぜ。ここを奴らが来る前に堀すすみゃ、奴らの真下に潜り込めるって寸法よ。』

ポポロゾフ『掘り進みゃ?なめんじゃねえよ。もう完成だぜ。』

 

クトゥルゾフは眼を見開いて、組んだ腕を解く。

 

クトゥルゾフ『何!!す、スゲェじゃねえか。』

 

穴から顔を出すマルケルディア国兵士D。

 

マルケルディア国兵士D『な、なら、ユグドラシル大陸王国がこの地に迫っているということか!?』

 

頷くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『まあ、最もあの山に配置してある部隊が抜かれることはねえと思うが。備えあれば憂い無しって言うしな。』

 

ポポロゾフの方を向くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『ところであいつはできたのか?』

 

ポポロゾフは満面の笑みを浮かべて洞窟内にあるCx2-88級人型機構ドリル付きを指差す。

 

ポポロゾフ『へ、見な。あいつを。』

クトゥルゾフ『お、すげえなこいつは。』

 

ポポロゾフはゴラトリゥス山を見つめる。

 

ポポロゾフ『あの山なら、垂直で50秒程度で抜けるぜ。』

 

クトゥルゾフに近づくヒデツグ。

 

ヒデツグ『こんな所にいたか。』

 

ヒデツグの方を見るクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『おう。』

ヒデツグ『軍議の時間だ。』

 

チンが食事を運んで行き、クトゥルゾフは頷いてヒデツグと共に去っていく。

 

シルヴィニア城会議室。マルケルディア国の重鎮の面々。パルメダヲが立ち上がる。

 

パルメダヲ『これより軍議を始める。今、この地にはユグドラシル大陸王国軍が向かっている。』

アンクルパパロフ『将は判明しておりません。』

 

クトゥルゾフはクリスティーンを見る。

 

クトゥルゾフ『おい、クリスティーン。お前、ユグドラシルの将だろ!心当たりはねえか。』

 

クリスティーンは眉を顰めてクトゥルゾフを見つめる。

 

クリスティーン『いくら宰相殿とは言え親しくない方にファーストネームで呼ばれる筋合いは無い。』

 

パルメダヲは立ち上がる。

 

パルメダヲ『それは困る。』

 

パルメダヲは咳払いし、眉を顰めるクリスティーン。パルメダヲは周りを見回す。

 

パルメダヲ『この軍議の場でそんな私情を持ち込んでは欲しくは無い。』

 

頷く一同。クリスティーンは頷き、頭を下げる。

 

クリスティーン『失礼をした。』

パルメダヲ『では、今、我が…。』

マルケルディア国兵士Eの声『報告!報告!!』

 

壁の方を向く一同。扉が勢い良く開き、現れるマルケルディア国兵士E。

 

マルケルディア国兵士E『ゴ、ゴラトリゥス山が占拠されました!』

クトゥルゾフ『な、何だと!配置していた兵は!?』

マルケルディア国兵士E『全滅…。』

クトゥルゾフ『嘘だろ。こっちは待ち伏せてゲリラ戦をする方なんだぜ。』

マルケルディア国兵士E『現在、サクリュオス殿の指揮の下、山間で小競り合いが続いております!』

 

マルケルディア国兵士Fが駆け込んでくる。

 

マルケルディア国兵士F『報告します!こちら方面の司令か、し、司令官がはん、はんめ…。』

 

パルメダヲが立ち上がる。

 

パルメダヲ『どうした。落ち着け。』

マルケルディア国兵士F『は!』

 

マルケルディア国兵士Fから滝のような汗が吹き出る。一同の顔が青ざめる。

 

マルケルディア国兵士F『バトゥです。』

 

唖然とする一同。カットラスが立ち上がり、机を拳で殴りつける。

 

カットラス『おのれインペルガ!謀ったな!!あの山猿のことだ、簡単には抜かれまいが、そう持ちこたえてもいられまい。』

 

カットラスはパルメダヲを見る。

 

カットラス『父上、俺はサクリュオスの救援へ向かう。』

 

頷くパルメダヲ。カットラスは扉を開けて去っていく。溜息をつくパルメダヲ。俯くアレクサン。クトゥルゾフが立ち上がる。

 

クトゥルゾフ『だ、大丈夫だ!俺達にはまだ地下道が残ってる!そっから奴らの本陣を急襲できる!』

 

アレクサンが顔を上げる。

 

アレクサン『宰相。君の案には致命的な欠陥がある。一つ目は敵陣の本陣の正確な位置が分かっていなければならないこと。二つ目は戦の流動によって本陣が移動してしまい、地下道内に居る君らに伝える手段は無い。後者は我々が何とか対処できるが、前者は誰かが敵の懐に入り込まなければならない。それに、森林を抜けられたらお手上げだ。』

 

舌打ちするクトゥルゾフ。天井板が外れ、降り立ち、一同の前に跪くノターリン。

 

ノターリン『プリャプータポンピプピャ、話は聞かせてもらいやしたぜ。』

 

パルメダヲが眉を吊り上げる。

 

パルメダヲ『だ、誰だ!貴様は!!』

 

立ち上がるノターリン。

 

ノターリン『これは失礼を。あっちはノターリンというケチなこそど…ごふげっ、げふげっ…。』

 

咳払いをし、一礼するノターリン。

 

ノターリン『潜入のプロでございます。』

アレクサン『潜入のプロ?』

 

ノターリンは両手を広げる。

 

ノターリン『だってそうでしょ。あなた方は軍議の最中、わちきがずっと天井裏に潜んでいたことに気づかなかったわけですから。』

 

顔を見合わせる一同。

 

ノターリン『敵陣に盗撮機を仕掛けりゃいいんでしょ。ヘペプッタ、ついでに兵器もはかいしてきましょうか。ペペップ。』

クリスティーン『たいした自信だな。』

ノターリン『そりゃ、フフプンタ、前科2万犯は修羅場踏んでますから。』

 

唖然とする一同。クトゥルゾフが一歩前に踏み出す。首をかしげるノターリン。

 

クトゥルゾフ『…で、望みはなんだ?』

ノターリン『へ、そおりゃもう俺が盗聴器の設置に成功すれば元帥の地位を、兵器の爆破に成功すれば…大元帥の地位を。』

 

顔を見合わせる一同。

 

パルメダヲ『そんな犯罪者を元帥の地位につけれるものか!』

ノターリン『いいんですよ。止めても。報奨金が少ないと分かっているからこそ、階級で代替しなければならないんじゃないんですか。あと、わっちの他に誰が敵陣のド真ん中に好んではいります?クケッコカッコ!』

アンクルパパロフ『宰相、あなた以上の奸臣ぶりですぞ、この男。』

クトゥルゾフ『それ、酷くねえ。』

 

一同を見つめるノターリン。

 

クトゥルゾフ『代表。』

 

クトゥルゾフを見つめるアレクサン。

 

クトゥルゾフ『…飲んでいいよなこいつの条件を。』

 

ざわめきが巻き起こる。クトゥルゾフは一同の方を振り返る。

 

クトゥルゾフ『やかましい。堂々と犯罪の箔を語り、挙句の果てに階級を要求するこいつを許せないのは分かる。だがな、ペナルティあっての犯罪だ。奴の犯罪で磨き上げられたスキルは今の状況を打破するには最適だ。逆に賞賛、褒賞をうけるぐらいな。』

 

クトゥルゾフを睨みつける一同。

 

クトゥルゾフ『怖い顔するな。どの道、こいつに…。』

 

クトゥルゾフは親指でノターリンを指す。

 

クトゥルゾフ『この潜入のプロに頼らざるをえないんだ。』

パルメダヲ『ふん!ばかばかしい!地下道による奇襲に捉われる必要は無い!バトゥが名将であるとはいえ、こちとら戦歴はつんでおるのだ!』

 

パルメダヲが立ち上がりる。

 

アレクサン『パルメダヲ!』

 

パルメダヲはアレクサンを見つめた後、クトゥルゾフを見る。

 

パルメダヲ『地下道による奇襲。そちらに一任するぞ。俺は全軍の指揮を執る。』

 

頷くアレクサンとクトゥルゾフ。パルメダヲは軍靴の音を響かせて、退場する。笑みを浮かべるノターリン。クトゥルゾフはノターリンの方を向く。

 

クトゥルゾフ『そのかわりこっちにも条件がある。』

 

クトゥルゾフはノターリンの周りを一周する。

 

クトゥルゾフ『あんた。イマイチ信用できねぇんだよな。』

 

眉を顰めるノターリン。

 

クトゥルゾフ『そこでだ。』

 

クトゥルゾフはノターリンの顔を覗き込む。首をかしげる。

 

クトゥルゾフ『あんたに発信機を取り付けさせてもらう。』

 

笑みを浮かべるノターリン。

 

ノターリン『プラタッパポンピクケ、わっちの仕事ぶりに驚愕するだけだわんす。』

 

クトゥルゾフは懐から発信機を取り出し、ノターリンの背中につける。自身の背中に手を当てるノターリン。クトゥルゾフは懐から盗撮機を多数取り出し、ノターリンに渡す。

 

クトゥルゾフ『こいつを敵陣にしかけてくれ。』

 

頷くノターリン。クトゥルゾフはアンクルパパロフの方を向く。頷くアンクルパパロフは呪文を唱え、発信機がノターリンの体の中へと入っていく。ノターリンはアンクルパパロフを睨みつける。

 

ノターリン『や、やい!てめぇ!な、何しやがんだ!!』

クトゥルゾフ『えっ?発信機が落ちないように体に埋め込んだだけだが。』

 

ノターリンはクトゥルゾフを睨みつける。

 

クトゥルゾフ『えっ、もしやあれだけ豪語しておいて、自信の華麗な活躍を俺達に見せないつもりですか?それとも口先だけの虚勢だったとか。』

 

ノターリンは眉を吊り上げる。

 

クトゥルゾフ『ありませんよね。ノターリン次期元帥殿なら!』

ノターリン『ほっ、吼えずらかくなよ!絶対に成功させてやる!クキーーーーー!』

 

ノターリンはジャンプして消えていく。クトゥルゾフの傍らに寄るアレクサン。

 

アレクサン『君はああいう類の奴の扱いが上手いな。』

クトゥルゾフ『はぁ、それにしても奴のあの笑い方なんとかなりません?』

 

クトゥルゾフはクリスティーンを見つめる。

 

クトゥルゾフ『クリスティーン。』

 

頷くクリスティーン。

 

クリスティーン『ああ、分かっている。』

 

アンクルパパロフの方を向くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『始めてくれ。』

 

アンクルパパロフが机のスイッチを押す。机の上に現れるゴラトリゥス山のホログラム。クトゥルゾフの傍らに寄る一同。

 

クトゥルゾフ『さてと、あんにゃろは何処まで行ったかな。』

 

ゴラトリゥス山のホログラムの中腹が赤く光り、二つのモニターが現れてバトゥ軍陣営が映る。兵士の声が聞こえる。

 

クトゥルゾフ『…げげげ!も、もう、こんな短時間に2個も設置してやがる。』

 

次々とモニターに映ってゆくバトゥ軍陣営。

 

クトゥルゾフ『すげぇ、このスピード、伊達じゃねえ。これはひょっとするとひょっとするかも…。』

アンクルパパロフ『凄く先が思いやられます。あんなのが元帥なんて…はぁ。』

 

頭を抱えるアンクルパパロフ。クリスティーンが第12モニターを指差す。

 

クリスティーン『ここだ。ここが奴らの本陣だ。』

 

クリスティーンの方を向くクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『頂上か…。バトゥを見つけたのか?』

 

クリスティーンは首を横に振る。

 

クトゥルゾフ『じゃ、じゃ、何で??』

クリスティーン『総大将がみだりに出たりするものか。奴の側近のカノゥが居た。間違いあるまいここが本陣だ。』

 

喉を鳴らすクトゥルゾフ。

 

クリスティーン『戦は流動する。地下道に入ってしまえば伝達は不可能だ。時間はないぞ!』

 

盗聴器から流れるノターリンの声。

 

ノターリンの声『…フヒャッヘポポンタ、クキキィキキキィ。これで爆弾をしかけりゃおしまいよ。ピッピピー、これでわちき様の地位も…。』

クトゥルゾフ『ゲゲゲ、こ、この男スゲェ!』

アンクルパパロフ『晴れて大元帥ですか。はぁ、どうなってしまうんだこの国は。』

 

足音。

 

バトゥ軍兵士の声『…とだ!居たぞ!!…貴様ー!何をしている!!』

ノターリンの声『ポッ、ポペッロ!』

 

激しい足音。

 

バトゥ軍兵士の声『待てぇい!止まらんと撃つぞ!』

 

激しい足音。銃声。

 

ノターリンの声『ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイギャイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアロォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

一同『ノタァーーーーーーーーーリィーーーーーーーン!!!!』

 

暫し、沈黙。アレクサンはクトゥルゾフを見つめる。

 

アレクサン『彼の死を無駄にはできない!』

クトゥルゾフ『分かってるって。』

 

クリスティーンがクトゥルゾフの肩を叩く。

 

クリスティーン『気をつけろ。奴らの陣営には非常に耳のいい奴が居る。』

 

眼を見開き、拳を握り締めるクトゥルゾフ。クトゥルゾフは会議室の機器のほうを向く。

 

クトゥルゾフ『…そうか。でも、やんなきゃなんないんだよ!!』

 

クトゥルゾフは無線機を握り締める。クリスティーンは頷く。

 

クリスティーン『では、健闘を祈る。』

クトゥルゾフ『あんたもな。』

 

会議室から出て行くクリスティーン。

 

クトゥルゾフ『自由戦士隊!会議室に集合せよ!繰り返す自由戦士隊!会議室に集合せよ!!』

 

C19 迫るもの END

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C20 陽の光

 

シルヴィニア城会議室。集うマルケルディア国宰相直属の部隊である自由戦士隊員の隊員達。

 

自由戦士隊員D『へ、こんな戦の最中に臨時召集か?』

自由戦士隊員E『俺達、何処にとばされるんだろうな。』

自由戦士隊員A『最前線じゃねえか。』

野盗B『うお、こええ。』

 

壇上に上がるクトゥルゾフ。ざわめきが巻き起こる。クトゥルゾフは自由戦士隊員達を見つめる。

 

クトゥルゾフ『時間がねえ、手短に話す。敵はバトゥ軍だ。』

 

青ざめる自由戦士隊員達。

 

野盗C『じょ、冗談だろ!俺達ゴロツキなんだぜ!それが、なんでバトゥとなんて渡り合える!』

クトゥルゾフ『怯えるんじゃねえ!』

 

会議室に投影されるバトゥの顔写真。

 

クトゥルゾフ『いいか、俺達はあの地下道を通って本陣を急襲し、こいつの首を取る!』

 

眼を見開き、笑みを浮かべる自由戦士隊員達。

 

クトゥルゾフ『奴の本陣の場所は分かっている。ただし、時間がねえ。命が惜しい奴は付いてこなくていい!だがな、大将首はすぐそこだ!参加するものは俺について来い!』

 

大歓声が起こる。立ち上がる大多数の自由戦士隊員達。

 

自由戦士隊員A『へへへ、大将首か!』

野盗A『バトゥを討ちとりゃ有名人よ。』

 

マルケルディア国兵士Aが駆け込んでくる。

 

マルケルディア国兵士A『報告!報告!!』

 

マルケルディア国兵士Aの方を見る一同。

 

マルケルディア国兵士A『ただいま、我が軍は押し込まれています!』

 

クトゥルゾフの額から汗が流れる。

 

クトゥルゾフ『何だと!』

 

舌打ちするクトゥルゾフはヒデツグを見る。

 

クトゥルゾフ『ヒデツグ!』

 

一歩前に出るヒデツグ。

 

ヒデツグ『何だ?』

クトゥルゾフ『お前、奇襲に参加しない奴らと共に軍と合流しろ!』

 

眼を見開くヒデツグ。

 

ヒデツグ『なぁ!お、俺は、いや俺も参加するぞ!俺は貴様の護衛官だ!』

 

ヒデツグは涙を零しながらクトゥルゾフを睨みつける。

 

ヒデツグ『お前は俺を必要と言ったではないか!それともお前も大爺様の様に俺を捨てるのか!』

 

首をかしげるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『大爺?』

ヒデツグ『代表にアンクルパパロフも居るではないか。』

クトゥルゾフ『分かってねえ奴だな。今、本陣が動かされたら俺達の奇襲が台無しになる。この城だって手薄にする訳にはいかないんだ!お前の力量を見込んでの頼みなんだぜ。よく考えてみろよ。あのパルメダヲが押し込まれてるんだ!この国には今、お前が必要なんだぜ。』

 

ヒデツグは唾を吐く。

 

ヒデツグ『ふんっ、詐欺師山師は口が上手い。』

クトゥルゾフ『おいおい、ヒデツグ。』

ヒデツグ『いいだろう。乗ってやる。』

 

ヒデツグはクトゥルゾフを見つめる。

 

クトゥルゾフ『いよおし!参加しない奴は、ヒデツグと共にパルメダヲのおやっさんの軍と合流しろ!参加する奴は俺について来い!』

 

自由戦士隊員達が雄たけびを上げる。

 

クトゥルゾフ『自由戦士隊!出陣!!』

 

会議室の扉が開く。クトゥルゾフは後ろを振り向く。

 

クトゥルゾフ『相手には耳のいい野郎がいる。こっから先のおしゃべり、騒音は厳禁だぜ!』

 

顔を見合わせ頷く自由戦士隊員達。クトゥルゾフは頷くと駆け出していく。続く自由戦士隊員達。シルヴィニア城城門が開く。城壁の上から移動する自由戦士隊員達を見つめるプトレマイオス、プトレリュティスにマルケルディア国の民衆及び守備兵。

 

クトゥルゾフを先頭に森林に入っていく自由戦士隊員達。全員が入り終えると、自由戦士隊は分離し、左右へ分かれていく。クトゥルゾフを先頭とする隊は潜行し、森林に囲まれた洞窟まで行って中に入り、Cx2-88級人型機構ドリル付きに乗り込み、忍び足で移動を開始する。

 

ライトが照らす手掘りの入り組んだトンネルが続く。Cx2-88級人型機構ドリル付きのライトに照らされ、続く影。暫く進み、先頭のCx2-88級人型機構ドリル付きが止まり、掌を後続のCx2-88級人型機構ドリル付きへと見せる。頷くCx2-88級人型機構ドリル付きの頭部。Cx2-88級人型機構ドリル付き群は天にドリルを掲げる。

 

ドリルが回転し、ブースターが火を噴く。Cx2-88級人型機構ドリル付き群が掘り進み、跳躍して地表に出る。

 

砲撃音。銃撃音。

 

砲火が空を染め、蜂の巣にされて落ちていくCx2-88級人型機構ドリル付き群。自由戦士隊員の四肢が千切れ、血潮と共に宙を舞う。後方に下がりつつあるバトゥ軍本陣。椅子に座るバトゥ軍総大将。両隣にはバトゥの側近のザトゥとカノゥが居る。ザトゥに一礼するバトゥ軍兵長のイヤー・ソン。

 

ザトゥ『良くやった。イヤー・ソン!』

イヤー・ソン『いやー、そんなことはありませんよ。』

ザトゥ『山岳部隊の壊滅及び奇襲を見破った栄誉。貴様を軍曹に昇格させる。』

イヤー・ソン『二階級特進とは!ありがたきしあわせ。』

ザトゥ『これからも我が軍で忠勤に励め。』

イヤー・ソン『はは!』

 

地面に落ちる大量の瓦礫と肉片、大破したCx2-88級人型機構のコックピットから出てくる額から血を流すクトゥルゾフ。大破したCx2-88級ドリル付きの装甲に背中をかけ、笑い出すクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『俺、なんで宰相なんかやってんだ?俺なにやってんだ?はは、いい嫁さんもらって、朝は手料理・・・昼間は好きな曲ばっかり奏でて、綺麗なネーちゃん侍らせて夜は、豪勢な食事と愛する奥さん。子供のかわいらしい寝顔見て・・・ぐっすり眠る。でもって、皆に振り向かれるんだぜ。あの人はクトゥルゾフだって。大スターのクトゥルゾフだってさ!ハハハ。』

 

クトゥルゾフは天を見上る。

 

クトゥルゾフ『くっだらねえ・・・夢。』

自由戦士隊員A『何、馬鹿なことほざいてんだ!宰相よ!』

 

クトゥルゾフは体を引きずってくる自由戦士隊員Aの方を向く。

 

自由戦士隊A『よぉ、元気そうじゃねえか。』

 

クトゥルゾフは眉を顰めて自由戦士隊員Aを見た後、天を見上げる。

 

クトゥルゾフ『すまねえ。』

 

野盗Aが腹を押さえてクトゥルゾフの隣に座る。

 

野盗A『何を謝る必要があるんでえ!俺達が、ぐふ、ただのしがないくそったれの俺らが、あのバトゥの喉下に切っ先当ててんだ!へっへ、悪くねえよ。あの高みによ!矛先の光を!』

 

砲撃音と銃撃音が鳴り響く。自由戦士隊員Aは立ち上がる。

 

自由戦士隊員A『金も子孫も残すもんなんてなんにも俺達にはねえ。矛の先には名しかなくなっちまった。へへへ。でもよあんたが宰相になったとき正直、嬉しかったぜ。こんな何のとりえも無い俺達みたいな雑草の様な奴らのなかからポーンとな。光って見えた。俺達でも出世できるって、俺達でもなれるんだって!あの高みによ。あんたは俺らのスターだぜ。大スターなんだぜ!』

 

自由戦士隊員Aはポケットから数枚のコインを取り出すとクトゥルゾフの前に置く。

 

自由戦士隊員A『いい路銀だったぜ。』

 

自由戦士隊員Aは槍に体を支えさせ、びっこを引きながら大破したCx2-88級人型機構ドリル付きの影から出て行く。

 

クトゥルゾフ『おい、待て!止めろ!おい、おまっ!』

 

銃撃音が鳴り、クトゥルゾフの前に血がつき、ひび割れたハーモニカが転がる。クトゥルゾフは顔を覆う。

 

クトゥルゾフ『あああああああ!』

 

頭を抱えた後、野盗Aを見つめるクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『はは、あ、あいつ馬鹿だよな。ほんと…大馬鹿野郎だ。なあ。』

 

クトゥルゾフは野盗Aをの方へ上体を向ける。

 

クトゥルゾフ『おい、あんた聞いてる?』

 

野盗Aの肩に手をかけるクトゥルゾフ。倒れる野盗A。

 

クトゥルゾフ『嘘だろ。』

 

クトゥルゾフは雄たけびを上げ、大破したCx2-88級人型機構ドリル付きのコックピットに乗り込む。大破したCx2-88級人型機構ドリル付きのバックパックから火が吹き、大空に弧を描いてザトゥ、カノゥを両脇にして椅子に座っているバトゥ軍総大将に向けて跳躍する。砲火がクトゥルゾフ機の外装を剥ぎ取る。コックピットをさらけ出す。クトゥルゾフはバトゥ軍総大将を睨みつける。

 

クトゥルゾフ『バトゥウウウウウウウウウウウウウウウ!!!』

 

砲火がクトゥルゾフの右手の指を切断する。クトゥルゾフ機のドリルがバトゥ軍総大将へ向かっていく。ザトゥが剣でCx2-88級人型機構ドリル付きのドリルを切り払い、四肢と瓦礫が散乱する上に落ちるクトゥルゾフ機。

 

クトゥルゾフ『かなわ・・・ねえよな。かなわねえ。へ、あんなに近いのにどうしてこんなにも遠いんだ。』

 

クトゥルゾフは千切れた指を見る。

 

クトゥルゾフ『ケッ、この指じゃ。もう曲も弾けやしねえ。』

 

上体を起こすクトゥルゾフ。クトゥルゾフ機から落ちる弦が切れたハープ。クトゥルゾフはバトゥ軍総大将を睨みつける。

 

クトゥルゾフ『だがよ。』

 

コックピットから這い出すクトゥルゾフ。銃撃がクトゥルゾフの顔を掠める。銃撃音。クトゥルゾフの体が七色に輝きだす。眼を見開くバトゥ軍総大将。立ち上がるクトゥルゾフ。銃撃がクトゥルゾフの体を貫く。よろめくクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『ふふ、とるにたりねえ俺達の様な雑草を照らす木漏れ日から差し込むほんの僅かな光がよ。俺達を照らすマルケルディア国っていうでっけえ陽の光になったんだ!』

 

クトゥルゾフは口から血を流しながらバトゥ軍総大将を睨みつける。

 

クトゥルゾフ『その光をやらせられねえんだよ!絶対に!!ぜってーに!!』

 

クトゥルゾフは剣を左手で地面に突き刺す。弦の切れたハープから音が奏でられ、四散する自由戦士隊員の遺体が七色に輝き、その光がハープに集まる。銃撃がクトゥルゾフを貫く。クトゥルゾフは剣の柄にもたれ、歯を食いしばりながらバトゥ軍本陣を睨む。

 

ハープから七色の光がクトゥルゾフの剣から螺旋を描き、天空へと消えていく。クトゥルゾフの背後から七色の壁が現れ、天に向かって伸びる。上体を向けるバトゥ軍総大将。ザトゥが腕を組み、バトゥ軍兵士Aの方を向く。

 

ザトゥ『前方に展開中の部隊に撤退令を出せ。』

バトゥ軍兵士A『ハッ!』

 

ザトゥは正面を向く。

 

ザトゥ『これより、本陣を後ろに移す!兵糧、陣はそのままにしておけ。』

 

カノゥがザトゥの傍らに寄る。

 

カノゥ『ほぼ予定通りの動きですが。奇襲によって若干偽退が早まりましたな。』

 

剣の柄を握り締め、眼を見開くクトゥルゾフ。ザトゥはクトゥルゾフの後方に聳える七色の壁を見つめる。息を切らすクトゥルゾフ、体は引き裂かれ、腸が地面につく、血だらけの顔で正面を向き、血走った眼でバトゥ軍総大将を睨みつける。

 

ザトゥ『・・・高い壁だな。残念ながら山を降りねばなるまい。挟撃に間に合わせねばな。』

 

一礼するカノゥ。ザトゥはバトゥ軍兵士Bの方を向く。

 

ザトゥ『バトゥ様に連絡を。』

バトゥ軍兵士B『ハッ!』

 

唖然とするクトゥルゾフ。

 

クトゥルゾフ『そんな…。』

 

クトゥルゾフ機の無線が鳴る。銃撃がクトゥルゾフの体をよろけさせる。

 

無線の声『おい、て、敵軍が退いてくぞ!』

無線の声『あ、あーーーっ!本当だ!勝った!』

無線の声『俺達は勝ったんだーーーーっ!あの、あのバトゥ軍に!!』

 

クトゥルゾフは眼を見開いて振り向く。

 

クトゥルゾフ『届かなかっ・・・。』

バトゥ軍兵士C『た、大変です!ブゼン王が、ブゼン王がバトゥ様に追放令を出しました!!』

ザトゥ『なっ!何だと!!』

 

砲弾がクトゥルゾフの後頭部に当たり、彼の頭は四散する。地面に崩れ落ちるクトゥルゾフの体。

 

無線の声『マルケルディア万歳、マルケルディア万歳、マルケルディア万歳、マルケルディア万歳ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!』

 

C20 陽の光 END

 

END

 

説明
・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
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R-18グロテスク 悪魔騎兵伝(仮) 

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