【K】節分小ネタ |
出遅れた、と伏見は人々でごった返す食堂内に、チッ、と舌打ちを漏らす。内務の者も利用しているので仕方のないことではあるが、予算たんまり貰ってるんだからどうにかしろ、と内心で悪態を吐く。
空席はないかと、ぐるり、見回せば、窓際のテーブルの辺りだけ何故か、ぽっかり、と空いており、心なしか人の流れが不自然で皆その付近を避けているようにも見える。
面倒事は御免だ、と顔をそらしたと同時に「伏見」と名を呼ばれ、渋々そちらへと再度顔を向ければ、人波の切れ間から軽く手招いてくる淡島の姿が見えた。
「なんすか」
ゆるゆる、ゆらゆら、と人を避けながら近づけばそこに居たのは淡島だけではなく、淡島の向かいには宗像が、更に後ろの大人数用のテーブルには見慣れた顔がいくつもあり、伏見は隠すことなく舌打ちをする。
「メシの時にまでつるみたくないんですけど」
「まぁそう言わずに」
どうぞ掛けてください、と淡島の隣を指し示す宗像の顔を見てなにか思い出したか、伏見は、あ、と小さく声を上げた。
「執務室のドアん所になんか魚の頭が刺さった枝がありましたけど、なんかのまじないですか」
「まじないと言えばまじないですね。魔除けの一種です」
「なんだってそんな物を」
「今日は二月三日。節分です。そこで──」
どん、とテーブルに置かれたのは、一体どこに隠し持っていたのか一升マスに、こんもり、盛られた豆であった。
「豆まきをします」
にこり、と滅多に見せぬ大変良い笑顔で告げてきた宗像に、淡島の背後が、ザワ……、と揺れる。恐らく、皆で楽しく食事をしていた所にこのふたりの強襲を受けたのだろう。可哀想なことに日高のラーメンはすっかり伸びきっており、他の隊員の皿も被害は似たような物だ。
「誰が鬼をやるんだよ」
「俺ヤだよ」
「ばか、俺だって嫌に決まってんだろ」
ヒソヒソ、と声を潜め、おまえやれよ、いやおまえが、と鬼役を押し付け合っている部下を、宗像は相変わらず、にこにこ、といい笑顔で眺めつつ、
「安心してください。皆さんは豆をまく方ですよ」
と、救いの言葉を発し、皆が明らかに、ほっ、とした顔を見せたと同時に「我が特務隊には相応しい人が居るじゃありませんか」と爆弾を投下した。
「あー、まぁ適任っちゃー適任でしょうね」
伏見が興味なし臭をぷんぷんさせながら漏らせば、背後から先とは違う意味で、ザワ……、と動揺が走る。
「あの人、だろ?」
「え、いや、それは」
「ちょっ、無理無理ホント無理!」
皆が小声で悲鳴を上げる中、がたり、と椅子を鳴らし立ち上がった楠原が拳を固めて叫んだ。
「善条さんに豆をぶつけるなんて、そんなこと出来ません!」
言っちゃったー! この子言っちゃったよー!! と皆が敢えてぼかしていた人物の名前を、ずばり、口にした楠原に、ほぉ、と宗像の興味深そうな声が向けられる。
「私は『誰』とは言っていませんが。そうですか、楠原君は善条さん推しですか。なるほど」
「え、あれ? だって、え?」
「では、楠原君。善条さんにお願いしてきてください」
頼みましたよ、と、しれっ、と言い放った宗像に、あわわわ、と狼狽えるしかない楠原を振り返ることもせず、伏見は淡々と「パワハラです」と目の前の上司を、ばっさり、やる。
「あの人なら断らないでしょうけど、あの鬼に立ち向かえるのはアンタくらいですよ」
みんな腰が退けて豆まきどころじゃありません、と呆れたように肩を竦めてから、
「昼休みが終わってしまうのでいい加減メシ食わせて欲しいんですけど」
と、話を有耶無耶にしてしまったのだった。
「──と、こんなことがあったんですよ」
終業後に資料室へやってきた楠原が長ネギを刻みながら昼のことを苦笑混じりに白状すれば、善条は思案するように、ゆるり、と頬の傷を撫でた。
「私は、別に構わないが」
「断れよ!」
日高たちに無理矢理引っ張られてきた伏見のツッコミが、間髪入れず資料室に響き渡った。
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2013.02.04
説明 | ||
・セプ4の節分話。普通に楠原が居ます。 ・2/3に東京のKオンリー行って、ふぉぉぉぉ!とテンション上がった勢いで打ったので色々詰めが甘いのはご愛敬。 ・文章向きのネタじゃなかった(白目) |
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