真・恋姫†無双 〜彼方の果てに〜 3話
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昼下がりの森の中、川の側にある岩に腰掛け風花の用意した弁当を食べる神威。

 

そしてそれを向かいの岩に座りニコニコと幸せそうな笑みを浮かべながら眺める風花。

 

 

 

 

 

 

「美味しいですか?兄さん。」

 

「ああ、風花の作る物はどれも美味いよ。」

 

「むう……兄さんはいつもそればっかり。たまには美味しい以外の感想を言って下さい。」

 

「そう言われてもな……どれも美味いと思うのだから仕方がないだろう?」

 

「兄さんは何も判ってません。こういう時はもっと気の利いた言葉をですね――」

 

「あ、ああ……」

 

 

 

 

 

 

川のほとりで行われる兄妹での会話。

 

穏やかで幸せな時間。

 

二人の想いに違いはあれど、このささやかな時間は二人にとって幸福な物だった。

 

 

 

 

 

 

食事を終えた神威は鍛錬を再開し、風花は鍛錬の様子を眺める。

 

鍛錬の内容は基礎的な身体強化から空手のように型からの拳や蹴り等の攻撃を繰り出す、一人演武のような鍛錬を中心としていた。

 

同じ動作を何百、何千と延々と繰り返し、一連の動作が一つの動きとなるまで続けられる。

 

初めはゆったりとした動きでバラバラだった動作が、何度も繰り返される内に徐々に繋がっていき、より速く、自然な流れとなる。

 

何年も繰り返されてきたその動きは流麗とさえ呼べる程に洗練されていて、それを見ていた風花は美しいと感じていた。

 

無心になって腕や足を振るっているであろうその動きには、見て取れる程に確かな気持ちが篭められていたからだ。

 

『護りたい』

 

兄の身体から強く感じるその想いが、風花にはとても綺麗なモノに見えていた。

 

そんな兄の姿を、風花は様々な想いを胸に秘め鍛錬が終わるまで見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

漸く神威が鍛錬を終えた時には既に夕暮れの時刻となっていた。

 

「すまないな、こんなに遅くまで待たせてしまって。」

 

「大丈夫です。兄さんが無理をしてないか心配でしたから、今日はしっかり監視出来て満足してます。」

 

御機嫌な様子で風花は笑顔で答える。

 

手拭いで汗を拭きながらも神威は風花の言葉に僅かに困ったように眉をひそめた。

 

「……心配されるような事はしていないつもりなんだが。」

 

「そう思うんでしたら次からも私に鍛錬を見学させて下さい。

兄さんは鍛錬の時はいつも私が一緒に居るのを嫌がるんですから。」

 

「それはまあ、そうだが……特に今回は唯の基礎的な鍛錬だ。

武器があるならまだしも、今日は持ってきていないからな。見ていて――」

 

「えっ、ちょっ、何で武器を持ってきていないんですか!?何かあったらどうするんです!」

 

「……今日は夢見が悪くてな、此処に着くまで武器を持っていなかった事に気が付かなかった。」

 

そう言って神威は今朝見た夢を思い返した。

 

 

 

 

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それは不思議な夢だった。

 

今までにも何度も見た事がある夢だ。

 

僅かな光すら全く存在しない暗闇の中を漂うような、絶対的な孤独と喪失感。

 

何故自分がそこに居るのかも解らず、逃げ出したくても動けない。

 

そんな絶望的な状態で独り呆然と闇を眺める事しか出来ない。

 

だがどれくらいそうしているのかは判らないが、いつも気が付いた時には何処からか小さな光が闇の中で輝いていた。

 

その光はとても暖かくて……だけど、胸が締め付けられる程に苦しいモノだった。

 

それが何なのかを知りたくて、必死に手を伸ばす。

 

もう少しで手が届く――そう思った瞬間に目が覚める。

 

そんな出来事を何度も繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

流石にそんな不思議な夢を見れば誰だろうと気にもなるだろう。悩みながらも家を出て森に入り、そこで漸く武器を忘れた事に気が付いたのだ。

 

今居る森が邑からそれ程離れていないので(徒歩で数時間程)取りに戻る事も考えたが、昼に戻らなければならない事情もあり一応は無手の心得もあった。

 

それで今回は諦めた、という訳だ。

 

もっとも、結局は昼に戻る事も出来ずに風花に叱られたのだが。

 

 

 

 

 

「はぁ……全く兄さんったら。それで怪我でもしたらどうするんですか。」

 

風花は呆れた表情で大きなため息を一つ吐く。このまま説教でも始まりそうだ。

 

そんな風花に神威は自らの不利を悟ると早々に話を切り上げようと風花の言葉を遮った。

 

「これからは気を付ける。俺も可愛い妹に心配ばかりかけていられないからな。」

 

「か、可愛い……ま、まぁ、分かってくれたんでしたら私も別にそんな……ごにょごにょ。」

 

「……?とにかく、俺なら大丈夫だからそんなに心配するな。俺は風花の笑顔を曇らせたくはないんだ。」

 

最後の方を聞き取れなかった神威は一度首を傾げるが、すぐに表情を笑みに変え風花の頭を優しく撫でた。

 

「兄さん……はい、分かりました。」

 

風花は神威の言葉に嬉しそうに微笑むと気持ち良さそうに目を細めて頭を撫でられていた。

 

 

 

 

 

 

それから少しばかり時間が過ぎた。

 

神威は風花をチラリと見る。どうやら機嫌は良くなったらしい。

 

それに内心ホッと胸を撫で下ろす。

 

「今日は色々と悪かった。そして……ありがとう。」

 

「急にどうしたんですか?」

 

「いや、大した事ではないんだが……」

 

「そんな事言われたら余計に気になるじゃないですか。」

 

「別に何でもないから気になられても困るぞ。」

 

「むぅ〜……」

 

神威があからさまにはぐらかしたと判って風花は膨れてしまった。

 

だが神威も態とはぐらかした訳ではない。何となく気恥ずかしかっただけである。

可笑しな夢を見て暗くなっていた心が、風花のおかげで軽くなった。少しは救われただなんて、面と向かって言いづらかったから。

 

そんな感情を誤魔化すように神威は風花に謝った。随分と長い時間待たせてしまったのだから、きちんと謝罪ぐらいはしなければと思ったからだ。

 

「それよりも今日は退屈だっただろう?すまなかっ――」

 

「そんな事ありません!!」

 

即答だった。

 

先程の膨れた表情は何処に行ったのか、物凄い勢いで神威の言葉を否定すると風花は興奮した面持ちで語り出す。

 

「兄さんの細身に見えてしっかりと鍛えられた強靭でしなやかな肉体から繰り出される攻撃!

一撃一撃を疎かにする事なく技術の全てを持って放たれる拳と蹴り!

合わさる虚実がその動きを流れる舞のような演舞に昇格させ、私の心を捕らえる……

そして、そして兄さんの汗がキラキラと輝いて……あぁ、もう私――」

 

まるで熱にでも浮かされたかのように身振り手振りで熱弁を語り、恍惚とした表情でうっとりと話し続ける風花。何やら瞳にはキラキラと輝く星が見える。

 

「ふ、風花……?」

 

あまりの出来事に状況が理解出来ず、困惑したまま神威は風花に話しかけた。

 

それを聞いてハッと我に帰る風花。

 

「ご、ごほん……とにかく、退屈とかはしていません!

それよりも無用心ですよ?最近は何やら大陸に不穏な雰囲気もありますし……」

 

「あ、ああ、例の黄色い布を巻いた賊の事か。」

 

突然話を変えられた為に多少面食らうも、神威もその事は噂で聞いた事があった。

どうやらかなりの数らしく、何処も対応に追われているのだとか。

 

「近くでも被害にあったそうで、近隣の村とかでも結構噂になってるみたいです。」

 

「……」

 

「兄さんも気を付けて下さいね?幾ら私達が住んでいる邑には自警団の人達が居るといっても人数はあまり多くありません。

決して安全って訳じゃないんですから。」

 

「ああ……そうだな。」

 

瞳を閉じギリッと歯を鳴らし怒りを押し込もうとする神威。

 

そんな神威を心配そうに見つめる風花は暫くそのまま眺め続けると急に明るい声を出して違う話題を切り出した。

 

 

 

 

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「そういえば兄さんは知ってますか?つい最近なんですけど、私達の邑に三人の旅芸人が来たんですよ。」

 

「旅芸人?こんな時期にか?」

 

「はい、何でも歌で大陸の皆さんを元気にさせたいのだとか……」

 

「歌、か……悪くない話だ。歌には力がある、それこそ人を救える程にだ。使い方さえ誤らなければ確かに大陸を救う、なんて事も可能だろうな。」

 

「確かに歌は素晴らしい物だとは思いますけど、それはちょっと大袈裟過ぎる気が……もし使い方を誤ればどうなるんですか?」

 

「……あまり考えたくはないが、下手すれば大陸が滅ぶ事もあるだろう。それだけ歌が及ぼす影響は強い。」

 

神威の言葉に風花は僅かに眉をひそめる。それは確かに考えたくない事だった。

 

「兄さんって変な事ばかり詳しいですね。」

 

「そうか?」

 

神威は困ったように苦笑すると不意に表情を引き締めた。

 

「だが少なくとも今の情勢が良くなればとは思っている。難しい事だがな。」

 

「そうですね……」

 

 

 

 

 

二人は大陸の現状を良く理解していた。

 

神威は不穏な気配を肌で感じており、風花はいずれ大陸中を巻き込んだ大きな戦が起こる事を予測している。

 

共に現実の厳しさは理解していた。もっとも、風花は危険を感じると共に変わりゆく現状に期待もしているのだが。

 

 

 

 

 

 

「旅芸人が頑張っているんだ、俺も負けてはいられない。

今よりももっと強くならなければ。少しでも多くの人が笑っていられるように、な。」

 

そう言って軽く背伸びをする神威。良く見れば既に辺りは暗くなっていた。

 

「って、もうこんな時間になっちゃったんですか!?あぁ、侍女の方達には悪い事をしてしまいましたね……きっと待ってますから。」

 

「そうだな……行こうか、風花。」

 

神威は優しく微笑むと、そっと風花に手を差し出す。

 

「……はい、兄さん。」

 

風花は僅かに頬を染め神威の手を取ると、二人はゆっくりと歩き始めた。

 

この小さくて些細な……けれど幸せに満ちた瞬間を噛み締めるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんな二人の幸せな時間が長く続く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ……!?」」

 

森を抜け邑へと歩いていた二人が見た物は、夜だというのにも関わらず仄かに明るく、赤く染まった空だった。

 

その光景に二人は呆然とする。

 

「……まさか!?くっ!」

 

自身の考えが予想通りの物だと気付き、神威は全力で駆け出した。

 

「あっ、ま、待って兄さん!」

 

神威が走り出した事で正気に帰った風花が声を掛けるも、神威はそれに気付いた様子も無く走り去ってしまう。

 

「…っ……」

 

震える身体を押さえつけるかのように自身を一度だけ強く抱きしめると、風花は神威を追って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

どうも、月影です。

 

前回で支援やコメント、お気に入りして下さった方、ありがとうございました。

 

それにしても、やはりコメントを貰えるというのは嬉しい物ですね。あまりの嬉しさにコメントを確認した日は一日中ハイテンションでした。もう周りの人がドン引きするくらいのテンションでした。後日に苦笑いされるくらいの。

 

……別に悲しくなんてありませんよ?ええ、本当に。コメントが貰えて、自分は満足してますから……ぐすっ。

 

 

 

次回から漸く話が動きます。原作キャラはまだ出ませんが……

稚拙な文で申し訳ありませんが、これからも日々精進して頑張りますのでどうかよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

説明
神威と風花。

互いに望むモノは違うが、共に過ごす時間は二人にとって幸せな物だった。


だが、そんな時間も遂に終わりを告げる。


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