魔法少女リリカルなのはDuo 21
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第二十一・“龍月”合い謁

 

 

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「龍斗くん大丈夫?」

「な、なんとか………」

 壁面に身体を埋めた龍斗は、心配そうな表情で覗きこんできたなのはに、何とかと言った感じに答える。

 現在、彼は管理局のトレーニング施設を借りて、なのは達と模擬戦闘をしていた。

 なのはの提案で出された課題は、なのは、シグナム、はやての三人を相手に、龍斗が一人で戦うと言う、とんでもない物だった。シグナム一人が相手だけでも手一杯な龍斗は、粘って撃墜までの時間を延ばすのが精一杯。しかも、落ちる度に何度も仕切り直しさせられ、ついには百三度目の撃墜を記録していた。

「いやもう………、諦めるつもりはないけど、さすがに凹む………」

 壁面から身体を抜き出してもらった龍斗は、シグナムの手を借りながら何とか休憩場所まで移動する。そこに待ち構えていたキャロとシャマルが同時にタオルを渡そうとして、互いに視線がぶつかる。

「シャ、シャマル先生、どうぞ!」

「い、いいえ、私ははやてちゃん達に渡すから!」

 何故か互いに遠慮し合い、タオルを受け取ろうとしていた龍斗は困ってしまう。

 いつまでも遠慮し合っている二人を見兼ねたシグナムが、自分用のタオルを龍斗に手渡す。

「使え」

「ん? ああ……、ありがとうシグナム」

「「あ」」

 遠慮し過ぎて、結局どちらも渡せなかった二人が呆然とした表情でそれを見て、その一部始終を見ていた、なのはとはやてが苦笑いを浮かべる。

 汗を拭いている最中、シグナムは龍斗と模擬戦の成果について話し合う。

「お前はだいぶ強くなっている。だが、それ以上にムラが多過ぎる。それを何とかしなければ、いつまで経ってもAAAランク以上の相手とまともにやり合う事はできんぞ」

「ん〜〜〜……、これでもずいぶん抑えられてると思ってるんだけど?」

「お前が使っているレアスキル、魔剣(ブレイド)と言ったか? アレは魔力を完全に刃の形状に収めている。お前の攻撃は刃なのだから、全ての攻撃をアレだけまとめ上げて一人前だろう」

「言われてみればそうだな………? でも、これでも精一杯なんだよな〜? どうすればこれ以上上手くいくんだ?」

「知らん。それ以上は自分で考えろ」

「厳しい……」

 苦い表情を浮かべる龍斗に対して、はやては珍しい物を見る様な眼でシグナムを見ていた。

 シグナムと言う女性は、御世辞にも教えが上手いと言う人ではない。彼女が教えようとしても『斬れる所まで近付いて斬れ』くらいしか言えない様な女性だ。それが、龍斗に対して厳しいながらも的確なアドバイスをしている。それはまるで、彼の事を説明できるほどによく知っていると言わんばかりに。

(もしかして……、シャマルやキャロだけやのうて、シグナムも地味に龍斗くんの事、気にしとるんかな?)

 もしそうなら面白そうだと、はやては忍び笑いを漏らす。

「ねえ、龍斗くん? 龍斗くんは前に、自分の技を覚えた時、一人で特訓してたんでしょう? またしてみたら何か思いつくんじゃないかな?」

 なのはに言われた龍斗は「なるほど」と納得する。どうやら龍斗は施設などで仲間と切磋琢磨するより、山籠りをして自然と一体感を得る事で閃くタイプの様だ。実力の底上げなら今のままでも良いかもしれないが、基礎が出来たなら応用に移った方が良い。

「うん、少し休んだら、また近くの山にでも行ってみようかな? 確かこの辺に岩山とかあったよね?」

 龍斗に話を振られたシャマルは、びくりと肩を驚かせながら慌てた様子で答える。

「あっ! はい! ええっと……、確か北の方に今は使われてない鉱山跡地があるとか? 最初は鉱石が取れたらしいですけど、すぐに取れなくなって、殆どただの岩山らしいです」

 シャマルは説明してから、スクリーンを呼び出し、そこに詳細な地図を映し出す。

「これです。行き方解りますか?」

「どれどれ?」

「!! ////」

 反対側からだと良く解らなかった龍斗は、シャマルの隣に並び、手元のスクリーンを覗きこむ。自然、龍斗はシャマルとほぼくっついた状態になる。

「―――っ!?」

 次の瞬間、龍斗は思いっきり横から突き飛ばされ、近くに立っていたなのはにぶつかってしまう。

「だ、誰だいきなりっ!?」

「………あれ?」

 龍斗が振り向いた方向には自分が突き出している両手を不思議そうに眺めているキャロの姿があった。

「突き飛ばしたのキャロか? なんで突き飛ばすんだよ!? 今のは俺何もやってまかったよな!?」

「………えっと、ごめんなさい。……?」

 まるで自分のやった事が良く解っていないように首を傾げるキャロに、龍斗もそれ以上文句を言えなくなってしまう。

(私、今なんで嫌な気持ちになったんだろう?)

 キャロは自分の気持ちと行動の意図に気付けず首を傾げるばかり。

 龍斗に対する好意を自覚しても、恋愛その物が初心者のキャロには、まだまだ解らない事がたくさんある様だった。

「あの〜〜……? ところで龍斗くん? いつまで掴んでるのかなぁ〜?」

「え?」

 飛ばされた勢いでしがみついていたなのはの声に振り返り、そこで初めて龍斗は自分がなのはの胸を絞る様に掴んでいる事に気付く。その掴み方の所為で、やたら胸の膨らみが強調されていて、勝手に頭の中が血で埋め尽くされて行く。『ヤバイ』と解っていても思考は緩慢になり、緊張から強張った手は、逆に力が入ってしまい、胸の先端を突き上がらせるかのように掴み上げてしまう。

「や、やあん………っ?」

 もにゅんっ、という聞こえるはずの無い効果音が聞こえてきそうな柔らかい感触が手に伝わる。それと同時になのはの口からは、本人が驚くほどに色っぽい声が漏れ出た。

 

 ブッッッッッチィィィィッ!!!!

 

 刹那、またもや聞こえるはずの無い効果音が、確かに龍斗の耳に届いた。

 恐れ多くて振り向けないが、振り向くまでもなく解った。

 現在、彼の背後には幽鬼の如く憤怒のオーラを立ち昇らせている四人の女性(だった者)がいる。

 彼の尊厳のために記しておくが、未だに彼がなのはのおっぱいを掴んだままなのは、頭が沸騰した事が原因ではない。その背後の『死』に対して動けないほど怖気ずいているだけなのだ。

 

 ………まあ、それでも掴んでいる事は事実なので、彼の結末は結局変わらない。

 

「もう一度、突き飛ばして良いですか? 今度はフリードで………」

「あ、私も混ざります。私の力でも思いっきり吹き飛ばしたら、どのくらい吹き飛ぶのか試してみたかったんです?」

「ほな私もやろうかな? 今日の龍斗くんは吹き飛び足りんみたいやからなぁ〜?」

「そう言えばまだ、コイツ相手にはシュツルムファルケンは試していなかったな………。良い機会だ。試してみよう」

「ま、待ってくれ!? 今のはどっちかと言うとキャロに突き飛ばされた事が原因であり、今までと違って、話し合いの余地はあってもいいと思う!?」

 あまりの殺気に、思わず首だけ振り向いた龍斗は必死に弁明を試みる。が、それは正面から腕を掴まれた瞬間に、意味の無い物へと変わった。

「それじゃあいつまで掴んでるのかなぁ? 私、今すんごく恥ずかしい声出ちゃって、とっても恥ずかしいんだけどぉ〜〜?」

 正面に視線を戻すと、そこには顔を真っ赤にして涙目ではあるものの、他の四人と見劣りしない殺気を放つ羅刹がいた。

 前門の虎、後門の狼、などと言うレベルではない。

 前門の羅刹、後門の百鬼夜行と言うレベルである。

 龍斗は彼女達と行動を共にしてから、何度目かの死を覚悟した………。

 

 

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 正直、カグヤはかなり追いつめられていた。

 少しずつだが、仲間も集まり、戦力も整いつつある。偶然ではあったが、今回の事件で鍵とも言える『カード』を手に入れる事も出来た。状況的に言えば、彼は確かに歩みを進めている。

 しかし、彼は気付いていた。自分は既に限界に達していて、当の昔からギリギリの境界で騙し騙し戦っている事に。

 既に彼は『スペック』つまり『基礎能力』を限界値まで引き上げ切ってしまった。しかもその数値は御世辞にも褒められる値ではない。平均男子の数値から見れば、手を抜いているようにしか見えない低さだろう。

(今のままじゃダメだ………。力の底上げをしないと、やれる事が少な過ぎて、手詰まりになってしまう)

 かと言って、彼は果たさなければならない使命がある。それをこんな所で降りるのは、ほとほと出来そうになどなかった。いや、出来る筈が無かった。

(なにか、何かを掴まないと………、力じゃない何かを見つけないと……、俺は―――)

「カグヤさん? どうかしましたか?」

 耳元からリインの声が聞こえ、初めて自分が目をきつく瞑っている事に気付いた。少し痛みを感じる瞼を開き、カグヤはリインに苦笑いを浮かべる。

「何でも無い。少し無駄に考え過ぎていただけだ」

 そう笑いながら、カグヤは「何でも無い事ではない」と頭の中で否定する。

 それも当然。これからかの彼の行く末と言ってもいい程、大切なことなのだ。とても無視などは出来ない。

(何より拙いのは………、『伊弉弥』が出た事だ……)

 カグヤ自身、あの存在を熟知している訳ではない。だが、それに詳しかった義姉に聴かされた時、それは出会ってはならないモノだと教えられた。出会えばその時点で死を迎える。見つかる前に隠れる以外に生き残る術はないのだと言われた。

 自分がそれになる事は随分前から知っていた。負の感情に触発されて出てくる事も、自分がそっち側に流れ出やすい事も理解していた。そしてあの時、それになる事も覚悟した上で使った。それでも、その結果、自分の感情が負の方面に偏り易くなっているのは否めない。いずれ感情は負に染まりきり、二度と戻れなくなることだってあるのだ。

(目的を果たすまでは、俺が潰れるわけにはいかないんだ………)

 カグヤは焦る。既に零れ始めた砂時計の砂は『カグヤ』と言う人格を刻一刻と削り取っていく。

 時間が無い! その気持ちに焦りながら、それでも失敗を許されないからこそ、慎重に行動せざろ終えない。それが歯痒くて、カグヤの精神を更に磨耗させていく。

 カグヤは表情に出さないようにして作業の最終チェックを済ませる。これで、この戦艦をいつでも動かせるようになった。後は必要な物資を積み込めば、いつでも発進できる。

「リィン、皆に伝えといてくれないか? 艦の方は準備できたって」

「それは良いですけど、カグヤさんは?」

「ちょっと一人で訓練。………ただのガス抜きだよ。だから心配そうな顔するなよ?」

「でも………」

「っていうか………、一人にしてくれないか? 今誰かと話すのは辛い」

「あ………」

「本当は、一緒にいた方が落ち着くと思ったんだが………、ダメだな、もやもやしてるままだと変に気を使って余計疲れる。ちょっと何処かで抜いてくるよ」

 心配そうに見つめるリインの頭を撫でて安心させながら、カグヤは疲れたような溜息を洩らして一人戦艦内を出て行く。

 その後すぐ、戦艦の方からティアナの怒声が聞こえた様な気がしたカグヤは、背筋に寒気を感じた。同時に、フェイトの心底心配そうな声が聞こえた事に関しては、音量からしてあり得ないので、気の所為だと決めつけた。

 何故か、フェイトの泣き声だけはいつまでも耳に聞こえてきている様な気がして、軽く生霊にとり憑かれた気分を味わう事になったカグヤだった。

 

 

 見渡す限り岩肌しかない山の中、カグヤは地面の上に刻んだ陣の中心で座禅を組んでいた。自然のエネルギーを敏感に感じ取り易くする陣内で集中し、より効率良く魔力を操れるように身体を馴らしているのだ。

 だが、これも結局は魔力運用率が上がるだけ、ステータスの向上には繋がっていない。

 どんなに技術を磨いても、そこに力が無ければ意味をなさない。

(百の力を百の技で返せたとしても、百の技を引きだす為には最低限必要な体力がある。俺はその体力も少ない。これじゃあ、いつまで経っても強くはなれない………)

 悩む。カグヤは悩み続ける。そも力と言うモノを持たない自分が、如何にして戦う力を手に入れればいいのだろうか?

(俺に出来る事と言ったら、もう後は………)

 『覚悟』その二文字が浮かぶ。自分の持てる全てを恐れずに使える事。それがカグヤの全てと言える。ならば、今カグヤの覚悟する事と言えば何か? そんなのは決まっている。『闇』を使う事に躊躇しない事だ。

「そしてもう一つ………」

 ギリギリを見極め、そのギリギリ一杯にまで力を出し尽くす事。それがカグヤの全力と言って他ならないだろう。

 そう、つまり死の手前、文字通り死力を尽くす事。

 一歩間違えれば本当の死が待っている。たとえ死ななくても、その時は闇の暴走(イザナミ)が待ち受けている。暴走すれば仲間などと言う概念はなくなる。目的があれば目的の邪魔をする物だけを消す。だが目的が無ければ、ただ全てを消す。空間事、この世界の全てを殺す。それは恐ろしく、カグヤ自身考えただけで震えが走った。だが同時に、世界を賭け引きに出す事に躊躇しない程の目的が、彼にはあった。

「やるしか………ないよな。俺がそう決めたのなら………」

 追い詰められたように覚悟を決めた時、カグヤはその気配に気づいた。

 ふと視線を上げて見てみると、そこには大量の時食みが町の方向に向けて闊歩している最中だった。むこうはこちらに気付いているようだったが、カグヤと言う存在を本能的に悟ってか、襲い掛かってくる様子はない。

 さて………、っと、考える。アレを見逃せば沢山の人が犠牲になるのは間違いない。だが、時食みに時間を食わせなければ、カグヤの計画そのものが成り立たない。どうしたものかと唸り―――数秒もしない内に邪魔する事に決めた。

 カグヤの脳裏には、沢山の人が犠牲になった事を知って、不甲斐無さに表情を歪めるスバルの顔が思い返されていた。同情したつもりはないが、彼女が辛がった感情もまた理解できる。だから彼は行動する事にした。どちらでも良いのなら、せめて気分の良い方にしよう。その程度の考えで。

(ま、どうせ俺は時食みには殺されないし)

 っと言うアドバンテージも彼を行動させた要因の一つだろう。

 すっかり慣れたクイック・ムーブで瞬時に移動し、時食みの先頭へと向かって走る。とりあえず進行を止めない事には邪魔しようが無い。

 っと、先頭が見え始めた辺りで、突然時食みの群れが足を止めた。不思議に思いながらも、歩みを止めず、視線だけ先頭に向けると、一人の青年が立ちはだかる様にそこにいた。

「なんだアイツ?」

 管理局の魔導師―――には見えない。ならば、善良で正義感の強い一般人だろうか? だとしたら無謀にも程がある。時食み一体だけでも、倒すのは相当大変なのに、この五十は超えているであろう群れを一人で相手にするには自殺行為以外に他ならない。

 助けるべきか、それとも無視するべきか? また悩んで、すぐに助ける事を選択する。理由は時食みを止める事にした物と同じだ。そもそも、ここで見捨てたら町を見捨てるのと何ら変わらない。大勢が一人になるくらいだ。結局、誰かが悲しい顔をする事に変わりはない。

(面倒な選択肢を選んでしまった………)

 自分の選んだ道をさっそく後悔して、足を止めたカグヤは、札を取り出し、素早く術式を組み上げ、雷の雨で先制を掛けようと試みる。―――が、その時、それより早く青年が動いた事で、カグヤは行動を止めてしまう。

 

「ブレイド・バーーーーストッ!!」

 

 青年が居合気味に放った斬激が、正面に控えた時食み達を悉く斬り伏せ、今の一瞬で七体は斬り落とされた。

(三次元攻撃じゃない!? 横一線の二次元攻撃であれを斬り伏せた………!? コイツ………)

 カグヤは興味を持ち、しばらく高みの見物を決め込む。戦い方は直情的だが、歪みの無い真直ぐな太刀筋で、とても澄んでいるように見える。まだまだ力に任せている部分はあるが、それを差し引いても圧倒的な力。

(俺は当然、フェイトでもコイツに勝てるかどうか怪しい程だ………。速度と言うフェイトの得意分野ならまだしも、近接白兵戦では敵わないかもな………)

 冷静に分析している最中、一体の時食みが蹴り飛ばされた勢いで、崖になっている岩肌を誤って食べてしまうのが見えた。剥がれた岩壁は、大きな岩の塊となって青年の頭上へと真っすぐ落ちて行く。

 気付いた青年が刃に魔力を込め、巨大化した魔力刃で一刀両断にふした。だが、大きな力を振るった瞬間を狙って三匹の時食みが体当たりを仕掛ける。時食みに耐性のあるらしい青年だが、衝撃までは消しきれず、そのまま横合いに吹き飛ばされてしまう。

 すぐに立て直して正面の時食みを斬り払うが、タイミング良く後ろに回っていた時食みが、もう一度体当たりを見舞おうとしていた。

「―――っ」

 気付いた時には既に自分で動いていた。

 ファントムを使い接近したカグヤは、青年の背後に立つと、体当たりしてきた時食みを一刀に付した。そしてすぐに後悔の溜息を吐いた。

(な〜〜にやってんだろうなぁ〜、俺は………?)

 気配に気付いた青年が振り返り、カグヤを認める。

 カグヤも肩越しに振り返り顔を確認する。

「………お前、今時食みを―――」

「人の事言えた身か? ………ほら、ぼさっとしてると、俺達無視して町に向かってるのがいるぞ?」

「え? あ!」

 カグヤの忠告に加速した青年が、町に向かった時食みの先に周り、反応されるより早く斬り伏せる。

 それを眺め、思わず口笛を吹きたくなる様な鮮やかさに感嘆しながら、カグヤは踊る様に振り向き、背後の時食みを一体斬り伏せる。

 出力で一気に数を減らしていく青年と、技で順調に一体ずつ消し去るカグヤ。対照的な二人は、しかし、だからこそ、その戦舞は美しいコントラストを描いているかのようだった。

 

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「俺は龍斗だ。助けてくれてありがとな」

「カグヤ。助けたと言うか……元々あれは俺がどうにかしようとしていたからな〜」

 純粋に笑い掛ける龍斗に対して、どう対応していいのか距離感をつかめずにいるカグヤは、少々気まずげな表情をする。

 とりあえず自己紹介した後、二人はお互いの姿を確認し、どう言った相手なのか見定めようとする。

(カグヤって言ったよな? なんか名前が俺のと響が似てる感じだ? それに俺と同じ色の眼と髪、それに刀………、着ているこれも千早だよな? あれ? なんかこの特徴、前に俺がはやてに疑われた時の相手に似てないか?)

(なんでこいつ、俺に対して普通に話しかけてるんだ? コイツって………だよな? 時食みも切ってたし、間違いないよな? そう言えば、前に俺とは違う時食みを倒せる奴がグループを構築してるとは聞いていたが………、え? コイツ? 何この偶然?)

 互いに少なからず情報を持っていた事に、多少の驚きはあったが、動揺はしていない。

「この辺じゃ見ない感じだね? 何処からきたの?」

「アサルア出身だ。お前こそ何処から来た?」

「えっと………、今は根無し草………」

「故郷くらいあるだろう?」

「………ルサイス」

「………」

 恐る恐ると言う様に呟いた地名を聞いて、カグヤは無表情で口を噤む。龍斗はその反応に思わず気まずい表情を作ってしまう。

「そうか」

 やがて何かを汲み取ったらしいカグヤはそれだけ言って、話題を別の方向へと向ける。

「確かにこの変じゃ見ない格好だろうが、それはお前にも言えた事だろう? 少し風変わりだぞ?」

 話題が逸れた事に、ホッ、と安心しつつ、カグヤと言う人物に、自分の過去を少なからず知られたであろうことを自覚して、微妙な表情をしてしまう。それでも気分を変えようと、龍斗はカグヤの話題に乗る。

「これが一番落ち着くんだよ。って、カグヤほど変わってはないと思うけど?」

「特注なんだよ。何気に魔力ダメージを軽減してくれる繊維で出来てるしな」

「あ、それ俺も」

「………バリアジャケット研究施設。お前も行ったのか?」

「あれ? カグヤも知ってるの? 俺、そこの御得意さんだよ?」

「俺もだよ。あそこの店長、テンションがあまりにも低いから『逆に上げて行けば儲かる』と適当言ったら、間に受けて本気でテンション上げやがった。まあ、実際上手く言ったから詫びないけどな」

「フレンツェさんの急変振りはお前の仕業かっ!?」

「誰だそれ?」

「店長!」

「………ああ! そう言えばそんな名前だったか?」

「お前の所為でかなり疲れるらしいテンションアップやってんのに、名前忘れてやんなよ!」

「わりとどうでも良かったからな」

「さらりと酷い事を―――!?」

 最初は変な探り合いになるかとも懸念していたが、話してみればどうという事もなく、二人とも普通に世間話が出来た。なんとなく、互いに少しくらい踏み込んでも普通に会話できそうだと判断して、気になっている事を訪ねようと考える。

 先に口に出したのはカグヤだった。

「ところで聞くが、お前が最近管理局でグループを作ってるって言う民間協力者か?」

「正解。そう言うカグヤは、つい最近まで重要参考人として指名手配されてた人?」

「肯定だ。てっきり、時食みを殺せるのは俺だけだと思っていたんだがな………」

「それは俺も。って言うか、どうして俺達は時食みを倒せるんだろうな? 俺『時食みに干渉されない体質』ってくらいしか認識ないんだけど?」

「そんなの『時に狂いし者(タイムドロッパー)』だからだろ?」

「それ、前にも言われたけど、つまり何なの?」

「時の狂い。その影響を受けた者の事だよ。それ以上は説明の無駄だ」

「や、解んないって、ちゃんと説明しろよ?」

「お前、次元空間における正常仮定と狂い仮定の定義方法について語れるのか? 調べた俺でさえ、まだ二割ほど理解できんぞ?」

「ごめんなさい。言ってる意味がマジ解んなかったです」

 せっかくの情報だったが、その情報を得る段階でさえなかった事に、軽いショックを受ける龍斗だった。

「じゃあ、時食みについては? アイツらは一体何なの? それと、出来れば時食みを操ってる女の子達、あの三人の目的とかも知りたいんだけど………、聞いたら教えてくれる?」

「なんで俺がお前に話さないといけないんだよ………? そもそも、お前はこんな所で何やってんだ? お前は管理局でグループ作ってたはずだろうが?」

「ん〜〜〜………修行かな? 今のままだと、あの子達に勝てないし、時食みを倒す事は出来ても、根本的な解決には至ってない。あの子達を直接捕まえようとしても、どうにもうまくいかなくて………」

「それで一人特訓かよ?」

「そっちは?」

「頭冷やすついでに鍛錬」

「同じじゃん」

「みたいだな」

 二人は互いを見て軽く笑った。まるでクラスメイトの男子が悪巧みでもするように、この二人では珍しい笑みを漏らしていた。

「あの子達の目的が解れば、時食みの発生を止められるかもしれない。そうすれば、俺達は戦わなくても済むかもしれない。もう、誰も傷つけなくて済む。そのためにも早期解決をしたいんだ!」

「お前正義に熱いな………、俺にはできそうにない………」

「言うほど熱いつもりはないんだけど、っていうか、カグヤってもしかして面倒臭がり?」

「なんで分かった?」

「当ててしまった俺が鬱だよ」

「まあいい、お前も時食みを消せるなら、多少知っといてもいいだろう。………先に言っておくが、時食み自体は『時狂い』の影響で出てきた自然発生の災害だ。時食みをどうにかできたとしても『時狂い』を止めない限り、無尽蔵に湧いて出るぞ」

「『時狂い』?」

「書いて字の如く。時間を狂わせる超ド級儀式魔術。『神秘の再現』にして『禁忌』の一つだな」

「時間を狂わせるって………、それは何が出来るんだ?」

「儀式の程度にもよるが………、概念的な形の無い情報を、時空間を超えて伝達させる事が出来る。平たく言えば未来の記憶を過去の自分に送れるってところだな?」

「それはそれですごいけど、被害の大きさとかに比べると『その程度?』って言いたくなる様な?」

「『時間転移くらいはやって見せろ?』ってか? それがどれだけの神秘だと思ってんだよ? そんな事が出来るにしても、それこそ未来の技術だ。現代の魔術じゃ、どう足掻いても情報の交換しか出来ねえよ。だから未来から過去に送る事以外に意味はない。過去から未来に情報を送っても意味ないし、そもそも情報を送る先も自分が生きていた時間と言う限定があるし、自分の情報を他人に送れないなんてのもある」

「時間を超えて情報を送るんだから、凄い事には違いないけど………、これだけの犠牲を払ってできる事がそれだけって………」

「それだけと言うが、未来を変えるには充分な奇跡だ。それに送れるのは『記憶』であって『記録』じゃない。『記憶』と言う概念を全て過去の自分に送ると言う事は、それ即ち、未来で得た経験値を、全て過去の自分に与えるのと同義。無論、当初はレベルが違い過ぎて扱えない魔術もあるだろうが、未来で培い、編み出した魔術の全てを子供の頃から使えると言うのは充分だと思わないか?」

「そうだけど………、そうなんだけど………」

「自分の知り得た情報が正しければ、戦争を回避し、英雄にだってなれるし。宝くじの当たり番号は全部言い当てられるから、労働しなくても巨万の富も得られる。ガキの頃から大人の知識と対応が出来るのだから、同年代にはもてるかもな? 『大人っぽい』って。むしろ浮く可能性もあるが」

「最後だけ、失敗の例だったな」

 龍斗は苦笑いを浮かべてから、カグヤの提示した情報をおさらいし、彼女達三人について考えてみる。

「じゃあ、あの三人は、何か変えたい過去を変えるために、時狂いを起こそうとしてるって事か? でもそれって可能なのか?」

 龍斗の疑問に、カグヤは先読みして答えを提示する。

「『時間を変える原因を過去で消し去ったのなら、そもそも時間を変える事象が起きないのではないか?』って理屈だろ? その理論に意味はない。漫画みたいに本人が未来から過去に飛ぶならまだしも、この原理で飛ばせるのは情報だけだ。演劇が公演前に中止になっても、既に書かれたシナリオは残るのと同じ。既に起きたと『仮定された』未来の情報は、一つの『可能性』として処理されるだけ。もしくは直球で『想像』とか『妄想』って位置に落ちつく場合もある。だから未来を変えても情報は残るし、未来が変わった事で情報その物が消える事はない」

「つまり、未来の改編は可能。彼女達の目的は未来―――いや、過去の改編………」

「そうだろうな。まあ、誰にだってなかった事にしたい過去の一つや二つはあるものだろうしな」

「………」

 カグヤに言われ、一瞬、龍斗の脳裏に一つの『過ち』が思い返される。思い返された事で、彼は強く否定した。

「それは間違ってる………」

「え………?」

「誰だって、過去をなかった事にしたいのは同じだ。でも、どんなに悲しい過去だって、それは受け入れなきゃいけないんだ。受け入れて、背負って、歯を食いしばってでも耐えなきゃいけない事なんだ。あの子達の過去に何があったかは知らないけど………、それでも沢山の人を犠牲にしてまで、やって良い事なんかじゃない」

 苦しそうにそう言う龍斗は、何処か自分に言い聞かせているようで、どこか決意をしている様にも窺えた。

 それを………カグヤは、目を見開いて見つめている。

 見ている。カグヤは龍斗を見ている。ただ見ている。

 見て、観て、視て、診て、看て、もう一度見て……。

「何言ってるんだお前?」

 ―――訳が解らない―――っと、困惑した表情を浮かべた。

「お前、それを本気で言っているのか?」

 問われた龍斗は、カグヤの表情の意図が掴めず、こちらも困惑気な表情で返す。

「ああ、だって誰にだって辛い事はある。今だって、彼女達のやり直したいと言う思いで、沢山の人が傷ついている。それなのに自分達が不幸のヒロインだと言うかのように、過去の改竄なんて、それはして良い事なんかじゃない。それは………『間違った行為』だ……」

 一瞬、龍斗の瞳から光が失われた。

 胸の内に、『間違った行為』と言う言葉が痛みとなって通り過ぎた。

「だから、俺は彼女達を止める。『時狂い』を止めるんだ」

 何か大きなものを胸に秘めているかのように、龍斗は宣言する。彼女達を排除すべき敵だと認めるかのように、言葉は確固たる意志を持って紡がれる。それはまるで、倒すべき敵を定めた未来の英雄の如き勇士であった。

「………ふざけた事を」

「え?」

 それに対し、カグヤの方が豹変を見せる。

 その気配に驚き、龍斗の瞳に光が戻る

「何も知らないくせに口当たりの良い綺麗事を並べ、あたかも自分の言ってる事が正しいかのように語るな? お前は………」

 カグヤの纏うオーラが、次第に険悪な物へと変わって行き、龍斗と言う存在を拒絶し始める。実際に見えている訳ではないが、龍斗の目には、彼の周囲に黒いオーラが纏わり付いているかのように映った。

「いや、実際にお前の言ってる事は正しいのかもな? だからお前の言葉に付いて行く奴らも多い。お前自身に惹かれ、傍らに寄り添おうとする者達も現れる。それは認める。認めてやる。………だが『間違ってる』事なんて誰もがとっくに理解してんだよ。正しくなくても、過ちであっても、それでも果たしたい目的があるから、だから行動しているだ」

「それじゃあ、まるで感情に任せて暴れてるだけじゃないか!? それで傷つけられた人達はどうなるんだ!?」

「そうとも、これは完全に感情論だ。故にこれは正当だ」

「『正当』? それの何処が!? 自分達の勝手な感情で、関係の無い人を傷つけているんだぞ!?」

「そうとも、故に『邪道』。だが、そもそも人間生きている限り、誰かを傷つけずに生きる事など不可能。強い願いがあれば、より強い不幸を他人に押し付ける。他人のために動いてさえ、別の他人を貶める。それが運命。人として存在し続ける限り、避けては通れない道。故に感情を持って動く事、それ即ち人の『正当』」

「言葉遊びだ。それに、人はそんなに悪い者じゃない。確かに本気で悪者って言うのは存在してる。でも多くの人は、誰かを傷つける事より、笑ってくれる事を望んでいるモノなんだ。自分の幸せのために、誰かを悲しませる事なんて、考えてない」

「肯定しよう。故に俺の持論は揺るがない」

「なんで!?」

「例えばスポーツでトップを願う者達がいた時、その頂に立てるのは一人だけだ。頂が一つである以上、どんなに手段を選んだとしても、頂から溢れる者達が出る。それは他人を蹴落としているのと変わらない」

「わざわざ悪い言い方をしてるだけじゃないか!? 実際には、互いを認め合って、頂に立つ者を、純粋な賞賛を抱ける者達も多い!」

「それは綺麗事で事実から目を背けているだけだ。相手を称賛する事で、自分が絶望に暮れないようにと守っているだけだ」

「その考えはただの卑屈だ! わざと自分から悪い方に捉えようとしているだけだ!」

「肯定しよう。同時に否定しよう。事実、俺が今言った事など、卑屈を極めて行った先でしかない。然り、事実でもある。俺の意見は卑屈に傾いたモノ。だが逆にお前の意見は正道に傾いたモノ。結局、どちらも目を背けた意見でしかない。同時にそれも人間として正しい在り方。故に『正当』だ」

「言ってる意味が解らない………?」

「今お前が俺の言葉を理解できない事もまた、目を背けている事と同じだが………。いい、言葉にしてはっきり伝えてやる。答えは単純にして明快―――人間はそこまで細かく考えてなどいない」

「?」

「例え、世界の全てを肯定できる聖人君子がいたとしても、世界の全てを常に考え続け、善行のみで一生を終えるなど不可能だ。故にいかな聖人も、自分の見える範囲、出来る範囲、考えられる範囲までしか配慮しない。そこに目的が生まれればなおの事、優先順位を決め、それに向かって必要な行動だけをとる。彼女達は目的があり、それを叶える『時狂い(手段)』を見つけた。その過程を知り、自分達と同じような悲しみを、他の誰かが抱くのだと解る。それでも果たしたい願いがあった。それは『結論』だ。彼女達が願う譲れない決定事項だ。だから彼女達は、無意識に都合の悪い事を考えなくなった。例え考えても、彼女達は止まらない。止まれないのなら、やる事は同じ。一々心を痛め、傷ついていては切りが無い。むしろ目的の邪魔になる。だから遮断する。考える事を遮断するんだ」

「そんな事はない! ………確かに、お前の言う通り、正しい事ばかり考えるのは無理なのかもしれない。………でも! 間違いを知れば、それを正しい方向へと修正する事は出来るんだ! 勢いが付いて止まれなくなっているなら、止まり方を忘れてしまったと言うのなら、俺がこの手で止める!」

「それこそが『正しい(間違い)』だと言っているんだ。お前の言葉には決定的な配慮が欠けている事に、まだ気付かないのか?」

「お前こそ、間違いを間違いだと言うのが怖いんじゃないのか? 間違っている事を本当は認めたくないから、だから自分のやってる事は正しいと主張して、逃げてるだけだ」

「逃げる事の何がいけない?」

「逃げずに戦えよ! 逃げるからいつまでも追いまわされるんだ! 助かりたいなら、背を向けず、目を逸らさず、立ち向かって行かなきゃダメだ!」

「誰もがお前の様に強いわけじゃない。その言葉は、『戦える』事が前提の『強者』の発言でしかない。『弱者』にしてみれば、『死ね』と強制されたのと同じだ。言葉が綺麗に飾られている所為でなお性質が悪い。逆らえば『悪人』従えば『死』、助かっても所詮、利用された『駒』と変わらない。それこそ何の意味がある? 逃げる事を『悪』と罵るなど、それこそ痴(おこ)がましい」

「逃げてばかりいても仕方ないだろう! ただ逃げている事を『弱者』の言い訳にするな! 『時狂い』は沢山の人を犠牲にする儀式だ! 俺と、俺の大切な人達の、また大切な物を守るために―――絶対に『時狂い』は阻止しないといけないんだ!」

「『邪道』と知りつつも、それでも叶えたい願い―――それを邪魔するなよ」

「邪魔するさ! 結局、彼女達は、自分以外を犠牲にして、自分だけ幸せになろうとしてるだけだ。そんな事をしても本当に幸せにはなれない! だから、彼女達のためにも、俺と一緒に戦ってくれ!」

 龍斗は手を差し出す。時食みの天敵であるカグヤならば、時狂いを止めるのに適した人材と認め、何よりカグヤならば、きっと『正しい』結末を見つけてくれる。自分と真っ正面からぶつかる意見を述べる彼に、そんな期待を胸に抱いた。

 だがカグヤは龍斗の手を見る事なく背を向け腰の刀に左手を添える。

「根本的な部分でお前は俺を勘違いしている」

「勘違い?」

「俺は『時狂い』を止めるつもりはない。そもそもあれを最初に起こしたのは―――」

 右手が刀の柄に掛る。抜刀と共に振り向き、暗闇を映す瞳を向ける。

「―――俺だ」

「!?」

「俺は『時狂い』を起こそうとして、過去失敗した。今のあいつらは、失敗した俺の残留を何処かで見つけ、それに乗っかっているだけに過ぎない」

「………カグヤは、一体なにをするつもりなの?」

 訪ねながら、龍斗も腰の刀に手を添える。

「当然、俺は、俺の過去(過ち)を清算する」

「ッ!!」

 刹那、抜刀………。

 龍斗は真剣な表情で、鋭い視線と共にカグヤを見据える。

「なら、俺がお前の現在(過ち)を正してやる」

 静かで低い声を告げ、龍斗は刀を構える。

「言葉はもう不要だな。お前も俺も、譲るモノなどない」

 鋭く研ぎ澄まされた視線を向け、カグヤも刀を構える。

 互いに構えて対峙した二人は―――何の合図も待たず、瞬間、飛び出し、激突した。

 

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 二人の戦いは火花によって飾られていた。

 鉄と鉄が打ち合い、研ぎ澄まされた刃同士は、高い鉄の音を幾度となく奏でる。

 龍斗の剣は、例えるなら剛の剣。龍の爪が如く、一撃一撃に重みがあり、気を抜いた相手を守りごと断ち斬る天上の刃。

 対するカグヤは、柔の剣。攻撃一つをとっても洗礼され、断つのではなく鋭く切り裂く天下の刃。

 振り下ろされる龍斗の斬激は、下手に守れば守った刀や、腕にまでダメージを蓄積させる強靭な物。まともに受けたとしても、バリアで防いだとしても、その衝撃までは消しきれる事はなく、有利なのは圧倒的に龍斗になる。

 そんな斬激に対しカグヤが振るうのは素早く鋭利で、且つ、正確無比の斬激。まるで鞭のようなしなやかさで振るい抜き、敵の力を最小に、自分の力が最大になる位置を的確に見抜き当てて行く。

 龍斗は何度となく刃を振り降ろすが、その全てをいなされ、まともなダメージを与える事が出来ない。

 隙を見て一歩下がった龍斗が、大きく振り被った一撃を横薙ぎに放つ。

 これに対し、カグヤは左に持つ刀を右一杯に振りかぶりつつ半歩前に―――ギリギリ僅か一ミリの差で、刃の射程圏外で踏み止まり、紙一重に躱す。振るいきった龍斗の頭上目がけて刃を振り降ろす。

「竜胆!!」

 振り抜かれた刃は速く、しかし龍斗の頬を僅かに斬るに終る。龍斗が咄嗟に頭だけを動かし、その一撃を避けたのだ。

 切り返す刃でカグヤを押しのけ、再び互いに距離をとる。

 龍斗は戦慄を覚えていた。今までシグナムやなのはと言った強敵と何度も打ち合い、相手の実力を図る目が養われていた。だからこそ、彼はカグヤの技の完成度に目を見張るしかなかった。

 そのレベルは完全に圧倒―――『差』と呼べる間さえも見当がつかないほど、これ以上が存在しないと思い知らせる的確な返し。その一撃は完全に力をいなされ、自分で攻撃の方向を変えてしまったのではないかと勘違いしてしまう程だ。龍斗が思い浮かべられるだけ思い浮かべた強者の中に、これだけ技を完成させている者は誰一人として例を出せない。

(得意の近接戦でこれだと……!? 下手な攻撃は無力化されて、さっきみたいにカウンターの餌食だ……!)

 冷や汗を頬に流しながら、龍斗はカグヤに対して神経を集中させる。

 戦慄する龍斗に対し、カグヤは危機感を感じていた。

 カグヤ自身からしても、今の流れはこれ以上ないくらい全力以上の実力を出せたと自負している。おそらく、今のカグヤの集中力なら、フェイト相手にも鼻歌交じりに勝つ事が出来るだろう程に。―――にも拘らず、カグヤは龍斗の攻撃を『弾く』事でした防げなかった。完全にいなせると言うのなら、何もこちらが剣を振り抜く事はない。力を流せる位置に刀を置いておくだけで良い。それだけで、何の苦もなく最小限の力で攻撃をいなし、最大の効果でカウンターを当てられるのだから。

 それが出来ない。させてもらえない。先程の様に振りが大きければ紙一重で躱す事も出来るだろうが、最初の連撃では話が別。一ついなしたところで踏み込む前に二つ目が飛び出してくる。そのため全てをいなさなければならないのだが、その一撃一撃が重く鋭い。簡単に当てるだけでは防御事削られてしまう。仕方なくカグヤはその一撃に最も適した威力の斬激を当てる事で外側に弾いて受け流すしかなかった。

(考えうる限り最良の一手を、ほぼ力押しだけで押し潰された? 武器に付与している魔力が桁違いだ………!)

 龍斗は当然の事ながら、既に刀に『魔剣(ブレイド)』を発生させている。

 無論カグヤも『剣凱護法』で刀の耐久力を上げている。だからこそ一撃を『弾く』様なやり方で打ち合っても、カグヤの刀が壊れずに済んでいるのだ。

(いや、そもそも刀の質からして違う。俺のは自作でただの鉄に闇耐性を付与しただけの物だが、アイツの刃は何だ? 何処の名工ならあれほどの物を作れるんだよ?)

 互いに相手が強敵である事を認識し、それでも表情や態度には一切出さないように隙無く構える。研ぎ澄まされた緊張感が、二人の集中力を極限まで引き上げて行く。

 先に動いたカグヤが、袖の中から取り出した匕首を数本投擲する。互いに武器が刀と言う事もあり、虚を突く攻撃としては申し分ない。

 だが、その程度の虚は、龍斗には通じない。

「山彦!!」

 甲高い鉄の音が三つ鳴り響き、投擲された匕首を全てカグヤに打ち返した。

 投擲系の攻撃をそのまま返されたとあっては、防御に回るしかない。その隙をついて重い一撃を入れようと、龍斗は足に溜めた魔力でクイック・ムーブを発動する。

 だが、カグヤの考えはそれを上回る。

「鈴蘭!」

 再び響く甲高い音と共に、返された匕首が更に返された。先程の龍斗の使った『山彦』の同系統の技で返されたのだ。違いがあるとすれば、龍斗のは返しただけのに対し、カグヤは弾く時に散った火花が、花弁の様に舞ったと言うくらいだろう。

 龍斗の思惑はそのまま自分に返され、踏み出そうとした足を急いで別方向へと向けて加速する。ただ躱したのでは意味が無い。龍斗は加速をやめず、攻撃を躱してすぐ、カグヤに向かって踏み込む。 

「神速!」

 肉体加速によって感知を困難にさせ、カグヤの背後に回り込み胴を薙ぐように斬りかかる。

「!? 加速!」

 胴を薙がれる瞬間、そのギリギリでカグヤの姿が消える。

 クイック・ムーブによる加速で、バック転するように跳び上がり、空中で身体を捻りながら斬激を飛ばす。

 その一撃は首の動きだけで避けた龍斗は、カグヤが着地するタイミングに合わせ、剣を振り降ろす。

 足から着地していては間に合わないと悟ったカグヤは、刃を地面に突き刺し、着地の瞬間を早め、空中で上手にバランスを取りながら、龍斗が握る刀の柄を狙って蹴りを入れ、勢いを止めさせる。

「っ!?」

 それで攻撃を止めたかと思った刹那、まるで機械のスイッチを押したかのようなタイミングで踏み込んでいた足が跳ね上がり、カグヤの顔面目がけて爪先が跳ぶ。

 ガシィッ! っと言う乾いた肉の音が鳴り、カグヤの身体が一回転する。しかし、そのまま地面に着地したカグヤには殆どダメージは見られない。

(攻撃の接触直前に片手で防いだのか……!? おまけに空中だったから力が逃げた……っ!)

「ファントム!」

 着地と同時に瞬間加速をかけて、今度はカグヤが龍斗の背後を取る。

「椿!!」

「防御術式(ディフェンス)―――重装(フラクタル)―――っ!」

 刃が間に合わないと判断した龍斗が、心臓目がけて真直ぐ迫る突きの切っ先に左手を翳す。ギリギリ発動した多重障壁が攻撃を受け止め、必殺を間逃れる。

「桜!!」

 刹那に踏み込んだカグヤが、あっさり刀を手放し、連続の打撃を与える。

 拳の二連、肘、トドメに後ろ回し蹴りを受け、背後に吹き飛ぶ。

「菖蒲から―――霊鳥突き!!」

 空中に投げだされた刀を受け取り、霊鳥を刃に集中させた突貫技を間髪おかずに放つ。

(!? 手心を入れたら殺される―――!?)

「黒刃斬夢剣!!」

 突貫するカグヤに対して、未だ空中のはずの龍斗が三閃の刃を放ち、容易くカグヤの刺突を止める。

(なっ!? こんなあっさり―――!?)

 驚く暇もなく、慌ててカグヤは身体を捻る様にして横に飛ぶ。そのすぐ後、先程カグヤのいた場所を、龍斗の本命の一撃が地面事一刀両断に切り裂いた。

「……っ! 雷鳥!!」

「魔弾(バレット)―――!」

 まだ身体を捻っている空中で、カグヤの雷を纏う霊鳥が四羽放たれる。

 刃の切っ先を照準として合わせ、龍斗が魔弾を放つ。

 互いの攻撃がぶつかり合い、小さな爆発が起きて視界を妨げる。

 着地してすぐ、カグヤは煙の中に飛び込む。

 まるでそれを見たかのように龍斗も飛び込む。

 煙の中、視えないはずの相手を、魔力の流れと気配だけを頼りに、互いの剣檄が結ぶ。

 視えていないはずの空間で、鉄の音と花弁を模した火花が鏤(ちりば)められる。

「伊吹!!」「楓!!」

 一際高い音が鳴り響き、煙が吹き飛ぶ。

 互いに打ち合った刃が弾かれ合い、僅かに距離が生まれる。どちらも攻撃に移れるギリギリの距離。隙を窺う様に、互いが横に歩を進め、次第に足は早まり、睨み合ったままその場を移動する。

「鈴蘭!」

「魔弾(バレット)―――!」

 カグヤが飛刀を投げつけ、龍斗が対抗する様に切っ先を向け、魔弾を打ち込む。

 移動しながらの飛び道具による応戦。二人の間で何度も接触し、飛刀が砕け散り、互いの身体を攻撃が霞める。

「山茶花(さざんか)!!」

 足を止めたカグヤが、袖の中から取り出した二本の匕首を柄頭で合わせ、双剣にすると、それをブーメランか手裏剣の様に回転させて投げつける。大きさも他の飛刀より大きく、強い回転が掛っているため、接近する速度はやや遅いが、撃ち落とすのは難しい。

 仕方なく龍斗も足を止め、それを剣で弾き飛ばす。掌(てのひら)に伝わる衝撃が思いの外強く、腕が一瞬硬直してしまう。

「…天皇(すめらぎ)!!」

 その一瞬に、爆音が轟く。カグヤの踏み出しが地面を破壊し、その一歩で三メートルの距離を踏破、龍斗の頭を掴む。

 そのまま地面に頭を叩き落そうとするが、龍斗も黙って叩き落されたりはしない。

「加速補助(ブースト・ムーブ)―――!!」

 速度を強化した龍斗は、落されるより早く、頭を掴んでいる手を取り、自分からくるりと空中で一回転―――、逆にカグヤの腕を締め上げ、極めに掛る。

「―――!?」

 腕を極めようとした龍斗は、自分の足に添えられた、カグヤのもう片方の手に気付き―――、次の瞬間、身体を捻り上げて無我夢中で離れる。龍斗が逃がした足のあった空間に、目に見えない歪みが生じた。

 目に見えずとも解った。カグヤが龍斗の足を魔力で抑圧した空間事潰そうとしたのだと。

「………柘榴を初見で躱すか。随分、感(・)の良い奴だ」

「空間に魔力を送り込んで無理矢理捻じ曲げるなんて、空間把握能力もあるって事か………? いや、違うか? そんな事よりよっぽどビックリだ。空間座標その物を計算したわけだ? いくら手のすぐ近くでも、座標攻撃を補助無しであの正確さか……怖いな」

 冷や汗が背筋に流れる。

 それは龍斗であり、同時にカグヤもだった。

(よく言ってくれる……。空間に直接魔力を打ち込むって事は、結局魔力を放出してるんだぞ? 魔力量がでかければ遠距離でも可能だろうが、こっちはこの距離で一発が限界だったんだ。それを出さざろ終えないようにしたのは、お前だろうに……)

 終始、圧しているのはカグヤに見えない事もない。常に先手を取り、攻勢に転じているのはカグヤだ。龍斗はそれに対応しているだけに過ぎず、未だに攻勢に転じていない。傍目から見れば誰もがカグヤ有利を疑わないだろう。

 その実、圧されているのはカグヤの方だった。それを正しく理解しているのもまた、本人ただ一人。当事者である龍斗さえ気付いていない。―――否、気付かれていない。気付かれないよう、必死にカグヤが隠し通しているのだ。

 カグヤは元々自分から攻撃に転じるタイプの人間ではない。もちろん戦いに勝つために、自分から仕掛ける事は当然にしてある。だが、これだけ何度も足を止めず、手を止めず、攻撃を先行させる様な事は普通しない。

 彼のスタイルは敵を動かせ、その情報から分析し、最善の手を打つと言うのが常だ。相手が深く、複雑な人間であればある程、手玉に取るのは容易な事だ。心の隙を突き、技術の隙を突き、巧みに自分の力を捻じ込んでいく。それが出来るからこそ、最弱の存在である彼が、今に至るまで管理局の追撃を躱し続ける事が出来たのだ。

 なのに、カグヤはそれをしない。出来ない。

 龍斗と言う人物はとてもシンプルなのだ。まだ未熟故に多様な技は持たず、全てが基礎による簡単で単調な技術。技と呼べる巧みさは、ここまでの間に『黒刃斬夢剣』と『山彦』程度、他は単純な斬激を重ねた程度の物でしかない。

 本来なら、それの特徴は『特徴』ではなく『弱点』となる穴に他ならない。

 だが、龍斗にはそれを補う圧倒的比類無き魔力と、その魔力を保有するだけの強靭な身体(器)があった。魔力に対する耐性が付き、微細な魔力を読み取る『感』を得て、何より一撃に籠められる魔力の量が桁違いに多い。

 故にカグヤは龍斗を絡め取れない。龍斗に先に動かれては、その威力に守るので精一杯になってしまう。そうさせないために、勝つために、カグヤは常に先手を取って、攻撃し続けなければならない。攻勢の流れが龍斗に変わる前に―――。

「カグヤ……それだけの力があるなら、いくらでもやり直せる。それでも果たしたい願いって何なんだ?」

 唐突に話しかけられたカグヤは、訝しむ表情で龍斗を見返しながら、油断なくけ刀を握る。

「聞いてどうする?」

「知りたいんだ。………知ってどうなるか解らないけど、知らなければ何もできない気がするから」

「……誰にでも言ってきた。誰かに話しても意味の無い事だと」

「でも、俺とお前なら………何かを解ってやれるような気がするんだ!」

「それこそ有り得ない。俺とお前だからこそ、俺達は理解し合えない」

「だけど……! 言ってもらわないと、何も解らないじゃないか!?」

「………」

 幽かに、カグヤの胸の内で何かが揺らめく。

 それは怒りの様で怒りではない。

 悲しみの様で悲しみでさえ無い。

 それはどうしようもない持て余す気持ち。『憤り』だった。

「解らねえよ………」

 呟き、刀を上段に大きく振り上げる。

 龍斗は咄嗟に頭上を守る様に刀を構え―――刹那、構えた刃にカグヤの刃が激突していた。

 反応は出来なかった。だが、それはカグヤが速かったのではない。上手かった(・・・・・)のだ。歩法と踏み込み、踏み出すタイミング、思考の隙、それらをあの一瞬で見極め一度に突いた巧妙な一撃は、正面に対峙する龍斗には接近した事自体を認識させなかった。防御できたのは全くの偶然、カグヤが上段に構えたから上からの攻撃に気を付けようと、構えを取っただけに過ぎない。

 読めていなかった故に、その偶然は幸運だが、防御としてはあまりにも弱い。

 上段と言う攻撃に特化した構えから、しっかり力を溜めこんで打った一撃は、カグヤが行う事により、一瞬だけ、龍斗の膂力に並ぶ一撃を放つに至った。

「ぐうぅ……っ!?」

 慌てて腕に力を込めても遅い。勢いに乗った一撃は、衝撃となり、龍斗の全身にダメージを貫通させる。

「俺が今まで、誰にも何も言わず、勝手に決め込んで、黙秘し続けてきたと思うのか………っ!?」

 再び振り上げられる一刀は―――やはり、龍斗が認識するより早く叩き落される。

 振り下ろされた刃が刀の鍔にぶち当たり、間に挟まれた魔力が衝撃に耐えきれず弾け飛ぶ。二人を中心に広がる衝撃波は、まるで二人の空間を洗浄するかのように吹き飛ばした。

 しかし、今度の一撃は耐えた。耐えられた。

 来るのが解っていれば、認識できずとも受ける事は出来る。龍斗にはそれが出来る。だが、インパクトに生じた衝撃は、振動となって確かに身体に伝わる。何度も受けるのは難しい。

「言ったさ! 昔は、信頼できる奴らを作って! 何度も頭を下げて! ずっと頼みこんできたさっ!! ………だが、そもそも受け入れられるわけの無い願いだ! 誰も俺の言葉に頷き、味方してくれる者はいなかった!!」

 激情に振るわれた三刀目、それは技術が零れ始めた感情だけの一撃。とても先、二度の斬激には届かない。―――にも拘らず、その三刀目は、今までで一番龍斗に『重み』を感じさせた。

「―――ッ!?」

「諦めきれない事だから!! 諦めるわけにはいかなかったから!! 可能性が微かでも見えてしまったから!! 俺は立ち止まるわけにはいかなかった! でも俺は弱かったから! だから真っ先に助けを求めたさ!!」

 激情は更に拍車をかけ、ただ我武者羅に振り下ろされる物へと近くなる。技術がこそげ落ちた一撃は、見る影もない程に力が乗っていない。

 なのに、なのに―――、龍斗の感じる『重み』逆に肥大化して行き、今の龍斗は受け止めるのが精一杯になっていた。

「何度でも! 何度でも頼んださ! ミッド中を歩き続け、力を求めた! 理解者を求めた!! 俺一人じゃ出来ないから! 信頼でダメなら取引だってしてきた! なのにダメだったんだよっ!!」

 悲痛な声が混ざり始める。

 感情が、そのままカグヤの攻撃となって振り下ろされる。

 龍斗は理解できない。カグヤの業(わざ)は技術の集大成であり、それをこそが彼の最も強い武器だったはずだ。その技術が剥がれ始めていると言うのに、腕に掛る衝撃も非力だと言うのに、………今は小さな山一つを相手にしているのかと錯覚するほどに『重い』。

 

「俺の願いは!!

 誰にも共感を得らなかったっ!!!」

 

 叫び―――、心の奥から悲痛に上げられた叫び………。それはカグヤ自身が心に持つ痛みとなって、刃を通し、龍斗の全身を容易く貫く。

「――――………ッ!?」

 言葉が出ない。全身を汗で濡らしながら、彼は歯を食い縛って耐えるしかない。それしか解らない。

 カグヤの刀が龍斗の刀に重なる。押し合いとなる鍔迫り合いで、体重の軽いはずのカグヤの方が力で押していた。龍斗の足が震え、僅かに後ろにずれる。

 刀に力を込めたまま、カグヤは龍斗の瞳を覗き込む。強張った表情の龍斗も、自然とカグヤの瞳を覗き込む形なり―――カグヤの目が僅かに細められた。

「お前………、もしかして感情の剣を受けるのは初めてか?」

「感……情………!?」

「やっぱり初めてか………。いや、受ける事自体は初めてではないんだろうな。ただ、それが今までは対応できる感情しか受けてこなかったんだろう?」

 カグヤの言ってる事が解らない。だが、カグヤの声はいつになく低く、とても大事な事を言っているように聞こえる。

「『正』の感情は打ち合う相手を楽しくさせる。バトルマニアなら引っ張られて、つい本気を出してしまうモノだ。『負』の感情はお前には効かなかったんだろう? 『殺す』だの『憎い』だの『疎ましい』だの、そんな物は跳ねのけてしまえば良い。お前には充分それが出来る。………だが、人間の感情なんて、そんな単純なものじゃない。必ずどちらかの感情しかないわけじゃない。もう一つ………限定的だが、中間に当たる感情があるんだよ」

 冷たい。だが熱い……。そんな相反する熱を持った瞳が、まるで冷たい炎が灯った様な瞳が―――、龍斗を見据える。

「『憤り』………。誰かが憎いわけでもない。楽しいわけでもない。だが、果たしたいという願いはどちらの感情に負けない。なのにそれを向けるべき方角が定まらない。ベクトルを失った、ただただ強いだけの心のエネルギー………、そんな持て余す感情を、『憤り』って言うんだよ!」

 静かに告げられた言葉は、しかし龍斗には理解できない。

 否―――、言葉の意味そのものは理解できる。カグヤが言っている事自体は龍斗に伝わっている。だが根本的な所、その感情の共感に至る部分において、龍斗はまったく理解が出来ない。出来ないからこそ困惑する。困惑していては答えは導き出せない。

 だから龍斗はもやもやし始める胸の内を晴らす事も出来ず、ただ抱えて黙るしかない。

「………なるほどな」

 それを見て―――更にカグヤは理解する。

「お前、なれないんだな……」

「?」

 それは真実であり、事実ではない。

 真実、カグヤの言う通り憤る事の出来ない龍斗にはその言葉が意味する所が理解できない。事実、意味する所が解らなければ、それは龍斗の中では事実になりえない。

 故に龍斗はやはり困惑するしかない。困惑したままカグヤの言葉を聞きいるしかできない。

「その様子だと、自分の事で怒った事もない様だな?」

「それが………なんだ!?」

 チクリと、龍斗の胸で何かが突き刺さる。自分の知らない何かが、その言葉を嫌悪する様に、今の言葉を拒絶しろと訴えかける。

「それがどう言う意味か解ってるのか?」

「だから、何がだっ!?」

「よく、『どんなに自分が貶されても平気なくせに、他人の事を貶されると怒る奴』って聞くと、そいつはとってもいい奴に思われ勝ちだ。お前流に言うなら『正しい人間』か?」

「その通りだろう? 何が間違ってる!?」

「間違いだらけだ」

 低い声が更に力を与える様に、『重み』が増す。自然と龍斗は圧される様に下がり始める。

「そう言う奴は『正しい人間』なんかじゃなえ。『好かれる人間』だとしても、正しくなんか絶対に無い!」

「何故だ!? 誰かのために行動できる人間を、どうして『正しくない』と言えるんだ!?」

 龍斗の声が勝手に荒げられる。彼の胸の奥で、これは肯定してはいけない。否定しなければいけないと言う感情がどんどん高まって行く。もし、これを肯定してしまったら、何か大切な物を失ってしまうような、そんな強迫観念が勝手に浮き上がってくる。

「自分で言ってて気付かないのか? そいつは自分を蔑にするんだぞ? 『好かれる人間』の癖に『好かれている事に対して』何の頓着もない! 誰かが大切にしてくれている自分を、簡単に傷つける! 放り投げる そんな奴が正しいわけがあるかよ!!」

「―――ッ!!?」

 何かが崩れて行く。龍斗はその音を確かに聞いている。だから必死に止めようとする。それ以上はダメなのだと。破綻してはいけないのだと。だが、その言葉を一体何処に向けて、どのように伝えればいいのかが解らない。解らないから龍斗はただただ焦りだけを覚える。

 

 そして瞳を覗くカグヤは、考える暇を与えない―――。

 

「やっぱりな。お前、今のの典型的な例ってわけか?」

「………!」

「今まで誰にも言われた事が無いなら教えてやるよ。」

「……」

「お前はさっき言ったな? 俺とお前なら理解し合えるかもしれない。なるほど確かに、お前も俺も、とっくにそうだ。ならば理解に至れたかもな?」

 言葉とは裏腹に、拒絶の視線を向けて、カグヤは突き放すように告げる。

「『お前、間違ってるよ』」

 刹那―――、

 龍斗の中にあった何かが破綻した。

「ああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!」

 それは叫びであり咆哮、己から目を背けていた龍が、今初めて自分を龍だと知り、顎(あぎと)を開いた。故に、それは叫びであり、咆哮なのだ。

 龍斗の身体に力が戻る。否、彼の中で激情が生まれた事により、今のカグヤと同等の立場に立った。

「お前に―――! お前がーーーーっ!!」

「…っ!?」

 体内にある魔力を総動員し、龍斗は自分を抑え込んでいるカグヤを力任せに弾き飛ばし、返す刀を衝撃波として放つ。飛んでくる斬激を弾き飛ばし、一旦離れるカグヤ。

「お前に―――!! お前に何が―――!? 違う……っ! そうじゃなくて………俺は―――っ!?」

 龍斗は頭を押さえる。言葉にしたいはずの言葉が頭で纏まらず、上手く言葉にできない。頭の中にあるのは、胸の中に渦巻いている訳の解らない、行き場の無い感情のイメージだけ。他にあるべき機能が全く働いていない。

 カグヤは冷静だ。その内に感情を昂らせても、それにはまだ火が点いていない。昂ったところで理性で制御出来てしまう。逆に言えば、その程度の簡単な感情さえも、龍斗は受け止める事が出来ていなかった。だからカグヤに心の内を見透かされた。

 

 ―――しかし、同時にこれはカグヤも見透かされる事となった―――

 

「お前こそ………っ! 結局、何もできていないだろう!!」

「?」

「全部知ってるつもりになって、自分の言ってる事が全部正しいとでも言いたげなのはお前の方だ! 結局お前自身は何もしていない! 俺だって管理局に世話になっていたんだ! 話くらいは聞いてる……! お前がどんな思いでどんな行動をしようと、結局お前には何もできないだろ!」

「!」

 それは普段の龍斗なら何一つ、理解に及ぶ事の出来ない小さな事柄。しかし、追い詰められ、混乱している頭は、今まで整理できていた記憶をめちゃくちゃに壊す。それは逆に言えば、バラバラでまとまらなかった情報のピースが繋がっていく事もある。

「お前はいつも一人だった! 何処でどんな時に見つかっても、お前は常に一人だった! 仲間を求めているくせに、お前自身は誰も信用していない! だから、本当に重要な事は結局一人でやろうとしてるんだろう!? ……何もかもを自分一人の思考で決めてしまうのだと言うのなら、何故他人を巻き込むんだよ!」

「………、そんな事はお前には関係の無い事。そもそも、俺が何を話したところで共感を得られないと知っているのに、そこに信用を求める意味があると思っているのか?」

「それならなんで誰かを求めたんだ!? 結局それって、お前も一人は嫌だったからじゃないのかよ!? 本当は仲間が欲しかったんじゃないのかよ!?」

「―――!?」

 カグヤの表情が歪む。

 胸の内に暗く淀んだ物が熱を持ってせり上がってくる。

「それこそ貴様には関係ないだろ! 俺の願いと望みは別の物だ! それを自分の願いすらまともに定まっていない貴様に言われる筋合いはない!!」

 踏み込んだカグヤの一刀は、感情の籠った一撃だが、冷静さを欠いても技術の殺げた一撃にはならない。感情も昂れ過ぎれば逆に冷静になる。カグヤはその手前にまで来ていた。

 対する龍斗の方は何も変わっていない。否、変われない。昂った感情を『憤り』で発散させる事も出来ず、向けるべき感情のベクトルが『我慢』と言う形で自分の中に帰ってきてしまう。だから彼は高まった感情を『混乱』や『焦り』でしか表現できず、発散させる事は出来ていない。

 故に感情を持つ一撃を受け止める事が出来ない。相変わらず掌に返る『重み』の強さに目を白黒させ、それでも懸命に刃を返す。

 カグヤは刃をいなしながら、掌に返る『重さ』に内心イライラを募らせていた。

 龍斗の剣は『軽い』のだ。だが、それは決して感情が籠っていないからではない。向かうべき方向が定まっておらず、重さを正しく伝える事が出来ていないのだ。だから軽くいなせてしまえるし、掌に返る感情も『軽い』。

 だが、カグヤがイライラを募らせているのはそこではない。確かに重さは軽い。しかし、刃に籠められた感情の質が違う。まともに交えず、いなしているだけのカグヤには、刃に込められた思いを正しく理解する事は出来ない。ただ、その感情は、カグヤにとって神経を逆撫でされる様に怒りを誘発させられた。

「お前の行動は、目的への執着心があっても執念が無い!」

 龍斗の剣が振り降ろされ、それに合わせて振り降ろされたカグヤの剣にいなされる。

「何処に行くのか決まっているのに! その過程の道に迷って、回り道ばかりして―――! お前の行動は矛盾ばかりだ!!」

 返す刃もいなされたが、身体を回転させながら蹴りを放ち、逆回し蹴りでカグヤの腹を突き飛ばす。

「……ッ! ならっ、貴様は何処に向かいたいと言うんだ!?」

 追い打ちを掛けた一撃をいなしたカグヤは、刀を放り上げ、舞うように回転して刃を躱し、同時に龍斗の背後に周り込む。空中で回転する刀を受け取り、その勢いのまま背中合わせの龍斗を斬りつける。

「……がっ!?」

 ギリギリのところ振り向いた龍斗の刃が、カグヤの刃に当たり、花弁の様な火花が散る。

「守りたいだの救いたいだの言っておきながら、明確な行動を持たず、結局周りに流されるままに流されて! お前自身には、求める野望が全く存在していない!」

 両手で振り降ろした一撃は正面から受け止められた。

「……ッ! 間違わない為に考え続けているだけだ! 間違えてからじゃ遅いから! だから俺は、今は目指すしかないんだ!!」

 力任せに押し返そうとするカグヤに、龍斗は片手で鞘を逆手に引き抜く。同時に『魔剣(ブレイド)』によって鞘が刀となり、カグヤの右目を狙って斬り上げられる。

「……づッ!?」

 咄嗟に下がったカグヤの頬に深紅の筋を通る。

 刀を二本、普通に持ち変え、幾重にも斬激を重ねる。

「俺は頭が悪いから! 何度も足を止める事になる! でも、俺には仲間がいるから、俺一人で出来ない事も、皆と一緒なら必ず果たせる! お前もそう思ったから仲間を求めたんじゃないのか!?」

 度重なる斬激を何とか軽く当てる事でいなすカグヤ。その動きの鈍い固まった相手に向けて、一瞬の隙を突くが如く、大きく降りかぶった二刀を横薙ぎに振り抜く。

「―――ッ!!」

 鈍い鉄の音が鳴り響く。何とか反応して受け止めたカグヤだが、龍斗の力に押され、受け止めたまま地面を滑り続ける。

 龍斗も逃がすまいと勢いを殺さず押し続けるため、二人の力が押し合い、その場で左右を入れ替える様に回転してしまう。

 勢いを失い、回転が止まったところで、カグヤの刃が龍斗の刃を押しのけるようにスライドされ、花弁の様な火花が散り―――、

「彼岸花……!」

「!?」

 刃が爆発を起こし、互いの距離が離れる。

 爆発で刃毀れした刀を鞘に戻し、その辺に放り投げる龍斗。

 弾いたままの姿勢からゆっくりと構え直すカグヤ。

「………元々全てを明かせば、確実に仲間にはならない。信頼を裏切る事になるのだとしても、いつかは蔑まれるのだとしても、せめてその時までは、俺はあいつらを騙し続ける」

「それじゃあ、まるで悪役じゃないか……!?」

 嫌悪と悲しみに表情を強張らせる龍斗に、カグヤは悲痛に嘆く様な表情で、今にも泣きそうな声で静かに告げる。

「そんな事は―――願いを持つ前から解っている………っ!」

 その時、龍斗の目には、カグヤの瞳から雫が落ちた様な気がした。

 実際、カグヤの表情は悲しげでも、その瞳からは何も落ちていない。それでも龍斗には、彼が何処かでずっと泣いているように思えた。

 だからこそ、彼はここでカグヤを止めなければいけないのだと思った。

 こんな間違った悲しみは、ここで終わらせてあげる事こそが『正しい』のだと信じた。

 

 カグヤは構える。

 少ない魔力を集中し、強い魔術を撃ち出そうとする。

 

 龍斗は構える。

 典型的な尽きの構えで、持てる魔力の全てを集中し、ぶつかってでも止めよう決める。

 

 カグヤの剣に集った魔力が翼を広げる。重い紫色の魔力光が迸り、雷を待った巨鳥が、獲物を前に身構えている。

 

 龍斗の全身に纏った魔力が肩から翼を広げる。鮮やかな碧色の魔力光が逆巻き、巨龍が敵を前に身構える。

 

 理解する。これには勝てない。……っと。

 

 理解する。これなら勝てる。……っと。

 

 だから考える。どうすれば勝ちに繋げられるのか?

 

 だから考えない。例え、策があっても、それを正面から受け止めようと覚悟しているから。

 

 思考する。模索する。考察する。検討を付ける。……今までと変わらない。勝率が僅かでも高い選択を選び出し、それを全力で行う。今までと何も変わらない。

 

 覚悟を決める。今まで変わらず、ただ自分の心を刃に乗せて。ただ愚鈍に自分を貫こうとする。自分の選んだ道は、決して『間違いではない』のだから。

 

 だが、それだけではダメだ。今までそれだけでは足りなかったのだから、だから必要なのだ。必要なものは解っている。それはすでに覚悟を決めた。だから後は実行すればいい。

 ――己の選んだ選択肢の更に深く踏み入るギリギリを超えた『境界線上の選択肢』――

 

「………覚悟は、済んでいる………」

 カグヤは息を吐く。

 極限に魔力を溜めた龍斗は、自分が先に出る事を決める。

 先、先の先。誰よりも速く。何よりも早く。一瞬で、一撃で、全てを終わらせる。

 巨龍の翼が……羽ばたいた。

「光翼の刃(シャイニング・ブレイズ)ーーーーーーーーッ!!」

 全身に魔力を纏った龍斗が、『神速』を使って突貫する。

 その速度は瞬間加速度で言えばマッハ0.5に匹敵する超加速。魔力を全身に纏っていなければ、自分の出した速度に耐え切れず自滅していた。そうでなくても全てをこの一瞬に掛けた龍斗は、なりふり構わず速度を上げていた。そのため、龍斗の魔力を持ってしても、その一撃は全身に負担を掛けた、正に全霊を掛けた捨て身の一撃。

「………立金花(リュウリンカ)」

 刹那―――、カグヤの刃に纏う巨鳥が弾け飛んだ。

 蛍の様に燐光を灯した魔力が、刃に纏い、カグヤは何の躊躇もなく、全力で放つ。

 弾けた燐光は無数の雷となって、飛び散った周辺の空間で帯電する。カグヤの残り魔力を全て費やした燐光の雷は、もはや紫一色に埋め尽くされた空間となり―――龍斗とカグヤ自身をまとめて呑み込んだ。

「―――ッ!?」

 広範囲攻撃(クラスター)。一点集中の龍斗の技に対して最も相性が悪い、悪手。龍斗の前進は止まらず、カグヤはまともに攻撃を受け止める羽目になる。それが解るからこそ、龍斗にはカグヤの判断を悪手にしか見れない。

 カグヤは龍斗の一撃を受け止める瞬間、確かに口の端を持ち上げた。

 そう、カグヤの考えは龍斗のそれを簡単に凌駕する。いや、あまりにもズレている。

 カグヤの雷は空間を丸ごと感電させるもの。その雷は、巻き込まれたカグヤ自身を伝わり、刃にも力を宿している。ダメージはもちろん間逃れないが、龍斗の一撃を一瞬受け止めるには充分―――いや、カグヤは更に防御を捨てて龍斗が纏う魔力に全力の一撃を当て、僅かに隙間を作る。その隙間に、大量の雷があっさり侵入し、刹那を持って龍斗を感電させた。

 ―――同時、カグヤの身体を、龍斗の刃が易々と貫いた。

 

 

-5ページ-

  2

 

 二人が目を覚ましたのは完全に同時だった。

 龍斗に痛みはない。身体の全ての神経が許容を超えて麻痺している。痛覚どころか、身体を動かす感触もない。そもそも麻痺が酷過ぎて僅かに震える事しかできない。

 逆にカグヤは焼けるような激痛に苛まれていた。声を上げなかったのは我慢できるからではない。叫ぶだけの体力が残っていないのだ。身体から赤い命が流れ出ているのに気付いていながら止血するのもままならない。

 二人とも、本来なら立ち上がれるような状況じゃない。勝負などもはや付いたも同然。ここに引き分け以上に言葉など必要ない。

 だが、二人は立ち上がった。共に内側から湧き上がる『モノ』によって、立ち上がれていた。

 痛みを我慢しているのではない。本当に治り始めているのだ。一瞬前までは呼吸さえ億劫だと言わんばかりの消耗をしておきながら、既に立ち上がって互いに睨みあう事が出来るほどだ。

「………はあ、はあ、………あの状況で相討ち狙いなんて、正気なのか?」

 呼吸に肺の、言葉に喉の痛みを感じながら、それでも龍斗は訪ねる。

 対するカグヤは俯いたまま、貫かれた右肩を押さえて答える。

「何に疑問を抱いている? これが覚悟と言うモノだ」

「覚悟? あんな自殺行為が?」

「………お前の言う通りだ。俺は覚悟は出来ても『決心』していなかった。執着していても『執念』がなかった……。死と隣り合わせのギリギリのラインを目の前にして、臆して怯えて尻込みしていた。俺だってやっぱり、死ぬのは心底怖い……」

「ならなんでこんな事するんだよ? やめろよ、こんな命を粗末にするような行為……。お前は目的があるんだろう? 例えどんな願いであっても、その願いがあるなら、命を無駄にするような事だけは―――」

「だから、それがお前の言う『執念』の無さだったんだ……」

「………へ?」

 言葉に被せられたカグヤの台詞。その意味を知るのに、龍斗は数秒を要した。

「ギリギリ手前で良い気になってる場合じゃない。本当に願いを叶えたいなら―――俺の様な弱者が願いを叶えようと思ったら……! 命を賭けるんじゃ無く、命を削らないとダメだったんだ………っ!」

 いつ命を落とすか解らないラインギリギリでは、使える力はあまりにも乏しい。それは一種の感覚、『達人の領域』などと言われる範囲でしかない。確かに莫大な力を発揮しているように見えるが、実のところ、それは本来人間と言う許容量で引き出せる限界を引きだしたに過ぎない。どう足掻いたところで人間の限界などには達していない。故に引き出された力は結局のところ、その個人が今まで積み重ねてきた過去の集合体でしかない。

 だが、カグヤが入り込んだのはその更に先、『境界線上』。死と隣り合わせなどと言う生易しい物ではない。既に半分は死んでいる様なものだ。いや、死ぬ事も生きている事もしていない。その領域に入れば、二度と生者には戻れない。線上に乗った以上、もはや死んだも同然なのだ。文字通り、死を対価に『人間』と言う許容量を超えた力を発揮する禁忌なのだから。

 では、何故カグヤは生きているのか? そして、それだけの領域で放たれた一撃を受けて、何故龍斗は生きているのか?

 事実、二人は一度死んでいる。否―――最も死に近い重傷に追いやられていた。

 二人が生還できたのは、その内に秘めた―――いや、既に溢れようとしている『闇』が原因だった。感情が昂っていた二人の心に反応し、触発されていた闇が、二人を、文字通り死の淵から引き戻したのだ。

「なんで………!? そこまでしないといけないんだよ!? お前が死んだら、お前の願いは叶わないだろうが!?」

 意味を理解した龍斗がカグヤを責めるように叫ぶ。

「叶うんだよ。望みはな………」

 カグヤは呟き―――、

「俺の願いを叶えるのに、弱い俺が出し惜しみしたって意味が無い。何も果たせない。だから、俺は極限まで力を使い切る。だから、俺はお前には負けない! お前の様に『正しい』事を盾に、平気で他人を傷つける様な奴らを、俺は絶対に許せないから!」

 顔を上げたカグヤの瞳を、漆黒の闇が塗り潰す。

 その瞳を見た龍斗もまた、次第に瞳を黒く塗り潰す。

「平気で…傷つける……? 俺は、誰も傷つけたくないから……っ、守りたいから戦っているのに……っ! なんでそんな事を―――ッ!?」

 龍斗はまだふらつく身体を叱咤して、刀を握り直す。

「お前は―――ッ! そうやって、誰かの所為にして、自分を肯定する……っ! 結局お前は、誰かの所為にして逃げてるだけじゃないかっ!!」

 今度はカグヤが、ふらつく身体を叱咤して刀を握り直す。

「違う!!」

「俺だって違う!!」

「黙れよ! 偽善者!!」

「うるさいんだよ! 悪役!!」

 カグヤは刃を振り被る。

 龍斗は刃を振り上げる。

 二人の身体から闇が溢れ出る。

 二人の渾身が込められた、今度こそ全力の一撃が―――、

 

「黒炎絶焼(こくえんぜっしょう)………!」

「殲滅の黒き刃………!」

 

 ―――放たれた。

 

「ヒノヤミヅチ(火ノ闇槌)ーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」

「ジェノサイド・ブレイバーーーーーーーーッッッッ!!!」

 

 それは全てが融解する黒き炎。

 それは全てを殲滅する黒き刃。

 その二つの力に鬩ぎ合いなど起きない。

 あるのはだた、互いに役割を全うするために、世界を殺す事だけだ。

 故にその灼熱と斬激の嵐は、巨大な爆発となって天を衝いた。

 後に残された鉱山跡地の岩山は、何が起きたのか予想が出来ないほど、巨大な傷痕が出来上がっていた。

 まるで灼熱の巨大な悪魔が、その手で無造作に地面を掘り返したかのような爪の痕。その断片はぶくぶく音を立てて融解させていた。

 二人の姿は、その周辺の何処にも存在しなかった。

-6ページ-

・Solo

 

 何処からどんな風にしてここまで来たのか記憶が無い。そもそも、今何をしているのか良く解っていない。

 ただ、微かに認識できる視界が、鈍重な雲と雨粒を映し出しているから、たぶん俺は仰向けに倒れているんだと思う。

 カグヤとの勝負で出した最後の一撃は、とてもじゃないが、やっていい戦いじゃなかった。今更になってそれを自覚する。

 互いを殺し合うだけの力を打ち合うなんて、正気の沙汰じゃない。二人だけじゃなく、周囲全体の被害も相当だった。近くにいた生き物は生きていないだろうし、あの辺一帯もしばらくは誰も近づけないだろう。

 たぶん雨が降っているんだろうけど、俺には全くそれを認識できない。体中の皮膚が無くなってしまったのか、全身が痛くて仕方ない。もう痛すぎて痛すぎて、何処がどう痛いのかも解らない。解っている事としたら、俺はこのままだと死ぬって事だ。

 死ぬのか? そんな簡単に?

 こんな簡単に死んでしまって良いのか?

 俺はまだ何も果たしていない。なにも成しえていない。目的一つは愚か、望みも叶えていない。何より俺はまだ死にたくない。

 誰かが昔言っていた気がする? 命はとっても軽いんだって……。誰かの受け売りみたいだったけど、確か尊敬できる『誰か』から聞いたんだと思う。その人は命はとってもはかなく軽いから、無くしたくなければしっかり掴んでいないとダメだって良く言っていたっけ?

 俺は、また『間違った』のかな? 間違って手を放してしまったのかな?

 だから俺は………死ぬのか?

 

 視界が一瞬砂嵐に覆われた。

 突然目の前に夜天に聳え立つ魔天楼が見えた。

 誰かがそこを登っている。一点の星が輝く階の頂に向かって………。

 

 視界が砂嵐に覆われる。

 一人の女の子がいた。何処かで会った事がある様な白い女の子。髪を二つに結わえた小さな女の子。見ているととても懐かしくて、すごく安心していく。

「………! ………っ!?」

 その子は、悲しそうな表情で何かを叫んでいる。

 泣くなよ? お前が泣くと、俺まで悲しくなる。

 泣かないでくれ。どうしてそんなに泣くんだ? ああくそっ、聞きたくても耳がバカになって聞こえねえ……っ。

 それでも必死に聞こうともがいていると、耳元で何かが蠢く感触がして、治まった時には聴覚が戻っていた。

「龍斗くん!! 龍斗くんしっかりしてよっ!? シャマルさん! 速く来て……っ!」

 声が聞こえた瞬間、女の子は別の白い女の人に変わっていた。

 もっと大人の、綺麗な女の人。

 なんだ、なのはだったのか。一瞬天使か何かだと思って、いよいよ覚悟しちゃったじゃないか………。

 ああ、でも泣いてるんだよな? 俺の所為で泣いてるんだよなたぶん?

 俺、今きっとすごい身体になってるだろうし、………なのはの奴、良く直視出来るな? 俺だったら無理そうだ。

 ………俺が死んだら、なのはは悲しむのかな? なのはだけじゃない。シャマルやキャロやシグナム、それにはやても……。俺が死んだら、そりゃ泣くよな? 傷つけるよな? それは嫌だな……。

 俺は………、

 俺は………、

 俺はまだ………死にたくない。

 

 俺はまだ、死にたくない!

 死にたくない!!

 

「あ、がっ!? ああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?」

 

「えっ!? 何これ……っ? 黒い、闇みたいなモノが……龍斗くんの身体を―――っ!?」

-7ページ-

・Solo

 

 よくもまあ、自力で帰れたものだ。

 身体が半分どころか、頭半分を残して全焼した気がしたが、さすがにそこからの再生は不可能だろうから、どうにか助かってはいたらしい。

 怪我はまだ目立つが、いつまでもあそこにはいられない。あれだけの爆発だ。管理局じゃなくても目立ってしまった。誰かが様子を見に来るのは明白。ウチの連中が来る前に戻っておかなければ、すれ違いになったら大事だ。

 秘密の転送陣を経由して、我が家となりつつある戦艦内に入る。壁に身体を引きずらせながら急いで向かったロビーでは、ティアも含める全員が揃っていた。フェイトに至っては外出の用意までしていた。あぶねえ、マジですれ違うところだった。

「カグヤ!?」

 フェイトが俺の姿を見て駆け寄ってくる。だが、俺に触ろうとして躊躇する。当然だ。俺の身体は立っていられるのがおかしいくらいボロボロで、下手に触ったらその拍子で比喩無しに崩れてしまいそうだからな。

 もしくは、身体の傷を治そうとしている闇に脅えているのかもしれん。その証拠にエリオとザフィーラ辺りは警戒しているように見える。スバルは一度襲われ掛けた事がある所為か、少し恐れ気味だな。

「大丈夫だ……これでも正気だ………」

 声を出すのも億劫だったが、なんとか言葉にできた。今ので肺が一つダメになったんじゃないかと言う激痛が走った様な気がしたが、そんな気がするだけで、もはや正しい痛みとして認識できてない気がする。

「カグヤ、一体何が―――!? ううん、良いからまずは医務室に行こう? 設備を予定通りに進めたから、今ならちゃんとした治療が出来る筈だよ?」

「いらない………。むしろ今は治す邪魔だ……。下手に薬とかに頼ると、また『堕ちる』それは勘弁しろ………」

「で、ですけどぉ〜〜〜……?」

 フェイトだけじゃなくリィンまで心配そうな声を……。それだけ今の俺はやばく見えるわけか。俺が黙っているだけで、皆口々に『休め』だの『治療しろ』だのと煩くて適わん。俺にはもう時間が無いと言うのに、何をこいつらは―――、

 

『結局お前は、誰かの所為にして逃げてるだけじゃないのか―――!?』

 

「――――ッッ!!?」

 ドガンッ!!

 っと、勝手に腕が壁を殴りつけていた。それだけで、さっきまで騒いでいた連中が静かになったものだ。

 ちょうどいい、今のうちに話を進めよう……。

「………頼む、本当に時間が無い………。だから、そろそろ目的のために動かせてくれ………!」

 掠れた声しか出ないのが疎ましい。

 いい、このさえ相手に伝わればそれで良い。

「休んでる暇も何もなくなったんだ………。この身体は、今なら勝手に回復してくれる………! だから、俺に目的を優先させてくれ………!」

 本当は腰を折って頭を下げたかったが、今それをしたら、そのまま倒れてしまいそうで出来ない。今は倒れるより先にやる事が山積みなんだ。頼む、まだ気を失わないでくれ、俺の身体。

 しばらく沈黙が過ぎた後、俺の肩を誰かが掴んできた。

 視線を向けるとティアナだった。

「解った。じゃあ、アンタの計画を進めてあげるから、私達は何をすればいいのか言いなさい? そして、どれだけの事を私達がすれば、アンタが休めるのか? それも込みよ?」

「……ティアナ?」

「私はアンタの仲間になったの! だから言わせてもらうけど……っ、仲間にしたんならちゃんと頼りなさいよ! もしくはアンタらしくひねくれて利用すればいいのよ!! こんな怪我までして、ボロボロになって、どう見ても悪役っぽい事ばっかして、それでも自分にばっかり頼ってないで、私達を使いなさいよ!? そのための中までしょ!?」

 ティアナの声が頭に響く。尤もな事を言われてしまったが、それでもこればっかりは俺にしか―――、

「お願いだから………私達にも仲間らしい事させてよ? いくら管理局の人間でも、アンタを騙したりしたくないんだから」

 …………。

 たよって、いいのだろうか?

 すがって、いいのだろうか?

 …………。

「………すぐにミッド中を探して、一番時間が集まっている場所を探してくれ」

「『時間が集まっている場所』?」

「それで解らないならやっぱり俺がやるしかない……。俺が今まで一人でやってきたのは、結局のところで、俺の感覚でしか解らない事が多過ぎたからだ。だから、お前達に頼れなかった………」

 俺はティアナの腕を掴み、縋りつく様に言う。

「頼って良いって言うなら、探し出してくれ? 縋って良いのなら見つけ出してくれ!? そうでなかったら俺は……っ!? 何のために今まで生きてきたのか解らない………!?」

「―――! ………解った。任せなさいよ。だからアンタは、少し休みなさい」

 語気の強い、優しい言葉が、意外なほどすんなりと俺の中で受け入れられた。

 次の瞬間には、死んだんじゃないかと自分で錯覚を起こすほど、簡単に気を失った。

 

 

 

 

-8ページ-

・Canzone(カンツォーネ)

 

のん(作者):「第一期後半終了〜〜〜! 第二期の開始までに、ちょっと此処でおさらいをしときましょう!」

 

 

★カグヤ★

魔導師ランク:E

得意ポジション:Center Guard・Guard Wing

武装:自作刀、札

防備:対魔力素材製千早

固有スキル:集気法

取得した技:立金花

習得した必殺技:火ノ闇槌

現在の仲間:『フェイト』『エリオ』『スバル』『ザフィーラ』『リイン』『ティアナ』

主な陣形

・前衛:エリオ・スバル

・中衛:フェイト・ザフィーラ

・後衛:ティアナ・カグヤ

・オールマイティ:リインフォースU

 

▼備考

技術も付き始めてランクアップ。正式に試験を受けたわけじゃないけど、カグヤの能力値を表わすものとしてEランクが与えられています。仲間も充実し始め、良い感じになってきているもよう。リインフォースUは、状況に応じて、何処にでも動けるようしている。基本はカグヤの傍に控えているようだ。

闇暴走『伊弉弥』の発動や、龍斗との対決で、かなりの大怪我を連続して負っている。その身体は既に、死へのカウントダウンが始まっているのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

★龍斗★

魔導師ランク:AAA+

得意ポジション:Front Attacker・Guard Wing

武装:刀

防備:無し

固有スキル:魔剣(ブレイド)・急所突き

取得した技:光翼の翼(シャイニング・ブレイズ)

習得した必殺技:無し

現在の仲間:『シャマル』『はやて』『キャロ』『シグナム』『なのは』

主な陣形

・前衛:龍斗・シグナム

・中衛:なのは

・後衛:キャロ・シャマル・はやて

 

▼備考

最初が順調だっただけに、メンバーの回収が少しおざなりに……、修得した技も『光翼の翼』だけという始末。地道に基礎能力も上がり、技術もそれなりに付き始め、AAA+までランクアップ。苦手な空中戦技術(マニューバ)もなのはから直接教えられ、だいぶ様になってきているもよう。だが、ここに来て心の弱さを見抜かれ、少々試練の苦行を味わっている最中。これを超えられるのか主人公?

自分の実力より、最近は仲間との親密度に力を入れている感じだ。

 

-9ページ-

 

?現在の好感度?(最大値100)

 

▼カグヤ 状態:不安定『不安・焦り・罪悪感・憤り』

 

フェイト:34

<カグヤの事を意識しはじめているようだが、自覚には至っていない。だがカグヤに対して面倒見の良さが際立ち始めている辺り、その感情が傾くのも時間の問題かもしれない>

 

 

エリオ:25

<信頼はしているようだが、まだまだ油断はしていない様子。殆ど描写さえない男子キャラだが……、観えないところで親睦を深めてるんだよ!>

 

 

スバル:40

<かなり心が傾いてしまっているご様子。自覚はしていないが、既にカグヤに対する片想いは始まっている>

 

 

ザフィーラ:26

<互いに組手などをして切磋琢磨しているだけあり、信頼は勝ち取った様子だ。相変わらず出番の薄さに存在さえ忘れられ掛けているが……観えないところで――(略)――!>

 

 

リイン:78

<つ、ついにやってしまった二人の関係! 順番を無視した段飛ばし! 一体何段ぶっ飛ばしたんでしょうね? 一度喧嘩して仲直りしただけに、絆の結び付きも強固になっている。このまま二人の関係は良好に行くのだろうか? お熱ばかりではいけませんよ?>

 

 

ティアナ:38

<いつの間にかフェイトを超える程にカグヤと親密に!? 何気にカグヤに対して好印象を持っている様子だが、まだスバルほど意識もしていない。これからに期待か?>

 

 

 

 

 

 

▼龍斗 状態:不安定『焦り・混乱・感情の持て余し』

 

 

シャマル:64

<かなり龍斗の事を好きになっている様子だ。他人を疎ましく思う程に愛する事もまた恋の醍醐味。シャマルは初めての恋に浮かれてしまい、傷つく事になってしまったが、女の子の恋はまだ終わっていない!>

 

 

シグナム:46

<何処まで相性良いんだこの二人…。顔や態度には出ていないが、数値は既に片想いのレベルに!? 知らぬうちにシグナムが落ちてますよ龍斗くん!?>

 

 

はやて:25

<あ、上がっていない、だと……!? ここ最近、はやてとのイベントが無いとは言え、これは由々しき事態!? この先大丈夫なのか龍斗!? 義弟に見られているだけで本当に良いのか!?>

 

 

キャロ:48

<自分の本当の気持ちに気付いて恋する女の子の顔に…。まだまだ恋と言う名の感情に振り回されているようだが、この初恋は大事にしようね!>

 

 

なのは:35

<エロハプニングとかが原因で、異性として意識はされているようだが、他に比べて数値が低い!? 龍斗自身が意識している相手と言う事も考えると、この数値は如何なものか? はやて同様、イベントが少ない事が原因か? この先の展開に期待>

 

 

 

-10ページ-

 

・Polonaise(ポロネーゼ・波蘭舞曲)

 

李紗「し、ししししし………っ! 死んだかと思たっ!?」

アーレス「………え? あれ? 生きてるの……? フシギ〜〜〜〜*」

柊「ちょっと二人とも落ち着いて!? 一体何があったの!? 私の策は成功したんでしょ!?」

アーレス「お前の仕業か〜〜〜〜っ!?」

柊「きゃああ〜〜〜〜〜!? なんでいきなり襲いかかってくるのあーちゃん!? 訳わかんないよ!? ……や、やあっ! なんで胸の間に顔埋めるの!? しかも服を剥ぎ取ろうとしないで! ……ちょっ、ちょっとリッちゃん! 助けて〜〜〜!?」

李紗「怖イよ恐イよ〜〜〜……! アんなの存在して良イモノじゃなイよ…!? 出会って良イモノじゃなイよ…!? 命がイくつアっても意味無イきゃわ〜〜〜っ!?」

柊「ダメだこの子!? 何か一人で発狂して服脱ぎだした!? 意味が解らないよ!?」

アーレス「温かい!」

柊「人の生乳に顔埋めながら恥ずかしい事言わないで!」

アーレス「思ってたより大きかった!?」

柊「だから恥ずかしい事言わないで〜〜!! //////」

李紗「私も混ざル!?」

柊「疑問形!? ――じゃなくて、すっぽんぽんで何言い出すの!? 色々正気――じゃなかったよね!? 無いよね!? ちょっと待って! お願いあーちゃん脱がさないで!? リッちゃん説得させ―――!」

アーレス「あ、チェックの桃がら……!」

柊「いぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜やぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!? ////」

 

 ――お取り込み中です。しばらくお待ちください――

 

 メシッ! ベキッ! バキッ! ドゴッ! ガスッ! グギリッ! バギッ! ベコッ! バスッ! ベシャッ! バリッ! ドグシャッ! ちょ、ちょっとまって―――! ガスドスッ! バシンッ! ひうんっ!? ビシドスッ! ビギリッ! メシャメシャボギッ! ひ、柊、ゴメ―――! ブチリッ! ……ボトッ! ひゃぎっ!? ミシベキグシャっ! パリンッ! あ、あ、あ、ああぁぁぁ〜〜〜〜……! ゴメスッ! ゴメスッ! ゴメスッ!!

 

 ――数十分後――

 

柊「はあ、はあ、……二人とも? 眼は覚めましたか?」

アーレス&李紗「「ハ、ハイ……。スミマセンデシタ……」」

柊「ふう……、それにしても、―――そうですか? 闇を纏って姿を変えたんですか?」

李紗「そウなのよ! アレって一体何なの!? 時狂イとは全く関係なイ力よね? なんでアんな奴ラがこんな所で邪魔してくルのよ!?」

柊「解らないけど……、たぶん、あの二人は、最初の時狂い、つまり失敗した時狂いの影響を受けたのは間違いないわ。そうでないと時食みで殺せないなんてありえないもの」

李紗「そレじゃア……! 〜〜〜っ!! なんでよっ!?」

柊「私だって解らない事はあるのよ。他に何か気付いた事はなかった?」

李紗「特には……、あの時は逃げる事で頭が一杯だったから………」

アーレス「……あっ! 柊!」

柊「あーちゃん、何か思い出したの!?」

アーレス「私の剣が大砲みたいにビーム出る様になったよ!?」

柊「そっか、良かったね〜〜♪ そのままビームを放つ剣として使ってね〜〜♪」

アーレス「うん♪」

李紗「柊がツッコミを拒否った!?」

柊「だって、剣じゃなくて大砲って言ったら、また剣に変えるって言って放り出しそうなんだもん……(涙目」

李紗「何気に、苦労してたんだねオ姉さん(オ母さん)……」

柊「だからルビいらないってば……。ともかく、これからはもっと慎重に行きましょう? あの人達にはできるだけ拘わらないように、儀式の準備を進めて行かないと……」

李紗「そウね…。アイツラに対抗すル手段がなイ以上、『役割』と言ウ制限を抱エて対峙すルのは怖イ。ここは一旦距離を置イてオくに限ルわ」

柊「ええ、そうして頂戴。……それにしても、彼らは一体……? せめて何か情報があれば……?」

アーレス「そうだ柊!」

柊「何か思いついたの!?」

アーレス「お腹が空いた! 一大事だよ!?」

柊「あーちゃん、少しは空気を読む事覚えようか? 大人になって苦労するよ?」

アーレス「もう大人になれないもん……、洩らしちゃったから……」

李紗「きゃわァ〜〜〜!? よく見たラスカートまでびっちょリと〜〜〜っ!?」

柊「よっぽど怖かったんだね〜〜? でもねあーちゃん? そんな大変な事になってるなら、それこそ先に言いなさい。女の子がお腹冷やしたらどうするの?」

李紗「……柊、実は柊ってすごく図太イよね?」

柊「伊達に二人の面倒見てないもの……」

アーレス「柊、李紗、ごはん!」

李紗「アんな事がアったのに……暢気な子ね〜〜?」

柊「ふふっ、あーちゃんはずっとこうでないとね?」

李紗「…。そレもそウか……」

アーレス「柊〜〜! ご〜は〜ん〜っ!」

柊「はいはい、もう用意できてますよ〜〜♪」

李紗「え? いつの間に?」

柊「さっき、取り込んでた時よ?」

李紗「アレの間に料理してたの!?」

柊「だって時間もったいないでしょう?」

李紗「……私達の中で一番異常なのは、やっぱリ柊だわ……」

 

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カグヤと龍斗、ついに激突
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